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 | ・2012年夏 ヌメリナイト4 ・ぬめり3-失われた日記たち-ボツなった日記たちを全て再執筆、怒涛の全部書き下ろし!最終販売はこちら |
1/12 ヒューレイフソン培地
「それはまるで夏の日のシャワーのようだね」
あまり親しくない人ととの会話、特に職場の女子社員と会話していると、どう言ったらいいのか分からない、どう対処していいのか分からない、道路で明らかに人糞としか思えないものを踏みつけてしまった時のような、なんとも困惑した表情をされることが多い。平たく言うならば困り顔というやつだ。
これは何も、僕からモルボルみたいな凶悪なブレスが出ているわけでも、喋りながらスプリンクラーの如く唾液が飛散しているわけでもない。いや、全くないとは言い切れないし、たぶん臭いんだとは思うのだけど、主たる要因はそこではない。問題は会話の中に「比喩」や「例え話」を多用する部分にある。
実は日記の冒頭からココに至るまで、既に4回も使用しているのだけど、僕は日常の会話においても比喩や例え話が多い。別にそれ自体は問題がないのだろうけど、僕の場合はその比喩が逆に分かりにくいらしく、しばし混乱を招くことがある。
一般的に、こういった比喩や例え話というのは、分かりにくく伝達が困難と思われる事象を分かりやすくし、円滑にコミュニケーションを図るために用いられる。複雑怪奇な現象を単純な話に置き換えることが多いだろうか。
例えば、仕事上の恐ろしい強敵がいて、この人を説得しないと自分の部署どころか会社全体が死に瀕するという危機的状況があり、誰がその強敵に立ち向かうか相談した結果、その強敵に徹底的にやり込められて精神病みたいになった人が多数いる前例を踏まえて、精神的に病まないだろう、病んで死んでも会社的にあまり痛手ではない、むしろ病んで欲しい、といった様々な理由で、なぜか僕が生贄として差し出されることになり、ちょっとビビりながらその強敵に対峙すると、貴様では役不足とばかりその強敵の手下みたいな人が数人出てきて、なんだ、この手下なら弱そうだし楽勝じゃねえか、俺が全部蹴散らし、その勢いで本丸もぶっ倒してやるわ、とか思ってちょっと余裕かましてたら、その手下の時点で手に負えないレベルの強さで、ボロボロにされて死亡遊戯、泣きながら遁走したという大変いたたまれない事件があったのだけど、この悲しき事件を説明しようとするとすごく複雑だし長いし分かりづらい。こんなもんキャバ嬢だったら話の途中で髪を指でクルクル巻き出すレベルのエピソードですよ。
けれどもね、それもこれも例え話を使うと一発ですよ。この複雑怪奇、それでいて泣けるストーリーをどう一発で伝えるか。もう簡単ですからね。「サイバイマンとヤムチャ」これで一撃ですよ。ほとんどの人に一瞬で伝わるし、それと同時にあのヤムチャのボロ雑巾のような悲しい姿が連想され、どれだけ僕が切なく悲しかったのか、胸が痛い惨劇だったのか、その心情すらも同時に伝えてくれるのです。
こうやって比喩や例え話、メタファーなんかはとても便利で、表現の幅を広げることに一役買っており、コミュニケーションを円滑にするツールなわけなのだけど、しかし、そこには一つの重要な必須項目が存在することを忘れてはいけないのです。
件のサイバイマンとヤムチャもそうですが、これ、ほとんどの人にちゃんと伝わるとは思うのですが、例えば生まれた時から旧家の遺産相続争い巻き込まれて親族の手によって地下の座敷牢みたいな所に幽閉されていてドラゴンボールを知らずに育った人、ですとか、そうでなくてもドラゴンボールなんて知らない、なんて人には絶対に伝わらないんですよね。言うなれば、伝える方と伝えられる方、相互の共通認識、これが例え話には必要不可欠なのです。これがなければその例えは途端にコミュニケーションツールとしての役割を失い、B'zが出てきてもおかしくないレベルでバッドコミュニケーションになるのです。
冒頭の文章について考えてみましょう。「それはまるで夏のシャワーのようだね」これは職場の女子社員との会話中に僕が発した「例え」なわけなのですが、これが全然彼女には伝わらなかった。一見すると、汗だくに暑い夏に浴びるシャワーのように爽快でスッキリサッパリ、そんな表現のように思えますが、それならいくら彼女がバカでヤリマンといえども伝わっているはず。この表現にはもっと別の側面があるのです。それでは実際にその時の会話を見てみましょう。
「ワタシのカレシがあ、パチンコに夢中でえ」
「へえ、そんなに夢中なの?」
「もう毎日っていうか、朝から並んでる」
「彼氏がギャンブル狂いだからウンザリなの?」
「いや、別にそれはいい。ただ、オシャレだったのにどんどんパチンコ屋おじさんたちみたいな風貌になってきた」
「なるほどね、周りに同化してきたんだ」
「もうオッサンにしか見えない」
「それはまるで夏の日のシャワーのようだね」
これでポカーンですよ。この頭がサナトリウムみたいな彼女もポカーンですよ。なんでこの小粋な比喩がわからないんですか。絶対におかしいですよ。とか思ったのだけど、ここに書き出して共通認識という観点で考えてみると、これはポカーンとならざるを得ないですね。
この表現は、いつの間にか周りの環境に同化してしまう様を表したわけなのです。懸命な閲覧者様ならご存知だとは思うのですが、僕はよくガス代とか電気代を滞納して止められちゃうんですよね。そうなると、シャワーがすごい困難で、水道は出るんですけどガスがないから冷水が出る。いくら夏とはいえ本気の冷水ってかなり冷たいですし、心臓麻痺的な危険が伴うんですよね。
けれども、ガス止められた状態でシャワー使ったことがある人ならご存知たとは思うんですけど、夏って暑いじゃないですか、やはりかなり暑いですから、水道管の中で待機している水たちはけっこう温まってるんですよね。それこそ熱湯って訳にはいきませんが、ぬるま湯程度には温まってる。まあ、3秒も出せばそのぬるま湯もストックがなくなってしまい、まるで世間のような冷たさの水が勢い良く出てくるんですけど。つまり、冷水が嫌な僕はその神が与えた熱量を利用して、わずか3秒に賭けてシャワーを済ませるのです。
そういった事情を踏まえて、水道管の中の水が周りの暑さに同化して熱量を持ち出すことを、パチンコ屋でオッサンに同化していく彼氏の例えとして用い、さらにはそのシャワー3秒に賭ける刹那な生き様をギャンブラーの生き様に投影させた高度な表現だったのですが、彼女には全く伝わらなかったのです。
でもね、これって彼女が悪いんじゃないんですよ。確かに彼女はヤリマンですし、頭の中サナトリウムですし、巨乳のくせに露出の低い服を着てますし、こう、折角巨乳なんですからもう放り出すレベルでボルルンって感じの服を着てですね、どうです?触ってみませんか?とか自らオススメするくらいの気概が欲しい。おっぱい触りたい。
とにかく、彼女は悪くなくて、この表現、ガスとか止められて冷水の風呂に入らざるを得なくなった人にしか分からない表現なんですよね。僕のように、電気と水は生きてるので給湯ポットで沸かしたお湯で風呂入った経験がある人とかでないとちょっとこの夏の日のシャワーはピンとこない。
問題はどれだけ共通認識があるかで、その如何によって伝わりやすさが異なってくるのだけれども、それじゃあ誰にでも分かりやすい事柄を比喩として用いて多くの共通認識を目指すってのが普通だと思うのだけど、往々にしてそういった事象はインパクトが小さく、伝わったとしても衝撃が少なく印象に残らない。マニアックで、とても共通認識は得られないだろうという自称の方が、伝わりにくいかもしれないけど伝わった時のインパクトは絶大だ。
そういった意味ではとても伝わらないようはレベルの比喩を用いるのは一か八かの大勝負、良質のコミュニケーションを得るために常に勝負しているとも言える。
けれども、やっというか何というか、この年になって嬉しいやら恥ずかしいやらなのだけど、そういったリスキーな勝負としての比喩ではなく、情報を伝えるためだけの比喩でもない、そんな比喩が存在することにやっと気がついてしまった。それが表現としての比喩だ。
村上春樹の文章に、以下のような表現がある。「街路灯は同じ間隔をたもちながら、世界につけられた目盛りのようにどこまでもつづいている。」(海辺のカフカより)
僕はこの表現を見た時、なんとも言えない衝撃を受けた。単に街路樹がずーっと等間隔で立っていただけだ。それをそう伝えればいい。どう考えても「世界につけられた目盛りのように」といった比喩は不要なのだけど、なんだろう、これはこれで美しい。手放しで美しい。
この世の中に等間隔で街路樹が立っていると言われてピンとこない人はほとんどいない。世界につけられた目盛のようにと言われて、ああ、等間隔ね、と初めてピンとくる人もいない。そういった意味では、この比喩は情報伝達としての役割を全く果たしてはいない。
じゃあ何でこの表現は存在しているのかというと、単純に文章を飾る装飾としての役割で、情報を伝えるわけではなく、文章を美しいものに昇華させている、それだけなのだ。あってもなくても構わない、けれどもあると美しい、そんな表現が存在することにこの年まで全く気がつかなかった。ということで、今回はそういった表現を意識して、比喩表現さを痛感した事件の顛末をしたためてみたいと思います。どうぞ。
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痔だ。
どうにもこうにも尻の穴が痒くて仕方がない。まるで尻の穴の周辺で地域の祭りが催されているんじゃないかと思うほどに尻の穴が痒い。いや、痒いのは今に始まったことじゃない。もう何年も前からずっとずっと、僕は尻の穴が痒かった。
人間は欠陥の多い生き物だ。多くの生き物は合理的に進化し、その弱点を世代を重ねることで克服していく。それは言い換えれば、非合理的な個体の淘汰だ。進化とは淘汰の輪廻にほかならない。けれども人間は知能を発達させ、便利な道具や理論を数多く発見してきた。それは非合理な部分もカバーし得る万能さで、非合理なものは淘汰されなくなった。
人類は、弱点を進化ではなく合理化で克服する道を選んだのだ。その代償としてウンコの後に尻を拭く、という行為を支払っている。言うまでもなく多くの人類はウンコをした後にトイレットペーパーで尻を拭く。そうしないと気持ち悪いし、そのうち痒くなってきて大変なことになる。これは明らかに人類が進化仕損なった弱点であると思う。
例えば、古代から人類がウンコした後に尻を吹かずに生きていたとしたらどうだろう。おそらく、尻が不潔になりやすい構造をした個体は感染症などで死に絶え、代を重ねるにつれてウンコをしても尻が汚れない尻の穴構造をした人類だけが生き残る。今頃はきっと、ウンコをするときにパカッと尻の穴が開いてぽとっと落として、また尻の穴が畳まれて格納されるような構造に進化していたに違いない。もしくは、尻の穴を汚さないようなウンコを出す生物に進化していたに違いないのだ。
けれども、どこの時代かは定かではないけど、誰かが尻の穴が痒い状態を避けるために拭く、という行為を発見してしまった。そこからが人類の悲劇の始まりである。人類は尻の穴を変化させることを諦め、その辺の葉っぱで拭いていたものが、紙に、さらに柔らかい紙に、果てはウォシュレットへと、尻を綺麗にする道具ばかりが進化してきた。
けれども、それは生物としての進化の放棄にほかならない。尻を拭かずに生きていれば今頃すごく便利な構造のアナルを手に入れていたはずなのに、それでも今日もウンコの後に尻を拭く、それは生命としての負け組の姿だ。
今からでも遅くないんじゃないだろうか。僕はウンコの後に尻を拭くことをやめた。確かにウンコをしたあとに猛烈に痒くなってアナルだけを取り外して爪を立ててゴリゴリと掻き毟りたい気分になるけど、それでもグッと我慢した。人類の進化のため、子孫の進化のため、敢えて僕は礎となろうじゃないか。
そんなこんなで、ウンコの後に尻も拭かず、ウォシュレットも使わず、ただただボンとウンコしてそのまま立ち去るという西部劇時代の凄腕ガンマンみたいな格好良さを発揮していたのだけど、そうなるとね、アナルに異変が巻き起こってくるんですよ。
ある時でした。今日もウンコしちゃうぜ、でも尻は拭かないよ、と意気込んでウンコをし、便器に残された産物を見た時、時間が止まりました。
ウンコが赤い・・・。
あのですね、茶色であるはずのものが赤い、これって凄い衝撃ですよ。職場のブスどもが「カンダタ」ってヤツのことを臭いとかキモイとか言って盛り上がってて、「カンダタ」って酷いニックネームだな、すごい悪口言われてて可哀想、とか哀れんでいたら、自分がその「カンダタ」だったって知った時くらいショックですよ。
とにかく、茶色であるべきものが赤ってのは大変なことで、上京したての女子大生が、垢抜けようと美容院に行って髪を茶色に染めようとしたら、赤に初められてパンクロック風になったくらいショックというか、別にこれはそんなにショックじゃないや、染め直せばいいし、よくわかんない、とにかくウンコが赤かった。
あまりにも恐怖を感じましてね、普段の僕は、ビックスクーターにまたがって夜な夜な暴走族の頭蓋骨を叩き割って廻ってる豪放な男なのですが、そんなワイルドマンもウンコが赤いのだけは大恐怖。泣きながらインターネットで調べましたよ。
インターネットの世界ってのは便利なもので、調べたらすぐに「肛門.jp」だとか「バーチャル肛門検診」だとかボコボコでてきましたね、そこでウンコが赤いことについて調べたんですけど、まずはその赤さがどの程度のものか、それによって症状が変わるようなことが書いてあったんです。
具体的に言うと、でっかいオニヤンマみたいなサングラスをかけた浜崎あゆみみたいな女が着がちなコートの赤みたいな色の出血、分かりにくいんでフォント色変えますけど、このフォントくらいの赤は新鮮な血ですから、肛門もしくは肛門付近の出血である可能性が高い。逆にちょっと色濃い目の22歳くらいの新卒の女の子の乳首の色みたいな色、分かりにくいんでこの辺のフォントくらいの赤黒さというか茶色さになると腸の中とかそんなレベルの体内的な要因になるらしい。
自分のウンコに混ざってた赤はどんな色だったかなって思い返してみると、どうも記憶の中にある血便はこのフォントくらいの感じなんですけど、さすがにそれはありえないのでもう一度頑張って血便を出してみたところ、やはりこのフォントくらいの赤さでした。
つまりは、肛門表皮もしくは肛門付近に何らかの異変が巻き起こってるんだろうってことで、ちょっと勇気を出して指で肛門をなぞってみた、まるでピアノを調律するかのようにそっとなぞってみたんですけど、なんかね、グロいんですよ。
いやね、普通、肛門っていうかアナルってヌラッとしてるじゃないですか。肛門のシワとかあるでしょうけど、全体的にバリアフリーなはずでヌラッとした平面であるはずなんです。少なくともこれまでの僕のアナルはそうだった。そうであるはずだった。けれどもね、なんか異常にゴツゴツとした突起の感触があるんです。それも一つじゃない。複数。
僕も薄々痔じゃないかなって思ってたんですけど、イメージ的にイボ痔って一個のイボがモロンっている感じじゃないですか。なのにこの手触りは何か違う。メガフレアのボコボコみたいな感じで無数のイボがアナルに存在してやがるんです。
これはどんな状態なのか視覚で確認しておく必要がある!って思ったんですけど、なんてことはない僕デブなんで自分で自分のアナルって見れないんですよ。仕方ないので、ノートパソコンに標準装備されているWebカメラみたいなのを駆使して確認したんですね。
35歳、今年で36歳になりますけど、ノートパソコンの画面の上に向かって腰を突き出してアナルをカメラに映そうとしてる姿は悲しいものがありましてね、原始の生物の求愛行動のような姿勢でノートパソコンにアナルを見せつけたのです。
そしたらアンタ、アナル周辺に無数の突起物が等間隔に、まるで世界につけられた目盛りのようにどこまでもつづいている。なんか比喩を間違えた気がするけど気にしない。
とにかく、せいぜい痔だろう、くらいに思っていたのだけど、こりゃ予想以上の何かが僕のアナルで巻き起こってると恐ろしくなり、急いで肛門科とか病院を調べたんですけど、いきなり肛門科ってのは野球初めてすぐにメジャーに挑戦するようなもんですから、肛門のスペシャリストとか揃ってそうで怖いじゃないですか。なので近くの病院の外科に駆け込んでみたんですけど、これが失敗の始まりだった。
まず、近くの病院の駐車場で自問自答ですよ。僕はこのアナルの異変を痔だと信じて疑わないんですけど、痔の症状的にこんなメガフレアみたいな状態はありえないんと思うんですよ。
それに、痔って椅子に座るのも苦痛なくらい激痛が走るイメージがあるじゃないですか。けれども血は出るのに全然痛くなくて痒いくらい。本当にこれは痔なんだろうか。そんな疑問が湧き上がってきたのです。
もしかすると、これは進化の過程じゃないだろうか。ずっと尻を拭かなかった僕のアナルが、拭かなくても良さそうな構造に進化した可能性がある。僕だけ他の人とは一段違う新しいステージの人類にアセッションされた可能性がある。などと考えていても猛烈にアナルが痒いのはどうしようもないので、大人しく病院に行きました。
病院の受付に行くと、けっこう流行ってる病院なんでしょうね、若い女性から死にかけの老人まで多種多様、カワイイ看護師さんが忙しそうにしてたりと、ザ・病院みたいな風景が広がっていたんです。
受付に行き、保険証を提出します。20代前半でしょうかカワイイ女性が保険証を眺めながらニッコリと微笑んでくれます。
「今日はどうされました?」
この瞬間、戦慄が走ったね。いやいや、別にアナルが痒いってカミングアウトするのが恥ずかしいとかそんなことは言わないですよ。こんなもん、今までの様々な失態に比べたら恥ずかしくも何ともない。むしろ誇らしいレベル。
何に戦慄が走ったのかというと、カワイイ女の子に合法的にアナルとか言えちゃうことに戦慄が走ったのです。あんたね、街で見かけるカワイイ女の子にアナルとか言ってごらんなさい、間違いなく通報されて御用になるから。けれどもね、ここでは普通に許される。こんな素敵なユートピアがありますか。
「いや、アナルが痒くてですね、ブフフ」
なぜかちょっと笑いながら言っちゃったんですけど、実に堂々としていたと思います。けれども受付の女性も動じる様子もなく、淡々と対応。この冷徹な対応がまた興奮する。
「他に症状はございますか?」
「あ、便に血が混じってます」
「痛みはないですか?」
「ありません、痒いだけです」
そんなやりとりを淡々と続けていたんですけど、そこで衝撃の質問が投げつけられたのです。
「どんな痒みですか?」
痒みにそんなに種類があるとは思えない。けれどもそう聞かれるということは、僕が知らないだけで色々な種類の痒みがあるのだろうか。ここでふとある考えが頭の中に浮かんだのです。
こういった質問がなされる以上やはりどんな痒さなのかってのは病気を見極める上で重要なのだと思うのです。それだけ、適切にこのアナルの痒みを伝えなければなりません。実際にこのカワイイ娘にウンコでも塗りたくってやって、痒くなってくるのを待って「そんな痒みです」と伝えられたらいいんですけど、さすがにそれってできないじゃないですか。
そうなると、痒さを伝えるために比喩を使うしかないんです。そして、前述したように比喩には共通認識を利用して情報伝達を行うための比喩と、文章を美しくするための比喩の二種類があるのです。そして、普通に考えれば情報伝達としての比喩を用いることがこの場合は絶対的に正しい。「アナルばかり集中的に蚊に刺されたみたいに痒い」こう伝えれば絶対に情報は伝わります。
けれどもね、少し考えてみてください。おそらく彼女は疲れてるんです。毎日毎日、患者さんのそういった情報伝達の比喩、機械的な比喩を聞かされているに違いありません。さすがにウンザリ、仕事を終えて家に帰れば彼氏が求めてきて、これまた機械的に「芳江のココ、洪水みたいになってる」と機械的手マンに機械的比喩、もうウンザリ!つまらない男!そう思ってるに違いありません。
ここは美しい比喩じゃないか?ここで美しい比喩を使うことによって「この人は違う」と彼女に思わせることができる。すると僕に対して興味が出てきて、そのアナルのブツブツ見てみたいなーって気持ちが芽生えてきて、まあ、おセックス的なことも可能かもしれないじゃないですか。ここはもう、綺麗で美しい表現を使うしかない。
「木の葉の緑ってよく見ると一枚一枚違う色なんですよね。それらの木の葉が風に吹かれてザワザワしてるのを見ると、まるで僕の緑を見てくれ私の緑を見てくれってそれぞれが自己主張しているように見えてカワイイんです。ええ、そんな感じでアナルが痒いでんす」
ほれ見たことか!なんという美しい表現!これにはさすがの彼女もウットリ、僕のアナルを見たくなってるに違いありません。そんなに言うなら別に抱いてやってもいいけど、どうだ、感動して言葉も出ないか。もう大洪水か。
「はい、それじゃあお呼びしますんで座ってお待ちください」
完、全、無、視。こりゃまいったなーって思いつつも自分の比喩は間違ってなかった。確実に美しかったはず、と言い聞かせながら待っていると名前を呼ばれたので診察室に入りました。
そこにおわしたのは見るからに偏屈そうなお爺ちゃん医師。なんか死にそうなくらいにヨボヨボで、診察中にご臨終しちゃうんじゃねえかってレベル。こんなヨボヨボの人に僕のアナルを預けるなんて不安なんですけど、凄い若い女医さんとか出てきてもそれはそれで恥ずかしいので良しとして丸椅子に腰掛けます。
「お尻の穴が痒いと」
爺ちゃんはこちらを見ずにさっき受付で書いていた問診表みたいなの見ながら喋ってるんですけど、なんか明らかにその口調が怒ってるんです。何故か怒りの口調で次々といつから痒いかとか痛くはないのか出血はどうかとか質問してくるんです。僕も怒られるんじゃないかってビクビクしながら答えていると、またもや禁断の質問が。
「どんな痒さだ?」
やはり痒さの種類ってのは重要みたいで、どういった感じで痒いのかを伝えなければなりません。とにかく、ここでも美しい比喩を使わなければならない、そう思ったんですけど、お爺ちゃんなんか怒ってますし、ちょっとボケてるっぽい感じなんで変な解釈で勘違いされて肛門の切除とかになったら泣くしかないので、ここはきちんと、情報伝達、共通認識による比喩を用いることにします。このご老人と僕の共通認識、と考えた結果、全然思いつかなかったので
「インキンみたいに痒いです、インキンが一番盛り上がってる時みたいな痒さです」
僕の中で男はみんなインキン、みたいな考え方があったので、これなら分かってもらえる、共通認識いけるって思って切り出したのですが、すげえご立腹されましてね。
「お前はバカか!」
ってすげえ怒鳴られちゃったんですよ。まさかアナルの治療に来て怒鳴られるとは思わなかった。しかも、それから爺さんの怒りのツボに入ってしまったらしく、インキンの痒さなんか分かるかっていう怒りのお言葉に始まり、クドクドクドクド長いこと説教。
アナル診てやるからズボン脱いでそこのベッドで横になれって言われたんで、アナル見やすいだろうと思って下半身裸になって女尻シリーズのポーズですよ。そしたら
「お前はバカか!横向きだ!」
と、どうやら横向きの体育座りの状態で良かったらしく、女尻シリーズの姿勢のまますげえ怒られました。
診察自体は普通で、やはり進化とかそんなんじゃなくて痔であるという結論で、アナルを不潔にしていたことが原因だったらしく、「何か心当たりあるか」ってキレながら聞かれたんで
「はあ、ウンコの後にお尻を拭かないからっすかね」
とかヘラヘラしながら答えたら、看守に逆らって懲罰房に入れられた囚人みたいな勢いで死ぬほど怒鳴られました。
「ウンコの後尻拭かないバカはじめてみたわ!」
とか烈火のごとく怒鳴られて、僕も、アナル丸出しの状態で
「いや、人類の進化が」
「ウチの猫でも尻拭くぞ!お前は猫以下か!」
「新人類はお尻を拭かなくて良いように進化を・・・。」
「お前はバカだ!」
結局、アナルを清潔にするように、ちゃんとウンコしたらお尻を拭くよう、と三歳児に諭すように教えられ、僕もちょっとあまりの怒られっぷりに半泣きになってました。そして医師は怒りながらも優しく僕を諭します。
「ラーメンを食べたらお金を払う、それと同じで大便をしたらちゃんと拭く、そうしないと治らないよ」
なに言ってんだこのジジイ、とか思いはしませんでした。すごく伝わったのです。一瞬で理解した。ラーメンを食べたらお金を払う、そんな当たり前のことを比喩として用い、尻を拭くことの大切さを教えてくれたのです。それでいて、ウンコをラーメンに例えるなんて美しすぎる。共通認識ができ、かつ美しい比喩、それこそが大切なのかもしれません。比喩を制することこそがコミュニケーションを制することなのです。
結局、痔を治すために人類の進化は諦めてウンコの後にお尻を拭くことにしようと思ったのですが、こう、なんていうかアナル周辺には突起物がまるで世界につけられた目盛りのように存在するじゃないですか。ボコボコしてて拭けないというか、拭いても拭き残しがあるんですよ。
これでは完璧に拭くことができず、さらに痔が悪化してしまう。困り果てた僕は職場のトイレがウォシュレットだったことを思い出し、思いっきりウォシュレットで洗い流そうとしたのですが、誰かが最強の水圧に設定していたらしく、殺人級の水流が痔を直撃し、今まで痛くなかった痔にとんでもない激痛が走り、トイレの個室内で本気の断末魔の悲鳴をあげて飛び跳ねてました。
何か破れた的な感覚と共に、大出血したらしく、内股をつたって真っ赤な鮮血が流れてくるんです。体温の恩恵で温かくなった鮮血の水滴が。それはまるで夏の日のシャワーのように。
11/26 ヌメリナイト3~戦場のヌメリークリスマス~
ヌメリナイト3~戦場のヌメリークリスマス~ 日時:2011年12月24日(土)
open 17:00 start 18:00 / ¥2,500-
場所:TOKYO CULTURE CULTURE イベントサイト
ということで、なぜかヌメリナイトがクリスマスイブのお台場に光臨ということで、そんなことより日記書けよって感じなのですが、サラッと堂々と開催されます。いつもはクリスマスイブはクリスマスラジオで、泥酔して醜態を晒すのが定番ですが、今年はヌメリナイトでpatoの醜態を目撃しましょう!もちろん、いつものクリスマスラジオでは禁制の女性、アベックもウェルカム!気になるイベント内容はこちら。
内容
・ヌメリークリスマス
・これまでのクリスマス
・Numeri流クリスマスの過ごし方
・Numeri流クリスマスの過ごし方2
・Numeri流クリスマスの過ごし方3
・豪華景品が当たる!Numeriカルトクイズ
・patoのリバウンド祭
・大塚愛のイデア
・童貞枠
・松嶋枠
(予定ですので変更になる可能性があります)
そして、今回は物販もさらに充実。当日まで一切極秘の禁断の物品が販売されます。乞うご期待!クリスマスイブはリバウンドpatoとお台場で握手!
