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マレーシアからの刺客 4/5の日記より抜粋

マレーシアからの研修生が職場にいる。遠いマレーシアの地からこんなチンケな所に来ていったいどういうつもりだ、嫌がらせか?どうせ観光目的で日本にやって来るんだろ、などと言いたくなるのですが、職場の皆の予想に反してそのマレーシアからの研修生は思いの他勤勉で真面目でした。

その彼、便宜上マレー君と呼びますが、マレー君は真面目の塊のようなマレーシア人でした。なんかマレー君が来るからとか言って用意されたマレー君のデスクは木の机。ボロボロの木の机なんです。みんなが金属製のオフィスチックなデスクなのに、マレー君だけ木の机。しかも誰かが彫った「SEX」とか粋な彫刻が施されている木の机。

僕が遠い異国の地でこんな木の机を与えれられたら泣きます。外国人に対する虐めだと感じ、シャワーを浴びながら泣いたりすることでしょう。でもマレー君は違った。

嫌な顔一つせずにボロボロの木の机で作業するマレー君。なんとも眩しい。僕も遠い異国の地で理不尽で不当な扱いを受けようともマレー君のように輝いていたい、そう思うほどマレー君は素敵だった。

そんな素敵なマレー君にも二つだけ欠点があった。

一つは真面目すぎるという点。
毎日朝も早くから休憩も無しに木の机で夜遅くまで作業作業。狂ったように作業作業。一体何が彼をここまで追い込んでいるのだろうかと思いたくなるほどマレー君は働いた。

さあ、そこで困ったのが上司ですよ。マレーシアから預かった大切な研修生が過労で倒れられたりしたら目も当てられない。日本はマレーシア人を奴隷のように働かせる国なのか〜とか国際問題にまで発展しかねない。それは困る。なんとかマレー君にも息抜きというものを覚えさせたい。上司はそう思ったのでしょう。何故か僕がマレー君の教育係に任命されたんです。

まあ、勤勉すぎるマレー君に不真面目な僕。両方の中和を狙った作戦なのではないかと思うんです。いわば僕は不真面目の日本代表だね。

で、その日から僕は熱心にマレー君の面倒を見ましたよ。仕事のサボり方から手を抜く方法。ミスを巧妙に隠蔽する方法。パチンコ屋に連れて行ったりとかもしました。

それ以来、マレー君も垢抜け、数ヶ月もすれば立派なダメ研修生が出来上がっていました。仕事サボりまくりの無責任研修生。どうやら僕は与えられた任務をまっとうできたようです。

二つ目の欠点は、日本語が通じない。というところでしょうか
いやね、日本語なんてどうしようもない言語です。いまやお互いに英語で会話するべきだと思いますよ。しかし、お互いに頑固な僕とマレー君は譲らない。マレー君は頑なにマレーシア語を、僕は頑なに日本語を。それ以外は使おうとしないんです、お互いに。

僕 「日本に来たら日本語使いやがれってんだ、コンチクショウ」

マレー 「ニホンゴムズカシイ、ワカラナイ(マレーシア語推測)」

互いに歩み寄って意思の疎通をしようとしない二人。これでよくもまあ教育係が務まったものです。身振り手振りでコミュニケーションを取る変態日本人とマレーシア人、なんとも奇妙です。

しかし、さすがに遠い日本で暮らしていくには日本語を覚えるしかないと判断したマレー君。遂に歩みよって日本語を覚えようとします。

「パ・・・パ・・パトサーン、オハヨゴザイマス」

今でもマレー君が初めて喋った日本語を覚えています。必死で練習してきたのでしょう。必死で勉強してきたのでしょう。そしてこの挨拶だ。なんかマレー君がいじらしくて嬉しかった。

それから僕とマレー君は急速に仲良くなりました。必死で日本語を教えてあげる僕。マレーシア語を教えてくれるマレー君。まあ、教えてもらったものなんかほとんど忘れちゃったんですけどね。でも、マレー君はどんどん日本語を覚えていった。

そのうち、バカな僕はマレー君に嘘の日本語を教えるようになった。

「未亡人」とか「後家殺し」、「援助交際」に「尺八」などなど、とても普通では習わないような日本語を教えた。全部嘘の意味で。

若くて素敵な娘さん→未亡人
トイレ→援助交際
夕食→尺八

といったリズムで嘘8000を教えていったんです。他にもイッパイあるのですがとてもここには書けない。余りにも純粋であるが故、それらの日本語をマレー君は必死で覚えた。しばらくしたら平気で使いこなしてんです。すげえよな、マレー君。なんとも素晴らしい。それらの嘘日本語によって生み出されたマレー語録を数個挙げたいと思います。

