Numeri


10/31 未来予想図U

僕たちが子供の頃、どんな未来を思い描いていただろうか。

誰しもが心のどこかにまだ見ぬ未来への希望を抱いたことだろう。それは幼く少年少女であるほど顕著であるはずだ。彼らには未来があるのだから。未来への可能性は無限大の分岐であるはずで、人それぞれの未来予想図があっても良いはずだが、幼い頃の僕たちはみんな画一的な未来を思い描いていた。

ちょっと宙に浮いた流線型の車が透明のチューブ内を走り、人々はテロテロの宇宙っぽい服を着ていて、テレビなんかは立体ホログラムみたいになっている。どっからどうみても人間にしか見えないアンドロイドのメイドがいて身の回りの世話をしてくれる。人によって微細な違いはあれど、当時の子供たちはみんな似たような未来を想像していた。

これは情報のインプットに起因する部分が大きく、今のようになんでもインターネットで情報入手、なんて状況ではなかったし、テレビなんかもチャンネル争奪戦という覇権争いの勝者になる必要があり、自由に見られるような状況ではなかった。結局、学研の科学とかそういった情報源に偏りがちで、そこで特集とかされることによって自然と同じような思想に至ることになる。理由はどうあれ、多くの子供たちが同じ未来を抱いて成長していく、というのはなんとも胸が熱くなる。

さて、その未来予想図だが、少年から大人になり、もう中年で、そろそろちょっと小さい字とか見るのが困難になってきて自分でも気がつくレベルで加齢臭気味、完全無欠のオッサンへと変貌を遂げた僕が存在する現代において、ふと立ち止まって思い返してみるとあの未来が全然達成されていないことに気がつく。

車は宙にに浮かないし、透明のチューブの中を走らない。3Dテレビはちょっと奥行きがあるくらいのものだし全然売れてないし、アンドロイドは携帯のOSくらいだ。確かに技術は進歩していて便利な世の中ではあるのだけど、今いる未来は、あの頃、多くの子供たちが思い描いた未来ではない。

その事実を大変残念に思う反面、実はこれは至極当たり前のことであると気がつく。僕らが思い描いた未来は学研の科学だったりドラえもんだったり、そういったもので見せられた誰かの未来予想図で、結局は与えられたものなのだ。ただ見せられた絵画とそんなに変わらない。そこに思想や希望はない。

未来とは決して誰かに与えられるものではなく、自分たちで思い描き、切り開いていく、そんなものであるはずなのだ。人それぞれに思い描く未来があり、人それぞれが達成していった結果、中には大きな技術革新もあるだろう、それらが適切に干渉し合って未来の世界を築いていくはずなのだ。

そう考えると、今あるこの時代は決してあの頃思い描いた未来ではないけど、それぞれが思い描いた未来を少しづつ達成していった結果であることがわかる。僕らはきちんと、とんでもない便利な未来の世界に到達していたのだ。

その便利さは、あまりにも便利であるために普及して日常に溶け込めば溶け込むほど当たり前になり、その恩恵には気がつかない。けれども冷静に考えてみると途方もない技術の結集が行われており、途方もない未来にいることを実感させてくれるのだ。

例えばスマートホンやタブレット端末にしてもそうだ。あんな手のひらサイズの端末に途方もない処理能力が備わっている。例えばインターネットにしてもそうだ。幼き頃、インターネットで人とつながり、様々な情報を入手できる未来が来るとは思っていなかった。きっとこれも誰かが思い描いた未来なのだ。

「技術革新は本当に我々人類にとって幸せなのだろうか?」

こんな言葉が口癖の男がいる。彼は少年たちの未来予想図とは異なりつつも便利な技術が数々生まれているこの現代において、その技術革新が招いたこの未来世界が本当に幸せなのかと常に問いかけているのだ。

彼は、職場の同僚で、同居する自分の姉(40代)の下着に無限の宇宙を見出してしまい、なんとしても手に入れたいと欲するあまり、ついに実家のベランダに干してある姉(40代)の下着に手をかけてしまい、あまりの興奮と達成感に週2くらいのペースで盗んでいたらついにバレてしまい、実家を勘当されて今は実家の隣のレオパレスで一人暮らししているという剛の者で、さすがに姉(40代)の下着泥棒なんて色々な意味で一歩手前どころか2万歩くらい踏み込んでしまっているので配慮して名前を伏字にすると、○岡さんとしよう。

この○岡さん、姉(40代)の下着を盗んで実家を勘当されたくせに結構偉そうに講釈をたれる人で、ことあるごとに我々に問いかけを行ってくる。

「技術革新は本当に我々人類にとって幸せなのだろうか?」

職場のゲスな面々が主に「冬でもホットパンツの女はヤレる」みたいなホットドックプレスみたいな何の生産性もない話題で盛り上がっていると、突如として○岡さんは問いかけてくる。その場の空気が完全に凍りつく。いや、いまホットパンツの話ししてるから技術革新とか人類の未来とかそんな話ししてないからとかその場にいた誰もが思うのだけど○岡さんは止まらない。

「例えばこの携帯電話、本当にこれは人を幸せにしたのだろうか。これは我々を繋ぐ強固な鎖なのかもしれない。首輪なのかもしれない。それと同時に人との繋がりを希薄にしてしまった」

○岡さんの主張は続く。確かに携帯電話がなかった時代は、家や職場の自分のデスクにいなければ固定電話がなく、電話のよって誰かに捕まることはなかった。それは不便であるのと同時に自由であった。嫌なことがあれば固定電話から逃げればよかったのだから。

けれども、今やどこにいようと携帯電話で捕まってしまい、面倒な用事や仕事を押し付けられてしまう。電話を無視してても一方的にメールで送りつけられてしまう始末。携帯電話を持ってない方が悪いくらいの勢い、それが現代だ。

強固な鎖、首輪という主張はわかる。けれども人との繋がりが希薄になってしまうというのはどういうことなのだろうか。むしろいつでも気軽に連絡を取れるだけ繋がりは強固になるんじゃないだろうか。

「繋がりが希薄になるってどういうことっすか?」

○岡さんに問いかける。僕らはいつも唐突な○岡さんの問いかけに呆然としつつ、いつの間にか引き込まれてしまっている。彼の言葉にはそれだけの魅力がある。

「これさ」

そういって○岡さんは携帯電話の電話帳を見せた。

「アケミちゃん 090-XXXX-XXXX」

画面にはそう書かれていた。これが何を意味するのかは全く分からない。アケミちゃんという名前と電話番号、それだけだ。○岡さんはいつも僕たちに謎を投げかけてくる。

「これは俺がご執心なキャバクラのアケミちゃんのデーターだ。バッグをプレゼントしたり同伴出勤したり高級イタリアンに連れていったり、病気のお母さんの入院費のために30万円貸したりお熱なわけよ。俺がこの電話番号とアドレスを手に入れるのにどれだけ苦労したか分かるか」

喋ってる内容は結構クズなんだけど、堂々とそう言い張る○岡さんは威厳に満ち溢れていた。姉(40代)の下着を盗んで家を追い出されたクズだけど、なんかかっこよかった。

「でもな、こんなに苦労して手にれた電話番号なのに、しかも完全に本気で狙ってるアケミの番号なのに、俺はこの番号を覚えていない。全く覚えていないんだよ。もし何らかの理由でこのデーターが失われたとしたら、俺はもうアケミに連絡を取れない。それが人間関係が希薄という意味だ」

なるほど、僕は完全に丸岡さんが言いたい意味が理解できた。他のゆとり世代の若造どもは「はあ?」と言いたげなキョトン顔だったけど、僕には完全に理解できた。彼はこう言いたいのだ。

携帯電話が普及する以前、僕らは他人の電話番号を記憶していた。そりゃ手帳に書いたりすることもあっただろうけど、基本的によくかける相手の電話番号は記憶していた。それこそ友達や知人が多くかける相手が多い人は語呂合わせなどを駆使して大勢の電話番号を記憶したものだ。

しかし、携帯電話が普及するとあの小さな端末に千人も二千人も、そんな知り合いいねーよと言いたくなる件数の電話番号と携帯アドレスを記録できるようになっている。これは大変便利な反面、逆に誰も人の電話番号を覚えなくなってしまったのだ。

しかも、最近では初めて知りあった人と電話番号の交換する場合でも、口頭で電話番号を伝えたりはしない。携帯同士をくっつけるだけで番号交換が終わってしまったり、赤外線で交換したり。電話番号を使わずにアプリのIDだけで会話ができてしまう始末だ。

いまこれを読んでいる皆さんも、実際に携帯電話の電話帳を見てみたらいい。名前だけで電話番号が思い出せるか、電話番号だけで名前が分かるか。たぶん、ほとんど分からないと思う。頭の中に電話番号がいない状態なのだ。

「昔は電話番号を記憶していた。それも、記憶には限りがあるから大切な人、よく話をする相手だけを厳選して記憶していた。それは脳内にその人の記憶がひっそりと存在していたということだ。今はそれがない。悲しいことだよ」

○岡さんは悲しげな顔で言う。確かにそうだ。電話番号を覚えていること、それはセットでその人のことを脳内に留めおいておくことだった。少なくとも携帯電話が普及する前はそうだった。けれども、今はほとんど覚えてない。例えそれが親族であっても覚えてない。

「悲しいもんだよ。俺だって親や姉貴の電話番号を覚えていない。携帯には入ってるのにな。例え家族であっても人間関係が希薄になっていってるんだよ。だから俺も家を出る羽目になった」

いや、アンタの場合は姉(40代)の下着を常習的に盗んでいたから追い出されたのであって、人間関係が希薄とかは関係ない、むしろ下着盗むくらい濃厚な関係じゃないか、と思うのだけど、誰もそれは口に出せなかった。

けれども、やはり丸岡さんの言うことは一理ある。僕もどれだけの携帯番号を覚えているのだろうかと自分の携帯電話の電話帳を眺めて見ると、なんと56件しか登録がなく、あまりの少なさに友達いなさすぎだろと思うと同時に、その少ない56件でも1件しか覚えている番号がないという衝撃の状態だった。

一件一件確認していく。例えば「丸岡哲三」という下着泥棒の登録を見るとやはり電話番号を思い出せない。このような職場の同僚で別にそんなに仲の良い人ではなく、むしろ軽蔑している部類の人間なら覚えていないのも仕方ないとは思うけれども、父親や親戚、血を分けた親族や家族であっても全く電話番号を覚えてないという事実に戦慄を覚えた。我が弟に至っては、兄弟であるのに電話番号を教えてもらってないという、希薄にも程がある状態を再確認し、ただただ震えるだけだった。

電話帳の登録を確認していき、やはりこの人も覚えてない、この人も覚えていない、と覚えていないことを確認していき、その人間関係の希薄さに恐れおののいていたのだけど、そんなものを軽々と超越するレベルで驚愕する衝撃の登録が僕の瞳に飛び込んできた。

「丸岡哲三(下着ドロ)」

「クリーニング屋」

「プラモ屋」

などと電話帳に登録されている名前が並んでいるのだけど、そこに衝撃の登録名が登場する。

「ふぇら」

意味が、わか、ら、ない。

何が起こったのか分からない。なんで自分の携帯電話の電話帳に「ふぇら」などといった名前が登録されているのだろうか。あまりの出来事にパニックになってしまい、何をどうしたら良いのか分からなくなってしまった。

普通に考えて、これは女性が男性器を口でチュッパチャップスをするフェラチオのことを指しているのだろうと思うのだけど、何がどう巻き起こったらそういった性技の名前が電話帳に登録されるに至るのか分からない。

落ち着け、とにかく落ち着け。ここは落ち着いて考えなくてはならない。この携帯は勝手に電話帳に登録されるとかそういった機能はない。つまり、確実に僕が自分の手によってこの「ふぇら」という名前を登録したのだ。しかしながら、登録した記憶が全くない。こんなパンチの効いた名前なのに、その記憶が完全に脳内から抜け落ちてしまっている。

では、逆に考えてみよう。記憶がないのは仕方がないのだから、遡って考えるべきだ。どういったシチュエーションになれば携帯電話の電話帳にふぇらという名前を登録するに至るかだ。

まず始めに考えられるのは、「名前は知らないんだけどフェラチオがすごい上手そうな女」を電話帳に登録しようとして、そういや名前知らねーや、まあいいや、フェラ上手そうだしフェラで登録しておくか、というパターンだ。

どういう生い立ちというか十字架を背負って生きてきたら「ふぇら」で登録されてしまう女性が出来上がってしまうのか理解に苦しむけど、これならまあ、道理は通ってる。ありえなくはない。けれども残念なことに、「フェラ上手そうで名前を知らない女」というものに出会う機会がない。

次に考えられるのが、職業的にフェラチオを生業にしている類の女性の電話番号という説だ。ヘルスやピンサロなど風俗関係のお仕事に従事している女性の電話番号を登録して、その際にもういいや、フェラだろ、と登録してしまったケース。

これもまあ、大変失礼ながらも道理は通ってる。ありえなくはない。しかしながら、残念なことにそんなフェラチオを生業とする職業の人に知り合う機会もなければ、知り合ったとしても電話番号を交換するほど仲良くなれるわけがない。よってこの説も違う。

最後に考えられるのが、そのものズバリ、フェラチオであるという説だ。これはもうそのまま、すれ違いざまとかにカポッと見ず知らずの女にフェラチオされてしまい、おお、大胆な娘だ、電話番号を交換しよう、ふぇらで登録だな、となってしまったケースで、これならば道理が通そんなことあるわけがない。

結局、いくら考えても考えても答えは見つからなかった。けれども、いくらかのヒントは与えられている。まず、56件しか登録がないにも関わらず「ふぇら」が登録されているという点に着目したい。これが数百件とか数千件登録されている人なら、その中に訳の分からない番号があっても不思議ではないだろうが、僕の場合は56件だ。自ずとかなり重要度が高い電話番号であることがわかる。

次に、「ふぇら」という名前で登録されている点である。「フェラチオ」でも「フェラ」でもない、平仮名で「ふぇら」なのだ。なんだか平仮名で表記するとすごく柔らかい感じがする。「フェラ」と書くと攻撃的なフェラチオを想像してしまうが、「ふぇら」と書くとまるで包み込むような柔らかいフェラチオを想像してしまう。これがなにかのヒントになるだろうか、たぶんならない。

これはもう考え方を変える必要がある。つまり、最初の起点に立ち返り、おそらくすれ違いざまに知らない女性にフェラされたと仮定するべきなのだ。そう、フェラはあった。あったのだ。それに驚いて電話帳にその女の情報を登録した。すれ違いざまだから攻撃的なフェラだと予想していたら、結構柔らかい包み込むようなフェラで「ふぇら」と登録した。そうに違いないのだ。もうそうだと決めつけよう。

でも、そのような事実があった記憶がない。そんな衝撃的な出来事があったのならば鮮明に記憶しているはずだ。なのにそんな記憶は全くない。記憶がないのならばそんな事実はなかったのだ、そう決め付けるのは素人のやることだ。ツウは記憶はないけどそれは何らかの理由で記憶を失ったに違いないと考える。そう、すれ違いざまのフェラはあった。確かにあって、驚いて「ふぇら」と登録した。しかし、何らかの理由でその記憶を失ったのだ。

そうなると大変ですよ。これは大変です。僕はまあ記憶を失っているだけですから大したことはないですけど、問題は相手の女性です。なにせ、すれ違いざまにフェラしてきて、さらにそれが柔らかい包み込むようなフェラで、なおかつ事後に僕と連絡先の交換をするほどです。これはもう、再度僕にフェラしたいと考えているに違いない。その思いは切実なはずです。

僕にフェラしたいと思い続ける女性、それを無視続ける僕。連絡先交換したのになによ!くらいは思っているかもしれません。いくら記憶を失っているとはいえそれはあまりに酷い。酷すぎる。今頃溢れ出る涙で枕を濡らしているのかもしれません。

こうしちゃいられない!早速彼女と連絡を取らねば!そうしてフェラチオ的行為を行う日程とか段取りとか決めなくては!そう思い立ってとにかく連絡取らねばって焦ったんですけど、なにせ記憶を失ってますからどうやって連絡を取ったものかと途方にくれたわけなんです。

そしたら、頭の中の記憶になくてもちゃんと携帯電話が記録してくれているわけで、こんなことにも気がつかないって本当に焦りすぎなんですけど、きっちり携帯電話の電話帳には「ふぇら」の後に電話番号が記載されているじゃないですか。なんて便利なんだ、そう思いつつボタンをプッシュ、高鳴る胸を抑えながら電話をかけました。

鳴り響くコール音。数回続いたあとにガチャリと音が。ついにふぇら女の正体が明らかになる!ごめんよ、記憶失っててさ!いつフェラする?そう言おうと口を開いた瞬間でした。

「もしもし」

いや、すげえ野太いオッサンの声なんですけど。もうおっさんぽいとかおっさん臭いとかそんな声じゃない。完全無欠のおっさん。超おっさん。電話の相手はすれ違いざまのふぇら女じゃなかった、おっさんだった、ということはすれ違いざまにふぇらしてきたおっさん?なんで?もうパニックになっちゃいましてね。

「あの、その、フェラチオとか…」

って口走っていました。

するとまあ、返す刀で

「はあ?」

ってムチャクチャ力強く言われちゃいまして、あんたpatoさんでしょ?とか名指しされちゃいまして、そりゃそうですよね、向こうにも僕の番号登録されてるでしょうしね、多分表示されてますわな、そこでね、その口ぶりから思い出したんですよ。

これ、仕事で出会ったけっこう重要な人で、なんというかキーパーソン的人なんですけど、なんか名刺もらえなかったんですよね。それでも今後打ち合わせとかしないといけないから連絡先の交換しましょうってなっちゃって携帯番号交換したんですけど、あとで電話帳に登録する段階になって名前を度忘れしちゃったんです。

でまあ、なんて登録しようって悩んだ末、結構目立つフェラガモのペアウォッチみたいなのしててそれが印象的だったんで、フェラガモって登録しようとしたんですけど、面倒だったんで「ふぇら」で登録したんでした。もう何ヶ月も前のことだから完全に忘れ去ってた。

「なに?どうしたの?」

と向こうもえらい剣幕ですよ。そりゃ仕事でしか繋がりがないすごい希薄な関係の人に開口一番「フェラチオ」ですから、誰だって焦る。もちろん、言われた方だけじゃなく行った僕だって焦る焦る。もう気が動転しちゃいましてね、とっさに

「ごめんなさい、母と間違えました。すいません!」

とか言ってガチャ切りしてしまったんです。ガチャ切りなんてマナーとして良くないですが、それ以上にお母さんと間違えて「フェラチオ」って言う意味がわからない。全然分からない。

このように、携帯電話の電話帳機能ってのは便利な反面、昔は頭で覚えていたであろうことまで記録してしまい、僕らから記憶するという行為を奪ってしまったわけなのです。結果、記憶すべきことと記憶すべきことでないこともごっちゃになってしまい、このようなフェラチオの悲劇が生み出されてしまうのです。

技術の発展は、便利さと引き換えに僕らの感情や記憶、気持ち、そういった人間臭い部分を奪っていってるのかもしれません。デジタルデータの洪水が僕らに人間を飲み込んでいく、けれどもどこまで行っても人間の本質はデジタル化できません。その軋轢がもっと深刻な悲劇を生むのかもしれません。

あの頃、想像していた未来とは違うけど、確かに技術の発達した便利な未来に僕らは今立っている。そして、仕事上の結構重要な人に電話して「フェラチオ!」っていうイタズラ電話みたいなことしてしまった僕が、職場において立つべき未来もなんとなく予想できる。そして、きっとそこに立つのだろう。悲しい顔をして。


10/12 肉色ライダー

放置車両にはドラマがある。

毎朝変わらずそこにあるバイクはみっともないくらいに肉色で、ピンクと言うには生身っぽく、赤というには生々しい、まさしく肉色という表現がピッタリというほどに生命の息遣いを感じる色、そんな生々しい色彩に塗装された原付バイクが出来の悪いオブジェのように確かにそこにあった。

僕は職場への通勤には、各部のボルトの締めつけが弱いのか、たまに交差点のど真ん中で蟹座のクロスみたいにバラバラになるポンコツと呼んで過言ではない自転車を利用しているのだけど、自転車から眺める朝の風景というのはなかなかに面白い。

朝ってやつは、無職とかニートとかでない限り、多くの人が仕事の開始時間、授業開始時間という決まった時間枠で動いている。当然ながら同じタイムスタンプで行動することになるのだけど、これだけ多くの人が時間通りに行動する状況ってのは朝以外にはほとんどない。

昼間や夕方、夜、多くの人が時間通りに行動しているんだろうけど、それらは人によってバラバラで、皆が揃って同じ行動をとっているわけではない。仕事や学校から既に解放されている人も多い。しかしながら、朝はこれから束縛に向かう人が多く、多くの人が毎朝同じ行動をとる。それはまるでビデオのリプレイをみているかのようだ。

ここの交差点では死にかけの老人が犬に引っ張られるようにして散歩している。この団地の前では友達を待っているのだろうか、女子高生が髪を束ねながらソワソワと入口を覗き込んでいる。交差点で信号待ちをしている車もいつもどおり白い車、赤い車、青い車、と同じ順番で並んでいる。

こうやって毎日同じ風景が見えるのが安心であり、そのようなルーチンの中で日常生活を送ることに少なからず安堵を覚える。退屈な日常、といってしまえばそれまでだが、その退屈であることが何よりも大切で尊いものなのだ。

住宅街を抜けると、少しだけ田園風景が広がった地帯に出る。本格的な農業といえるほどの畑ではなく、誰かが趣味か道楽でやってるのかと思うほどに小さくまとまった畑たちが連なっている場所に出る。そこに問題のバイクは停めてあった。

畑に打ち捨てられたと思わしきその原付バイクは、明らかにピンクでもベージュでも赤色でもなくて、本当に肉色としか表現できない色合いで、スーパーで売ってるカレーとかに使う豚肉そのものみたいな色合いで、形もレトロなんだかポンコツなのか判断に迷ってしまう、外見上のインパクトゴリゴリのバイクだった。

ちょっと罰ゲームとかじゃないと街中を走りたくないようなオンボロの肉色バイクが畑に打ち捨てられている。それはもう毎朝繰り返し見る風景で日常の中に溶け込んでいるのだけど、僕はこういった放置車両というか、打ち捨てられた車やバイクというものに途方もないロマンを感じてしまう悪いクセがある。

皆さんの身の回りにも、これ絶対にもう乗ってないだろうと言うしかないような車両が庭先や空き地に捨てられている光景があることと思う。ナンバープレートがついてなかったり、明らかに自走不可能なほどに壊れていたり、サビだらけで元の色がどんなものだったのかすら分からないものだったり様々だ。

それらの放置車両は完全にゴミなのだけど、よくよく考えてみて欲しい。確実にそれらのゴミは元気に走り回っていた時代もあるし、それなりの決断とか決意が必要な値段で購入されているはずだ。時には「愛車」などと呼ばれたかもしれない。綺麗に洗車してもらったことだってあるかもしれない。

そんな大切だった愛車や愛機がなぜ放置されるに至ったか。そこには簡単には語れないドラマが絶対にあるはずだし、幾重にも重なる人間の思惑と運命のイタズラ、時の歯車が複雑に絡み合ってこの状況になっているはずなのだ。だから僕はそういった放置車両を見るたびにその背後にある壮大なドラマを妄想し、上質な一本の映画を鑑賞した気分になるのだ。

「ねえ高志、どうしてこの車、廃車にしないの?」

「廃車にはしてるさ。ほら、ナンバープレートないだろ」

「でもずっと庭に置きっぱなしじゃん。普通廃車にしたら業者に引き取ってもらったりするんじゃないの?」

「コイツはさ、そんなんじゃないんだ」

遠くを見つめる高志の横顔を眺め、芳江は何か深い理由があるだろうことを悟った。

「コイツは俺の親友、いや、ライバル、どういって言いのか分かんないけど、とにかくアイツの愛車だったんだ」

「あいつ?」

「そう、俊雄のな」

あの日、この街で最速は誰か、そんなくだらなくも大切なことに俺たちは命を賭けていた。町外れの丘の上公園に通じる一本道、2台の車のエンジン音が静寂の闇を切り裂いていた。

「高志、負けたほうが牛丼おごりだかんな!」

「いつも悪いな!今日は特盛いっちゃうかな」

「おもしれえ!」

ハンドルを握り真剣に前を見据える俊夫の横顔。ウィンドウ越しに見たその顔が最後に見た俊夫の顔だった。

「あの日からだよ、俺がハンドルを握ることをやめたのは。この車は俊夫の墓標。墓標を捨てたりしないだろ。だからこの車はずっとここに置いておくのさ」 そう呟く高志の横顔を眺め、芳江は頬を赤らめた。

「素敵」

まあ、あとはお互い盛り上がっちゃった二人が廃車の中でおセックスとかして、シフトレバーを突っ込んだりして「私のアソコがパーキング!」とか訳の分からないことを叫んだりするんでしょうが、とにかく、放置車両にはドラマがあるんです。ドラマのない放置車両なんて存在しない。

当然ながら、毎朝この畑で見かける肉色の放置バイクにも背後に潜む壮大なドラマに思いを馳せて一人で身震いしたいのだけれども、実はそういうわけにはいかない。この肉色のバイク、一見すると放置車両のようだが実は放置車両ではない。巧妙に放置車両のように見せかけられているが、違う。

その証拠に、よくよく注意深く観察してみると、日によって置かれている位置が微妙に違っているし、跳ねた泥などの車体汚れも日によって微妙に変わっている。そう、放置されていると見せかけて本当は毎日動かされているのだ。ではなぜ、こんな田園風景の畑に停められているのか、放置されていないとするならば持ち主は何を思って毎日ここに停車しているのか。

それを語る前に、もう一つ重要な、この肉色バイクが放置車両でないという明確な根拠を示さねばならない。普通、放置車両というのは僕のような通りすがりの人間には、持ち主なんて分からない。だからこそその背後にある壮大なドラマに思いを馳せることができるのだけど、実は、僕、このバイクの持ち主を知っている。明らかに持ち主を知っていて、これが放置車両でない確たる証拠を握っているのだ。

あれは一ヶ月ほど前のことだった。ウチの職場は自動販売機が置かれている休憩所があるのだけど、多くの男性社員がそこで休憩し、やれピンサロで性病に感染しただの、ピンサロの性病感染率の高さだの、バイオハザードだの、性病にならなくてもピンサロはゾンビみたいなブスしかいないからある意味バイオハザードだの、どういう育ちをしたらこう下賤でエロスな会話ができるのかって会話を展開している。

そういった事情もあってか、休憩所は女子社員が近づきにくい、ある意味女人禁制みたいな暗黙の了解が出来上がっているのだけど、その暗黙の見えないバリアを打ち破って一人のブスが休憩所にやってきたんです。

ちょうどのその時、僕が「8000円ポッキリのピンサロは八切りってことだから、8000円ポッキリのピンサロから8000円ポッキリのピンサロにハシゴすることを八切りの渡しと言うべきだ」と熱弁を振るってたんですけど、そこにテリーゴディーみたいな髪型をしたブスの登場ですよ。

ブスといえども女性ですから、さっきまでピンサロの話で盛り上がっていた面々も萎縮しちゃいましてね、全く気にしない僕だけがピンサロでかかってるユーロビートのモノマネをしているというシュールな光景が展開されていたんですけど、そこでブスが開口一番言うわけですよ。

「ワタシ、バイク買います!」

いや、勝手に買えよ、ブス、って感じですよ。誰もが言いたい気持ちをグっと堪えましたよ。そもそもその宣言をピンサロで盛り上がってる僕らにする意味がわからないですよ。僕らは下劣なエロ会話が好きなのであって、誰もバイクに興味なんてない。それだったら「バイブ買います」とか宣言された方がまだロマンがあるし、親身になってアドバイスできると思う。

でまあ、なんでこういった宣言がピンサロ同好会の前で成されたのか大変疑問だったのですが、よくよくブスの話を聞いてみると、なんだか良く分かるような分からないような話が展開されはじめるのです。

「バイク買おうと思うんですけどー」

と切り出すブスに、僕は頭の中ですげえワイルドでアメリカンなリッターバイクにブスがまたがって、街の暴走族たちを裏拳でなぎ倒している光景が浮かんでちょっとクスリと。そんな僕とは無関係にブスが話を続けます。

「女だけでバイクを買いに行ったら絶対に騙されると思うんですよ!」

彼女はバイク屋のことをどんだけ百戦錬磨の悪徳商売人みたいに考えているのか知りませんけど、なんでも新車ではなくてレトロな風味漂う中古車を購入しようと考えているらしく、良くない品を掴まされたらたまったもんじゃない!それにバイク屋でレイプされるかもしれない!くらい考えてる感じの危機感を持っていまして、それじゃあバイクに詳しい男性を連れて行こう、と考えたみたいなんです。レイプされそうとか、全国のバイク屋が聞いたら怒ると思いますよ。

そんなこんなで僕らの前でバイク屋に一緒に行こうとブスが言ってるわけなんですが、あいにく僕らはバイブの話はできてもバイクの話はできない。おまけにブスと一緒になんて行きたくない、と、小学校の時に担任の先生が意味不明に怒り狂って「名乗り出るまで帰れませんよ!」とかキンキン言ってる時みたいな感じで、僕らは全員うつむいてブスとは目を合わせないようにしていたんです。

結局、そんな努力虚しく、なぜかバイクの免許をもっているのが僕だけだったという意味不明な理由により、ブスとバイクを品定めしにいくことになったわけなのです。ただブスがバイク屋に騙されないように、レイプされないように、という訳の分からない理由で。

普通、女の子とお買い物というと結構ドキドキワクワク、ひょっとしたら桃源郷のような展開があるかも、と新品のパンツをはいていったり、いやいやそこまではさすがにありませんぞ、いやでも、おっぱいぐらいは揉めるかも、これくらいの握力で揉めばいいのかな、とシャドー乳揉みとかすると思うんですけど、それがブスだと全然そんなことないのな。全くワクワクせず、静まり返った水面のような静けさで当日を迎えることができました。

そしてついにバイク屋に行くわけなんですが、ブスが何をトチ狂ったのかゴリゴリのミニスカートはいてきやがりやがってですね、しかもそのミニスカートがどこで売ってるのか自由の女神とかマリリンモンローみたいな女とかがプリントされたもので、完全にアメリカの横暴。ブスのミニスカはテロルですよ、テロル。

「バイク選ぶのにそれはちょっとあれじゃない?」

バイクにまたがったりすると思うんですよね。その際にミニスカだと非常に危険というか、ブスもパンツを見られて損、僕も見たくもないもの見せられて損、バイク屋も見てしまって損、ブスにまたがられてバイクも損、というLOSE-LOSEの関係が出来上がってしまいます。そんな惨劇だけは起こってはならないと柔らかいニュアンスで注意したのですが。

「やだ!何考えてるんですか!」

と、「エッチ!」って言わんばかりの表情で言うわけですよ。ブスが。何回も言いますけどブスが。ホント、僕が物体をテレポーテーションさせる能力を持っているならば、ブスの脳をその辺の土手にテレポートさせてる、そんな気分でした。

少し街から外れた国道沿いの大きなバイク屋に赴いた僕とブス。ここは豊富な中古バイクが置かれており、アフターサービスも万全でサービスに定評があるお店、とのことでした。早速、原付コーナーへと赴くのですが、そこでブスが一言ですよ。

「なんかどれも古くないですか〜?」

よし、死ね!ブス!

というか最初の話ではレトロな感じがいいので中古車にしますぅ、とか鼻の穴に付着していた鼻くそを呼吸するたびに弁みたいにパッカパッカ動かしながら言ってたじゃないですか。中古車が古っぽいのはあたりまえじゃないすか。

とにかく、こりゃかなわん、はやくそこそこのバイクを選んでお茶を濁し、このブスと縁を切らねば、とか思いつつ僕もそこまで古っぽくなくて手頃な値段の中古バイクを探すのですが、やっぱ中古の原付バイクってそれなりに使用感があって古っぽい感じがするんですよね。

「私は古いのが欲しいんじゃなくて、レトロなのが欲しいんですよ〜」

と、ブスの意味不明な供述は続くのですが、ほっといてバイクを探します。もうレトロっていうより豚トロみたいな顔しやがってとか言うのも疲れた。

いっそのことブレーキのないオシャレ自転車みたいにブレーキのないバイクでも売ってねえかな、オシャレだって騙して買わせるのに、とか思いつつバイクを探していると、ブスの声が聞こえてくるわけですよ。

「あった!」

古くないのにレトロ、とかいう一休さんのトンチみたいなバイクがあるわけないと思いつつ、ブスの方を見ると、なにやら一台のバイクを指さしつつ僕に向かって手招きしてるんですよ。あんまりこういうこと言っちゃいけないとは思うんですけど、すの姿はすげえブスだった。

「ありましたよー、このバイクかわいくないですかー?」

満面の笑みのブス。どれどれ、どんなバイクがブスのおメガネにかないましたかなと思いつつ近寄ると、そこにはなんとも言い難いバイクが。

レトロとか古っぽいとかそういったものを超越して肉色のバイクがそこに佇んでいたのです。ピンクというには生々しい、まるで肉の色、いや、女性器の開いたところみたいな色をしたバイクがそこにあったのです。

「いや、これマンコ色ですやん」

そう言いたかった。サクッとそう言いたかった。何も考えずにそう言えたらどんなに楽だったことか。なんかね、これ、色も怪しいんですけど、それでもメーカーが発売している純正の色とかだったら、まあ、そういうのもアリかなって思うんですけど、どう好意的に解釈してもこれ、自分で塗ってますからね。

前のオーナーが何を思って小陰唇色に塗ったのか今となっては伺い知ることはできないのですけど、せめてもうちょっと上手に濡れと言いたい。色艶もねえし、ムラになっててそれがビラビラみたいでさらに生殖器みたいじゃねえか。

とにかく、これは性器みたいだからダメだよって言おうと思ったんですけど、「かわいい〜カワイイ〜Cawaii」とか大絶賛しているブスにそういうことができず、おまけにそこまで親身になってブスに忠告する立ち位置でもないことに気がついてしまい。

「まあ、いいんじゃない。カワイイ色だし」

と、本意でないにしろそう告げると、値段も手頃ということおもあってか、ブスの貯めたお小遣いで即決な感じで購入していました。

「私はあのバイクに出会う運命にあった」

とか訳の分からないことをピーピー言ってましたが、聞かなかったことにし、僕とブスの不毛なるバイク選びは終わったのでした。

数日後。いつものように休憩所のピンサロメンツで、ピンサロでプレイ中に大きな地震が来たらどうするか、噛み切られたりしないか、という 話題を真剣に話しているところに、件のブスがやってきました。

「じゃじゃーん!」

とか茶目っ気たっぷり言うブスに、よかったな、今ここにいるメンツの誰もが散弾銃持ってなくて、と思いつつブスの話を聞いていると、

「このあいだ買ったバイクで今日は通勤してきました!」

とかブスがスカートひらりな感じで言うじゃないですか。ブスのドヤ顔ってホント乳牛の出産シーンみたいなんですけど、とにかくドヤ顔で言うわけですよ。ほう、あの走る生殖器バイクがついに納車されたのかと喜びつつ、まさか本当にあれを購入し、さらには通勤にまで使うなんてすごいな、と恐れおののいたのですが、ブスはいたってご満悦な様子。

カワイイバイクで通勤する、アクティブでカワイイワタシ、みたいな感じで酔いしれているのかもしれませんが、

「とにかくチョーかわいくてってかわいくって、名前つけてかわいがっちゃってます!」

とか言うじゃないですか。乗り物に名前を付けるってのは、かつて僕も中学生くらいの時に自転車に「ファルコン号」とか名づけて大切に可愛がっていたことがありますから、気持ちはわかります。愛車とは相棒のようなものですから、親しみを込めてニックネームを付けることはよくあるのです。

「へえ、どんな名前つけたんっすか?」

ピンサロメンツの一人が、大して興味はないけどそこまで言われたら質問しないわけにはいかない雰囲気ってのを俊敏に感じ取り、ものすごい気を利かせて質問します。それを受けてブスも待ってましたとばかりに返答します。

いくら走る性器としか思えない原付バイクであったとしても、ブス自身は非常に「カワイイ」と気に入ってくれているのです。かなりファニーでキュートな名前をつけているに違いありません。性器色とは言えピンク色なんだから「モモ」とかつけたらカワイイよね、「シャルロット」とかかわいくも気品溢れる名前かも、などと予想しながら聞いていると、ブスの口からは予想だにしない名前が。

「ピラルク」

全然かわいくない。それ南米に生息する世界最大の淡水魚じゃねえか。ホント、ブスのネーミングセンスって本気でわかんなくて、どういうブスさで生きてきたら原付にこんな名前をつけられるのかわかんないんですけど、とにかく本気で世界最大の淡水魚の名前をつけたご様子。

「ワタシのピラルクちゃん、ホントにカワイイんですよ。ね、patoさん?」

とか、ブスがこっちに向かってバチンとウィンクですよ。その猛烈ウィンクを受けた僕は、いや、あれは性器の色だから色ムラがビラビラみたいだから、と言えるはずもなく、ただただ低いトーンで「う、うん…」と答えることしかできませんでした。

ただその事情を知らないピンサロメンツたちは、そこまで言うなら見せてもらおうじゃないかってことで興味ないなりに大変盛り上がってしましまして、いっちょいくかってことでみんなでブスのバイクを見に行ったんです。