10/6 ナインストーリーズ
夕刻の帰り道、遮断機を抜けると秋の香りがした。過ぎ去って行った夏は足早で、まるで心変わりしてしまった恋人のように、無慈悲に何も残さず消えていった。毎年のことながら夏の終わりを実感すると妙に心が急いてしまう。それは今年も例外ではなかった。
具体的に何に焦るわけでもなく、ただ漠然と心がザワザワする。上手くいかない仕事に、上手くいかない私生活、口うるさい大家の苦情にはいい加減限界がきている、焦る要素は沢山あるけれど、それら全てとは無関係にそんな小さな事とは関係ないレベルで夏の終わりは漠然と焦燥する。青き時代の終わりは果てしなく心にくるのだ。
どこか静かでどこか物寂しい、そんな住宅街を抜けてアパートに到着すると、ポストに1枚のハガキが挟まっていた。薄っぺらい電気料金の伝票と一緒に投げ込まれたであろう1枚のハガキはなんだか過ぎ去った夏を思い出させてくれるようだった。
それは絵葉書で、表面には達筆な筆文字で僕の住所が、裏面では綺麗な砂浜の写真が、電気もつけていないボロアパートの玄関先でも十分に分かるほど色鮮やかに存在感を放っていた。
原色のトロピカルな海、感触まで伝わってきそうな白い砂浜、海と同じ青なのにまるで違う透明感を持つ空、空気にまで色がついていそうなその写真は、まるで過ぎ去った夏の置き土産のようだった。夏への扉のようだった。
もう一度表面に返し、差出人を見ると親父の名前がこれまた達筆な文字で書かれていた。僕の住所と名前、差出人には親父の名前、書かれているのはそれだけで他に何のメッセージもなかった。
いつものことながら親父の行動は理解不能だ。何のメッセージもなく、こんなどこかの外国の絵葉書を1枚送ってきて何をしたいというのだろうか。いつもならすぐにでも電話をかけて何事かと問いただすところだが、ポッカリと心に穴が開いてしまっている今の僕にできそうにもない。投げるようにテーブルの上に置いた。
ゴミをまとめ、朝に出せるように玄関先に置いておく。こうしておかないと大家がうるさい。夜遅くなると大家がうるさいので洗濯機を回す。バタバタと日常の雑務を終えてパソコンの前に座り一息つくと、またあの絵葉書が妙に気になった。
机の上に手を伸ばし絵葉書を手に取る。この綺麗な砂浜は一体どこの写真なのだろう。よくよく見ると、写真だけだと思われた裏面の右下にはコピーライトの文字だろう、なにやら英語で書かれていた。その文字を頼りに検索にかけてみると、どうやらこの写真はバリ島の砂浜を映したものであることが分かった。
なぜ親父がバリ島の絵葉書を。全く分からなかった。うちの親父は頭おかしいキチガイで、なんかヒョコヒョコと落ち着きのないひょこひょこおじさんなのだけど、たまに意味深なことをし始めるから始末に悪い。もしかしたらこの絵葉書にも何か意味があるのかもしれない。ジャカジャカとうるさいテレビを消し、少しだけ親父と絵葉書、夏の日について考えてみた。
こういった絵葉書を親父から貰うのは初めてだけど、親父が絵葉書を買い、書いているのを見たことがある。そう、あれも確か夏の日だった。そしてその時も何もメッセージを書いていなかったように思う。確かにあの日、親父は絵葉書を書いていたのだ。
夏休みだった。小学校の夏休みは心踊るのとは裏腹に、暇との戦いだ。お金もない友達もいない宿題やる気もなければどこか旅行に行く予定もない、裕福な家庭でなかった僕は、とにかく暑さと暇さと戦っていた。その時にハマっていた遊びがウィリアムテルごっこで、ゴミ捨て場から拾ってきたダーツの矢を、弟に向かって投げるだけという、なんとも微笑ましい兄弟愛がそこにはあった。
泣き叫ぶ弟に、怒り狂う母親、その光景を見て親父は怒り狂った。うるさくて眠れん、静かにしろ!とまだ夜の7時だというのに布団に入り怒鳴っていた。当時、朝4時くらいにムクリと起きて仕事に行く親父のことを不思議に思っていた。朝4時に起きるために夜の7時には寝ていたのだけど、そんなに早く起きてどこに行くのだろうと不思議に思ったものだった。
親父に尋ねると、なにやら物凄く遠くまで仕事に行ってるから早起きなんだと言われた。暇で暇で仕方ないこの夏に心底ウンザリし、イライラを感じていた僕は、連れて行ってくれとせがんだ。仕事の邪魔をしないから連れて行ってくれとせがんだ。親父はしぶしぶ承諾すると布団の中に潜り、眠りについた。
次の日。朝4時に叩き起こされる。文字通り叩いて起こされた。夏で日の出が早いとはいえ朝4時は夜と言っていいほどに暗い。まさか本気にして早朝に叩き起こされるとは思わなかった。頭がグワンングワンするのを感じながら車の助手席に乗せられ、親父の軽トラックは、これから降り注ぐ夏の日差しに備えてるかのような冷たい街を滑りぬけていった。
3時間くらい経っただろうか。気が付くと、想像を絶する山の中にいた。僕自身田舎生まれの田舎育ちなんだけど、その田舎の中でもちょっとした街だった場所に住んでいた僕にとって、本当に想像を絶する山の中だった。人なんか住んでなくて神々くらいしか住んでないんじゃないかと思えるほどに緑豊かな大自然だった。
けれども、やはりこんな山奥にも人は住んでるみたいで、古ぼけた小学校がそこにあった。たぶん分校とかそんなものなんだろうけど、僕が通っていた小学校と同じくらいの規模の校舎だった。建設業を営んでいた親父は、どうやらこの小学校の工事を頼まれたらしい。夏休みで子供たちがいない間に工事しちゃおうっていうやつらしい。
緑に囲まれた小学校は魅力的で、他に工事に来ているオッサンたちも優しく、働く大人たちの傍らで校庭の遊具で遊んだり、裏の森で虫をとったりすっかりこの分校にはまった僕は、毎日親父についていくようになった。
朝4時に家を出発し、7時に分校到着。4時には親父の仕事が終わり、7時に家に帰りついて眠りにつく、その繰り返しだった。夏休み前はあれだけ嫌で行きたくなく面倒だった小学校に足しげく通う、それも規格外の早起きで。なんだか奇妙な感覚だった。
一度だけ貸切状態のプールに入る機会があった。基本的に小学校全体を改修しているので夏だというのにプールに水は張られていなかったのだけど、何かのテストという名目で水が入れられるらしい。そこで泳いで遊んでも良いと親父から言われた。
僕は大喜びで、物凄く綺麗で冷たい水が張られたプールに飛び込んだ。学校のプールだと、良く分からない様々な浮遊物や、たぶん中でしちゃったやつのオシッコとか混ざってるのだろうけど、何も混ざってない澄んだ水。しかも帽子をかぶれだとか、飛び込むなだとか、口うるさい筋肉ムキムキの体育教師もいない。水着なんて持ってきてなかったから、スッポンポンで泳ぎまくった。
水に漂うまだ剥けてない当時9歳の僕のチンチンはバナナのようで、さながらバナナフィッシュだ。時には優雅に漂い、時にはプールサイドでゆっくりと水面を眺める。小舟のほとりで佇むように、誰もいないプールに反射する太陽の光を楽しんでいた。
そうしていると、数人の地元の子供たちがやってきて、俺たちもプールに入れろと要求してきた。たぶん、夏の間、工事でプールが使えないのが不満だったんだろう、しかし遊ぶ場所もこの小学校周辺しかない。暑いなかやってくるとなぜかプールに水が張られ、訳の分からないガキがフルチンで泳いでいる。さぞかし驚いたことと思う。
そんな地元の子供たちの要求を、親父を含む工事関係者は快く承諾し、全員フルチンで泳ぐことになった。最初は僕も、向こうも人見知りしていたが、9歳の子供たちにとって仲良くなるのに理由はいらない。大人たちは理由がいるかもしれないが、そんなの関係なかった。
それからは、小学校に行くのがもっと楽しみになった。今まで一人で遊んでいただけでも十分に楽しかったのに、それを地元の子供たちと一緒にやるようになると途方もない楽しさだった。一緒に虫を捕り、川でも遊んだ。
そのうち地元の女の子グループと男子グループの対立みたいなのに巻き込まれたり、女の子グループのリーダー格の子に僕が恋をしたりもした。その子はリーダーを張るくらいだったから男勝りな性格だったけど、 愛らしき口もと、目は緑じゃなかったけど大きな綺麗な瞳をしていた。
夏休みも終わりに近づくと、何やら工事が間に合わないらしく、親父はその山奥の町に泊まり込みで工事をするようになった。小学校近くの民宿なのか民家なのか良く分からない場所に寝泊まり。もちろん、僕も無理を言って一緒に泊まらせてもらい、残り少ない夏を山奥で過ごす。
この当時、うちの母親は色々な疲れや、体の病気なんかに悩んでいて少し精神的に塞ぎ込みがちになっていて、僕と親父が山奥の町に長期間滞在することを快く思っていなかった。毎日、民宿に電話がかかってきて、早く帰って来いと半狂乱な感じで言われていて、僕も親父もちょっとまいっていた。親父は仕事だから仕方ないと言い、僕はそんな母親がいる家に帰るのがちょっと嫌だった。
滞在している間、地元の夏祭りに誘われて、そのリーダー格の女の子一緒に遊んでたりしていたら、同じように祭りに誘われ、地元青年団と酒を浴びるように飲み、何がどうなったらそうなるのか分からないけど何故か体に火をつけて火達磨になった親父が狂ったように走り回る姿を目撃し、
「あのおじさん、狂ってるね」
という彼女に対し、うちの親父だよとは言えず、黙っていたら、親父を知る男の子がやって来て、笑い男のようにゲラゲラ笑いながら
「お前の親父すげえな!走って風圧で火を消せるとか言って消せなかったぞ!川に飛び込んでた!」
とか暴露されて顔から火が出る思いをしたりと、色々なことがあったのだけど、どうにかこうにか夏の終わりと共に夏休みも終わり、もちろん改修工事も終わって、ついにこの山奥を離れ帰ることになった。
最後の日、何かお土産を買おうと町の銀座通りに位置する雑貨屋に親父と立ち寄った。ここはこの町で最も栄えてると言われる場所で、小さなスーパーとガソリンスタンドと農協と郵便局があって、その脇にひっそりとこれまた小さな雑貨屋があった。
中に入ってみると、テディベアを作ろうとして失敗したみたいな毛糸作りの熊の民芸品やら、誰が買うのか分からない木彫りの般若など、そうそうたるラインナップで、9歳だった僕は当然金がないので買えないのだけど、金があったとしても何も買わない、そんなレベルの品揃えだった。
そんな中で、親父は何やら色々と物色した後、一枚の絵葉書を買っていた。その絵葉書はこの山奥の町の名所らしい大自然を映した写真のシリーズで綺麗な紅葉や冬の豪雪、春の花々などどれも綺麗なものだった。親父ぐらい狂ってるのならば、その横に置いてあった豚が空を飛んでいる意味不明な絵葉書を選びそうだったが、意外にもこの町の名所らしい大きな滝の絵葉書を購入していた。
店の外に出ると、親父は早速その絵葉書の包みを破り、持っていた仕事用のペンで表面にサラサラと何かを書き始めた。住所を書いていたのだけど隠しながら書く親父の仕草を見てると覗いちゃいけないような気がして、どこに出すものか分からなかった。
サラサラと書き終えた親父はスルスルと隣の郵便局に行き、郵便局前に置かれた錆だらけのポストにその絵葉書をストンと投函した。結局、どこに出したのかも謎なまま、あの夏は終わった。楽しかった夏は終わり、あの山奥も、あの仲間たちも、好きな子も、火達磨の親父も二度と見れないと思うと、いや、火達磨の親父はその後も何回か見ることになるのだけど、とにかく、何かを喪失した気持ちが物凄かった。もしかしたら、夏が終わるたびに何か焦る気持ちが沸くのは、この夏の体験が原因なのかもしれない。夏が終わるとやる気がなくなるんだ。
最近、平成の大合併でその町は小さな町から少し大きな町に変わったらしい。合併で市にならず町のままというのがなんとも田舎らしいが、あの分校のような小学校は統合されてなくなったようだ。それでも建物自体は地域コミュニティのために使われているらしい。
そして、親父が出したあの絵葉書の行方だけど、なんだか聞くのも悪い気がして聞けず、どうなったものかと悶々としていたのだけど、そんなことも忘れかけた数年後、思いもがけない形で知ることになる。
あの絵葉書は母親が持っていた。
どうやら親父は、どこかに行くたびに母親に絵葉書を出していたようだ。何のメッセージも書かれていない、綺麗な風景だけの絵葉書。精神的に不安定だった母親は、その絵葉書を受け取る度に安心し、落ち着いたそうだ。エズミに捧ぐ――なんてかっこいいつもりだったのかもしれない。雄大な自然を見て落ち着くように、そう言いたかったのかもしれない。母は、その絵葉書たちを束にして大切に大切に保管していた。
そして、さらに数十年。目の前には親父からの絵葉書が、もちろん何のメッセージも書かずに置かれている。あの日、母に届けられた絵葉書のように。
親父はきっとバリにでも行ったのだろう。そしてメッセージのない絵葉書で何かを僕に伝えたかったのだろう。いつだって親父はお見通しだ。あの日、母に、滝でも見て落ち着けと伝えたように、バリの砂浜を見て落ち着けと言いたかったのだろうか。
もしかしたら、終わりゆく夏にやる気をなくし、気が滅入ってしまっている僕に、バリのように常夏の場所だってある。夏は終わらない。夏が終わったのならまた夏に向かって行くだけだ、なんて言いたかったのかもしれない。
とにかく、あの日の母のようになんだかやる気が出てきたのは事実で、あのキチガイもなかなかやるじゃねえか、バリに行ったついでとはいえ、絵葉書を送ってくれて無言のメッセージで元気づけてくれるなんて、とお礼の電話をかけると
「バリの絵葉書来たぞ」
「あ、あれバリなんか?」
と何やら様子がおかしい。
「四国かと思ったわ」
とにかく様子がおかしい。
「四国の桂浜かと思ったわ」
やっぱりおかしい。四国の桂浜はこんなにトロピカルじゃない。
どうも話を聞いてみると、親父が旅行に行ったのは事実らしいが、バリとかではなく大阪に行ったらしい。そこで美人なお姉ちゃんに騙されて500枚ほどの絵葉書を買わされたらしい。土地を買わされるところを粘り強い交渉で絵葉書に収めた、実質俺の勝ちだ、みたいな訳の分からないことを供述しており、恐ろしくていくらで買わされたのかは聞けなかった。
「出す場所がなくてな!これから毎日出すからヨロシク!」
何がヨロシクなのか全然分からないが、全く関連性もクソもない絵葉書が、毎日のように届く。猿が極寒に耐えてる風景や、モンゴルの夕暮れ、エスキモーの生活、マンハッタンの夜景、本気で何のメッセージ性もなく嫌がらせのように毎日届く。本当にやめてほしい。
過ぎ去る夏を想い、次に巡る夏に思いを馳せる。なんだかやる気を出して頑張ろうと思った。毎日来る絵葉書はうざくて発狂しそうだけど、バリの砂浜の絵葉書だけは、大切にしまっておこうと思う。あの時の母のように。
9/4 クリームソーダーは替玉で
ラーメン屋のお姉さんが好きだ。
恋はクリームソーダーのようだと誰かが言った。ソーダのように甘く刺激的で、鮮やかな彩り、小さな泡が現れて消え現れて消え、生まれて消える恋心のよう。上に乗ったアイスクリームに心踊る。恋はクリームソーダ―だ。けれども僕はそうは思わない。
小さな恋の始まりは、まるで化学結合のようだ。男女の繋がりは色々な形態がある。強固な結合もあれば、脆弱な結合もある。まるで偶然の産物のような結合もあれば、そうなるのが必然のように結合するものもある。化学結合はそのまま、男女の繋がりなのだ。
多くの人が勘違いしがちだが、化学反応は決して反応する方向だけに進むのではない。AとBが反応してCができる反応は、Cができる方向だけの反応が進んでいるわけではなく、多くの場合で同時にCがAとBに分かれる反応も起こっている場合がある。C方向に進む反応が多い時、結果的にCができているようにみえるのだ。
男女の関係もまさにそれで、決して男女が結ばれる方向に進むわけではない。いや、むしろ、結ばれる方向の方が少ないだろう。けれども人は恋をするし、つかの間のぬか喜びに浸り、恋に破れ、恋に涙する。それは化合物という化学反応の産物を求めることに他ならない。
この世にある多くの物質は2種類の性質に分けることができる。反応しやすい物質と反応しにくい物質だ。その辺に置いておくだけでガンガン反応し、時には発熱し、発火までする情熱的な物質もあれば、何も反応しない、未来永劫反応しない、生理の上がったお母さんみたいな物質もある。それらもやっぱり恋愛に置き換えることができる。
おそらく、僕は前者だろう。テルミット反応のように燃え上がる僕は、本当に恋に落ちやすい。ほっとけばあちこちで恋をしてやがる。あちこちでガンガン反応、けれどもその反応に失敗し、訳の分からない黒ずんだ何かが生成している、例えるならばそんなイメージだ。
ラーメン屋で恋をした。
ラーメン屋はラーメンを食べる場所だ。決して恋をする場所ではない。ラーメンを注文し、食べてたまにいけるぞ!って時は替玉を注文する。そしてお金を払って帰る場所。それ以上でもそれ以下でもない。けれども、僕の中に存在する恋愛反応ポテンシャルはそれを許さなかった。
相手は厨房の中のお姉さんだ。20代中盤くらいだろうか、化粧っ気のない顔に黒くて長い髪。少し小柄な彼女は厨房の中を元気に走り回り、数多くのオーダーをこなしていた。特に替玉を頼まれた時の「替玉イッチョ!」という掛け声はセクシーで、魅惑的で、琥珀色で、まるで金玉を転がされているような錯覚に陥るほどだった。
僕はこのラーメン屋に通った。ダイエット中のご褒美食として、何でも食べて良いと自分で割り振った食事全てを、このラーメン屋の塩ラーメンに注ぎ込んだ。常連になるほど同じ店に通うのが苦手な僕だが、それでも僕は通い続けた。
ある時、異変に気が付いた。あれは夕立の気配がし、少年時代に感じたプールのような刺激的な塩素みたいな匂いが通りから漂ってくるそんな天気の時だった。自転車を停め、店に入ると、彼女がいなかった。
既に彼女のシフトを完全に掌握していた僕は、彼女がいないことに狼狽した。今時珍しいくらい真面目な彼女はシフトを乱すことなどなかった。その彼女がいないのだ。彼女は辞めてしまったと短絡的な想像を働かせるのは自然な流れだった。
心の中の動揺を抑えつつ、いつもの席に座り、ラーメン屋をやってなかったら絶対に性犯罪に走ってただろうと思われる店主に塩ラーメンをオーダーする。この時、いつもの彼女今日いないけどどうしたの?と軽く聞ける人間ならば苦労しない。これができるのならば、もっと輝かしい人生が待っていたはずだ。
ただただ沈痛に、ラーメンが出来上がるのを待ちながら、なぜ彼女が辞めるに至ったのか思いを馳せた。きっとお金が必要だったのだろう。僕らはどんなに純粋に生きていたってお金の呪縛からは逃れられない。おそらく飲んだくれのお父さんの借金の肩代わりに彼女は…。もっと効率よく稼げる風俗産業に…。目頭が熱くなった。
僕は彼女に何をしてあげられるだろう。お金ならあるだけあげたっていい。なんなら通帳ごとあげたっていい。どうかこのラーメン屋に戻ってきてほしい。切に願った。隣でデブが汗をだらだら垂らしながら替玉を頼んでいた。
その瞬間だった。カウンター席から垣間見える無骨な裏口ドアが開き、颯爽と彼女が出勤してきたのだ。「おくれてごめんなさい」行ってたんですよ。彼女は息を弾ませながら性犯罪者の店主にそう告げる。流れ落ちる汗すらかわいくて、彼女辞めたわけでも風俗に行ったわけでも、暴力を振るう酒乱の父なんていなかったことに安堵した。
厨房の奥に消え、すぐに店のTシャツに着替えて厨房に現れる彼女。やはり華がある。このクソみたいに脂ぎった店が嘘のように華やいだ。僕はこのままこうして彼女を眺めながら塩ラーメンを食べてるだけでいいのかのしれない。そんな考えがよぎった時、事件は起こった。
「どうしたの?遅刻なんて珍しいじゃん!」
呆然と彼女を眺めていたので、誰が発した言葉なのか分からなかったけど、ものすごいイケメンな声で馴れ馴れしい言葉が聞こえてきた。
「ちょっとポンプ買いにいってたんですよ。急に壊れちゃって」
彼女は驚愕するほどカワイイ笑顔で声の主に答えた。恐る恐る彼女の視線の先を見てみると、そこには替玉のデブが、驚愕するほどネットリとした、煮たての替玉みたいな笑顔で微笑んでいた。
「あー、焦るよね、ちゃんと予備を用意しておかないと」
「そうなんですよー、もう焦っちゃって」
物凄く親しげに会話する彼女と替玉デブ。なぜこんなにも親しげなのだろうか。それよりこの会話の内容はなんなんだろうか。彼女が焦って買いに行ったというポンプとは何なんだろうか。色々なことがグルグルと頭の中を駆け巡り、塩ラーメンの味なんて分かったもんじゃなかった。
とにかく心を落ち着け、伸びかかったラーメンをゆっくりと口に運びながら考えを巡らせる。どうも会話の内容を聞いていると、彼女と替玉デブ、熱帯魚か何かを飼育するという共通の趣味を持ってるみたいだった。それならばポンプってのも何となく理解できる。
替玉デブはなんかすげえ男前の顔をしながら魚の話を延々としていた。それは男の僕から見ても、デブな彼を差し引いても、彼が少しハゲていることを差し引いても、なんだかとてもかっこ良かった。何かに夢中で少年のような瞳をしている男ってのは、全てを超越してカッコイイものなのだ。
「今度うちに観においでよ」
「えー、ホントにいいんですか?」
デブはやる気だ。熱帯魚にかこつけて彼女を家におびき寄せ、ネオンテトラみたいな生殖器を見せつける気だ。今はまだ彼女も適当にあしらって社交辞令的に返しているだけだろうが、替玉デブの魅力に負けて、ネオンテトラを入れられるのは時間の問題だ。
僕も何か魚を飼おう。
塩ラーメンの汁を飲みながら決意した。達観した。まずは替玉デブと同じ土俵に立ち、それから魚の話をしつつ彼女と親交を深めていく。そいでもって家に呼び寄せて僕のグッピーみたいな生殖器を見せつける。この作戦で行こうと思った。
いろいろと調べて見た結果、どうやらミドリフグってのが飼いやすく、かわいくて女の子に人気らしく、入門編としてこいつから始めてみることにした。
一万円を握りしめて熱帯屋にいき、入門セットみたいな水槽セットを購入。あまりの重たさに腕がちぎれそうな思いをしながら帰宅、ミドリフグはまだ買わなかった。
色々と調べているうちに分かったことなのだけど、いきなり買ってきた水槽に水をぶちこんで魚を入れても、ほとんどの魚は死んでしまうらしい。水槽の立ち上げという儀式を経てからでないと、飼ってはいけないそうだ。
なんでも、僕らを含めて生きてる個体ってのは、排泄なりなんなり、体に不要なものを体外に排出する。それにはアンモニアが含まれていて、ウンコが臭かったり、おしっこが臭かったりするわけなんだけど、水槽の中の生物はそれが深刻に効いてくるらしいのだ。
そりゃそうで、周りが水の中でウンコやおしっこをするんだから、僕らで言うと、ウンコをした瞬間、部屋中がウンコで満たされるような状態。ちょっと想像するとメルヘンチック愉快なのだけど、やっぱりウンコ臭いのとか何やらで大変なことになりそうだ。
魚の場合は、その排泄物に含まれるアンモニアが大変有害で、あまりに濃度が高くなりすぎると死に至る。通常はそのアンモニアを亜硝酸、硝酸塩と微毒なものに分解してくれるバクテリアが存在し、事なきを得ているが、最初に準備した水槽にはそのバクテリアが存在しない。
結局、そこに魚を入れてもアンモニアが分解されず、すぐに魚が死んでしまうというわけ。つまり、そのバクテリアを十分に繁殖させることが「水槽の立ち上げ」であり、これをしてからでないと魚を入れちゃいけないそうだ。
ということで、買ってきた水槽や周辺機器を設置し、水を入れて魚が全く入ってない状態で動かしてみたのだけど、やはりというかなんというか、空っぽの水槽はどうにもこうにも物寂しい。バクテリアが繁殖するまで何日もこのままとか、眺めてるだけで涙が出てきそうだ。
それよりも、こうやってボケーッと待っている間に、替玉がデブがお姉さんにネオンテトラを挿入してしまうかもしれないじゃないですか。それだけは許せないし、我慢できないし、お姉さんのアンモニアは僕のものだ、と訳の分からない決意を燃やすまでに至ってしまったのです。
で、スピーディーに水槽を立ち上げる方法を調べた結果、至極単純な方法を見つけたのです。普通に待っててもなかなかバクテリアは繁殖してくれないのですが、バクテリアはアンモニアを分解するということは、アンモニアが主食ということ。
つまり意図的に水槽の中にアンモニアを発生させてやれば自ずとバクテリアが繁殖すると言うわけなのです。これだな、そう思いましたね。「普通は立ち上げに何日もかかるんだけど、俺はこんな方法でバクテリアを繁殖させたぜ!」「素敵」ブシャー!アヒャー!これしかないと思いましたね。
意図的にアンモニアを発生させる方法、それはヒメダカなどの丈夫な魚を買ってきて、ある程度生活させてアンモニアを排泄させる方法。これはちょっと時間がかかりそうですし、なにより、そのあとのヒメダカの処理に困りそうです。
次に、刺身の切り身とか、なんでもいいのでナマの物を水槽の中に入れておく方法。次第にその刺身が腐っていってアンモニアが発生するというやり口です。これは楽そうだなって思ったのですが、ただでさえ何も入ってない水槽が寂しくて泣きそうなのに、そのに刺身だけがポツンと沈んでる絵図を想像すると泣きそうになります。
ということで、これらの方法はちょっと採用できそうにないので、そこで考えます。結局、水槽の中にアンモニアを入れればいい。今ここでこれを読んでいて、patoのやつ水槽の中に自分のウンコ入れて溢れて大変なことになるんだぜ!とか思った人は反省してください。
いやいや、どこの世界に買ってきた水槽、ポンプとか動いてる水槽にウンコするバカがいますか。そんなの要介護レベルです。いるなら連れてきて欲しい。そんなキチガイじみた行動をとるはずがない。ありえない。「出会って2.5秒で合体 やまぐちりこ」が全然出会って2.5秒で合体じゃなかったくらいありえない。測ってみたら72秒だったくらいありえない。
とにかく、そんなクレイジーゴナクレイジーな行動はとらず、っていうか、人間のウンコにはそんなにアンモニア含まれてませんから、極めて理知的そして合理的な手法を考えたのです。簡単な話です。アンモニアを買ってくればいいのです。薬品としてアンモニアを買ってくればいい。
アンモニア水なんてのは古くから虫刺されなどの薬として用いられておりまして、普通に薬局などで買えますし、下手するとamazonで買えちゃったりします。
「いやね、僕らマニアは水槽の立ち上げで困るでしょ」
「うん、困っちゃう」
「でも、僕は薬品を使って一発さ!」
「素敵!」
「ネオンテトラ!」
こうなるのは分かりきってます。ならないのなら水槽にウンコしてもいい、それくらいの確信があった。いける、今回はいける、水槽を立ち上げ、魚を買って彼女を誘う。彼女うっとり。ネオンテトラ。ぶしゃー、あひぃー。薬局に向かう道中、顔がにやけて仕方なかった。
まあ、アンモニア水をそんなに買っても仕方ないので、一番小さい100mlのものを購入。ちょっと蓋を開けて臭ってみると、糞尿みたいな物凄い臭いがしました。こりゃバクテリアが繁殖しそうだぜ。
こんなもん振り回して帰ってたら、蓋がポンッととんでアンモニアが女性にかかり、最高裁まで争う羽目になりかねませんから、しっかりとカバンに入れて持ち帰ります。すると、道中に件のラーメン屋が。
まだウチの水槽は立ち上げも終わってなくて未完成、とても彼女を誘える状態にはないのですが、まあちょっと小腹も空いてますし、彼女の顔も見ておきたいじゃないですか。迷うことなく店内に入りましたよ。
店の中は、昼の時間をちょっと過ぎていたので数人の客が間隔をあけてカウンターに座るのみ。もちろん、彼女も元気いっぱいに接客していました。これは僕の勘違いかもしれないですけど、なんかちょっと、僕を見た瞬間、彼女が嬉しそうに笑ったような気がした。
他の客と距離をとりつつ席に座る。空いてるし、ピークタイムじゃないから大丈夫だろうと、カバンを隣の空き座席に置いた。
「塩ラーメン」
いつものように注文する。彼女はいつものように笑顔で答えた。今はまだこの距離感でいい、この素っ気ない感じでいい。水槽さえ立ち上がり、魚を入れたら彼女を誘えばいいのだ。
ガタっ!
丸椅子の上に置かれたカバンがずれ落ちた。まいったまいったと思いながら身を屈めカバンを拾う。何か嫌な予感がした。凄く嫌な予感がした。得体のしれない胸騒ぎがした。
恐怖で見たくもないのだけど、色々な責任があるので見なければいけない、そう思った僕はソーッとカバンを開いた。
アンモニア水、こぼれてた。
さっき開けた時にちゃんと閉まってなかったのか、落とした拍子にこぼれたのか分からないけど、とにかく、カバンの中がアンモニア臭かった。
急いでチャックを閉じる。ブルブル震えながら、カバンの外周をクンクン臭ってみる。大丈夫、外には漏れてきていない。おそらく、もともと低濃度のアンモニア水だったことと、もれたのが少量だったのだろう。カバンの外までは漏れてきていなかった。
しかしながら、濃度が高ければ中毒を引き起こす危険もあるし、なにより臭い。飲食店でこの匂いが充満するのは色々と問題がある。カバンの外に溢れてくる前に何とかしなければならない。
この世に神なんていない。よしんばいたとしても、それは僕とは無関係の神だ。職場の飲み会くらい僕とは無関係のところで展開される神に違いない。とにかくなんとかしなければ。導き出した結論は、帰る、だった。
まだ注文したラーメンもきてないのに、
「すいません、お勘定で」
とか言ってた。腫れ物でも扱うかのようにソーッとカバンを持ち、レジまで行く。
「え?」
彼女は驚いた顔をしていた。そりゃそうだ。やって来て塩ラーメンを注文した客が、すぐに帰るというのだ。自分達の接客に何か失礼があり、怒って帰ろうとしてるんじゃないか、そんな不安な表情が読み取れた。
「いえ、あの、その、違うんです、あの、その」
もう何をしてるのだか分からない。
「あの、粗相とかそういう、まあ、粗相かな、ちがう!とにかく料金は払いますんで」
焦れば焦るほど何を言ってるのか分からない。
急がねばならない。このメロスは、アンモニア臭がカバンから漏れ出すまでに店を出なければならないのだ。
「何か失礼ありましたでしょうか…」
しょんぼりする彼女に心が痛んだ。
「いえ、その!アンモ!いや、その、バクテリアが!」
狼狽する僕。どれくらい狼狽してたかというと、この店、レジのところに銀河鉄道の夜をイメージしたイラストが飾ってるんですけど、それを見て、銀河鉄道の冒頭でジョバンニとカムパネルラがアナルファックしてた!序盤だけに!とかとんでもないこと考え出すくらい狼狽していた。
彼女が悪いんじゃない。全て僕が悪い。そいでもって、もしアンモニア臭が漏れだしたとしても、それは全部僕が悪い。とにかく、匂いが漏れる前に店を出る。でも彼女は悪くない。色々な考えが駆け巡り、しかも、万が一アンモニア臭が漏れ出した時に辻褄が合うようにとんでもないことを半笑いで口走ってました。
「すいません、ウンコ漏れちゃって!帰りますわ!フヒヒヒ!」
この瞬間、思いましたね。ああ、この恋終わったな、と。僕も長いことウンコ漏らしてますけど、漏らしてないのに漏らしたと言わなければならない涙のカミングアウト。正義のヒーローが子供を人質にとられてしまい、なす術がない状態に似ています。
結局、ラーメン代を置いて、逃げるように逃走。しばらく走ったあとにカバンを臭いましたが、まだ漏れてきてなかったので、ラーメン屋は守られた。彼女の笑顔も守られたのだ、と安堵したのでした。
チャックを開けるとアンモニア臭いカバンを片手に二度とあの店にはいけねえな、と涙するのでした。
僕の恋は反応することはなかったけど、僕のしょっぱい涙と、カバンの中のアンモニア、きっと反応してソルベー法によって炭酸ソーダができているに違いない。恋はソーダとはよく言ったものだ。
8/24 pato式ダイエット
深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているものだ。
かの有名なニーチェ「善悪の彼岸」の一節だ。正式にはこの言葉の前に、「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。」の言葉が紡がれる。ここで「怪物」と記されているものはおそらく「狂気」なのだろう。つまりはそういうものなのだ。
怪物と闘う過程において、怪物の持つ魔性に魅入られ、自分自身も怪物になってしまわぬよう注意しなさい、という戒めに対して「深淵」という言葉を使ったのは大変興味深い。深淵とは、水の深い場所や淀んだ場所を示す言葉だが、絶望の淵などの言葉のように精神状態のどん詰まりを表すことも多い。
他にも人間の進化の終着点といった考え方や、落伍者の行き着く先という表現にも使われる「深淵」。決して良い意味ではない。その深淵を興味本位で覗く時、等しく深淵自身もこちらを覗いている。簡単に取り込まれてしまうぞ、という戒めなのだ。そういった意味では、僕はこの「深淵」を狂気そのものだと捉えることにした。
狂気、それは時に畏怖の対象であり、魅惑的で興味の対象でもある。狂気の沙汰こそ面白いとはよく言ったもので、平凡なんてつまらない、狂気こそが面白く、観察するに値するものなのだ。また、それは同時に取り込まれやすさを表しているのだ。
覗きこんだ先が平凡であったのなら、それは日常だ。狂気であるからこそ覗き込む価値があるし、心奪われ、取り込まれ、覗いていたつもりが自らが狂気と化し、また誰かに覗かれている。そんな状態に陥るのだ。今日は、そんな狂気という深淵を覗きこんだ男のお話だ。
8月20日、お台場、東京カルチャーカルチャーにおいてNumeri10周年記念トークライブ「ヌメリナイト2~今度は戦争だ!~」が開催された。おかげさまで会場は超満員札止めのソールドアウト、訳のわからない35歳オッサンのトークを3時間みっしり聴くという修行僧のような苦行に100名以上の人間が悶絶した。
そのトークライブの詳細はまた別に語られるだろうから今は置いといて、時間はさらにヌメリナイトの2か月前に遡る。島田紳助が暴力団と親密な交際があるなんて夢にも思っていなかった6月、patoはヌメリナイト2開催を決意していた。8月にお台場でヌメリナイト2をやろう、そう決意したのだ。
開催まで2か月。patoは苦慮した。数年ぶりに人前に出るという不安、ちゃんとトークできるのかしらという不安、Numeri自身もそんなに更新してないのにトークライブ開催という暴挙、そんな数々の不安なんてどうでもよくて、何より自分がデブであることが本当に不安だった。それだけが心配で心配で仕方なかった。
考えてみてください。トークライブに行って出てきたpatoがクソデブだったらどうしますか。どうでもいいですか。そうですか。あのね、あなたがどうでも良くても僕はそういうわけにはイカンのですよ。あなたの意見なんて最初から聞いていない。patoはデブであってはならない。それが僕の譲れないポリシーなんです。
おまけに、ほら、今って電脳社会じゃないですか。電車に乗るとみんな死んだ魚のような眼をしてスマートフォンとかポチポチやってるでしょ。スマートってだけで結構嫌味なのに、ポチポチやってるでしょ。あの調子でヌメリナイト会場から「デブなう!」とかツイートされたらどうしますか。
あのですね、僕はキモかったとかブサイクだったとか言われるのは全然平気なんですけど、デブだっただけは我慢ならない。「patoデブだった」なんて言われたら普通に死ねる。発狂する。そこだけは譲れない。むちゃくちゃヤリマンな女が最後の一線とばかりにアナルだけは頑なに守るかのように、絶対に「デブ」とツイートさせてはならない、そう思ったんです。
そこで決意しましたよ。これはもうダイエットするしかない。思いっきりダイエットをしてガリガリに痩せ、同時にNumeri日記では思いっきりデブを前面に出した日記を書きまくってpatoは関取みたいなデブ、と印象付ける。で、ヌメリナイトでは「あれ、patoてそんなにデブじゃないじゃん?」とか、果てはちょっとドキドキしながら勇気を出して彼氏を連れてヌメリナイトにやってきた女の子も、「patoさんそんなにデブじゃない・・・むしろモデル体型、抱いて!」ってなっちゃって、でも彼氏と来てるからそんな素振りを出すわけにもいかず我慢我慢、おまけにpatoがちょっと向井理みたいなもんですからムッとしちゃってる彼氏を尻目にどんどん思いは募るばかり、っていうか、なんでワタシ、こんなつまらない男と付き合ってるんだろう、patoさんの方がいい!その思いが爆発した彼女は、ヌメリナイトが終わった後も会場の外で待ってたりなんかしてですね、「あれ、どうしたの?」「ずっと…patoさんのこと待ってたの…」「困った子だ」「抱いて!」「彼氏と一緒に来てたじゃないか、あの優しそうな彼氏はどうしたんだい?」「あんなつまらない男、別れたわ」「ますます困った子だ」「だって…」「僕らはまるでオカリナだ、お互いに寄り添うことで美しい音色を奏でるのさ」「好き…」ブシャー!アヒャー!ってなるに決まってます。
とにかく、これはもうダイエットするしかない!ツイートさせてはならない!そう決意したときの体重が106キロ、体脂肪率が余裕の30%オーバー、色々な意味でギリギリchopな感じなのですが、ここからヌメリナイトまでの間、どこまでダイエットすることができるのか挑戦が始まりました。
まず、ダイエットするにあたり、様々なダイエット情報のサイトやら、ダイエットを目指す人々が集う掲示板などに目を通し、地域のダイエット教室にも顔をだしました。そうやってダイエットに触れるうちにですね、ある一つの事実に気が付いてしまったのです。
ダイエットは狂気である。
ダイエットとは狂気であり、深淵であるのです。よくよく考えるとこれは当たり前のことで、人間の体ってのは普通に生きていれば現状維持か太るか、自然発生的にはこのどちらかにしか進行しないのです。そりゃそうで、人間だって生きていかないといけないのですから、脂肪を蓄える方向にしか進まないのは自明の理。
つまり、痩せるっていうのは自然の法則に逆らう行為になるわけですから、そこに狂気が介在しない限り実現しえないのです。何かを極度に我慢したり、極度に運動したり、寄生虫を体内に宿したり、脂肪吸引をしたり、狂気ともいえる行動を経てのみ達成されるものなのです。
そんな感じの狂気のダイエットを深淵を覗きこむ感覚で色々と調べてみたのですが、まあ、すごい狂ってらっしゃること。もう意識して辛辣な言葉を並べさせてもらいます、同じデブサイドの人間としてかなりきつい言葉を述べさせてもらいますが、とにかくダイエットってのは狂ってる。
ダイエット情報なんかを扱ったサイトや書籍なんかは、けっこう真面目に情報をかいてて、中には科学的裏付けや根拠が弱いものもあって怪しかったりするのですが、そんなものとは別次元に掲示板がひどい。ダイエットに燃える同志が集ったりするダイエット掲示板みたいなのがとにかくすごい。
ダイエットを志す同志が集っている掲示板なわけですから、さそかし熱心にダイエット理論とかの議論がなされたり、成功例について皆で熱く議論したり、悪徳ダイエット食品会社を糾弾したり、時には精神論で励ましあったりしてるのかと思って覗いてみるとですね。
「ダイエットします。ダイエット仲間募集!」
ダイエットをすると決意していきなりダイエット仲間を募集する精神構造。これがもう、本当に狂気の沙汰としか思えない。おまけにこの募集の詳細を見てみると
「色々なダイエットを試したけど失敗ばかり。けど、仲間がいれば大丈夫!そこで募集します。一緒にダイエット頑張りましょう」
何食って太ったらこんな精神構造になるのか全然分からないんですけど、たぶん、こうやってダイエットしよう!まずは仲間!とか甘えちゃうところが失敗続きの大きな要因なんじゃないかと思います。てか仲間がいれば大丈夫と思う根拠が知りたい。
でまあ、他にも色々な書き込みとか見るんですけど、どうも僕を含めてデブの人って、食べるのを我慢して痩せるってのが本当に我慢ならないみたいなんですよね。で、まずは食生活は変えずに運動で痩せようとする。とにかく走って痩せようとする。これがもう全ての失敗の始まりですよ。
ちょっと今日は面白い日記とか抜きにして本気でダイエットを語らせてもらいますけど、食生活を変えずにデブがランニングしたって、2日目に膝を壊すだけですからね。そりゃデブですもん、膝が耐えられるわけがない。運よく膝を壊さないとしても、運動で消費されるカロリーなんて微々たるもんですから、走った後にブヒッ!走った!暑い暑い!と冷蔵庫から出してゴキュゴキュ飲むポカリで走る前よりカロリー増えると思います。
とにかく、いかにして苦労せずに痩せるかみたいな狂気が蔓延しておりまして、そんなのチンポ出して歩いていたら勝手に女がはまってきた!くらいのありえない出来事ですから、いつまでもこの深淵を覗いていたら、自分もダイエットといいつつ仲間を募って同じ食生活をして走って膝をぶっ壊す状態になりかねませんから、覗くのを止め、深淵に取り込まれぬよう、自分なりの方法でダイエットを模索し始めたのです。
まず、忘れてはならないのは、食わないダイエットは絶対にしてはならないということ。空腹状態の継続は確かに体重を減少しますが、一生涯絶食するわけにはいきません。おまけに、空腹状態が長いと体がエネルギーを吸収しやすい体制に変化していきますから、絶食を止めたとたんに思いっきり太ります。これがいわゆるリバウンドです。これだけは避けねばなりません。
食事の量を減らすというのもあまり現実的ではありませんから、満腹に食べつつ太らない方法を模索。つまり、脂肪の原料となる炭水化物を一切取らず、野菜や果物などの食物だけを満腹になるまでモシャモシャ食えばいいんです。体調に注意しつつ、しっかり食生活を改善していくことが大切です。
その生活を一週間も続けると、目に見えて体重が減ってきます。結果が伴ってくるとやる気が出るもの。おまけに太りそうな食物をあまり食べる気がしなくなってきて、食べることにすら罪悪感が出てきます。で、ある程度体重が減ってきたら、そこで尋常じゃないレベルで運動をしてください。走るならば最低でも徳光さんくらいは走ってください。自転車ならば隣の県くらいまで行ってください。それを毎日でなくとも3日に一度くらいしてください。もう痩せて膝への負担はありませんから徹底的に運動します。
するとどうでしょう。個人差はあると思いますが、なんとpatoの場合、2か月で20キロ減。体重86キロの状態、ズボンのベルトにしてベルト穴5個分の減量。スリムな状態でヌメリナイトに臨むことができたのです。
まあ、まだちょっとデブなんですけど、それでもまあ、クソデブって状態は避けることができて、これ、ヌメリナイトいけるで!女の子とかイケちゃうで!って機運が高まってきたんで、ヌメリナイト後に女の子3人組みで来てたカワイイ子に
「へー、今日は女の子3人で来たんだー」
「そうなんですー、patoさんの大ファンなんですー!」
「彼氏とかいないの?」
「いないですー!」
「じゃあ、俺と付き合おうよ」
とか言ったら、3人揃って「それはちょっと…」って少し知ってる程度の親戚が死んだ時みたいな微妙な顔してました。クソッ!なんで3人もいて全く同じ反応なんだ。痩せた意味がない。僕はあの3人の表情を一生忘れない。
とにかく、ヌメリナイトも終わり、痩せた意味も終わり、3人組にも微妙な顔をされ、別にこれ以上痩せる必要もなくなったのですが、性格の悪い僕はある場所に赴くことにしたのです。それが、僕が最も太っていて、ラードとかそういう雰囲気の時に通っていたコンビニです。
このコンビニってのが、とんでもないコンビニでして、とにかく本当に客商売かって疑うほどに店員の態度が悪い。とにかく悪い。どれくらい悪いかっていうと、明らかに大学生のグループみたいな連中がバイトしてるんですけど、こいつらが店に行くたびにクスクス笑ってるんですよ。
しかも、それが僕だけ笑われてるなら、別にいつものこと、たまに朝の出勤時なんて寝ぼけてシャツを裏表に着てたりしますから笑うなっていう方が無理ってもんです。
でもね、普通のOLさんとか、サラリーマンのオッサンとか、ほぼ全ての客が店に入るとクスクス笑われてるんですよ。そりゃ気分悪いですよ。入店するとレジの方でクスクス笑ってるんですから。
おまけに僕ってデブだったじゃないですか。さらにはデブなのにちょっと気にしちゃってゼロカロリーのコーラばかり買ってたでしょ。絶対にゼロカロリーデブっていう矛盾みたいな意味合いのニックネームで呼ばれててクスクス笑われてたに違いないんですよ。
でまあ、確かに気分いいもんじゃないんですけど、別にクスクス笑われたり陰口叩かれたりで怒り狂うって大人げないじゃないですか。気分的には日本刀でも振り回したいものですが、さすがにいっぱしの社会人としてそそこまでできないじゃないですか。
で、なんとか我慢しようって思っていたんですけど、どうしても我慢できない部分があって、なんか店員は普通にリアルが充実してそうな雰囲気イケメンが多いんですけど、その中に、一人どう見ても僕よりデブな店員がいたんです。マリナーズの試合をスタンドで見ながらホットドッグ食ってそうなデブがいたんです。
で、こいつがデブのくせに一番僕のことを「ゼロカロリーデブ」って蔑んだ目で見てきてたんです。いやね、スリムな人にデブって罵られるなら分かりますけど、デブにデブってバカにされたら本当、どうしていいのかわからないっすよ。
でまあ、許せないんですけど誠意ある大人の対応として、もうその店に行かないっていう至極まともな行動を実行したんですけど、それでもマリナーズデブだけは許せない。
そこで閃いたんです。こりゃ、凱旋来店するしかねえなと。思えば、ダイエット初期にあまりにニヤニヤされるもんだから行かなくなったコンビニです。つまり痩せる過程の僕を見ていない。
で、いきなりスリムになった僕がバーンとレディガガみたいに華麗に来店。マジかー!ゼロカロリーデブが痩せやがった!と特にマリナーズデブを驚かせるのです。これしかない。
ということで、ことさらボディラインを強調した感じのピチピチのTシャツを着て件のコンビニへ。まだちょっと腹回りがたるんでますが、マックスデブだった時に比べると全然マシ。
店の外のガラスから覗き込んで、相変わらずあのしゃらくせえ大学生グループがバイトしていることを確認。マリナーズデブもいて、なんかレジの奥で口抑えながらクスクス笑ってました。
そこにバーンと僕が来店。頭の中はレディガガの音楽が鳴り響いていた。
一瞬で僕に気づくマリナーズデブと横の店員。ハッとした顔で何やらゴソゴソと話してました。たぶん、
「やべえ、ゼロカロリーデブが痩せてやがる」
「向井理みたいだ」
「もうバカにできねえよ」
「もう俺たちバイト辞めるしかねえな」
みたいなことを会話しているに違いありません。
勝利を確信した僕はモデルが台の上を歩くように店内を闊歩。プラダを着た悪魔みたいにドリンクコーナーへいき、ゼロカロリーコーラをヒラリと手にします。
これまでなら、
「デブがゼロカロリーwwwww」
とかバカにするんでしょうが、あいにくスリムがゼロカロリーコーラ手にしても別に何もおかしくないですからね。
で、意味不明にさらに店内を闊歩し、雑誌コーナーに行って意味不明に「MORE」とか立ち読みしてました。なんで「MORE」なのか意味が分からん。
そうこうしていると、マリナーズデブが「あれはゼロカロリーデブじゃない、何かの見間違いだ」とか思ったのかしれませんが、お菓子の棚を陳列するふりして僕に近づいてきました。
そこで僕は逆にマリナーズデブに言ってやったんですよ!