「ちょっとトイレ行ってきます」→「チョット、エンジョコウサイ、イッテキマス」

「夕食食べたいです」→「シャクハチ シタイデス」

もう、周りで聞いている人などビックリですよ。 だけど僕にだけは真の意味がわかる。ああ、マレー君はトイレに行ったんだ、夕食が食べたいんだと。

で、僕が教えた嘘日本語の最たるものが次の言葉。

感謝の言葉(ありがとうなど)→変な棒出したり入れたり

これを教えた時はさすがにマズイかな、とか思ったのですが、なんか「変な棒出したり入れたり」という発音はマレー君には難しいらしく、彼がこの言葉を口にすることはありませんでした。いつも感謝の言葉は聞き取りにくい英語で「サンキュー」でした。

で、嘘日本語と仕事のサボり方を教えたことによって僕とマレー君は真の親友になったんです。国籍こそは違えど親友。なんと素敵なことだろうか。

しかし、二人の別れは突然やってくる。

マレー君は研修期間を終え、母国マレーシアに帰ることとなった。なんとも淋しい。

当初は職場で煙たがれていたマレー君も、仕事をサボるようになり日本語を覚え始めた辺りから人気者になっていた。それだけに、皆がマレー君の帰国を悲しんだ。誰が言い出すまでもなくマレー君を送り出す送別会が開かれることとなったのだ。

送別会は盛大に行われた。なんか高貴な場所で立食パーティ。寿司にオードブルにワインとなんでもあり、職場のお偉いさんも多数駆けつけた。後で知ったのだがなんかマレーシアとの交流プロジェクトがナントカカントカで、この研修生派遣プロジェクトは大切な事業だったらしい。そこまで大切なマレー君なら送別会にお偉方が訪れても可笑しくはない。でもそんなに大切ならあの木の机はないだろうにとか思う。

で、送別会も盛大に楽しく行われ、唯一無二の親友である僕も彼との別れを惜しんだ。そして会の最後をマレー君の挨拶で締めることと相成った。

壇上に上がり、堅い表情になるマレー君。

そして次々と感謝の言葉を述べていく。しかも日本語でだ。やはりまだまだ下手な日本語で断片的な片言ではあったが、彼の感謝の気持ちを伝えるには十分だった。人間ってさやっぱり言葉じゃないよ、気持ちだよ。気持ちさえあれば、気持ちさえぶつけていけば、言葉が下手でも不十分でもきっと相手には伝わる。ホントそう思ったね。マレー君の一生懸命な気持ちが僕の涙腺をゆさぶる。

バカッ・・・俺を泣かせてどうする・・・マレーのやつめ・・・

いい年して友との別れが辛くて泣いている場合でもないのだが、どうしても我慢できなかった。そんな気持ちが伝わってか数名の同僚も泣いている。

「パトサンニハ イッパイ シンセツ モライマシタ」

お偉方が詰め掛ける盛大な送別会。その主役が壇上での挨拶に僕の名前を出したのだ。これほど嬉しいことがあるだろうか。これほど感動してことがあっただろうか。不慣れな日本語で必死に必死に言葉を手繰りながら僕に感謝の言葉を・・・・もう我慢しきれず泣いてしまった。

こんな場面で泣くような男ではない僕が泣いている。ただならぬ気配が会場には流れ数人の貰い涙を誘った。マレー君も言葉を詰まらせ、必死で涙を堪えている。お祭ムードだった送別会も厳粛な雰囲気に様変わりしてしまった。

そして、最後に、マレー君は涙声で振り絞るように感謝の言葉を述べた。

「ヘンナボゥ ダシタリ イレタリ(ありがとうございます)」

厳粛な送別会ブチ壊し。あの時教えた嘘日本語がこんなところで登場するとは。まさにクライマックスこんな最低最悪のシチュエーションで登場するとは思いもよらなかった。驚愕する来賓たちに唖然とするお偉方。既に逃げる準備を整えていた僕。何の気なしに教えた嘘日本語が感動の送別会を恐怖のズンドコに叩き落した。

そしてマレー君はマレーシアへと帰っていった

その後の僕はというと、芋づる式に他の嘘日本語を教えたことがばれてしまい、大切な研修生に変な日本語を教えるなと上司にこっぴどく叱られた。ちくしょう。マレーめ、お前のせいだ二度と来るなとか思うんですよ。

でもね、今日みたいに天気の良い日はフッとマレー君のことを思い出すんです。マレーシアもこんなに天気がいいのかなぁって青い空を眺めながら思うんです。

遥かマレーシアのマレー君、元気でやってますか?ってね。


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