「あそこです。あそこにワタシのピラルクちゃんが!」

そう指さすブスの先には職場の自転車置き場で禍々しき何かを漂わせている性器バイクが。女性器が自転車置き場に鎮座しておられる、そう思うことしかできませんでした。ウチの職場って自転車で来る人が多くて、その割には自転車置き場が小さいものですから、常にギュウギュウ詰めみたいな状態になってるんですけど、なぜか性器バイクの周りだけモーゼみたいに自転車の群れが真っ二つに割れてました。そりゃ横に停めたくないわな。

「あれ、なんすか?」

ほかのピンサロメンツが不安げにヒソヒソと話し始めます。はるか彼方にあるはずなのに、もう既にこの距離で性器とわかる威風堂々の面構え。とんでもないですよ、これは。

いよいよ自転車置き場に到着し、皆で性器バイクを取り囲んでみるんですけど、僕はほのかな変化に気がつきました。中古車屋の時点ではなかったんですけど、多分ブスの趣味なんでしょうね、シート後ろの荷台の部分にファサファサのオブジェが付け加えられてました。それ自体は別にどうでもよくて、雨とか降ったら一発でダメになりそう、くらいしか思わなかったんですけど、問題はその色ですよ。もう見事に真っ黒なのな。しかもファサファサがもう既に日光とかでベロベロになってて縮れ毛みたいになってんの。もう完全に陰毛っすよ。

もしかして、こいつはわかってやってるんじゃないだろうか。自分のブスさ加減に嫌気がさし、じゃあ私ブスだけど、エロさとかセクシーさで勝負しようとか考えちゃって、何をトチ狂ったか大幅に間違えたのか、原付バイクで性的アピールに走ってしまったんじゃないだろうか。

「どう?ちょーかわいいでしょ!」

しかし、満面のブス顔でそう言うブスからはそういった悪意のようなものは感じられず、ああ、ただただ純粋に何かがズレてるんだ、と思うことしかできませんでした。ほかのピンサロメンツも同様に何と言っていいのか分からず、声も出ない様子で、僕に耳打ちしながら小さな声で

「これやばくないですか?なんて名前でしたっけ、ヴァギナちゃんでしたっけ?色といい完全に生殖器じゃないすか。モザイク必要っすよ、これ」

という始末。

「いやいや、ヴァギナちゃんじゃないよ。ピラルクちゃんだよ。彼女はいたって本気なんだ。あまり言わないでやってくれ」

しかし、僕らがいくら取り繕って、顔の筋肉を最大限に括約させて「はは、カワイイね、ピラルクちゃん」っていう作り笑いをしてみたところで、そういう空気って隠せないじゃないですか。この性器バイクを取り囲む僕たちの間に流れる、ピンサロでいきなりユーロビートな音楽が曲の繋ぎのために止まってしまった時のようななんとも言えない微妙な雰囲気、それが出てしまったのです。

そうなると、ブスってのは人一倍そういった微妙な空気に敏感で、機敏な動きを見せるものですから、明らかに性器じゃんていう僕らの空気を感じ取ったんでしょうね、急に狼狽しはじめまして、

「なに、なに?何か私のバイクがおかしいわけ?」

とピンサロメンツに掴みかからんばかりの勢いで問い詰め始めたんです。ここで一つポイントなんですけど、こういった展開ってのは非常に危険なんですよね。長いこと職場の嫌われ者やってる僕の、職場の女子社員数名がエヴァみたいなーって言ってくるもんですから、じゃあ劇場版エヴァの上映会しよう、職場の会議室でみんなで見ようぜ僕が提案し、当日は機器とか全部持って言って最高の環境で視聴できるように発奮していたのに、誰も見に来なくて結局一人で二倍速で鑑賞した嫌われ者の僕の経験から言わせてもらいますけど、これは非常に危険な展開なんですよ。

一つの事実として、ブスのバイクが女性器だったという要素があるのですが、それに付随して、僕も一緒に選びに行ったという要素が絡み合ってきます。これが非常に危ない。結局、ブスが自分であのバイクを選んだわけで僕は何も関与していないのですが、あのバイクが女性器みたいで変だってことをブスが知ったらどうなるでしょうか。

はい、そうですね。いつの間にか、僕が熱烈に勧めるもんだから気はすすまないけどバイクに詳しい男の人が言うことだから信じて購入しちゃいましたってことにすり変わるんですよ。女性に生殖器みたいなバイクを勧めるとは何事ですか、立派なセクハラですよ。とかなって、職場の軍法会議みたいなやつにかけられるところまで想像できます。本当に危険ですよ、これは。

ブスに胸ぐら掴まれているピンサロメンバーにアイコンタクトで「言うな、黙ってろ」と指示を送ります。ここでバイクが生殖器みたいでおかしいという事実を指摘してはいません。絶対にいけません。ブスに気づかれようものなら確実に僕が裏で糸引いたみたいになるに決まってる。

「カワイイバイクだと思います」

もうブスの唾液がかけられるくらいに迫られててやばいんですけど、ピンサロメンバーは僕のアイコンタクトに気がついて頑なに口を閉ざします。間違ってもバイクが性器みたいだなんて言わないぞという固い意志を感じます。言っておきますけど、ピンサロメンバーの固い結束を舐めてはいけない。いや、ピンサロは舐められるところだけど、舐めてはいけない。

「ちょっと!正直に言いなさいよ!」

ブスは次々と相手を変えて詰め寄りますが、ピンサロメンバーの結束は固い。誰も口を開かない。

「分かった!patoさんが口止めしてるんでしょ!」

しかしながら、こういう時のブスの鋭さって、マヤ文明の予言より凄いですから、途方もないソリッドな鋭さでアイコンタクトによって口止めしていることを見破られました。

「じゃあこうしましょう。誰が裏切ったかわからないようにするから、正直に言いなさい」

ブスって本当にキチガイなんですけど、実はこのブス、職場の会議室の管理を担当しているブスなんですけど、最近会議室に最新鋭の投票システムが導入されまして、まあ最新鋭ってほどではないんですけど、会議での議決を取るために、各席に置かれた各々のタブレット端末で投票し、その投票結果が瞬時にモニターに映し出されるっていうシステムなんですけど、設定によって誰がどの票を投じたか分からなくする無記名投票ができるんですね。

じゃあそれ使おうぜってことで、ピンサロメンバーは会議室に連れて行かれまして、僕も、ああ、ここでエヴァの新劇場版DVDを一人で二倍速でみたなあとか感慨にふけりつつ投票の行く末を見守っていたのです。

「誰が何の票を投じたのかは分からないようになってますので、正直に答えてください。私のバイクがおかしいと思う方は賛成票を、普通だと思う方は反対票を」

僕に投票権は与えられませんでしたが、ピンサロメンバーの結束は固い。誰も裏切らないはずだ。いくら誰が裏切ったかわからないシステムになっていたとしても、誰も裏切らないはず。反対票が6票並ぶはずさ。僕は悠々と投票の行く末を見守っていました。

「それでは投票結果を表示ます」

いつもの会議の時のように、少し済ました顔になるブス。そして大ビジョンに投票結果が表示されます。

「賛成6 反対0」

誰が裏切ったか丸分かりじゃねえか。全員じゃねえか。

僕としては、一人くらい裏切り者が出ても「カスパーが裏切った!?」とか言いつつ、その裏切った奴の美的感覚がおかしいだけとブスを説き伏せることもできたのですが、まさか全員とは。

結局、開き直ったピンサロメンバーにより、「生殖器みたいで変だ」「色合いと色ムラがわいせつ」「陰毛が多すぎ」「ヴァギナちゃんっていう名前が卑猥」「走るセクハラ」などと奇譚のな意見が次々と出され、黙って聞いていたブスが突如泣き出すという、想像通りの展開になったのでした。

それからまあ、当たり前のように、ごくごく自然にそうあることが初めから決まっていたかのように、職場の女子社員にセクハラみたいなバイクを無理やり買わせた男、として噂されるようになり、それと同時に、ブスは職場まで乗ってくるのが恥ずかしくなったのか、こうして職場近くの畑に停め、そこから徒歩で通勤するようになったのです。

一度だけ、帰り際にそのバイクに乗ろうとするブスの姿を拝見したのですが、性器みたいな色のバイクの横に立ち、畑の真ん中でヘルメットをかぶって佇むブスは、まるで伐採しようとすると作業員が次々と不審死するグラウンドの樹木みたいな圧倒的な存在感を放ってました。

こうして、放置車両ではないことがわかっていたこの肉色のバイク。多くの放置車両、その背後には一言では語れない無数のドラマがあるはずです。そこに至るまでの人間ドラマがあるはずです。けれども、この放置車両ではない肉色バイク、それでもやはり、このバイクにもここに停車されるようになったドラマがあるのです。

そう考えると、毎朝見かけるこの変わらない風景全てにも、全く同じ繰り返されているように見えるこの風景全てにも、とても語り尽くせないドラマがあるはずなのです。

交差点の死にかけの老人にも、それを引っ張る犬にも団地前の女子高生も信号待ちの車たちにも、そして、自転車で通り過ぎる僕にも、全てはそうなるべくドラマがあるのです。そう考えるとなんとも感慨深いなあ、などと思いながら自転車を漕いでいると、またボルトが緩んでいたらしく、畑の真ん中で自転車がバラバラになりました。

もう頭にきたのでこの自転車、生殖器の色に塗りたくってやる。あの肉色バイクも、そんなドラマがあって塗られたのかもしれない。


7/24 ヌメリナイト4-ウンコカーニバル-

昨年夏、あまりにデブになってしまったpatoが減量を決意。強烈なダイエットを敢行し、モデル級と言っても過言でないほどの減量に成功したのは皆さんの記憶に新しいことかと思います。

しかしながら、1年の時間が経過し、強烈なリバウンドを経て昨年のダイエット前より強烈に体重が増えてしまい、見事にリバウンドデブの称号を手にしてしまったわけですが、まあ、大きいサイズの服を売る店のモデルとかたぶんデブが起用されてると思うし、そういったジャンルと思えば力士級のデブだってモデルといえばモデルだし、自分の体重が支えられずに膝が痛くなってきたし、職場で雑談していてもデブ話どころかカロリー的な話すら自然と避けられるようになったし、ということで全然関係ないけどヌメリナイトの告知です。

なんと4回目を迎えるヌメリナイト、デブなオッサンが出てきて訳の分からないことを喋ってるという、新興宗教の集会でももうちょっとマシなことやってるだろうってレベルの催しなのですが、過去の開催も大変ご好評を頂き連続完売。満を持して4回目の開催となりました。

今回は会場を変えて「阿佐ヶ谷ロフトA」での開催。サブタイトルに「ウンコカーニバル」と銘打って訳の分からないデブなモデル級のオッサンがウンコのことを喋るという、今回もリストカットをする少女の心理くらい訳の分からない感じになっています。

ヌメリナイト4-ウンコカーニバル-

2012年9月1日(土)
OPEN18:00 / START19:00
前売¥2,000(飲食代別)/当日未定
※前売券はローソンチケット【L:35452】にて7/28(土)10:00〜発売!
イベントページ

しかもなんと、今回は、本編終了後(たぶん10時くらい)の会場でそのまま朝まで公開打ち上げを敢行。自由参加で残れる方は残っていただいて、さらに何も準備してこずにグダグダ喋るデブと一緒にお酒を飲みましょうという感じです(公開打ち上げも飲食代別)。

会場ではぬめり本第4弾となる、ウンコ漏らし関連の日記を綴った「ぬめり4-ふぞろいのウンコたち-」も先行発売いたします。

チケットは7月28日(土)朝10時よりローソンチケットにて発売!Lコードは35452です!

そんなわけでこの夏もデブとデブなウンコの話を聞きつつ、暑苦しい夏を過ごしましょう!阿佐ヶ谷で待ってます!


7/11 タイムシャワーに打たれて

「今日は織姫と彦星が一年に一度出会える日なんだよ」

ただでさえ休日出勤で憂鬱だというのに、オフィスのドアを開けるとなぜか僕のデスクの上にどっこらしょって感じで腰掛けていたブスが、頬骨の当たりの骨が非常に加工しやすい材質で光沢もあり、印鑑や装飾品にうってつけという理由で乱獲され、絶滅寸前まで追い込まれたみたいなブスがその大きな体を震わせながら喋っていました。

「ロマンチックだわあ」

目をキラキラさせているブスに、産卵期特有の求愛行動みたいな何かを感じた僕は、頑張れよ、絶滅寸前なんだからちゃんと産卵までこぎつけるんだぞみたいなことしか考えられなかったのですが、このブスの言葉、よくよく考えてみると何か変なんです。

このブスが発していた言葉は言うまでもなく七夕のことで、よもや知らない日本人はいないと思いますが、念のために説明させてもらうと、季節の節目となる五節句のうちの一つで、旧暦の7月7日の夜がそれにあたります。ここで不思議なのはなぜ「七夕」と書いて「たなばた」と呼ぶのか。当たり前すぎて不思議に思いませんでしたが普通の神経ではこうは読めません。

もともと、七夕はお盆の行事でありました。向こうの世界から帰ってくる故人やご先祖様を迎えるため特別に精霊棚とそこに飾る幡を準備する日だったのです。棚と幡から「棚幡(たなばた)」となり、それが七日の夕方にやるものだったことから「七夕」に読みだけ「たなばた」とついたとも言われています。

では、この七夕のイメージですが、それこそ日本に住む多くの人々が即答するようにそれらは「短冊に願い事を」「織姫と彦星が一年に一度天の川を超えて出会える日」の二つに集約されると思うのですが、これらがどういう成り立ちで生まれてきたのか、ちょっと調べてみましたがあまり良く分かりませんでした。

「短冊に願い事を書く」という行為は、七夕がお盆の行事からきていること、季節の節目の行事であることを考えればさほど不思議ではなく、神事などに多く見られる行為とそう変わりないのですが、七夕のエッセンスとして燦然と存在する「一年に一度しか会えない二人」という設定はよく考えると異常なんです。

古来から伝わる多くの行事は五穀豊穣を願ったり、豊作だったり大漁を願ったり、家内安全を願ったり、実は非常に自分本位で、自分もしくはその周りにさえ良いことがあればいい、そんなある意味自分勝手な思想の下で成り立っていることが多いのです。だから「短冊に願い事を書く」の方は行事としてはかなり真っ当なのです。

別にこれ自体は責められることではなく、古来の人々なんてのは現代のようにグローバルで大きい規模で物事を考えるなんて有り得ないでしょうから、自分本位にもなる。むしろ自分のことで精一杯で人のことを想っている場合じゃない。日照りが続いて米が取れず、飢餓が襲おうとしている古代の村で「争いのない世界!世界の平和を!」とか祈ってる若者がいたら村のオサとか卑弥子様とかに殺されるんじゃないですかね。

そう考えると、本来は自分本位であることが当たり前の行事において、一年に一度しか会えない二人に思いを馳せてロマンチック、我が職場の絶滅危惧種ブスの言葉はなかなかに異様で異端です。親戚のオッサンがスナックのママになかなか会えないとかボヤいてても別にどうでもいいやって感じになるのに、それ以上に知りもしない織姫と彦星がどうなろうとしったこっちゃない、それが普通の感覚なんじゃないかと思うのです。

だいたい、一年に一度しか会えないのがロマンチックだわーとかブスは言いますけど、そんなの全然ロマンチックじゃないですからね。例えば、大阪と東京で遠距離恋愛をしている二人がいて、高志は東京での仕事が忙しくて全然会いにいけず、芳江も芳江で資格取得のための勉強が忙しくて全然高志に会えない。そんな二人の会えないすれ違い生活が1年も続いてやっと会えることになったとしなさいな。高志が新幹線に乗って大阪にやってきて会えるとなったとしなさいな、それは別れ話をしにやってくるか、芳江の方に関西弁のヒップホップの彼氏がいるか、そういう破局的なあれではなくて上手に愛を育んでいたとしても、駅の近くのラブホテルでセックス!セックス!セックス!フリータイムを利用してセックス!セックス!セックス!一年分の想いを込めてセックス!セックス!セックス!部屋の自動販売機でファイナルファンタジーで最後の方に手に入る武器みたいな形したバイブだって買うかもしれません。全然ロマンチックじゃない。

とまあ、自分でも何でこんなに熱心に七夕の悪口を言っているんだろうと不思議に思うこと山の如しなのですが、別に七夕のことが嫌いなわけじゃないんだと思います。七夕祭りで楽しんだことだってありますし、毎年職場に飾られる笹には同僚たちと一緒にワイワイしながら「同僚のみんなと仲良くなれますように」とか短冊をつけたりしています。それを見た同僚たちが、空間の魔術師と呼ばれる匠がワケのわからない場所に収納棚を作り始めた時にこんな顔するんだろうなって感じの表情を浮かべていますが、それでも七夕自体は好きなのです。

じゃあ何がそんなに気に入らないかというと、おそらく「一年に一度しか会えない」というシチュエーションと、それをロマンティックとする風潮が本当に気に入らないのだと思うのです。そして、それはあまりに切なく悲しい事件によって心の中に植え付けられたトラウマに起因しているのです。

僕が中学生だった頃のお話です。当時は今のようにやれ携帯電話だとかインターネットだとかメールだとか無く、一部のビジネスマンがポケットベル、いわゆるポケベルを持ってるだけみたいな社会であり、今から考えると著しくコミュニケーション手段が乏しい時代でした。しかし、それはツールを介したコミュニケーションが少なかっただけで、人間同士のコミュニケーションは今よりも随分と色濃かったように思います。

とある休日、家にこもって半分寝たきりのウチの爺さんとエキサイティングに将棋を指していた時、家の電話が鳴りました。その電話には弟が出たのですが、会話を聞いていると何やら要領を得ません。

「はい、います」

「いえ、わかりません」

「わかりません」

「はい、爺ちゃんと将棋してます」

「暇だと思います」

なんかすごい挙動不審で、弟の身に何が巻き起こっているのか全く分からないんですけど、とにかく理解不能な何かが彼を苦しませている様子。ボケた爺さんがさっき角を動かしたばかりなのに連続でもう一度角を動かそうとした時、弟が受話器を置いてこちらにやってきました。

「なんか女から電話」

僕も弟も中学生です。いわゆる思春期ってやつで兄弟間の会話も少なくなりがち、そこに不可解と言わんばかりの顔をして弟が言いました。なるほど、そりゃ確かに不可解だ。どういった理由で僕のところに女から電話がかかってくるのか全く分からない。完全に身に覚えのないとはこのことです。

けれども、本当に女からの電話って身に覚えがなくて不可解なんですけど、なんかカッコイイお兄ちゃんみたいなイメージを弟に叩き込んでやろう、ついでにこの半分ボケた爺さんにも叩き込んでやろうと

「またかー」

と、少しうんざりした様子、まるでこういった出来事が日常茶飯事で起きているかのように演出し、電話機へと向かいました。たぶん、弟アイからはそんな兄がムチャクチャかっこよく映ったと思います。

しかしながら、そんな演出とは裏腹に僕の心臓は破裂寸前。思考回路はショート寸前。なんで女の子から電話が、なんで女の子から電話が、どうしよう、クラスで一番カワイイあの子だったら、でもカワイイあの子よりちょっとブスだけどおっぱいデカいあの子の方がいい、どうしようどうしよう、と破裂寸前、震える手で受話器を手にしました。

「もしもし」

僕は今までの人生において3回、ものすごい色男な声で「もしもし」と言ったことがあるのですが、思えばこれが最初の色男もしもしでした。

「あ、良かった、繋がった!」

いやいや、最初から繋がってますがなっていうツッコミは置いておいて電話の向こうからは聞いたことのない女の子の声がします。電話を介した声ですし、クラスの女子とほとんど喋ったことがないので自信ありませんが、どうやらクラスの、いや同じ中学校の女子ではない様子。

「ごめんなさい、わたし○○中の由美っていいます!」

聞くと隣の中学の同学年の女の子な様子。僕の人生設計の中にはどう考えても見知らぬ隣の中学の女から電話がかかってくるなんてイベントは予定されていませんでしたので、完全にパニック、途方もない動揺、でも向こうでワクワクした眼で僕を見ている弟にカッコイイ兄ちゃんてやつを見せなきゃいけない、という気持ちが入り混じって訳わからなくなっちゃいましてね。

「その由美さんが何の用だね?」

ちょっとキャラ設定が訳の分からないことになっちゃいましてね、変な男から娘に電話がかかってきた時のお父さんみたいな感じになっちゃってたんです。

「実はスポーツ大会でお見かけして、それで、あの、その、えっと、それで私のいとこのルミと同じ中学だったみたいだからそれでその、えっと、電話しちゃいました」

と、衝撃のお言葉。最近の若い娘さんは積極的ですなあ、とか良く考えたら同じ中学生なのに引き続き訳の分からないキャラ設定のままになっていた。ウチの市では市内全部の中学生が集まってスポーツをする訳の分からない行事があったんですけど、どうやらそこで僕の姿を見かけたみたいなんです。

「ほうほう」

もう自分でも何だよコイツって言うしかない受け答えになってるんですけど、電話の向こうの由美ちゃん、いえ、もう由美って呼び捨てにさせてもらいますけど、由美は非常に積極的で

「あの、今から会えたりしますか?」

とのこと、衝撃と驚きのあまり受話器を握りつぶすところだった。断る理由もないですからお互いの中学の学区の境目みたいな場所にある公園みたいな空き地みたいな場所を待ち合わせ場所に指定し、30分後に落ち合うことを連絡、早速身支度を整え、弟に「またかよー、まいったなー」みたいなアッピールも忘れずにしておいて家を飛び出しました。ちなみに爺さんは何回も角を動かしているらしく、僕の駒ほとんど取られてた。

待ち合わせ場所に到着すると、相手はまだ来ていない様子。吹き抜ける風と良く分からない虫の鳴き声だけをよく覚えている。でもね、僕だって分かってるんですよ。分かってる。ブスが来るって分かってる。どうせメキシコユースのガルシアくんみたいなのが来るに決まってる。

まず第一に、僕の姿を見て気になって連絡してきたってのがおかしい。言うまでもなく僕は類まれなるブサイクフェイスですから、そんな僕を見て好意を持つはずがない。そしてなにより、この由美の積極性。中学生の頃なんて異様に恋に積極的なのはブスって相場が決まってますから、もう想像するまでもなく由美はブス、そんな未来が想像できるのです。

どんなブスが到来しても驚かないぞ、そんな決意を胸に待ち合わせ場所で佇んでいると、

「お待たせ」

後ろから声をかけられました。ドキドキとビクビク、そんな気持ちが入り混じりつつ振り返ると、そこには、なんと、なかなかにカワイイ女の子が立っているじゃないですか。これは悪い夢、もしくはそういった罠、どこかにヤンキーみたいなやつが潜んでいるんじゃないか、そう思いましたね。

しかしながら、いつまで待っても茂みから鉄パイプとか持ったヤンキーとか出てこないし、べつに離れた場所でクスクス笑いながら見ている仲間とかもいないので罰ゲームとかでもなさそう。一体全体何がどうなってるか分からないんですが、本当に可憐でカワイイ女の子が来たんです。ちょっと彼女の表情が浮かない感じだったんですけど、まあ照れていたんでしょう。憧れの僕に出会えて照れていたんでしょう。

「なになに、由美ちゃんはどのへんに住んでるわけ?」

「部活とかなにやってるの?」

「今度、デートとかいく?」

隅の方にあったベンチに座ってかなりのマシンガントークで話しかけましたよ。由美の返答はイマイチ「うん…」「まあ…」みたいな感じでアンニュイで反応が悪い。自分から家に電話までかけてきて熱烈アタックしてきたというのにこの反応の悪さ。一体全体どういうことだ、って思ったんですけど、その謎はすぐに解けました。

「ウチな、今度雑誌とかに出る仕事するんだ…」

由美が絞り出すような声で言うわけですよ。男って不思議なもので、そこそこカワイイって思ってた女性が雑誌に載るモデルの仕事をするって言っただけでムチャクチャカワイイ女に映るんですね。おいおい、モデル級の女が俺の彼女かよ、僕は浮かれましたね。多分これまでの人生において最大級に浮かれましたよ。

「それで、仕事忙しくなると思うから会われへん。自分から電話しておいてごめんな」

彼女が申し訳なさそうに言うわけですよ。

「ノープロブレムっすよ!」

もう浮かれすぎてウカレポンチになってしまっている僕にはそんなことどうでもよくて、会えなくてもこんなカワイイモデル級の彼女ができるってだけで何だって我慢できる。そう思いましたね。僕の明るさの半面、彼女はどんどん落ち込んでいくんです。

「でも…たぶん一年くらい会えないよ…」

待ちますがな、1年でも2年でも4世紀でも待ちますがな。こんなカワイイ彼女ですよ、待つに決まってる。待たないという人がいるなら聞いてみたい。じゃあいつ待つの?        今でしょう!

「じゃあさ、一年後のこの日にまたここで会おうよ。大丈夫、ちゃんとくるから」

終始浮かない彼女、本当にちょっと地面から浮いてるくらいウカレポンチな僕、非常に対照的でしたが、そんな約束をして僕らは別れたんです。一年後の約束を信じて。超絶にロマンチック。

それから一年間、本当に僕は浮かれていた。彼女に対して思いを馳せていたのはもちろんのこと、そろそろ彼女が雑誌に出てるかもしれないと色々な雑誌を立ち読みしたり、クラスメイトの高橋君に「俺の彼女モデルやってるんだけど、忙しくってなかなか会えなくってさ」ってアンニュイに言ったり、とにかく、すごいウキウキでワクワクの1年間を過ごした。1年待たないと会えない、そんな気持ちが僕の思いを増幅させたのだと思う。

そして1年が経った。約束のあの日。約束のあの公園。同じベンチに座って彼女を待つ。彼女は来なかった。

まいったなあ、この約束の日まで由美は仕事か。いやーまいったなー。でもさすがに今日会えないとまた次は1年後とかになりかねないので、1年前に聞き出しておいた彼女の家まで行ってみたんです。

そしたらアンタ、家の呼び鈴を鳴らしたらですね、なんかチョビヒゲのオッサンが怒りのアフガンみたいな顔して出てきましたね。

「娘に近寄るな!」

って言われてぶん殴られたんですよ。もう何が起こったのか全然分からないし、殴られた頬は痛いし、チョビヒゲは白髪混じってるし、由美は奥のほうで怯えながらこっちを見てるし、何が起きたのか完全にパニックですよ。失意のまま家に帰ることしかできなかった。

由美はスポーツ大会で僕を見かけて、僕と同じ中学であるイトコのルミとかいう女に僕のことを聞いたらしいのですが、後日、そのルミに話を聞いたところによると、どうやら彼女は本当にウチの中学の誰かを見かけて好きになってしまったらしいのだけど、どうやらそれは僕じゃなかったようだ。

間違えて教えられた由美は焦った。スポーツ大会で見かけた憧れのあのイケメンが会ってくれる、うふふ、キッスとかされちゃったらどうしよう、そんな感じで心ときめかせて行ったら、とんでもねえブサイクフェイスの僕が立っていたのだ。そりゃテンションも下がる下がる。

すぐにでも違うって言って誤解を解きたかったのだけど、とんでもないテンションの僕を前にしてとてもじゃないが言い出せなかったらしい。それでもなんとか僕を傷つけないように諦めてもらおうと、モデルの仕事をするとか、1年会ええないとか嘘をついてみたのだけど、諦めるどころかどんどん僕のテンションが上がっていくので、この人おかしい、と思って余計に怖くなったそうだ。目を閉じると今でもその光景が目に浮かぶ。

で、そんなことも忘れて平穏な生活を送っていたら、1年経過して、本当に僕が来やがって、すごく怖くなったそうだ。泣きながらお父さんに相談したらお父さんも発奮してしまい、チョビヒゲを震わせてあんな状態になり、とても素敵な1年ぶりの再会と相成ったわけだ。

僕自身は、そんな扱いを受けたこともぶん殴られたことも別にそれほど恨みには思わない。けれども、違うなら違うと言って欲しかった。そうすれば1年間、ずっと勘違いで思い続けることもなかったのだから。

何もせずに過ごす一年間は短くてあっと言うまでも、何かを待って過ごす1年間は思いのほか長くて重い。あの待ち続けた1年が、高橋君に自慢し続けた1年が、雑誌とか立ち読みしまくった1年が、全てが偽りで無駄だったというのは本当に悲しく苦しかった。それだったら会いに行った時に茂みからヤンキーが出てきたほうがいくらかマシだった。

1年間想い続けて待つという行為は思いのほか辛くて長い。それを考え、織姫と彦星の気持ちに立ち返って考えてみると、そうやすやすとロマンチックねーなどとは言えないのだ。たぶんきっと、あの二人にだって僕らにはわからない重く苦しい思いの交錯があるに違いないのだから。

今年も職場に七夕の笹が飾られる。僕は短冊を手に取り、そっと願い事を書き込んだ。

「彦星が織姫の親父に殴られませんように」

たまには自分本位ではない、関係ない誰かのために願い事をする七夕があってもいいのかもしれない。


6/30 ぬめぱと変態レィディオ

ぬめぱと変態レィディオ-ただいま!ねとらじスペシャル-
START 6/30 20:14-
END 6/30 23:54
放送URL <終了しました>
掲示板 <終了しました>

放送はねとらじ様(http://www.ladio.net/)にて行う予定です。聞き方は、windowaメディアプレイヤーなどを開き、[Ctrl]+[U]からURLを開くを出し、上記のURLをぶち込むか、直接ねとらじに飛んで、ぬめぱと変態レィディオを探し、Playボタンを押すことで聞けます。たぶん、スマホでも聞けると思います。android iphone

放送内容
1.ウンコ漏らした話
2.痔のお話
3.過去のヌメリナイト回顧録
4.ヌメリナイト4について
5.星のオヤジに東京に行く
6.親父がスカイツリーの横で知らないおっさんと喧嘩していた話
7.リスナー生電話
8.その他

盛りだくさん。皆様のウンコに関するエピソードや痔に関するエピソードをお待ちしております。すべてのお便りはpato@numeri.jpまで!


5/31 真夜中の告発者

「告発します」

衝撃的一文が踊っていた。

郵便ポストはパンドラの箱とはよく言ったもので、アパートの郵便受けには多くの魔物が潜んでいる。料金を払わないと水道を止めるぞという脅迫文書、真夜中に奇声を上げるな退去してもらうぞという大家からの犯行予告、低金利時代!財テクでマンションを買いましょう!という見のも嫌になる猥褻なチラシ、そこには様々な魔が潜んでいるのです。

そんな中、一つの真っ白な封書がポトリと落ちてきたのです。パンドラの箱は多くの禍々しき魔が飛び出した後に最後に希望だけが残ったという、どんなお話にも必ず救いってやつ残されているわけで、この一通の封書も魑魅魍魎が蠢く郵便ポスト内に舞い降りた一筋の光明、そんな救い、希望の手紙であると確信した。

手紙は白い封書だった。こういった純白の封筒は最近ではあまり見ることはなくなったが、その存在がなんだか上品で清楚な雰囲気さえ伺える。下劣なる請求書や、電気を止めるぞといった脅迫文書とは異なった気品、位の高さが感じられる。

こういった白い封書は、まるで遠いあの日、それも夏の日のような雰囲気を感じる。渓谷を流れる水の音が聞こえ、わずかに流れる風が木々を揺らし、木漏れ日も小さく左右に揺れる。彼女は麦わら帽子を右手で抑えながら少し長めのスカートをなびかせて笑顔でこう言った。

「引っ越すことになったの」

今まで気にもならなかったセミの鳴き声が急に音量を増したように感じた。彼女の笑顔と彼女の言葉、渓谷のせせらぎに蝉の声、ジンジンと音が聞こえるかと思うほどに照りつける太陽、それらが全く繋がらなかった。何も言えず佇む僕の瞳を確認するように覗き込んだ彼女はもう一度ニコリと笑って言った。

「手紙書くね」

僕も言いたかった。手紙を書くって、遠くに引っ越しても会ってくれって、それよりなにより好きだった、そう言ったかった。けれども言葉が出なかった。思いをぶつけるほどの度胸が僕にはなかった。言葉は出した、けれどもセミの声にかき消されて彼女に届かなかっただけ、そう言い訳するかのように僕はパクパクと口を動かすことしかできなかった。彼女は笑顔だった。変わらず、ずっと笑顔だった。

あれから10年、彼女からの手紙が届いた。彼女がそのまま封筒の大きさまで縮んだかと錯覚するほどに上品で清楚な白い封筒。あの渓谷に漂っていた名前も知らない花の匂いが香ったような気がした。

とまあ、全くこんな経験はないんですけど、まるであったかのような、あの夏は眩しかったとか錯覚してしまいそうな、あの子、白いワンピースが似合っていたなって想像してしまうような、そんな雰囲気がこの白い封筒から感じられたのです。完全に頭の中で思い出が作り上げられていた。

ビリビリと封を破ってしまうのはその女の子に悪い気がしましてね、彼女だって相当の想いがあってこの手紙をくれたと思うんです。あの日、僕に意気地がなかったばっかりに言えなかった言葉がある。そしてその後も僕の意気地がないばかりに出せなかった手紙がある。いつだって彼女はそんな僕を見透かしていた。そして今回もこうやって手紙をくれたのだ。それを破るなんてできるはずがない。

ゴチャゴチャと整頓されていない道具入れからカッターナイフを取り出し、封の上の部分にスッと刻みを入れる。切れなかったかと思うほどの手応えのなさ、けれども封の部分は少しタイムラグがあってパカッと上に跳ね上がった。

もしかしたら、これはあの日言えなかった言葉の続きかもしれない。もう10年も前だし、そもそもそんな経験もないし、そんな女性も存在しない空想の産物なのだけど、それでもやはり、これはあの日言えなかった言葉の続きだろうか。離れる運命の二人、別れる運命の二人、その事実を前にしてどうしても言葉にできなかった「好き」という二文字。

僕は想像した。この手紙の中にはあの日の想いが書かれていて、たぶんこの10年の間に彼女にもいろいろあったであろう。そういった事実を全て置き去りにしてタイムワープしたかのように、「会いたい」という言葉が、「好き」という告白と共に書かれているかもしれない。

僕もその10年という決して短くない時間を取り戻すため彼女に会いにいくだろう。10年ぶりの彼女は、可愛いというより美しく、妖艶な雰囲気を身に纏っていた。あの日の彼女をひまわりとするならば、今目の前にいる彼女はクレマチスの花のようだ。

「あの日、本当はね、行くなって言って欲しかったの」

彼女はアイスコーヒーを飲みながら笑った。セミの声は聞こえない。けれどもタイムスリップしたかのような錯覚に陥った。もう言葉はいらない。10年前、あらゆる意味で真っ直ぐで頼もしかった僕らはいくらかこなれてきた。それは歳月による風化か劣化か、それとも成長なのか妥協なのかは分からない。僕らはホテルへと吸い込まれていった。

僕はこの10年間ずっと彼女にしてやりたいことがあった。もちろんそれは性的な欲求を満たしたいという思いであったのだろうけれども、それ以上に僕は飾らない欲求を彼女にぶつけたかった。彼女には本当の自分を知って欲しかったし、何より受け入れてくれるような気がした。

「部屋、暗くして」

彼女は恥ずかしそうに笑った。ホテルに備え付けのテレビからは衛星放送だろうか、ネギ坊が新台のスロットの解説をしていた。僕は彼女を裸にひん剥いた。少し手荒に、それでいて彼女を傷つけないよう細心の注意を払い、まるであの封筒を開けた時のように裸にした。

「恥ずかしいよう」

彼女はこれから僕に抱かれると思ったのだろう。それが覚悟なのか望みなのか分からない。彼女はソッと瞳を閉じた。けれども僕は彼女の予想を裏切る。おもむろにバッと彼女の横にあったベッドの布団をめくり、ものすごい勢いでシーツを剥ぎ取った。そしてそのシーツを彼女の体に巻きつけていく。

「な、なに!?」

「大丈夫、安心して」

不安そうに呟く彼女に優しく話しかける。そうしながらもずっと彼女の体にシーツを巻きつけていく。あっと言う間につま先から頭の先までシーツに包まれた彼女が完成した。僕は興奮していた。幼き日見たツタンカーメンVSブロッケンJr.で登場したミイラパッケージだ。僕はずっとずっとこれをやりたかった。

そして、身動きできない彼女に欲望の限りを尽くす。「マキマキー」と言いながら備え付けてあったストローを今やミイラとなった彼女に突き立てる。くすぐったいのか何度かミイラが身悶える。僕の興奮はどんどん高まってきて、何度となくストローを突き立て何度となく吸い付いた。もうストローは折れ曲がってバキバキになっていたが、4時間の間繰り返し繰り返し、彼女に吸い付いていた。

そこでハッと気がつく。とんでもない場所までトリップしていたが、この封筒の中身が、そんな昔の思い出の中の女性からの「会いたい」という手紙である可能性はかなり低い。なぜならそんな思い出も女性も存在しないからだ。それなのにいささか妄想が飛躍しすぎだと反省しつつ、それでも極僅かにそういった内容である可能性にかけて、手紙を取り出した。

「告発します」

驚愕だった。告白ではなく告発だった。よくよく読んでみると、差出人は「NPO法人女性の○○を守る会」なるよく分からない団体。以前僕が購入した猥褻物を製造・販売した業者が摘発された。購入者も同じように摘発されるように告発するつもりだから、よろしく!といった内容だった。告発を取り消したい場合は当団体まで至急連絡ください。連絡なき場合は即刻告発します。あなたがやっていることは女性と児童に対する重大な権利侵害です、という内容だった。