「すいません、ちょっと通してもらえますか?」
君がデブだからこの通路を通れない。いかに痩せた僕といえどもね!という表情で言ってやりましたよ。敵軍の大将の首をとったみたいなカタルシスがあったね。
あ、自分がデブの時にこういうデブネタを書くと面白おかしいんですけど、20キロも痩せちゃうとホント、嫌味な感じですね!すいません!ゲハハ!
とにかく勝利を確信し、レジを済ませてレジへと向かいます。なんかマリナーズデブは、よほど悔しかったのかレジの奥で
「一緒にダイエットしましょうよ!」
と同僚に言ってました。だからその姿勢がダメなんだって。
いやー、最高に気分が良いぜ、どれどれ、まだ悔しがってるかな、と思って店の外からガラス越しに店内を覗くと、視界の目の前には何やらブヨブヨした感じの肉塊が見えました。
あれ、なんだろうって思って少し後ろに下がって見てみると、それはマリナーズデブがよほど悔しくて僕の動向が気になったのか、ガラスにへばりついて店の外を見ている光景でした。なんかガラス越しにキスしてるみたいになって、お互いに恥ずかしかった。
ダイエットとは狂気です。自分をコントロールし体重を落としていく様は怪物との戦いに似ているのかもしれません。気をつけなくてはならないのは、その深淵に触れるうちに深淵に飲み込まれないようにすることなのです。
ダイエット自体を目的にするのは、おそらく深淵に飲み込まれてしまっているのです。明確な目的意識、ヌメリナイトまでに痩せる、マリナーズデブを見返す。そんな目的を持つことこそが、深淵に飲み込まれない方法なのかもしれません。
それにしても、最後のデブの行動には驚いた。
デブをのぞくとき、デブもまたこちらをのぞいているものだ。
7/31 ヌメリナイト2~今度は戦争だ!~
日時:2011年8月20日(土)
Open 17:00 Start 18:00 End 21:00 (予定)
前売券\2,500・当日券\3,000
(飲食代別途必要・ビール\600、ソフトドリンク\390など)
場所:東京カルチャーカルチャー(http://tcc.nifty.com/)
出演:pato、松嶋
イベントサイト
前売りチケットは7/30(土)10時よりイープラスにて発売中!
イープラス購入サイトSOLD OUT!おかげさまで完売いたしました!ありがとうございます。当日券はでません。申し訳ありません!
以上のような感じで開催します。前回のヌメリナイト~深夜のサバト~は10時間におよぶクラブイベントで飲めや踊れやの大騒ぎだったのですが、なんと今回はトークライブ。淡々とpatoがNumeriの10年間について3時間くらいプレゼンするという、インドの修行僧でももうちょっと楽しんで修行してるぞと言いたくなるようなイベントです。ゲストにはNumeriの閲覧者数が2人/dayだった時からの閲覧者である松嶋君を迎え、淡々とプレゼンします。
居酒屋形式のイベントスペースですので、飯を食うなり、酒を飲むなりしてくつろぎながら、patoがプレゼンするNumeriの10年間をお楽しみください。
気になるプレゼン内容はこちら(予定)
○Numeriについて
・Numeri諸データ
・Numeriに登場する舞台紹介
○Numeri年表
・全国キャラバン
・モンゴル放浪記
・空白の2010年
・pato振られ年表
・ぬめぱと変態レィディオ
○Numeri事件簿
・あのパクリ事件について
・あの事件について
・pato振られて泣きながらラジオ事件について
○対決シリーズ
○あたたか家族
・親父
・弟が山本寛斎のTシャツ着てる事件
・荒廃した実家
○松嶋枠
と、たぶん盛り沢山の内容でお送りいたします!たぶん!その後は歓談などできたらと思いますので、気楽な感じで、どれデブpatoでも見てくるかって感じで来てください。
そして、イベントごとに製作されるNumeri-Tシャツですが、今回は3パターン製作され、会場で販売されます。
まずは、イベント告知画像をベースとした「芳江Ver.」です。
コンセプトは芳江の涙です。
そして、2パターン目は「高志Ver.」
コンセプトは高志の想いです。なんと「出会い系サイト」の文章が丸々プリントされた大胆なデザインになっております。
そして、3パターン目は、今回ヌメリナイトが開催されるということで無理を承知で龍亜種(ドラゴンアッシュ)先生にもデザインをお願いいたしました。龍亜種先生は快く引き受けてくださり、デザインをドロップしてくださいました。「龍亜種Ver.」です。
以下は龍亜種先生のお言葉です。「イメージは"SEVENTH HEAVEN"天国とは死後の世界ではない。天使の住処であり拠所であるべき場所だ。喜びは第七天を突きぬけ、そこにいる天使たちも祝福してくれることだろう。Numeri10周年おめでとう」
この3パターンが会場で販売されます。ということでお台場で会いましょう!8月20日はデブpatoとお台場で握手!
7/14 夏への扉
色の性格というのはなかなか面白い。
人間の目で認識できる光の波長は可視光と呼ばれ、380nmから750nm程度の範囲内の電磁波が色として届くことになる。この外に存在する波長の電磁波は紫外線やら赤外線などと呼ばれ、人間が目にすることができない。可視光内でも波長によって様々な色が存在し、太陽光や照明の光などは色々な波長が混ぜ合わさり白に見えるというわけだ。
色彩と人類の関わりは歴史が古く、太古の遺物に赤土や黄土を使って彩ったり、数々の壁画を見るに様々な色彩で飾った痕跡が見られたり、最近の研究では仏像や歴史的建造物など、今では考えられないくらいに艶やかに彩られていたとされている。今見ているものは年月の経過により文字通り色褪せてしまったものなのだ。はるか昔より、色は我々人類の生活を彩る上で必要不可欠なものだったのだ。
そうやって共に過ごしてきた色、である、時には古今和歌集などを読み解くと分かるように、花の色などにうつろいを感じ、物思いに耽る対象として共にあった。長い年月を経てその色自体が人格を持つかのように性格づけられてきたのは当然の摂理であり、現代の萌え擬人化文化のはしりではないかと個人的に思う。
分かりやすいところで言えば、赤とは情熱的という解釈が多いし、その他にも危険という性格も含む。注意を促す看板などには赤が使われることが多い。青は冷静さだとか知性だとかそういった理知的印象が多いが、反面、憂鬱だとか元気がない表現に使われることが多い。ちなみにこのNumeriで多用されているオレンジ色は、陽気、快活という印象を持たれるように意図的にオレンジを多用している。
このように、多くの意味合いや性格を持つ「色」であるが、それを戦略的に組み込み利用するのはもはや当たり前で特に目新しい事でもない。けれども、その色の性格とはあくまで文化や日常に根差した物であり、同じように暮らしてきた閉鎖的環境でのみ通用する代物だという点に留意しなくてはならない。
つまりどういうことかというと、赤が情熱的で青が憂鬱、オレンジが快活というイメージは、この日本においてのみであり、国や地域が変われば文化が異なり、その意味合いも大きく変わってくる可能性があるという点だ。それは多種多様でカラフルな他国の国旗を見れば何となく想像できる。
その最も顕著な例が、「エロスな色」だろう。日本において、ピンク映画やピンク産業、ピンクサロン、ピンクの電話などなど、エロスでいかがわしいものの表現としてピンクが多用されてきた。ピンク=エロといっても過言でないレベルで、昔のTiffanyのエロビデオなど、テープ自体がピンク色で恥ずかしかったものだ。
しかし、これがアメリカになると別にピンクはエロスを連想させる色ではなくなる。アメリカではブルーフィルムなどのエロ映画からも分かるように、青こそが「卑猥」を連想させるエロカラーとして君臨しているのだ。
中国においては黄色こそがエロい色であり、スペインでは緑がエロい色と各国それぞれのエロい色が存在する。ちなみに我が家でも、昔、何をトチ狂ったのか母親が木目調のハイレグビキニみたいな水着を購入してきて家の中を闊歩しており、我が家では木目はエロく、触れてはいけない模様として長年親しまれてきた。全然関係ない話だった。
とにかく、なぜいきなりこのような色の話をしたかというと、この僕が齢34歳にしてピンクサロンにはまった、いやはまろうと決意した話をしようと思ったからだ。けれども、いきなり冒頭からピンクサロンの話をすると、「patoさん素敵」と風呂上りにドライヤーで髪を乾かしながらNumeriを読んでいる女子中高生や、patoはこの汚れた世界に産み落とされた第七天からのエンジェルだと信じて疑わないOLなどがショックで心臓が止まりかねないので、致し方なく色の話からナチュラルにピンサロの話へと移行する手法を執らせて頂いた。このワンクッションは僕なりの配慮である。では、心して読んで欲しい。
きっかけは、大便だった。
ある日、職場で大便をしようと思い立った僕は、運良く空いていた大便ブースへと吸い込まれ、そこで熱烈にウンコをした。その日は、最初に健康的で柔らかめのウンコから、徐々に硬くて黒いウンコへと変化していくサザエの中身型のウンコであり、ウンコは目で見てわかるほど茶色から黒へと変化していた。ちなみに、茶色のイメージは緊張の緩和であり、黒は厳格である。
一線を終え、ふと床を見ると、そこに名刺が落ちていた。大便ブースに落ちていた名刺など汚くてあまり手に取りたくないのだが、なぜ便所に名刺?とその不可思議な存在に魅入られてしまい、尻も拭かずにその紙片を手に取った。
一応大便ブースとはいえ職場なのだから出入りの業者だとかの名刺だろうと予想していたが、手に取ると思いっきりピンク色の名刺だった。今まで仕事上の付き合いで色々な名刺を貰ったが、さすがにピンク色の名刺なんてのは記憶にない。よく見てみると表面には会社名や役職や氏名などではなく、ボインボインみたいなノリの良い店名がポップな字体で書かれ、ヤシの実みたいな絵まで描かれていた。その下には「この名刺をご持参の方は次回2000円割引!!」と今にも弾けそうなフォントで情熱的に描かれていた。
「なんじゃこりゃ?」
全く意味が分からなかった。便器に座りながら、先ほど出した物が匂いを放つのを感じつつ、再度マジマジと名刺を見た。すると、裏にも何か書いてあるのに気が付いた。
「マリン」
見るとピンク色のペンで、こんなに頭の悪そうな文字ってあるんだろうかって感じの筆跡で、何のためらいもなく「マリン」と書かれていた。その横には「出勤日 月火水木金土日」と印刷されており、月から金までピンク色で丸がされていた。それは手で書いたわりには真円に近く、美しい丸だった。
さらに名刺の裏に文字が続く。もちろんピンク色のペンで、
「今日もとっても楽しかったヨ~、いっぱいエチなことしたね!ミドリガメさんにもいっぱい気持ちよくしてもらってマリンお仕事にならなかったヨ~また来てね!」
みたいなことが小さい字でビッシリ書いてありました。ピンク色の字でビッシリ書かれると目が痛くて仕方ない。頑張って解読すると、まあ「エチ」ってのは「エッチ」って書こうとしたってのは分かるんだけど、ミドリガメってのが何だか分からない。
普通に文面から察するに、この名刺はそういったエロスなサービスをする店の名刺で、サービスが終わった後に「また来てね」と女の子から渡される名刺だと思われる。そして渡したのはマリンちゃん、受け取ったのがミドリガメ。つまり客が、この名刺を落とした人物がミドリガメということ。どういう精神構造をしていたらミドリガメと名乗れるのか理解できない。
早速デスクに戻り、名刺に書かれていたURLにアクセスすると、やはり予想通り、この名刺はピンクサロン、いわゆるピンサロで貰える名刺らしい。ピンサロとは、安価な性風俗の代名詞的存在であり、数千円というお金で女の子があんなことやこんなことをしてくれるお店。建前上は飲食店である、というところがポイントだ。駅前などに怪しげな看板があり「只今の時間8000円」とか値段だけ書いてあったら、まあピンサロだと思って間違いない。
僕は名刺を持ちながらワナワナと震えていた。職場でウンコをしていたら、おそらくミドリガメが落としたと思われるこの名刺を拾った。これはピンサロに行けという神からの啓示ではないだろうか。
ピンク色の字でビッシリと書かれた文字は、あきらかにマリンちゃんがミドリガメに対して送った思いだ。その温かい思いがヒシヒシと伝わってくる。ピンクという色には温かみという性格もあるが、それだけじゃない「想い」がこの名刺から伝わってくるのだ。
僕らは街に出たって一人だ。僕は家でも一人だ。人は沢山いるのに、本質的に人は一人で、誰かに思われることなんて滅多にない。けれどもこの名刺はどうだ。確かにマリンにとってミドリガメは金づるで、また来させて金を落とさせようという考えが伝わってくるのだけど、それでもそこには思いが存在する。マリンがミドリガメを想う想いが存在する。
それって結構素敵なことで、僕も誰かに想ってほしい、こんなビッシリとピンク色で書かれた名刺が欲しい。エロいこともして欲しい。もう行くしかない、ここでピンサロに行くしかない。やるしかない。ここでピンサロはちょっと……って尻込みしていて何になるのだろうか。ピンサロなんて飲食店だ、こんなの行けばだれだってエロいことやれるに決まってる。やるしかないのだ。じゃあいつやるのか?
今でしょう!
ということで、この名刺に記載されていたピンサロに行ってきました。
あらかじめ地図で場所を調べていたのでピンサロへは易々と辿り着くことができた。一階にしょぼくれた不動産屋が入る雑居ビルの前に「7000円ポッキリ」と書かれた怪しげな看板が置かれていた。どうやらこのビルの3階に件のピンサロがあるようだ。
今にも朽ち果てそうなエレベーターに乗り3階へと向かう。エレベーターの上昇に伴って消毒液なのか何なのか独特の臭いが漂ってきた。何やら怪しさを感じずにはいられない匂いだ。
エレベーターが到着すると、ガーッと開いたドアの目の前に重厚なチョコレート板みたいなドアが鎮座していた。店名の書かれた小さなプレートがぶら下げられており、中からは薄らと賑やかな音楽が聞こえる。なんだかこの雰囲気だけで心臓が爆発しそうなほどにドキドキしてくる。
よし、僕は今日から狂ったようにピンサロにはまろう。毎日来よう。そして思いのこもった名刺を何枚も貰うんだ。僕はこれから繰り返し繰り返しこの扉をくぐるだろう。その度に熱い思いに触れるのだ。意を決してピンサロのドアを開けました。
「マーリアー!」
なぜか耳がぶっ壊れるくらいの音量で浜崎あゆみさんの歌が流れてました。マリアとか言ってる場合じゃないで?しかも、入ってマゴマゴしてるとどこかで見張られていたのか
「新規一名様ご来店、サンキューサンキューサンキュー!」
とか場内放送ですよ。僕の34年の人生でこれだけサンキューを立て続けに言われたのはドリカム以来です。
「いらっしゃいませ?当店ははじめてで?」
見るとパチンコの景品交換所みたいな小さな小窓から、黒い服をきた男が話しかけてきます。ちなみにここで黒服を着るというのは、黒色の持つ威圧という意味を考えてのことだと思います。
黒服の男性店員が何か言ってるようなのだけど、浜崎あゆみさんがうるさくてあまり聞き取れない。
「当店は初めてで…「マーリアー!」
ってな感じなんで全然ダメ。業を煮やした黒服店員が小窓の部屋から出てきて対応してくれます。全然関係ないけど黒服店員、歯が何本かなくてご飯食べにくそうだった。
「ご指名ありますか?」
どうやら指名制度らしく、どの女の子が良いのか指名するようです。見ると、入ってきたところの壁に女の子の写真がいっぱい並んでます。なかなかカワイイ子が多いので、ちょっと気になる子を指差し
「この子ってどんな感じですか?」
と尋ねると歯の抜けた黒服は
「いい子ですよ、人気もありますし、リピーターも多いです。たぶん写真よりカワイイと思います。巨人で言うと小笠原です」
と親切な回答。最後の巨人で言うとってところが意味が分からないですけど、そんな調子で今度はおっぱいの大きい子について尋ねてみます。
「なんといってもこの巨乳、サービスも抜群で、優しい性格の良い子ですよ。巨人で言うと元木です」
なんで巨人に例えるのか全然分からないのだけど、そこで思い出したのです。あの大便ブースで拾った名刺に書かれたマリンちゃんの存在、ミドリガメが懇意にしていたマリンちゃんの存在を。
「すいません、マリンちゃんっています?」
「あ、はい!マリンちゃんは写真NGなんでここには写真ないんですけど、本当にいい子ですよ。過激で、何より性格が良い!巨人で言うと清原です」
なんか全然意味わからないんですけど、まあ他に縁がある女の子もいないんでマリンちゃんを指名することに。
「では、こちらでお待ちください」
と歯抜け黒服がシャーッとカーテンをめくると、そこには待合室が。見ると繁盛してるのか既に6人ほどの男性が待っていました。
実は僕、ここに来る前にこのピンサロ店のことについてインターネットで情報収集しておりまして、この店について語らう場みたいな掲示板に行きついたんですね。そこではこの店のユーザーたちが色々な意見を書き込んでいて大変参考になったのですが、なんか「ひばりちゃん」って子が大人気らしく、確かにさっき写真を見たらすごいカワイイ子だったんですが、掲示板ユーザーたちがむちゃくちゃ暴力的な言葉で罵り合ってんですよ。
「ひばりは俺のもんだ、殺すぞ!」
「お前みたいなワキガに指名されるひばりが可哀想だわ」
「死ね」
「お前こそ死ね、ワキガ大明神」
ワキガ大明神ってすげえな、と思いつつ、それを見て暴力的な客がいっぱいいるのかなーなんてビクビクしていたんですけど、待合室に入ると、大人しそうなデブどもがヒーヒー言いながら汗を吹いて待ってるだけでした。まあ、僕もデブなんですけど。こんな大人しくて人の良さそうな人たちうが掲示板で殺すぞとか言い合ってんのかなーとか考えていると、何故か僕だけ1時間くらい待たされました。確かにちょっとお待ち頂くことになるとか歯抜けが言ってましたけど、いくらなんでも待たせすぎです。
ついに案内されるのですが、そこで爪のチェックです。爪が伸びていないか念入りにチェックされ、消毒液みたいなものまでかけられます。で、店内に入るのですが、ここで建前上は飲食店というのが本当に効いてきます。何がすごいって丸見えなんです。
どういうことかと申しますと、こういった性風俗の店ってのは裸になったりが前提なんですけど、そうなると個室とかが前提になるもんじゃないですか、けれどもね、ピンサロはあくまでも建前上は飲食店ですから、個室に仕切るようなものは一切ないんです。せめてマンガ喫茶くらいの仕切りがあるといいんでしょうが、それもなく、少し背もたれの背が高い椅子が同じ方向に向けて並べられているだけなんです。
そうなるとどういうことが巻き起こるかっていいますと、自分の席に案内される途中に、さっき待合室で待ってたデブどもが女の子にチュッパチャップスされてる絵とか丸見えなんですよ。もう、これが本当にすごい。
大音量の音楽は、エロスな音とかエロスな声とかをシャットアウトするために流されているんですけど、さすがに丸見えなのは防ぎようがありません。ってか、待合室で待たされすぎて曲が一周してまた浜崎あゆみさんが爆音で歌っていた。
歯抜けによって席に通され、そこにマリンちゃんがやってくる。
「いらっしゃいませー!」
手にはキンキンに冷えたウーロン茶。建前上は飲食店というアレなのか、絶対についてくる代物みたいだ。で、このマリンちゃん、早い話がすげえブスだった。ミドリガメが何を考えて指名したのか分からないが、歯抜けが巨人で言うと清原っていうように、髪の長い清原がそこに立っていた。
っていうか、立っているシルエットが明らかにデスピサロで、ピンサロでデスピサロですか、こりゃあデスピンサロですなー、って意味わからんわ。
「はじめましてー、マリン、今日はお仕事…「マーリア!」
って、浜崎あゆみはやかましいわで最悪の状態に。もうこのデスピサロが何言ってるのか全然分からないんですけど、すごい馴れ馴れしく隣に座ってきて、ウフーンみたいな感じになっとるんですよ、これが。で、耳元で
「私まだ新人なの、どうしていいか分かんないから…好きにして…いいよ…」
とか途方もないこと言い出すんです。聞きましたか、奥さん。好きにして、ですよ。あのですね、ここを読んでいる女性がいて、意中の男性がいるなら今すぐ「好きにして」って言いなさい。それだけこの言葉ってのは破壊力がありますよ。早い話、好きにしていいならウンコを食べることも辞さないっていう不動明王のごとき決意の現れですからね。これで興奮せずして何に興奮するかって感じですよ。
でまあ、いよいよピサロのサービスが始まるんですけど、こう「つうこんのいちげき」みたいなことはなく、そつなくサービスは過ぎて行くんですけど、そこでまたもやピサロのあの言葉がリフレインするんです。
「…好きにして…いいよ…」
こりゃ好きにしてやろうと思いますわな、やらなきゃ損と思いますわな。マリアも後押ししてくれます。こりゃやったろ、思ってピサロの下半身に手を伸ばしたんです。いっちょ生殖器でも触ってやろうと思ってですね、こうスーッと手を伸ばしたんです。
そしたらアンタ、ピサロのヤツがまるでロデオのように腰を上下に動かし始めましてね、「ウン!ハッ!」みたいな声を上げて激しく上下にうごいとるんです。何事なのか全然分からない。
で、あまりにも激しく動くもんですから、こう、局部を触ろうとしていた僕の指がこう、ツルンと、入っちゃったんですよ。どこにって?アナルですよ、アナル。僕も長いこと生きてますけど、初対面の人のアナルに指を入れたのは初めての経験です。
イメージ的には本当に何の抵抗もなく入った感じで、ニュルン!って感じなんですけど、それと同時にデスピサロが「ウッ!」みたいな呻き声を上げたんです。
いきなりアナルに指が入ったのはビックリだけど、まあ、好きにしてって言ってたし、まあ、これはこれでいいかって思ってたんですけど、ピサロの様子がおかしい。暗闇越しでハッキリとは分からないけど、その清原みたいな顔を急に事務的な表情に変えてこちらを睨みつけてきた。
で、フンッ!といった趣でアナルに突き刺さった僕の指を腰の振りだけで抜き取ると、そそくさと席を離れてどっかにいってしまった。なんだろうなって考えつつ、僕も色々な場所丸出しで待ってたんですけど、そこに歯抜け登場ですよ。
もうあまり思い出したくないんで割愛しますけど、どうもマリンちゃんアナルを触られるのはNGらしく、ましてや指を入れられるなんて途方もない事だったらしく、彼氏にもさせたことないのに!みたいな感じで泣き出しちゃったみたいなんですわ。
で、なんか店の外で歯抜けに物凄い怖い感じで説教されて、
「次回からのご来店はお断りさせていただきます」
と、アナルに指入れただけで出入り禁止になってしまいました。名刺ももらえず、温かさに触れることもできず、感じたのはアナルの温もりだけ。この夏、何度もくぐると心に決めたこのピンサロの扉、僕にとっての夏への扉、できることならタイムマシンに乗って店に入る前の僕に忠告したい。帰り際、もう一周した曲の「マーリア!」がドア越しに聞こえていた。
一発でピンサロに出入り禁止になった事実を引きずり、青い顔をして職場にいきました。もちろん、この青いはアメリカ的にエロスな意味合いではなく、憂鬱という意味合いで。
すると同様に、僕の横に憂鬱な顔をしている同僚の亀田君がいました。何事かと話を聞くと、営業中に仕事をサボってピンサロに行ってたのが偉い人にばれて、なんか軍法会議みたいなのにかけられるみたいです。
それを聴いた瞬間、お前がミドリガメだったか、と驚きと憤りを感じると共に、亀田だからカメは分かるが、なんでミドリガメなのか、ああ、そうかピンサロで名乗る名前だからエロスな意味のミドリをつけたのか。なんてスペイン的なヤツだ、などと思ったのでした。もう二度とピンサロには行かない。
6/28 スペースデブリ
オッス!デブです!
いやあ清々しいね、本気で清々しい。なんかもう気分爽快とかそういったレベルのお話ではなく、「これ中国の山奥で取れた神秘の漢方薬なんだぜ」とか嘘8000ぶっこいて自分のウンコのカスをお嬢様女子大生に匂わせた時くらいのカタルシスがあるんですよ。
何がって、そりゃあ前回の日記でついに自分のことをデブだと認めたわけなんですけど、さすがに体重が30キロも増加し、会う人会う人に太りすぎだろと言われ、僕の職場のパソコン、顔認証でログインするようになってるんですけどあまりに太りすぎちゃって人相が変わっちゃってログインできなくなったりしたんですけど、それでもやっぱ心のどこかに認めたくない想いがあったんですね。
体重が30キロ増えたって言ってもあくまでも数字上のことで実際にはそう見た目は変わってないだろう。会った人が「太った」って言ってもそいつが目の錯覚に騙されているかやっすいシャブでもやってるか、顔認証だってウィンドウズのバグだって思うことにして頑なにデブであることを認めなかったんです。それこそ、デブじゃないもん、ポッチャリだもんってブヒブヒいうデブ女の気持ちがすごく分かるんですよ。
けれどね、そうやって嫌な現実から目を逸らしていたって何も変わらないんですよ。そこには何か自分がデブじゃないという勘違いをしたデブがいるだけで、認めなかったからと言って痩せるわけでもカワイイ女が言い寄ってくるわけでもないんです。
そして認めた。デブがデブを認めた。もう世界が違ったね。パッと世界が開けた。「俺、デブなんだ」なにか偉大なる存在に赦された気すらした。天空から光が差し込み、ラッパを持った天使たちが楽しそうに踊りながらデブを祝福してくれてるかのように感じた。僕はデブなんだ、やっとこのガイアに受けいられた気すらした。
デブを認めると色々と周りの環境も変わるもので、職場での振る舞いも、例えば僕は職場の女子社員に異常に嫌われてて、そのうち退職請求の署名活動とかされても何らおかしくないのだけど、デブって認める前は「今日は暑いね」とか話しかけても完全無視。それが認めた後ちょっと自虐を込めて「俺デブだからこの暑さ耐えられないよ」って話しかけたらどうでしょう。完全無視ですからね。デブを絡めないで無視されると嫌われてるからなんだろうなって落ち込むんですけど、デブを絡めて無視されるとちょっと自虐が行き過ぎちゃった、って状況判断ができますからね。認めるって素晴らしい!
