Numeri

1/7 嵐の中で

ウチの家は、非常に夫婦仲が悪くお父さんとお母さんはいつも喧嘩をしていました。なんというか、夫婦喧嘩が日常だった。まるで習慣のように夫婦喧嘩をしていた。

もうアレは、喧嘩の原因とかそういった低次元な物ではなかったのだと思う。親父も母も、なにか漠然とした義務感に駆られ、なんとなく今日も喧嘩しなきゃな、っていうフィーリングで喧嘩していたのだと思う。もはや二人にとって喧嘩は日課、そんな感じだった。

夜中に物音がし、目が覚めると親父とお母さんが喧嘩しており、親父が母に馬乗りになってマウントポジションから殴る蹴る、なんてハードコアな場面に遭遇することも少なくはなかった。

ある秋の日。その日は僕の住む山陰地方を、戦後最大級の台風が直撃していた。深夜に直撃した台風は、小さな田舎町を襲う。その強風は家々の瓦を吹き飛ばしたり、ガラスを割ったりと大変なものだった。

親戚のアル中のオジサンなんか、台風の中酒を購入しに行き、強風によって運ばれてきたビンビールケースが直撃し、帰らぬ人となった。それほどに猛烈な台風だった。

さて、そんな台風の中、我が家ではいつものように夫婦喧嘩が執り行われていた。台風であろうが強風であろうがいつもと変わることなく喧嘩をする父と母。なんというか、ちょっとしたプロ意識ではないだろうか。台風だって喧嘩は休まない。やってやるぜと言う気概がビンビンに伝わってくる。

外では信じられないような強風が吹き荒れ、大粒の雨滴が激しく窓を打ち鳴らす。ヒョウウウウウという恐ろしいまでの風の鳴き声が聞こえ、ガタガタと窓を揺さぶる。そんな見紛う事なき嵐の中で、ハードコアに罵り合い喧嘩をする父と母。なんというか、家の中も外も嵐だった。

幼い僕と弟は、そんな家の外の嵐に怯え、さらには家の中の嵐にも怯えて、二階の部屋で布団をかぶってブルブルと震えていた。台風によりとうに停電しており、部屋の中は真っ暗。1階の居間でハードコアな喧嘩を繰り広げる両親のドタンバタンというバイオレンスなサウンドや、嵐による風音や雨音に怯える幼い兄弟。そして暗闇に怯える。なんと不憫なことだろうか。

台風による雨風の音はクライマックスを迎え、そして階下で喧嘩をする両親の怒声もクライマックスを迎える。台風のほうは一向に収まりそうな様子はないが、喧嘩のほうはそろそろ終わりそうだ。

案の定、いつものように父が勝利を収め、喧嘩は終わったようだ。二階にいる僕らに階下の喧嘩の様子は分からないのだが、おそらく母はシクシクと泣いているのだろう。相変わらず、雨風は激しく窓を打ち付けていた。

その瞬間だった。

ドドドドドドドドドドドドド

ものすごい勢いで親父が階段を駆け上がってきた。まるで獣のような動きで駆け上がってきた。母との喧嘩に勝利を収め、興奮状態にある父が、アドレナリンをビュンビュンに分泌させて駆け上がってきた。

「おい!台風だ!台風!」

興奮状態にある父は、幼い兄弟が震える二階の部屋に入ってくると急に叫びだした。そんなこと言われなくても、台風が来ていることぐらい分かりきっているのだが、興奮しているキチガイ親父にそんなことは関係ない。

「窓ガラスが割れるぞ!なんとかしろっ!」

と物凄い大声で叫び始めた。台風の音よりも、親父の大声のほうが怖い。

なぜに親父が「窓ガラスが割れる」ことを心配しているかと言うと、我が家の二階には、貧乏な家に似つかわしくなく西向きの大きな窓があったのだ。金持ちの家にありそうな大きな大きな窓が。

そして、その窓が台風からの西向きの強風を受けて、グワングワンとあり得ない音をだして軋んでいた。このままではあまりの強風を支えきれず、そのうち窓が割れてしまう。親父はそう判断したのだろう。母との喧嘩が終わった直後に窓が割れる心配をする。家のことを心配しているのかしてないのかよく分からん人だ。

「と・・・とにかく窓を押さえろっ!!」

雨風を避けるための雨戸なんて洒落た物はついていなかった我が家の窓。とにかく風に負けて窓が割れてしまうのを防ぐためには窓を押さえるしかないと親父は判断した。それがどれほどの効果があるのかは分からないが、とにかく押さえるしかなかった。

「くぉっ・・・・・・!!!」

震える兄弟を尻目に、興奮状態にある親父は必死で窓を押さえる。ものすごい勢いで力を込めて窓を押さえる。窓の先には闇夜が広がり、葉っぱや紙屑などが風に吹かれて舞っていた。そんな異常な闇夜をバックに、必死で窓を押さえる親父の姿が異形のバケモノに見えて恐ろしかった。