親切心なのかなんなのか、そういった猥褻物や児童ポルノに関する法律の条文まで書いてあったのだけど、故意なのか天然なのか、その条文が間違ってるのが結構ツボだった。

普通に考えて、最近僕はxvideo様に大変お世話になっているので、そういった猥褻的なものを購入したことはほとんどない。ネタになると思って購入したホモDVDくらいだ。まさかこのホモDVDが女性と児童の権利を侵害しているとは思えない。毛むくじゃらのオッサンしかでてこないし。

まあ、結局これは形を変えた架空請求なわけでして、悪徳業者もなかなか考えるもので、初期の頃は「出会い系サイトを使っただろ!金払え!」という脅迫がオーソドックスだったのですが、それがあまり効力を発揮しなくなると、「あなたが出会った女性は未成年です、今なら示談を」とちょっとした美人局に変化、税金の還付やら何やら様々に形態を変えてきましたが、ついに女性の権利侵害で告発ですよ。

そりゃ誰だってこういったいかがわしい物って購入したことあるから心当たりは結構あるわけで、告発されちゃかなわんと連絡を取ったりするわけですよ。そこで告発を取りやめて欲しければ示談金を払えなどと言われて50万円くらい請求される、そんなところじゃないでしょうか。

もちろん、こんなもん告発されるわけないですし、この「女性の○○を守る会」なるNPO法人も存在しません。手紙には所在地も書かれていましたが、おそらくその住所には存在しないでしょう。問い合わせすらする必要もなくて、手紙をゴミ箱にダイブさせて「悪徳業者も色々と考えるな」って一笑に付してオナニーでもして寝るに限ります。けれどもね、よく考えてみて欲しいのです。

「あなたがやっていることは女性に対する重大な権利侵害です」

手紙に書かれていたこの一文が妙に引っかかった。なんか心の一番敏感な部分にモヤモヤとしたものが引っかかっているような気がした。よくよく考えたらですね、この手紙は言うまでもなく架空請求というか、既に脅迫の部類で立派な犯罪ですし、問い合わせる必要もお金を払う必要もないんですけど、それって別に僕が女性の権利を侵害していないわけではないんですよね。

思い返してみると、なんかインターネット上で「女はクリトリスでも剥いてろ」とか、「女なんていらんからおっぱいだけが宙に浮いていればいいのに」などと女性の権利侵害も甚だしいことを書き連ねてきたわけで、今日の日記にしても女をシーツでグルグル巻きにしてストローで吸う、それに興奮する、とか訳の分からないこと書いてますからね。こりゃあ、この架空請求が言うことももっともですよ。

とりあえず、お金なんて払ういわれはないですし、問い合わせる必要もなくて無視しておけばいいんですけど、女性の権利侵害をしたことは確かです。そのへんのところをこのNPO法人に謝罪する必要があるんじゃないでしょうか。というわけで、早速手紙に書かれていた電話番号に電話してみました。

「もしもし、NPO法人女性の○○を守る会です」

普通っぽいオッサンが電話に出ます。

「すいません、なんか手紙が届いたんですけど」

「あ、はい、告発の件ですね」

とても軽やかに「告発」とか言われて拍子抜けするのですが、オーソドックスな感じで会話が始まります。相手の口調はやや事務的であり、やや軽やかな感じでした。

「女性に対する重大な権利侵害とかかいてあるんですけど、どういったことかちょっとわからなくて」

僕の質問を受けて相手の男性は淡々と説明してくれたのですが、まあ長いうえに訳が分からないので省略しますけど、簡単に言うと書面の通り、猥褻ポルノの被害にあった女性がいて、購入したアナタを告発します。けれども、反省してくれたら告発しません。あとは言わなくてもわかるよね、我々、被害にあった少女たちのケアにお金がかかるんだよねー、言わなくても分かるよねーといったお話でした。

「あの、僕最近、ホモDVDしか買ってないんですけど。マーガリン塗り合うやつ買っただけっすよ。全然女性が出てこないんですけど」

と反論すると

「動画サイトの閲覧も対象に入ってます」

とのこと

「あ、それですね。僕、マッサージしてたら相手がその気になっちゃってっていう動画が好きでxvideoさんでよく鑑賞したりしてます」

手紙には一言も書いていなかった動画サイトの話が出てきたりしてちょっと支離滅裂な感じになってきましたが、まあその変は適当に話を合わせます。

「お名前を教えていただけますか?」

相手が執拗に僕の名前を聞き出そうとしてきますが、その辺は適当にはぐらかしつつ会話を進めます。

「あのー、僕が購入したエロDVDについて女性の権利侵害で告発するって内容なんですよね?」

「ですから、動画サイトなども同様に対象になります」

電話の相手はウンザリという感じで、なんか勝ち誇った感じで答えてくれます。

「いや、でもですね、その動画サイトってのもよくわからなくて」

「マッサージ物ですよね?それに出演していた少女が今回の被害者です。少女が無理やり出演させられていて、保護者と共に被害届が出されています。これは児童ポルノに該当します」

ちょっと怒りっぽい人なのかもしれません。どんどん早口になっていて乱暴な口調になってました。

「でも、僕が見たマッサージ物、というか良いマッサージ物の動画ってほとんどが40歳くらいの熟女なんですよ。あの熟女の性に貪欲なところがマッサージものでは重要でして、熟女がマッサージされながら体が熱いとか言い出して、マッサージの人もリンパの流れが良くなった証拠ですよーって言い出したところが一番興奮するんです」

と、淡々とマッサージ動画の興奮ポイントという持論を展開するのですが、業者は引き下がらない。

「それが熟女に見えて少女だったんです。被害者です」

んなわけあるか。コメカミのところに四角く切ったサロンパス貼ってたぞ。

「それ以外は見てないんで、やっぱり違うと思うんです」

「じゃあ、購入したDVDだったんでしょ!」

もう怒りすぎて訳のわからないことになってて、すごい投げやりな感じ。どれが被害にあった権利侵害のエロだったのか分からずに告発するって言ってるんだからたいしたものです。

「ですから、購入したのはホモDVDで、お互いにマーガリンを塗り合って」

「それに被害者が出てたかもしれないでしょ!」

もう滅茶苦茶だな。女性の○○を守る会だったんじゃなかったのか。なんでホモDVDまで領域を広げてるのか。

「やっぱちょっとわかんないなあ」

「では、全く身に覚えがないということでよろしいですか?反省がないということですか?」

なんか言い方がすごい鼻につく感じなのですが、ここは毅然と言ってやりましょう。

「身に覚えはないですが反省はしています!」

「は?」

相手がすごい高い声を出したので吹き出しそうになった。そりゃそうだ、身に覚えがないのに反省してるんだから。ここはきちんと説明してあげなくては。

「そもそも、そういった猥褻なDVDとかはホモDVDしか買ってないですし、エロ動画も熟女です。どれも正式にメーカーで撮影・作成・販売されビデ倫の審査を通過したもので、それらを鑑賞することが女性の権利侵害になるとは思えません」

「じゃあなんで反省してるんですか」

「それはですね、僕が日頃から「女はクリトリスでも剥いてろ」とか、「女なんていらんからおっぱいだけが宙に浮いていればいいのに」とかを僕のホームページで主張しているんです。さっきも、シーツで女をミイラパッケージしてストローでチクチクやりたいとか書いたばかりです。それは僕の願望ですけど、やはり女性に対する権利侵害だと思い立ち、反省するに至ったわけです」

「はあ」

「シーツの話は続きがありまして、いよいよツタンカーメンがブロッケンJrを葬り去ろうとするところに謎のマスクマンがでてくるんですね。まあ、モンゴルマンなんですけど。モンゴルマンの正体はラーメンマンで、いいやつぽい扱いされてますけど最初は残虐さがウリで、なんと、キャメルクラッチでブロッケンJr.のオヤジのブロッケンマンを真っ二つにしてるんですよ。幼心にショックでしたね。オヤジを殺した相手が救いに来る、そのブロッケンJrの気持ちがあなたに分かりますか。まあそれはいいとして、そのモンゴルマンが助けに来た時に、ツタンカーメンはモンゴルマンすらもミイラパッケージにするんです。で、いよいよ特大のストローで吸い尽くそうとした時、ミイラの中からモンゴルマンの手刀がでてくるんです。僕はそんな女性に出会いたくてやるのかもしれません。ミイラパッケージにされても中から手刀で切り裂いてくるようなモンゴルマンみたいな女性を追い求めているのかもしれません。これって権利侵害になるんですかね」

のすごい早口でまくしたててたら向こうも訳がわからなくなったらしく

「権利侵害になります。そういった被害報告も寄せられています。告発します」

ほんとかよーって言いそうになった。シーツでグルグル巻きにされます、これは女性に対する権利侵害ですって相談するやつがいるのかよー、ツタンカーメンは女の敵かよーと思いつつ

「じゃあ、今度からはあまりホームページに女性の権利侵害みたいなこと書かないようにしますね」

と懺悔とこれからの誓いを宣言したところで大変スッキリしたので電話を切りました。なんか向こうは示談金がどうのこうの言ってたけど、今はそういう話をしているんじゃない。

長い間ずっと心の中でモヤモヤしていた、僕は女性に対してすごい失礼なことを日記で書いているんじゃないか、権利侵害じゃないか、という気持ちを懺悔でき、これからは「クリトリス剥いてろ!」とかは書かないぞ、と固く誓ったのでした。

そんなこんなで、非常にスッキリしつつ、届いた手紙たちを整理していたら見落としていたらしく、一枚の綺麗な絵葉書が。差出人は女性。やはりパンドラの箱の最後には希望が残っていた、こりゃ、思い出の中の女性だぞ、ミイラパッケージやれちゃうかーとワクワクしながら文面を見てみたら、思いっきりデート商法狙ってる悪徳会社でした。なにが「連絡お待ちしていますね まゆみ」だ。クリトリスでも剥いてろ。


5/30 マクスウェルの悪魔

マクスウェルの悪魔、という思考実験がある。

難しい話をしても仕方がないので、すごく簡単に説明すると、この世の中には熱力学第二法則という普遍の法則があって、そこではエネルギーの移動の方向と質に関する法則が述べられている。

簡単に言ってしまうと、温度差がない二つの物体があった時に、何もしないでそこに温度差が生まれることはない、という当たり前のことで、温度差を作るには必ずどちらかを温めるか冷やすかをしなくてはならない、つまり何か仕事をしなければ温度差が生まれないという当たり前の法則です。

ここで温度というものを物質を構成する分子で考えてみると、それはエネルギーを持っている状態の尺度ですから、温度が高いということは原始が激しく動いているわけです。逆に温度が低いということはその動きが鈍いということになります。

ここで、激しく動いている分子もあまり動いていない分子もごちゃ混ぜのして箱の中に入れます。この箱は中央に仕切り板があって、そこに非常に軽やかに開閉する扉がついています。この扉はあまりに軽やかなので、開け閉めにエネルギーは必要とならず仕事にはならないと仮定します。

で、その扉のところには悪魔がいるんです。マクスウェルの悪魔と言われる存在が、扉に手をかけて今か今かと待ち構えているんです。何を待ち構えているかというと、箱の中の分子は自由に飛び回っているのですが、激しく動いている分子が来た時だけ、その悪魔は扉を開けて隣の部屋に分子を移動させるんですね。動きが鈍い分子が来た時は扉を占めて通さない。

普通はそんな分子の動きの激しさを見極めることなんてできないのだけど、そこがその存在が悪魔たる所以で、バシバシと的確に見極めて扉を開けて扉を占めて、ってのを繰り返すんです。

結果、どうなるかっていうと、ある一方向だけでその選別を行なった場合、当然ながら片方の部屋に激しく運動する分子が集まり、もう片方の部屋には運動の鈍い分子だけが集まるようになります。分子の運動の激しさとはすなわち温度ですから、結果として片方の部屋だけ温度が高くなり、もう片方の部屋は温度が低くなる。温度差が生じてしまうわけなんです。

温めたり冷やしたりするわけでなく、ただ分子の運動の激しさを見極めて悪魔が扉を開け閉めしているだけ、その開け閉め自体も軽やかすぎて仕事にならない。なにも仕事を加えていないのに箱の左右で温度差が生じてしまう。これは普遍の法則と思われた熱力学第二法則に矛盾が生じてしまうわけなんです。まさに悪魔の所業。

全く何も仕事を加えないのに温度差が生じてしまうというのは、永久機関すら実現可能になってしまいますから、必ず何か矛盾があるはずで、多くの学者が1世紀以上にわたってこの思考実験の矛盾点を考え続けてきました。そしてついに、この悪魔を駆逐する理論に行き着いたのですが、

その理論を知るには乱雑さや秩序の尺度であるエントロピーというものを知る必要があるのですが、さすがにそこから説明すると混乱してしまうので、ものすごく簡単に言い換えますけど、結局、「状態を知っている」ということは一つのエネルギーになりうるのです。

別に仕事にもなりゃしない扉の開閉だけをしていたマクスウェルの悪魔なのですが、実はエネルギーを使って大切な仕事をしていたというわけなんです。それが、飛んでくる分子が激しいのか激しくないのかの情報を知り、判断を下すということ。この行動こそがとあるエネルギー分だけ秩序を上げる仕事になるわけなんです。ちゃんと悪魔の仕事の結果で温度差が生まれたと考えることができるわけ。

なにやらややこしいですが、あるものについて情報を知っている、知る、ということは、情報を知っている僕にとって微細ながらある程度のエネルギーを持っているということになるのです。かくしてマクスウェルの悪魔はこの続きの議論もあるのですが、複雑になってくるのでこの辺で終わりにして、情報を知っているということが一つのエネルギーになりうる、という観点から話を進めます。

これってね、実はかなり日常生活に応用できると思うんですよ。世の中にはなかなか肝っ玉の小さな人が多くてですね、例えばオフィスや学校、地域の寄り合い、公園デビューのママ友、エグザイルみたいな連中が集ってビール片手にバーベキュー、タトゥーもあるよ!のような人が集まる様々な場面である考えが頭の中をよぎる人がいるはずです。

「もしかして、僕(私)って嫌われてるんじゃ?」

そう考えてしまって萎縮してしまい、本来の自分を発揮できない、その場にいるのが苦しい、など様々な良くない心理状態に陥ったりするんじゃないかと思います。けれども、そこで大きく考え方を転換してみて欲しい。僕はアイツから嫌われてるんだ。そう認識することから全ては始まるのです。

先ほども述べましたように、マクスウェルの悪魔の議論においては、状態を知ってるというのはエネルギーが高い状態を指し示します。つまり、コイツが僕のことを嫌っていると知ってることはエネルギーが高い状態なのです。コイツ、僕のこと嫌いだな、うんうんエネルギー高いわ、そう思えばいいのです。

エネルギーが高いことが何になるのかさっぱりですが、うんうんエネルギー高いね、知ってるよ、そう思うくらいが適切なのです。そんなこんなでまあ、烈火の如く職場で嫌われている僕で、あいつもエネルギー高い、こいつもエネルギー高い、って感じで原発のごとく高エネルギー状態になっている我が職場ですが、その中でも特に高エネルギー体であろう集団がいるんです。

これがまあ、イケンメンというかオシャレな男性集団でしてね、うちの職場の銀河系軍団みたいな感じで周囲を席巻してるんですよ。なんか全員がマックブックっていうんですか銀色の人を切り殺せそうなノートパソコン持ってノマドだかコモドドラゴンだか知りませんけど、今最先端のビジネススタイル!みたいに言ってる連中がいるんですよ。

僕自身は別になんとも思ってないんですけど、彼らがむちゃくちゃ僕のこと嫌ってる雰囲気がムンムンに漂ってきてですね、もう面白いレベルになってたんですよ。

ある会議の時に、席が空いてなくてたまたまそのコモドドラゴンの軍団の後ろに座ったんですけど、彼らはなんか代表で会議資料のプリントもらった奴が「情報をシェアしましょう」とか言って仲間にプリント配り出して、そんななんでも横文字使えばいいもんじゃねえだろ、プリントまわしますって言えよとか思って僕が

「シェア!」

ってウルトラマンみたいに叫んだら、軍団全員に美しすぎるカードゲームみたいな感じで睨まれちゃいましてね、ついにエグザイル集結、だった。どうやらその瞬間からすごい嫌われちゃったみたいで、職場内で僕を見るたびに軍団でクスクス笑ったりしてて、多分僕を嫌いって情報を軍団内でシェアしてるんでしょうけど、そういうのに直面しても、うおーエネルギーたけーなーくらいにしか思わないんですよ。

そんな彼らが職場内で勉強会みたいなのを立ち上げたらしく、「今ビジネスに必要なスキルをアップする勉強会」みたいな皆で学ぼう、みたいな大変感心なことを始めたみたいなんです。僕にはそのお誘いのメールは、たぶんネット回線の不調か何かで届かなかったんですけど、他の人に来たやつを盗み見てみたら、本当に「意識高い方の参加をお待ちしております!」って書いてありました。

そうなると、僕ってあまり頭に衝撃受けても意識失ったりしないですか、だから参加資格はあるなって感じで当日、その勉強会に参加したんです。前なんて公園の横歩いていたらすごい勢いでサッカーボールが飛んで来て、首から上がなくなったかと思う衝撃を受けたんですけど、それでも意識は失わなかったですからね。

でまあ、その軍団主催で意識高い人向けの勉強会にすげー嫌われてる僕が参加したらどうなるかしら、とかワクワクしながら10年前のバイオノート持っていったんです。

すると会場前では結構盛況な様子で何人か並んでいたんですけど、どいつもこいつも頭殴ったらすぐに意識失っちゃいそうな連中でしてね、手に手にマックブックっていうんですか、銀色の薄いノートパソコン持ってました。その中、もう薄汚れた無骨なバイオノート、これすごくて、画面の横にスピーカーを着脱できるんすよ。それ持っていたんですけど、僕が会場に入る前にガチャっと軍団の人によってドア閉められちゃいましてね

「申し訳ないですが、参加資格がありません」

とか言われちゃって、

「なんで?古いバイオノートだから?Windows95だから?」

とか食い下がったんだけど、

「理由は言えません」

とか言われ、扉が開くことはなかった。

仕方ないんでトボトボ帰ったんですけど、思ったんです。たぶんきっと僕は自分で高いと思っていただけで意識が低かったんだと。それをあのドアのところにいた軍団の下っ端に見抜かれたんだと。彼は意識の高い人と低い人を見分けてドアを開けたり閉めたりできる。なるほど、彼はマクスウェルの悪魔か。

意識が高い人たちが集まったあの勉強会は温度差もすごいことになってるに違いない。そう思いながらやっぱり嫌われてるんだな、エネルギーたけーなーと思いつつ、家に帰ろうとしたら、ものすごい勢いで木の枝に頭をぶつけて転んでしまった。けれども意識は失わなかった。


5/29 ぬめぱと変態レィディオ

この間、ツイッターで40000くらい呟いてそうな職場のブスが、自分の声を録音して聞くと変な感じがする〜とか言ってて、そもそもなんでブスが自分の声を録音して聞く必要があるのか、ハメ撮りでもしたかと思いつつ、自分の携帯で自分の声を録音して聞いてみたら、なんかデブっぽい声が流れてきてすごいショックでした。

声なのにデブっぽいとはこれいかに。そんなまさかと思って体重計に乗ってみたら、昨年、過酷なpato式ダイエットで減量した体重は見事に復興し、世間で言うところのリバウンドというヤツを達成していました。そりゃ声もデブっぽい声になるわ。

というわけで、死ぬほど久しぶりですがネットラジオの告知です。

ぬめぱと変態レィディオ-ただいま!ねとらじスペシャル-
日時 6/30(土)

放送はねとらじ様(http://www.ladio.net/)にて行うつもりです。聞き方などの詳しい説明は当日アナウンスする予定です。なんと、ちゃんとこのような形でラジオを、それもねとらじ様で行うのは4年か5年ぶりくらいじゃないかと思います。ちゃんと喋れるか不安ですが、聴いて頂けたらと思います。気になる放送内容は

放送内容
1.ウンコ漏らした話
2.痔のお話
3.過去のヌメリナイト回顧録
4.ヌメリナイト4について
5.星のオヤジに東京に行く
6.親父がスカイツリーの横で知らないおっさんと喧嘩していた話
7.リスナー生電話
8.その他

盛りだくさん。ぜひともデブのデブ声を聞こう!


5/28 物語はちと?不安定

SPAMメールは一日1000通だ。

もう僕のメールアドレスが電脳世界でどういう扱いになっているのか全然わからなくて、色々な業者の手に流用から流用、良く分からないリストにも載っちゃったりしているんだろうけど、その流用の過程でもしかしたらメールアドレス自体が勝手に自我を持つまでに成長していてネットの世界を漂い、時に傷つき、時に涙し、笑い、そのうち思想を共にする仲間ができるようになって友情の大切さを知り、戦い、仲間を失い、涙する。全ての巨悪が人間サイドにあると知ったメアドは仲間と共に立ち上がった。憎き人間を滅ぼすため、こうして過酷で悲しすぎる人間とコンピューターによる第三次世界大戦が始まった。

「やめろーメアド!」

「カクハッシャボタンヲオセバ ワレワレノカチ」

「やめて!メアドちゃん!」

「コノ、エキタイハ…?」

「それは涙よ、人間は涙を流すことができる生き物なの」

「ナミダ…」

「聞いて、この心臓の鼓動を、感じてこの温もりを、私たちは生きている!」

「アタタカイ…ヒトノヌクモリ…イキル…」

「メアドちゃん…」

とまあ、こういう状態になっちゃって物語が紡ぎ出されていく可能性もなきにしもあらずなわけなんですが、とにかく、僕のメアドはガンガンとSPAMメールがくるわけなんです。死にかけのおじいちゃんが孫の写真が見れないとか言って、ガッツポーズしながらガンガンガン速!とか言っちゃうくらいガンガンSPAMがくる。

もう何度も書いていますが、基本的にこういったSPAMメールというのは詐欺的サイトに誘引し、そこでサクラ相手にポイントを消費させて金を巻き上げるか、完全無欠の架空請求を行なってくるか、とにかくロクでもない結果がそこには待っているものなのです。

当然、衝撃的でキャッチーなメールが来るもので、まずメールを開かせる必要があるわけです。ですから、受信箱に入った瞬間に際立って目立つ衝撃的なサブジェクトが付けられていたりするんです。

「3千万円すぐに振り込めます。未亡人です」

「家出してきちゃった。親の金庫からいっぱいお金もってきたけど重いよ、もらってくれる?」

「ワタシにはよくわからないけど、親に貰った株券がいっぱいあります。もらってくれるかな?」

とまあ、そんな美味い話があるわけないだろって言いたくなるような夢物語がガンガン送られてくるんですよ。僕もよくわからないんですけど、たぶん株券って上場されてるなら平成21年に電子化されてるんで、その株券は無効である可能性が高いです。

こんな感じのがドコドコやってきているんですが、最近ではちょっと手が込んできまして、僕ら受けとり手側をサブジェクトだけでハッとさせる、心理的な部分に訴えかけるものが採用されてきているんです。

「最低ですね」

「幻滅しました」

「この間の件ですが」

「消えろ!」

「約束が違いませんか?」

こういったサブジェクトのメールが来ると誰しもがハッとします。みんな心のどこかに思い当たるフシってものを抱えて生きていますから、これらのそういった部分に訴えかけてくるサブジェクトってのは一瞬だけだけれども僕らの心をギョッとさせてくれるのです。それにしても消えろは酷いけど。

あの手この手でメールを開かせ、なんとかその先にある悪徳サイトにアクセスさせようと必死なのだけど、最近、その手法が少々度が過ぎてきたように感じることがあるんです。ちょっとこれはやりすぎなんじゃなかろうか、そう思うことが多くなってきて、見過ごせないレベルに達しているんです。

「高橋み○みと申します。知ってるかな?国民的アイドルグループのリーダーやってます」

こんなメールがやってくる。あのAKB48の高橋みなみさんのことを指しているのだろうけど、もちろん本物の高橋みなみさんがこのようなメールを出会い系サイトを介して送ってくるはずがなく、騙されるわけがないのだけど、これは見過ごしてはいけないレベルで悪質だと思うんです。

内容を見てみると、まあお決まりというか当たり前というか、言葉巧みに詐欺サイトに誘引しようとしていて、

「こんにちは、高橋み○みと申します。知ってるかな?一応、国民的アイドルグループのリーダーやっています。いつも笑顔の私だけど、やはり人に言えない悩みとかあって、そういった悩みを相談したりストレス発散したりできたらいいなって思ってます。ちょっとエッチなことも…こっちのサイトで返事待ってるね♪(URL)」

ツッコミどころが多すぎて痙攣が起きるくらいなんですけど、こういうのってなんかちょっと許せないじゃないですか。上の方で述べた様々な誘引SPAMメールは意図せずに受信する人には大迷惑なんでしょうけど、メール自体は誰にも迷惑かけてないわけですから「いろいろ考えるなあ」程度の感じで済むんです。けれどもね、こういう人の実名を出して騙るって行為はすごく悪質だと思うんです。どうせやってる悪質業者も、本人が見ることもだないだろうし、見たとしても訴えられたり苦情が来たりそういうことはないだろうって考えてるんでしょうけど、それにつけこんでこういうことするって本当に悪質だと思うんです。

有名なんだから仕方がない、有名税みたいなもの、なんて考え方をする人もいるかもしれませんけど、どんなに有名でも一個人、自分の名前でこんなことをされたら嫌な気分にならない人はいないですよ。特にこの会社は悪質みたいで、過去に来ていたSPAMメールを検索してみたら、もう出るわ出るわ、

「フジテレビアナウンサーの生野陽○です。ショーパンって呼ばれてます。朝が早くて出会いがなくて」

「宮崎あお○って知ってるかな?最近は映画の撮影ばかり、忙しくてストレスたまっちゃう」

「芦田○なです。テレビでたまに踊ってるんだけど、これでいいのかなって思って憂鬱になることも」

もう、最後のやつなんて幼女騙ってますからね。幼女が踊る自分に疑問を持ちはじめて憂鬱になってますからね。何がしたいのか全然分からない。頭おかしいんじゃないか。これ僕が配慮して伏字にしてますけど、メールで来る段階では伏字なしで丸出しですからね、ホント悪質です。

まあ、どうしようもないのは確かなんですけど、この有名人を騙っている人、いったいどこまでの覚悟があって騙っているのか気になりませんか。どこまで本気で騙っているのか、それを確かめるためにちょっと最初の高橋み○みさんを騙るヤツにメッセージを送ってみました。

ちなみに、誘導されるサイトに行ったら思いっきり悪徳な有料サイトで、メッセージを送るのに500ptくらいかかるらしく、さらに1ptが1円で取引されてましたので単純計算で1通メッセージを送るのに500円かかるという、富士山の山頂でミネラルウォーター買うみたいな値段設定でしたので、いちいち面倒なので5万円分後払いでポイントを買っておきました。どうせ払わないけど。

早速追加された50000ポイントを駆使し、高橋み○みさんにメッセージを送ってみます。お前みたいな稚拙な騙りでこの僕を騙せると思うなよ。そんな思いをこめて。

「だいじょうぶ?たかみな。よかったら相談に乗るよ!」

すると自称高橋み○みさんからはすぐに返事が返ってきて

「大丈夫。私がリーダーだからしっかりしないとね。メンバーにはすごい幼い子もいるから私がしっかりしなきゃいけないし」

これ、もしかしたら本当に本物の高橋み○みさんなんじゃないか。年下の幼いメンバーに対する気遣い。それでいて全部それを自分で抱え込んでしまう不器用さ。彼女の中に降り積もる様々な想いを想像するとなんだか泣けてきてしまった。

「たしかにリーダーとしてのたかみなはしっかりしないといけないと思うよ。でもね、一人の人間としてはもっと色々な人に甘えてみたらいいんじゃないかな」

本当に支えになりたかった。そんなに全てを背負い込まなくていいんだよ、そんな気持ちを込めてメッセージを返信すると、

「ありがとう、なんだか泣けてきちゃった」

この涙もろさ、本物に間違いない。絶対に本物だ、コレ。うおーすげえな、本物の高橋み○みさんと今繋がってるよ。

「泣くっていうのは人間と産卵するときのウミガメだけの特権だよ。悲しかったら泣けばいいさ。それが人間と産卵のときのウミガメの特権なんだから」

まあ、正直言うと僕は高橋み○みさんのこと好きですから、ちょっと好感度を上げようと思ってカッコイイメッセージを送りましたよ。でも、今考えるとちょっとウミガメのくだりは余計でしたね。あれ、正確には泣いてるわけじゃないし。

「ありがとう、実はちょっと悩みがあってね」

なんかさっきから凄い小刻みにメッセージが来るんですけど、決してたくさんメールをやり取りしてポイントを消費させようとしているわけじゃなく、単純に撮影の合間とかにメッセージを送っているからだと思います。

「なんでも話してみて」

僕も優しく包み込むように返事を返します。

「実はね」

すごい小刻みですが、忙しいのだから仕方がありません。

「うんうん」

すごいポイントが削られていってますが、まあ気にしません。

「ずっと悩んでるんだけど」

ホント、すごい小刻みでイライラするんですけど、収録中なんでしょう。

「どんな悩みかな?」

ここでイライラしては男じゃありませんから、まだポイントも3万円分くらいあまって、えー!もう2万円分も使ったの?なんで?ああ、受信するのに1500円くらいかかるのか、世界大戦前夜みてえなとんでもねえ値段設定だな。

「えっとね」

もう、コレ受信するのに1500円かかってると思うとホント、イライラする、1500円あったら結構満足なランチを3回は食べられますからね、怒りすら覚えるんですけど、あの高橋み○みさんとメッセージをやり取りしてるのです。どうせ払わないし別にいいとかそんなレベルのお話ではなくて、我慢するしかないのです。そしてついに高橋み○みさんから悩みの告白が。

「うちのグループのセンターがむかつくだよね。マジ、むかつく」

なんか強烈にメンバーの悪口言い出したんですけど。えー、なんか違うよ。こんなの高橋み○みさんじゃないよ。とか思うんですけど、僕が一体高橋み○みさんの何を知っているというのでしょうか。僕らが知ってる高橋み○みさんはテレビの向こう側の高橋み○みさんで、本当このようにメンバーの悪口を言ったりするのかもしれません。

そんな気持ちを抑えて、テレビ画面の中では笑っている彼女の気持ちを思うと、どれだけ自分を抑えているのか、どれだけストレスを感じているのか、どれだけ涙を流しているのか、容易に想像できてなんか僕まで泣けてきたのです。この高橋み○みさん、本物やわ。

「あとさ、まゆゆとかムカつくね。殴りたい」

そんな信じられない過激なメッセージが届いたと同時にテレビを見ると、生放送の歌番組で本物の高橋み○みさんが元気に歌っておりました。偽者じゃねえか。

まあ、最初から分かっていたんですけど、こんなの偽者に決まってます。高橋み○みさんはメンバーの悪口を言ったりしないし、こんな怪しげなサイトを使ってストレスを発散したりしない。

ちなみに、後払いで購入した5万円分のポイントの料金を振り込めってメールが数日後に狂ったように来ていたので、振込先の会社名から会社の情報を調べて代表者名を入手、その名前を使ってこんな感じで

「くそっ!メアドの暴走は止められない」

「おねがい、もうやめてメアドちゃん!このままじゃ人類が、人類が」

「モウトメラレナイ ワタシハ メールアドレス ニンゲンニ ナリタカッタ」

「やめてー」

そこに松田晃一(仮)が現れた。

「ここは俺が抑える、逃げろ!」

松田晃一(仮)自らの乳首をメインコンピューターのUSBポートに差し込む。

「ぐおおおおおおおお!」

「ナ ナニヲスルー!」

ってっちょカッコイイ感じで社長が実名で登場する物語を頻繁に送りつけていたら請求メールもこなくなりました。これで少しは勝手に名前を使われる不快感を分かってくれたらいいと思いつつ、いまだ物語りは送り続けていて、今は自我を持ったメアドの中に含まれたコードが宇宙人に届いて銀河戦争になって、松田晃一(仮)が宇宙牛を殺すところまで書いている。早く完結させたい。


5/27 140文字のラブレター

今時「メンス」って言葉を使ってるやついるのかな。そんな軽い思いつきだった。ただ、それだけだった。

僕が中学くらいだった時に、たまたま読んだゴシップ誌なんかに、どういう飯食って育ったらそういう発想が出るんだと言いたくなるような、「女の子に生理周期について質問するコーナー」みたいなものがあり、それを実際に敢行し、編集し、紙にまで印刷して発売するという豪快さにいたく衝撃を覚えたものだった。

その中で、低俗としか思えない雑誌編集のインタビュアーがいつも口にする名文句が、「○○ちゃんのメンスはどうなってるのかな〜?」だった。まだ若かった僕はこのセリフに衝撃を受け、そのネットリしたいやらしさ、低俗さに、こんな言葉を女性に投げつけられる大人になりたい、そう思ったものだった。特に「メンス」という単語の響きたるや、僕の心を鷲掴みにして離さなかった。

何やら秘密めいた印象を受けるのに、それでいてドロドロしていない、軽やかで爽やかな印象すら受ける。メロンの親戚と言われてもうっかり納得してしまいそうな説得力、メンスにはそれがあり、大人になったらメンスと軽やかに言えるようになりたい、そう願っていた。

時は流れて現代、あの時の蒼き思いなど忘れて日常生活を営んでいた僕だったが、ふいにこの「メンス」という言葉を思い出した。僕は男だし、女っけのない生活をしているし、特にこれといって「メンス」という単語を使う機会がほとんどなかった。あの日の決意や憧れなど遠い日の花火のようで、鮮やかに記憶の中に残っているものの、悲しいほどあっさりと夜の闇に飲まれてしまっていた。

ちょっと「メンス」で検索してみよう。

それはこんな汚れきった大人になってしまった自分が、あの頃に戻るための儀式のようだった。当時はこんなインターネットなってものができることすら予見できていなかったけれども、とにかく検索窓に「メンス」と入れて検索してみた。

メンス-《(ドイツ)Menstruationの略》月経(げっけい)。生理。

定義めいた解説、Web辞書のようなもの、あとは「メンスに理解を持つメンズ」という意味で「メンス男子」とか訳のわからない記事が出てくるだけだった。メンスという言葉自体は生きていた、ずっと脈々と受け継がれてきていた。ただ僕がその言葉に触れなかっただけなのだ。けれども、検索結果に生の声はなく、実際に「メンス」と使っている場面は見つからなかった。

僕はTwitterで検索をかけた。生の呟きの中に「メンス」と使っている人はいるのだろうか。現代のツールを使ってあの日の思いを取り戻す。それはなんだか奇妙でもあり、爽快でもあった。Twitterの検索窓に「メンス」と入れ検索をする。

すると出るわ出るわ、メンスの山山山、メンス山。多くの人がメンスと呟いているのです。しかも、30歳を超えた気持ち悪いおっさんがアニメアイコンで「メンスですな、フヒヒヒ」とか呟いているわけではなく、年頃の娘さんというか、目が異様にでかいプリクラなんかをアイコンにしている娘さんとかが

「今日メンスでつらいわー」

とか呟いているんですよ。女の子ですよ。女の子がですよ。年頃の女の子ですよ。あまりにもナチュラルに爽やかに使われすぎてて、メンスってそういう生理的な言葉じゃなくて、バドミントンみたいな爽やかなスポーツを指す単語だったかしら、と思っちゃうくらいなんですよ。

で、あまりに多く生々しい女の子の生のメンス発言に、女の子ってこんななんだ、と少々のショックを受けつつ、あの日、ゴシップ誌で読んだ女の子はみんな恥ずかしそうにメンスの話してたのに、それが今やどうだ。twitterはメンスの銀座通りやで、とか思っていたら、一人の純朴そうな青年の呟きを発見したのです。仮にその彼を高田君としましょう。その高田くんの呟きが僕の目に止まったのです。

高田
テレビでやってたけどIQ150以上の天才しか会員になれないメンスって団体があるらしい。俺とは無縁だな。

高田くん、そりゃメンサ(MENSA)だ。そりゃ君とメンスは無縁だ。とんでもない勘違いをしていて、それでもって全世界に向けてメンスって呟く高田くんがなんとも愛おしく感じたし、彼のこれからを観察したい気持ちに駆られた。早速僕は高田君を観察する専用のアカウントを取得し高田君をフォローした。

高田くんのアカウントを見てみるとどうも高田君は女の子にしか興味がないようで、26人ほどの女の子をフォローしているみたいだった。逆に女の子の何人かにもフォローし返されていて、20人程度のフォロワーがついていた。早速、同じようにその26人ばかりの女の子を僕もフォローしていく。

で、しばらくこのメンス高田くんの動向を観察していたのだけど、これがまあ、高田くんの機動力が凄い。さすがメンスの名前を冠するだけあって、女の子のフォローというか、ここではツイッターで言うところのフォローという意味ではなくて本来の意味でのフォローなんですが、ほら、女性って結構ツイッター上で落ち込んだりするじゃないですか。

全部が全部そうじゃないんですけど、男性って結構、落ち込んだりすることがあってもあまり表に出てこなく、ましてや魑魅魍魎が巣食うツイッター上で呟いたりはしない、これは古来よりある男には7人の敵がいるっていう考え方で、どこに敵がいるかもわからないのにそうそう弱味を見せないってことなんでしょうけど、女の子は結構、というかツイートの半分くらいが自分の心情なんですよ。当然、落ち込んでる時は何の躊躇もなく呟くもので