とにかく、デブであることを認めると全てがうまくいくこと山の如し、デブなんでホントに山みたいなんですけどブヒヒ、そうやって認めるとですね、次の行動にも出やすくなるんですよ。
「健康!ダイエット教室!」
僕デブなんでボケーッと市民掲示板みたいなのを眺めていたんですけど、どうやらどっかのスポーツクラブの主催かなんかで市民を対象にダイエット教室なるものが開催されるみたいじゃないっすか。無料と謳ってますけど、どうせデブであることの危機感を散々煽ってスポーツクラブに入会させようって魂胆なんでしょう。デブは金になる、くらい思ってるんじゃないですか。デブはどうせ早死にするから金持ってても無駄だろ、みたいな想いがビンビンに伝わってくるんですよ。
こりゃあここに行くしかないな。気づくとデブはそう決意していました。市民掲示板の前でダラッダラに汗をかきながら、そう決意していました。そして妄想が広がります。
たぶん、僕はデブといっても入口程度のデブなはずですので、おそらくデブが大量に集まるダイエット教室の中ではスリムな部類に入るはずです。やはり魑魅魍魎の如くデブがひしめき合ってる中に僕が行くわけですから、他のデブは驚愕すると思うんです。
「ゲゲゲー!あんなスリムな奴でもダイエット教室に来るのか!」
「あんなスリムな奴に来られちゃ太刀打ちできねえよ」
「っていうか、あんなにスリムなのに来るなんて嫌味以外の何物でもない」
「ピザ食べたい」
こんな感じになって脂汗やら何やらラードっぽい感じになるに決まってる。デブどもが震え上がるに違いない。そこにデブの中ではスリムの部類に入る僕が颯爽と言うわけですよ。
「僕らは確かにデブだ。でも心にまで贅肉をつけてはいけない。一緒に頑張って痩せよう」
「ブヒヒ」(感動して言葉も出ないデブたち)
これですよ、これ。僕のようなややスリムがダイエット教室に行ってデブどもを牛耳る。僕にはもうこれしか残されていないのです。
早速、掲示板に書かれた内容を確認し、参加申し込みをします。なんでも男女別で日程が分かれているらしく、もちろん僕が指定された日時は男子の日。平日の夕方からのようでしたので、仕事が終わった後にデブ男どもに囲まれるのか、と正直身震いがしました。
いよいよ当日、仕事を終えるとブヒブヒと開催場所である市民なんとかセンターみたいな場所に行きます。僕デブなんでこの時点で汗ダラッダラになってるんですけど、とにかくデブとは言ってもスリムな部類のデブです、堂々たる態度で会場へと入っていきました。
するとまあ、いるわいるわ、若者からオッサンまでどうやったらこんなにデブが集まるんだよって感じでゴロゴロと歴戦の猛者みたいなデブが集ってるんですわ。映画なんかで子供が5人くらい集まると、大抵一人はデブなんですけど、ここは5人全員がデブ、意味わからんけどとにかくデブ。
ザッとロビーに入ってきた僕の姿にデブどもの視線が突き刺さります。視線も太かった。
「おい、なんだあいつ」
「確かにちょっとデブだけど、あれはスリムな方だろ」
「嫌味な奴、デルモ体型じゃん」
「ピザ食べたい」
こんな心の声が聞こえてくるようです。すまんね。でまあ、思いっきりかっこつけて、ロビーの隅っこで腕組みして開始時間を待ち、デキルやつみたいな自分を演出しておきました。デブですけど。
で、観察してると、どうも結構常連っぽいやつらが多い感じで、
「おや、お疲れ様です」
「相変わらずですなー」
「今日は暑い暑い」
みたいな会話が展開されているんですよ。ダイエット教室の常連という時点で、全く痩せられてなくて何かが大きく間違っている、そもそもこの教室って全く効果がないんじゃないかって気がするのですが、後にこの理由はわかります。
とにかく、受け付けを済ませ、いよいよ少し広めのスタジオみたいな場所に移動して開始となります。ワンフロアに大体10人ほどのデブでしょうか。床が抜けるんじゃないかとちょっと怖くなり、気持ち柱にしがみついていました。
すると、そこにレオタード姿の本気でモデル体型のお姉さん登場。すっげえ化粧濃かったけど美人でした。どうも、ちかくのスポーツジムみたいな場所のインストラクターっぽく、明らかに美人でデブを釣りに来てました。言っておきますが、こっちはデブが11人、1トン超えてますから。
で、この美人の登場にデブどもブヒブヒと大熱狂、僕もブヒブヒと大熱狂。こんな美人のレオタード姿が見れるなら何度でも来てもいい!とか思ってると、美人が自己紹介を始めます。
「今日は初めての人も何人かいるようなので自己紹介します!私はインストラクターです!結構厳しいので覚悟してください!趣味は音楽鑑賞とジョギング、あとガーデニングや漢方薬とかに興味あります」
とか、僕らのことをデブだと思って舐め腐ってどうでもいい自己紹介してやがりますが、けっこう口調的にサディズムの塊というかサダムフセインというか、なんかこう、デブを苛めるのに生きがいを感じてます!デブの生き血をすすって、デブの生き脂肪をすすって美貌を保ってます!みたいな雰囲気がムンムンに感じ取れました。
で、そのSっぽいインストラクターがおもむろに言うわけですよ。
「今から体脂肪率を測定します」
なるほど、痩せる前にまずは己を知れということか。なかなか理にかなってるじゃねえかって思うんですけど、係の者が持ってきた体重計がこれまた小さい。もっとこう、可憐なお嬢様が乗るんじゃねえのって感じの体重計。僕たちデブが乗ったらぶっ壊れそう。デブだと思ってバカにしやがって。
で、次々と測っていくんですけど、なんか、体脂肪率の高い順番に並べられていくんですよ。なるほどなるほど、普通、体脂肪率なんて恥ずかしくてあまり人には知られたくないものなんですけど、こうやって皆の前で大々的に公表され、おまけに体脂肪率順に並べられるという羞恥プレイ。この恥ずかしい気持ちこそが「痩せよう!」という気持ちに繋がるわけですな。多少問題ある感じがしますが、なかなか効果的な手法のような気がします。
でまあ、次々と並べられていくんですけど、やはりそこはデブの集い、体脂肪率20%後半がゴロゴロでてくるわけですよ。
「26.3%!」
「28.7%!」
「27.7%!」
男って筋肉多いはずですから、この辺の体脂肪率は確実にデブの部類です。そしてついに、僕が目をつけていた、最もデブっぽいオッサンの順番がやってきました。
「30.3%!」
ウオオーンというどよめきが聞こえました。いやデブしかいなかったのでブオオーンって感じだった。ついに驚きの30%越え、デブの大台に乗せる剛の者がでてきました。
やっぱどいつもこいつもデブだな、ここはいっちょデブの中でもスリムな部類の僕がかなり低い体脂肪率を叩き出してやってデブどもを震え上がらしてやる。まあ、震えると言ってもそれは脂肪だがな。プルプルとしてろ、ラードどもめ!自信満々に体重計に乗りました。
「33.5%!」
僕が、一番、デブ、でした。
いやいや、これ絶対におかしいですって。なんで体重計に足の裏しかつけてないのに全身の脂肪の量が測れるんですか。そんなわけないじゃないですか。絶対にランダムで数値出してますって。絶対おかしいですよ。こっちがデブだと思って20も30もかわんねーだろ、どっちもデブだって適当に体脂肪率出してますって。
っていうか、こやって皆の前で体脂肪率読み上げるっておかしくないですか。個人情報じゃないんですか。人権侵害じゃないんすか。デブには人権ないですか。僕一番デブですか。そうですか。ピザ食べたい。
心のどこかでこのデブどもめ、と見下してた連中の中で自分が一番デブだった事実に驚愕し、このクソデブどもが、何見てやがる!って憤りたい気持ちになりましたが、僕が一番デブなわけで。選ばれしデブなわけで。
その後、汗だくになってダイエット体操したりとか、痩せるための食事とか、どうしてもお腹がすいた時の対処法、などと色々教えてもらったのですが、あまりのショックにまったく覚えていませんでした。
ただ、教室が終わった後に、デブたちのボスみたいな人に誘われて皆でラーメンを食いに行ったのですが、みんな、すげえ勢いで替玉してて笑った。ラーメンの注文と同時に替え玉二つを注文する集団を初めて見た。こいつら痩せる気ないだろ。
なんでも彼らは別に痩せる気はサラサラなく、あのSっぽい美人インストラクター目当てで教室に通っている様子。なるほど、だから常連なわけか。
「痩せちまったら会えなくなるからな…」
そう言いながら替玉をすするボス格のデブを見て、いや金払ってスポーツジム行けば会えるだろ、このクソデブ、と思ったけど、それでも僕の方がデブという事実。
よし、僕もあのインストラクターに会うためにあの教室に通おう。漢方薬が趣味という彼女に珍しい漢方薬なんですよーって茶色いものを見せるために頑張ろう。デブでなおかつクズ、粗大ごみになってやるんだ。
「すいません、替玉!」
期待の新人ナンバーワンデブも替玉を注文した。
6/21 ファフロツキーズ
いい加減、そろそろ認めなくてはならない。僕らは常に「無視」と「認識」の狭間で揺れ動いていて、まるでシュレディンガーの猫が生きてる状態と死んでる状態が重なり合っている状態で存在するかのように、僕らの中で「無視」と「認識」は重なり合って存在する。
人は都合の良い事を「認識」し、都合の悪いことを「無視」する。けれども、これら二つは実は重なり合っており、都合の悪いことを無視してもそれは何も根本的な解決になっていないことが多々あるのだ。
例えば、空から馬が降ってきたとしよう。それも大量の馬がまるで雨のように降り注いできた。空から水が降ってくる現象ならば雨として認識でき合理的な説明もできよう。しかしながら馬が降ってくるとなると、ちょっとよそっとじゃ合理的な説明はできそうにない。馬がペガサスになり損ねて降ってきた、などと苦しい説明をするのが精一杯だ。
では、完全にこの事象を無視し、そもそも空から馬など降ってこなかった。とした場合、その現象を説明しなくて良いのだから大変都合がよい。けれども、そうやって無視したところでガンガン馬が降ってきているという事実は曲げようがないし、その最中も降りしきる馬の蹄が直撃して隣の婆さんが死んでいるかもしれない。無視をしたって何も根本的には解決しないのだ。
「認識」と「無視」が同時に存在する事象は、人間関係に置き換えると大変理解しやすい。「認識」とはコミュニケーションだ。一つの人間の行動に対してアクションとリアクションを起こすことが人と人の関わりであり、例えば、こちらが話しかければ答えを返してくれる。こちらが手を握れば握り返してくれる。人と人とのコミュニケーションとは、「認識」と相手の反応があってこそのものなのだ。
アクションとリアクションのやり取り、それがコミュニケーションの根幹であり、その最たる例が、恋人同士のやり取りではないだろうか。
「やだ、高志、目が腫れてるよよよよ~、どうしたの?」
「昨日、泣いちゃってさ」
「えー、どうして?」
「芳江のことを思ってさ」
「え?わたし!?」
「そう、芳江をどうやって幸せにしようか考えてたら自分の無力さに泣けてきちゃってさ…」
「バカ…もう、バカ!」(芳江も涙ぐむ)
「俺、頭も良くないし稼ぎも良くない、イケメンでもないし、でも芳江を思う気持ちだけは誰にも負けない!」
「高志…」
「フォーユー」
とまあ、何がフォーユーだ、勝手にやっててくれよって感じなんですけど、このようなちょっとした恋人同士のやり取りにおいても、数多くのアクションとリアクションが存在するのです。質問に対して答えで返す、泣いてくれた彼を想って泣く、想いに応えるようにまた想う。そして二人は愛し合う、とまあ、何らかの不幸な事故で脳漿垂れ流して死んで欲しいくらいなんですけど、とにかく、人と人ってのはアクションとリアクションの応酬なんです。
日本人は、古来よりこのアクションとリアクション、言い換えればコミュニケーションを重んじる民族でした。これは僕が日本人だから特別そう思うのかもしれませんが、日本人はずっとコミュニケーションを超えたコミュニケーションに重きを置いてきたように感じます。
日本独特の「阿吽の呼吸」というのがまさにそうで、言わなくても分かってくれる、というコミュニケーションを超えたコミュニケーションを美徳とし、空気を読むという独特の作法、言葉と言葉の隙間の「間」の方が言葉よりも多くの意味を含んでいたりしたものです。これが鬼畜米英とかだったら「ファッキン!」とか叫びながら散弾銃でもぶっ放すのがコミュニケーションなのでしょうが、日本人は「沈黙」こそが何よりのコミュニケーションである場合があるのです。
例えば、こうやって書いてる文章でも、沈黙、つまり文章と文章の狭間の行間にこそ物事の真理が隠れている場合が多々あります。例えば僕が「女の子にモテない」「すごく寂しい思いをした」とか系の、34歳男性の心の叫びを日記にしたためた場合、それは文脈的に寂しい僕を見て欲しいという意味で書いてる訳ではないということです。
ホント、行間を読めないクズども多すぎてウンザリするのですが、本当はそういうの言わなくても機敏に感じ取って欲しいのですが、今日は特別に説明してあげます。いいですか、Numeriにそういった系の日記が登場した場合は、「patoさん、わたしと付き合ってください!好きです!」という女子からのメールを待っている、と行間で伝えているのです。その場合、いきなり素性も知らない人と付き合ったりはできませんから、軽い自己紹介、これはまあ、年齢と髪型とか誰に似てるかとか、携帯メールアドレスとか、そういうのも合わせて送って来いってことを行間で伝えているのです。あと、男がなりすましている危険があるので、使ってる化粧品の名称とか教えろって行間で伝えているのです。けれども、残念ながら行間を読める人が全然存在しない。これには大変失望しております。全然コミュニケーション取れてない。
言葉も行動も沈黙も、全てがコミュニケーション手段なわけですが、そこにもう一つ、さらに難しい手段が加わります。それが「無視」です。無視とは、もちろん、ある相手に対してその存在をあたかも無いものとして扱う行動で、「イジメ」などに多用される非常に陰湿でドロドロした行動です。
先日、電車に乗る機会がございまして、座る場所がなかったんで吊革に捕まって立っていたんですね。とある駅で電車が停まり、アナウンスが流れます。
「特急列車通過待ちのため3分間停車します」
そこでね、横でギャギャー騒いでいたガキが、なぜか急に僕に縋って来てですね、言ったわけですよ。
「特急ってなにかな?あずさかな?」
あずさって名前の特急が来るのかなってことなんでしょうけど、なぜかムチャクチャ僕の目を見ながら話しかけてくるんです。そりゃね、知らない子供ですよ。別に無視しても良かったんですけど、ここで僕に無視されたことで彼の心に大きな傷が残り、一生モノのトラウマにでもなったらどうしますか。そんな極悪な無視など僕にはできません。満面の笑みで答えてあげましたよ。
「あずさかなー?かいじかもしれないぞ?」
特急あずさじゃなくて特急かいじかもしれないぜ?っていう、彼の話に反応しつつ、全てを肯定するわけではなく彼自身の成長を促す、そんな素敵な返答だったように思います。その瞬間ですよ。
何とクソガキ、僕のこの返答をガン無視。ガン無視して一人でキャッキャ遊んでました。な、なにごとだーって思ってそのガキを連れてたお母さんの顔を見たいんですけど、お母さんも視線をそらしてガン無視。なんか僕が変質者みたいな空気が車内に流れてるんですよ。
そこに、反対のホームを特急列車が通過。僕の指摘通り特急かいじでした。
「やっぱり特急かいじだったねー」
もう引き下がることもできず、そう言うしかなかった僕は、傍目に見ても声かけ事案に該当する変質者でした。このガキがやったように、無視とは非常に陰湿で相手の人格すら崩壊させかねないものなのですが、ではなぜ、この「無視」がコミュニケーションに該当するのか。
ここに、ある中年会社員Pさんがいたとします。Pさんは仕事熱心とは言わないまでも、比較的真面目に会社に行き、同僚が困っていれば助けてあげ、同僚がものすごいキムチの臭いを放っていて、オフィス全体が言いたいけど言えない状況で悶絶している中で、その同僚に「キムチ臭いよ」と言えるだけの勇気と行動力、まっすぐな正義感を兼ね備えていました。
Pさんのオフィスは隔離されており、誰もいない中でポツンとして仕事をしていることが多いのですが、なんか訳変わらない秘書的な女に無視されながら一生懸命仕事をしている訳なんですよ。ホント、Pさんってホント健気ですよ。
でもどうしても、Pさん、人の温もりが恋しくなるみたいで、何かにつけて、やれ自分の部屋のプリンターが壊れたから印刷させて、やれ隣の部屋にまで臭ってくるくらいキムチ臭いぞ、やれ不要になったストッキングをくれ、と隣のオフィスまで突撃をかけるみたいなんですわ。隣のオフィス、比較的若い娘っこが多くて仲間に入りたくて仕方ないみたいなんですわ。
でもまあ、Pさん、当然のことながらゴリッゴリに無視されていまして、いくら女の子とかに話しかけても女の子が三十三間堂の仏像みたいな悟りを開いた状態になってましてね、かわいそうなくらいに無視されているみたいなんですわ。
でもまあ、その程度の無視だけなら別に良くて、Pさんもその場では笑って「まいったなー」とか言いつつ家に帰って泣く、そいでもって夜な夜な職場女子トイレの三角コーナーを漁って舐め取る類の妖怪になりたい、みたいに決意することができるんですけど、さすがに心にきた事件があったみたいなんです。
その日もいつものようにPさんが、決して僕ではないですけどPさんが、メスの臭いでも嗅いできますかなーって軽やかさで隣のオフィスに入っていったそうなんです。そしたら、さっきまでワイワイ騒いでいた桃色オフィスが急にシーンとなっちゃいましてね。古来より日本ではこうやって騒がしい場所が急に静かになる現象を「霊が横切った」なんて表現しましてね、こりゃとんでもない霊が横切ったもんだ、夜ごとタンポンを舐め取ってるクラスの霊が横切ったんじゃねえかってくらいの静まりをみせたんです。まあ、完全なる「無視」ってやつですよ。
で、そんなのはいつものことなんですけど、Pさんも平然と言った趣で、今テロリストが入ってきてこいつら全員裸踊りさせられる、とか妄想しつつ書類をコピーしていたんですね。そしたらまあ、さすがにそんな長いこと沈黙していられないみたいで、そのうち、
「何時に集合?」
「何着ていく?」
「佐々木さん(職場のイケメン)も呼ぼうよ!」
みたいな会話がチラホラ聞こえてくるんですよ。こりゃこいつら、仕事が終わったら皆で飲み会的なものに行く気だな、って直感が走りましたよ。でまあ、僕が誘われないのはいつものことなんで、特に気にする様子もなく
「あーあ、今日も暇だなー、スケジュールあいてるなー」
みたいなことをチラッチラッとアピールしてみたんですけど、当然ガン無視。これはもう、B'zが出てきてもおかしくないレベルでBAD COMMUNICATIONなわけなのですけど、まあ、そんな無視、別に今に始まったことじゃないんでいいじゃないですか。気にすることもなく元の隔離部屋に戻ったんです。
で、なんとか仕事が終わる時間になり、ちょっとフライング気味に帰宅した僕、今頃みんなは楽しそうに飲み会で親睦を深めてるのかな、とか考えると急に寂しくなってきちゃいましてね、なんだか涙がホロリ。で、このまま家に帰って一人でコンビニ弁当とかモソモソ食ってたら惨めすぎて死んでしまう。それだけは絶対に避けなければならない!と何故か発奮しちゃいましてね、一人で焼き肉食いに行くことにしたんですよ。
一人焼肉って実はムチャクチャ敷居が高くて、何故か知らないけど焼き肉とか鍋、バーベキューそういったものって皆でワイワイやるのが定番じゃないですか。特に焼き肉屋なんて家族連れかうるさい学生グループ、セックス前のカップルくらいしかいなくて、単身突撃してる人ってあまりいないんですよ。
けれども、どうしても肉を焼いて食いたかったですし、かといって一緒に行ってくれる人もいない。それならばもう、一人で焼き肉に行くしかないだろうってことで、特に家族連れで賑わってそうな焼肉屋にいったんです。
で、行くと店員の人が「おひとり様ですか?」って三回くらい聞き返してきてくれまして、なんかすごい気を使ってくれたのか奥の方の席に案内してくれました。どう見ても四人で楽しく肉を焼く席なんですけど、一人ポツンと座って牛タンを焼きます。
なんか救いだったのは左右には完全な壁と言わないまでもスダレみたいなものがかかってまして、人の気配とか声とかは分かるものの姿が見えない状態になってたので、周りの人に「あの人ひとり、クスクス」とかいわれることはあまりありませんでした。
けれども、まあ、通路の方を見ていると、席に案内されるカップルの姿とかチラチラ見えましてね、昔から焼肉に来るカップルはこの後セックスをするなんてのが定説でして、そうかあ、この女がこの後セックスするのかーって感じで異様に興奮してきて、色々とビンラディン。ビンラディン死んじゃったけど。
で、興奮しながらホルモンとか食ってたんですけど、なにやら様子がおかしい。ちょっと前から隣の先に結構な人数、大テーブルを使って10人前後の人間がやって来たっぽいんですけど、何やら様子がおかしい。スダレがあるんで姿形は見えないんですけど、話してる内容とか声とかを総合的に解析すると、どう好意的に解釈しても職場の連中が来てるっぽいんですよ。もちろん、隣のオフィスの無視していた連中ですよ。
いやいやいや、明らかにおかしいじゃないですか。なんで僕を無視したあなたらが横のテーブルにいるんですか。っていうか、マズイ、非常にマズイ。この状況はまるで僕が誘われなかった腹いせに、同じ店まで尾行してきたみたいな状態になっている。非常にマズい。とんでもなくマズい。下手したらストーカー騒ぎだ。
とにかく落ち着いて、スダレがあるから大丈夫とはいえ警戒するに越したことはないのでクソでかいメニューで顔を隠しつつホルモンを焼く。ホルモンの油が引火して大きな炎を上げるたびに「見つかるからそんな派手にしないで!」とヒヤリハット。ホント、一人で焼肉なんか来るんじゃなかった。
でまあ、ちょっと落ち着いてきて隣のテーブルの会話を聞き耳立ててみるんですけど、明らかに僕の悪口言いまくってるんですよ、これが。どうも皆で僕のことを「カムチャツカ」っていう意味の分からないニックネームで呼んでるらしく、どんどん短くなって「カムチャ」とかヤムチャみたいな発音で言われてました。夜、女子トイレ行ってタンポン集めてそうとか、ピータンっぽい匂いがするとかムチャクチャ言われてた。肉焼きながらすげえ楽しそうにカムチャの悪口言われてた。ホント、馬でも降ってきてこいつら死なねえかな。
いやね、思ったんですよ。悪口とか別に良いんですけど、そりゃ僕も女だったら僕の悪口滅茶苦茶言うでしょうから別に良いんですけど、彼女たちは僕を無視できていなかったんです。わざわざ仕事帰りに焼肉に来てまで、ずっとカムチャの悪口を言ってるんです。これはね、もう、逆に僕のことが好きで好きで仕方ないレベルですよ。なんだよこいつら、俺のこと好きなんだろ、カムチャはホルモンを平らげてコソコソと帰るのでした。
無視とは、相手を認識しているからこそできる行動であり、むしろ普通に会話したり触れ合ったり以上に相手をバリバリに意識していないとできないコミュニケーション手段なのです。「無視」と「認識」は相反しているようで、同時に重なり合って存在するのです。つまり、意図的に無視しても何の解決にもならず、むしろバリバリに認識している状態に他なりませんので、いい加減、僕も無視することが無意味なように思えてきました。
ということで、周りから「お前絶対アレだろ」「絶対やばいって、アレだよ」と指摘され続けてきて、その度にその指摘を無視し。気づかないフリをしてきましたが、いい加減認めます。
そう、わたくし、pato、一年で30キロ太って立派なデブになりました。
もう認めたくなくて、体重は30キロ増えたけど、たぶん僕は肉の密度が人より高いからそんなにデブじゃないはずだ、とか自分を誤魔化し、あろうことか、街を歩く少し太った人を見て、この人まではいってないから大丈夫、と自分を誤魔化してきました。けれどもそれでは何も解決にはなっていない。
ここに宣言します。Numeriのpatoはデブです!
無視と認識は、相反する事象が同時に重なり合った状態だ。けれども、今はこの重なり合った肉の方が問題だ。
4/20 優しさのレオロジー
人の優しさに触れるということはいくらかの戸惑いを覚えることなのです。この世の中は実は優しくない要素で構成されていて、例えば、僕が引っ越したばかりの一人暮らしの部屋で、異常に天井の低いロフトという名のエクストラルームにまだ慣れず、朝起きるたびに天井に激しく頭を打ちつけ、身悶えて脳挫傷になりそうな生命の危機を毎朝迎えていたとしても、誰も気に病んでくれないし、ふーん、あっそ、死ねば?くらいのものなのです。
それどころか、一人で寂しい、もう僕も齢34で周りの同い年の連中は家庭を持ち、子供を設け、今日は子供の入園式とかルンルン気分で有給を消化しているというのに、かくいう僕はエロビデオのレビューを書くから、貯まってんだ原稿が、と有給を取る始末。別にそれはそれでかまわないのだけど、たまに松屋でカルビ定食を食っててふいに外を見て、幸せそうな家族やらアベックなんかがいると、心に穴がポッカリ開いた気分になるのです。そんな寂しさを吐露したところで、別にカワイイ女性が全身にチョコを塗りたくって全裸で来てくれる訳ではありませんし、ふーん、あっそ、死ねば?くらいのことしか思わないと思うのです。
この世は優しさで構成されている、君は一人じゃない、なんて言うかもしれませんけど、この世は優しさで構成されていませんし、僕は一人です。それは別に僻んでるわけでもなく失望しているわけでもなく、歴然たる事実がそこにあるだけなのです。人はそんなに人のことに興味がないし、この世は優しさでなんか構成されていない。
多くの人が、人々の優しさに触れた時、戸惑い、そして感動するはずです。それこそがこの世界が優しさで構成されていないことの証左なのです。本当にそうであるならば、一つの優しさなど取るに足らないこと、まるで当たり前にそこに存在するはずなのです。たとえば、あなたはウンコをしたら感動しますか。便秘気味な女性なら感動するかもしれませんが、僕のように何度となくウンコをする人間にとってはウンコなど取るに足らない出来事、呼吸と同程度の存在でしかないのです。
つまり、優しさに戸惑い、感動を覚えるというのはこの世界において、いやアナタの周囲において優しさが珍しく希少な存在であるということなのです。優しさに感動するより先に、感動するほど優しさが少ない自分の状況を嘆くべきなのです。
そういった前置きを踏まえて、先日感動した話を書きますけど、ついこの間、1年の間に2回しか更新しなかった2010年の沈黙を破り、連続更新をぶちかましたじゃないですか。24時間の間に沢山更新して指が痙攣起こしたんですけど、別に全然更新しなかった2010年も怠けていたわけじゃなくて、こう、なんていうかビクビクしながら過ごしていたんですよ。
何にビクビクしていたかって、アナタたちにですよ、アナタたち。ホント、アナタたちは鬼が産み落としたんじゃないかってくらいに鬼の子ですから、こうなんていうか、電車で老婆とか見たら殺しちゃうんでしょ?それくらい鬼じゃないですか。で、1年に2回しか更新しないというある意味益荒男ぶりを発揮していた僕に、沢山の辛辣なメールを送ってきたじゃないですか。忘れたとは言わせません。
「早く更新しろ、死ね」
「とにかく死ね」
「毎朝死ね」
「ちょっと大きい市の市役所の手続きみたいに淡々と事務的に死ね」
とか狂ったように送ってきたじゃないですか。どういうもん食って育ったらあまり知らない人に「死ね」なんて送れる子に育つのか分かりませんけど、さすがの僕も「死ねとは手厳しいですな、ゲハハハハ」と最初の頃は程よく反応してましたけど、そのうちメールを見なくなっちゃったんですわ。そりゃそうですわな、ある小部屋に入るとエンドレスで狂ったように死ねって言われるアトラクションがあったとしたらどうしますか。最初は面白がって入るかもしれませんけど、そのうち入らなくなりますよ。
Numeri経由で来るメールってのが大体、メールフォームからくるもので、そのメールフォームから来るメールには「Numeriメール」っていうタイトルがつくんですけど、数あるSPAMメールに紛れてくる「Numeriメール」という題名のメールがくるじゃないですか。そうするとまた死ねって言われるんじゃないかと恐ろしくてですね、「ヒィ!」とか奇声を上げて震え、布団をかぶって夕方まで寝てる、なんて状態が続いたんですよ。
そんなこんなでメールチェックすら恐ろしくてできない日々が続き、それでも一日に来る量が半端じゃないですから、数日メールチェックしないとメールボックスがパンクしちゃうんでメールチェックするじゃないですか。でもね、どうしてもメールフォームから来る「Numeriメール」だけは開けなかった。
でね、ついに先週、連続更新にて復活したわけなんですけど、それでもやっぱり怖いわけですよ。皆さんは僕のことをビッグスクーターにまたがって夜な夜な暴走族の頭蓋骨を叩き割って回ってる豪胆な男だと思ってるかもしれませんけど、本当は繊細でナイーブなんです。こう、連続更新を終えてもビクビクしてたわけですよ。
「テメー、1年も待たせてなんだあの更新は、死ね」
「連続でやればいいってもんじゃねえだろ、死ね」
「更新してんじゃねえよ、死ね」
「pato、さよなライオン」
「【拡散希望】大至急拡散してください!pato死ね!」
みたいなメールが山ほど来てて、もう身も心もズタボロにされるって恐れていたんです。もう怖くてメールチェックすらできなかった。絶対に連続更新を受けて発奮した鬼の子どもが狂ったように死ねメールを送ってきてると信じて疑わなかった。
けれどもね、やっぱメールチェックしないってわけにもいきませんから、おっかなびっくりな感じでメール受信をし、「きゃ!」とか乙女みたいな声を出しながらおそるおそるメールボックスを覗いてみたんです。
そしたらね、きてないんです。
そりゃあ「ムネダル人妻の不倫願望通信」みたいな意味の分からないスパムメールはアホみたいに来ているんですけど、なんだムネダル人妻って、で、その中に「Numeriメール」がないんです。もちろん、「Numeriメール」がないんですから「死ね!」なんていう鬼の子のメッセージもないんです。
これはね、皆の優しさだと思いましたね。もちろん皆さんも許せない思いがあったと思います。patoのヤロウやっと日記を書きやがったか、とか、なんだその内容は、とか、つまらん、お前の日記はつまらん、とか不満な部分は多々あったと思います。けれども、長いこと日記をお休みしていたんです。どんな人でもpatoの状態が著しく不安定なんじゃ?と心配になるはずです。そこであまり辛辣な言葉を投げかけたら大変なことになってしまうんじゃ…なんか、そんな皆の優しさが見えたようでした。
本当に皆さんは成長したものです。一昔前なら、街でpatoを見かけたら矢を放ってよい、なんてことが真剣に話されていたくらいですから、それから考えると大変な進歩。大きな一歩。このNumeriメールが全く来ないっては本当に皆さんの気遣いや優しさなんだと思います。
Numeri開設10年になろうかというこの時期に、初めて閲覧者さんの優しさに触れてしまい、戸惑いと同時に感動を覚えたのです。世の中ってのはやっぱり優しさでは構成されていないんだけど、それでもたまに触れる優しさがあるから生きていけるんです。
その優しさってのは、実は受け取るほうだけじゃなく与えるほうにも重大な役割を示すことがあります。以前、僕が職場で隔離されてる話は書いたと思います。広いオフィスに一つ机を置いてポツンと座り、インターネットの線すらきてないのでどっかの無線LANの電波を勝手に拝借して職場ネットワークに繋いでるのですが、その職場に同じく皆に嫌われているような女性が配属されてきたんですね。
まあ、この女性がブスでしてね、僕も人の容姿をとやかく言える立場にはないんですけど、とにかくブス。一応、僕の秘書みたいな感じになるのですが、他の秘書がついている同僚にはマドンナ古文みたいな女性があてがわれているのに対し、なぜか僕だけブス。それも男同士の絡みとかそういうマンガが好きそうなブス。美男子同士のラブシーンに「ムッハー!」とか言ってそうなブス。とにかくブス。
でもね、別にブスだとかそういうのいいじゃないですか。いい加減そういうのやめませんか。ブスだブスだと祭囃子のように囃し立て、自身の運営するサイトに書き連ねる、そんなことして何になるっていうんですか。もうそうんな時代じゃないんですよ。優しいインターネットの時代ですよ。
とにかく、ちょっと容姿が劣るその女性が秘書についたのはいいんですけど、こいつが色々と酷い。秘書のくせに全然仕事しない。いや、仕事しないのは僕も言えた義理じゃないんでいいんですけど、なんていうか明らかに反抗的過ぎて恐ろしい。秘書ってもっと色々と献身的にサポートする立場じゃないんですかって質問したくなるくらいに酷い。
「ちょっとお願いしたいんですけど、この書類を郵便で送っておいてもらえませんか?」
みたいに、僕が物凄く下手に出て媚びへつらってお願いするんですけど、
「今忙しいんで」
と断られる始末。忙しいという彼女のパソコンの画面には多分、ネットで公開されているボーイズラブ小説。そのうち彼女が「臓物が痛い」という良く分からない理由で三日に一度は休むようになり、「明日は大切な会議があるので休まないでくださいね」と僕が彼女のスケジュール管理をする始末。どっちが秘書なんだかわからない。
おまけに、どういった類の嫌がらせなのかちょっと理解できないんですけど、ある日、仕事場に行くと入口のところにデーンと「ペットの消臭元」が置かれてましてね。それも二個。「あんた臭い!」っていうアピール程度の嫌がらせなら我慢もできますけど「それもペットの臭い!」って部分が本当に傷ついた。さすがの僕もあまりに腹が立って「やなやつ!やなやつ!やなやつ!」とか憤慨しながら職場の廊下を歩く状態でした。
そんな感じで秘書との確執がシャレにならないレベルに達したある日、事件が起こりました。ちょうどその日は午後から出張で飛行機に乗らねばならず、空港へと向かうシャトルバスの時刻が知りたくなったのです。それで調べてもらおうと思ったのですが、残念ながら秘書の方はネイルを塗るとかなんとかで遅刻の様子。僕も別の仕事がありましたので「お忙しいところを申し訳ありませんが、シャトル便について調べておいてください」とメモを残していったんです。
で、2時間くらいして戻ってみると僕の顔を見てメモのことを思い出したらしく、いきなり調べだしたんですね。で、何かブツブツ言いながらパソコンに向かって検索してるっぽいんですけど明らかに「シャトルベン、シャトルベン」って言っておられるわけなんですわ。どんな検便だ。
明らかにシャトル便のことシャトルベンって読んでる事実に戸惑いつつ、じゃあ郵便とかはユウベンとか読むのかしら、便箋とかはベンセンなのかしら、とんでもないお人だ、などと悶々としていたら、二人しかいないオフィスにとんでもない音が響き渡ったのです。
プー
文字で書くとこうなっちゃうんですけど、現実にはもっとこう、生々しいというか、生命の息遣い的な感じというか、あえていうなら「プ」と「ブ」の中間みたいな音声がオフィスに響き渡ったんですよ。早い話がオナラです。
この事実を踏まえ、恐ろしいほどの頭の回転で推理するんですけど、オフィスに響き渡るオナラ、この部屋には二人しかいなかったという事実、そして僕はオナラをしていないという事実、それらを総合すると犯人が一人しかいないんです。そうです、犯人は彼女、秘書の彼女なんです。
もうこの事実に完全に狼狽してしまいましてね。いくら彼女がブス、じゃないや、少しだけ整形を必要とするような容姿の人、だと言いましてもね、ホモが活躍するマンガが好きだとしましてもね、20代前半のお嬢さんなわけなんですよ。そんな彼女が殿方の前でオナラをする、それがどれほどのことかわかりますか。
どうしようどうしよう、ここは「おやおや~、仕事はできないのにいっちょ前に放屁だけはする秘書さんがいるようですな~」とか「秘書さんがオナラという飛び道具とは恐れ入った、こりゃあ秘書じゃなくて飛車ですな!」とか「ロケットのようなオナラ!まさにシャトルベン!」とか徹底的に彼女を辱めることができる、小生意気な彼女を辱めることができる、などと発奮してしまいましてね、なぜかデスクに座ってハー!ハー!と荒い息遣いをしておりました。色々とギリギリchopと言わざるを得ない。
で、どうやって彼女を辱めるべきか考えていたんですけど、そこでふっと思ったんです。こうやって彼女を辱めることは簡単だ。でも、そうすることで憎しみの連鎖が起こるんじゃないか。憎しみとは悲しみだ。憎しみの連鎖は悲しみの連鎖しか起こさない。ここはその連鎖を優しさで食い止めるべきなんじゃないだろうか。
この世はいつだって憎しみと悲しみがリフレインしています。そんな中にあって、それを食い止めるのが優しさなのかもしれません。それこそがたまに見ることができる優しさなのでしょう。へへ、ちょっと紳士的にふるまってやるか。シャトルベンの時刻表を調べた彼女が、プリントアウトした紙を持ってこちらにやってきます。オナラをしてしまったという負い目からか、少し顔が赤く、目も合わせてくれません。そんなに恥ずかしがることはないよ。僕が優しさで包んであげよう。
「いやー、ごめんね、すごいオナラでちゃったよ。ちょっと出ちゃったしね!」
と、入学式の時におしっこを漏らした堀田君みたいなバツの悪い笑顔で言ってみました。ちょっと舌を出しておちゃめな感じで言ったくらいです。明らかに彼女がオナラしたんですけど、その罪を背負い、さらにはちょっと身が出たとまでカミングアウトする僕の優しさ。
やはり、彼女は僕の優しさに触れ、驚き、戸惑い、感動していました。なんだかその顔を見ていたらこれからこのこと上手くやっていけそうな、そんな気がしてきました。
彼女が入口に向かい、そこに置かれた二つのペット消臭元を手に取ります。たぶん、僕の優しさが心に響いて、私ったらなんであんな優しい人にこんな嫌味なことしちゃったんだろう、もう、バカバカって思ったに違いありません。やはり世の中、たまの優しさですよ。たまにだからこうやって人の心を動かし、すべてが良い方向に向かうのです。
と、思ったら、彼女、手に取ったペット消臭元をバンバンと二つ僕のデスクの上に置くじゃないですか。まるで、本当に僕がオナラをぶちかまして臭いのはテメーだ、と言わんばかりに!テメーはペット級の臭さだと言わんばかりに!こんのブス!