「おいっ!早く手伝え!」

親父の異様な姿に驚き戸惑う幼き兄弟に、親父の怒声が襲い掛かる。問題の大きな窓は、西向きに二枚つけられていた。親父一人ではどう頑張っても一枚しか押さえる事ができない。もう一枚のほうは押さえられることもなく無防備な状態なのだ。僕か弟、どちらかがもう一方の窓を押さえろと要求していた。

弟は、両親の喧嘩と台風という二大暴風にショックを受けており、とてもじゃないが窓を押さえられる様な状態ではない。必然的に僕が押さえることになる。押さえることに何の意味があるのか分からないが、押さえるしかない。興奮した親父に何を言っても無駄だ。

嫌々ながらも窓のほうに駆け寄り、親父の横に並んで窓に手をかける。窓の中央あたりに手をかけて、そっと押さえつけてみる。

驚くことに、強風を受けた窓は、まるで飴のように柔らかくしなっていた。風を受けてボワンと押さえている自分側に向かって窓がしなっているのだ。硬いはずのガラスが、柔らかいものであるかのようにしなっている。なんというか不思議な感覚が僕の手に伝わってきた。

「そんな力じゃダメだ!もっと力いっぱい!!!」

ほとんど力を込めていなかった僕に対し、親父がまるで窓押さえ職人のように分かったような口調で指示する。それでも僕は、力いっぱい押さえる気にはならなかった。柔らかくしなっている窓を、さらに力強く押そうものならそれだけで窓が割れてしまいそうだ。怖くて力を入れる気にならなかった。

「こうやるんだ!ぐおっ!!!!」

 

必死の形相で力を込める親父。その横で力を込めるフリをする僕。そうやって並んで窓を押さえる親子。真っ暗な部屋の中。外ではビュウビュウと風が吹き荒れている。弟は恐怖で震えている。なんとも異様な光景だった。

ビュオオオオオオオオオオ!!!

一層風の力が強まる。それを受けて、しなる窓もこれまでにないレベルに。もはや限界。もうダメなんじゃないだろうか。と思ったその瞬間だった。

バリン!!

僕が押さえていたほうのガラスが、いともあっけなく割れた。ビックリするぐらい脆く割れた。その刹那から台風の温かい湿った風が部屋内に流れ込む。割れたガラスの破片がパラパラと畳の上へと舞い落ち、僅かながらの夜の光に照らされてキラキラと瞬く破片たちのクリスタルナイツ。などと言っている場合ではない。

「お父さん。割れちゃったぁ」

と、横にいた父を振り返ったその刹那。

バリン!!

父が押さえていたガラスも限界がきたらしく、割れてしまった。ものの見事に割れた。

僕とは違い、必死に力を込めてガラスを押さえていた親父。ガラスが割れたことによりその力の行き場がなくなってしまった。そのまま押さえていた勢いで前のめりになる親父。バランスを崩し、そのまま先ほど割れたばかりの窓枠を乗り越えてしまった。

「グオッ!!!!」

という情けない悲鳴と共に、ゴロゴロと瓦の上を転げる親父。ガラスで切ったのだろう、手からは赤い鮮血がドクドクと流れ出していた。そのまま傾斜のついた瓦屋根を親父が転げる。割れた親父側のガラスの破片がパラパラと畳の上へと舞い落ち、僅かながらの夜の光に照らされてキラキラと瞬く破片たちのクリスタルナイツ。転げる親父のクリスタルナイツ。などと言っている場合ではない。

ゴロゴロゴロ ズドン グハァ イテテテテテ

異様なサウンドが下から聞こえる。そう、ここは二階。先ほどまで必死で窓を押さえていた親父が二階から落ちてしまったのだ。これは只事ではない。

急いで階段を駆け下り、一階にいた母親に報告しようと思った。子供の力ではどうにもならないので、母に報告してなんとかしてもらおうと階段を駆け下りた。

一階に下りると、母は先ほどの親父との喧嘩に負けたためか、シクシクと泣いていた。押入れに積み上げられた布団たちに寄りかかるようにして泣いていた。母の涙に一瞬ひるんだ僕だが、やはり緊急事態だ、報告せねばなるまい。

「お父さんが、二階から落ちたぁ」

それを受けては母は。

「そんなのほっときなさい!」

と冷徹に言い放った。喧嘩に負け親父のことが憎かったのだろう。冷徹に突き放したのだ。

母にそう言われてしまっては僕にはどうすることもできなかったので、大人しく二階に戻り、布団の中で震える弟の横でまた僕も震えていた。割れたばかりの二枚の窓から強風が吹き込み、キラキラと畳の上で破片が瞬く部屋で。真っ暗な中ただただ震えていた。

割れた窓の下のほうからは、イテテテテテテテと先ほど落ちた親父の苦痛の声がしばらく聞こえていた。


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