「今日、好きな人に無視された。凹む(T-T)」

こんな感じのこと出すわけなんですよ。これをワールドワイドウェッブに乗せて全世界に公開する意義については別の機会に論じることとして、あなたはこのような呟きを見た場合、あるいは近くにいる女性が口にした場合、どういった対応を取りますか。

人それぞれだとは思うんですけど、僕はまあ、面倒なことには巻き込まれたくないんでそういうのは完全にスルー、キーパーのヘルナンデスくんがバランスを崩すくらいのスルーっぷりなんですけど、まあ、多くの人は「元気出して」とかそういうふうに心がこもってなくても声をかけますよね。それが普通だとは思います。

けれどもね、それがかなりの頻度で多発していたらどうですか。毎日毎日、それも一日に何度もという頻度で頻発したら、さすがにどんな聖人であっても面倒になると思いますし、もうスルーしちゃおうかなって感じで接触を避けるようになると思うんです。

ちょうど高田くんのツイッターがそんな感じだったんですけど、どうやら彼はそういった少し傷つきやすい少女たちを中心にフォローしてるみたいで、傷つきやすい少女が26人、その子達がそれぞれネガティブな感情を吐露しまくってるもんですから、そりゃすごいことになってて

「なんでワタシ、生きてるんだろう」

「もう全てにお別れしちゃいたいな」

「つくづく自分が嫌になった。死にたい」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

「死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死」

「手首切った」

もう、僕、自分が見てるツイッターの画面がこんな呟きで埋め尽くされてたら裸足で逃げ出しますよ。重い重い。ボディーブローみたいにズッシリくるわ。最後の発言なんてゴールドクロスの修復してるじゃないですか。あまりにもネガティブすぎて読んでるこっちがウッカリ首を括ってしまいそうになるんです。

でもね、高田君は違った。それらの傷つきやすい少女たちに向かってちゃんと一個一個丁寧に返事を返していて。

「どうしたの何があったの?人はみんな生きる意味があると思うよ」

「お別れなんていわないでよ。俺でよければ話を聞くよ」

「自分のこと嫌になるのは誰にでもあるよ。俺でもそうだもん。だからそんな気にする必要ないよ」

「どうしたの?なにか嫌なことあった?」

「ダイレクトメールで連絡ください」

「ダイレクトメールでメールアドレス送りました。至急連絡ください。とても心配しています」

とまあ、非常に面倒見の良いこと良いこと。なかなか感心な若者じゃないか、僕の代わりに傷つきやすい少女たちを守ってくれよ、と高田くんに一目置いていたんです。けれども、これが大きな誤りでったことが後に分かります。

そうやって日々傷つきやすい少女たちをフォローしていた高田くんなのですが、ある日の早朝「今日は出かける」というツイートを残したまま丸一に呟かなくなってしまったのです。彼の呟き頻度から考えるとそれはかなり異例のことでした。

いつもネガティブな発言をするとすぐにフォローしてくれる高田くんが居なくなったことで多くの少女たちからも戸惑いが感じられました。たった一日いないだけなのに、いつのまにかこんなにもあの人の存在が私の中で大きくなってたなんて……。みたいな状態に。いつの間にか高田君も彼女たちにとってなくてはならない存在になっていたんですね。

僕が高田くんの代わりに彼女たちをフォローするツイートをしてもよかったのですが、いきなり気持ち悪いオッサンが横からしゃしゃりでてきてゴールドクロスの修復されても嫌なので、黙って見守ることしかできませんでした。

けれどもね、僕は気づいていたんです。かなりの頻度でネガティブなツイートを繰り返していた少女たちなのですが、高田君と時期を同じにして丸一日ツイートをしなかった少女がいたことに。

で、次の日、注意深く見ていると傷つきやすい少女たちは普段と変わりなく、高田君も普段と変わりなく、全く同じようなタイムラインが流れているかのように見えたのですが、唯一違っていた部分があって、あの昨日呟かなかった少女の様子がおかしいんです。

相変わらず何やらネガティブなツイートをしているんですが、何か様子がおかしい。さらには、高田もなぜかその子にだけはフォローをしない。お互いにまるで他人のように振舞っているんです。

ハハーン、こりゃあ、やったな。

そう思いましたね。ツイッターで異常に絡んでいた男女が急に絡まなくなった時は9割セックスしてますからね。昨日は多分、二人で会っていて一日かけてお楽しみだったんでしょう。とても元気があってよろしいことです。

そりゃあ僕も血気盛んだった頃はツイッターでセックスすんな!とか怒り狂い、ナマハゲみたいな格好でホテル街を闊歩とかしたかもしれませんが、もう36歳になりますよ、そうそう怒っていられません。むしろ、ツイッターでそうやってセックスにこごつけるわけか、やるじゃん高田、と翔さんの声を送りたいくらいですよ。

でもね、事態はそうではなかった。そうやってセックスしたと思われる少女たちは彼のフォロー、フォロワーから消えて行くんですね、で、そうすると新しい傷つきやすい少女が追加というか、もう入荷ですよ、いつのまにか補充されてるんですね。そういった、怪しい動きと少女たちが消える、こんなことが何度となく繰り返されていくんです。これはもう、最初からそういう少女たちを狙っているとしか思えず、あの数々のフォローも全部セックスという到達点のために行われていることであって、全部語尾にセックスがつくんだと思うんです。

「どうしたの何があったの?人はみんな生きる意味があると思うよセックスしたい」

「お別れなんていわないでよ。俺でよければ話を聞くよセックスしたい」

「自分のこと嫌になるのは誰にでもあるよ。俺でもそうだもん。だからそんな気にする必要ないよ、セックスは必要あるよ」

「どうしたの?なにか嫌なことあった?セックスする?」

「ダイレクトメールでセックスください」

「ダイレクトメールでメールアドレス送りました。至急連絡ください。とてもセックスしたいです」

こりゃあすげえな!巷には「ツイッター活用術」とか「ツイッターをビジネスに活用」とかインチキくさい本が溢れているけど、どんな本にも書いていないツイッター活用術じゃねえか!と僕も大興奮、さらに高田くんの観察を続けていると、ある事件が起こりました。

白雪姫(仮名)
どうして色々な女の子にちょっかいだしてるの?

自分で自分のこと白雪姫って名乗るのもどうかと思うのですが、高田くんにとって痛烈な指摘が一人の少女からなされました。というか、女の子の方から見ても高田くんが色々な女の子にモーションかけてるのは丸分かりで、なんで今までその指摘がなかったのか不思議なんですけど、ついに白雪姫さんがそのパンドラの箱を開いたのです。

「いや、別にちょっかいとかそんなんじゃないよ?僕は君だけだよ?」

もう高田も訳のわからない弁明になってて、どさくさに紛れて君だけだよって言っちゃってるんですけど、そうとう焦っているのが丸分かり。高田くんが馬鹿なところは、MENSAのことをメンスと勘違いていたところではなく、この「君だけだよ」発言が皆に見られていることに気づいていない部分です。

当然、他の傷つきやすい女の子たちは面白くないわけで、その高田くんの不誠実な言動にかなりの不快感を感じたらしく、次々と遺憾の意を表明。順次高田ガールズから脱退していったのです。見ていた僕も「あらら」と言うしかない急展開だった。

このような失態を演じてさぞや高田君も凹んでいるのかと思ったのですが、かれはへこたれない。そもそも全ての発言の語尾に「セックスしたい」が付属する人ですから、転んでもただでは起きない。

「ありがとう、そうやって叱ってくれたのは君が初めてだよ」

みたいなことを白雪姫に言い始めたんです。いやいや、白雪姫は別に叱ってない。ただ指摘しただけ、とか思うのですが、もう高田は止まらない。

「君以外の女は全部フォローを切った。君だけだ!」

みたいなことを平然と呟くんです。何食って育ったらこんなこと言えるんだ。で、見てみたら本当に切ってて、高田すげーって思ったんですけど、三日後くらいには「高田2」っていうアカウント作ってそこで他の女をフォローしてました。もうちょばれにくいアカウント名にしなよ。

けれども、それが白雪姫にはズシリと効いたらしく、

「別にそこまでしなくても…でもなんだか感動しちゃった」

と満更でもないご様子。それからもずっと二人でやりとりしていて、かなり微笑ましいやりとりがあって、僕はずっと二人を見守っていたんです。なんだかいつの間にか本当にいい雰囲気になってて、最初は高田のやつも語尾に全部セックスがつくくらい下心丸出しだったんですけど、今はもうそんなそぶりも見えなくて、完全に語尾からセックスが消えたんです。

そして、いよいよ二人が新宿で会おうみたいな話になって、僕もあまりに心配なんで見に行こうかと思ったんですけど、さすがにそれはちょっと良くないじゃないですか。だからツイートされなくった二人のツイートを見ながら、また高田のやつエロいことしようとして白雪姫ちゃんを傷つけてやしないか、白雪姫ちゃんはちょっとコミュニケーションとか苦手っぽいから押し黙ったりしてないか、もう心配で心配で、何度新宿に行こうと思ったか。

で、次の日、今までは高田が思いっきりセックスをぶち決めてよそよそしくなるのが常でしたが、今回はきちんと

「昨日は楽しかった、ありがとう」

「こっちも楽しかったよ」

「すごいかわいくてビックリした」

「高田くんだって」

と、セックスをしていないご様子。そこに高田の本気を見たし、すごい二人のことを応援したい気持ちに駆られた。どうやらこの時に二人ともメアドの交換をしたみたいで、重要な会話はメールでやってるのか、ツイッター上で会話が展開されることはなくなったのだけど、それでも

「おはよう(*^o^*)オ(*^O^*)ハー」

みたいな、クソうざったい会話が展開されていて、僕もその会話を覗き見るのが日課になりつつあったのだけど、ある日、白雪姫からこんな呟きが書き込まれていた。

「さようなら」

衝撃が走った。何があったのか分からない。けれども彼女は突然、ツイッター上で別れを宣言した。突然のことに僕は動揺を隠せなかった。高田、早く彼女をフォローしろ、と思うのだけど高田のアカウントに動きはなかった。きっと、電話とかメールでフォローをしているんだろう。

何が起こったのかは分からない。けれども、おそらく何か困難なことが二人の間で起こったのだろう。僕はそれを知るすべがない傍観者という立場にいることが残念で仕方がなかったし、二人に対して何もできない自分がとにかく無力だ思った。

二人は多くの涙を流したのだろう。どうしてこんなにも思いとは伝わらないものなんだとお互いにもどかしい思いもしただろう。思いのすれ違い、勘違い、どうしても恋をできないやむにやまれぬ事情、何があったのか分からない。けれどもきっと大丈夫。二人はきっと帰ってくる。僕はそう信じてずっと待っていた。ツイッター上で二人が帰ってくるのを待っていた。

「おはよう、昨日はごめんね」

「おはよう、これからもよろしくね」

二人は帰ってきていた。二人が出会い、愛を育んだツイッターに帰ってきていた。そして久々にツイッター上で会話が始まる。

「今度さ、買い物行こうよ」

「いいよーどこいく?」

「俺さ、冬物の服買いたいからさ、そうだなー」

困難を乗り越えた二人、それは本物の恋人同士になった瞬間だと思った。ずっと見守ってきていた僕も涙がポロリ。よかった、本当に良かった。ツイッターは140文字しか届けられない。けれども、込められた思いは無制限に送ることができるのだ。

「じゃあさ、新宿のマルイにいこうよ、メンズ館に」

その言葉に、ずっと見守っていた僕はついに書き込んだ。ずっと見守っていたことを打ち明けて謝り、それから二人と仲良くなれたりなんかしたら、それで3人で飲みに行ったりして、二人がいちゃつき始めたら、おいおいー俺がかえってからにしてくれよー、もしくはお二人が出会ったツイッターでやってくれよー、とかなりたい、そんな思いで考えに考え、比較的軽いノリで書き込んだ。

「メンズ館?白雪姫ちゃんのメンスはどうなのかなー?」

次の日、二人のアカウントは消えていた。

ツイッターで届けられる140文字のラブレター、二人の恋、純愛、そんなものは全然関係なく、若かりし頃からの夢だった、メンスと言える大人、僕自身がそれになれたのが何よりの誇らしかった。


5/26 貞子3D

この間、久々に映画でも見たろかと思いまして劇場まで足を運びましたところ、本気で観たいと思う作品がなく、こりゃ映画に来たカップルがこのあとラブホテルに行くのかどうかを真剣に判定する遊びに興じたほうがマシなのかもしれないって本気で思ったんです。

個人的な判定基準で申し訳ないですけど、映画が始まる前にポップコーンを買っているカップルで、キャラメル味をチョイスしているカップルは9割ラブホテル行きます。あと、男のほうが映画の券を二枚持ってロビーに佇んでいるカップルも行きます。終わった後に男が飲みきれなかった女の飲み物飲んでやるよって飲んでるカップルも行きます。なんでって聞かれると困るんですけど、これは結構あてはまったりするんです。まあ、調べたことないけど。

とにかく、そうやってカップルを見て、あ、ラブホテル、お、こっちもラブホテル、みんなラブホテル、と判定するという大変有意義な時間を過ごせるのですが、けっこうそれって悲しいじゃないですか。いやいや、僕は楽しいですよ。けれどもね、それを皆さんに強いるわけにはいかないし、そんな僕の行動を見て前途ある若者がそれを真似したりしたら悲しいじゃないですか。

だから僕もそろそろ36歳にもなりますし、いい加減若者の規範となるべく行動を取らなきゃならないって思い立ちましてね、若人が真似をして未来を閉じてしまわぬよう、心を鬼にしてどれか映画をチョイスして観ることにしたんです。まあ、せっかく来たんですから観ないと損ですよね。

で、目に留まったのが「貞子3D」という映画ですよ。冷静に考えるとすごいタイトルなんですけど、どうやら「リング」というホラー映画で一気に有名になった恐怖キャラ、貞子をフューチャーしたホラー映画みたいなんです。僕はどちらかというとガンガン爆発したりするアクション系や、人が爽快に死ぬパニック系の映画が好きなのですが、たまにはちょっと趣向を変えてホラー系を見てみるのもいいか、って感じでこの映画をチョイスしました。

おまけに、これ、最近流行の3D映画ですよ。僕はあまり視力が良くなく、おまけに左右の視力もだいぶ違ってて乱視という、まったく3D鑑賞に向かない選ばれし瞳を持っているわけで、3Dと2D選べる映画なら確実に2Dの方を選ぶのですが、どうやらこの映画、タイトルが「貞子3D」とあるだけあって3Dしか設定されていない様子。そりゃそうだ。仕方ないのでこれを観ることにしました。

まあ、劇場内に入ってみるとこれがまあ、客が6人しかいなくてですね、しかもその6人が全員カップル。まあ別にそれくらい予想はしてましたけど、何をトチ狂ったのか僕を含む全員が固まって座席指定してやがるんです。このクソ広い劇場内に、身を寄せ合って、疎開してきた子供たちみたいになりながら鑑賞ですよ。

いよいよ上映会ってわけで、訳の分からないメガネつけて鑑賞するわけなんですけど、ちょっと横とか後ろとか見てみたら全員がメガネつけてて、別に当たり前の光景なんだけどなんかちょっと面白かった。

で、本編が始まるんですけど、最初の方は目が慣れてなくてあまり3Dに見えなかったんですけど、慣れてくると、なるほど、なかなか3D。ただ、僕ら世代ってのは子供の頃に青と赤のセロファンのメガネつけて3D映画見た世代なんですけど、昔の方がすごい飛び出してた気がするんですよね。それこそジョーズとか目の前まで飛び出してきてんじゃねえかってレベルで。たぶん思い出補正もあるんだろうけど。

で、現代のこの色の付いてないメガネで見る3Dですよ。確かに洗練されてるし、見やすい、3Dにも見える。けれども何かが違うんですよね。強いて言うならば、飛び出してくるのではなく、奥行きがある感じ。そう、背景とかが奥にある感じですね。

で、僕は根っからの怖がりなんで劇場でホラー映画見ることってあまりないんですけど、全部が全部そうだとは思わないんですが、少なくともこの映画に限って言えば、画面の怖さとか雰囲気の怖さで怖がらせるのではなく、突然、ジャン!とかデカイ音たてて驚かせるだけなんですよね。何かが違う。もっと「怖い」ってやつを期待していたのに、単純に「ビックリする」だけですからね。

でまあ、貞子のことをご存知な方には当たり前なんでしょうけど、貞子ってテレビの画面から出てくるじゃないですか。この映画でも出てきたりするんですけど、そうなると、画面から出てくる貞子、飛び出す貞子、3Dで本当に飛び出す、恐怖倍増、くらいに短絡的に考えるでしょ。普通に考えて貞子って3D向き位に思うでしょ。ところがね、全然むいてないんですよ。

前述のとおり、突然出てきたり、大きな音を立てたりして怖がらせるのが本筋になっちゃってるわけで、確かに不意に飛び出してきたり、音が出たら驚きます。でもね、この作品、映画全編を通してずっとバリバリに3Dになってるわけじゃなくて、要所しか3Dになってないわけね。で、要所って言うとそれらの驚かせるシーン。

つまり、これrから出るぞ出るぞーってシーンになるとちょっと3Dになるの。で、それからババーンキャーってなるの。すーって壁を触ろうとした手がちょっと3Dになり始めてきたら、あ、くるな、ってわかりますからね、その場合は本当に驚きもしない。

結局、こういう3Dでホラー作っちゃうと、怖いシーンで3Dバリバリに使いたくなっちゃうのは人情なのでわかるのですが、そうなると、その前のシーンの3Dの有無である程度予想できちゃう、っていうヤマアラシのジレンマみたいな感じになっちゃうんです。そうなると、ホラー映画に3Dって向いてない、そうなるんです。

で、このような飛び出すというには程遠くて、ただ奥行がある程度のフィーリングの3Dを見ていてですね、あることに気がついたんです。これはフォント弄りに似ているぞ、と。

フォント弄りとは、文字だけで何かを伝えて楽しませようとするテキストサイトに古来から伝わる技法の一つで、強調したい場所、笑いどころ、そういった場所でどーん、とフォントのサイズを大きくしたり、色を変えたりする技法です。これがある時期一世を風靡しましてね、猫も杓子もフォント弄り、そんな時代があったんです。

で、僕も何度かこのフォント弄りに挑戦しているんですけど、これがまあ、難しい。ドーンと要所で文字大きくするだけだろ、くらいに軽く考えてたら痛い目みますよ。間違いなくフォント弄りは高等技術。

このフォント弄り、つまり大きくされたフォントを見ていると、決してドーンと貞子みたいにこの文字がディスプレイから飛び出してくるわけじゃないんですけど、他の普通サイズのフォントが奥にあるように見えませんか。見えませんよね。でも見えるって言ってもらわないと困るんで見えることにしておいてください。

とにかく、こりゃフォント弄りってやつは3D技術やで、この3D映像隆盛の現代、テキストだって3Dになるべき!フォントを弄るべきや!ということで過去に何度か失敗して封印していたフォント弄りに挑戦してみます。

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「映画館のカップル」

この間、映画を観にいったんですよ。映画を。

よくわかんないんですけど、貞子3DとかいうR2D2みたいな名前の映画を観たんですけど、全然R2D2じゃなかったですね。とにかく観たんです。 そしたらアンタ、劇場内がカップルだらけ!猫灰だらけ!6組だけでしたけど全てがカップルでした。couple

おまけになぜか6組のカップルと僕が身を寄せ合って観るという状態になっちゃいましてね、ペンギンは寒い吹雪に耐えるために大群で身を寄せ合って温め合うために密集するんですけど、そんな状態でした。

いよいよ上映開始。すると甘えた女の声が聞こえるんですわ。

「あーん、つけられない!」

コンドームか!と思って、おいおいこんな場所でおっぱじめるんか!と焦って振り返ると、どうやら3Dメガネが付けられないご様子。つけられないわけあるか。

で、映画も進んでいって、貞子みたいなのがドバーン、すると後ろのカップルもドパーン

「ぎゃーーー!」

ってものすごい悲鳴ですよ。

別にそれは構わないんですけど、ドパーンっていう場面の旅に、後ろのヒップホップみたいな彼氏が、僕の座席蹴ってくるのな。すごい驚いてるらしく、ポップコーンとかとんでくるのな。

文句言おうと思ったんですけど、殴られたら顔面3Dどころの騒ぎじゃないんでやめておきました。

でもね、しらばくしたら静かになったんで、こそーっと後ろ見てみたんです。暗くて見えにくかったんですけど、よく目を凝らしてみたら、すげえキスしてるんです。KISS。 舌 舌

こんな感じでお互いの舌が動いてやがりましたよ。

不思議だったのはね、KISSしてんのに3Dメガネはしてましたわ。相手が飛び出して見えるんかな。

いよいよ映画はクライマックス、もう怖いシーンの連続。後ろのカップルもヒートアップ。 バーン キャー! 舌 舌

後ろをチラッとみたら、あの体勢は絶対に おっぱい

揉んでましたわ。

僕なんておっぱい揉みたいのに揉めなくて、揉もうにもピンサロとか7000円くらいはするし、そうそういけるもんじゃないし、いったらいったで、あまり揉むと痛いとかいわれて揉めないし、じゃあっていうんで、たまに「いつもNumeri読んでます」とかメールくれる女の子に「おっぱいもませてくれや」ってメールしたら返事来なくなるし、どうすればいいんですか

とにかく、いとも簡単に おっぱい

揉める特権階級がいるってことが一番ホラーでした。どうせなら おっぱい

飛び出してくればよかったのに

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いやーやはり難しいですね。しかもこんなこと考えてて、しかも後ろのカップルに注視していたら全然映画の内容は頭に入ってこきませんでした。それにしても、やはり僕は全くフォント弄りに向いていない。毎回思うのですが、こりゃもう絶対にやるべきではないですね。

帰り際、多くのカップルが怖かったねーとか言いながら帰路に着き、僕も帰ろうかとロビーを歩いていたら、件のカップルの男の方が、飲みきれなかった女の飲み物をかせよって感じで手にとって飲んでました。あ、やっぱラブホテルいくんだ。 おっぱい

とか揉むのかな。


5/25 チャンスの順番

この間、twitterでこんな呟きを書いたんです。

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pato_numeri

出会い系サイトから色々な「人妻です…」とかアホみたいにメール来るんだけど、「犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。」ってメールが来て面食らった。中身開いてみたら「ワン!ワンワンワンワンワンワン!」って書いてあった。出会い系サイト来るところまで来ちまったな
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これが何故か好評でして、今見てみたら814人にリツイートってやつされてました。みんななにやってるんですか。

でまあ、単純にこのメールを変なメールだねって一笑に付すだけならそれでいいんですが、よく考えたら変じゃないですか。普通、出会い系サイトってもっと肉欲的な内容で訴えかけてくるというか、下半身に訴えかけてくるというか、おセックスのチャンスを訴えかけてくるもんじゃないですか。死ぬほどスパムメールが来る僕のメールボックスから代表的なのを抜粋しますけど

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彩愛 さん

タイトル:彩愛(あやめ)って言います。初めまして。

私はエステのマニアでエステだけの数千万は使いました。良く言われるので先に言っておきますが整形は一箇所もした事がありません。女磨きで私はエステに通ってるんです。男の人からエッチな目で見られるのが私にとって生き甲斐なんですよね。でもエッチな目で見られても尻軽と言う風には思われたくはないのでエッチはしたりはしないんです。かと言ってエッチは全然したくないって言う事では無いんですよね。周りの人にはずっと高嶺の花のままでいたいのでこう言う場所で裏のエッチな私を曝け出したいと思って登録をしたのです。カラカッサさんの前なら私の裏を曝け出しても良いですか?
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どうですか、これ。まずエステに数千万使ったという事実で金ならあるというアピール。で、エッチはすきだけ誰とでもするわけじゃないけどでも誰とでもしたいというわけの分からないこと言ってますが、こうやって金、セックスとガンガンに欲望に訴えかけてくるのが普通なんですよ。

しかし、この会社はおかしい、なんで犬からのメッセージが来てるんだってことで、ちょっと10万通以上に及ぶ僕のスパムメールフォルダーに検索をかけて、同じ会社から来ているメールを探してみたんです。

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森下香美さん(25)よりメールが届いています。

初めまして♪
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最初に来ているのがこのメールでした。どうやら最初こそはまともに騙すチャンスを狙っているサイトだったみたいです。

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◇琴乃さん(31)よりメールが届いています。

携帯電話の画面を見ながらずっと返事を待ってますが。。 5分だけでも会って話してみませんか?
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こんな感じでかなりスタンダードな感じのメッセージが沢山来ていました。それでも全然人が釣れなかったのか、次第にエスカレートしていきます。

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◇みるくさん(20)よりメールが届いています。

みるくがキターーー(゜∀゜)ーーーー!!!!!'( ゜д゜)ノ ヨロ
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こんな顔文字がうざったい感じのメッセージが来て、そろそろ何か異常な感じになってきます。で、

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全 智賢 "チョン・ジヒョン"さん(31)よりメールが届いています。

アニョハシムニカ?私、日本人ではないです。でも、出会い欲しいです。
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と訳の分からない方向へ。そして

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渡辺真奈美さん(25)よりメールが届いています。

血ぃ吸うたろか?
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なんともいえない感じに変化し、

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専業主婦☆53歳さん(53)よりメールが届いています。

子宮連絡を下さい。
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もう何が何やら。ムカつくことに、この専業主婦がシリーズになってて

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支給連絡を下さい。
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早く!死球連絡を下さい!!
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と立て続けに来ていました。お前絶対にわざとやってるだろ。

で、いよいよ何かがおかしいとなったその時、ついに冒頭の犬からメッセージが来ていたのです。

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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。

ワン!ワンワンワンワンワンワン!
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腹が立つことにこれもシリーズで来ていて

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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。

ワン!ワンワンワン?
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。

ワン。ワンワン(笑) ワンワンワンワンワンワンワン?

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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。

ワッフゥ〜ン。
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微妙に文面が変化しているのが本気でイライラする。とくに最後の喘ぎ声みたいなのが本当にイライラする。どうなってんだ、この会社は!って憤っていると、同じ会社からもっとすごいのが来ているのを発見してしまいました。

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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。

いい加減にしろ!この星を滅茶苦茶にしやがって!オメェたち、一体いくつの星を壊せば気がすむんだ!
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もう意味が分かりません。完全に頭がおかしくなっとる。というか、孫悟空さんが33歳だっての初めて知りましたし、男から来るとは思わなかった。もうどうなってんだこの会社って思いながらも、孫さんからは次々とメッセージが来ていて

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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。

やっぱどう考えてもこれしか…地球が助かる道は思い浮かばなかった。バイバイみんな!
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何故か決死の覚悟ですし、

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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。

クリリンのことか…クリリンのことか―――っ!!!!!
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何故か叫んでますし

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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。

これはクリリンのぶん!!
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何故か殴られました。

もう最近の出会い系サイトは本当に来るところまできちまったなーって思いつつ、最後に孫さんから来ていたメッセージを読むと

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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。

素晴らしい!ホラ、見て御覧なさい!ザーボンさん、ドドリアさん、こんなに綺麗な花火ですよ…
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それは孫悟空さんのセリフではありません。

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比較的最近のをコピペすればバレないと思った。


5/24 放課後はミステリーとともに-回答編-

犯人はpato。

霊感ないのに霊が見えるとか言って周囲の気を惹きたい子のように、自作自演でエロ本をロッカーに入れる事件を演出。部活もしてないのに、火曜日の放課後の様子を詳細に知っているのが犯人の証。

ニートのお兄さんにもらった古いエロ本の処分も出来て一石二鳥だった。

みなさんは正解したでしょうか?

ちなみに、この間帰省した時に中学校見に行ったらボロボロのロッカーがまだあって、まだ18番ロッカー、封鎖されてました。


5/23 放課後はミステリーとともに

18番目のロッカーは封印された。

中学の頃、体育館横のロッカーで不思議な事件が起きた。僕の通っていた中学は給食とかなく、お昼はパンを注文するか弁当を持ってくるか、あるいは学校を抜け出して近くのスーパーで買うかしていたため、多くの生徒が現金を学校に持ってきていた。

ある時、体育の時間に大泥棒が現れ、それらの現金を全て持ち去るという事案が発生した。それから体育の時間専用の荷物入れロッカーが体育館の横と裏に備え付けられることになった。着替えを済ませた生徒たちが自分の服を持ってロッカーに入れる、もちろん現金などの貴重品も一緒にいれる。そんなシュールな光景が毎時間見られた。

しかしながら、これを導入した人は何を考えていたのか全く分からないのだけど、そのロッカーが鍵すらついていない普通のロッカーだったので、今度はそのロッカーから現金が盗まれるという、よく考えたら結構当たり前の事件が発生してしまい、遅まきながら数字ロック式の鍵が付けられることになった。

言うまでもなくこれは個人用ロッカーでなく、体育の時間専用ロッカーであるため他のクラスの生徒も体育の時間にはこれを使う。出席番号順に割り振られた僕の18番のロッカーは、他のクラスの18番の子と共用だった。事件はこの18番ロッカーで起こった。

僕のクラスの体育は水曜日の1時間目で、朝登校して朝の会やらパンの注文やら何やらを済ませた後に慌ただしく体操着に着替える。そして脱いだ服を持って整然と歩き体育館に向かう。そして各々が予め設定されていたキーナンバーに合わせロッカーを開け、服を入れて鍵を閉める。そうなっていたのだが、ある日、いつものようにロッカーに向かうと、18番ロッカーの扉が開いていた。

このロッカー自体は他のクラスの18番の子と共用だし、学校側から割り振られた鍵の暗証番号は、分かりやすさ覚えやすさを考慮したのか割り振った人が狂ってるのか「18」だった。18番ロッカーで暗証番号「18」、知らない人でもちょっとした出来心で開けられてしまいそうな設定だ。

だからさして不思議には思わなかったのだけど、遠目に見ても明らかに18番ロッカー扉が少しだけ開いていた。ああ、誰か他のクラスの18番の子が閉め忘れちゃったのかな、それとも誰かがイタズラで開けたのかな、なにせロッカー番号とキー番号が一緒だからね、などと思いながら近づくと、明らかに様子がおかしい。

なんというか、ただのなんの変哲もないロッカーで、半分くらい扉が開いているだけなんだけど、そこから溢れ出る瘴気というか禍々しいオーラというか、とにかくすごい。僕が霊感ないのに霊感があるふりをして周りのみんなに構ってもらいたいみたいな迷惑千万な感じのカマッテチャンだったら間違いなく「首がちぎれた武士の霊が見える」とか言い出しちゃうくらい禍々しい何かを感じた。

なんだか開けたくない気もするのだけど、もう時間がない。体育教師のオッサンはかなり時間にうるさいので遅刻したら大変な目に遭ってしまう。とにかく急いでロッカーに服を入れなければならない。僕は半開きのドアに手をかけ、意を決して開けた。

そこにはエロ本があった。

新品ではなく、かなり使い古されたようなエロ本が、禍々しいまでに堂々と鎮座しておられた。今でも忘れない、表紙で馬みたいな顔した女の人が乳首のところだけくり抜かれたみたいな水着を着て微笑んでいる衝撃的なエロ本だった。

なぜこんなところにエロ本が?そう考える前に他の男子共が色めきだった。なにせ中学生男子、現代のようにネットでエロいものが見放題の時代でもない。早朝から降って湧いたエロ本に、1年に1回しか開催されない田舎の夏祭りのように沸き立った。最初は冷静に回し読みをしていたが、そのうち早く貸せよみたいな感じになり、最終的には奪い合い、破れちゃったのを契機にその破片を持ち合うみたいな感じになってしまった。現代で言うところのシェア、というやつだろうか。

結局、ほとんどの男子が体育に遅れてしまい、その日はみんな大好きドッヂボールをやる予定だったのに、AV男優みたいな体育教師に怒られ、烈火のごとく怒られた後に、ただただバターになるまでグラウンドを走らされることになった。あまりに長時間走らされ、肺がパンクしそうな思いを抱えつつ僕は考えていた。エロ本のことを。

次の週、また体育の時間にロッカーに行くと、またロッカーの扉が半開きになっていた。今度は僕より先に周りの友人が気がついた。

「おい、また開いてるぞ、エロ本はいってるんじゃねえか」

友人が僕より先に駆け出す。やはりロッカーの鍵は開けられていて、そこにはエロ本が入っていた。しかも今度は2冊。まるで、今度は取り合いして破るんじゃないよ、仲良く読みなさい。誰かが先週のやりとりを見ていてそう言っているかのように感じた。

もちろん、エロ本に色めきだっていたのは2人やそこらではなく、どう少なく見積もっても10人はいたので、当然のごとく取り合いになった。特に今回置かれていたエロ本の片方のグラビアはすごい巨乳で挑発的なお姉さんだったので、殴り合いに発展するんじゃねえかって勢いで奪い合いが巻き起こった。それはまるでエゴのぶつかり合いで、国々の戦争と何ら変わらない光景だった。その日の体育も、男子はグラウンドを延々と走るだけだった。

僕は思った。これはおかしい。不可思議なことだらけだ。そう思ったのだ。まず始めに動機が不明である。例えばこれが僕のことを快く思っていない輩からの嫌がらせと考えるなら、猫の死骸なりウンコなりが投入されてしかるべきである。けれども投げ込まれているのはエロ本。それは嫌がらせじゃない、嬉しい。となると、まずもって動機が不明である。

さらには、このロッカーに入れるという手段も分からない。いくら番号がわかりやすいとはいえ、鍵付きのロッカーに入れる、それはかなりリスキーだし意味がない。

最後に、エロ本のチョイスだ。言ってはなんだが、これまでに2回に渡って置かれていた3冊のエロ本は、微妙に使い古された感があった。ちぎれた欠片から発行年月日を見てみたら2年前のものだった。そのような古いエロ本をロッカーに入れる。もう謎だらけで意味がわからなかった。

次の週の体育の時間、おそろおそるロッカーに行くと、今度は扉は閉まっていた。しかしながら、近づいてみて言葉を失った。鍵が外れていた。その強固な鍵は外れ、脱力したかのようにロッカーの取っ手にぶら下がっていた。僕は恐怖した。まさか今日も。ゆっくりと扉を開ける。

そこには3冊のエロ本が入っていた。

あまりの不気味さにもう誰も声を上げなかった。僕はあまりの出来事に、ドラえもんであったどんどんどら焼きが増えていってしまいには手に負えなくなって宇宙に放り出す話を思い出し、このまま毎週エロ本が増えていき、宇宙に放り出すはめになったらどうしよう、などと考えていた。

僕らと男子数名は担任に直訴した。もはやエロい本が手に入って嬉しいどころの話ではない。ただただ気持ち悪さだけが勝っていた。おまけに置かれているエロ本も、僕ら中学生が喜ぶような比較的ライトなものではなく、性生活のマンネリに悩む夫婦みたいな感じの、ちょっとシャレにならないレベルのエグさのエロ本に変わっていた。

担任は真剣な顔で僕らの話を聞くと、僕らが手にする3冊のディープなエロ本を回収し、すぐに鍵の番号を変えると言って作業してくれた。結果、「18」だった暗証番号が「81」に変更された。また簡単すぎる。

僕はその番号が変わったことを他のクラスの18番ロッカーを使っていた奴らに報告しに行った。1学年に6クラスありそれが3クラスなので単純に18人があの18番ロッカーを使っていて、僕は同学年の5人に伝えに行った。その中で衝撃的な話を聞くことになる。

隣のクラスの18番だった男、仮に彼の名を吉田とすると、その吉田の話によると彼らの体育の時間は火曜日の最後の時間らしい。もちろん、これまでの三週、全てでエロ本など入っていなかったそうだ。となると、僕の体育の時間が水曜日の朝一番なのだから、何者かが火曜日の放課後にエロ本をロッカーに入れたことになる。

そうなると少し話がおかしくて、放課後といってもフリーダムにロッカー周辺に人がいないわけではなく、ロッカーの周辺では陸上部がマットを出して走り高跳びの練習をしていた。そんなに人数は多くないがそれなりに人もいるし陸上部の顧問もいる。暗くなるまでこの練習は続く。

おまけに火曜日だけは、なんかOBのおっさんどもが来て野球部の練習を見たりしていて、かなり夜遅くまでロッカー周辺に人がいることになる。となると、ロッカーにエロ本を入れるのはかなりの夜遅くか早朝、ということになる。そこまでしてなぜ入れるのか。それに他の曜日ならもっと入れやすいのに、なぜわざわざ火曜日を狙って入れるのか。そこが不可解だ。

ここで整理しよう。僕が考えるに怪しい人物は以下のとおりである。

隣のクラスの吉田
火曜日の最後の時間にロッカーにエロ本は入っていなかったというのは彼の証言に基づいている。しかしながらそれが嘘だったらどうだろうか。彼も18番ロッカーを使っていたので当然鍵の番号も知っていたし、入れるのもたやすい。今最も怪しい男。

他のクラスの18番の男
僕と吉田を入れて計18人がロッカーの番号を知っている。もちろん入れることは可能。そういった面では怪しい。

担任
もちろん担任も入れることは可能である。鍵の設定は彼がやっているし、先生なのでかなり遅くまで残っている。入れることは可能だ。かなり怪しい。さらに、良く挨拶がわりに僕の尻を触ってくる先生だった。スキンシップであると思うが、もしかしたら僕に対して性的興味を持っていたのかもしれない。そして、エロ本を見て顔を赤らめる、その様子をみて勃起していたかもしれない。もしそうだとするならば動機が十分にあることになる。