ツカツカと、まるで同じ部屋の上司がオナラをぶちかますセクハラ男でかわいそうなワタシとでも言わんばかりの後ろ姿で自らのデスクへと戻るブス。せっかくの優しさを踏みにじられ、ついでに罪まで被せられ心底落胆したのでした。
こうやって、優しさとは往々にして踏みにじられることがありますが、やはり常日頃からの優しさではなく、たまの優しさこそが人々に戸惑いを与え、感動を与え、行動を変えるのではないでしょうか。常に優しさが満ち溢れていたら、それが当たり前で何の効果もないのです。
ブスには届きませんでしたが、僕には皆さんの優しさ、辛辣なpato死ねなどのメールがメールフォームから届かない優しさに目が覚めました。やっぱpato死ねなんてそんな軽々しく言ってはいけない言葉ですよ。ホント、素晴らしい閲覧者さんたちだ。アナタたちは僕の誇りだ。などとNumeriのトップページを眺めながらウットリしていたら、リニューアルの際にメールフォームを付け忘れていることに気が付きました。
だから辛辣なメールが来なかったのか。ホント、メールフォーム付け忘れるとかpato死ね!
4/9 #21/誰かのために〜What can I do for someone?〜
ということで約24時間にわたってお送りしてきたリアルタイム連続更新。いかがだったでしょうか。日記自体書くのが半年振りで、ちょっといまいち調子を取り戻せない部分もありましたし、本当はAKBアルバム曲も全部タイトルにして更新しようと思ったのですが、思いのほか体力を消耗してシングル曲だけになってしまいました。アナルシティにいたっては続きすら書いてないですし。 何かと大変な昨今、特に東日本の人は、何か気分が落ち込んでいたり、すこし暗い感じになっていたりするかもしれません。そんな人が一連の更新を読んで、少しでも楽しい気分になっていただけたのなら嬉しいです。僕のような一人の人間ができることなどたかが知れてますし、本当にそれが誰かを楽しませているかはいささか疑問ですが、少しでも役に立っていたら幸いです。
今回、被災された方々や被災地の一日も早い復興を願ってやみません。そして、もし、戻ってきたとき、これを読んで少しでも楽しい気持ちになってくれたら、やってよかったなあって思います。いつも恥ずかしいので連続更新分は終わったらログ消すんですけど、今回はログを残しておきます。
今回の連続更新の間に回ったカウンターの数の分と広告収入分を日本赤十字社を通じて被災地に義援金として送金したいと思います。長時間にわたり、お付き合い頂きありがとうございました。次回からは通常の更新となります。
2011.04.09 Numeri pato
04/09 #20/Beginner
(ヤマ文明さんよりメール)連続更新となるともう恒例ですよね。いつもはフォントを弄らないpatoさんが思いっきりフォント弄って日記書いてください。お願いします。
ハッキリ言って、フォント弄りってムチャクチャ高等テクニックですからね。使い方を間違えると思いっきり寒い寒い、その寒さは平坦な文章の何倍にもなるっていうリスクがあるわけで、そのリスクを掻い潜って決まったときには何倍もの効果が得られる。ハイリスクハイリターン、それがフォント弄りてやつなんですよ。
つまり僕はそんな高等テクニック使いこなせないビギナーですから、手堅く平坦な文章を心がけています。しかしながら、こういう連続更新の際にはけっこう色々なことにチャレンジしやすいので、しっかりとフォントを弄って日記を書いてみたいと思います。
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この間、Numeriを読んでますっていう風俗嬢の方からメールをいただいたんです。風俗嬢ですよ。風俗嬢。
なんでも、いつも待機の時間にNumeriを読んでいて、すっごいpatoのファンで、もうモンモンとしてるらしいです。皆さん、これは一大事ですよ。
女性が悶々としている、皆さんは何で男がこの世に生れ落ちてきたかご存知ですか。女性を悶々とさせないためです。
でまあ、色々とその風俗嬢の方と会話するんですね、お店の名前とか場所、なんていう名前で働いているかみたいなことをそれとなく聞き出し、早速インタ~ネット検索。
なるほどなかなかセックスの武勲が高そうな女性が出てきました。こうなかなかジョイフルなおセックスを信条にしてそうな良さげな女性です。でまあ、そこで色々と風俗裏話みたいなのを聞いたんですけど、なんでもマナさんの店は待合室に監視カメラがついていて、その映像をプレイルームのテレビをチャンネル2に合わせることで見られるらしいんですわ。
で、そこで映像を見て、指名してきた客が知り合いだったり、あまりにキモい客だったりした場合は、店員にNGをだして、急に体調不良になったとか生理がきたとかいってキャンセルするらしいんですわ。でもさー客がずっと携帯電話とかみて俯いてたら顔とか分からないじゃんって指摘したら、そういう時は店員がおトイレ大丈夫ですかとかどうでもいいことを話しかけて顔を上げさせるらしいです。
そんな楽しい会話をかわしつつ、そろそろお仕事なのでってことでマナさんとの会話は終わったんですけど、マナさんが最後にメールを送ってきたんですよ。
あのですね、patoにこんなくと言ってはいけません。いけません。もう次の日には飛行機のチケットとってお店に予約の電話してしっかりマナさんを指名してました。
内緒で行って、いかがわしいことして、が終わった後にだって明かして、ついでにって頼もうと思ってたんです。
で、店に行って拘束痴漢コースってのをチョイスしてマナさんを指名。待合室で待ちながら携帯電話でマナさんとのメールのやり取りを眺めていたら店員に
とか言われました。どれだけ子ども扱いですか。大丈夫です。で、しばらく待っていたら、また店員がやってきて、衝撃の事実を告げられたのです。
「マナさん、前のお客さんが激しすぎて急に体調不良になりまして」
なんだ、せっかく来たのに、でも体調不良なら仕方ない、とラーメン食って帰りました。
おわり
04/09 #19/チャンスの順番
この間、twitterでこんな呟きを書いたんです。
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pato_numeri
出会い系サイトから色々な「人妻です…」とかアホみたいにメール来るんだけど、「犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。」ってメールが来て面食らった。中身開いてみたら「ワン!ワンワンワンワンワンワン!」って書いてあった。出会い系サイト来るところまで来ちまったな
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これが何故か好評でして、今見てみたら814人にリツイートってやつされてました。みんななにやってるんですか。
でまあ、単純にこのメールを変なメールだねって一笑に付すだけならそれでいいんですが、よく考えたら変じゃないですか。普通、出会い系サイトってもっと肉欲的な内容で訴えかけてくるというか、下半身に訴えかけてくるというか、おセックスのチャンスを訴えかけてくるもんじゃないですか。死ぬほどスパムメールが来る僕のメールボックスから代表的なのを抜粋しますけど
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彩愛 さん
タイトル:彩愛(あやめ)って言います。初めまして。
私はエステのマニアでエステだけの数千万は使いました。良く言われるので先に言っておきますが整形は一箇所もした事がありません。女磨きで私はエステに通ってるんです。男の人からエッチな目で見られるのが私にとって生き甲斐なんですよね。でもエッチな目で見られても尻軽と言う風には思われたくはないのでエッチはしたりはしないんです。かと言ってエッチは全然したくないって言う事では無いんですよね。周りの人にはずっと高嶺の花のままでいたいのでこう言う場所で裏のエッチな私を曝け出したいと思って登録をしたのです。カラカッサさんの前なら私の裏を曝け出しても良いですか?
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どうですか、これ。まずエステに数千万使ったという事実で金ならあるというアピール。で、エッチはすきだけ誰とでもするわけじゃないけどでも誰とでもしたいというわけの分からないこと言ってますが、こうやって金、セックスとガンガンに欲望に訴えかけてくるのが普通なんですよ。
しかし、この会社はおかしい、なんで犬からのメッセージが来てるんだってことで、ちょっと10万通以上に及ぶ僕のスパムメールフォルダーに検索をかけて、同じ会社から来ているメールを探してみたんです。
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森下香美さん(25)よりメールが届いています。
初めまして♪
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最初に来ているのがこのメールでした。どうやら最初こそはまともに騙すチャンスを狙っているサイトだったみたいです。
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◇琴乃さん(31)よりメールが届いています。
携帯電話の画面を見ながらずっと返事を待ってますが。。 5分だけでも会って話してみませんか?
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こんな感じでかなりスタンダードな感じのメッセージが沢山来ていました。それでも全然人が釣れなかったのか、次第にエスカレートしていきます。
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◇みるくさん(20)よりメールが届いています。
みるくがキターーー(゜∀゜)ーーーー!!!!!'( ゜д゜)ノ ヨロ
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こんな顔文字がうざったい感じのメッセージが来て、そろそろ何か異常な感じになってきます。で、
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全 智賢 "チョン・ジヒョン"さん(31)よりメールが届いています。
アニョハシムニカ?私、日本人ではないです。でも、出会い欲しいです。
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と訳の分からない方向へ。そして
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渡辺真奈美さん(25)よりメールが届いています。
血ぃ吸うたろか?
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なんともいえない感じに変化し、
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専業主婦☆53歳さん(53)よりメールが届いています。
子宮連絡を下さい。
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もう何が何やら。ムカつくことに、この専業主婦がシリーズになってて
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支給連絡を下さい。
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早く!死球連絡を下さい!!
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と立て続けに来ていました。お前絶対にわざとやってるだろ。
で、いよいよ何かがおかしいとなったその時、ついに冒頭の犬からメッセージが来ていたのです。
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。
ワン!ワンワンワンワンワンワン!
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腹が立つことにこれもシリーズで来ていて
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。
ワン!ワンワンワン?
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。
ワン。ワンワン(笑) ワンワンワンワンワンワンワン?
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。
ワッフゥ~ン。
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微妙に文面が変化しているのが本気でイライラする。とくに最後の喘ぎ声みたいなのが本当にイライラする。どうなってんだ、この会社は!って憤っていると、同じ会社からもっとすごいのが来ているのを発見してしまいました。
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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。
いい加減にしろ!この星を滅茶苦茶にしやがって!オメェたち、一体いくつの星を壊せば気がすむんだ!
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もう意味が分かりません。完全に頭がおかしくなっとる。というか、孫悟空さんが33歳だっての初めて知りましたし、男から来るとは思わなかった。もうどうなってんだこの会社って思いながらも、孫さんからは次々とメッセージが来ていて
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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。
やっぱどう考えてもこれしか…地球が助かる道は思い浮かばなかった。バイバイみんな!
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何故か決死の覚悟ですし、
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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。
クリリンのことか…クリリンのことか―――っ!!!!!
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何故か叫んでますし
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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。
これはクリリンのぶん!!
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何故か殴られました。
もう最近の出会い系サイトは本当に来るところまできちまったなーって思いつつ、最後に孫さんから来ていたメッセージを読むと
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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。
素晴らしい!ホラ、見て御覧なさい!ザーボンさん、ドドリアさん、こんなに綺麗な花火ですよ…
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それは孫悟空さんのセリフではありません。
04/09 #18/ヘビーローテーション
龍亜種(ドラゴンアッシュ)先生、ついにBL界に電撃参入!


04/09 #17/ポニーテールとシュシュ
ここ半年ぐらい職場でんぽ僕の扱いが酷いものになってて、色々な行事に参加させてもらえないとか、酷い陰口を叩かれるとか、これまでの酷い扱いにも幾分か慣れてきたんですけど、こうなんていうか、最低限みんな社会人としての自覚を持っていたというか、そりゃあプライベートの飲み会やイベントでは酷い扱い受けてますけど仕事上ではちゃんと扱ってもらえたんですよ。
やっぱみんな酷いけど社会人としての自覚はあるんだなって感じで、僕が渡した書類も汚物扱いせず、ちゃんと受け取ってもらえたんです。
けれども、この間、模様替えがありましてね、ちょうどその日、僕は肝臓が痛くて病院に行ってたんで休んでいたんですけど、次の日に行ってみるとしっかりと模様替えというか配置換えが終わってました。
で、どうなっていたかっていうと、僕ともう一人の女性だけ隣の部屋に移動させられてて、後はみんな元の部屋にいるみたいな鉄壁の布陣になっていて、僕がいる部屋がデスクしかなくてガラーンとしてて空調すら入らないっていう異常な状態なんですよ。
で、そこで仕事してると壁が薄いものですから隣の部屋から
「キャハハハ」
「ウフフ」
「今日、モツ鍋のおいしい店に…」
とか、すごくファニーでジョイフルな会話が漏れ聞こえてくるんです。いやいや、いい年ぶっこいて仲間外れにされた、とか仲間に入れてほしいとかは言わないですよ。ただね、明らかに隣から漏れ聞こえてくる会話からは、オフィスから嫌われ者を排除して楽しくやってます、みたいな彼らの精神構造がすごく嫌なんですよ。
でまあ、ガラーンとした部屋で仕事してるんですけど、もうひとり排除されちゃった女の人のデスクが僕の前にあって、その人が、けっこう良い年齢で僕と同年代くらいで何故か毎日ポニーテールしてるんですけど。なんかすげえいつも怒っていて、絡みづらいっていう理由で皆から嫌われているみたいなんですよね。そんな理由で嫌うなんて子供かって思いますし、はっきり言ってそれってイジメですから、とか思うんですけど、とにかく、なぜかこのポニーテールと二人っきりの部屋で仕事しなきゃいけない状況になっちゃったんです。
でまあ、いちおう、僕がそのポニーテールの上司みたいな立ち位置になるみたいで、色々と指示しなきゃいけないんですけど
「申し訳ないんだけど、○○を明日までにやっといてくれるかな」
とかすごい丁寧にお願いするんだけど、返事すらしない。返事しなくてもやることやってくれたら別にいいんですけど、次の日になってもカケラすらやってない状態。僕あまり怒るのとか苦言を呈したりするのが苦手なんですけど、
「だめだよ、そういうのは。ちゃんとやって欲しいなあ」
みたいなことをヤンワリというと、マジで、本気で聞こえるようにですね
「ち」
っていうんですよ。本気で。たった一文字でここまで人の心を折ることができるってなかなかいないですよ。
さすがの僕もこのままじゃイカンと思いましてね、なんとか打ち解け合わないと同じ部屋にいるのが苦痛で仕方ないので、なんとか普通に会話できないか、何かとっかかりはないものかと苦慮していたんです。こういう時って人間は自分の好きなもの話題ってのが心を開くキッカケになりやすいものです。何かポニーテールが好きなものはないだろうかと観察していると、たまに持ってくるポーチみたいなものにバッヂがついているのを発見したんですね。
あのバッヂなんだろうって色々と調べてみたら、どうやら「嵐」のコンサートで買えるバッヂみたいなんですね。さらに調べてみると、嵐のグッズって本当に入手が大変で、ファンクラブ会員でも入手困難なチケットを入手してコンサートに行き、さらに3時間ぐらい並ばないと入手できないみたいなんですね。それをもってるってことはポニーテールさんかなりの嵐好きであると思われるんです。
こりゃあ嵐の話題で打ち解けあうしかないなって思って仕事の合間に話を振ってみたんです。
「あのさあ、この間GANTZを観にいったんだけど、ニノの演技が上手だったよ~」
みたいな感じで、まずニノを褒め称える感じで切り出してみたんです。そしたらアンタ。
「軽々しくニノって呼ばないでくうださい!」
みたいに大声で怒鳴られましてね、バシュバシュバシュって僕の顔面に唾がかかるくらいの勢いで怒鳴られちゃったんですよ。で、そのまま
「気分悪いんで今日は帰らせてもらいまっす!」
みたいなこと怒鳴って、ドカンって感じでドア閉めて出ていっちゃったんです。あまりの怒号に隣の部屋の皆が様子を見に来て、何故か僕がオッパイ揉もうとして拒否されたみたいな話で落ち着いてました。
もうなんだかどうでもいい感じになっちゃいましてね。嫌われる人には嫌われるなりの理由があるんだなあ、僕もそうなんだろうなあって思いながらポニーテールさんと打ち解けるのをあきらめたんです。そうすると、もう、彼女の行動の全てが腹が立っちゃいましてね、僕だってあまり真面目に仕事するほうじゃないんですけど、彼女が全然仕事してないことに気がつくんです。
僕がバンってドア開けて部屋に入ってくると、まるで何かを隠すかのようにサッとパソコン画面上の何かを隠すんですよね。それこそ毎回。トイレ行っても飯食って帰ってきてもジュース買ってきて帰ってきても、毎回、サッて何らかのウィンドウを隠すんですよ。僕別に仕事中にインターネット見たりしたって怒らないですよ。なのに毎回毎回サッて隠されると気になるじゃないですか。それに何かコソコソ隠されるとあまり気分が良いもんじゃない。
もうね腹が立って、すごいむかついて、一体何を見てるんだって気になっちゃっいましてね、すげえ音もなく忍の感覚でコッソリと部屋に入ってみたんです。で、こそーっと近づいて、真剣に何かを見ているポニーテールさんのポニーテール越しにパソコンの画面を覗き込んだんです。
うん、Numeri読んでた。
正確にはそのときNumeriにはログがない状態で再構築中だったんで転載しているサイトでしたけど、とにかくNumeri読んでた。
なんだよ、カワイイやつじゃねえかよ。
隣の部屋から聞こえてくる楽しげな談笑を尻目に、こっちはもっと面白いことになってきた、今度Numeriの話を振ってみることにしよう。
04/09 #16/桜の栞
「しおりー、どう?最近は?」
頭の悪そうな女の声が狭苦しい蕎麦屋の中に響いた。この寂れた駅前の蕎麦屋は僕のお気に入りで、汚い店内に汚い器、無愛想な親父に、それ以上に無愛想なガングロギャルのアルバイト、それら全ての事象を超越して出てくる蕎麦がマズいというとんでもない店だ。
蕎麦屋なのに蕎麦がまずいっていう事実は別にそれほど気にならなく、例えば女子高生なのにブス、AV女優なのにセックスに消極的、サイト管理人なのに1年に2回しか更新しない、こんなことこの腐敗した世界に溢れている。蕎麦屋の蕎麦がまずいくらいなんだ。
それどころか、こういった小春日和の日、吹き付ける風もどことなく南国の匂いを含んでいて心地よいこんな日には無性にまずい蕎麦が食べたくなる。あのまずい蕎麦を一気に流し込み吐きそうな気持ちになりたくなる。
そんな感じでまた今日もフラリと蕎麦屋に立ち寄り、いつもお決まりのカウンター席の端に座り、ギャル店員に蕎麦を注文した。ギャル店員は、なにか身内でも亡くしたのかと思うほどに無愛想で、冷や水の入ったコップを激しく叩きつけると返事もせずに店の奥へと消えた。
ふう、と一息つくと冒頭の頭の悪そうな声が聞こえてきた。こんなまずい蕎麦屋に客がいること自体珍しいのだが、それ以上に珍しかったのが、声の主が多人数の若者グループだったことだ。若者が多数集まって蕎麦屋というのがあまり理解できない。それこそもっと集まりやすいファーストフードとかに集まるべきなんじゃないかと思うが、何も蕎麦屋、それもこんなまずい店に来なくてもいいじゃないか、などとまるで自分の聖域を侵されたような気分に浸っていた。
若者たちは、大学生だろうか、10人ほどのグループで男子7人の3人の女子、その女子の内訳は、ブス、ややブス、なんかやけに仲間意識が高くて他の女子がちょっと男の子と良い感じになりかけてるのに「ちょっとー、よし子はそういうの苦手なんだからね、手出したら承知しないよ!」ってお前に何の権利があるんだよって感じの、気が強い風の姉御肌な自分を演出しているうざったいブス、の三人でした。
でまあ、ブスなのは別に良いんですけど、こうなんていうんですかね、非常に仲の良い男女混合グループを見てると、こいつらグループ内でおセックスしまくってるんだろうなーっていうAAAを見てる時みたいな侘しい気持ちが湧き上がってくるのですが、そんなんも別の良くて、問題は彼らかが会話している内容でした。
世の中には、ここでこんな会話をするなよっていう感じのTPOをわきまえない会話をする人って多くて、カレー屋でカレー食ってる横でオバさんが老人介護疲れの話をしていて老人オムツがウンコまみれ!みたいな話をドヤ顔でしていた時はどうしようかと思ったんですけど、こうなんていうんですかね、件の若者たち、そういったTPOを超越してて、そもそも蕎麦屋でする話じゃないとか以前に人間としてどうなのって感じの会話をしていたんです。
「どう、しおり、最近は?何も感じない?」
とか、ブスがブスに話しかけているんです。ややこしいので、ちょっとおセックスはご遠慮したいブス、と僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのブス、と呼ぶことにしますけど、どうやら酔っていたらやれるレベルのブスは「しおり」っていう名前らしいんですね。で、何を感じる感じないっていう話なのか、アナルでもオーガズムに達するかみたいな会話かとも思ったんですが、どうやら話を聞いているとそんなかわいいレベルのお話じゃない。
「でもまじすげえよな!」
みたいな、「しおり」の対面に座るヒップホップ風の男性が囃し立てます。
「最初まじびびったもんよー」
続けて、ヒップホップの隣に座るヒップホップ系の男性が続きます。ややこしいのでちょっとおセックスはご遠慮したいヒップホップ、と僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのヒップホップって呼びますけど、その二人がしきりに「しおり」を褒めちぎり他の男性もそれに続くみたいな状態になってました。
で、そんだけ騒がれる「しおり」の能力とは一体何なのか気になっちゃいましてね、クソまずい蕎麦をすすりながら何事かと聞き耳をたてていたんです。果たして「しおり」の能力やいかに。
「でもすげえよなー、人の死を感じられる能力ってー」
もうね、すすってた蕎麦を吹き出しましたからね。まさかこの現世に生きていて「人の死を感じられる能力」って言葉を聞けるとは思わなかった。で、明らかに色々とおかしいんですけど、どうやら「しおり」には人の死を感じることができる能力があって、周りの連中もそれを信じている様子。もう、彼らの席に移動して根掘り葉掘り話を聞きたいんですけど、そういうわけにもいきません。
「しばらくは大丈夫だと思う。悪い感じはしないから」
みたいなことを「しおり」がキルビルみたいな表情して言うわけですよ。悪い感じもクソもねーよとか思うんですけど、連中は盛り上がって、○○が死んだ時も…みたいな話をしてました。どうも知り合いの○○が死んだ時も「しおり」が悪い感じがするとか言ってあらかじめその死を予言していたみたいで、それをキッカケに皆が信じるようになった風な感じでした。
そんなもん、「しおり」が殺したんだろう、どうでもいいからオッパイ出せよ、とか思うんですけど、そんなこと言って「あなた悪い感じがする。もうすぐ死ぬわね」とか言われたら嫌なんで大人しく汁を飲んでいたんですけど、そうすると僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのヒップホップが言うんですよ。
「でもさ、俺らもそういう力欲しくね?マジ欲しくね?」
みたいな、よく分からんこと言ってるんですよ。でもまあ、そういう力に憧れるっていうのは分からなくもなく、人の死を感じることができる能力って漫画とかに結構ありそうで、「MAYA 真夜中の少女」って漫画なんかまさにそれで、人の死を予知することができるMAYAが、その死の運命と戦って人々を救っていくっていうストーリーで、最後のほうは超能力バトルみたいになって訳分からんことになってた漫画ですけど、そういうのってけっこうありふれていると思うんですよね。いやいや、死を感知する能力がありふれてたら困るんですけど、こう、漫画の中でよくあるみたいなニュアンスだと思ってください。
で、僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのヒップホップの気持ちも分かるんですよ。誰だって漫画みたいな能力を持った自分に憧れる面があるじゃないですか。普通ならありえないような能力。ちなみに、僕はデスノートって漫画が出た辺りからセックスノートっていう存在に憧れていて、そこに名前を書かれた人間は僕とセックスする、みたいな能力に憧れてるんですけど、みんなだってきっと似たような憧れってあると思うんですよ。
でも、その僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのヒップホップの憧れ発言を受けていい気になっちゃった「しおり」は言うわけですよ。
「でも、やだよう、こんな能力(ちからと読んでいた)、悲しいよ、人の死が見えちゃうなんて」
とか泣きそうになりながら言うてるわけですよ。いやいや、人の死は見えないでしょ、○○クンだって君がやっちゃったでしょ?とか思うんですけど、その涙に一同は消沈ムード、変なこと言いやがってみたいな険悪な思いが僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのヒップホップに向けられているのがヒシヒシと伝わってきました。
なんでみんな、こんな「しおり」みたいねめんどくせえ女と友達付き合いしてるんだろって素朴な疑問が湧き上がってきて、いよいよ、僕も混じって話し合いたいとか思ったんですけど、そんなこと言って「あなた悪い感じがする。5分後に死ぬわね」とか言われたら嫌なんで大人しくしてました。
「たしかに、死って悲しいよね…」
とか、普通の人なら小学校2年あたりで気付いてそうなことをウザそうなブスが言ってました。
「死じゃなくて生だったらいいのに」
しおりが堪らなさそうに言い放った。生と死は表裏一体の存在、その裏側を意味する死、不幸にもどこかに落とされる死を感じられる能力なんていらない。どこかに落とされる生を、命を感じることができる能力だったら良かったのに。そんな「しおり」の苦しみや悲しみが推察できる言葉だった。ホント、この女うざったい。絶対○○クンを殺したのはお前だ。
「死を予測できる能力じゃなくて、生を予測できる能力か。確かに前向きかもね」
「わたしがんばる。絶対に死だけじゃなくて生も予知できるようにしてみせる」
「俺たちも応援するよ」
「がんばって生を予知できるようになろ!」
みたいな、お涙頂戴物語になってました。なんかよく分からないですけど、絶対に「しおり」は○○クンを殺したと思います。
でまあ、色々と納得したみたいで若者たちは帰っていったので、僕も会計を済ませて帰路に着きます。駅前の少し賑やかな通りを歩きながら、死ではなく生を予感する能力か、とか考えていたら、不思議なことが起きました。
「見える!見えるぞ!」
なんと、僕にも予知が見えるのです。それもあの若者たちが欲した生を予知する能力が。こりゃあ「しおり」と超能力バトルだな!とか思えるほど、本当に道行く人の生が予感できるのです。
「あ、この人から命が生まれるな」
ホント、お腹の大きい妊婦さんを見ると、生を予感できるのです。って当たり前じゃねえか。
よくよく考えたら、生を予感する能力って超能力でもなんでもない。あの若者たちは真剣な顔して何を話してるんだ。って思うんですけど、まずい蕎麦と同じで、そういった馬鹿な会話も無性に聞きたくなるときがある。また来週、この時間に蕎麦屋に行こう。彼らに会えるかもしれない。と思いながら駅前通りを歩くのでした。でも、絶対にしおりは○○クンを殺ってる。
04/09 #15/Baby! Baby! Baby! Baby!
この間、嬉し恥ずかし引越しをしたってのは前にも述べました。乳幼児の頭部以外何が出てきても驚きもしないという汚い部屋、それも二つも引き払って不動産屋に激しく心をレイプされた、なんとも切ないお話でしたね。
では、今度は新しいお部屋、つまり引っ越した先のお話でもしましょうか。ちょっと前の時間に遡るのですが、最近は本当にネットが普及して本当に便利になったもので、もはやネットを介してやれないことってないんじゃないかって勢いですよね。当然ながら引越しもネットでできるようになってて、そりゃネットワーク回線を通して引越しするわけじゃないですけど、引越しの見積もりや申し込みがネットで簡単にできちゃうんですよね。
で、なんか30社くらいの引越し業者から一斉に見積もりを取ることができる、みたいなサイトに申し込んでみたんですけど、もう、とにかく凄い。申し込んだ瞬間から狂ったように各社からの見積もりメールが届く、別にそれ自体は見積もり申し込んでるんで別に良いんですけど、何社かはその見積もりが半端ない。
「もう他の会社にきまっちゃいましたか?」
「まだまだ諦めません。チャンスをください」
「他社に決めた場合でもその見積額を教えてください。それより安くします!」
とかしつこいくらいにガンガンメールですよ。別れた女にしつこく迫る男みたいな鬼気迫るもんがあるんですよ。かと思ったら家に家具とかの通販のカタログが狂ったように届くし、一気にカオスな状態になっちゃってるんです。
でまあ、僕って本当に物を持たない主義の人ですから、家にあるものってテレビ、冷蔵庫、洗濯機、テーブル、布団、自転車、プレステ3、パソコン、AKB1/48 アイドルと恋したら・・・オークション出品不可プレミアムボックス、くらいですから、まあ、引越しといっても単身パックっていうんですか、あれで済んじゃう可能性が高いんですよね。
そんな感じで、とある大手引越し社の見積もりを参考に問い合わせたところ、どうやら単身パックでは自転車が入らないみたいでした。この自転車を捨てて引っ越した先で新たに買うってのも考えてたのですが、色々と楽しかったことや辛かったことを一緒に経験してきた自転車を捨てるってのが納得いかず、なんとか引越し先に持っていかねばならない、と考えたのでした。
でまあ、熱烈に何度も「是非ともわが社に!」ってメールをくれる業者にメールを出して問い合わせをしてみました。聞いたこともないような名前の引越し社だったんですけど、それこそ藁にもすがる思いでメールしたのです。
「大手の○○さんに問い合わせたら単身パックで○○円の見積もりでした。けれども自転車が運べないとのことだったんですが、貴社では大丈夫ですか?」
みたいなメール出したんです。そしたらさすがに熱烈にメールくれた会社だけあって
「大丈夫っす!」
というお返事がすぐに来ました。いやいや、大丈夫っすじゃねえよ、もっと詳細に色々と説明しろよって思うんですけど、まあ、とにかく熱意はあるんだろうとこの会社に決定、さらに問い合わせメールをします。
単身パック的なお得なサービスはあるのか?値段はどれくらいか?梱包はどの程度すればいいのか?本当に自転車も運べるのか?どの程度の荷物を単身パックに入れれるのか?みたいなことを問い合わせたと思います。
それに関してもすぐに返事のメールが来て、
「大丈夫っす!単身パックあります!値段も大丈夫っす!大手の○○さんよりおやすくします!梱包も小物をダンボールに入れる程度で大丈夫っす!自転車も大丈夫っす!荷物いっぱい大丈夫っす!」
と凄い不安になってくる返事。なんで大丈夫っす!しか言わないのか。というか、そういう返信をするAIとかじゃないだろうか。とにかく大丈夫って言ってるんだろうから大丈夫なんだろう、なんとかなるかって思いながら、ついに引越しの日を迎えました。
朝の九時にやってくるとのことだったのですが、まあ、時間に遅れてきますわな。どれくらい遅れてきたかって言うときたのが夕方の4時ですからね。もう遅れすぎてて、最初から4時の約束だったんじゃって錯覚するほどです。
やってきたのは明らかにバイトっぽい二人組みだったんですけど、もってきた単身パック、この中に荷物入れろよっていう箱が明らかに小さい。どう考えても小さい。大丈夫っす!が聞いて呆れるほどに小さい。
で、バイト二人がゴリゴリと単身パックに荷物を詰めていくんですけど、冷蔵庫や洗濯機を入れた時点でかなり厳しくて、布団とか入れたらパンパンになってしまった。まだ用意した荷物の半分も入ってない事実に驚愕し、しかたないので追加料金でもう一個の単身パックを追加、ダブル単身パックというダブルなのかシングルなのかよく分からない状態で料金が二倍、結局、最初の大手より全然高かった。
で、なんとか無理やり荷物を詰めたんですけど、どうやっても自転車が入らないご様子。自転車ってけっこう縦にでかいものじゃないですか。だからどうやっても物理的に単身パックには入らなくてですね、もともと単身パックでは自転車の積み込みはお断りしていて、どうしても運ぶなら別料金で別送という形になるとのこと。もうここまでのメールと話が違うと潔さすら感じてしまう。なにが「大丈夫っす!」だ。それを言ったアイツの気持ちが分からんわ。
「自転車どうします?」
っていうバイトの顔が異様にムカついてですね、ただでさえ料金2倍で腹立ってるのにさらに自転車別送で別料金でふざけんなって思ってですね、もう腹が立って腹が立って、それじゃあ、自転車が縦長で占有面積が大きくなければいいんだろってことで、そのばで自転車バラしてやりました。
世の中にはバラすことを前提とした高級自転車ってあるみたいなんですけど、僕の自転車ってもちろんそんなことなくって、ただの自転車なんですけど、工具使って思いっきりばらしてやった。そした一番大きい部品ってタイヤで、全部の部品がダンボールに収まっちゃったんで、そのまま単身パックに突っ込んでやりました。
数日後、引越し先の新居に荷物が届いたんですけど、これがまた酷い。出発のときはアルバイト二人で積み込んでましたけど、到着の積み下ろしはニート上がりみたいな青年が一人。ハーハーと息を荒げながら一人で冷蔵庫とかエレベーターのないアパートの三階まで運んでました。さすがに可哀想なんで手伝ってあげたんですけど、引越し荷物の扱いが悪かったのか、明らかにどこかにぶつけた傷を伴って32インチ液晶テレビの画面が割れていました。まあこれはまた別の機会にでも。
とにかく新居に引っ越したので最初にすべきことは付近の探索です。近くにコンビニあるのかな?便利なディスカウントショップとかあるのかな?おいしいラーメン屋があるといいな、近所に下着を干す女子大生が住んでるといいな、みたいなことを考えて探索するじゃないですか。そうなると自転車が必要でしょう。
早速ダンボールから出して、アパートの前で自転車を組み立てます。もともとバラすことを想定してない自転車なんで、すごいネジとか回すのが困難で、どうなってたか良く覚えてないんで組みあがっても3本くらいネジが余ったんですけど、なんとか自転車も復活。周囲の探索に行きます。
新しい町での春の風は心地よく、自転車で疾走しながら、前の町では散々で、引越しすら微妙な詐欺にあった感じで、おまけに敷金で足りなかった修繕費が恐ろしいなどと良いことなんて全然なかったんだけど、この街ではいいことありそう。
なにかグラグラする自転車に不安を覚えつつ、この街の繁華街みたいな場所に到着。けっこう栄えていて、おいしそうなラーメン屋もありご機嫌な感じ、さっそうと繁華街を駆け抜けていきます。ちょっと信号待ちで休憩、ちょっと疲れちゃったなって感じで一息つきながら信号待ちしていると、向こう側で信号待ちしている女子高生軍団が、あきらかにこっちを見ながら話をしているじゃないですか。明らかに僕のことを話しちゃってるじゃないですか。
「ね、ね、あの人かっこよくない?」
「またまた、アキったら、トクイだねー。イケメンに目がないねー」
「まあ、確かに向井理っぽいね」
「だよねー超カッコイイ」
とか会話しているに違いありません。まいったなー、逆ナンされるんじゃねえかな。でも女子高生ってことは条例に引っかかるからな、ここは毅然と大人として断らないとな。とか考えていると、信号が青に変わりました。
よし、あの女子高生軍団に逆ナンされても不埒な関係にはならないぞ、ピュアに付き合うんだって決心しながら自分の中で一番男前であろう顔をしながら自転車を漕ぎました、その瞬間ですよ。
パカン
ほんと、誇張でもなんでもなくて、本当にそんな音がして自転車がバラバラに。本当に、デスマスクに逆らってゴールドクロスが脱げたときみたいな感じで、掛け値なしに自転車がバラバラになったんです。信じられない。
一瞬、僕も宙に浮いた感じになったんですけど、横断歩道の真ん中で自転車の部品ばらまいて豪快にこける僕。 完全に顔面から突っ込んで、大変なことになってた。優しいことに女子高生が駆け寄ってきてくれて、「大丈夫ですか?」とか言ってくれるんですけど、なんか凄い恥ずかしくて、「大丈夫っす!」とか言って泣きながら自転車の部品拾い集めてた。なるほど、あいつはこんな気持ちで大丈夫っすって言ってたのか。
とにかく顔から凄い血が出るわ、自転車はバラバラだわで、仕方ないので近くに自転車屋に事情を話して、全ての部品を捨てて帰ってきた。この街でもいいことなんて全然なさそうだ。全然大丈夫っすじゃない。
04/09 #14/RIVER
ちょっと前からすごく肝臓が痛くてですね、あまりにキリキリ痛むものですから病院に行ったんですよ。なんかとんでもない難病だったら嫌だなって思いつつ、まあ僕そんなにお酒飲まないんで大丈夫だろうと余裕ぶっこいて検査に向かったんですよ。
僕の住んでる地域って、でかい総合病院って少ないんですけどその代わり小さい病院がむちゃくちゃ多いんですね。それも明らかに第一線を退いたみたいな爺さん医師が切り盛りしてるみたいな、おいおい、診察が必要なのはどっちですかな?みたいな感じになる病院がむちゃくちゃ多いんですよ。
そりゃあご年配の医師のほうが意識さえしっかりしてれば経験豊富ですからその辺の青びょうたんみたいな医師よりは頼りになるんでしょうけど、それはしっかりしていたらの話で、大抵の場合はヨボヨボでボケていて、治療されてるんだかこっちが介護してるんだか訳わからない状況になるんですよね。
そういう時って看護師さんが肝っ玉母さんみたいにしっかりしてて治療を切り盛りしてたりするんで、もう肝っ玉母さんが治療しろよって思うんですが、やっぱりボケた老人に治療されちゃうんですよね。出される薬も本当に効果あるのか分かったもんじゃありません。世間一般で言うヤブ医者ってやつなんでしょうけど、そんな病院に行って来たときのお話です。
最近ではインターネットが発達し、あそこの病院いいですよ?とかあそこは待ち時間が長い!みたいな病院の意見を交換しているサイトがあるんですけど、そういうのばっかり参考にしていたら無料案内所でいつまでたっても行く店を決められない人みたいな状態になっちゃいますので全く参考にしません。適当に道路を走っていて目に付いた病院に入ります。さすがに肝臓が痛いのに肛門科とかに行っちゃったらアレなので、その際には診療科だけはチェックします。
なかなか小奇麗な構えの建物に入り、思いっきり婚期を逃したみたいなオバさんが仁王立ちする受付に行きます。保険証を出して何か紙に記入し、「今日はどうしましたー?」っていうオバちゃんの問いかけに「肝臓が痛くてー」とカミングアウト。すると紙コップを渡されました。
「これにおしっことってきてくださーい」
いきなりおしっことは豪気な話ですのーとか思いながらトイレに行くと、きちんと採尿に特化したトイレになっていて、構造的にすごいおしっこをコップに入れやすいんですよ。しかも、おしっことれたぞー!ってわざわざ持っていく必要もなくて、トイレの横にある小窓において置くだけで提出したことになるっていうひどく画期的なシステムになってるんです。
早速、コップに並々いっぱい、表面張力でのせめぎあいのレベルまでおしっこを入れて小窓に提出したんですけど、そこには先客のおしっこが置いてあったんですね。それがもうコップの底にちょこんとおしっこが入ってるレベルで、しかも何をどうやったら検尿に入るのか知りませんけど、コップの底にチン毛が沈降していました。
「け、そんな量じゃ検尿とはいえないぜ!」
と少ない先客の尿を見ながら何やら誇らしげな気持ちになってると、バタンって僕のコップが倒れてベローって尿がこぼれていきました。慌ててコップを立て直すんですけど、ほとんどが流出していて先客のより少ない量になってました。
まあ、こぼしたのは見なかったことにして、ちょっとでも尿があるしまあいいかと思い「危ない危ない」とか福田和子みたいなこと口ずさみながらトイレを後にしました。
待合所みたいな場所で椅子に座って女性セブンみたいな雑誌を見ながら待っていてると、お局さんに呼ばれました。やれやれ、やっと診察かと立ち上がろうとすると
「アンタ、おしっここぼしたでしょ!」
みたいな感じでムチャクチャ怒られちゃって、そんな前の客なんて尿にチン毛入ってたじゃんかとか思いつつ、妙にバツの悪い思いをしながら診察室へと向かったのでした。
診察室に入ると、やはりというかビンゴと言うか、どう考えてもお前の方が先に死ぬだろって感じの爺さんがちょこんと鎮座しておられました。本当に大丈夫かいなって思いながら座ると、爺さんは何やらパソコンを見ながら悶々としている様子。
電子カルテっていうんでしょうか。爺さんのクセにしっかりパソコンを使いこなしててやるじゃんとか思いながら画面を覗き込むと右下に「コンピューターのセキュリティが不完全です」みたいな警告が出てました。ちゃんとセキュリティしてください。
で、いよいよ診察と言うか問診と言うか、そういった類のものが始まるんですけど、これがまたビックリするぐらい老人が何を言ってるのか分からない。
「フガヘガモガ」
みたいな喋り方するもんだから
「はい?」
とか聞き返すんですけど、
「フガヘガモガ」
と言いなおされるんで全く意味が分からない。どうしたもんかと困ってると、見かねた看護師さんが通訳してくれました。
「今日はどうしましたー?」
それならそうと早く言えよと思いつつ、肝臓が痛いことをカミングアウト。するとね、老人が怒り出したんですよ。何言ってるんだか分からないんですけど、烈火のごとく怒り出したんです。
いやね、僕も34年も生きていまして、それなりに色々と怒られてきたもんですよ。そりゃ理不尽に怒られることもありましたし、納得できなくて悔し涙を流したこともありました。けれどもね、やはり怒られる時ってそれなりに理由があって、たとえそれが納得できないとしても、何か理由って分かるじゃないですか。けれどもね、肝臓が痛いってカミングアウトして怒られることだけは理解できない。本気で理解できない。
で、凄い新発見だったんですけど、この老人、ノーマル状態では何言ってるのか分からないんですけど、怒ってくると何言ってるんだか結構分かるようになってくるんですよ。
「何か心当たりはないか?」
みたいなこと怒りながら言ってるんです。肝臓が痛いのに心当たりってよく分からないんですけど、ストレスとかそういうのも心当たりになるのかしら、とか思って
「ストレスからってことですかね?」
とかって言うと、
「どんなストレスだ」
ってこれまた怒りながら言うんです。意味不明に怒ってるあんたがストレスだよ、って言いたかったんですけど言えず、おまけに最近FC2っていうエロ動画サイトが皆が利用するようになっちゃったもんだから異様に重いのがストレスだ、なんて本当のことも言えず、
「いや、ちょっと、色々と」
みたいな感じで適当にはぐらかしていると、なんかさらに怒り出してクドクドと説教ですよ。最近の若い者はみたいな定番の説教なんですけど、僕別に若くないんですけどとか遮ってさらに怒られても嫌なんで、黙って聞いてるんですけど、そうなると爺さんがヒートアップして止まらないご様子。
「なんでもかんでもすぐインターネットだ何だ」
とか、昨今のネット社会に対する対する批判も忘れない。っていうかそれを僕に怒られても困る。っていうかパソコンのセキュリティちゃんとしてください。もう何で怒られてるのか意味が分からない状態になっちゃって、それでも老人はヒートアップ、たぶん、最近の若者は知識がないパッパラパーだって言いたかったんでしょう、
「何か古い言葉を言ってみろ!」
みたいに要求されましてね。たぶん不惜身命とか四字熟語的な古い言葉を要求されてて、それが言えないで困る僕を見てさらに怒ろうと画策したんでしょうけど、ずっとネットのことで怒っていらしたんです、ネットの世界で使われていた古い言葉を要求されたのだと勘違いしちゃって
「お礼は三行以上」
とか訳わからないこと言ってました。さすがにこれは僕がキチガイ過ぎる。老人も、後ろのほうで作業しながら聞いていた看護師さんも、僕も、何か動きが止まってしまいましたからね。
結局、特に診察とか治療とかなく、怒られただけで診察は終了。今となっては尿を採取した意味もわかりません。けれども、ちゃんと診察料3000円くらい取られて、3種類くらい薬も出されるというマジックに困惑しつつ、痛む肝臓を抱えて家に帰りました。
ちなみに、帰り際に受付で金払ったときに、きちんと三行以上でお礼を言っておきました。
04/09 #13/言い訳Maybe
(#8)の続き
ついに開演となったAKB48研究生公演。なんかAKB劇場って狭いし、意味わからんとこに柱が二本あって邪魔だし、とてもじゃないが劇場の体を成していないチープさで面食らったんですけど、いざ始まってみるとその熱気がすごい。
何の熱気かと言うと、決してクレイジーに舞い踊るオタどもの熱気ではなく、ステージの上で舞い踊る研究生の熱気がすごい。まだ年齢だってすごい若いのに、自分の中で決して譲れない思うところってのがあって、それのために一生懸命努力しているのが伝わってくる熱気があった。正直に言うと、研究生公演を心のどこかで舐めていた部分があったのだけど、完全に気押されていた。
そんなすごい彼女たちの純粋でピュアで真っ直ぐな姿を、会場後ろで立ち見状態で見ていた。いや、立ち見状態ですらなく、もうギュウギュウ詰めで、前後左右にオタがひしめき合った満員電車状態でみていた。本気で一歩も身動きできないレベルでギュウギュウ詰めになって公演をみていた。
たぶん感覚的に2時間くらいの公演だったと思うけど、その半分の1時間が過ぎた時、異変が起こった。いや異変と呼ぶにはあまりに恒例で、僕にとってありきたりな事象が巻き起こった。
「ウンコしたい」
どうにもこうにも、このパンパンに詰まった状態では身動きできずトイレに行けそうがない。むしろ、トイレのために外に出たらそのまま再入場は不可です、くらいのことは言われかねない。やべえ、ここでウンコしたくなったら困るな、って考え始めたら本当にウンコしたくなってしまった。
ウンコしたい、ウンコしたい、本気でウンコしたい。
ステージ上では「100メートルコンビニ」っていう名曲が演じられているんですけど、それすらも「100mウンコ」にしか聞こえないくらいウンコがしたい。かといって、彼女たちが頑張ってる姿をもっと見たいし。物凄い葛藤がグルグルと僕の頭の中を回っていたんです。
で、出した結論がウンコはいつだってできる。けれども彼女たちのこの輝きは今しか見ることができない。明日にはもう彼女たちは違う輝きを放っているだろう。ということでとにかくウンコを我慢することに。っていうか身動きできないから我慢することしかできないんですけど。
演目も進み、いよいよ最後の曲となりました。なんだか寂しい気持ちと、やっとウンコができるという気持ちが入り混じってカオスな状態になっていたのですが、泣いても笑っても最後の一曲です。いけるこれならまだウンコ耐えられる。我慢できる。
そしてついに最後の曲が終わりました。もう早くトイレにいって腸を引っ張り出してブラシで洗浄したい気持ちになるんですが、そこでとんでもないことが起こるのです。
アンコール
前述の親衛隊の人々の手によってアンコールの要求がコールされるのです。しかも今日は小林さんの誕生日と言うことでマリナコールで大合唱ですよ。確かにアンコールは凄く嬉しいんですけど、ウンコが出る。
でまあ、皆がばーっと出てきてアンコールが始まるんですけど、もうウンコのせいで意識が遠のいていてですね、何歌ってるんだか全然分からない。とにかくウンコがしたい。ウンコ。
で、このままここで漏らしても確実に出入り禁止にはなるとは思いますけど、出るもんはしかたないじゃないですか。っていうか、思いっきり出してやってオタどもが必死にトレーディングしている生写真で尻拭いてやるわガハハハとかやれる豪胆さがあれば良かったんですけど、もう少し中腰になって青い顔してました。
そしていよいよアンコールも最後の曲、これさえ耐えれば大丈夫、と少しウンコにも余裕がでてきました。なんとか悶絶し、隣のオタに寄りかかったり、尻に適度な刺激を与えたりしつつ誤魔化していたんです。そしてついに最後の曲が終わった。
「みなさん、それでは本当に最後にAKB48の新曲、桜の木になろう、を聴いてください」
もう1曲あった!死ぬ!ってところでついに僕の心がポッキリ折れてしまい、もうウンコ我慢できなくなってしまいました。でも別に漏らしたりとか、そんな僕34歳ですよ。ウンコ漏らすとかんなわけないじゃないですか。隣のオタどもにばれないようにこっそりとパンツの中に左手を入れてですね指で栓してやったんですわ。っていうかイメージ的にはかなり出口まで来ているヤツを指で押し返す感じです。
これですっかり楽になり、指がウンコまみれになりますけど、なんとか本当の最後の曲を乗り越えることができました。本当の本当に公演も終わり、劇場内が明るくなります。やっとウンコができると安堵していると、そこで館内放送ですよ。
「本日は、これよりハイタッチ会を開催します。そのままお待ちください」
どうも、出口でさきほど公演していた研究生たちがずらっと並んで立っているらしく、そこで出てくる客全員とハイタッチしていくという途方もなくファンサービス旺盛な感じで、喜ばしいんですけど、僕、指ウンコまみれですからね。そんなウンコまみれの指で彼女たちとハイタッチするわけにいかない。オナニーした手でアイドルと握手するって不埒な輩は結構いますけど、指にウンコ塗りたくってハイタッチしたヤツはいません。というか、MAXとかにだったらできますけど、ピュアで頑張ってる彼女たちにそんなことできない。
で、一瞬ハイタッチを諦めるんですけど、よく考えたらウンコがついてるのは左手で右手にはついてない、右手でハイタッチできるじゃん!と意気揚々と会場を出てみるとズラーっと左側に研究生の皆さんが整列してるんです。終わった。左手でしかハイタッチでできない。
無理やり右手でってのも変ですし、さすがにウンコがついた手ではやれないので、僕だけハイタッチせずに素通りしました。いや、嫌味で素通りしてるんじゃないんです、ウンコがついてるんで!って説明できたら良かったんですけど、そういうわけにもいかず。なんでこの人、ハイタッチしてくれないんだろうっていう寂しそうな表情の研究生たちが、僕の心を締め付けるのでした。
いつかきっと、彼女たちとハイタッチしたい。また来るぜ、と心に誓って。
04/08 #12/涙サプライズ!
もう何年も前になるんですけど、僕は一応、何か面白いことを思いついたらメモを取るようにしてるんですよね。やっぱせっかく面白いことを思いついたのに忘れちゃうとか本気で不幸ですから、そういったことがないよう、細心の注意を払ってるわけなんですよ。
でもですね、まっこと意味が分からないんですけど、そういったメモを日記更新なんかに活用したことってほとんどなくって、むしろ更新するときにメモなんて見ないんですよ。じゃあなんでメモ取ってるんだよって言われると、まっこと言葉も出ないのですが、なんかせっかく思いついた面白いワードを逃したくない!という思いが強いんですよね。なんていうか、かわいい女性を見てて、決して自分のセックスフレンドとかになるわけじゃあないのに、その女性に彼氏ができると無性に残念な気分になる、みたいな気持ちに似ているのかもしれません。
でまあ、結局、意味が分からないメモだけがどんどんと積み重なっていき、ちょっと暇になったときにそのメモを読み返してみるとなんじゃこりゃ、みたいな感じになるってのは以前にも書いたように思います。
でまあ、その時に面食らったのが「オナニーを、しない、させない、もちこませない、非オナニー三原則」とか書かれたメモで、いったいこれを書いたときの僕はこれから何を書くつもりだったんだと問い詰めたい気分に駆られたものです。オナニーを持ち込むやつがいるわけがない。別のページには「オナニーはスリルショックサスペンス」とかあってもう意味不明。何がしたかったのかサッパリです。
そうやって全く日記などに活かされることもなくなく次元の狭間へと消えていく運命にあるメモたちなのですが、いい機会なので、ぶっちゃけこういう連続更新ってある程度クオリティが低くてもなんとかなっちゃったりするんで、いつもは誰の目に触れることなく消え行く運命にあるそのメモの中から、多分ものすごく意味不明なんでしょうけど、無理やり日記を書いてみようと思います。
でまあ、そのメモをパラパラとめくってどれにしようかなーなどと選んでみるのですけど、まあ、全てが意味不明で本当に頭が痛くなってきます。何より恐ろしいのはこれらのまさしくクソとも言えるメモ群を、面白いと思って書いた自分が確実に存在するという点です。こればっかりはどんなに現実逃避したとしても逃れようのない真実なのです。
そんなこんなで、「世の中の女性全ての乳首がコンセントだったら」とか「デリヘルにAKB69って店名をつける短絡さ」とか「乳首画鋲」とかそうそうたるメンツなんですけど、それらの中から熟考を重ねた結果、最も意味不明だったメモを選出しました。
「会いたくて会いたくてfull well」
もう何がなにやら。
たぶん西野カナさんの「会いたくて会いたくて震える」から取ったんでしょうけど、もう意味が分からない。単純に語呂だけで勝負してますからね。こんなメモ、普通だったら見なかったことにするんですけど、ここは無理やりにでも書いてみます。
まず、このメモの一番キモとなる部分がやはり「full well」になるのですが、本当にスカッとするくらいに意味不明です。爽やかに意味不明です。仕方ないので、「フルウェル」という言葉を調べてみると、
フルウェル
ネイルティップの形の一種。自爪に装着させる部分のティップ部分がフルなことをさす。⇔ハーフウェル
いやね、僕も長いこと生きてますけど、同じ日本語のなのにその意味を調べてさらに意味が分からなくなる言葉って初めてですよ。なんだよネイルティップってよ。でもまあ、文意から想像するに、バルログみたいな付け爪的な何かだろうと予測し、文章を書いてみます。
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「会いたくて会いたくてフルウェル」
美津子はギュッと唇を噛み締めた。小さな信用金庫の窓口で働く美津子は、いつも健太のことを考えている。仕事中であろうと接客中であろうと心ここにあらずといった感じだ。健太と遠距離恋愛になったのは1ヶ月前のことだ。急な転勤で飛行機じゃないといけない距離へと引っ越していった健太。出発の時「いっぱいメールするから」って言ってくれた。けれども、それ以来、美津子の携帯が鳴ることはなかった。
「まさか事故にでもあったんじゃ?」
「転勤先が想像を絶する田舎で携帯も繋がらないんじゃ?」
「携帯電話を盗難されたとか?」
「携帯電話を水没させてしまって誰の連絡先も分からずに困ってるとか」
様々な思いが駆け巡る。けれども意図的に避け続けているキーワードがあった。「別の女」という言葉。これだけは絶対に考えないようにしていた。健太に限ってそんなことはない。絶対にない。何か別の理由で連絡できないに違いないのだ。
仕事は散々だった。ミスの連続でお客様からクレームをつけられ、上司にも怒られた。意地悪な同僚たちも私のミスを噂して笑っている。本当に散々だ。深いため息をつき駅の改札をくぐる。今日はもう早く帰ってパックして寝よう。いや、寝てる時に健太から電話があったらどうするの。やっぱり起きて待ってなきゃ。
駅裏通りのガード下、街頭が切れているのか恐ろしくなるほどの闇が口を広げて待っていた。できることなら通りたくないのだが、ここを通らなければマンションに帰れない。健太がいた頃は一緒に帰っていたし、一緒に帰れなくても携帯で会話しながら帰っていた。けれども今は一人。健太、会いたいよ…。
「会いたいのかえ?」
しゃがれた老婆の声が聞こえた。ドキッとして振り返る。けれども周囲には闇が広がるだけだった。
「会いたいのかえ?」
また声が聞こえる。今度は下からだ。声のする方向に向き直ると、そこには老婆が座っていた。上から下まで不気味なほどに黒に統一された衣を身に纏い、まるで行き倒れたかのように縁石に腰掛けていた。
美津子は無視してそのまま通り過ぎようと思った。けれども、なんか無視しちゃいけないような、ここで老婆の話を聞いておかなければいけないような、そんな気がかりな何かがあった。美津子はしゃがみこんで老婆に話しかける。
「どうしてわかったの?」
健太への思いを見透かされたような気がした。
「顔を見てればわかるでよー」
老婆はニタアと笑う。何本か歯が抜け落ちていて不気味なはずなのに不思議とそうは思わなかった。むしろ、何か願いをかなえてくれそうな頼もしいものを感じてしまっていた。
「これをつけなせえ」
老婆は10本の白い何かを差し出した。よくよく見るとそれは付け爪みたいなものであったが、まるでバルログのそれのように長く、殺傷能力としては十二分なものだった。
「どうしてこれをつけなきゃいけないの?」
「これは願いをかなえてくれる爪さね」
老婆の言葉はにわかには信じがたかったけれども、なんだかそんな言葉にもすがりたい気持ちにあーもう面倒になった。爪でバルログみたいに老婆を殺して健太も殺した。そもそも健太って誰だよ。終わり。
04/08 #11/10年桜
まあ、今でこそこうやって子猫を失った母猫のように更新しているわけなんですが、なんと、驚くことに2010年って2回しか更新してないんですよね。日本の四季って美しくて海外の方も絶賛してくれているんですけど、その春夏秋冬、季節ごとに更新したとしても4回にはなるわけですよ。なのにそれより少ない2回とはどういった了見ですかって感じなのですが、ぶっちゃけるとサナトリウムに入っていたので満足に更新できませんでした。まあ、この話をすると辛気臭くなっちゃうから今日はやめとこうね。
そんでまあ、こんなクソみたいなサイトでも更新しないと色々と心優しいメッセージを頂戴するもので
「早く更新しろ、死ね」
「更新して死ね」
「死後の世界から更新しろ」
「で、生まれ変わってもう一度死んでから更新しろ」
なんてハートウォーミングなメッセージ、絆を感じて心に響くってもんです。こうやって直接メッセージを送ってくださるのは情熱的な方がほとんどなのですが、中にはちょっとメッセージを送るのは恥ずかしいんだけど、なんて方が自身のブログやtwitterなんかでメッセージをよせてくれたりするんですよね。
「Numeri大好きなサイトです。最近更新がないから心配」
「はやくNumeri更新しないかな~」
なんてね。うんうん、ほんとありがとうございます。なんて心温まるメッセージでしょうか。ワタクシ、皆さんの暖かいメッセージ、サナトリウムから見ておりましたよ。
でも、ちょっとおっちょこちょいさんっていうのかな、中にはとんでもない間違いをしている人がいて、
「Nemeriのpetoさん、いつも見てます。本当に面白い!」
みたいな、本当にいつも見てんのかよって言いたくなる間違いを犯している人も。これならまだかわいいほうで。
「大好きなNumeriですが、もう何年も更新されていないのです…」
みたいな。いつの間にか何年も更新をサボってなどと罪を捏造されてしまったりしてました。ひどいのになると
「Numeriなんですが、もう半世紀も更新されてません…」
どんだけやねん。たぶん半年と間違えたんでしょうけど、どんだけご長寿サイトなんだよ、とサナトリウムから見ておりました。色々と更新をサボったりしましたが、ちゃんと帰ってまいりましたのでどうぞこれからもよろしくお願いいたします。
04/08 #10/大声ダイヤモンド
また正月に大雪の中実家に帰省した時の話なんですけど、やっと実家に帰りついたのはいいものの、やはり途方もない雪で身動きが取れない状態なんですよね。幹線道路こそは沢山の車が通過して轍ができてるんですけど、ちょっと奥の路地とかになると完全に雪で埋まっていて車なんか入れない。人間が通れるかどうかも怪しいレベル。
仕方ないので親父とテレビばっかり見ていたんですけど、急に親父が「寿司食いたい」とかムチャクチャなこと言い出しましてね、たぶん、別にそんなに食いたかないんでしょうけど、せっかく息子が帰ってきたんだから良いものを食わせてやりたいっていう親心なんでしょう。まあ、いつも行ったところで親父はベロンベロンに酔っ払うんで、会計払うのは僕なんですけど。
でまあ、その親心は嬉しいんですけど、今日は無理ってのを分かって欲しい。っていうか、前日に24時間以上も雪の中で立ち往生し、おそらく人生の中で最高に侘しい年越しを過ごした自分としては、やはりまた雪の中で車を運転したくないってのが本音です。
でもまあ、親父は言い出したら聞かない人なので、まあ弟と親父を連れて行きましたよ。いつもこのメンツで行くと、親父と弟はアル中かってくらいに酒を飲むので僕がハンドルキーパーになるんですけど、その日も僕の運転で行くことにしました。
あちこちで、雪にはまって動けなくなってる車を横目に、前日の過酷な立ち往生を経験した僕はなんとか雪道での運転をマスターしてスイスイと進みました。まあ、あまりこういうこと書くとすぐに豪雪地帯に住むカッペが「本当の雪国はこんなもんじゃない」とか心の底からうざったいこと言ってくるんですけど。だから何って感じですよ。寿司屋行くのにイチイチ豪雪地帯のことなんて考えてられないっすよ。
でまあ、親父行きつけの高級寿司店に行くと、普段は正月からやってる店なんですが大雪のため営業中止。仕方ないのでまた死の雪道ドライビング、もう積雪量が凄すぎてラッセル車みたいに雪を掻き分けて進むような状態になってしまい、車のバンパーカバーが取れました。
で、大衆的な回転寿司や行ったんですけど、そこも大雪のため仕入れができないから休業とのことでした。ニュースでやってましたけど、あまりに大雪過ぎて漁船に雪が積もりすぎ、その重みで次々と沈没したみたいです。
もうどこもやってないので、近くのショッピングセンターのフードコート内にあるラーメン屋で三人でラーメン食って帰りました。
で、食ってる間にも雪がガンガンに降り積もりましてね。まさにキグナス氷河が出てきてマーマとかダイヤモンドダストとか叫びそうなレベルで雪化粧ですよ。行きは何とかなったんですが、こりゃあ、あの細い路地を抜けて我が実家まで到達するのは不可能だと判断したんです。
仕方ないので、幹線道路沿いに住む親父の知り合いの家に行き、そこで事情を話して駐車させてもらい、歩いて実家まで帰ることにしたんです。親父、弟、僕の三人で歩き、こりゃすげえ雪だわ、とか話しながら歩いていたんですけど、そうするとね、幹線道路と言えども沢山の車が雪にはまって立ち往生してるんですよね。大晦日のように立ち往生の車が列を成してるわけじゃなくて、30メートルに1台くらいの感じでポツポツと立ち往生してるんですよ。
で、寒いし靴の中に雪とか入ってきて冷たいんで早く帰りたかったんですけど、親父がすぐ立ち往生してる人に話しかけるんですよ。
「動けないの?手伝おうか?」
みたいな感じで話しかけてて、すっごい優しい人なんですけど、自分じゃ何もしないですからね。車を押したりするのが僕と弟ですから。そんなこんなで、僕ら兄弟がこの道路の番人みたいな感じで次々と雪にはまった車を救出。大晦日、誰も助けてくれなくてなきながらラブホテルの駐車場で年を越した僕が人を救いまくっていました。
で、いよいよ我が家も近くなってきて、はまってる車も1台となりました。この車を救出したら帰れると思って近づくと、乗っていたのかなかなか色っぽい感じの熟女でした。その瞬間、親父がすごい張り切っちゃって、すっげえ勢いで車を押してました。
けれども、この最後の車、相手が悪かった。シブイ感じの古い車だったんですけど、古いだけあって車の重量が重い。さらにはFR駆動という悪条件。雪道にFRはかなりリスキーですからね、とてもじゃないがちょっと押したくらいではギッシリはまっていて抜けられそうにない。タイヤが空回りするばかり。熟女にいいとこみせようと張り切ってる親父の思いも空回り。にっちもさっちも行かない状況に。
すごい困り果ててる熟女に親父はついに決意しました。
「よし、パワーショベルだ!」
走って実家に帰り、倉庫に鎮座しておられる小型のパワーショベルをムリムリと動かしてくるんですよ。さすがパワーショベルってパワーって名前がつくだけあって凄い馬力で雪道なんてものともしない感じで爆走してくるんです。
で、車の後部のバンパーみたいな場所にチェーンをくくりつけてですね、そのチェーンをパワーショベルのアームにくくりつけます。そいでもって一気に引っ張り出そうとしたみたいです。
親父の指示で熟女を運転席に座らせます。
「いいか、この状態から脱出できたら一気に走り去れ。停まってお礼とかいらないから。っていうか停まったらまたはまるから、そのまま一気に走り抜けるんだ」
「はい!」
熟女は元気良く返事をし、運転席に乗り込みます。まずギアをバックに入れてグオングオンとエンジンを吹かす熟女。親父のパワーショベルも唸りをあげて車を後ろに引っ張ります。
ウオオオオオオン、ガコ!
ついに、車が抜け出しました。
「やった!抜けた!」
大声を上げる僕。その瞬間、言われたことを忠実に守った熟女がギアを入れ替え、物凄い勢いで前進しました。
ガコッ!
凄い勢いで外れる車の後ろバンパーみたいなやつ。凄いスピードで走り去り、すぐに小さくなる熟女の車の姿。残される僕たち親子。雪の上を転がるバンパーみたいなやつを尻目に去り行く車を眺めて親子三人、SPEEDのALIVEのPVみたいな状態になってました。
外れたバンパーが転がって雪の塊みたいなのにがっちりはまってて、なんだか寿司みたいでした。
04/08 #9/Baby! Baby! Baby!