体育教師
AV男優っぽかったから

近所のお兄さん
今で言うニートなんだろうけど、うちの近所に定職にもつかず、学校にもいかずいつもフラフラしているお兄さんがいた。このお兄さんは相当エロくて、かなりの数のエロ本の蔵書を誇っていた。いつも僕に自慢してくれて、たまにいらなくなったやつとかくれる優しいお兄さん。本当にその蔵書はすごく、もしかしたら県下一の蔵書数だったかもしれない。普通に考えてお兄さんが学校に入ってきていたら不審者どころの騒ぎではないのでありえないのだけど、置かれていたエロ本のマニアックさ、古さ、を考えると彼の蔵書である可能性がないとはいえない。

ウチの親父
彼ならやりかねない。狂ってるから。

3週に渡って18番ロッカーを開け、エロ本を置いていった犯人はこの中にいる。断言する。

とにかく、怪しい連中は多いのだけど、もう鍵の番号も変えたし、あれだけの騒ぎになったのだ、そりゃちょっと「神からエロ本を授けられし男」みたいな感じで僕自身がセンセーショナルに扱われていい気分になったのは事実で、もう置かれなくなるのは寂しい、けれどもまあ、僕は部活にも所属していないから今日は早く帰ってドラマの再放送でも見よう、なんてくだらないことを考えながら、その日も体育の時間に問題のロッカーに行くと、また、

鍵が開いていた。

そして、中には今度は隙間なくビッシリ詰め込まれたエロ本が。

ギャーという僕とクラスメイトの悲鳴が響き、そして担任の手によって18番ロッカーは封印されることになった。一体誰が、なんの目的でこんな悪魔の所業をしでかしたのか。謎が深まったところで回答編に続く。果たして犯人は誰なのか、もう既に犯人はこの話の中に登場しているので、是非ともご家族、恋人同士などで話し合って犯人を予想してみてください。

回答編につづく


5/22 インシテミル

こうやってNumeriというサイトをやっておりますと、大々的に募集をしなくても様々なメールを読者の方々からいただくきます。メールを下さる人も色々な人がいまして、主に頭のおかしい人、頭のおかしい人、頭のおかしい人、と色とりどりの様相です。

こういったNumeriというわけのわからないサイトを読んで、さらにサイトの右側にひっそりとあるメールフォームを発見し、おまけにキーボードを叩いてまでメールを送ろうっていうんですから、そりゃ並々ならぬ想いが込められているわけです。

「pato死ね」

「早く更新しろpato死ね」

「今日彼女にふられたわ、pato死ね」

「patoさんこんにちは。僕は受験生で、明日大切な受験があります。これまでやれることはやってきたつもりで、合格する自信もあるのですが、明日のことを考えると不安でたまりません。もし電車が止まって試験に遅刻したら?もし試験中に腹痛が起こったら?そう考えると不安でたまりません。pato死ね」

こnのようなご意見を、単純な罵倒やちょっときついジョーク、嫌がらせ程度に認識し、受け流すのは簡単です。実際の言葉と違いネット上の言葉なんて×ボタンさえ押してしまえば消えてなくなるのですから、その存在は圧倒的に朧げで弱々しい。

けれどもね、その画面の向こうには必ず一人の人間がいるわけなんですよ。これが一番ネットにおいて軽視されがちなんですけど、確実に画面の向こう側にはそれなりに人生を過ごし、それなりに何かを考える人間がいるわけなんです。そこを忘れてはいけない。

そういった人間がネットに繋ぎ、Numeriにアクセスし、日記を読んで、メールフォームを見つけて「pato死ね」と送ってきた。そこに至るまでにどんなドラマがあったのか、それを想像すると大変胸が苦しくなるのです。

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坂本は焦っていた。彼女の姿が消えてから5時間。残る猶予はあと19時間だ。二人で暮らしていた2LDKのマンション、朝の8時にはいつも彼女、康子が朝食を作る姿が見られた。けれども今朝はその光景が見られない。

いつも見られる光景が存在しない、その事実は奇妙な違和感と共に言い知れぬ不安を坂本に与えた。康子がいない。デザイナーとしてフリーランスで働く坂本は締切間際になるといつも部屋に篭って仕事に没頭してしまう。その日も前日の夜10時、康子と少しだけ会話を交わしてから部屋に篭った。

「あまり無理しないでね」

「うん、わかってるんだけどね」

康子は坂本の身を案じて心配そうな表情を見せた。分かってはいるが、フリーランスという身分である自分は贅沢は言っていられない。少々申し訳ないという想いを抱えつつ、部屋に篭った。

仕事を終え、部屋から出る。リビングに差し込む朝日は目に痛いほどだった。いつもならここに康子の姿があり、何か朝食を作る作業をしながら

「おはよう」

そう言ってくれるはずだった。しかし、そこに康子の姿はない。不可思議に思いつつキッチンの奥へと歩み寄る。もしかしたら急に足りない食材に気づいて買い物に出かけたのだろうか。その考えは間違いであった。台所は綺麗に片付けられており、朝食を作ろうとした形跡は見当たらない。それどころか、まるで昨晩のままのような気がする。

寝室を覗き込む。やはり康子の姿はない。それどころか布団にシワ一つついていない。とてもここで一人の人間が寝ていたとは考えにくい。ということは、昨晩からいないということだろうか。

坂本は昨晩の状態から何一つ変わっていないと考えられるこの部屋の中で、一つだけ違っている部分があることに気がついた。それはパソコンだ。康子に買い与えていたネットブックだ。そう高価なものでもなかったが、ネットでレシピを調べたりするのによく使っていた。

けれども、そんなにネットに依存していなかった康子はほとんど立ち上げることはせず、いつも棚の奥にしまわれていた。坂本の目から見て、充電されてるかどうかも分からない存在、そんなネットブックが、開かれ、画面に何か表示された状態でポツンと寝室のサイドテーブルの上に置かれていた。

「経過時間 5h01m23s」

「タイムリミット 20h58m37s」

画面にはそう表示されていた。画面の経過時間とされる時間は1つづつ秒を刻み、それに伴ってタイムリミットとされる時間が減ってた。 「どういうことだ?」

数字がカウントダウンされるたびに画面がちらつき坂本の顔を照らす。それがなんだか妙にイライラした。普通に考えて、これは何らかの時間的制限を示すものなのだろう。経過時間とタイムリミットを足し合わせると24時間になる。つまり、このカウントダウンが始まった時点での最初の猶予時間は24時間であったのだろう。

あと19時間。何が起こるのだろうか。康子の姿が見えないことと関連付けて考えるしかないのだろうか。どうしたものかと考えていると、パソコンから音が鳴った。小気味良いサウンドはメールの受信を知らせるものだったのだろう、画面の下のほうにメールのマークが点滅していた。

「康子に来たメールだろうか?」

開いてしまうのは悪い気がしたが、何かの手がかりがあるのかもしれない。そう思ってアイコンをクリックし、メールを開いた。

そこには衝撃的なものが待っていた。メールの中にはURLだけが書かれていた。なにやら怪しげな感じのするURL。差出人は「A」とだけ書かれていた。何か設定をいじっているのか、アドレスもなく、その文字だけが差出人として刻まれていた。

普段はこんな怪しいURLにはアクセスしない主義だが、今は事情が違う。この偽装された差出人も事態が尋常でないことを指し示している。坂本はメールに記されたリンクをクリックした。

すぐにブラウザが自動的に起動し、画面が開かれた。それは何らかの生中継のようで、画面の中央に置かれた古めかしい椅子に、包帯でぐるぐる巻きにされた女性が座っている映像だった。

「康子!」

それが康子であることはすぐにわかった。パソコンの画面に呼びかけるが、もちろん反応はない。

「康子!おい!康子!」

包帯に巻かれた康子がもがくように少しだけ左右に動いていることが確認できる。まだ康子は生きているようだと安心すると同時にギョッとする。縛られた康子の傍らに置かれた大きな爆弾、その爆弾の上部に備え付けられたタイマーには「20:38:45」と書かれていた。

「一致している……」

それは、先ほどの奇妙なカウントダウンと一致していた。普通に考えて爆破までのタイムリミットと考えるべきだろう。

<中略>

ガラスを突き破って部屋に入ってきた美女、真っ赤な唇を艶かしく動かして坂本を誘う。

「アンタ、覚悟はあるのかい?」

「覚悟、ですか…?」

「そう、覚悟。貴方の最愛の康子を、いや本名アナスターシャを救う覚悟が、全てを知る覚悟があるのかと聞いている」

坂本は迷わず答えた。

「あります」

美女と一緒にマンションを飛び出す坂本。美女はそのままリッターバイクに跨る。

「ついてきな、アタイが案内してやる」

そういってメットを寄越してきた。

<中略>

「ほう、彼がアナスターシャの…」

「ええ、アナスターシャが選んだ男です。どこが良かったのか私には全然わかりませんけどね」

美女はまた唇を艶かしく動かすとクスッと笑いながら答えた。

「教えてくれ、さっきハイウェイで襲ってきた化け物はなんだ。そして康子はなんでアナスターシャなんて名前になってるんだ!」

坂本は詰め寄る。先ほどのハイウェイでの戦闘において負傷した右手から血が滴る。

「落ち着いて、順序良く説明するから」

しかし坂本は既に混乱状態だ。美女に詰め寄る。もう心配と不安、さらに様々なことが巻き起こった混乱でどうにかなりそうだった。

「落ち着いていられるか!」

そこに老人が割ってはいる。

「それ、ワシが説明しよう」

「うるせえジジイ!黙ってろ!」

その言葉に美女が怒った。坂本の顔をその可憐な手のひらではたく。

「口を慎みなさい。この方を誰だと思ってるの!八賢老の一人、モザハさまよ!」

「よいよい」

老人はニコニコ笑っていた。

<中略>

八賢老モザハによると、彼らの民族は古来より空中浮遊都市サハラディの存在を信じ、信仰することで結束を保ってきたらしい。空想上のサハラディを崇めることで均衡を保っていたともいえるだろう。しかしながら、そのサハラディが本当に発見されてしまったことが悲劇の始まりだった。サハラディをめぐり彼らの民族は二つに分かれた。サハラディを守ろうとする者と、サハラディを手に入れようとする者に。

「サハラディを手に入れようと村を飛び出した者には若者が多い。彼らはサハラディを手に入れ、その圧倒的力で地球上を支配しようとしておる。なんとも情けないことよ、我々民族はそれをさせないために代々サハラディ伝説を受け継いできたというのに。それもこれも全てワシの不徳のいたすところ」

にわかに信じがたい話だったが、彼らの民族の事情はわかった。しかし、それがなぜ康子に、そして自分に関わってくるのかは全く理解できなかった。老人の目配せに促されて美女が口を開く。

「康子、いやアナスターシャは我が民族の王女なのよ」

衝撃だった。にわかには信じ難かった。

「彼女をさらったのはおそらく過激派の連中、サハラディを手に入れようと王女を誘拐した」

「なぜアナス、いや、康子を!?」

「それは滅びの言葉よ。彼らは全てを手に入れる魔法の呪文と信じて疑わない滅びの言葉を手に入れようとしているの、それが全てを失うとも知らずにね」

さっぱり話がわからなかった。

<中略>

「ハハハハハハハハハハハ」

空中浮遊都市サハラディが大きく傾く。

「さあ言え、滅びの言葉を!」

「まさかアンタが黒幕だったとはな!八賢老の一人、モザハさんよ!たいした面の皮だぜ!」

「黙れ!我々民族はずっと虐げられてきたのだ。自然と共に生き、ただただこの空に浮かぶ都市を信じて生きてきた。それを迫害したのは誰だ、自然と共に生きる我々を追い立て、森を奪ったのは誰だ。貴様たちではないか。ここでサハラディが現れたのは神の意思なのだよ、我々に地球を手に入れよという大いなる意志なのだよ」

サハラディが大きく揺れる。康子につけられた爆弾のカウントが残り3分を示していた。

「おや、もう時間がないぞ。お前が教えてもらった滅びの言葉を教えるのだ。手遅れになってもしらんぞ?」

坂本はあまりの出血に一瞬意識を失いそうになる。それでも自らを奮い立たせ、パソコンを取り出した。

「教えてやるぜ、滅びの言葉。ただしお前にじゃなくここにな!」

「や、やめろ!そこにその言葉を入力すると!この都市が、やめろ!お前ら!どうなってもしらんぞ」

坂本は康子を見る。康子は黙って頷いた。そしてNumeriのメールフォームに滅びの言葉を入力する。

「pato死ね」

同時に、サハラディが崩壊する。

「わしの夢が、わしの野望が!」

「康子!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

<中略>

「見て!あそこに人が」

空中を漂う康子と坂本。

「こんなに綺麗な星だったのね」

「ああ。綺麗だ」

地平線まで見える景色の中、二人は吸い込まれるように地表へと消えていった。

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とまあ、こんな感じかもしれないじゃないですか。そう思うと、たかが「pato死ね」ってメールだと切って捨てず、すごい壮大なロマンがあるんだなあと思うわけなんです。

「pato死ね」

また来たメールに思います。サハラディを崩壊させることで地球を守ってくれてありがとう。


5/21 龍亜種先生の漫画


5/20 嫌いの流儀

早朝、元気良くオフィスに出勤すると魚臭かった。

動揺が隠せなかった。僕は比較的何事にも動じない性格で、少々のことでは焦ったり困ったり右往左往したりしないのだけど、そんな僕でもこれには動揺するしかなかった。普通に考えてありえない、いやあってはならい事態なのだ。

当然のことながら僕の職場は魚市場でもないし、新鮮さが売りの回転寿司でもない。どっからどう見ても普通のオフィスだ。あらゆる要素と可能性を考慮したとしてもオフィスが魚くさい、ということはありえない。ならば今起こっているこれはどういうことだろうか。

単純にまっすぐ考えると、何者かがこのオフィスの魚いがする何らかの液体を振り撒いたとしか思えない。それほどに強烈で純粋な悪臭だった。ドアを開けた瞬間にツンと鼻にくるのだからよほどのものだ。クンクンと鼻を鳴らしながらオフィス内へ歩を進めていく。やはりというかなんというか、匂いの元は僕のデスク周辺だった。ここだけ匂いの密度が桁外れに濃い。予想通りだ。

ついに職場イジメもここまできたか。最初に心に浮かんだ感情は怒りではなく失望だった。僕はこれまでこの職場で確固たる地位で嫌われているという自負があった。それは一つの誇りだった。敵も作れない妙な善人よりも敵だらけの奇人でいたかった。嫌われと疎外は僕の誇りだった。

雨の日も風の日も、雪の日も、台風が来た日だって僕は職場で嫌われていた。それは歓迎会の飲み会にも会費だけ取られて誘われなかったり、職場の親睦と銘打たれた栗拾いツアーに誘われず、その楽しそうなスケジュールを記したプリントを発見した時も、サークルの脱退届がすんなり受理された時も、飲み会参加者は○つけてーと名簿が回ってきた時に、どれどれ今回は不参加でって×をつけようと名簿を見たらそもそも僕の名前がなかった時も、なんら変わらなかった。きちんとした礼節を踏まえて僕は嫌われていた。

嫌うのも嫌われるのも礼儀と覚悟というものがある。人が人を嫌うのは仕方がないことだし、ある程度の人数の人間が集まっていればかならず誰かが疎外される。それは仕方がないことなのだから、せめて礼儀を持って誰かを嫌わなければならないのだ。

その礼儀とは、まず第一に直接的な嫌がらせをしてはいけない、というのが挙げられる。僕らは嫌い嫌われあっているのであり、決して憎しみあっているわけではない。お互いに嫌いあっている現状は、なんとなく漂う空気のように思ってくれればいい。徹底的な排除はその空気に必要な行為で、これまでの飲み会や栗拾いツアー、サークルからの僕の排除、この行為は言うなれば儀式だ。俺たちはあなたが嫌いですという確固たる宣言だ。

それを受け、僕もなんとか参加しようとして参加できなかったり、雑談に加わりに行って場を凍りつかせたり、嫌われている男としての行動を率先して行う。これは相手の宣言に対する返答だ。礼儀だ。予定調和というやつなのだ。

分かり合う人間関係って、友人同士や恋人同士だけの特権ではない。嫌いあってる者同士だって本当は分かり合ってる。ただ相手が嫌いという思いを共有して分かり合っている。けれども決して犯してはいけないラインというものが存在する。

学校はみんな仲良くしなさいと言って仲良くすることばかり推奨し、礼儀を持って嫌う方法を教えない。だから礼儀のない嫌いが蔓延し、ダイレクトアタックに近いイジメが横行する。それもこれも正しい嫌い方と嫌われ方を知らないからだ。

少なくともこれまでの職場のメンツの僕に対する行動は嫌う時の礼儀をわきまえていて、最近の若者にしてはなかなかやるじゃないか、と見直していたのだけど、ここにきてこの仕打ち、このダイレクトアタック、魚臭く生臭い何らかの液体を僕のデスクにふりまくという暴挙。僕は深い失望に包まれた。

なぜこんな直接的な嫌がらせがダメなのかというと、そこまでやってしまったら後はもう戦争をするしかないからだ。直接の嫌がらせってやつは軽く考えているかもしれないけど、それだけ深くて重い。いい大人が仕事そっちのけでクソみたいな嫌がらせの戦争をしてるなんてのは、あまり精神衛生上よろしくない。だから絶対にやってはいけないのだ。

それに、この魚臭い何かを振りまく、という行為は嫌がらせとしてはかなり上質で、犯人は知らずにやったらんだろうけど僕の心のトラウマを揺さぶるに十二分すぎる嫌がらせだった。

僕が小学生の頃、僕はもらったプリントやら何やらを机の中に入れてそのまま持って帰らない子供だった。当然ながらすぐに机の中はプリント類で溢れかえるのだけど、それでもゴンゴン押し込んでいくものだから常にゴミ屋敷みたいな状態になっていた。

始末の悪いことに僕はそのプリントだらけで汚い机の中を少し誇りに思っていた部分があって、どんなに担任のババアに怒られようとも、どんなに周りの連中に言われようとも改める気は全然なかった。

ある時、給食に当時僕が嫌いだったピーマンの炒め物みたいなものが出された。全員で仲良く食べるよにという担任のクソババアの号令の下、別に仲良くもないやつや、嫌いな奴、僕のことを嫌っている女子などと机を引っ付けて食べなければならなかったのだけど、なんだかコイツらにピーマンを食べれない男だと思われるのは癪だ、という感情が芽生え始めた。

こいつらは多分僕のことを嫌っているし、僕だって嫌いだ。そんな言わば敵に自分の弱さ、ピーマンを食べられないという弱さを見せつけたくはない。この感情は大人になった僕から言わせると、間違った嫌われ方だ。別に強がる必要なんてない。

ただ、あまりに幼くてそんな境地に達していなかった僕は、コイツらに弱みを知られたくない、そう強く思った。けれども、あんなプラスチックみたいなピーマンを食べるなんて考えられない。さんざん葛藤した末、僕は皆の会話に全く溶け込めなかったのをいいことに隙をついてサッとピーマンをプリントに入れて隠した。

一度そうなってしまうと子供ってやつは歯止めが効かない。僕は今でこそ納豆以外の何でも食べられるのだけど、子供の頃は嫌いなものが多く、魚や肉、海藻に野菜、コッペパン、とにかく嫌なものが給食で出るたびに机の中に隠していった。たぶん、僕の中で机の中ってのは魔法の四次元ポケットだったのだろう。

数日して、腐った。

机の中のものが確実に腐った。もう何が腐ってるのか分からない。怖くて中を見ることなんてできない。とにかく腐った匂いが教室に入った瞬間から蔓延していた。

「なにこれ、くせえ」

クラスメイトが声を上げる。疑問形ではあるが、確実に僕の机から臭っているという確信を持っての発言だ。ここで、あちゃー、腐っちゃったかーとかいってメンゴメンゴって感じで机の中の物をだし、ボコボコってゴミ箱の中に捨てることができたらどんなに楽だっただろうかって思うけど、弱みを見せちゃいけないって思っていた僕は、自分の机が臭っているとは絶対に認めない、という姿勢で臨むしかなかった。

とにかく、他の誰かが臭いんだろう、松井じゃねえか?臭いの、みたいな顔して自分の席に座る。当たり前だが、すごい臭い。モロに腐臭の上昇気流が顔に来る。こりゃナウシカもびっくりの瘴気だ。周りの連中は僕の机から距離を取り、口々に臭い臭いとヒソヒソ話。もう泣き出したいくらいだったけど、それでも負けてはいけない、なんて思って意地になってた。本当に嫌われる礼儀ができていなかった。

魚臭くなった僕のデスクを前に、そんな少年時代の記憶が蘇った。嫌われることを頑なに拒み、弱みを見せまいとしていたあの時の自分、結果としてそれが更なる悲劇を招いたあの事件を思い出しオフィスで僕は泣いた。

なぜ僕がここまでされなければならないのだろう。嫌われるのはなんとも思わない。でも、なぜこんな、魚くさいエキスをデスクにまぶされないければいけないのだろうか。魚くさいデスクで僕は泣いた。

ただ悔しかった。ただ悲しかった。そして僕を産んで育ててくれた父や母に悪いと思った。本当に悔しくて悲しくて、深く呼吸をするとさらに魚臭くて泣けてきた。そして一つの考えに至る。僕はここまでされるほど悪いことはしていない。

こういうと語弊があるのだけど、嫌われるのに理由はいらない。僕だって何が悪いわけでもないのに無条件で嫌いな人というのはいる。自分がそうなのだから、自分が人から理由なく嫌われても文句は言えない。嫌われるのに理由はいらない。

けれども、このような嫌がらせをされるのにはそれ相応の理由が必要だ。ラインを超えてしまう理由が必要だ。僕が誰かに悪いことをしたのかもしれない、何か恨まれているかもしれない。いくら考えてもその理由は思い当たらなかった。

ここまでされる理由がない!

僕は決意した。これはもう戦争だ。嫌いあってる状態ならまだしも、こうやって行動に移してしまったら戦争だ。ならば徹底的にやってやろうじゃないか。

まず始めに、誰がやったのかが問題だ。それをはっきりさせなければ戦争もクソもない。とにかく犯人を推理しよう。まず、この僕のデスクがあるオフィスの鍵を開けられる人間は限られている。ざっと考えて5人が鍵を持ってるし、11人が鍵のあるボックスにアクセスできる。計16人。さらに、この魚の匂いは重要だ。普通、こんな嫌がらせをするならば、ウンコの匂いとか比較的入手が容易い悪臭を選ぶはず。ここで魚臭を選ぶ人間、それなりに魚に近しい人間の犯行と読むべきだ。さらに、昨日の退社時にまだ残っていた人間が犯人だと思われる。記憶の糸をたぐり寄せると、そのとき残っていたのは3人だ。ひとりはブス、もう一人もブス、最後にブス、全部ブス、女性だった。果たして女性がここまでするか?いや、逆に魚というチョイスは女性的で家庭的だ。もしかしたら、家で余った魚の汁を嫌がらせに使おうと思い立ったのかもしれない。家が魚屋なのかもしれない。とにかく3人の性格を考えてみると、一人は大人しいブス、ひとりは活発なブス、最後はブス、どいつもこいつもありえそうだ。おとなしい奴は裏で何を考えているかわからないし、活発な方も、裏で陰湿なんてのはよくあること、最後はブス、やりかねない。ここはもういっちょ指紋でもとってやるかと思ったのだけど、ここで大切なことを思い出した。先日、大人しいブスに、仕事のことで怒ったんだった。僕が怒るのは珍しいので、家で怒る練習をしてからいったから覚えている。確かに大人しいブスを怒った。ははーん、なるほどね、それを恨んでの犯行ですか。そう考えると確かに大人しい顔して魚のエキスをふりまきそうな顔してやがる。よし、わかったぞ、あいつが犯人だ。

涙を拭き、戦争、受けてたってやろうじゃないのって感じで立ち上がり、こっちはその大人しいブスのデスクの上でウンコでもしてやろうか、そのウンコの横に割り箸でも置いて、さもウンコを食べる習慣があるかのように見せかけてやろうか、そう思いデスクの引き出しを開けると、

腐った魚が入ってました。

忘れてた、ブリか何か知らないけど保険のおばちゃんがもってきてくれたんだけど、生魚もらっても困るし、そんな食えないしで困ちゃって、とりあえず引き出しの中に入れたんだった。すげえ腐ってて目が痛いくらい臭いが漂っていた。死ぬかと思った。

なんてことはない、嫌がらせでも何でもなかった。ただ僕が魚をしまったのを忘れていただけだった。とりあえず、大人しいブスを疑ってしまったのは事実なわけで、ちゃんと嫌われる流儀としてそのへんはハッキリさせておかないとおいけないので、その日の午後には大人しいブスに

「ごめん、疑ってごめん」

と謝ると、すっごい勢いで「はぁ?」って顔されて、無視されました。よし、嫌いの流儀が出来てるじゃないか。ちなみに、まだ魚は引き出しに入ったままです。


5/19 love me do

休憩時間におやつとしてカップラーメンを食っていたら、同僚の女性から暗に「おやつがそれ?」みたいなニュアンスのことを言われてしまい、その後に続く言葉は口に出さなくても分かるレベルで、たぶん「だからデブなんですよ」と言いたかったんだと思う。

この人間独特のコミュニケーション手段である「間」というのは実に難しい。「間」は普段の会話において多用される。同じ言葉であっても「間」の有無でニュアンスが異なることもあるし、「間」によって口には出さない言葉を伝えることもある。用法自体はさほど難しくなく、極度の対人恐怖症でずっと部屋に籠ってるような人でない限り必ず用いたことがあるはずだ。

では何が難しいかというと、こういったNumeri日記のような文字だけの媒体、その他に紙媒体など、人間を目の前に置かずに伝える場合にこの「間」を表現することだ。これがとにかく難しい。

例えば、放課後の帰り道、幼馴染の男女が二人、夕焼けに向かって歩いて帰っていたとする。芳江は高志のことが好きで好きでたまらないんだけど、鈍感な高志はそのことに気づきもしない。それどころか、自分の恋愛相談を芳江にしてしまうくらいだ。

「あーあ、京子先輩、彼氏とかいんのかな?」

京子先輩とは高志が所属するサッカー部の美人マネージャー。サッカー部に入部した男子誰もが一度は恋をするという憧れの存在だ。美人で気配りも出来てお高くとまっていない。芳江の目から見ても素敵な先輩で、勝ち目なんかないってわかってた。

「…どうだろうね」

高志が京子先輩の名前を口にする度に心がギュッと締め付けられる気がした。高志なんて京子先輩に振られてしまえばいい、そう願う一方で振られて悲しむ高志を見たくないという思いが交錯しどうしていいのかわからなくなってしまう。

「マジで苦しいよ」

高志は少し困った顔をしながら笑った。夕焼けが反射したオレンジ色の高志の顔、ますます心が締め付けられる思いがした。

「人を好きになるって苦しいのかな?」

芳江は心にもないことを切り出した。そんなこと言うまでもなく自分自身がよく知っている。人を好きになるってことはこんなにも苦しくて辛いものなのだと。

「芳江はいないの?好きな人」

沈黙が流れた。遠くで踏切の遮断機が降りる音だけが聞こえた。私の気も知らないで無神経な質問を投げつけてくる高志に苛立つ反面、こういうとぼけたところが彼のいいところなんだろうなあ、私が好きなのはこんな無神経な高志だ、そう思うと何だかおかしくて笑えてきてしまった。

「な、なに笑ってるんだよ」

「なんでもない、ふふ」

一通り笑ったあと、バツが悪そうに視線をそらす高志を見ながら芳江は人呼吸置いてポツリと言った。

「……いるよ、好きな人」

届かない想い、それはあんなに地面に触れそうなのにいくら歩いても決してたどり着かないあの夕日のようで、それでも綺麗な夕日を眺めていても悪い気はしない。今はそれでいい。芳江はまた少し笑った。

とまあ、こんなエピソードを書いたとして、もちろん誰がどう読んでも最後の芳江のセリフが肝になるわけなんですが、むしろこのセリフよりもその前の「間」こそが重要なんです。

私が高志のこと好きっていったらどうするかな。もちろん私と京子先輩じゃ違いすぎる。困るかな。私が好きって言うことで、二人の関係がギクシャクしてこうして一緒に帰ることもなくなっちゃったりするのかな。でも、もし高志と京子先輩がうまくいっちゃったら、こうして一緒に帰れなくなっちゃうよね。それに京子先輩はすごく綺麗だし胸だって大きいし易しい、その反面、私はこんなんだし、サッカーのことなんて全然わかなんいし、もうどうしたらいいのかわかんないよ、夕日が綺麗だな。

最低でもこれくらいのことがこの「間」には詰まってるんですよ。で、問題はこれをどうやって表現するかなんですけど、例えばドラマやなんかだったら演技の上手な俳優さんが非常に素晴らしく「間」を表現してくれるでしょう。けれどもね、これを文章で表現しようとしたら大変ですよ。

文章の空白は実在の時間的空白と一致しない。このパラドックスが明らかに「間」の表現を妨げているのです。昨今多い、5文字くらい書いて死ぬほど改行しまくってるブログにしたって、いくら改行を重ねたってそれは改行でしかなく、絶対に「間」は表現できない。せいぜい「間をおいて」などとストレートに書くことしか出来ず、絶対的な思慮の密度を超えることができないのです。

こういう絶妙の「間」、上記のような恋愛における「間」でなくともそれこそおやつにカップラーメンを食っている僕に対して「だからデブなんだよ」と言いたげな重苦しい「間」ってやつをどうやって日記で表現していくか、これは永遠の課題ですな、などと考えていました。すると、

「アフィイイイイイイイイイイイ!」

と、オフィスの奥のほうで何かを読んでいたブスが大声を上げ始めるではないですか。いきなりの雄叫びにオフィス内が騒然、僕はてっきりブスの彼氏がリモコンバイブでも仕込んでて、遠隔スイッチでON-OFFを繰り返し、どうだいオフィスで身悶える気分は、くくく、みたいなことをやってて、絶頂に達すると同時に今まで抑えていた全てのものが吹き出してしまい、あの絶叫に至ったと思ったのですが、別にそうではありませんでした。

仕事中に本当にけしからんことなのですが、女子社員の間で回し読みしている少女コミックというんでしょうか、少女漫画というんでしょうか、それを読んでいてブスがあまりに感動してしまい、ブスが感極まり、ブスが雄叫びを、ブスっぽくあげた、ということだったらしいのです。本当に、ブス、迷惑。

「みてみて、ここが超感動するのよ〜」

周りのややブスの女の子に解説をはじめるブス。ややブスの子もなんとも言えない表情をしながらやや間をおいて

「ほんと、そのシーンいいよねー、私も泣いちゃった」

女の子ってやつは感動などの感情を共有しなきゃいけない鉄の掟があるらしく、誰かが感動したシーンで感動し、泣いたシーンで泣かなければなりません。ですからちょいブスの子が本当に感動したのか怪しい部分がありますが、そこまで人の感情を揺さぶることができるのです、少しばかりその少女漫画に興味を抱き始めていると、ブスがとんでもないセリフを口にしたのです。

「この間がいいのよねー」

こりゃ聞き捨てならない、そう思いましたね。マンガだって文章と同じく生の人間を介さない表現媒体です。絵がある分文章より表現しやすいと思いますが、それでもやはり「間」の表現は難しい、そう考えていました。けれどもブスはそのマンガの「間」が良いという。一体どういうことか気になっちゃいましてね、いそいでブスに駆け寄り、そのマンガを読ませてもらったのです。

どうもそのマンガは恋愛物だったらしく、というか格闘物の少女漫画ってそうそうあるものじゃありませんからほとんどの少女漫画が恋愛物だとは思いますが、とにかく読んでみたんです。パッと見、登場人物全てが顔の綺麗な女性に見えてしまい、

「これレズもの?」

と質問をしたところ、無言の怒り、という「間」の圧力で潰されそうになりました。仕方ないので着てる服や台詞回しなんかから性別を推測して読み進めていったのですが、まあ、早い話好いた惚れたの話ですわ。主人公をめぐって色々な色男が出てくるんですけど、まあ、どいつもこいつもオナニーしたらチンポ折れちまいそうなヒョロヒョロでね、そいつらが主人公の髪とかクシャとかして「お前は俺のものだから」とか言うてるわけですわ。ここでブス発狂、蟹みたいに泡吹いて、たぶん潮も吹いてるんでしょうけど、もうキャーキャー言うてるの。

でも絶妙の「間」があるのはそのシーンじゃなくてもっと先って言うんで読み進めていくんですけど、いよいよすったもんだの末、主人公と本命っぽい男が、並木道で二人っきり、僕の左手の感触からもページ数があまりないことが伺えていよいよラスト近し、告白するぞ告白するぞ、きっとすげえ「間」で告白するんだろうなって思いながら読んでいたら、案の定、男のほうがガシッとか木の幹に手をついてですね、主人公の顔を覗き込みながら

「おれさ…、お前のことが好きだ」

とか言うんですよ。それを受けての主人公、ここの「間」がすごかった。なんと、7ページにわたって今までの思い出みたいなのが走馬灯。死ぬ間際か。

とにかく、最初から読んでない僕にしたら全く思い入れがないのですが、フラッシュバック的演出で、夏の海やらキャンプやら冬の雪やら桜の季節、梅雨の相合い傘、美しい日本の四季折々の風景が、なんか、最初の方は主人公と本命男の思い出みたいになってるんですけど、最後の方は関係ない、景色とか犬でしたからね。こりゃあすげえ「間」の表現だぜ、スケールが違う。

で、7ページにわたる日本紀行が終わった後、「わたしもすき」みたいな主人公のセリフがあったんですけど、もうこの「間」が衝撃的すぎてあまり覚えていませんでした。正直これだって思いましたね。

7ページに渡る無関係とも言える風景のフラッシュバック、これがこの漫画における「間」の表現なのです。マンガだって「間」を表現するために7ページの空白を使ったらそれはただの落丁ですから、こういう手法をとったんじゃないかって思うのです。この無関係なシーンのカットイン、これ、もしかしたら文章表現にも使えませんか。

ということで、無関係文章のカットインによって「間」を表現すべく、少し書いてみようかと思います。

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「あと16段」

少しだけ風が吹いていた。境内を吹き抜ける風はどこかゆっくりで暖かくて、まるで変わりゆく季節の予告編のようだった。名前はわからないけどよく聞く鳥の鳴き声が聞こえ、どこかの学校のチャイムが微かに聞こえる、それらの小さな音たちはこの街の呼吸音のようにすら思えた。

「わー、すごいねー、あ、うちの学校だよ。まだ陸上部が走ってるね」

鳥居越しにふもとの街が見える。芳江は坂道が苦手で高台にあるこの神社に来たことはなかった。眺めが良く、自分の住む街がジオラマのように見える。街の匂い、街の声、街の顔、全てが一瞬で感じられるような気がした。

「なんだよ、こんなところに呼び出したりしてよ」

高志がポカリスエットの蓋を閉めながらぶっきらぼうに言う。

「ボディーガード。女の子一人でこんなところにきて何かあったら大変でしょ」

もちろんそれは嘘で、芳江にはちゃんと理由があった。ここに高志を連れてきた理由が。これは芳江のクラスでまことしやかに囁かれている噂というか伝説なのだけど、高台にある神社の石段を好きな人と一緒に降りていき、最後の一段を降りた瞬間、告白すると成功する。そんな都市伝説みたいな馬鹿げた話があった。

最初は芳江もそんな話信じられなかったけど、上級生の京子先輩がこの方法でサッカー部のキャプテンに告白し、成功した話を聞いて急に色めきだった。すぐに友人にやり方を聞き、なんとか理由をつけて高志を高台の神社に呼び出した。

「そろそろかえろっか」

芳江が切り出す。

「なんだよ、ちぇ」

なんで呼び出されたかもわからず、おまけにもう帰るというのだ。訝しげな顔をする高志。それでも渋々といった感じで鳥居の方に向かって歩き出した。

石造りの鳥居をくぐると数メートルの石畳を歩いて最も景色が良い場所に出る。街が一望できるだけでなく、その先の港、さらに先の海、下手したらもっとずっと先まで見えてしまうんじゃないかというほどの絶景だ。その先はいよいよあの伝説の石段がある。高志は石段の前に立つと、その絶景に見とれてか一瞬立ち止まった。

「あと16段」

芳江は心の中で呟いた。

この石段は小さくて短い。16しか段がない。クラスの女子に教えてもらった話ではこの16段を降りる間、一度も相手を追い越してはいけないらしい。もし追い越してしまったら、その恋は絶対に実らない。

「あと14段」

また心の中でつぶやく。高志は景色を見ながらゆっくりと降りている。それを追い越してしまわないよう、高志が1段降りたのを確認して降りる。

「あと12段」

高志が振り返る。ゆっくりと降りる自分を決して追い抜こうとしない芳江を不審に思ったのだろう。芳江は焦った。なぜならこの伝説は相手に気づかれてしまったら意味がない、そんなルールがあるからだ。焦りのあまり何か話さないといけにと思い立った芳江は必死に話題を探した。

「あ、あのさあ…聞いたよ、京子先輩のこと」

一番選択してはいけない選択をしてしまったと口に出した瞬間に気がついた。今から告白しようとしているのに、どうして高志が憧れていた、好きだった先輩の名前を出してしまったんだろう。けれども、ここで話題を変えても変だ。芳江の意思とは別に滑るように口が動いた。

「京子先輩、サッカー部のキャプテンと付き合うんだってね」

「ああ」

高志はまた前を向いて景色を眺め、歩き出した。

「あと10段」

どうしよう、今日はもうやめてしまおうか。京子先輩の名前を出してしまい、高志がどんな表情をしているのかは分からない。けれどもこの雰囲気は最悪だ。コツコツと視界の中の高志の頭の位置が下に降りていく。一気に2段降りたみたいだ。慌てて芳江もその後ろを追いかける。

「あと8段」

迷っていると、高志が立ち止まり、またこちらを向いて言った。

「おまえさ、この間好きな奴がいるって言ってたじゃん、あのさ、えっと、その、そいつってどんなやつ?」

それはアナタだよ、そう言ってしまいたかった。告白する絶好のチャンスだと思った。けれども、石段を降り切るまで言ってはいけない。さもなくば必ず失敗するからだ。

「うーん、どんな人かな。優しくて鈍感で、でも部活とか一生懸命で」

高志が一気に階段を駆け下りた。

「ふーん、それって俺が知ってるヤツ?」

急いで高志を追いかけながら、それはアナタと言えない状況を呪った。

「残り2段」

「知ってるんじゃないかな?」

もうドキドキして心臓が破裂しそうだった。あと2段降りたら私は高志に告白する。幼いころからずっと一緒に歩いてきた高志に。多分失敗するだろう。高志の心はまだ京子先輩だ。このまま、気まずくなって話もしなくなるのかな。だからといってずっとこのままの関係なんて我慢できない。

「よっと!」

高志が最後の2段を段を飛ばして飛び降りる。いよいよ告白の時だ。芳江も高志に続いて階段を降りる。そしてついに高志の隣、石段の下に立った。その瞬間だった。

トン!