何を隠そう、ものすごくうれしはずかしなんですけど、この間引っ越しましてね。引越しといいますと、当たらし環境に新しい部屋、全てが光り輝いて見えるなんてものでして、すごく前向きな未来ある物と考えがちですが、そうではありません。
僕も何度か引越しというものを経験していますが、引越しにおいて最大のネックとなるのが、古い部屋の明け渡しです。つまり今まで使っていた部屋をいかにして綺麗にして不動産屋なり大家なりに引き渡すのかが重要になってくるわけなんです。
普通に生活している人ならば何ら問題なく、引越し屋さんに荷物を運び出してもらって、ちょっと本格的に大掃除すればバッチグーですよ。でもね、あいにく僕の部屋ってのが養豚場にホームレスが住んでるみたいなもんなんですよ。とにかく汚い。
部屋の一角には捨てるに捨てれないゴミが山のように折り重なってアンタッチャブルゾーンを形成しており、なんかゴミが腐って床板とかまで腐ってましたからね。風呂場なんか水垢が溜まりすぎてピンク色のお風呂なのかしらってイメージですし、トイレなんか汚れすぎてて何色のウンコをしていたのかすら定かではない状態ですからね。この部屋から赤子の死体以外何が出てきても驚かない、そんな状態ですよ。ハッキリ言って色々と終わってる。
でまあ、その猫のトイレより酷い有様の部屋を出すね、引渡しの際に不動産屋とか大家に見せるわけですよ。ネチネチと、ここの壁が汚れてるとか、ここに傷がとか言われるわけ。もう心をレイプされてるようなものですよ。普通の部屋でも結構嫌な儀式なのに、何せ前述のように養豚場より酷い僕の部屋ですよ。逆に部屋を見た大家が卒倒するかもしれない。
そんなこんなで、2年半前に同じ市内に引っ越したときは、僕は臆病なので、そのような汚い部屋を大家に引き渡すのが嫌で、心をレイプされるのが嫌で、ずっと引き渡さずに家賃を払い続けていました。2年半も。つまり、今の住んでる部屋の家賃と、住んでもいない前の部屋の家賃をずっと払っていたんです。2年半だから30回の2重家賃。どれだけ引渡しが嫌だったか良くわかっていただけたかと思います。
でまあ、そういった二重生活を続けていたって何も得るものがなくてですね、2年半続けた結果、汚い部屋が二つ手に入ったってことで、もうにっちもさっちもいかない状態。首が回らないとはまさにこのことだ、と思いましてね。ここは奮起して二つの部屋を引き払って綺麗な部屋に引っ越してやろうと思い立ったわけなんです。
普通に考えると一つの部屋の引越しだけでも相当大変なのですが、それが二つですからね、会社だったらプロジェクトを立ち上げて全力であたるくらいの騒ぎです。もう仕方ないというか、とにかく2重家賃ってのは家計的にもキツイので、とにかく頑張りましたよ。なんかどうやったらこんな傷がつくんだってレベルで傷ついたフローリングとか、ゴキブリすら死んでて、風化して粉みたいになってる場所とか、何かの怨念?ってレベルで人型の汚れがついた壁紙とか、洗濯物干しまくってたらぶっ壊れてしまったカーテンレールとか、とにかくですね1ヶ月くらいかけて部屋を掃除しまくってやったんです。ゴミなんか2トンくらいは捨てたんじゃないかな。
でまあ、なんとか体裁も整いまして乳幼児の死体が出てきそうな部屋も、なんとか人並みの汚い部屋レベルになりましてね、いよいよ大家を迎え撃つ体制が出来上がったんです。そして、ついにその時はやってきました。
まずはじめに、二つ目の物件、つまりつい最近まで住んでいたアパートの引渡しですが、こちらは頑張って掃除した甲斐があって予想よりスムーズに引渡しが終わりました。ここは入居の時に大家に会わなかったので、引渡し時に初対面となったのですが、まあ、やってきた大家がモロヤクザ。部屋が汚すぎて殺される!と失禁しそうになりましたが、かなり気さくで豪快な方だったらしく
「兄ちゃん、男の独り暮らしにしては綺麗なほうやないか!」
などと、なんとも暖かいお言葉を頂戴したものでした。トイレにチン毛が落ちとるぞ!などという若干のセクハラはありましたが、なんとかソツなく引渡しが終了。もっと心をレイプされるかと思ったのですが拍子抜けするほど簡単に事が済んだことに安堵しつつ、この調子でいけばもう一個の物件、無意味に2年半も家賃を払い続けたあの悪魔の物件も軽くいけるんじゃない?っていう考えが頭の中を駆け巡ったのです。しかし、これが後にとんでもない惨劇を生み出すこととなるのです。
次の日、前日の勢いに乗って2年半も無駄に家賃を払い続けたアパート、乳幼児の頭部アパートに意気揚々とやってきたのですが、前日までの勢いとかそういったのを超越して冷静に見ると部屋が汚すぎる。1ヶ月かけてコツコツと掃除してきたのに汚すぎる。どうなってるんだ。
あのですね、2年半も前からこの部屋には住んでないんですよ。そうなるとね、当然ながら電気も水道もガスも止めてるわけじゃないですか。で、いまさら復旧させるのも面倒ですし、それらのライフラインなしで掃除するじゃないですか。昼間にやれば電気なんていりませんし、ガスなんて全く必要ありません。けれどもね、水道がないのは痛かった。本当に痛かった。掃除において「水」がどれだけ重要か痛いほどわかった。
あのですね「水」の存在を舐めたらアカンですよ。とにかくアカンですよ。水無しで掃除したって汚れを拭き取ってるって状態じゃなくて汚れを引き伸ばしてるに過ぎないんですよ。そうなってくるといくらやっても全然綺麗にならない。さすがにゴミとかは捨てましたけど、それでも大家が見たら腰抜かすレベルで汚い。最後のほうは諦めちゃいましてね、うん、綺麗、綺麗、って自分に言い聞かせることで掃除終了と相成ったのでした。
さて、いよいよ不動産屋がやってきます。幸運だったのは大家ではなく不動産屋が引き渡しにやってくるという点です。やはり大家ってのは持ち主ですから自分の物件なわけですよ。それをこんな状態にされたらレイプだってより執拗でより残忍なものになるに決まってます。下手したら殺されるかもしれない。
けれどもね、不動産屋なんてしょせんは他人事ですよ。自分のものじゃないですからレイプにして非常に事務的でさらっとしたもの。そんなおざなりレイプで僕の心を折れるわけがない。
そんなこんなで約束の時間になるとついに不動産屋がやってきました。ここでカワイイ女でも来ようものなら、「君の性器に敷金・礼金」とかできたんでしょうけど、すごい小太りな20代前半のニート上がりみたいな男がやってきました。
「お部屋の引渡しにやってきました!」
とかいう男がまず絶句。玄関が汚い。なんかピザのチラシが玄関床に張り付いていて取れない。男が取ろうとするが取れない。それはがっちり床に吸い付いている。
「あ、なんか粉が落ちてますね」
その粉はゴキブリの死骸が風化した粉だ。
「あー、壊れちゃってますねー」
トイレのドアが、僕が日本代表のサッカーの試合でゴールが決まったときに興奮して蹴破ってしまってものすごい大穴が開いている。
それからきちんと順番に各所の汚れなどを指摘されていき、順当に心をレイプされていったんですけど、なんとか「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り倒すことでそれらをクリア。もう網戸とか溶けてましたからね。網戸が破れるじゃなくて溶けるですから。想像できますか。
そんなこんなで一通り指摘も終わり、なんとかすごいレイプされたけど乗り切った、と安堵の気持ちでいると
「じゃあ、鍵の返却お願いします」
とかいわれて、鍵なんかもういつ無くしたかも分かりませんからね。
「鍵ありません」
とかいうと、不動産屋も「はあ?」みたいな顔してました。いくらなんでも鍵がないってのは想像の範疇を超えていたみたい。さすがに僕も彼の反応に物凄く焦ってしまって
「いや、鍵を暴漢に奪われまして…」
とか何の得にもならないブラフをかましてました。男はしばらく固まっていたんですけど、何か色々と納得したらしく
「あ、そうですか、暴漢ですか、そうですか、仕方ないですね」
みたいなことを言ってました。いよいよ引渡しも終わり、2年半も無駄に家賃を払い続けたこの部屋ともお別れ、となんだかちょっとおセンチな気分になっていると、男が急に何かを思いついたように流しの下を扉を開けたんですね。
基本的に全ての場所をチェックして引渡しとなるんですが、あまりの部屋の惨状に流しの下を見るのを忘れていたらしく、思い出したようにチェックしようとしたんです。それは僕も同じことで、完全に流しの下の開き戸の存在を忘れていました。あそこは手付かずの大自然。人間の手が入ってない最後の楽園よ、とか思いながら、本当に中に何が入ってるのか分からず、もしかしたら本当に乳幼児の頭部が入っているかもしれないとハラハラしつつ、開き戸を開ける男の姿を見守っていました。
「最後、ここチェックしときますねー」
男はしゃがみこみ、開き戸を一気に開けた。
ザパー!
なぜか大量の砂が。ひざを突いている男の太ももあたりまで砂で埋まった状態になっていた。
「砂…?」
ああ、思い出したわ。一時期、すごい川の砂にはまっていた時期があって、週末のたびに色々な川にいって、そこでビニール袋いっぱいに川砂を採取していたんだった。で、その10個くらいの袋を全部流しの下の開き戸に突っ込んどいたんだけど、それが長い年月を経て袋が朽ち果ててこんな状態になったんだと思う。
「わー、ごめんなさい。趣味で砂を集めてて!」
とか、あんまり言い訳になってないことを口走っていた僕。
「すぐに掃除します!」
とか言ったんですけど、
「もういいです」
みたいなこと言われた。この一言が一番心にキタね。結局なんか、敷金では足りないらしく、掃除代と修理代、失くした鍵代を後日請求しますみたいなこと言われました。すっげえ金額請求されるんだろうなあ。
とにかく、2年半は住んでなくて家賃だけ払っていたとはいえ、長い年月お世話になった部屋です。「ありがとな!」ってお礼を言ってかっこよく出て行こうとしたら川砂で滑って転びました。
04/08 #8/桜の花びらたち2008
(#1の続き)
そんなこんなで、トレーディングタイムも終わり、一旦、AKB劇場から退場させられるオタたち。なぜか寒風が吹き荒れる非常階段を使って8階から1階まで退場させられました。たぶんお前らオタどもは強風に吹かれて落ちて死ねっていう劇場スタッフの無言のメッセージなんでしょうね。
とにかく、また路上に放り出されたオタたちは、その路上でカードのトレーディングを始める始末。みんな辞書みたいになってるファイル形にヒラリヒラリと舞い踊っていました。なんだかその姿が凄く綺麗儚くて、桜の花びらみたいでした。きっと散り行くサダなのを分かってるんだと思う。
そんなこんなで時間を潰していると、夕方公演の時間になったらしく、またもや劇場に入れる時間になったようでオタどもの大移動がはじまりました。僕もその流れに乗って劇場へと向かうのですが、こうなんか、さっきみたいに劇場に人が沢山いるんですけど、さっきとは違った、なんかすごい違和感を感じる状態になってるんです。
この違和感の正体はすぐに分かったんですけど、実は最近のAKB劇場のチケットってのはかなり厳正な抽選をしているみたいで、ディープなオタクだろうがライトな素人だろうが同じ条件で抽選されるんですよね。それこそ、チケットの当選をオナニーの回数で決めるとかだったらオタクばっかりで少しイカくさいんでしょうけど、単純な抽選となれば話は別。約半数が普通の素人なんですよ。
中には、AKBが最近話題だから観光気分で劇場に来てみた。チケットなんて持ってない、っていうガチの一般層もいて、すごいディープな人々と一般層の温度差がものすごい状態になってました。
中でも凄かったのが、どうもこの日はAKB48研究生の小林茉里奈さんの誕生日だったらしく、小林茉里奈さんフリークの人々がお揃いで自作のピンク色のTシャツを着てですね、もうすごいヌシっぽいかんじで劇場ロビーで活動してました。で、すごい人たちいるね、って一般層が眺めてました。
で、いよいよチケット当選した人たちの整列が始まりまして、たぶん当選した時に整理番号が割り振られてるんでしょうけど、その番号順に整列させられてるんですよ。僕はチケット持ってないんでその光景を眺めてるんですけど、せまっくるしいロビーに200から300くらいの人々が整列させられてる光景は圧巻でした。
でも、もっと圧巻だったのは前述の小林茉里奈さん親衛隊みたいなピンク色のTシャツを着ていた軍団ですよ。何かゴソゴソしてるなーって思ってたんですけど、整列が一通り終わるとピンク軍団が全ての客に何かを配布してるんですよ。なんだろうって思って近くにいた客のやつを見てみたら、サイリウムって言うんですか、あの光る棒みたいなやつを全ての客に2本ずつ配ってるんです。無料で。
1本いくら位するのか知りませんけど、それを全ての客に配るとか豪気な話よのう、とか思いながら見ていたら、ついにキャンセル待ち受付が始まると言う吉報が僕の元に届きました。実は僕も事前にこの公演のチケットを申し込んでいて、見事抽選から漏れたんですけど、なんかキャンセル待ちには当選したらしく、87番というありがたい番号を頂戴したのでした。
で、受付前で待ってると呼ばれるわけですよ。
「キャンセル待ち1番から5番のお客様ー!」
とかで、呼ばれた人が手続きして、たぶん正規料金より1000円くらい安いんですけど立ち見で見ることができる、って感じになってました。ただまあ、僕の番号87番ですからね。どう考えても呼ばれるはずがないって状態なんですけど、
「20番の方ー」
「40番の方ー」
「60番の方ー」
とかけっこうトントン拍子で番号が進んでいくんですよ。62番くらいで呼ばれたおっさんなんてよほど嬉しかったのか呼ばれた瞬間に「よっしゃ!」とかガッツポーズしてた。どんだけ嬉しいんだよ。
いよいよ呼ばれる数字も70番台となり、なんか呼ぶ人もチラチラッと何かの資料を見ながらコールしていて、いよいよ打ち切りになりそうな気配。横にいたチン毛も生えてなさそうな3人組が、「どうする俺たちの1こまえで打ち切りになったら」「ラーメン食って帰る」とか会話していたので、誰が見ても打ち切りは近かったように思います。
しかし、80番台ともなるともう諦めてて来てない人とか結構いるみたいで、番号を呼ばれても誰も名乗り出ないっていうことが多くなってきます。これは87番いけるか?と僕の心もドキドキしてきます。
「86番の方ー?」
誰も名乗り出ない。きた、ついにきた!
「87番の方ー!」
物凄い勢いで一歩前に出た僕は2000円支払い、なにかリストバンドみたいなのを腕に巻かれるのでした。ちなみに3人組は駄目だったらしく、たぶんラーメン食って帰ったと思います。
で、意気揚々と劇場に向かうと、ちゃんとそこにはピンクTシャツ軍団が待ち構えていて、ちゃんと手渡しでサイリウムを2本頂戴いたしました。
会場に入ると、すぐにドアが閉められ、会場後方で立ち見客がギュウギュウに圧搾される中、overtureが流れ、いよいよAKB48研究生公演が開演するのでした。そう、僕にとって地獄とも言える時間が始まったのです。
つづく
04/08 #7/ロマンス、イラネ
皆さんは五重の塔プレイというのをご存知でしょうか。五重の塔とは仏塔の形式の一つで、折り重なった層のような形状をした塔で、大きいものから小さいものまで日本各地で見られる建造物です。中でも法隆寺の五重塔は有名ではないでしょうか。
これは何も意味不明に高く建立されたわけではなく、ちゃんとその当時の時代背景を考えられていると言われています。当時はやはり今のように移動手段もなく、なかなか参拝をするなどとはいかなかったようです。特に貧しい農民などは、仕事が手一杯で、参拝などもってのほかだったのかもしれません。
そこで、有難い塔を高く作ることで、今のように高層ビルなんて存在しない時代です。見通しの良い平野で遠くからも参拝できるよう、上へ上へと伸びていったということなのです。手の届かない有難い寺に手が届くよう、配慮された結果だと言えます。
最近ではあまり見ませんが、一昔前のマンガなのでは展開に困ると必ず五重の塔が出現し、主人公がその塔の中で各階に配置された強敵と戦い、最上階に潜むボスを倒す、ってのが何度となく見られたものです。たぶん、ジャッキーチェンの映画か何かからきてるんだと思います。
で、各階に配置されていた敵ってのもけっこう定番で、あくまでも僕のイメージなんですけど、最初に対峙する1階には素早い系のヤツが配置されたりします。こいつは敵の色に染まってるんですけど、戦ってるうちに主人公サイドに心情が変化していき、最後には主人公についたりします。
2階に配置されるのは技巧派が多いです。渋い系とでもいいましょうか。クラスで7番手くらいのあまり目立たないような子が、この辺を好んだりします。また、渋い系ではなくとんでもないゲスが配置されることもあります。
3階に配置されるのは、食いしん坊が多いです。面倒になったんで一気に行きますけど、4階は女性キャラであることが多く、5階がボス、もしくは老師みたいなポジションのやつが配置されたりします。
で、こういった5重の塔の戦いってのは、おそらく作者もネタに困って導入されるわけなんですが、やはり少年だった僕たちの心には深く焼きついていて、いつかはこんな五重塔で戦ってみたい、などと幼心に決心させたりするものです。
けれどもね、僕ももう34歳ですわ。今年で35歳。来年で36歳ですわ。もう同年代のやつらなんて結婚して子供も小学生になろうかってレベルで、家なんて建てちゃったりしてね。家族の顔をみると安らぐ、とか言ってるんですよ。その横で僕は五重の塔で戦いたい、ですか。あのですね、いつまでもそんなこと言ってられないですよ。
そうなると、やはりアダルトなりに五重の塔を考えないといけないんですけど、やはりそうなるとセックス的な感じになってくるじゃないですか。つまり、各階で戦うんじゃなくて各階でおセックスをする、その布陣を考えるのに心血を注ぐようになるんですよ。いわゆるロマンスってやつです。
いやいや、五重の塔プレイで、単純に五連発セックスって考えるのは底が浅い。そんなんじゃ先が思いやられます。五重の塔プレイは完全に満足するための最強の布陣。いうなればバイキングを満足するのに似ています。単純に大量に食べればいいというスタイルではなく、ちゃんとわびさびを重んじた布陣が必要になってくるのです。
例えば、好きなアイドルとか芸能人を1階から5階まで配置する。多くの人がやりがちですがこれはバカがやることです。好きな芸能人を5人配置、メロンしか食べない子供ですか。そんな愚かな人はNumeri読者にはいりません。
こういった五重の塔プレイを考える場合、一番に考えなければいけないのが心の問題です。例えば佐々木希とそういった事に及んでも、絶対に佐々木希はマグロです。積極的に腰を使ったりするわけがありません。それでは最初こそは興奮したとしても後で大いに後悔することになります。
じゃあ、人間が一番興奮するのってどんなシチュエーションだと思いますか。そうですね、知り合いがエロビデオに出ていた、これが一番興奮しますね。つまり多くの人が一番に望むのは佐々木希みたいなアナタと縁もゆかりもない人間より、とても身近にいる女性なんです。それも物理的には近くにいるのに、心情的には遠くにいるような人間が良いです。そして、これはあとで分かりますが、ブスがいいです。うちの職場で言うと太田さんです。
ということで、まず1階には職場や学校で毎日顔を合わせるブスを配置しましょう。
では2階はどうするかって話になってくるのですが、ここで佐々木希を配置するのはバカがやることです。あいつはマグロです。ここは格闘マンガの五重の塔にならってやはり技巧派を招きたいところです。
もちろん、おセックスにおいて技巧派とはAV女優になるわけで、ここはドカンと一番大好きなAV女優、つぼみやら長瀬愛を配置したいところです。しかし、ちょっと落ち着いてください。さっきの1階になぜあえてブスを配置したのか考えてください。人間ってね刺激に慣れちゃう生き物なんですよ。最初に美人を配置したらもうそのびじんの刺激に慣れちゃって次の階に美人が現れても全く興奮しなくなるんですよ。そう考えると、まだまだ序盤の2階であまり美人を配置するのは危険です。ここは職場や学校で一番ヤリマンと噂されているブスを配置しましょう。具体的にうちの職場で言うと山本さんです。
さて三階ですが、ここらあたりから芸能人をと考える人が多いです。そりゃあ1階2階と職場のブスを配置してきたので、やはりここは大好きな芸能人を配置したいでしょうよ。それが人情ってもんです。でもね、あなたがそう考えるって事は皆もそう考える。つまりその五重の塔を誰か他の人が見た時、ああ、1階2階とブスだったから3階から佐々木希なのねってニヤニヤしながら言われちゃいますよ。それって悔しいじゃないですか。それに佐々木希は絶対にマグロです。
ということで、そんなありきたりな展開は避け、ここは3階にも職場のブスを配置しておきましょう。喜ばしいことに我が職場はブスの人材が豊富です。弾には困りませんので、その中でも一番性格のきついブスを配置しておきましょう。田中さんです。
いよいよ4階になるのですが、4階は死の階です。佐々木希はマグロです。職場のブスを配置しておきましょう。森山さんです。
で、最後の五階になるのですが、ここまで職場のブスと4連戦してきたわけです。いい加減、色々な感覚が狂ってきているはずです。もうここまできたらいっちゃいましょう。職場のお局さんを配置しましょう。
こうして見返してみると、1階から5階までズラリと職場のブスが並ぶはずです。実際に図に書いてみるといいでしょう。やっぱりマグロとか入れとけばよかったかなあ、などと激しい後悔があなたを襲うはずですが、それすらも興奮のスパイスです。
ちなみに、僕はこうやってものすごい長時間かけて職場でこの五重の塔を考えていて、しかもそれを実際に紙に書き、五重の塔の絵まで描いて暇な時間を潰してたんですが、間違えてそれをリサイクルペーパー入れに入れてしまったみたいで、たまたまそれを発見した田中さん(3階)が発見してしまい、大騒ぎになりました。
というわけで、職場の偉い人やセクハラ問題関係の人に連続で怒られ、この女性の名前が書いてある塔はなんだねとかきかれまくって、まさかセックスする順番ですとも言えず、悶々とするのでした。ちなみに、連続して5人に怒られた。まさに五重の塔だぜ。ちなみに5階で死んだ。
04/08 #6/夕陽を見ているか?
数分ごとに蒸気が噴出し、呼吸をするのも苦しい湿気の中、高志は全裸で座っていた。3畳ほどの小さな石造りの小部屋に椅子が6つ置かれ、部屋の奥には数分ごとに蒸気を発生する不思議な壷が置かれていた。
高志はこの小さな小部屋が大好きだった。ここは、東久留米市にあるスーパー銭湯の一角だ。ここには電気風呂からサウナからジェットバス、露天風呂と様々な風呂があるが、高志が好む「釜風呂」は本当に見落としてしまいがちな場所にある。
洗い場から露天風呂へと続く通路には風の流入を防ぐための小さな小部屋がある。本来ならこの小部屋の存在によって2枚の扉が同時に開くのを防ぎ、寒い風が洗い場に流入するのを防ぐためだけのものであるはずなのだが、なぜかその小部屋の脇に本当に小さな扉がある。
まるで茶室に続く扉のように低い位置に配置された扉の上には目立たぬように「釜風呂」と書かれている。先に続く露天風呂にだけ目を奪われていたら見落としてしまうだろう。そんな扉だ。
さらに不気味なことに、一応その扉はガラス張りで内部が覗けるようになっているのだが、釜風呂とは名前だけで単純にスチームサウナとして運用されているこの部屋は相当な湿気で、内部を窺い知ることができない。ボンヤリと蒸気の中に座る人影が見えるだけだ。
このように、見落としがちであり、さらに屈んで入ることを強いられる不便な扉、そして内部の様子を分からない不気味さ、それらを全て乗り越えて到達するこの部屋、高志はそんなこの部屋がまるでこのスーパー銭湯の裏モードみたいに感じられて大好きだった。おまけに、この蒸気のカーテンがなんだかとっても居心地が良かった。
今日も高志は仕事帰りにこのスーパー銭湯に寄り、何より先にこの釜風呂へと入る。先客はおらず、他の客も入ってこない。しばらくの間、高志一人だけの時間が続いた。部屋の中に充満する蒸気に息苦しい思いをするが、温度が高くないせいかサウナよりは苦しくない。これなら何時間でもここで粘ることができそうだ。
何度か、扉のガラス越しにこちらを覗き見る影が見える。もちろん、充満する蒸気で明確に姿が見えるわけではないが、おぼろげながらこちらを覗き込む姿が見える。しかし、やはり相当にこの「釜風呂」が怪しいのだろう、しばらく覗き込むとそのまま消えてしまうのだ。おそらく露天風呂に行ったのだろう。
このスーパー銭湯は利用客も多く、どの風呂においても多くの人がひしめき合っているのだが、そういった事情からこの釜風呂だけはほとんど人が入ってこない。落ち着いてゆっくりとした時間を過ごすことができる。だからこの釜風呂が好きなのだ。
しかしながら、高志がこの釜風呂を好む理由はそれだけではない。むしろ落ち着くだとかゆったりとした時間を過ごせるだとかはおまけの要素にしか過ぎない。息苦しい中、何時間もここにいるのにはもっと他の理由があるのだ。
いくら入りづらい釜風呂といえども、全く人が入ってこないというわけではない。常連客や物怖じしない人、全ての風呂に入って元を取ろうとする人など、いくらかの人は、この入りにくい結界を超えて釜風呂へと入ってくる。そうなってからが高志の本番だ。
まず、入ってきた人間との我慢比べ。これに勝利しなければお楽しみは訪れない。いや、むしろ、この釜風呂はサウナほど暑くもなく、単純に息苦しいだけなのでそこまで我慢する必要はない。たいていの客はすぐに飽きて出て行ってしまう。そこの瞬間が本番だ。
まず、ここはスーパー銭湯だ。基本的に客は全裸である。別にホモでもなんでもないので男の裸を見たって何も嬉しくはないが、もっと高次元の場所に楽しみがあるのだ。前述したようにこの釜風呂の扉は茶室のように低い位置につけられている。当然ながら、全ての客は屈んで中腰の姿勢で入ってくるようになっている。
入ってくる時は別にどうってことないのだが、問題は出る時だ。もちろん、出る時だって客はしゃがみながら出て行くことになる。高志はその姿を後ろから眺めることになるのだが、全ての男たちがアナル丸出しなのである。高志はその見ず知らずの男たちのアナルに全宇宙を見出していた。
何度も念を押すが、高志は決してホモではない。アナルを見て欲情することもなければ興奮することもない。こういった公衆浴場などでは男なんてのは前を隠さずに誇らしげに歩いていることが多い。中にはタオルで隠す若者などもいるが、基本的にどの客もアナルまでは絶対に見せないし、まさか見られるとも思っていない。そんなアナルを覗けてしまえるエアポケットのような時間、それがこの釜風呂から出る瞬間に訪れる。高志はその瞬間がお気に入。りだった。
「バイトマジだりー、昨日まで23連勤だったわー」
「でも今日休みとれてよかったじゃん!」
「あしたからマジ40連勤だから!」
という心の底から会話を交わす気取った若者二人組み。蒸気でよく見えないけど髪型なんてホストみたいでカッコイイんだけど、そんな会話にも飽きて釜風呂から出るとき、二人揃ってアナル丸出し。
家では威厳のありそうな年配のお父さん。メガネをつけて入ってくるものだからあっという間に曇ってしまうのだけど、そんな偉そうなお父さんだってアナル丸出し。高志は、よく知りもしない人、その人のアナルといういわゆるコアの部分を眺めるという相反した行為に途方もない喜びを覚えていた。まるでその人の全てを手に入れたような、その人を自分の中に取り込んだような、そんな奇妙な感覚すら存在した。仕事帰りにこの釜風呂にやってきてアナルを見る。高志にとってアナルとは夕日を見るのと同義だった。
こうやって様々なアナルを見ていると、一口に、いや口ではないのだけど一アナルにアナルと言っても様々なアナルがあることに気付かされる。ものすごい真っ黒なアナルからピンクのアナル、バーガーと間違うほどに鬱蒼と毛が覆い茂ったアナル、イボ痔にキレ痔、様々なアナルがあった。はじめこそはアナルを見てやっているという感覚であった高志も、次第にアナルに魅せられていくようになった。アナルを見ているはずなのに、アナルに見られているような感覚。
「見透かされてるのはこっちかもな」
そう呟くと壷から激しく蒸気が吹き出した。この日はなんだか蒸気の調子が良かった。いつもの倍以上は蒸気が噴出していると思えるほどに蒸気が噴出し、いつもは見える人影もハッキリとは見えない。
「どうしたのかな今日は」
高志はそう呟いてハッとした。右前方におぼろげながら人影が見えるのだ。その人影は、姿こそはハッキリとは分からないが、確実にこちらを向いて座っている。いくら蒸気が濃いからといって気付かないはずはないのだが、どうやら先客がいたようだ。
誰もいないと思って独り言を言ったというのに、聞かれてしまった。すこし咳払いしてなんとかその場を取り繕った。なんだか無性に居心地が悪く、いち早くこの釜風呂から出ようと思ったのだけど、誰かが中に残っているのに自分が先に出るということはアナルを見られることになってします。さすがにそれは避けたいのでその先客が出て行くのを待とうと、居心地が悪いなりに我慢していた。しかし、先客は全く動く気配がない。普通なら数分で飽きて出て行きそうなものなのに全く動く気配がないのだ。
全く動く気配のない先客にイライラしていると、また別の客が入ってきた。相変わらず蒸気が濃く、その姿はハッキリ見えないのだけど、恰幅の良い中年のようだった。中年は深い深呼吸をすると野太い唸り声を上げながら椅子に座った。こういう客はすぐに飽きて出て行ってしまう。高志の予想通り、数分もすると、また野太い唸り声を上げて中年が立ち上がった。
チャンスだ。今日一発目のアナルを見ることができる。高志は中年を凝視した。濃霧でその姿は朧だが、今まさに中年が屈んでドアをくぐろうとしている。その瞬間、しゃがみこむ事でパックリと開いた尻肉の切れ目から、アナルが見えた。
これを見ないと一日の仕事が終わった気がしない。まるで夕日を見るように一日の終わりを感じる高志。しかし、何やら様子が違った。中年のアナルはアナルなのだが、何やらおかしい。そのアナルの様子がおかしいのだ。濃霧でハッキリとは分からないが、アナルのさらに中心に、蠢く何かが見える。
新手のギョウ虫か何かかとも思ったが、もっと神秘的な、あえて言うなら動いている一つ一つのドットがかなり濃密で微細な何か。それらが不思議な感じで動いていた。
「なんだあれは」
あまりの出来事に先客も気にせず、声に出してしまう。中年はその、メタボリックな腹が邪魔でドアをくぐるのに悪戦苦闘、ずっとアナル丸出しの状態なのでついつい椅子から立ち上がってマジマジと覗き込んだ。
近づいてみると分かる。何か無数の小さなものが球体の中を蠢いている。これはなんだ。こういう時になるとこの他者との繋がりを適度に断ち切ってくれる蒸気も邪魔でしかない。さすがにこれ以上近づいて見るのは不審だ。高志は目を細めて凝視した。
町だ!
驚くことに、中年のアナルの中には小さな町が納まっていた。まるでミニチュアをさらに小さくしてそれをスーパーボールの中に入れたような、そんなアナルがそこにあった。信じ難いことだが、歴然たる事実なので仕方ない。
「そんな、なんでオッサンのアナルに町が…」
ついつい言葉が出てしまう。それに反応して、あの忌々しい先客が口を開いた。
「あら、気付いたようね。アナルシティに」
その声は明らかに女のものだった。ここ男湯だぜ。そしてアナルシティという聞きなれない言葉。あふれ出る蒸気の中、高志は呆然と立ち尽くすだけだった。
連続小説「夕陽をみているか?」つづく
04/08 #5/僕の太陽
タカミナこと高橋みなみさんのことが好きすぎてたまらないっていうか、どれぐらい好きかって言うと、その日はAKB48の公演が秋葉原の劇場であったのだけど、上手に踊れなくてちょっとメンバーと衝突しちゃうのね、タカミナが、で、売り言葉に買い言葉で、なんか「リーダー面してんじゃねえよ!」とか言われちゃって、そりゃあ秋元康に言わせると「AKB48とは高橋みなみのことである」なんていわれてるけど、面と向かって言われると、まるで自分がリーダーという地位にしがみ付いて調子に乗ってるようで、それを指摘されたようで悔しく、なんだか自分がAKB48にいらない存在なんじゃないかって気がしてきて苦しく、そんなことはない、みんなそう思ってはないって言い聞かせるんだけどやはりどこか心の奥底に引っかかるような、そんな思いを抱えて家路へとつく途中、電車の中で不思議な男に出会ってしまい、一応サングラスはしているけど周りの女子高生なんか「ほら、あれタカミナじゃない?」なんて噂してるんだけど、その男はipod touchでずっと何かの動画を見ているような、なんだろうって思って覗き込んでみると、AKB48のライブ動画で、そんなここに本物のAKB48がいて、周りの乗客も騒いでいて、私だってこんなに近くにいるのに、どうしてこの男はそんな小さな画面、それも旧型のipod touchの画面の私達に夢中なんだろうって思って、なんだか無性に腹が立って、ついつい男のipod touchを取り上げてしまい、男は驚いた顔で私を見て、私は私で誰もいない場所で一言言ってやろうと思い男に次の駅で降りるように伝え、男は素直に駅で降りてベンチに座り、私も横に座って男に問いかけた「ちょっとAKB48好きなんでしょ?だったらなんで私に反応しないの?」男は不敵な笑みを浮かべて口を開く「AKB48は好きさ、ただだからと言ってなんで君に反応しなくちゃならないんだい?」なんだか無性に腹が立ち、まるで自分がAKBの一員ではないって言われてるような気がし、「あなた推しメンだれよ?」とつい口に出てしまって、きっとこの男は推しメンが違うんだ、だから仕方がない、と納得しようとする浅はかな自分にも腹が立ち、その後に続く男のセリフに驚愕させられた「俺の推しメンはタカミナだよ」もう考えるより先に言葉が出てしまい「だったらどうして?」ともう顔なんて真っ赤だったんだろうなって勢いで怒りを顕にする自分に男はさらに不敵に言った「本当に目の前にいるのがタカミナならば僕だって驚き取り乱す。けれども君は本当にタカミナかい?」意味が分からず呆然としていると男はさらに続けた「自信を失い、迷っている君はタカミナじゃない、僕の知ってるタカミナはもっと男前さ、逃げたりなんかしない」なんだか涙が溢れてきて止まらなかったし、ずっとずっと迷っていたことを見透かされたような気分、男はその言葉だけを残して総武線に乗り込んで消えていく、去り際に「あの、名前だけでも」と問いかけると、男は「patoさ」とだけ答えて手を振りながら総武線は暗闇に消えて行き、ただpatoさんに対する私の思いだけが人のいなくなったホームを漂って、私は明日からどうやって生きていこう、もしかしたらリーダーの私が恋愛禁止条例を破ることになってしまうのではないか、うううん、片思いならいいんだ、私はとびっきり素敵な片思いをしよう、patoさんに片想いをしよう、なんて決心して次の日、AKB劇場に行くとメンバーのみんながゾンビになっていて、あっちゃんなんかもう土色になっていてパニックになっちゃって「どうしたの何があったの」って大声を出したら楽屋に変な男の人がいてもう目が虚ろで何か危ない感じで、よくよく見たらいつも公演や握手会で見かける気持ち悪い男で、男は私の姿を見て嬉しそうに笑うとこういった「タカミナもゾンビになろうよ、AKB48はもう腐り果てたんだ、だからゾンビになった、ZNB48として出直そう」何を言ってるんだか分からないけどその手に持ってるのはゾンビパウダーで、あれを食らったら私もゾンビになっちゃうってすぐにわかったわけで、ゾンビパウダーから逃げるようにズルズルと後ずさりするんだけど、気持ち悪い男も同じスピードで近づいてきて「さあ、ゾンビになろう」とまた言って、もうホント怖くて怖くて、横見たらまゆゆがドロドロに溶けたゾンビになってるし、今すぐ逃げ出したい気持ちになって逃げちゃおうって思ったんだけど、そこで思い出したの、昨日のpatoさんの「タカミナは逃げたりなんかしない」そう、私は逃げない、何から、目の前の男から、いいえ、AKB48から逃げない、って気づいて男に言ってやった「AKB48は腐ってなんかいない、腐ってるのはアナタでしょう?」って高らかに宣言すると男は怯んだ様子で今度は逆に向こうが後ずさりを始めてゾンビ化して横たわっていたこじはるに躓いて転び、はわわと情けない声を上げていて、こんな男を怖れていたことがバカらしく思えてきて、「さあ、皆を元に戻しなさい」って強い口調で詰め寄っていて、そしたらどこからか拍手が聞こえてきて男が部屋に入ってきて、それが私の愛するpatoさんだってことが分かって急に胸の鼓動が高鳴ってこれが恋なんだってよく分かって、patoさんがいう「それでこそ僕が好きなタカミナだ」って言葉もあまり耳に届いてこないくらいドキドキでもう胸が張り裂けそうでどうしていいのか分からなくて、ただpatoさんの深い蒼色の瞳を見ていたら吸い込まれそうで、そしたら気持ち悪いファンが、急に強気になったみたいでpatoさんにゾンビパウダーで襲い掛かって、危ないって思ったけどpatoさんは得意のクンフーでゾンビパウダーをよけつつ気持ち悪いファンを倒して、「逃げずに戦えて偉かったな、みなみ」って頭を撫で撫でしてくれて「さあ、メンバーを戻せ」って言ってくれて、けれども気持ち悪い男はそのまま死んでしまったのでメンバーはゾンビから戻らず、仕方ないので解散と言うことにして恋愛禁止もなくなったので私はpatoさんと結ばれた、っていう妄想を毎日8回くらいするくらいタカミナが好きです。
04/08 #4-BINGO!
このあいだ、ビンゴ大会があったんですよ。ビンゴ大会。どうも1年位前から、なんとか費っていう名目で毎月3千円くらい、自動掃除機ルンバみたいな顔しやがった職場のブスに強制的に徴収されると思ったら、毎年3月に行われる大お疲れ様パーティーみたいな盛大な職場飲み会のビンゴ大会の景品にあてるらしいんですわ。
職場の行事って物凄く気が重くて、なぜか僕だけ誘われない栗拾いツアーを筆頭に、行ってみたら僕にだけ連絡無しで中止になっていた飲み会、皆でサーカスを見に行くって参加費だけ取られて集合場所教えてもらえなかった、など盛り沢山。ハッキリ言って心の弱い人だったら職場のロビーで首吊ってるレベルで嫌われてますからね。
そんなこんなで、あまり良い思い出のない職場行事ですが、さすが1年近くも毎月集金しただけあって、料理もビンゴの景品もかなり豪華。カリブ海の旅とかアタック25みたいな景品を筆頭に、50インチのテレビにホームシアターセット、ipadやらルンバやら、最低でもipodくらい当たりそうなレベルでとにかく豪華でした。
このパーティ、毎年立食形式なんですけど、僕は喋るほど仲が良い人いないんでいつも飲み物と寿司が乗った皿を手に持って3時間くらい突っ立ってるという、いまどき罰ゲームでもうちょっと実りあることさせるぞって言いたくなるような立ち居振る舞いをしており、正直行きたくないんですけど、ビンゴ景品に釣られて行くことにしました。とにかくデカいテレビとホームシアターセットが欲しい。
当日、ネットでビンゴ必勝法とか探したんですけど、とくにこれといった成果も得られず、なんだか逆に緊張してきてウンコしたくなってくる始末。ウンコに時間を取られてしまい、危うくパーティーに遅刻するところでした。
以前に、遅刻して行ったら職場の偉い人に怒られ、そのままパーティーへの参加が禁じられた同僚がいましたから、とにかく遅刻だけはご法度です。急いで会場へと向かいます。何やら市内でも一番豪勢なホテルであるらしく、時間ギリギリにロビーへと転がり込みます。
どうやら時間にはギリギリ間に合ったらしく、もうみんな会場に入ってしまったみたいでロビーに人影こそありませんが、受付にはブスが二人立っています。早速そこで受付を済ませ、何やらビンゴカードをもらいます。どうやらここでビンゴカードをもらい、最後までお楽しみに取っておくスタイルのようです。
で、もらったビンゴカードなんですけど、まず気になったのが、誰の手によるものか知りませんけど、カードが手作りだったこと。こう、ちゃんと穴を開けやすいようミシン目まで入った素晴らしいものなんですけど、結構お金集めてるんですから市販のビンゴカード買って来いよとか思いました。
会場に入ると、皆が手に手に手作りのビンゴカードを持って立食パーティーを楽しんでおります。ハッキリ言って、立食パーティーにビンゴカードって狂ったように邪魔なんですけど、このチンケな手作りカードがあの会場隅に置かれている豪華景品に変わると思うと無下に扱うこともできません。むしろ宝だ。
そんなこんなで、何か偉い人の挨拶3連発も終わり、乾杯も済ませていよいよ歓談タイムへ。これがまあ、死ぬほど話をする人がいなくて地獄のような時間なんですけど、なんとかボーっと突っ立って気配を殺すことに成功。なんとかやり過ごすことができました。
そして、いよいよお楽しみのビンゴタイムです。若手が何やらとゴソゴソし始め、会場隅に置かれていた景品達もステージに運ばれ、ブスたちの司会によってついに始まります。ハッキリ言ってこのためにここに来たようなもの、期待で胸が高鳴ります。
なにやらチープな箱が出てきてブスがマイク片手にゴソゴソと箱の中に手を突っ込みます。
「25番!」
チープな紙を高らかに挙げて宣言するブス。
「ビンゴないですか?リーチないですか?」
一個目だからあるわけないのにそんなこといって笑いを誘うブス。それに応えて「ビンゴ!」と高らかに宣言する重役。会場一同、愛想笑い。そんな茶番はいいからさっさと次のやつ引けブス。
「14番!」
「76番!」
「33番!」
「ビンゴないですかー、リーチないですか?」
何個目かの数字が読み上げられたとき、ついに「ビンゴ!」ときました。海外旅行は見事お局さんがゲットし、周りから祝福されます。誰と行くんだよっていう疑問をよそに、お局さんの瞳には薄っすらと涙が。
海外旅行こそは逃したものの、まだテレビもipadもある。みんな気を取り直してビンゴに臨みます。
「61番!」
「10番!」
「84番!」
テレビもホームシアターセットも取られました。
「24番!」
「3番!」
ipadも取られてしまいました。
「75番!」
「30番!」
次々と数字が読み上げられていきます。あれよあれよという間にビンゴが続出し、次々と景品がなくなっていきます。そして、ついに最後のipodすらも取られてしまい。ビンゴは終了となりました。
え、僕のビンゴの結果はどうなってるかだって?
結構、大半の人が景品を手にしている中、景品を手にできなかった僕。それどころか、一つもビンゴカードに穴が開くことはありませんでした。なんでそんな事態に陥っているのか。いくらなんでも1つも開かないとかありえない。
皆が熱狂するビンゴゲームを眺めてて気がついたんですけど、「25番!」とか数字で皆が熱狂してるじゃないですか。なのにですね、僕のビンゴカード、全マスに歴史上の人物が書かれてるんですけど。「織田信長」とか「坂本竜馬」とか「中臣鎌足」とか。最初こそはあまりに様子がおかしいの何事かと思ったんですけど、中盤くらいで歴史上の人物に変わるのかなー、あららー次は豊臣秀吉でしたねーってなるかと思ってたら、最後までずっと数字でしたからね。そりゃ一つもあくわけがない。「フランシスコザビエルこい!」とか必死に念じてた自分が滑稽だわ。
考えても見てください。皆が34番!一番違い!おしい!とか熱狂してる中、僕のカードにだけ「紫式部」とかですよ。ムチャクチャシュールですから。
さすがにこれは酷いってことでパーティーが終わった後に受付のブスに「僕のビンゴカードだけ全部歴史上の人物だったんですけど!」と抗議したら、ブスが、「あ、最初は歴史上の人物ビンゴにしようと思って作ったんですけど、大変だったから1枚作ってやめちゃったんですう~」と言われました。やめちゃったんですう~じゃねえよハゲ。金返せ。
もう、ホント、職場の行事って本当にロクなことがない。頭にきたのでブスどものデスクに5個並べて脱糞して、ビンゴとかしてやろうかと思ってます。
04/08 #3-会いたかった
死ぬほどの帰省ロードを潜り抜け、実家へと帰り着くと、親父が酒かっくらって寝てました。息子が死にかけていたというのに、とんでもない親父だ。別に会いたくはなかったけど、まあ、会わないなら会わないで色々と面倒くさい。
で、なんとか親父を起こし、帰省したことを告げると、親父はまた酒を飲みながら神妙な面持ちになって口を開きました。
「実はな、お前に言わなければならないことがある」
たまに帰省して、いつもはチャランポランな親父の真面目な口調。ただならぬ深刻な事態であることが予想されます。
「な、なんだよ」
すごく心配で、まさかとんでもない難病にかかってるとか、もう余命いくばくもない、とかそういったことを想像してしまい、本気で心配になるのですが、なぜかぶっきらぼうな態度をとってしまいます。重苦しい空気が部屋の中を支配する中、さらに親父が口を開きます。
「お前は10000分の1の奇跡を信じるか?」
もう決定的でした。たぶん親父は何らかの難病で、完治する可能性はなく、その確率は10000分の1。ほとんど死の宣告に近い告知をされたに違いありません。もう頭の中がグワングワンしてくるのですけど、とにかく親父を元気付けねばなりません。
「確率ゼロじゃないのならどんなことだって起こり得るさ」
よく覚えてませんけど、そんなことを言ったと思います。色々と辛いけど、本当に辛いのは親父のほうだ。僕がしっかりと受け止めてあげ、親父の余生を充実して過ごせるようにしてあげるべきだ。僕はそう決心していました。
「落ち着いてきいてくれ」
ユックリと、まるでそこに言葉を置いていくかのように落ち着いて淡々としゃべり始めた。
「ワシがB型なのは知ってるな?」
まさか、親父は血液の病気なのか?白血病とかそういった類のものなのだろうか。
「うん、知ってる」
僕は深くうなずいた。
「死んだお前の母親はO型だった。これがどういう意味かわかるか?」
親父は言い辛そうに言い切った。何やら様子がおかしいが、僕は素直に答えた。
「わからん」
すると親父は、まるで言い訳するように切々と喋りだした。
「ワシ、調べたんだわ。ワシは調べたんだ。B型とO型からはAB型は生まれない、ってことをな」
「え…」
固まる僕。親父は続けた。
「つまり、お前はワシと母さんから生まれないはずなんだ!」
衝撃だった。まるで後頭部を鈍器で殴られたような鈍い衝撃が走った。そんな、まさか、何かの間違いだ。親父が、親父が、そんなはずはない。幼少期からの様々な思い出が頭の中を駆け巡った。何かの間違いだ。何かの間違いであって欲しい。
沈黙から生まれる静寂が辺りを包む。その静寂を破るように親父は続けた。
「でもな、さらに調べると、何万分の一かの確率でBとOからABが生まれることがあるらしい。きっとお前はそれにちがいないんだ。だから気にする必要はないぞ、お前は奇跡を持って生まれてきたウチの子供だ」
衝撃の事実を突きつけられた僕は言った。
「いや、俺、B型だし」
ずっと僕の血液型を間違って覚えていて、何万分の奇跡とか訳の分からないことを言っている親父が衝撃だった。ウチの親父、狂ってる。
04/08 #2-スカート、ひらり
みなさん、2011年のお正月はどのように過ごしたでしょうか。家族で団欒コタツに入って寝正月という人もいたでしょう。襲来する口うるさいヤクザもどきの伯父に怯え、たった6畳の自分の城で毛布を被って震えていたニートの方もいたでしょう。世の中を動かすために働いていたなんて方もいたでしょう。皆、それぞれのお正月を過ごしたのではないでしょうか。
では、わたくしpatoはその時、どんな正月を過ごしていたのかお話しましょう。今これを読んでいる方の中には、紅白などテレビ三昧で年明けを過ごした、なんて方が少なくないでしょう。その時に思い出してください。年の瀬も迫った頃、紅白も終わり、行く年来る年でも観ようかななどと考えていると、合間の時間に軽やかにニュースでもやっていたかもしれません。そこでこんなニュースを観た記憶がありませんか。
鳥取県、記録的大雪!1000台超の車が国道に立ち往生!
大晦日から僕の生まれ育った故郷である鳥取に記録的な大雪が襲い、動けなくなった車が国道で立ち往生。12月31日から1月1日まで立ち往生する車の中にはガソリンがなくなる車もあり、自衛隊までもが出動する騒ぎに。正月から車の長蛇の列がテレビなどに映し出され、寒いのに大変ね、お正月からマヌケねー、なんて年越しソバでもすすりながら見ていたと思います。そうですね、マヌケですね。
ええ、その長蛇の車列の中に僕、いました。
いやいや、正確に言うと、その長蛇の中にはいなかったんですけど、とにかく、あの大雪の中身動きできなかった人々の中にいました。
その日は僕が生まれ育った鳥取県に帰省するため、車に乗って我が実家へと向かっておりました。なんだよ、patoってキチガイのくせに正月は実家に帰省するのかよ。ガッカリだぜ、お前は帰省じゃなくて奇声だろうが、オラ、奇声上げてみろ、などと思われる方もいるかもしれませんが、落ち着いて聞いてください。
僕だって別に帰省したかないのですが、ハッキリ言ってウチの親父って狂ってますからね。帰省せずに穏やかな正月を過ごしていると10時間かけて電車に乗ってきて、物凄い勢いでアパートのドアをガンガン叩かれることになるんですよ。そうなる前に早目に手を打って帰省しておかないと大変なことになるんです。
そんなこんなで、なんとか年越しを実家で迎えられるよう、前日の30日の夕方に我がアパートを出発しまして、ムリムリと車を運転して鳥取へと向かったのです。まあ、かなりの時間がかかってますから、当然途中で眠くなりますわな。どこかの山中の駐車場で車を停めて仮眠をし、目が覚めると31日の朝になってました。この時点で周囲には1ミリも雪が降ってなかった。
さあ、実家に向けて出発だ!って思うんですけど、もう、ここからが良くなかった。途中、魅惑的なパチンコ屋がありましてね、それこそ緑ドンでも打ってクソみたいに大爆発させ、親父にマッサージチェアの一つでも買ってやろう、なんて親孝行したい色気を出したのが間違いでした。ホント、ただ親孝行したかっただけなのに。
もう数時間かけてケツの毛まで抜かれる結果になっちゃいましてね。何がアマゾンゲームだって感じで時間と金を思いっきり搾取されてしまったんです。で、店を出ると雪景色ですよ。今まで緑ドンでVIVA南米!とか言ってたのが嘘みたいに辺り一面が真っ白な世界なんです。
ただまあ、別にこの山陰地方で雪が降るってのは珍しくもありませんし、雪景色といっても薄っすらと積もった感じで車の走行に全く支障はありません。雪も降りますし、早目に実家へと帰りますかな!といった感じで車を運転し始めました。
しかし、なにやら様子がおかしい。最初こそは、結構降るねとか思っていたんですけど、どんどんシャレにならないレベルに。どれくらいかって言うと、信号待ちの間にワイパーを止めていたら、フロントガラスが雪で覆われて前が見えないレベルといったら良いでしょうか。
あのですね、こういうこと書くとすぐに雪国在住のキチガイどもが「そんなのオラの村では普通だっぺよ」とか誇らしげにアピールしてくるんですけど、そんなのシティボーイの僕には全然関係ないことです。とにかくとんでもない雪だったんですよ。
で、しばらく国道をひた走っていると、何やらさらに様子がおかしくなってくるんです。どうにも車の流れが悪い。なんだか、渋滞しているみたいなんです。これは後で分かったことなんですが、どうもあまりの雪にスリップしちゃったタンクローリーが、そのまま横向きになって道路を塞いでしまい、さらにそのタンクローリーが雪にはまって動けなくなってしまったみたいで、完全に流れが止まってしまったんです。都会っこどもは雪にはまるっていう概念がイメージしにくいと思いますが、わしら雪国の人間からしたら大変恐ろしいものだっぺよー。
恐ろしいことに、単純にタンクローリーが道を塞いだだけではなく、とにかく1時間に40センチは積もろうかっていうペースの降雪ですから、渋滞して止まってる車列の周りにもドンドン雪が降り積もっていき、もう、全ての車が雪に埋まった状態になってしまうんですよ。そうして、国道に数千台の車が立ち往生、みたいな状態が出来上がってしまったのです。
聡明な僕は、もう国道の流れが止まった瞬間に、やばい、これはここに停車したままだと雪に埋まって身動きが取れなくなってしまう、と誰よりも早く判断。停まって雪が積もることがないよう、小刻みに前後に動くという、なんか映画バックトゥザフューチャー3のラストのビフの孫みたいな状態になってました。
で、なんとか周りの車が雪にはまってにっちもさっちもいかなくなっている状態の中でも、なんとか動ける状態を死守。でも、いくら動けるといっても前後に車がビッシリの状態ですから、なんとかこの国道から離脱しなければいけません。
幸か不幸か、僕が渋滞にはまった場所が周囲にあまり建物がないカントリーな場所でしたから、国道と並行して走るローカルな道路が少し先に見えました。どうやらあちらの道路は渋滞もしてなく、ユックリですが車が流れているようです。あっちの道路に行くしかない。
みると、少し先に交差点があります。あそこを左折してビクトリーロードに乗るしかありません。ということで、動けなくなっている車を尻目にムリムリと、少し歩道に乗り上げる感じ無理やり件の交差点に向かいます。立ち往生している車の人々は、「なんでアイツこの雪の中で動けるんだよ」という顔で見てくれるのでかなりの優越感です。
なんとか交差点に到達し左折に成功。かなり雪が積もっていて気を抜くとはまって身動きできなくなりそうですが、そこは勢いをつけて通過することでなんとかビクトリーロードを目指します。ここまではかなり勝算ありの行動だったのですが、結果的にここからが大誤算だった。
ビクトリーロードへと続くこの脇道も、同じことを考えた数台の車が連なっており、このままでは立ち往生してしまいそうな雰囲気。もう駄目か、このまま立ち往生か、と諦めかけたその瞬間、僕の眼に解決策が飛び込んできたのです。
「ラブホテル 海辺の恋」
これだ。とんでもない直感が走りましたね。普通、こういったカントリーな場所にあるラブホテルってやつは表側の入り口とは別に裏側にも入り口があるものです。たいていその裏口は人通りの少ない路地に繋がっているわけで、ラブホテルの中を通り抜けることによって脇道の裏道、さらに人通りが少ないマイナーロードでビクトリーロードに到達しようと目論んだわけなんです。
というわけでいざ鎌倉へと言わんばかりにハンドルを切り、「welcome!」とか安っぽく書かれたスダレを突破してラブホテルの敷地内に侵入します。すると中は田舎にありがちなモーテル風の造り、車が通れる通路があってその左側には部屋に車で直接横付けできるよう、駐車スペースが立ち並んでいました。突き当たりで通路が折れ曲がっているので窺い知ることはできませんが、目論見どおり通路の向こうは裏口に通じているようでイケル!と確信しましたね。
ラブホテルなんて縁がない場所ですが、こんなところで役に立つとは、人生何が役に立つのかわかったもんじゃないなとか考えながら裏口に向かって通路を爆走した瞬間。事件は起こりました。
ズモモモモモモモ
どう考えても柔らかい新雪を踏みしめた時みたいな物凄い音がしました。そしてそのまま全く動かなくなってしまいました。明らかに雪にはまった。それもタイヤがはまったとかそんなレベルのお話ではなく、車全体がはまった。
どうもこのラブホテルに突入した選択が間違っていたのですが、その中でもさらに選択を間違えたようで、このラブホテル内でも裏口に通じる道が名神高速京都手前みたいに右ルートと左ルートがあるみたいなんですが、選んだ右ルートが雪かきを全くされていない、おまけに誰も通らない、屋根からも雪が落ちてくると、ものすごい雪が積もりまくってる状態だったんですね。逆に左ルートのほうは、様々な客が通り、従業員も雪かきしたんでしょう、あまり雪がない状態だったんです。こっちを通っていれば難なく裏口にいけたのに。
そんなこんなで、大晦日に雪の中で立ち往生ってだけでも泣けるのに、なぜかラブホテルの敷地内で立ち往生、というとんでもない状態に。このままでは色々と大変ですので、なんとか車を降りて押したりしてみるのですが、もうタイヤがはまってるとかそんなレベルではないのでビクともしません。
仕方ないので、ラブホテルのフロントに行き、スコップとか借りて雪かきするんですけど、雪をかくより早いペースで降り積もっていくものですからもう大変。死ぬほど寒いし手足の感覚はなくなるしで、ちょっと諦めて車内に戻って暖房で暖をとっていました。
すると、不憫に思ったのかラブホテルの従業員総出で、普段はシーツとか直してて「若い人はお盛んでいいわねえ」とか言ってそうなおばちゃんがワラワラ出てきて車の周りを雪かきしてくれました。けれども、1時間くらい格闘し、もう辺りも暗くなってきてさらに雪の勢いは強まり、紅白とかも始まっちゃってるんですけど、全然動ける気配がなくて、諦めムード。従業員のオバちゃんたちは「JAF呼んだほうがいいわよ」と言い残してラブホテル内へと消えていきました。
一応、JAFに電話してみたのですけど、さすがにこの大雪であちこちから出動要請がかかっているらしく、12時間待ち、とかもはや待ち時間じゃない時間を告げられました。もう諦めて車の中で紅白見てた。
しかし、こんな年の瀬、しかも大雪の中でもセックスしたい人はしたいものなんでしょうね、生きてる方のルートを使って、けっこう客の出入りがあるんですわ。ブワーッと車が入ってきて、部屋に消える。しばらくすると出てくる、という様子をずっと車の中から観てました。
あるカップルが、生きてる方の部屋から出てきて生きてる方のルートを使って出て行こうとしたのですが、さらに激しくなった雪のせいで雪にはまっちゃったんですよね。いよいよ生きてる方のルートも死が近づいてきたか、とか思いつつ、救出に向かったわけなんです。
「押しましょうか?」
そう訊ねると、カップルの男のほうが
「よろしくお願いします」
とか答えます。ついでに助手席にのっていた女性のほうも、「私も押すの手伝う!」と降りてきました。男のほうは僕と同年代くらいのサラリーマン風、女性のほうは20代半ばくらいで大人しそうな女性でした。っていうか、こいつら部屋から出てきたってことはさっきまでおセックスしてたんだよなーとか考えたらパンパンに勃起しちゃいましてね、自分で押すって言っておきながら勃起がすごくて全然押せなかった。
さらに、一生懸命押してる女性のスカートが風でヒラヒラしてですね、もう押すどころの騒ぎじゃない。むしろオスだよ、とか思いながら、なんとかカップルの車は脱出に成功。
「ありがとうございます、このホテルの人ですか?」
「いえいえ、僕の車もはまっちゃったんでついでです」
「あ、手伝いますよ。押しましょうか?」
とか、サラリーマンも張り切っちゃってるんですけど、もう半分くらい雪に埋まりかかってる僕の車を見て、普通に諦めてました。しかも帰り際にカップルで
「ねえ、なんであの人、ホテルに一人なの?」
「し!そういうこと言っちゃ駄目!世の中にはプロのお世話になる人がうんぬんかんぬん」
みたいなとんでもない陰口を叩かれてました。
そんなこんなで、車の中で暖を取りつつ紅白を見て、そのまま年越し、僕も色々な年越しを経験しましたけど、まさかラブホテルの駐車場で腹をすかせながら年越しするとは思わなかった。
テレビでは、自衛隊が燃料の補給や食料の補給に出動した、とかやってましたけど、ぜったいにラブホテルの中まできてくれねーや、と諦めの境地に達してました。ダメもとで親父に電話し
「実家の近くまで帰ってきてるが、雪にはまって動かない。助けに来てくれ!」
と電話したら
「寒い」
と電話を叩っきられました。深々と降り積もる雪の中、漠然とCDTVを眺めつつ、なぜかラブホテルのオバちゃんが差し入れてくれたドンベエを食いながら、年を越したのでした。ちなみに、実家に帰りついたのはこの24時間後です。
04/08 #1-桜の花びらたち
僕はまあ、未だにミサンガとか10回10回クイズとかが大ブレイクしているクソ田舎に住んでるんですけど、この間、何を思ったのか一発奮起して東京に行ったんですよ。まあ、いわゆるオノボリさんってやつでして、イナカモンよろしくで魔都東京に行ってきたんです。
でまあ、何をしに行ったのかって言うと、言うまでもなくAKB48劇場に行って公演を見たいって気持ちがありましてね。何年か前にエレベーターを間違えて乗ってしまって劇場の裏手みたいな場所に無断侵入してしまって出入り禁止になったほろ苦い経験があるんですけど、まあ、そろそろ罪は赦されただろう、贖罪は済んだんだわ、という甘い考えのもと、とりあえず東京に行ってみたんです。
羽田空港に到着し、新しくできた国際線ターミナルを眺めながら「東京はおそろしかとこバイ」とか訳の分からないことを呟き、勝手に自分の中で東京スタイルだと思っている「電車の中でモンハンをする」という最先端のトレンドを体感しつつ、あれよあれよというまに秋葉原に到達しました。
僕が前に秋葉原に来たときってのは、まだ駅も小汚くて、駅前にはリストカット跡が無数についてるようなメイドが、まさに冥土と言わんばかりにチラシを配っていたんですが、なんかしばらく来ないうちに物凄く近代的になってました。こりゃもうオタクの町じゃねえよ、あの頃のナイフみたいな秋葉原はどこに行っちまったんだと呟きながらAKB劇場を目指します。
秋葉原駅から歩いて7分くらいでしょうか、ドンキホーテビルの8階にAKB劇場があります。久々にやってきたぜ、と意気揚々とビルに近づくと、何やら異変が。こう、なんていうんですかね、例えば軍人ってムチャクチャ訓練されてるじゃないですか。こう、ナイフとか出されてもシャシュ!って感じで簡単に捌いちゃうでしょ。そういった強さって明らかに軍人の魅力なんですけど、もっとこう、別の魅力があって、たまに訓練された軍人が初対面の相手に「こいつタダモンじゃねえ」みたいな気配を感じるシーンがあるじゃないですか。あれが死ぬほどカッコイイんですよ。
で、僕もそういった訓練された軍人みたいに、コイツ、タダモンじゃねえみたいな気配を感じ取るんですけど、とにかくその数が多い。タダモンじゃねえのがウジャウジャいやがる。なんかドンキホーテ前の歩道を埋め尽くすようにその道のプロみたいなオタクの方々がたむろっているんですよ。訓練された軍人も裸足で逃げ出すレベル。
なんでこんなオタクの方々がいるんだ、出待ちでもしてるんかいなと思いながら近づいてみると、みんな手に手に分厚い、それこそ鈍器のように人を殴り殺せるんじゃねえかっていう重量感のあるファイルを持ってるんですよ。で、そのファイルをウットリといった恍惚の表情で眺めながら仲間たちと口々に談笑ですよ。
「お、この写真いいね」
「いやいや、○○さん(なんかモイスチャーっぽい名前)の写真こそ」
会話を盗み聞きしているとですね、どうもAKB劇場で売りに出されているAKBメンバーの生写真トレーディングカードみたいなのを狂ったように見せ合ってるんですよ。いや、狂ったようにじゃなかった、ある意味狂ってた。だって、完全に歩道塞いで大人たちが生写真を見せ合ってるんですよ。もう意味が分からない。それならチンコでも見せ合ってたって方がまだ納得できる。
そんなこんなで、あまりに異様な光景にブルっちゃいましてね。早い話、その異様な光景にビビったし、その光景の横で普通に日常生活を営む東京の人にもビビったしで、早い話、東京に飲まれちゃったんだと思います。
で、あまりにも怖いもんですからちょっと離れた場所で、その剛の者たちの集団を眺めていたんですけど、ホントにみんな熱心に生写真をトレーディングしてるんですよ。あっちで交換、こっちで交換、望みの写真を手に入れて喜ぶ者、生写真を求めて右往左往する様はさくらの花びらのようで、桜の花びらたちが咲く頃、どこかで誰かがきっと祈ってるとか訳の分からないこと考えてました。
で、腹減ったんでどこかで飯でも食おうと思ったんですが、東京の店って怖いじゃないですか。東京は恐ろしい街で男でもレイプされることがあると聞きます。怖くて店とかはいれないので、結局コンビニでお茶とオニギリかって食いました。
腹が満たされると、まあちょっと勇気が出てくるというか、ここで怖気ついてちゃ7万円くらい払って飛行機に乗ってきた意味がありませんので、なんとかAKB劇場にいかねばという気持ちになってきたんです。で、ドンキホーテビルに近づき、オタクどもの結界をぶち破ってビル内に入り、ムリムリとエスカレーターを昇っていきます。
なんか、5階くらいにAKBショップみたいなのがあって、多くの人々がオイルショックのときのようにAKBグッズを買い漁っているのを眺めつつ8階に到着。8階にはビルの外以上にオタクな方々がひしめき合っており、もう熱気ムンムン、将棋倒しが起きそうな勢いで満員御礼の状態になってました。僕の住むミサンガ流行のクソ田舎にイオンができた時みたいな状態になってました。よくわからんけど。
で、そのひしめき合ってるオタクたちがなにやっているかというと、そうです、生写真の交換です。他にすることないのか。ただでさえクソ密集している場所なのに、アクロバティックにファイルを出してですね、
「○○さん(なんかキー坊みたいな名前)、まゆゆ余ってません?」
「ないよ」
「フヒヒヒ」
みたいな会話を展開してました。こんな満員電車みたいなところでやらずに外でやれよ、とか思っていたら劇場スタッフと思わしき人がやってきて「トレーディングは11時まで」とか書かれた紙を掲げて大声で叫んでるんです。
「トレーディングは11時までです。ファイルを閉じてください!」
とかなんか、トレーディングの時間は劇場側で決められているらしく、小学生レベルの注意を大声で言ってるんです。でまあ、小学生ならまだマシで注意を聞き入れてファイルをしまったりするんでしょうが、オタクどもはそうはいかない。あれだけ盛んにトレーディングをやめるように言われてるのに、聞こえてないと言わんばかりに熱心にトレーディングですよ。
そのうち、劇場スタッフの声も荒々しくなってきましてね。僕のようなトーシローはその益荒男ぶりに怖くなってブルってるんですけど、オタクどもは恐れない。むしろ劇場スタッフという体制に反抗する俺たち、レジスタンス、みたいな誇らしい顔してるんですよ。誇らしい顔しててもやってるのは生写真のトレーディングなんですけど。
結局、どんどん猛々しくなる劇場スタッフに、全く聞き入れないオタクという対立構造。それでいて満員電車並みにギュウギュウという訳の分からないシュールな状態に。
「しまってー!ファイルしまってー!」
「まゆゆ余ってますかな?」
最終的には、怒りがリミットブレイクした店員が人込みを掻き分けて接近してきて
「オラー!ファイルしまえ!」
ってまるで叱り付けるように怒鳴ってました。なぜか僕に。何もしてないのにいきなり怒鳴られた僕は、東京という町の暴力性に震えながら
「いえ、あの…」
とか、出入り禁止になった思い出がフラッシュバックし、マゴマゴしていると、何かしらない妙に正義感に燃えているオタクが僕の近くにいたみたいで、なおかつ、僕のことを劇場スタッフの指示に従わない悪質なオタクと勘違いしたみたいで、いきなり僕に掴みかかってきて
「オラ!ファイルしまえって言ってんだろ!」
と、目を合わせずに凄まれました。いや、ファイル自体持ってませんがな。
それにしても東京こえーと思いつつ、掴み掛かってきた正義感オタクの腕を見ると、ミサンガが巻かれていました。やっぱり東京は怖いところだ。
つづく
11/04/08 #0-overture
現在執筆中、しばらくお待ちください。lllllll
46705344 19:00
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