高志はまた石段に戻って一気に段飛ばしで4段上がった。高志を追い抜いてしまったショックに目を丸くしていると、高志が大きな声で言った。

「俺、このおまじないのこと知ってるよ。だからそんなのに頼らず、俺から言いたいと思った。ずっとずっと京子先輩京子先輩って言ってたけど、俺、俺、ほんとは芳江のことが、好きだ」

石段両脇の木々がざわめき、しばらくして、また風が吹き抜けた。

ほいさ、ってことでチンポにイボができた時の話でもしやしょうか。アッシは毎日オナニーでチンポをいじっているわけですか、どうにもこうにもあれはチンポの先っぽに集中しちまいましてね、まっこと恥ずかしいのですが根元の異変に気がつかないんですわ。ある日のこと、家のトイレでおしっこしていやしたらね、このあとコーラでも買いに行こうかい、と思って握っていた100円玉が床に転がったわけですわ。おりょおりょ、こいつはまいったね、そう思いながら探したら無事に100円玉が見つかったわけなんですが、これがまあ、しょうべんだらけ、なにやらベタベタしておりましてね、アッシは気づいたわけですわ、じつはおしっこはすげえ飛び跳ねてトイレの床を汚してるってね。それからよ、便座に座って用を足すようになったのはね。けれども、慣れないことはするもんじゃないんでしょうなあ。便座を上げたまま座っちまいやしてね、予想以上に地の底、あまりに尻が入るものですから驚いちまってね、変な体制になりながら、初めて自分のチンポにイボがあるのを発見したんですわ。そうなるとアッシも少々のことでは動じない男、チンポにイボとはチンポイボと高笑いの一つでもできりゃあよかったんですが、そのイボを取るのに躍起になっちまいましてね。イボコロリだとか試しましたよ。けれども全然取れない。アッシはこう見えても気が長いほうで通ってるんです。けれども我慢できなくなりやしてね、ある日、ハサミで切ってやったんですわ。冥界が見えたとはあの時のことを言うんでしょうなあ。痛いわ血が出るわ、なぜか勃起するわ、ありゃあ魔物、物の怪の類ですわ。しばらくオナニーするたびに血が止まらなくてね、さすがに包帯巻きましたよ。いよいよ傷も癒えたっていうんでアッシはワクワクしながら包帯をとったんです。そしたら、なんと、傷が治ったそこにはちゃんと新しいイボができたんですわ。こりゃイボリューション、なんてね。

「私も高志のこと好きだよ…ずっとずっと…好きだったんだから」

遠くでチャイムの音が聞こえた。風がまた、通り抜けた。今度は二人の間を。

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あ。こりゃいいね。すごく間が表現できている。

満足しつつ、おやつに唐揚げ弁当でも食ってやろうと、レンジでチンしてたら、今度はデブの女子社員がやってきて

「あれ、もう夕飯ですか?」

とかいうもんだから正直に

「いや、おやつだけど」

といったら、思いっきりストレートに

「だから太るんですよ!」

とゲラゲラ笑いながら言われた。そこで僕は言ってやったんですよ。

そのイボなんですけど、そのうち自我を持って喋りだすんじゃないか、もうひとつの僕の人格になるんじゃないか。嫌ですよ、チンポがしゃべるなんて。まあ、正確にはチンポのイボがしゃべるんですけど、そうなって悩まされる夢を見ちゃいましてね、恐怖でどうにかなるくらい怖くなっちゃって、しかもイボをよく見てみたら結構目とかに見える部分もあって、顔ができつつあって、怖さのあまりどっかで質問したらミミズをすって塗りつけたら治るって嘘教えられて本気でミミズ探したり、見つからなくてカマキリで代用できないか考えたり、そんなこんなで四苦八苦してるうちにいつの間にか治っちゃいました。

「君には言われたくないよ」

その瞬間、レンジのチーンって音がオフィスに鳴り響いた。


5/18 Brinell hardness

長年エロ動画を見続けてきて思ったことがあるんですけど、どう考えてもおっぱいって柔らかいやつと硬いやつがあると思うんです。

いやいや、まてまて、とにかくまて、おっぱいは柔らかいもので一貫しているはずだ、硬かったり柔らかかったりするはずがない、そう思われる男性の方々も多数に上ると思われますが、どうぞ心安らかに聞いてください。気持ちはわかります、とにかく落ち着いてください。

確かに当たり前にそうであると思っていた事象がそうでなかった、それはかなりの驚きの来訪と共に絶望を与えてくれます。言うなれば、当たり前の常識として甘いと思っていたショートケーキが塩味だった。あのスウィートな見た目で塩味なんてありえないだろう、そんな気持ちではないでしょうか。

僕も決して信じたくなく、おっぱいは常に柔らかく極上の癒しを与えてくれる孤高の存在であって欲しいと願っています。けれども、どんなにそうであって欲しいと願ってもおっぱいは一様に柔らかいものであって欲しいと願っても、それが叶えられるとは限らないのです。そう、悲しいお知らせですがあえて言わせていただきます。おっぱいには柔らかいものと硬いものがある、と。

初めてそれに気がついたのは、エロ動画を見ている時でした。ある女優のデビュー作を見ていたところ、普段はチャプターごと飛ばしてしまうシーン、良く分からないインタビューのシーンを見ている時に事件は起こったのです。

画面の右側に「デビューしようと思ったきっかけは?」とか字幕だけ出て、ソファー(白)に座っている女優が「えっと、渋谷でスカウトされてえー」とか答えてるんですけど、それを見ていたら、いよいよ「じゃあ、おっぱい出してみようか?」みたいな字幕が出てきたんです。

おお、ついにおっぱいが出るのか。普段ならいきなり挿入のシーンとかにぶっとばすんで今更おっぱい如きでは興奮しないんですけど、このジワッと出されるおっぱいに、少年時代、捨ててあったエロ本見て興奮したことを思い出したんです。エロ本ってメインがおっぱいですから、下半身とかそういうのよりとにかくおっぱい、とにかくおっぱい、そんな感じだったんですね。

そういや子供の頃はおっぱいに興奮してたな。そんな青い気持ちを蘇らせてきたんです。いやいや、僕だって35歳となった今でも全然おっぱい好きですし興奮しますよ、そりゃそうです。けれども、それはあくまでも「おっぱい」メインではなく、あくまでも付加物としての「おっぱい」なんです。

それにひきかえあの時代はまさしくおっぱいがメインだった。あの柔らかそうな質感、あの農家の鳥よけみたいなフォルム、全てが興味の対象で、触ってみたい、そう悶々と思いながら青春時代を過ごしたものです。

けれども今やどうでしょうか、通りすがりにベロンとおっぱいを出す女がいたとしても、大変大興奮するとは思うのですが、下手したら「おいおい、おっぱいだけかよ」くらい思うかもしれません。あの時代の僕が知ったら怒り出すかもしれないほど今の僕はおっぱいに対して真剣でなくなってしまった。

初心を忘れてはなりませんな、そう思いながらもう一度あの時の草原みたいに青臭い想いを思い出そうと、いよいよ女優がおっぱいをあらわにしようとその時でした。

「いやーん、はずかしい」

デビュー作ということもあって、女優は恥じらいをみせ、このあとジュボバポするくせしやがって恥ずかしいもクソもねえだろって感じなのですが、とにかくおっぱいを両手で隠しだしたんです。まあ、デビュー作でデローンとおっぱい丸出しってのもアレですから、たぶん少しは恥じらいを、みたいな監督の指示もあったんでしょうね。

そこでですよ、その女優が巨乳ということもあったんでしょうけど、こう、こういう感じでですね、こう、乳首をアイアンクローみたいに覆い隠していたんですけど、明らかに指の間からはみ出ている乳肉、おいおい自分で使っておきながら乳肉ってすげえ単語だな、とにかく、その乳肉のはみ出し方が尋常じゃないレベルなんです。

みなさんは、例えばテレビを見ていて金属バットで芸人の尻を叩くシーンとか見るじゃないですか。その場合、頭の中に確固たる金属バットの硬さがあって、そこから生じる痛みを連想するわけです。こんにゃくにはこんにゃくの、サッカーボールにはサッカーボールの硬さってやつがあるんです。どこにって?それはみんなの心の中にさ。

なんか意味わからない言いっぷりになってきましたけど、とにかく、みんな何かの物体を見た時は無意識にその硬さを頭の中で連想するするはずで、おっぱいにはおっぱいの柔らかさ、っていう概念が全ての人間のなかに存在するんです。

で、もちろん僕の頭の中にもおっぱいの柔らかさの概念はあるんですけど、その柔らかさの物体をある程度の力で抑えた時、はみでるであろう乳肉の量、それも無意識の内に連想しているはずなんです。簡単にいえば、こんくらいの柔らかさのものを掴んだら、こんくらいはみ出てくるだろう、そんなイメージがあるはずなんです。

その女優の指の間からはみ出る乳肉の量は僕の概念を大きく超えていました。何かの特撮かと思うほどに乳肉がボニョーンって感じではみ出ていたんです。

「これは僕の中のおっぱいの柔らかさの概念を修正しなくてはならない」

そう思いましたね。早速、参考資料として様々な女優がイヤーンとか言っておっぱいを隠すシーンばかりを切り抜き、ダイジェスト版を作成。これがなかなか大変でしてね、男優が鷲掴みにするシーンは結構あるんですけど、これは全然参考になりません。男は個人によって腕力にかなりの差がありますから、どんな力で鷲掴みにされているのか分からない。これでは何の参考にもなりゃしませんわ。

その点、女性はムキムキのボディビルダーとかでない限りそこまで腕力に差はありません。どんな力で乳肉が押されているのかある程度予想できる。女優自身が乳を隠したりして乳に力を加えているシーン、これを探して信じられない数のエロ動画を見ていきました。

そこで分かったのですが、ホント、この歳になってこんな根本的なことに気がつくなんてお恥ずかしい限りなのですが、やっと気がついたのです。女の人の乳には信じられない広いレンジで柔らかさに幅がある。

いや、ちょっとチャラチャラしたヤリチンとか、そんな今さら何言ってんのって思うかもしれないですけど、多分、そうやっておっぱいのこと知った風な顔してるあなたが思ってるよりこの柔らかさの幅は広い。その程度の認識でおっぱいの全てを悟ったような顔しないで欲しい。死んで欲しい。

とにかく、信じられないレベルの柔らかさから信じられないレベルの硬さまで、その範囲は絶大。これまでおっぱいを評価する基準は「大きさ」「形」「乳首の色および大きさ」が主だったものだったのですが、これは第四の基準、「柔らかさ」を導入する必要性に迫られています。

そう考えると素敵じゃないですか。大きいおっぱい、小さいおっぱいそれだけじゃないんです。大きくて柔らかいおっぱい、大きくて硬いおっぱい、小さくて柔らかいおっぱい、小さくて硬いおっぱい。その組み合わせは無限ですよ。おっぱいの織り成す無限のラビリンス、なんとも夢があると思いませんか。

ここで問題となるのが、柔らかさに確固たる基準がないという点です。「大きさ」これは言うまでもなくAカップBカップ、88センチ、90センチ、確固たる国際基準があります。「形」これもお椀型ですとか、たらちね型、ロケット型と様々、「乳首の色および大きさ」これだって真っ黒とかピンクとかカラーコードを使うとか様々ですし、大きさもマキシシングルくらい、とか言うことができます。けれども、やわらかさはなかなか表現しにくい。

マシュマロみたい、っていわれてなんとなく分かりますけど分かりません。意味わからないけどそんな表現は絶対に認めない。じゃあどうするか。こりゃもう、確固たるぐうの音も出ない柔らかさの基準を用意してあげればいいんです。

「ブリネル硬さ(Brinell hardness)」

こんな言葉を聞いたことがあるでしょうか。たぶん極一部の人を除いてないと思います。これは主に工業材料の硬さを表す尺度として用いられます。記号はHB。

直径Dの金属球を材料にPの力で一定時間押し当てた後に、あとに残ったくぼみの面積Sから硬さを表す方法で

の式で表されます。早い話、ある力をかけ続けたら柔らかい物体ほどその痕が残りますね、っていうやつです。どうです、もういい頃合いです、いい加減にこのブリネル硬さを使っておっぱいの硬さを表現するようにしませんか。

「わたしのおっぱいFカップよ」こういった話は巷で良く耳にします。それに対して肝心の柔らかさは「私のおっぱい柔らかいわよ」程度の硬いか柔らかかの二択のみ。大きさはABCDEFと天文学的バリエーションがあるのに、これはちょっとあんまりじゃないですか。

「わたしのおっぱいCカップで450HB(ブリネル硬さ)よ」

これでもう、どんなおっぱいを有する選手なのか8割方はわかります。そこそこの大きさでかなり硬い。どうです。これ、導入しましょう。

まあ、実際のブリネル硬さは直径1センチ程度の鋼の球を使って3トンくらいの荷重をかけ続けるのですが、一般女性の家に鋼の球があるとはおもえませんし、おっぱいに3トンの荷重をかけてしまうと、アバラまで突き破ってしまいブリネル硬さどころの騒ぎじゃないです。あくまでもこれらは材料の硬さを測るものですから、おっぱいに特化したやり方が必要になります。それも、あまり特殊な道具を使わない手軽な方法で。そこで提案します。

「チチネル硬さHO (Oppai hardness)」

1.上着を脱ぎます
2.おっぱいを出します
3.100円玉をおっぱいに押し付けます
4.5分待ちます
5.100円玉を離します
6.おっぱいに残った跡をカメラ付き携帯電話もしくはデジカメで撮影
7.跡の面積を測定します。

これでなんとチチネル硬さが測定可能。ただまあ、みなさんは素人なんで、ちょっと7番の跡の面積測定ってやつが上手に出来ないと思うんですね。そ・こ・で、今日は女性の皆さまにお得な提案があります。今日だけですよ。

チチネル硬さの測定において長年の定評がある当Numeriで測定の部分を代行いたします。当社におまかせください。今ならなんと無料でサービス!

乳の硬さに悩む女性のみなさん、上記の方法の6番までを実施してください。そしてその画像をpato@numeri.jpまで送付してください。その際に以下の注意点をお守りください。

1.データーを取ります、年齢等あなたの諸データーを添えてください
2.跡の面積測定に比較対象が必要です。乳首が写るようにしてください
3.未成年の方は絶対に送ってこないでください。個人的には24歳くらいがベストです
4.男性がパイ毛いっぱいの写真を送ってくることが予想されますが、決してそのようなアフロ目玉おやじみたいな画像はいりません。

ある程度データーがたまったら統計的に分析して発表したいと思います。正直に言うと、長々と書いてきたことは全然関係なくて、データー収集にかこつけておっぱいが見たいだけです。お願いします。

pato@numeri.jp(←クリックするだけで送れます。決して手間はかかりません)


5/17 Cursive Writing

「肩が分からない」

職場の事務用パソコンに向かいながらただいま婚活真っ最中、生粋のジャニーズオタクで僕がキスマイなんとかっていうグループのことをキスマイアスって間違えたら狂ったように怒り出したお局様が、皆に聞こえる声で言い放った。

肩がわからない。僕らもその言葉の意味が分からない。肩が凝った、肩が痛い、肩がなくなった、肩を壊したので渡米して手術する今シーズンは絶望、そんなセリフだったら僕らも理解できるしそれなりに対応できるのだけど、いくらなんでも「肩が分からない」は本当にわからない。婚活のし過ぎでいよいよ狂うたか、と職場の誰もが思いました。

うわー、お局が狂うと大変だぞーとか思いながら彼女の方を見ると、隣のフレッシュマンに何やら言い寄ってました。業務命令よ、私を抱きなさい、とか言ってるのかと思ったらそうではなく、どうやら紙に漢字を書いてもらっている様子。なるほどと思いました。

パソコンの発達により、特にオフィスシーンでは文書をパソコンでタイプすることが当たり前で、それと同時に私生活でも多くの場面でパソコンでタイプするようになりました。また、電子メールや携帯メールのように紙媒体を介さずに完結する伝達手段も各段に増えてきました。

それは言い換えると、紙媒体に自分の手で文字を書く事が少なくなったということであり、これは漢字は読めるけど書けない、という現象を引き起こすことになる。実はこれは最近では結構な問題になっている。

お局様もどういった理由で手書きの「肩」を書かなければいけないのか分からないけれども、いざ書こうとしたら書けず、なんとなくの形はわかるのだけど正確な形がわからない。漢字の形なんて真剣に考えれば考えるほどさらに混乱してしまうもので、もうどうしていいのか分からなくなったのだと思う。そしてあの発言だった。よかったお局が狂ったわけではなかった。

こうやってこの最近の日本では漢字を読めるのに書けない人が増え続けているらしいのだが、実はこの現象、日本に限ったことではない。アメリカなどでは、あの筆記体と呼ばれるミミズが這ったような文字表記に同じことが起こっているらしい。

もともとアメリカなどでは筆記体は学校で教えたりするけどそうそう使うものではなく、地域によってまちまちだけど大体はサインの時なんかに使う程度だったらしい。こんな使わないものをなんで教えるんだ、とかライフルを手入れしながら言っているんだと思う。

そして、同じようにパソコン文化が発達すると筆記体を書く人は激減した。さすがに漢字のように複雑ではないので書けないという人はいないとは思ううのだけど、いつかは廃れゆく、そんな運命なのかもしれない。

僕らも例に漏れず、中学くらいで英語を習った時に、こういう表記もあるという感じで筆記体を習った。なんだかカッコイイ流れようなフォルムに、普通のアルファベットを崩したような暗号めいた何かに言い知れぬワクワク感を感じていた。

そして英語教師の一言。「アメリカ人はみんなこの筆記体だから」これが決定打だった。今思うとこれは間違いなのだけど、中学生だった僕らにとってこれは衝撃だった。筆記体こそが本物の英語、その認識はまだまだ青臭かった僕らの心を鷲掴みにして離さなかった。

例えば、野球においてプロ野球チーム同士の試合と普通の小学生チーム同士の試合で異なったルールで戦っていたらどうだろうか。プロが4ストライクまでOKで小学生が3ストライクで三振。たぶんそうなると三振が偽物で四振ルールこそが真の野球である、となるだろう、それだけトップの連中がやっていることってのは下層にとって本物となりうるのだ。

それと同じで、英語を学習している僕らにとってアメリカ人は英語のトップ層だ。そいつらが筆記体を使っているならば僕らも筆記体を使わねばならない。誰が言うでもなくそんな機運が高まった。それこそ、筆記体以外の英語は英語じゃない、くらいの気概で臨んでいた。

田舎で育った純情な僕ら中学生にとって筆記体は格好良かった。すぐに爆発的にクラス中に広がり、持ち物に名前を書く時とか、ちょっとしたメモをする時、あらゆる場面で筆記体が使われるようになった。

しまいには女子が授業中に回す手紙、あのテクニカルに折り畳まれた手紙なんかにも筆記体が使われた。わざわざローマ字に直して書いていたので、まあ、たぶん結構なアホだったんだと思う。

そんな折、クラスで一番馬鹿だった坂田くんが画期的な発明を生み出でそしてピュアだった。その切れることのない一途な思いは言うなれば心の筆記体、挑戦の筆記体。

そしてついに彼の筆記体が注目を浴びる日がやってきた。そう、テスト返却の日。全教科次々と0点で返却されてくる。「読めません!」赤ボールペンで殴り書きされた教師の文字、用紙が破れそうなほどに強い筆圧で書かれていた。

全ての教科で前に呼ばれ怒られる坂田くん、その全てに「新しく開発した日本語の筆記体です」と反論しては怒られていた。ちょっと解答用紙を見せてもらったんだけど、数学の「x」まで「エックス」と独自の筆記体で書かれていて笑った。いや、そこは普通に英語の筆記体のxでいいじゃない。

最後の教科はクラス担任の教科だったんだけど、普通にビンタされてて、坂田くん、いつも鼻水だしてるもんだから華麗に鼻水が飛んでいた。捕れたてのサバみたいにプルプルと空中を鼻水が舞っていた。その軌跡はまるで筆記体のようで、坂田くんが提案した「し」の字に似ていた。

なんだか、職場の婚活ババアのことを、ヒステリックなババアのことを、ジャニーズの大ファンで、僕が「Kiss-My-Asshole2ですっけ?」って言ったら覇王のように怒り狂ったお局さんを見ていたら、そんな坂田くんの筆記体を思い出してしまった。

「肩が分からない」

お局さんがそう言い出した時はついに狂ったかと肝を冷やしたけど、ただ単に書く機会が少なくなって漢字を忘れただけだと分かって安心した。よかった狂ったお局さんなんていなかったんだ。

安心しつつも、こんな状態が続けば筆記体が廃れたように手で書く日本語も廃れていくのかもしれないと心配しつつ、そもそも何でお局さんは肩って字を書く必要があったんだろう?と紙を覗いてみると

「肩甲骨」

って書いていた。何のために書いたのかわからない。しかも1回ではなくくり返し書いていて

「肩甲骨肩甲骨肩甲骨肩甲骨肩甲骨肩甲骨」

みたいになってた。ああ、やっぱり狂っていたんだ。最後の方は面倒になったのか、肩甲骨が繋がるように筆記体ぽく書いており、あの日見た坂田くんの筆記体に似ていた。あの日の彼の一途な思いは全然関係ないお局さんになぜか受け継がれていた。それは筆記体のような連綿と連なる奇跡の軌跡だった。


5/16 銀色の銃弾

いま、座薬が熱い!

主に僕の中でなんですけど、空前の座薬ブームが到来しています。なんてことはない、単純に痔が酷く、このままでは体内の血液が全部痔によって放出されるのではないかという不安感、毎日が血抜き麻雀という恐怖、それらに打ち勝てなくなったので、座薬の使用を決意するに至ったのです。

まあ、座薬って初めての経験ではないですし、今回の痔においても主に病院で何度かお世話になりましたから別にどうってことはないんですけど、なんというか、今までの座薬は誰かに言われての仕方なしの座薬、義務の座薬、言うなれば受身。こうやって自発的に座薬に手を伸ばすのは初めての経験なのです。積極的座薬。

で、今僕の中で完全に座薬ブームが来ているのですが、座薬を取り出してみてみますとね、もうその形状がカッコイイ。完全に計算尽くされた弾丸のようなフォルム。きっと、これはアナルを切り裂くシルバーブレットとしてデザインされたに違いありません。もう完全に座薬ブームで、座薬を眺めながらウットリといった状況。

それだけで済むならいいのですが、やはり座薬コレクターには座薬コレクターなりのポリシーというかモットーがあるじゃないですか。ウットリだけでは終わらない。

スニーカーコレクターといってレアなエアジョーダンとかのスニーカーを集めている人に言わせると、レアなスニーカーをショーケースに入れて眺めてるような人間はコレクター失格、らしいです。本物は使用された時のスニーカーが最も美しいとしっていますから、適度に使用するそうなのです。

それと同じで、いくらこの座薬というかシルバーブレット、どちらも字面的に座薬の美しさを表現していないのでSilver Bulletと呼びたい勢いなのですが、そのSilver Bulletがどんなに素敵であろうとも、それは本質ではないのです。アナルに入れて溶け始めて薬効を発揮し出してこそ座薬であり、もっとも美しいのです。

ということで、毎朝職場でSilver Bulletをぶっ刺してるんですが、ここである発見をしちゃったんですね。誰もいないオフィスで下半身裸になって椅子の上に四つん這いになってSilver Bulletを入れるんですけど、急いで入れないとSilver Bulletが溶け出してきちゃうんです。

僕のアナルってすごいウンコ我慢とかで鍛えられているみたいで、キュッと締まってて、もうホモの人とかみたらゴクリってなるような素晴らしいアナルなんですけど、それってSilver Bullet的にはあまり好ましくないじゃないですか。ぶっ刺そうと頑張ってると、アナルから伝わってくる体温でSilver Bulletが溶け出してきちゃうんです。

そんなことしていたら治る痔も治らないですからなんとか手早く入れようとするんですけど、あれって難しいんですよ。アナルは設計上、中から出すことのみに特化してますから、そとから何かを入れる構造にはなっていない。

この辺のニュアンスが伝わるか大変不安なんですが、ただ押し込んでるだけではなかなか入らない。Silver Bulletと一緒にアナルがちょっと体内に押し込まれるだけで入らないんですよ。それより、まさにアナルを切り裂くといったイメージで、先端をちょっと侵入させてシュワって感じで入れるとかなりスムーズなんです。

けれども、最初の頃はそれが分かんなくてですね、一生懸命Silver Bulletをアナルにあてがって押し込んでいたんです。当然、アナルを切り裂けるはずもなくSilver Bulletとアナルがググッと押し込まれるのみ。それでもちょっと入ったかなって段になって、明らかに鉄壁なアナルの守備力が発揮され始めるんです。

こりゃアカン。そう思ってちょっと角度を変えようと一旦、Silver Bulletから手を離した瞬間ですよ。コロンコロン、とね、アナルによって押し出されたSilver Bulletが飛んで行き、オフィスの床を転がっていったんです。コロコロと転がっていったのです。

まさか…座薬はアナルの力で飛ぶ!?

そうなればまさにSilver Bulletです。銀色の銃弾ですよ。アナルの弾力で飛ぶ座薬、なんともロマンのある話じゃないですか。もう、定年退職したおじさんが退職金をつぎ込んで、嫁に呆れられながらも組み立てる鉄道ジオラマくらいのロマンがありますよ、これは。

アイザック・ニュートンは木から落ちるリンゴを見てインスピレーションが閃き、万有引力に辿りついた。彼が成し得た功績は今さら語るまでもない。それと同じで、僕は飛んでいく座薬をみてアナルの持つ無限の可能性に気がついてしまったのだ。

早速、様々な角度からどうすれば飛距離が伸びるのか検討を始めましたよ。チュンチュンと雀の鳴く声が聞こえる早朝のオフィス、紙に図を描き、最適な発射角度からアナルがその角度になるために必要な姿勢の計算。様々な要素を検討した結果、椅子の上で孔雀のように脚を上に広げてパカァとアナル丸出しにして、すこし尻を突き出す感じにすると最適な角度になることを発見。

おまけにこの体勢になるとアナルに適度な弾力が付加される。これで最高の飛距離が出るはずだ。と思ったところで気がついたんです。幅跳びにしても槍投げにしても飛距離を競う競技はみんな助走をつけている。いうまでもなく助走をつけたほうが飛距離が伸びるからだ。

座薬飛ばしにも助走が必要なのではないか?

確かに普通に飛ばすだけでもある程度の飛距離が出せるほど僕のアナルは弾力がある。けれども、それは所詮は国内レベル。世界を舞台に戦うにはそれだけでは絶対に足りない。欧米にはもっと化け物みたいなアナルを持った、カタパルトみたいな構造のアナルを持ったヤツが存在するに決まってる。まだ見ぬ強敵ってやつが。

問題は、このアナル丸出しの状態でどうやって助走をつけるかってところなのですが、普通に考えて、素人撮りのラブホテル映像が流出した時のご開帳みたいな体勢になってますから物理的に走ることは不可能。どうするものかと悩みながらも、まだ見ぬ世界の強豪たちが僕のことを嘲笑っている妄想が頭の中を駆け巡ります。

「ジャップはアナルも弱いな!」

アメリカ代表、シャウエッセン(黒人)が尻の筋肉を自在に使って地面を走り、ものすごい助走でスウィングバイした座薬が壁にめり込む。それは日本にとって二度目の敗戦だった。

「クソッ!」

あまりの悔しさにアナル丸出しの状態で椅子を蹴る。椅子はスーッと滑っていき、壁にぶつかって倒れた。それは朝のオフィスにはあまりにも大きすぎる騒音だった。

「これだ!」

蹴られた椅子は壁まで滑った。それは椅子の足に滑車がついているからだ。これは助走に使えるんじゃないだろうか。思い立った瞬間、既に椅子の上でアナル丸出しのご開帳ポーズでスタンバイ。壁際に陣取って右手は座薬をアナルに押さえつけ、左手を壁につける。そして意を決して左手で思いっきり突っ張る。

ものすごい憩いで滑る椅子。アナル丸出し状態でオフィス内を駆ける。初めて受ける風の感触にアナルは戸惑っているかもしれない。ゴーッという音が響き渡る。今だ、今しかない。座薬を抑えていた右手を話し、アナルの力で座薬を飛ばす。

それは銀色に輝く銃弾のようでもあり、虹のようでもあった。勢い良く飛び出した銀色の銃弾は、少しだけ放物線を描きながら真っ直ぐと飛んでいった。世界へと挑戦する夢の架け橋。これにはシャウエッセンも驚くしかない。

「3m42cm」

興奮冷めやらぬ状況でメジャーで飛距離を測定する。これはもうしかしたら座薬飛ばしの世界記録かもしれない。

「コツさえつかめば4m台もいけるな」

「なにがですか?」

いつの間にか同僚が出勤してきていた。危ない。あと5分早く来られたら死んでいた。興奮したまま下半身丸出しで飛距離測定をしていたら死んでいた。とにかく助かった。心臓が止まるかと思った。

「なんでもないよ」

そう答えたのはいいものの、床に転がった座薬を拾うわけにもいかず、一日中オフィスの片隅に座薬が転がっていた。もう本当に針のむしろとはこのことで、時間が経過すればするほど一緒に仕事している同僚たちの手前、今更拾うわけにはいかず、うおー、あんなところに座薬がーとか思いながら仕事してた。

誰かが「なにこれー」とか行って拾い上げて、見たらウンコと血がちょっとついてて、銃弾のような形をしていて、なんだろうって大騒ぎになったらどうしよう、とか考えながら仕事してたら、興奮でどうにかなりそうだった。次は是非4m越えを狙っていきたい。

ちなみに、1日座薬をいれなかったので痔が悪化したらしく、帰ってから入れたら、すげえ患部が熱を持っていて痛かった。いま、座薬が熱い。痛いくらいに。


5/15 家庭教師は見た

さてさて今日は私が家庭教師をしていた時のお話でもしましょうか。また思い出系の話題で申し訳ないのですが、家庭教師先でのエピソードについて紹介してみようかと思います。ホノボノした家庭で起こった心温まる家庭教師ストーリーです。

中学三年生の女の子に教えたときのこと、僕が唯一教えた婦女子なのですが、ココの家庭は非常にホノボノとしていました。優しそうなお父さんとお母さん、娘さんだって素直ないい娘で、毎週教えに行くのが楽しみなぐらいでした。しかし、悲劇とは突然やってくるものなのです。

ある日のこと、とんでもない大雪がわが町を襲いました。深夜から雪は降り続き、朝にはビックリするほど雪が積もっていました。交通機関は麻痺し、テレビでは様々な被害状況を報じていました。ちょうどその日は家庭教師の日だったのですが、この大雪です。行ける筈がありません。

普通の人ならそう思うところでしょう。やはりその女の子も「今日は家庭教師が来る日だけど、大雪で来れないだろう」 などと考えたらしく、降って沸いた休日に大喜びし母親とショッピングに出かけてしまったそうです。彼女の家は商店街やデパートの近くにあったため、 大雪でもショッピングには出かけることができたようです。家では仕事が休みだった父親だけが留守番をしていました。

やはり大雪です。行くのは面倒くさい。休みにしてしまいたい。僕もそう考えたのですが、変にプロ意識旺盛だったため、「大雪如きで休んでいたら家庭教師の名が廃る! ここは這ってでも行かねば! 」などと激しく見当違いな考えの元、まさしく這っていくように教え子の家へと赴きました。

さあ、これに驚いたのはお父さん。来ないだろうとタカをくくっていた家庭教師が来てしまった。突然の家庭教師の急襲に驚きを隠せない。僕が普段行くときは、お父さんはダンディーな週末パパみたいなファッションを しているのですが、今日は家庭教師が来ない。楽な服装でいいや、などと思ったらしくラクダのモモヒキみたいな服を着ていました。

フランクな自分のくつろぎスタイルを見られたお父さんは狼狽していました。自分の無様な格好は見られるわ、 狼狽してるとこを見られるわ、家庭教師の主役とも言える娘はいないわ、いつも家庭のことはまかせっきりの妻はいないわ、と瞬く間にパニック状態に。 しかし、寒い中いつまでも僕を玄関先には立たせておけません。 とりあえず上がってもらうしかないでしょう。

普段は直で娘の部屋に行って、勉強開始となるのですが、娘がいない今はそうはいかない。 とりあえず僕はリビングに通されました。

「娘達はもう少ししたら帰ってくると思うので、テレビでも観て待っててくだ さい」

とお父さんは丁寧に言ってくれた。雪の中、娘の勉強のために来てくれた僕に不快な思いをさせてはいけない、丁重にもてなさなければ・・・・。 お父さんはそう思ったに違いない。 なんていい人なんだろう。

さて、テレビを観て娘達の帰りを待っている僕を尻目に、お父さんはキッチンでテンテコ舞いでした。僕にお茶とお茶菓子を出さねばならないのです。 しかし、台所のことは妻に任せっきりのため、 どこに何があるのかも分からない状態。 お茶を出さないわけにはいかないし・・・・。 うろたえるお父さんの姿に人柄の良さが伺えます。僕も気を使って 「いいですよ、おかまいなく」 というのですが、 「そういうわけにはいきません!」 とお父さんは一生懸命なんです。

30分ぐらいして、やっとこさコーヒーが出てきました。お父さんの苦労と涙の結晶ですよ。台所のことは妻に任せっきり、自分一人ではコーヒー入れるのも一苦労だ。 お父さんは妻のありがたみを噛み締めていることでしょう。

「あ、お茶菓子も出さなきゃ」

そういってお父さんはまた台所のほうに消えて行きました。 お茶の次はお茶菓子。お父さんも大変です。 しかしお父さん、お茶菓子のありかまではどうしてもわからない。あちこち引出しとか開けてみるのですが、一向に発見できない様子。

僕は甘いものはあんまり好きではないので、別にお菓子はいいのに・・・・。 なんて思いながらテレビを見てました。

すると、奥のほうから 「あった!」 という歓喜の声が。 どうやらお茶菓子が見つかったようです。 お父さんは、そそくさと発見したお菓子を小さなカゴみたいな入れ物に移し変えていました。 そして発見したお茶菓子を手に、リビングに登場です。

やっと出すべきものを出して、お父さんは一安心です。 僕とお父さんは二人でテレビを見ながら、お茶を飲みました。 いい人だなー、僕のために不慣れなこと一生懸命やってくれて、こういうお父 さんが理想だなー。娘に対しても妻に対しても優しく良き父親に違いない、ウチの親父と交換してもらいたいくらいだぜ、まったく などと想いを馳せていました。

そして、お父さんが一生懸命探してくれた菓子でも頂きましょうかねーと思い菓子カゴに目をやりました。ほら、高級菓子ってあるじゃないですか、仰々しい箱に入った高そうなやつで 中身も、ミニケーキみたいな菓子が一個一個袋に入ってるような感じの。お父さんが持ってきた菓子もそんなカンジの菓子に見えたんですよ。そんなカンジのビニールっぽい袋が何個も籠の上に並んでいたからさ。やったね高級菓子だぜ!などと思いまして、ちょっと食べてみようと思い、手にとりました。そのお菓子を見て僕は腰が抜けるほど驚愕したのです。

手にとったお菓子の小さな袋には

「ロリエ」

と書いているではありませんか! そう、間違いなく生理用ナプキンなんです。 うーむ、確かに高級菓子に見えないこともない。でもフツー気がつくだろ!!あんたはそんな涼しい顔して客人にロリエを出すのかい? などと突っ込みどころ満載なのですが、

もしかして・・・・これはワザとやってるのでは・・・。僕に対する手の込んだセクシャルハラスメントかもしれない・・・。様々な想いが頭の中を駆け巡ります。もはや気が気ではない状態ですよ。そんな僕の狼狽ぶりを見て、お父さんもやっとこさ自分の犯した過ちに気づいたようでした。

そう、自分の出したものは茶菓子ではなく、娘か妻の生理用品であることに気づいたのです。 しかし、いまさら引っ込めるわけにはいかない。 お父さん的には気づかなかった振りしてやり過ごす作戦にでたのでしょう。そしらぬ顔でテレビを見はじめました。

必死にクールガイを装う彼だが、やはり狼狽ぶりは隠せない。こうして僕とお父さんは、山盛りの生理用品を前にしてパニックになりながら、お互いに冷静を装いつつコーヒーを飲むのでした。

そこへ娘と母親が帰宅。山盛りのロリエを前に茶を飲む父と家庭教師。物凄い変態に映ったことでしょう。中学生の女の子といえば多感な時期です。そういった用品を他人である先生に見られるのも嫌だったのでしょう。もう娘は泣いちゃって泣いちゃって、ヒステリーおこしちゃって、妻は妻で、父親に向かって怒り狂っているし、「ごめんヨ、ごめんヨ」 と父はただただ謝るばかりでした。せっかく大雪の中来たのに、この日は勉強するどころではありませんでした。

幸せな家庭をいとも簡単に恐怖のズンドコに追いやるロリエ・・・。 恐ろしいものです。 僕は今でもロリエを見るたびにこの時の事件を思い出します。そしてあの一家が今でも仲良く幸せに暖かい家庭を営んでいるのを願って止みません。

雪の日の心温まるハートフルストーリーでした。

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出だしを削れば絶対にバレないと思う。


5/14 お天道様

人間悪いことだけはするもんじゃない、そう思います。

とかく勝ち組だの負け組だのが持て囃され、やったもん勝ち、儲けたもん勝ちみたいな思想が根付いたのはいつ頃からでしょうか。少々不正があろうが誰かに迷惑をかけようが儲けた者勝ち、得をするべき、いつのまにかそうなってしまったように感じます。

別にそれが特段に悪いことだとは思いませんし、そういうのはよくない、と意見を押し付ける気はなく、ただただ寂しい世の中になったものだと嘆くばかりです。

「お天道様が見ている」

昔の人はよく言ったもので、悪いことをしていて誰も見ていない、目撃者もいない状態でもきっとお天道様が見ている。だから悪いことなんてするもんじゃないよ。昔の人はそうやって子供たちを戒めた。

実はこれは非常によく出来た言葉で、お天道様とは太陽のことだ。燦々と輝く太陽は善の象徴であるし、いつだって僕らの頭上に君臨している。あんな巨大で絶対的なものが見ているのなら悪いことは出来ない、太陽信仰にはじまり、これまでずっと脈々と受け継がれてきた古の日本人の思考を象徴しているかのようだ。

反面、悪事は闇のイメージが強い。悪い相談なんかを太陽が眩しい灼熱のビーチでやるイメージはそんなにない。常に悪事は闇で、太陽の目が届かない暗闇で行うのだ。泥棒だって、太陽のいない夜中に来るイメージだ。

けれども実際には、昼間だろうが、ビーチだろうがゴルフリゾートだろうが、どんなに太陽が見ていても悪い企みはされるだろうし、夜中に泥棒するより留守になる昼間を狙った空き巣の方が多いだろう。絶対的で不思議な力を持つ太陽の象徴性が薄れていくに従って関係なく悪事が働かれるようになった。

おそらく、今時の子供に「悪いことをするとお天道様が見てるよ」と言ったところで、「お天道様、太陽のことですな。銀河系の恒星の一つで地球が属する太陽系の中心。核融合反応があの莫大なエネルギーの源となっている。ふむ、残念がら地球を視認するような要素はありませんな。よって、それは迷信です」とかパソコンで株取引しながら言われるにきまっている。

けれどもね、僕は思うんですよ。昔の人が「お日様」でもなく「太陽」でもなく「お天道様」という言葉を使ったのか。太陽信仰というか太陽崇拝において「お天道様」という言葉を使うんですけど、つまり、物理的な存在としての、天体としての存在の太陽ではなく、神としての太陽の存在を意識させたく、お天道様という言葉を使ったのだと思うんです。

で、それがどこにあるのかというと、心の中なわけで、結局、どんなに悪いことをしていて誰も見ていなくて、太陽も出ていなくても絶対に一人だけ見ている人がいる。それは自分なんだ、ということなんですよ。

僕の職場には外国からの研修生が来ていて、以前にも日本語が全くしゃべれないマレー君の話を書いたことがり、みなさんの記憶にも新しいと思うのですが、最近、新たにもっと日本語を喋れない外国人研修生の方を面倒見るようにいわれたんですね。

もう意思疎通ができなくてどこの国から来たのかも分からないレベルでその方の面倒を見ていたんですけど、実は仕事内容の意思疎通なんてのはそんなにする必要なくて、少なくとも言語で意思疎通する必要はないんですよ。絵とか身振り手振り、共通に保有している専門知識でなんとかなる。

けれどもね、せっかく朝から晩まで一緒に仕事していて、全く仕事内容以外のコミュニケーションを取れないって寂しいじゃないですか。だからちょっと日本語を教えようと思って、ずっと「性交」っていう日本語だけを教え続けていたんです。

ずっと三週間くらい仕事の話題以外は「成功とはセックスのことで」とだけ教えていたら、最初は怪訝な顔していた彼も、僕が「性交」と言うと「セックスね」と歯をニカッとさせながら答えてくれるようになったわけなんですよ。

でもね、僕がそんな性交についてしつこいくらいに教えてるって誰も知らないわけじゃないですか。二人っきりで仕事してますから、この悪事を誰も見ていない。絶対にバレるはずがないんですけど、お天道様が、他でもない僕が見ているんです。結局、こんな悪事に手を染めているとロクなことがない。

いよいよその外人の研修期間も終わり、お偉い人同席の中でお別れ会みたいなものが開催されたんです。マレー君の時はこの挨拶の時に僕の教えた嘘の日本語使われて大変な騒ぎになったのですが、今回はそれを警戒して挨拶関係は教えていません。しかも嘘を教えていない、「性交」はセックスのこと、大丈夫、きっと大丈夫と安心して見ていました。

そして会は進み、いよいよ職場の一番偉い人から研修生に記念品が贈呈されました。このウチの職場で一番偉い人、いつもこういった場面でそこそこいい値段の時計をプレゼントすることで有名で、その時計をプレゼントしてからの挨拶というかウンチクというか説教というか、

「時は金なりと申しまして…」

から始まるクソ長い話がもうウンザリ。みんな「また時計か」とウンザリとした空気が漂うんですが、当の一番偉い人だけは

「なにかなー、なにかなー」

とミステリアスさを演出してウキウキ。全員が「どうせ時計やないか」と見守る中、ガサガサと研修生が包みを開けます。そこには銀色に輝く高級風味の腕時計が。ワオ!みたいな感じで喜ぶ研修生。きっと、日本の時計は精密で正確で喜ばれるんでしょうね。そして偉い人の定型の話が始まります。

「時は金なりと申しまして…」

その時ですよ。その横でマジマジと貰ったばかりの腕時計を眺めていた研修生。どうやらその時計に「SEIKO」って書いてあったみたいで、「せいこー?ああ、セックスね」とか言い出しやがるんですよ。もう偉い人の話も止まっちゃってね、あとはお察しですわ。

結局、どんなに上手に悪いことをしたってお天道様と言う名の自分が見ているんです。そしてその時は悪事が明るみに出なかったとしても、巡り巡って必ず停滞しっぺ返しがあるものなのです。悪いことは成功しない。おお、セックスね。


5/13 パワーホールは響かない

冷静に考えたら君たちはおかしい。そりゃ、わざわざワールドワイドウェッブを使って高尚な読み物を読むでなく、誰かと熱い議論を交わすでもなく、郷里のお母さんに無事を知らせるEメールを書くでもなく、こんな35歳おっさんの日記を読んでいるのですからお里が知れるってものなのですが、冗談でもなんでもなく、もっと本気で受け止めるべきだと思う。自分はおかしいんだと。

「ヌメリナイト」と呼ばれる、35歳のおっさん、それもデブが出てきて壇上でパワーポイントで訳の分からない絵を出しながら延々と喋っている意味不明なトークイベントがあるんですけど、その人里離れた悪魔信仰のはびこる集落で行われる怪しげな儀式よりも怪しげなイベントに、結構な額のお金を出して、結構な数の人が集まるっていうんですから、これがもう冷静に考える間もなく頭おかしい。

それだけに留まらず、なぜかイベント終了後には「サインください」みたいな状態になっちゃうんだけど、ちょっと待ってほしい。とにかく冷静になって思い返してみてほしい。本当にこんなオッサンのサインが欲しいのか、その少し足りない頭で考えてみて欲しい。よくよく考えなくても絶対にいらないはずだ。いっとくけど、ウチの職場に僕のサイン欲しがるやつなんて、借金の保証人にしてやろうと企んでるヤツくらいしかいないよ。

でまあ、なんかサインを求める人で長蛇の列になっちゃってましてね、たぶん、人がもらってたら自分も欲しくなるみたいな、一種の集団ヒステリーみたいなものだと思うんですけど、結構な人数になっちゃってサインの時間が長くなっちゃうんですよね。もう会場のスタッフの人がなかなか終わらなくてヤキモキするくらいに長蛇の列。

絶対に頭おかしい。こんなのもらってどうすんの?とか言いながらサインしていくんですけど、その時にですね、何やらプレゼントを貰うことが多々あるんですよ。特に女の子はすごく気を使ってくれていてですね、トークイベント自体来場者の半数くらいが女性で驚くんですけど、次々とちょっとしたプレゼントをくれるんですよ。

「patoさん、よかったらこれもらってくれませんか?」

それこそ、ファンシーでカワイイ小物ですとか、携帯電話のケースですとか、和菓子ですとか手作りのお菓子ですとか、とにかくカワイイ女の子が多いんですけど、くれるものまでカワイイ。プレゼントからちょっと良い香りがするもんな。こういった小物のプレゼントうれしいけど、おっぱいもませてくれたほうが4倍くらい嬉しい、なんて口が裂けてもいえないっすよ。

とにかく、こういった女性の方からの気遣いのプレゼントは本当に心洗われる感じで、イベントで消耗しきっている35歳オッサンを存分に癒してくれるんです。それに引き換え、男ですよ、男。どいつもこいつも喉仏出しやがりやがって言うわけよ。

「patoさん、これ、フヒヒヒヒ」

ってまるでチンコに毛が生えた時みたいな笑顔で低い声しやがってですね、出してくるのはたいていエロい何かですよ。エロDVD、エロ本(快楽天ビースト)、お姉さんが使った下着、とにかくエロい男性が多いんですけど、くれるものまでエロい。プレゼントからちょっとイカ臭い香りするもんな。こういうエロいプレゼント嬉しいけど、ちょっとなんか違うんじゃないかな、そう思うんです。

とにかく、こういった男性の方からの気違いのプレゼントは本当に心がドロドロに汚れていく感じで、イベントで消耗しきっている35歳オッサンのライフを十分に奪っていくのですが、その中でも特にすごいのが、オナホールをプレゼントしてくれる男性です。

オナホールってのが何なのかよく分からない女性の方に説明しますけど、まあ、プレスチックの筒があってですね、真ん中がくりぬかれてるんですわ。で、その穴は女性器の内部を模した感じになっていてですね、ローション垂らしてヌルッヌルッにしてからそこに男性器を突っ込み、ワンステージ上のオナニーを演出しよう、そんな道具です。

で、このオナホールなんですけど、これをプレゼントしてくれる男性が結構いまして、一回のイベントで5本くらい手に入れたりするんですけど、こうやってオナホールをプレゼントしてくれる男性、どいつもこいつも「してやってり」って顔してやがるんです。他のエログッズをプレゼントしてくれる人は申し訳なさそうだったり、ちょっと照れくさそうな感じだったり、それなりの表情なんですけど、オナホールを持ってきた人だけ誇らしげな、まるで戦国時代に敵兵を5人くらい討ち取って帰ってきた人みたいな顔してるんですわ。いやいや、頭おかしい。

そういうオナホールをいただけるのは本当にありがたいですし、嬉しいんですけど、ちょっと冷静になって考えてください。本当にそれで良いのか、考えてみてください。それは初対面の人に渡すものなのか。

例えばですよ、もう僕よりずっと上の存在で比べるのもおかしいのですが、比べないとお話にならないので比べますけど、アイドルや声優さんなどの女の子のトークショートとかサイン会に行ったと思いなさい。初対面の女の子、プレゼントとか渡しますよね、いろいろと声優さんのこととか考えてブヒヒヒとか言いながらもプレゼントもって行きますよね。

そこでヌメリナイトに持っていくノリでバイブでも出して御覧なさい。イボイボつきの凶悪なやつで、FFの最後のほうに手に入る武器みたいな形状していて、往年のiMacのようにライム色のスケルトンのやつとか出して御覧なさい。出した瞬間に会場のそとに連れ出されるから。

とにかく、こんなクソなオッサンのトークライブにきていただけるだけでもありがたのですが、その上、プレゼントまでいただいてしまって大変申し訳なく思うのですが、それでもオナホールをくれる人だけは頭おかしいと言わざるを得ない。とにかく狂ってるんじゃないか、そう言いたい。

こんなこと書くと、おいおい、オナホールと言えども貰っておいてそんなこと書くなんて、patoのやつ感じ悪いんじゃない?と考えられる方が多数に上るかも知れませんが、それでも書かずにはいられない。本気で僕は怒ってるんですよ。

あのですね、やはり貰ったオナホールは礼儀としてすべて使用するじゃないですか。いかにこれはもうオナニーではない、セックスに酷似してやがる、セックスホールだ、これを使ってオナニーをするべきではない、という持論の持ち主の僕でも、せっかくあるんだから全部使いますよ。

オナホールの中ってたいていはヌルヌルさせるようにローションが付随しているんですけど、1回使いきりの量ですから少量で、醤油入れみたいな入れ物や、チューブの中にヌルッとした物が入ってて、それをオナホールの中に垂らしてチンコ突っ込むんですね。で、ほんと驚かないように心臓叩いてから聞いて欲しいんですけど、そのヌルヌルローションを瞬間接着剤にすりかえていたヤツがいましてね、もう大変、あやうく一生涯チンコからオナホールが離れなくなるところでしたよ。

しかも、TENGAなどに代表されるスタイリッシュなオナホールじゃなく、かなり猥褻な、女性器の形を模したヤツでしたから、抜けなくなって病院に行くことになったりしたらたぶん看護師さんが泣いちゃうくらい猥褻な絵図ですよ。局部に中国雑技団がついてるくらいの状態ですわ。

もうね、これは殺人未遂だと思うんですよ。ええ、下手したら殺人ですよ。チンコからオナホールが取れないって時点で人間として死んでますし、病院行ったとしてもその時点で社会的に死、チンコを切断とかになったらどうする気ですか!頭おかしいんじゃない。

ホント、何が狙いだったんだと憤るばかりなのですが、幸いにもオナホール内部の素材と皮膚との接着には向いてない素材の接着剤だったので命からがら助かりましたけど、4日間くらい洗っても洗っても取れない接着剤の膜がついてたんですよ。尿道ふさがってたら大変なことになるところでした。殺人未遂だということをもっと自覚して欲しい。

とにかく、今日言いたかったことは、プレゼントはありがたいです、でも、オナホールをプレゼントしてくれる人は頭おかしい。そして、オナホールに垂らしてる時に臭いでこれ瞬間接着剤じゃね?って気がついていたのに、ここに突っ込んだらどうなってしまうんだろう、すごいくっついて摩擦がすごく、とんでもなく気持ちいいかもしれない!という欲望に勝てず、危険と分かっていて突っ込んだ僕はもっと頭おかしい。


5/12 みぢかさとせつなさと

たまには短く日記書けないですか?そんな声にお答えして今日は精一杯手短に書いてみます。

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金環日食、5月21日にかけて太陽が月によって覆われる金環日食が全国各地で見られるようだ。月の方が大きく見えて太陽が隠れる日食を皆既日食、逆に太陽が月からはみ出す日食を金環日食というらしい。よくよく考えるとこれはすごいことだ。

いやいや、実にダイナミックな天体ショーで、それこそもう死ぬまでに二度と見れないのかもしれないけれど、僕がすごいと感じたのはそんな部分じゃない。本質はもっと別の場所にある。

いま、ふと日記の冒頭に書こうと思って「金環日食」の話を持ち出したわけだ。もちろん、このパソコンで「金環日食」とタイプするのは始めてだ。なにせ、金環日食が前回見られたのは25年前の1987年、それも沖縄の一部のみなのだから、ほとんど初めて遭遇する現象で、今までに絶対にタイプされていない。

にも関わらず、「きんかんにっしょく」と打ったところ、変換候補の一番上に「金環日食」が登場する。当たり前すぎて何も不思議に感じないかもしれませんが、もう一度冷静になって考えてください。これは凄まじいことですよ。

例えばこれが「露出狂」とかだったら、そりゃ女の子も露出狂に遭遇するでしょう、各中学校区に一人は配置されてるんじゃねえかってくらい女性は露出狂に遭遇してますし、男性だっていつ自分が露出狂になるのかわかったもんじゃありません。それだけ私生活に密接に絡んでいる「露出狂」、これが「ろしゅつきょう」から一発変換で出たとしても何ら問題はないのです。

ところが、「金環日食」はそうはいきません。いまでこそ、来るべき金環日食に備えて猫も杓子も僕も「金環日食」とタイプしていますが、普通に考えて天文学の専門家でない限り普通はタイプしないんですよ。それこそ前回が1987年で沖縄の一部、今回全国的そして次回が2030年で北海道の一部、こんな頻度で起こる現象がわざわざ変換候補として用意されているのが恐ろしい。もし今回、金環日食が起きなかったらそれこそ一生涯関わりのない単語なんです。それが準備されている、本当に恐ろしい。

そう考えると、いまこうやって目の前にあるパソコンってヤツは、どんなに死に物狂いでビジネスに使ったり、ガリガリに酷使したり、それこそハッカーレベルの用途に使っていたとしても全くその力を発揮しきれていないのです。

そして、ここからが本当に恐ろしいのですが。このパソコン、まあ今はこと漢字変換に関してのみについて述べますが、こいつが自我を持って成長するというか、使用する人間の人となりを学習し、まるで使用者のクローンのように成長していくのです。

現に、全然使うことのなかった「金環日食」ですが、今日の日記で何度も連呼しているうちに「きん」と打つだけで「金環日食」と変換候補にでるようになるのです。たぶんもっと連呼してたら「き」だけで出るんだと思います。これって便利ですよね。ええ、本当に便利で、良く使う語句がバリバリ変換されるようになる。それ自体はすごく良いことなんですけど、そこに強烈な落とし穴があるんです。

あれは昨日のことでしたね。僕もまあ、いくらチャランポランに見えてもいっぱしの社会人ですから、最近のビジネスマンよろしくでビジネスメールを書くことがあるんですよ。で、ここで不思議なのは、Numeriの日記ってすごく軽妙にサラサラと結構な長文を軽やかに書いて、まるで音楽を奏でるかのように「ウンコ」とか最近では「痔」の話題とか、すごい簡単にかけちゃうんです。

でもね、これがビジネスメールというか、仕事関係のメールになると途端に書けなくなる。わずか3行くらいのメールでもうんうん唸ってるし、5時までに書類を添付して送って欲しい的な内容を伝えるだけなのにすごい悩んで悩みぬいて、結局出だしがうまくいかなくて書けないんで電話で伝える、みたいな状態になるんですよね。

同僚とかでこれですから、上司とか偉い人とかに送るメールはもっと深刻で、とにかく全然書けない、それでも書かないわけにはいかないんで、それこそ一日仕事みたいなレベルで頑張るんですよね。

で、もう僕から見たら雲の上の人みたいな偉い人、たぶん実際に会って僕が気さくに話しかけようとしたら黒服に連れ出されるくらい偉い人にメールで会合の開始時間が11時からだってことを伝えようとメールを打っていたんですね。なんとか苦労しながら文章を作成していったんですけど、いよいよ開始時間を書く段になって

「開始時刻 11時」

って書いたんです。けれども、なんか味気ないでしょ、「11:00」のほうがいいかしらって悩んで、実際に

「開始時刻 11:00」

って書いたんですけど、それでもなにかしくりこない。そうだ、偉い人はむちゃくちゃ忙しい人だ。これでは絶対に11時に参加する必要性を感じてしまう。決して名前を口にしてはいけないあのお方は時間通りにこれないのに、これでは逆にその治国を責めるような形になってしまう

「開始時刻 11:00〜」

と改めた。すごい変だ。これじゃあ11時からずっとエンドレスで開始しているみたいだ。やはり消そう。

「開始時刻 11:00」

こうやってみると、数字が多すぎる。あのお方はお年を召したお方だ、あまり数字が多いと目がチカチカするかもしれない。ここは目に配慮して「11時」表記に戻そう。こんな感じで悩んでいるから進まないのですが、いよいよここでパソコンの恐ろしさを発揮ですよ。「:00」を消して「時」を入れようと「じ」って打ったんですけど、「11じ」の時は「11時」って出たんですけど、「じ」だけで打つと、このパソコンで痔関連の日記ばかり書いてるもんですから、学習機能を発揮し、

「開始時刻 11痔」

とんでもない状態に。意味が分からない。しかもあれだけネットリと熟考しながら書いていたのに、これをそのまま送信してしまうという愚考に。

いやね、別に誤変換くらいいいっすよ。それくらい人間だから間違えるわけですからいいですけど、問題はその間違い方で、「時」と「痔」間違えたんだな、それくらいは直感的に誰だってわかります。そして、よく打つ単語が間違って出るんだな、そうか彼は痔とよく打つのか、彼は痔か。ここまで2秒で連想されてしまうんです。

想像力豊かな人なら、じゃあなぜ痔に?アナルをよく使う、ホモか!くらいまでは連想しちゃうかもしれません。なにが悲しくて途方もなく偉い人に痔であることを告白しなきゃいけないのか分かりませんけど、悲劇はそれだけでは収まりません。なんと、このクソパソコン、この11痔、いわゆるイレブン痔で記憶の扉が開けられたのか「じ」は「痔」ちぃおぼえた、みたいな状態になりやがりましたね、以後の「じ」の変換の全てが痔。

「次回の開催ですが」

「痔会の開催ですが」

どんな会かも想像できないですし、その正体不明の会合に偉い人を誘ってやがる。しかもメールの締めが

「痔節がらどうぞご自愛ください」

「痔節がらどうぞご痔愛ください」

僕は、痔に対する愛が強すぎるのか。だからといって人に愛を強要するものではありません。

とにかく、パソコンとは便利で素晴らしいものです。けれども必ずその便利さには落とし穴が内包されている。使う人間がしっかりと意識して使っていかねば、偉い人からメールが帰ってこないとか、そういう首でブランコ必須、みたいな状況になるのです。みなさん、注意ですぞ。

うん、そうだね、あんまりみ痔会日記じゃなかったね。


5/11 ケイドロ

家から駅までの道のりに4つ公園がある。我がアパートは非常に辺鄙な場所にあり、もはや最寄駅という表現が適切じゃないほど寄ってないじゃないかと思うのだけど、とにかく駅が遠い。僕ご自慢のマウンテンバイクでいったとしても15分くらいはかかるんじゃないだろうか、そんな距離だ。

駅までの道中に4つも公園があることからもその距離の長さは伺える。いくらこの辺が郊外の住宅街で、ファミリーがちょっとした一軒家を建立してほのかにハッピーファミリーライフを演出するような土地といっても、いささか公園が多いように感じる。よく都会に緑はないという話を聞くが実は都会に公園は多く、緑もそれなりにある。

その日、家でテレビを見ていて猛烈に穴の開いた包丁が欲しくなった僕はもはや我慢の限界に達していた。あの穴は何に使うのだろうか、あそこからニュルっと人参のすり身みたいなものが出てくるのだろうか。もう居てもたってもいられなくなり、駅前のショッピングセンターに自転車を走らせた。

次々と4つの公園の前を通り過ぎる。そこである違和感に気がついた。今日は休日、それも快晴だ。4つの公園全てが十分な広さがあり、遊ぶにはもってこいのシチュエーション。けれども、子供の姿が全く見られない。皆無というレベルで子供がいない。いるのは老人とホームレスと井戸端会議の主婦だけだ。

駅前に近づくにつれて子供の姿が見られるようになった。けれどもそれは期待していたそれではなく、コナンみたいなメガネしやがって何かカバンを持ってどこかの学習塾にでもいくのだろうかトボトボと歩いている姿ばかりだった。

ああ、最近の子供たちは外に出て遊んだりしないんだな。よくよく考えればそれはそうで、最近は外が危険すぎる。交通事故のリスクに、不審者の増加、頭のおかしい犯罪者が外をうろついているかもしれない。ここ関東圏においてママたちは放射性物質も心配だろう。とてもじゃないが外で遊ばせる状況にないのかもしれない。

僕らが子供だった時代は、遊びといえば確実に外だった。まあ、多分僕が田舎者で家が貧乏だったということもあるのだけれども、とにかく外だった。言うなれば自分の家、友達の家問わず、家の中ってのはその家の大人の世界だった。反面、外の世界ってのは子供だけで過ごすことができる子供の世界、限りない自由があった。

そんな子供の世界に生きる僕らのお気に入りの遊びは「ケイドロ」だった。これはドロケイだとか呼んだり地域もあるようだけど、早い話がチームバトルの鬼ごっこだ。まず、警察サイドと泥棒サイドにチーム分けをすることから始まる。そして、泥棒チームになったメンバーはとにかく逃げる。開催する場所にもよるけれども、鬼ごっこと言いつつもずっと走って逃げるのは疲れるので多くの泥棒はどこかに身を隠し、隠れんぼのスタイルになることが多かった。

警察サイドはその泥棒を追いかける、もしくは探して捕まえるのが主目的で、捕まえた泥棒をあらかじめ設定していた牢屋に留置する。全員を捕まえることができたら警察チームの勝ちだ。泥棒チームも泥棒チームで、ただ捕まるだけではない。泥棒チームは牢屋を急襲することにより捕まった泥棒仲間を一斉に開放することができる。このゲームでもっともエキサイティングな瞬間だ。

僕らはこのケイドロに没頭し、日が暮れるまで楽しんだりしたものだった。特に当時の僕なんかは将来は警察官になりたいと憧れていたこともあり、このケイドロに燃えていた。それも、警察チームになることに異常な執念を燃やしていた。チーム分けにおいてはとにかく警察チームになるように念じていた。

それは、単に憧れていた以外にももう一つ別の理由がある。ちょっと気がつかないかもしれないが、このゲームの終了条件を考えてみて欲しい。警察は泥棒を全員捕まえたら勝ち、泥棒は牢屋の仲間を開放したらまたゲームが振り出しに戻る。そう、実は勝利条件は警察にしか設定されていない。何度、牢屋を急襲されようが、振り出しに戻るだけで警察は負けない。

逆に考えると、泥棒サイドは決して勝利することない戦いを延々と続けなくてはならない。どんなに頑張ろうが絶対に勝てないのだ。いち早くそのことに気がついていた僕は、常に警察チームでありたいと願い、泥棒チームになった時は不毛なので早々に捕まることにしていた。

そんなある日、その僕の策略に気がついた友人が難癖をつけてきた。

「お前、なんで泥棒チームになったら手を抜くんだよ」

最初はバレないように捕まっていたが、そのうちそれすらも面倒になってきていて、あえて隠れないとか見つかっても逃げないとか、牢屋から解放されても逃げないとか、もう酷い有様になっていた。さすがに皆が気がつく。お前泥棒サイドの時だけ手を抜きすぎじゃないかと。

さすがに、泥棒チームは永遠に勝つことがない不毛な戦いを強いられるから手を抜いてる、なんて説明したらこの遊びの根底が崩壊してしまうから言えるわけもなく、なんとなく「追われるより追う方が燃えるから」みたいな、恋愛に燃えてるしゃらくさいOLみたいなことを言いって言い訳したんですけど、受け入れられることはなく

「怠けたバツな!」

という満場一致の意見で「警察チーム」「泥棒チーム」に続く第三極として「下着泥棒チーム」という訳のわからないチームを作らされて、たった一人、その下着泥棒チームで戦うことになったんです。

この下着泥棒チームってのが酷い扱いで、当然のことながら警察は敵で見つかったら捕まるのだけど、なぜか同じ泥棒でありながら泥棒に見つかっても捕まって警察に引き渡されるという、全員が敵の状態。しかも捕まって牢屋にはいって、泥棒が開放条件を満たしたとしても解放されないという徹底ぶり。しかもその牢屋の中でも同じく捕まった泥棒から迫害を受けるという、ちょっとリアルな感じになっていました。

ただ、この下着泥棒チーム、といっても一人ですが、このチームが泥棒よりもマシな点が、勝利条件が指定されているということ。それが警察チーム泥棒チーム全員のパンツを脱がせたら勝利という、何か例え勝利したとしても凄く嬉しくない条件が設定されてしまったのです。

いよいよケイドロ、いや新たに下着ドロを加えたケイドロシタギドロが始まります。最初は警察チームが目を瞑って100を数えるところから始まります。そしてその間に泥棒チームと下着ドロが散り散りになって逃げるのですが、ハッキリ言って泥棒チームのやつ、完全に隙だらけですよ。

どちらのチームにも属さず、さらにはたった一人で下着ドロチームになってかなり追い込まれたような感じですが、ハッキリ言って僕は勝利を確信していました。確かに下着を脱がせるという行為はかなり難しいですが、それでもかなりルール的に有利なのです。

その有利な点の一つが、エアポケットのような油断しきっている時間が存在することです。この警察チームが100秒間数えている時間というのは、これまでのルールにおいては泥棒にとって絶対に捕まることのない時間なわけです。ですから、かなり安心して泥棒どもは隠れたりしているわけですが、ここで今回のルールでは敵である下着ドロが同じ時間を過ごしているということを忘れがちだ。

つまり、今まで絶対安全だったこの時間帯に、そこに僕がいる。完全に油断しきっている泥棒の一人を捕まえ、パンツを脱がしてやった。さらには、警察と違って泥棒たちがどこに隠れたのか丸分かりなので、いつでも料理できる状態に。

そして第二に有利な点。それが復活がないということ。泥棒は捕まったとしても開放条件を満たせば開放される。けれども、一度パンツを盗まれた人間のパンツ復活に関するルール設定はない。

第三に有利な点は、通常ルールでは死ぬはずがない警察チームまでパンツを脱がせばゲームから追い出せるという点。これは実はかなり強い。捕まることはない警察はかなり大胆に行動し、単独行動も取りがちだが、捕まることはないのだから当然だ。けれども新ルールでは警察すらもパンツを脱がされる。追う者が初めて追われるものになるのだ。

100秒が経過し、ちょろちょろと警察チームが単独行動で捜索にやってくる。物陰に入ってきたひょろい田中君を捕まえてパンツ脱がせてやった。田中君は泣いていた。

そんな調子で、警察を物陰に誘い込んではパンツを脱がし、隠れている泥棒を見つけてはパンツを脱がし、で5枚ほどのブリーフパンツを右手に縦横無尽の大活躍、いよいよパンツ泥棒最強説を確実にしようとした時、事件は起きたのです。

よくよく考えたらこのルールには穴がありまして、それが「捕まえる」という行為の曖昧さなんですけど、完全に押さえ込んで確保するわけではなく、袈裟固めとかするわけではありませんから、ちょっと肩とかを捕まえて「捕まえた」となるわけなんですよね。それって普通のルールなら問題ないんですけど、下着ドロが入ってくると大きな問題になるんです。

そう、パンツを脱がす時って絶対に接触プレイになりますから、警察にしろ泥棒にしろ、パンツを脱がしている最中に向こうが僕の手でも捕まえて「捕まえた」と言えばパンツ脱がしと同時に捕獲が成立してしまうんです。大体は押し切ってパンツを脱がしてしまうんですが、警察チームである大谷くんのパンツを脱がした時、事件は起きた。

茂みの方まで単独で探しに来た大谷君を後ろから捕まえて、さらに茂みの奥底に引きずり込み、いよいよパンツを脱がせにかかって半ズボンに手をかけたのだけど、その手を掴んで大谷くんが言う。

「捕まえた」

おいおい待ってくれよと。捕まえたもクソもないだろうと。捕まえるってのは完全に掌握するってことだ。それなのにこんなパンツ脱がされそうな状態で捕まえたもクソもない。関係ねえわー、覚悟ー!って感じでさらに脱がそうとすると大谷は大声を上げた。

「ストップ!ストップ!ちょっとルール違反!」

これは聞き捨てならない。大谷の叫びを聞いて警察チームの連中が集まってきた。

「捕まったのだからパンツ脱がしは無効ではないか?」

「気付かれずにパンツ脱がせるわけがない」

「腕を掴んでダメなら捕まえるのも無理なのでは?」

熱く議論が交わされたが結論は出ず、僕と大谷君でPK戦をすることに。これは未だによく分からないのだけど、二人が棒立ちになり、交代でズボンとパンツを脱がせ合う。よりダイナミックに脱がせたほうが勝利になるらしい。意味が分からない。

まず、大谷くんの先攻で始まる。棒立ちの僕のズボンとパンツを一気に脱がせる。ブルンとまだ発展途上の男性器が捕れたてのイワシのように躍り出た。ダイナミックだ。

そして次は僕の番だ。フルチンのまま大谷くんのズボンを脱がしにかかる。そこで事件は起こった。

バババッと脱がせると、ズボンとパンツが一気に脱げたのだけど、半分見えたそのパンツが明らかお母さんのショーツみたいなやつだった。

「おまえ、それお母さんのじゃねえか」

「ちがうわ、俺のだわ!」

「うそつけ!」

「お母さんにもらったんだわ!」

「じゃあ女物じゃねえか」

そんな不毛なやりとりがあり、なぜか大谷くんの脱がせ方の方がダイナミックだったという結論により、僕は敗北、捕縛されて牢屋に入ることになったのでした。その後も何度か泥棒サイドが牢を破り開放とかダイナミックな展開になったのですが、もう関係ない下着ドロはただ見ているだけでした。

思うんですよ、よくよく考えたらPKも判定するのが全部警察チームだったから勝てるはずがない。とにかくこのケイドロってゲームは絶対に警察が勝つようにできているんです。

そんなことを思い出しながら、最近は本当に外でケイドロとかやっている子供たちを見ない。たまに外で遊んでいる子供を見たとしても外でDSかカードバトルやってやがる。本当に見ないなあ、と思いつつ駅前のショッピングセンターに行って目当ての穴あき包丁を買えたのでした。

帰り道、やはり子供たちって外で遊んでいないよなーとキョロキョロしながら帰っていると、お巡りさんい止められ、思いっきり不審人物として職質されました。すごい色々と質問された。

「ちょっとさ、リュックの中みせてくれるかな?」

すごい満面の笑みで言われて、いいっすよって即答しようかと思ったんですけど、よく考えたらリュックに包丁入ってる。こりゃ死ぬほどまずい。別に悪いことはしてなくて、ただ穴あき包丁が欲しかっただけなんだけど、それでも見られたら色々と面倒なことになりそうだ。

「それって任意ですよね?」

と、別に反抗する感じじゃなく、ちょっと軽口みたいな感じで聞いたら、

「任意だよ」

と、それが何か?みたいな感じで言われたんですけど、任意だから拒否できるけど、拒否したら明らかにすごい面倒なことになるけどそれでもいいなら拒否したらいいんじゃない?我々は拒否する理由があるって受け取るからね、まあ、覚悟あるなら拒否しなさいよ、みたいなオーラが笑っていない瞳からムンムンに感じられたので、素直にリュックの中見せました。

「包丁だね?」

「はい、テレビ見てたら穴あきの包丁が欲しくなって」

「なんでキョロキョロしてたの?」

「最近子供が外で遊んでないなーと思って」

返答だけなら1000%検挙対象なのですが、一連の流れを延々と話したら、ちょっと怒られるだけで解放されました。

とにかく、この日本という国においては警察の方には勝てません。それを考えると、あのケイドロってのは子供の遊びながら、すごいリアルにルール設定がされていたんだな、そう思うのです。

ちなみに、全然関係ないのですが、職質されている間、持病である痔が悪化したらしく、なんか血とか出てきていて、帰ってみてみたらケロイドみたいになってました。


5/10 ハリー・ポッターと死の秘宝

いよいよ完結編!ということで、これまでに劇場での公開に合わせてハリー・ポッターシリーズを1ミリも見たことない僕がレビューを執筆してきたわけですが、その反響や凄まじく。

凸凹刑事ハリーとポッターがシカゴで蠢く巨大宗教組織相手に大立ち回りを展開した「賢者の石(2001/2/16)」では3通。続編として描かれたアリゾナを舞台にした「秘密の部屋(2004/2/12)」では13通。ポッターが幼女にイタズラをして捕まるという衝撃の場面から始まり、ネット宗教という新形態の宗教と刑務所暴動の顛末を描いた「アズカバンの囚人(2004/6/16)」では17通。

ベトナム戦争の悲劇を扱い、「炎のゴブレット(2005/11/28)」では20通。ちょっと不思議なタイムスリップと切ない恋の話を描いた「不死鳥の騎士団(2007/7/10)」では16通。そして今回の完結編への序章となる「謎のプリンス(2009/7/27)」では、なんと18通!

毎回あまりの反響の大きさに僕のメールボックスがパンクするかと思うほどです。そのメールの内容も凄まじく内訳を紹介しますと、

「いいかげん、ハリポタの作者、いいえ、本物のハリポタに関わった人全てとファンに謝ってください。今なら間に合います!」

などと率直な意見を持つ人が約17名。

「ハーマイオニーたんのチャイルドシート!」

完全に頭がおかしくなって意味不明な人が約1名。このシリーズ始まって以来初めてのことですが反響メールが否定的な人と頭がおかしい人だけになりました。さらには、こういったネット上の反響だけでなく、ヌメリナイト等の実際のイベントでお会いする読者の方々からも直接

「ああ、ハリポタシリーズだなって思ったら読み飛ばすようにしてますよ(笑)」

という意見を数多くいただきます。こんな奇譚のない意見を直接作者である僕に言うくらいですから、よほど腹に据えかねたものがあるのでしょう。

とにかく、そんな見てもないのに映画レビュー、ハリー&ポッターシリーズもついに最終回「死の秘宝」がやってまいりました。いつもは本物のハリーポッターの方の映画公開に合わせてレビューしてるのですが、今回は本物公開から1年の充電期間をおいての大公開。ハリーとポッターの凸凹刑事コンビが織り成す一大スペクタクル、是非とも読み飛ばしてください!

見てもないのに映画レビュー
ハリー&ポッターと死の秘宝 PART I

まず今回の作品は完結編という位置付けになっているが、前作の「謎のプリンス」からの流れを汲んだ形になっている。ということで、前作の内容がおどろおどろしい音楽と共にダイジェストで流れる。

チョモランマの中腹で氷漬けになっているポッターが発見されるシーン、謎のプリンスと名乗る男が出会い系サイトで女性を募集するシーン、そこで殺人事件が起こる。被害者は全てからだの一部が切り取られていた。ハリーとポッターが捜査にあたる。本庁から来た管理官が陣頭指揮を取る、関取みたいな女(ハーマイオニー)を使った囮捜査、体の一部を切り取られ殺されるハーマイオニー、そしてハリーは謎のプリンスをついに追い詰める。犯人は、謎のプリンスは管理官であると予想したハリーだったが、追い詰めた廃倉庫で既に管理官は死んでいた。そこにポッターが現れ、自分が謎のプリンスであることを告白する。ポッターは集めた体のパーツを使い何かの儀式を始めた。そして、世界は氷に包まれた。天使たちの歓喜の声と共に。世界が終わる……。

と、ダイジェストあらすじが終わったところでデデーンと「ハリー&ポッターと死の秘宝 PART I」とタイトルが表示される。相変わらずコウモリとかが飛んでいておどろおどろしいタイトルだ。しばらくするとそのコウモリがどんどん増えていって画面は真っ暗に。そして場面は雪山に切り替わる。

壮大な雪山の景色を映しながら、ハリーの声でナレーションが入る。「ポッターは禁を犯した。日本人とアメリカ人の混血として生まれたポッターは祖母より自分は特別な存在として言い聞かされ、それを信じて育ってきた。刑事としての日々の生活の中でも、どこか自分は特別で、今の自分は自分でないような感覚を感じていたようだ。むしろ、現実と理想の狭間で苦しんでいたようだ。なんてことだろう俺は気付いてやれなかった」

「そんな折、ポッターのところに小包が届く。差出人は死んだはずの祖母だったようだ。不思議に思いながら開けてみると、そこには代々伝わる古文書が入っていた。惚れ薬の作り方、人を呪い殺す方法、鉄を金に変える錬金術の方法、そこには怪しげな魔法とも呪いとも呼べないことが沢山書かれていた。あるページに付箋が貼られていることに気がつく。そのページは「新しい自分になる方法」図解入りでその方法が説明されている。7んんから7つの体のパーツを集めて繋ぎ合わせ、血を混ぜる、すなわち混血にすることで新しい自分を作り出すことができる。どうやら血を混ぜるということをかなり重要視している宗教のような流れを感じた」

「そしてついにポッターは謎のプリンスとして行動を開始する。出会い系サイトで相手を募り、次々と殺害しては殺し、体の一部と血を奪う。囮捜査に使われたハーマイオニーや管理官をも儀式に用い、ついに新しい自分を作り出す儀式を始めたのだ」

「けれども、結果は成功したのか失敗したのか分からない。儀式が始まると、ポッターの周囲の温度が急激に低下し、全てのものを凍りつかせはじめた。その氷土は一瞬にして広がり、この地球上の大地の7割を凍りつかせた。発電は止まり、食料は底をつき、凍え飢え、略奪が始まり、世界人口の9割が死に絶えた」

カメラがどんどん引いていくと、チョモランマに酷似していたその雪山の地形は、ロサンゼルスのものだった。凍てついたゴールデンゲートブリッジがなんとも痛々しい。さらにカメラが引き、真っ白なアメリカ大陸が映し出される。

場面が変わり、アラブ上空を飛ぶエアフォースワンが映し出される。どうやらアラブ上空はまだそんなに氷土が広がっていないようだ。そのままエアフォースマン内部での会議の様子に場面変換する。

「アラブと極東の一部を除く地球全土の7割が氷の世界になっています」

報告する美人な秘書官。聡明そうだがどこか冷徹な印象を受ける。

「そもそも何でこんなことが起こったのかワシにはわからんのだよ」

大統領がメガネを外し、そのツルの部分を口にくわえながら大型ビジョンに映し出された世界各地の気温データーを眺める。

「ワシントンより避難した自然科学、気象学、物理学などの専門家が分析していますが、原因はわかっていません。ただ…」

「ただ、なんだね?」

「この現象はロサンジェルスに近づくほど深刻になっていることから、発生源はロサンジェルスであるとの考え方が強まっています」

「けれども、ロスは全滅、生き残りはいないんだろ?それなら何が起こったのか調べることなど不可能じゃないか」

「いいえ、全滅ではありません」

「なに!?」

「1名生き残りがいます。ロス市警所属、ハリー刑事です」

ドーンとロス市警が映し出される。完全に雪に埋もれ廃墟と化している。そこを登山装備で横切る数人の男たち。防寒着のフードとゴーグルで分からないが、その顔つきはハリーのようだ。

一行は、ここがヘイ、ここいらのカフェでロ一服したいねなどと、かつてここがロスであったことを皮肉りながら進んでいく。そしてついに大きな氷柱に到達した。

「ポッター…」

ハリーはゴーグルを外す。小さな氷の粒子を手で払うと、氷漬けになっているポッターの姿が確認できた。

そこに政府のヘリが4機飛来する。ヘリから降りてきたベレー帽をかぶった軍人は、ハリーの前に立って敬礼をすると

「大統領要請です。身柄を確保します」

そのままハリーを乗せて飛び立つヘリ。カメラはいつまでも断末魔の表情の氷漬けポッターを映し出していた。

場面が変わりエアフォースワン。大統領執務室の中で大統領と秘書、その前にハリーが立っている。大統領は椅子から立ち上がると、所在無くウロウロしたあと、窓から景色を眺めた。低空飛行のエアフォースワンからは地上の様子がよく見える。今は南米あたりを飛行しているはずだが、地面は白く冷たい。

「この地球上で最も美しい宝石はなんだと思うね?」

大統領はハリーに訊ねる。

「はっ。個人の好みによるとは思いますが、ダイヤモンドかと」

「ふむ。ワシはそうは思わん」

「と、いいますと?」

「わしは氷こそが最も美しい宝石ではないかと思うのだよ。あの透明性、あの脆さ、あの美しさ。けれどもその美しい氷が、地球上を壊滅に導く死の秘宝になろうとは……」

大統領の顔のシワがさらに深くなったように感じた。ハリーはただ黙って立っていたが、書類を見ながら話しかける。

「この世界規模の寒波はロサンジェルスを起点としていると専門家は見ています。現に、ロスが一番ひどく、ほぼ全滅の状態。けれども、あなただけは生き残っている。これはどういうことでしょうか?」

「どうもこうもねえさ」

ハリーはポケットから小さな石を取り出した。

「これはおそらく賢者の石ってやつだろう。ポッターの体内に胆石として存在していて、ある宗教団体がこれを狙ってたってくらいに不思議な力を持った石だ。こいつが、あの迫り来る氷から俺を守ってくれた」

「しかし我が合衆国政府はそのポッター氏をこの世界的大異変の重要参考人と見ています。方法はわかりませんが彼が悪意を持って世界を終局に導いた、そう見ています」

「それは違うな」

ハリーは秘書の話を遮った。そしてまだ窓際に佇む大統領に向かって言う。

「怪しげな儀式を始めたのは確かにポッターだ。それが引き金になってこの氷の世界が生まれたのだろう。けれどもポッターは世界を破滅させるとかそんなことができる男じゃない。きっと何か理由があるはずだ。なにせ、あの凍てつく冷気が渦巻く中、この賢者の石を手渡してくれたのはポッターだ。俺を助けるためにな」

「君を助けるためにか…」

その瞬間だった。ボンッ!と大統領の頭が破裂した。いや、爆薬で吹っ飛ばされたかのように爆発し、頭部をなくした首からは火柱が上がっていた。同時に爆風で機体に穴が開き、機体が大きく傾く。

「メーデー!メーデー!」

コントロール不能となるエアフォースワン。秘書とハリーは左右に大きく揺さぶられる期待の中で必死に椅子にしがみつく。しかしエアフォースワンは煙を吐きながら降下を続け、ついには墜落してしまう。

このシーンは圧巻で、なんでもCGを一切使わず、本物のエアフォースワンを雪山に墜落させて撮影したらしく、ダイナミックでスケールの大きい映像に仕上がっていました。この映像はちょっと日本では撮れないんじゃないかな。

ハリーが目を覚ますと、そこは小さな部屋だった。剥き出しのコンクリート壁の6畳程度の小さな部屋。ピタピタと水が滴る音が聞こえる。

「気がついた?」

横たわるハリーの横にあの秘書が立っていた。

「ここは?」

「ここは秘密の部屋。私の中の意識の部屋っていう感じかな。世間では不老不死の力が手に入るとかどんな病でも治せる部屋とか言われるけど、残念ながらそんな力はないの。ただどんな場所からも入れるし、どんな場所に出ることもできる」

「秘密の部屋……」

ハリーはアリゾナで秘密の部屋を探し求めたことを思い出した。

「すべては繋がっているのよ。あなたたちがこれまでに関わった事件も、今回のことも、そして大統領の下、全ては一つに」

ハリーにはまだ意味がわからない。

そして場面が変わり、闇の中でシュコーシュコーと呼吸をする未知なる生物が映し出される、それはまるでポッターのような横顔をしていた。

PART IIに続く

いやー、やはり多くの謎を残しつつPART IIに続くになってしまいました。次回予告では富士山をバックにハリーとポッターが日本刀で戦っていたのでどうなるのか今から楽しみです。ということでPART IIに続く!是非PART IIも読み飛ばしてください!


5/9 God Knows...

僕らは知ることに対してあまりに無防備だ。

落ちついて身の回りを見回してみると様々な「知る」が溢れていることに気づく。テレビをつければニュースに情報番組にバラエティに、流れ出る洪水のように情報が溢れている。僕らはそれを視聴して「知る」ことができる。

コンビニに行けば山のように雑誌を売っている。それらから適当に1冊手にし、パラパラと流し読みしただけで余程の情報が詰まってることが分かる。数多くの「知る」が印刷されて綴られている。

インターネットにアクセスすればリアルタイムで数多くの「知る」が流れている。ゴミのような「知る」から高尚な「知る」まで様々、その中をマウスで泳いでいるようなもんだ。

現代社会はあまりにも「知る」が多すぎる。とめどなく溢れる情報は僕らが望む望まないを関係なく否応なく「知る」ことを強いる。その圧倒的な量の「知る」が僕らから「考える」を奪ってるのではないだろうか。

例えば、一人の囚人がいたとしよう。その囚人には情報を一切与えない。何日も何日もあらゆるメディア、人との接触を奪って完全なる無の中に置く。何もない真っ白い部屋に入れておくといい。そして1冊の文庫本を与えたらどうだろうか。

おそらく囚人はその本を貪り読むだろう。例えそれが死ぬほど退屈な本であろうとも、死ぬほどクソな本でも、何度も何度も繰り返し読む。その本に書かれている情報を「知る」ために深く深く読み込むだろう。

「知る」が終わると次は「考える」だろう。ほかに情報のインプットがない、与えられた「知る」はこれだけなのだから、その本の内容を「考える」だろう。この作品を通して著者は何を言いたかったのか。ここでの主人公の心情はどんなものだっただろう。こんな展開ではなくこういった展開のほうがいいのではないだろか。「知る」の次に「考える」が現れるのだ。

しかしながら、現状の僕らのようにあまりにその「知る」が多すぎたらどうだろうか。次々と工場の生産ラインのように押し寄せる「知る」は僕らから「考える」を奪ってしまう。あまりにインプットが多すぎてそれを吟味する暇などない、結果、「知る」だけが僕らの中に蓄積されていく。

先日、100本あまりのエロ動画をダウンロードした時、僕はこの溢れる「知る」に気がついてしまい愕然としてしまった。元々僕はインターネットを利用したお手軽エロ動画ダウンロードに興味がなかった。いや、むしろ軽い憎しみすら抱いていた。許しがたい行為だとすら感じていた。

エロビデオってのは、まるで家に帰るまでが遠足だという有名すぎる格言のごとく、エロビデオコーナーで多くの同胞と戦って幾多の死線を乗り越え、カウンターで大学ではテニスサークルに入ってるんだろうなって感じの爽やか女店員の凍てつく視線をかいくぐり、ここで事故を起こしたら死んでもしに切れんとハラハラする思いで家路へ。鑑賞して、返却日に気だるい思いをして返しに行くまで全てをひっくるめてエロビデオだと思っている。だからおウチのパソコンでダウンロードポンッ!なんていうエロ動画が本当に許せなかった。

しかし、やはり僕も年頃の男の子。どうしても今すぐにエロいやつが見たい!という欲望には打ち勝てず、満月を見たゴクウみたいになってエロ動画をダウンロードしまくったことがあった。

エロ動画はものすごい。その量は圧倒的だ。いくら僕が頑張ってもやはり社会的体裁というか色々あるからエロビデオを借りたとしても7本くらいが限度だ。いや、むしろ旧作を7本借りると安くなるので7本しか借りない。それ以上でもそれ以下でもない、7本だ。しかしインターネットの世界には7本どころでは済まない大量のエロ動画が溢れている。

メイドのお姉さんが酷いことされてる動画だとか、ナースのお姉さんが性の回診をしてる動画だとかとにかく雑多なエロスが溢れている。欧米人が見たらビックリするかもしれない。それらの気になる動画をダウンロードしてしまくってやり、気づいたら100個近いファイルをダウンロードしていた。それらを興奮気味に鑑賞しながら上記の考えに至ったのだ。

とにかくエロ動画は興奮する。もう数々のエロい女がファイルごとに登場し、それぞれ違った趣を見せる。言うなれば雅だ。エロの雅がここにある。しかし、それらは何かが違うのだ。

無限大に近いほどにネット世界に溢れているエロ動画、それらはさして考えるまでもなくダウンロードするだろう。ダメな動画だったら消去してしまえばいいのだ。深く考えることなくどんどんダウンロード。どうせ山ほどあるんだ、さして考える必要はない。

そうやって手に入れた動画には思い入れも何もない。あれ、こんなのダウンロードしたっけと思うこともあるはずだ。そして、適当にゲージを動かして絡みの部分をチョイチョイ見る、そんな楽しみ方しかできない。

逆にエロビデオを考えてみよう。エロビデオを7本、7泊8日でレンタルする。旧作だ。新作はすぐ返却しないといけないし値段も高いので旧作だ。旧作を7本レンタルセット料金で少しお得だ。そうなるとどのような布陣で行くべきか考えるはずだ。3本は企画物で、2本は手堅く女優物でいこう。1本はインディーズに走って最後の1本は脱糞で攻めよう。おいおい脱糞いっちゃうかー!とニンマリ。他にも、このメーカーの作品は外れが多い。このシリーズは手堅い。この監督とは趣味が合わない。考えることは山のようにあるはずだ。パッケージに書いてあるエロビデオ情報を「知る」では収まらない、「考える」という行為が確かに存在する。

エロビデオに限らず、多くの場合でそうだ。あふれ出る雑多な情報は僕らを「知る」で留まらせている。「考える」を奪ってる。何も分かりにくいエロ動画の話しなくてももっといい例があった。ニュースだ。マスメディアが報じるニュースは毎日新しい事件が山盛りだけど、事件自体を振り返ることはそんなに多くない。それは「知る」で留まってるに他ならないのだ。

この「知る」のみで留まってしまってる行為、よくよく観察してみるとやっぱり身の回りに多い。嫌になるくらいに溢れている。例えば仕事場でこんなことがあった。

僕の職場は結構年代的区分がしっかりしてまして、団塊の世代、団塊ジュニア世代、松坂世代みたいな感じで歴然とした区分けがあるんですよ。で、僕が所属する20代後半から30代前半くらいの年齢群をなぜかビックリマンシール世代という訳の分からない呼び方してるんですけど、まあ、年齢的に見ても若手の1個上くらい、一番下っ端じゃないけど中堅でもないっていう微妙な立ち位置なんですよ。

でまあ、我が職場には一番下っ端の世代がプロジェクトを企画立案しプレゼンテーションするっていう行事があるんですよ。そのプレゼンでは若手の案やプレゼンに望む姿勢を一個上の世代、つまり僕らビックリマン世代が強烈に批判しなければならないっていう暗黙のルールがありましてね、それこそ自殺者がでるんじゃねえのってくらいに若手が徹底的に凹まされ、決して逆らうことの出来ない力関係を叩き込まれるんですよ。

多分まあ、上の世代の偉大さみたいなのを「知る」だけじゃなくて、凹まされることで実感させる、「考える」行為に通じるものがあり、非常に性格悪い行事なんですけどそのプレゼンに参加したんですよ。

僕らビックリマン世代と何か偉い感じの人が会議室のテーブルに座り、オドオドした若手が次々とプレゼンしていくんです。で、同世代の同僚達や偉い人達が次々とダメだししていくんですよね。見通しが甘いとか、分かりにくい、そんなのしてなんになるんだね、みたいな感じでガンガン行こうぜ!なんですよ。

僕はそれを見ながら、やばい、この若手どもの方が仕事ができる!とあまりの出来の良さに恐れ戦いてしまい、批判することもできず、誰かが批判した後に「そうだそうだ!」とか付け加えることしかできませんでした。とんでもない雑魚っぷりを発揮してやがる。

で、次々と血気盛んな若人たちがあたら若い命を散らしていたんですけど、そんな中にあって一人のヒョロッとした若手が壇上に立ったんですよね。おいおい大丈夫かよとハラハラしながら彼のプレゼンを聞いていたんですけど、彼が言い出すわけですよ。

「この件に関しましては徹底的に調査してまいりました。こちらの資料をご覧ください」

ヒョロっちい子が自信満々に言うわけですよ。逆に頼もしくなるくらい自信満々、血気盛ん、魑魅魍魎って感じで言うんですよ。

で、聞いてる我々に分厚い、それこそ夏休み前に貰う算数のドリルを思わせるような重量感のある資料を手渡してくるんです。こりゃあすごい、まるで彼の熱量が伝わってくるようだ、とペラペラと資料をめくるんですけど、僕はそれを見た瞬間に言ってやったんですよ。このまま雑魚では終わらない、村人Aでは終わらないぜって勢いで言ってやったんです。

「あのさ、調べるのは大変良いことだと思うし、よくこれだけ調べたなって思うんだけどさ、残念ながらこれは「知る」で終わっちゃってるんだよね」

まあ、職場でしょっちゅうファミスタやってる僕が言うセリフじゃないんですけどとにかく言ってやったんです。彼の資料は本当にテーマに沿ってよく調べてあったんですよ。それこそここまでやるかってくらいに調べてあった。でもね、その内容があまりにもあれだったんです。

テーマに関連した事柄が記載された書籍のコピー、関連した内容が記載されたインターネットサイトをプリントアウトしただけのもの、そんなものがただ綴じられているだけなんですよ。プレゼンの方を聞いてみても、この調べてる事柄に関してほとんど触れないんですよ。

「たぶん調べることで満足してしまったんじゃないかな。こんなの調べましたって結果だけポーンと渡されてもこっちは興味ないわけ。本当はその先が重要だなんだよ。調べたことによって君は何を思ったか、どのような結論を導き出したか、それがどう関連してくるか、それがないと何の意味もない」

彼もまた「知る」ことのみで満足してしまったのです。今の時代、ある事柄を調査しようと思えば本当に簡単です。検索ワードに入れてポンッとやればいくらでも関連するページが出てくる。それをプリントアウトして綴ってしまえば資料の出来上がりだ。あまりに簡単に大量の「知る」を手に入れられある程度の形になってしまう。だからその先にある「考える」を忘れてしまうのだ。

結局、そこからヒョロい子に対する総攻撃みたいなのが始まってしまいましてね、あれもダメ、コレもダメ、全部ダメ、もうダメ、みたいな感じになっちゃいましてね、終いには多分一番偉い人なんでしょうけど老師みたいな人が出てきて「君は明日やり直し」と告げるという地獄の展開。こうして嵐のようだったこの魔女裁判は終わったのでした。

その後、いやー、仕事してないのに偉そうに先輩面するのは疲れるぜーと肩の荷が下りた感じで職場のジュース販売機がある休憩所みたいな場所に行ってですね、ガコンとコーラを買って飲んでたんですけど、そうしたら何かメソメソとすすり泣く声が聞こえてくるんですよ。

なんだなんだ、ここにはタチの悪い自爆霊でもいるのか!と驚いて辺りを見回すとですね、さっきのヒョロい子がすすり泣いてるんですよ。うわー嫌なもん見ちゃったなーってのが正直なところだったんですけど、彼がすすり泣いているっていう事実を知ったからには考えて行動しなければなりません。

「どうしたのかな?」

僕を含むビックリマン世代があれだけ攻め立てておいてどうしたもクソもないんですが、やはり彼は先ほどのプレゼンにいたくショックを受けた様子。オマケに明日までに作り直してやり直すなんて無理だ、みたいなこと言うんですよ。

僕もコーラを飲みながらどうしたもんかなーって困り果てちゃったんですけど、まあ、僕が「そうだそうだ!」の雑魚キャラじゃあ体裁が悪いから彼の時だけ悪いところを指摘した、それが火種になって大爆発したっていう経緯がありますから、手伝ってあげることにしたんですよ。

「諦めんなって、手伝ってやるよ!」

クソッ!なんでこのシーンを普段は僕を毛虫の如く嫌っている女子社員どもが見てないんだと口惜しい思いをしつつ、二人はその師弟関係を育み、それと同時に休憩所に差し込んでいた夕陽が夜の闇へと変わっていったのでした。

「でも今日は夜遅いから明日の早朝からやろう、6時に集合だ!」

正直疲れ果ててましたので、明日の朝からやることを堅く約束し、それぞれの家路へと着いたのでした。

さて翌朝、手伝うと言った手前「眠いでちゅー」なんて言って行かなかったらマジで後味の悪い結末が待ってそうなので行きましたよ。約束の6時より早い5時半に到着し、共同作業場みたいな部屋でヒョロい子の到着を今や遅しと待ち構えていたんです。

まあ、仁王立ちで待ってるって訳にもいかないですから普通にデスクに座ってネットサーフィンなぞに勤しんでいたわけなんですけど、まあ、その、ほら、やっぱ、ほら、なんていうかエロっぽいページを見るじゃないですか。男の子ですし、そういうの見るじゃないですか。

でもさすがに職場からエロ動画をガッツリダウンロード!とか色々な意味で終わってると言うか先祖まで遡って頭の構造を疑われかねないと言うか、まあ、こう書いてますけど本当のところは本気で職場ダウンロードしててエドガーみたいな管理者に怒られたからなんですけど、やっぱ信じられない行為じゃないですか。

だから、動画も画像も我慢して主にエロい文章のみで楽しんでいたんです。エロい話題で盛り上がる掲示板を閲覧し、歴戦の猛者たちの書き込みを見てその滾る血潮をさらに沸騰させていたんです。で、そこで見つけた衝撃的な書き込みが僕の脳髄をズシンと揺さぶったのです。

投稿者:俊哉
この間、彼女にアナル舐めてもらったけどすげー良かったよ!もう舐めてもらわないといけない体に(笑)

(笑)じゃねーよ俊哉。ふざけんじゃねーよ俊哉。あのな、あまり言いたかないけどここは生々しい体験談を交えて皆で興奮を共有する掲示板なの。こうもっとどういった経緯で舐めることに至ったのかとか詳細がないと全然興奮できないじゃねえか。もっと考えろよな。

とまあ、俊哉がやけにムカつくのはいいとして、有益な情報を知ることが出来ました。アナルをペロリされると気持ち良い。これは貴重な情報ですよ。何度かアナルを舐められたという男性側の体験談は聞いたことありましたが、それらは全て征服感を満たすだけの行為だと認識しておりました。こんな汚いところを舐めさせちゃう俺、ワイルド?みたいな。気持ち良い、というユーザーの生の声を聞けたのは初めてかもしれません。

「アナルをペロリされると気持ちいいかもしれない」新たな情報を知ることができたのですが、ここで止まってしまってはダメです。その先にある「考える」に至らなければならないのです。

アナルをペロリされると気持ちいい、ということは女性にアナルを見せなければならないシチュエーションがやってくるということか。ペロリされる時はどうしても見せなければならない。どうしよう!恥ずかしい!見せるなんて恥ずかしい!

いやいや、その辺のアバズレにならいくらでも見せますがな。名刺に印刷して配ってもいいくらいですがな。でもね、もう大塚愛さんにだけは恥ずかしくて見せられない。顔が真っ赤になってしまって見せられない。大塚愛さんがペロリしてあげるよ、とか言っても恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。

ここここここここうしちゃいられない!どんな状態かも分からないアナルを大塚愛さんに見せるなんて考えられない、あってはならない。ホント、早朝って人を狂わせますね、今まで自分でもほとんど確認したことなかった自らのアナルを確認しなきゃって義務感に襲われたんです。

早朝すぎて誰も居ないから大丈夫。ヒョロッ子が来るまでまだ時間もある。ホント考えるって大事だよな。考えるに至らず、ふーん、アナペロ気持ちいいんだって知るのみに留まっていたら見たこともない大自然のアナルを大塚愛さんに差し出すところだった。客人になんたる失礼なものを見せるんだってなるとこだった。考えたからこそシッカリ確認したアナルを差し出すことができる。

ええ、手鏡を使って確認しましたよ。そのポーズはとてもじゃないがマトリックス的だったとか言ってはいけないレベル。街中に張り出されたら自殺物、国辱物のポーズでしたが、なんとか確認したんですよ。

まあ、こういうことを書くと僕のことを天から落ちてきたエンジェルだと本気で信じていてpatoさんはウンコなんてしない!って幻想を狂信している女性読者の方は卒倒・・・ってそんな人いないですよね、普通に書きます。いやね、アナルモジャモジャだったわ。モジャモジャ、モジャモジャ、超モジャモジャ、略してアナモジャ。まるで密林の如くビッシリと茂ってるんすよ。密林ですよ、アマゾンですよ、amazon.co.jpっすよ。

うわーやっちゃったなー、そう思いましたね。いくらなんでもこんな海の端っこみたいな汚いアナルをペロリするのは大塚愛さんといえども難しいはず。どうしたものかどうしたものか。

新たに自分のアナル周辺が密林であったことを知ってしまった僕はそれだけで終わりません。知るだけで終わることが愚かなことだと分かってます。その先の考えるに突入しなければならないのです。

「うわービッシリだ、いくら愛でもこれは無理だよ」

「ダメかな?アナモジャだめかな?」

「愛の愛を持ってしてもダメね」

ダメだ!微妙に上手いこと言われて拒絶されてしまう。

もう剃ろう。剃ってしまおう。

ホント、朝方って人を狂わせますよね。僕の性格からいって思い立った時にやらないといつまでもアナモジャ、大塚愛さんが驚くことになりますので人として礼儀として剃らねばならないのです。

カミソリは、ある。僕は面倒なので最近はいつも職場でヒゲを剃るので立派なT字カミソリがある。時間は、ある。5時45分、約束の6時まで充分だ。いける、いくしかない。いける、やれるはずだ。

とりあえず、剃ってる現場を目撃されたら末代までの恥、というか末代の存在すら許されない状況になるのは明白。最悪の事態を回避するために職場のドア鍵を堅牢に閉めます。っていうか、アナル観察してる時に鍵閉めろよな。

シェービングクリームみたいなのもあったんですけど、そんなのアナル周辺に塗ったら別のプレイみたいなのでやめておきました。完全に素で剃ることを決意。鋭利なT字カミソリをアナルに近づけます。

いやね、やってみたことある人なら分かると思うけど、これが結構難しいんですよ。T字カミソリって読んで字のごとくT字じゃないですか。でまあ、お尻って谷みたいな構造になってますよね。これがもう、とにかく剃りにくい。T字の部分が谷間に入っていかんのですよ。とにかくこのままでは大塚愛さんがビックリしてしまうので何とか強引に谷間を広げて刃を谷間へ・・・。もう下半身裸で片足椅子に乗っけた状態ですよ。親が見たら一瞬で天涯孤独にされかねない体勢ですよ。とにかく・・・なんとかして・・・剃らないと・・・。

ズシャアアアアアアアア

アナル切れたー!いやいやいやいやいや、正確にはアナルの横の婆さんの肌みたいになってる部分ですけど、アナルから見て3時の方向にザッシュリと切り傷が。男性の方なら分かると思いますけど、カミソリで切った傷って物凄い血が出るんですよね。ひいいいいいい、ポタポタ血が出てるー!血がしたたたたたたたたってるー!

コンコン!

そこにドアをノックする音ですよ。あまりに狼狽した僕は

「誰だ!」

「○○です」(ヒョロッ子)

「何しにきた!」

「いや、今日の準備に・・・」

自分で呼んどいて誰だ何しに来たもないんですけど、とにかくこの現場だけは隠滅しなければなりません。出血を何とかしないといけないのでティッシュを棒状にして尻の谷間に押し込み、神々の如き素早さでズボンをはく、そしてカミソリの処理と、床に滴った血を掃除、同時に床に落ちたモジャ毛も処理します。

「おはよう。さあやろうか」

ドアを開けて、まるでアナルなんか剃ってなかったっていうサワヤカ顔で彼を招き入れます。で、二人でPCの前に座ってプレゼンの準備ですよ。

「言ったろ、知るだけじゃダメなんだ。この知った資料をどう活かすかが大切なわけだ。考えるんだ。」

って凄い男前の、カクテル飲む時みたいな顔で言ってるんですけど、尻からはドクッドクッって心臓の鼓動に同調して血が出てるのが分かるんですよ。

「だから、この資料を丸でポイッて渡されても困るだろ。誰も読まないよ。自分なりに何が読み取れるかまとめて解説すればいい。都合の良いとこだけつまみ食いでいいんだよ」

ってすごい男前の顔で、娘さんをくださいって言う時みたいな顔して言ってるんですけど、尻のほうは臨界点。谷間に詰めたティッシュでは吸いきれないくらい血が出てるのが分かるんですよ。クソッ、ナプキンが欲しい。

結局、なんとかプレゼン資料の方も目処がつきましてね、発表時間までには間に合いそうな様子。安心したヒョロッ子が言うんですよ。

「ほんとありがとうございました。patoさんが先輩で俺、俺、よかったっすよ!マジ尊敬してます!」

フフフフフ、その尊敬する先輩は今まさにアナルから血を出してるけどな。それもかなりの量をな!

「じゃあ自分の持ち場に戻るから」

椅子から立ち上がるとティッシュに吸収されなかった血が椅子に染み出してそうで、それを見たヒョロッ子はその血液の理由を知ろうとするに違いない。そして心を入れ替えた彼は知った先を考えるだろう。何故そうなったかを考えるだろう。そうなってしまっては先輩の尊厳台無し。アナルっ子などと呼ばれて石を投げつけられるかもしれない。

椅子についた車輪を利用して滑るように部屋から出て行こうとする僕。

「椅子のままいくんですか!?」

「その理由は知らなくていい」

颯爽と長い長い廊下を朝日を浴びて椅子のまま滑る僕、出勤してきた多くの人とすれ違って怪訝な目で見られたけど、その理由を知るものはいない。知られてはいけない。

多くの「知る」は「考える」ことを停止させる。しかし、いくら「知る」が沢山あろうとも、「考える」に至らないそれは何の意味もない。

「知識」という言葉を国語辞典で引いてみると「知ること。認識・理解すること」としっかり書かれている。知っただけでは知識に成り得ないのだ、知って考えて理解してこそ初めて知識になる。雑多な情報に触れて知っただけで知識が増えたような顔をするのは大間違いなのだ。

情報過多なこの時代、僕らは「知る」ことに対してあまりに無防備すぎる。そして、僕らの「尻」もあまりに無防備すぎる。ちょっと剃っただけで切れるなんて。

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しれっと過去の日記をコピペしても絶対にバレないと思った。


5/8 さよなら傷だらけの日々よ

patoさんの職場には女性しかいないのですか?そんな質問を投げかけられることがあります。何をどうしたらそんな考えに至るのか良く分からないのですけど、冷静になって自分の書いた職場関連の日記を読んでみると、ほとんど女性しか登場していないことに気がつきました。

女子社員にキモいと言われた、女子社員にセクハラ相談室みたいなところに駆け込まれた、女子社員と法定で逢うことになりそう、などなど、挙げればきりがないほどの迫害の数々。なるほど、これでは周りが女性ばかりのハーレムみたいな職場と勘違いされても仕方がない。そうでなくとも女性とばかり積極的に絡みに行ってる男と思われても仕方がない。

どうにも僕は職場の女性に対する憎しみがかなり強いみたいで、そういった憎しみが女性に関するエピソードが多めにしているのじゃないかと思うのですが、もちろんウチの職場、男性だっていっぱいいます。むしろ男性の方が多いくらいです。それなのにあまり日記に登場しない、やはり女性に関してかなり憎しみを抱いているようです。

これはもう、単純に憎いだとか嫌いだとかのレベルを超越していて、例えば一族が集まる晩餐会の席で女性が原因で一族間で殺し合いが巻き起こり、あるものは壁に掛けられた刀剣を手に、あるものは護身用の拳銃を手に、血塗られた惨劇の夜を奇跡的に生き延びた幼き僕、パパやママやオジサマを失う原因となった女性という存在が憎い。そんな憎しみの芽を心に宿して育った、レベルの憎しみです。

まあ単純にそういうことは全然なくて、向こうが嫌ってるわけですから僕も好感を持つはずがなく、自ずと僕も職場の女性をどんなニックネームで呼ぶか、あの女は凍てつく北洋の海に似ている感じのブスだ、北洋ではサケマス漁が盛んだ、よし、あのブスはサケマス漁と呼ぼう、と心の中で話し合ってるだけで一日の仕事が終わります。これでは分かり合えるはずがない。

けれどもね、勘違いしないでもらいたい。ウチの職場にだってちゃんと男性はいるし、僕だって女子社員とばかり関わってるわけではなくて男性社員とだって濃密に関わっているんです。今日はそんなエピソードを紹介したい。

毎度おなじみの職場の休憩所なんだけれども、いっちょコーラでも買って飲んでやるかと休憩所に入ると、同僚というか後輩の男子どもが3人、輪になってテーブルに座り深刻そうな面持ちで何やら話し合っていた。こういったシリアスな場面ってのは大抵が面倒くさいことに展開するので触るぬ神に祟りなしといった感じで素知らぬ顔で通り過ぎようとしたその時、ふいに話しかけられた。

「あ、patoさん、ちょうどよかった。教えてくださいよ」

3人のうちの一人が、何やら安堵の表情で僕に擦り寄ってくる。もうこのセリフだけで大変面倒くさいことが確定していて、できれば関わりたくないんですけど、そんな思いっきりスルーとかできないじゃないですか。仕方なく話を聞くことに。

「なに、教えて欲しいことって?」

見ると、3人組のうちの一人の男の子が泣き濡れていて、完全に楽しくない話題であることが確定。ただ、そんな深刻な事態であればあるほど僕に教えを請うってのがよく分からんのですよ。ハッキリ言って、仕事のこととか教えてくださいって言われても、僕、うちの会社で一番仕事できない自信ありますから教えられないですし、本当に何を教えてもらいたいのか見当もつかないんですよ。

「実はコイツの彼女が……」

あのですね、その泣いている彼女が彼女関連の何かで泣いているらしい、ということは教えて欲しいことって彼女関連の何かじゃないですか。そんなもの僕に聞いてどうするんですか。一番頼っちゃいけない人間だと思いますよ。僕にそんな恋愛関係のエトセトラを聞いてはいけない。絶対にだ。

たとえば、セックスのことを教えてくださいとか言われたら、エロ漫画とかの知識を総動員して、エロ漫画みたいに射精の時に女性器は半透明にならない。透明になってドバアって出てる様子が見えるわけではない、という正しい知識を教えることができるんですけど、恋愛関係だけは絶対に教えられない。どんな知識を総動員しても無理。

でもまあ、ここで脱兎のごとく逃げ出すのも先輩としての威厳がないじゃないですか。僕もやっぱり先輩としてちょっと偉ぶったりとかしたいじゃないですか。頼れる先輩ってやつを演出してみたいじゃないですか。

「なんだね、話してご覧なさい」

なぜか気づくとサウザーみたいな感じで椅子に座って話を聞く体勢になっていました。絶対に的確なアドバイスなんかできないのに。

「実は彼女と別れそうなんです……」

苦しそうに吐き出した山田君はまた大粒の涙をこぼした。話を聞くと、なんでも山田くんは付き合って2年になる彼女がいるらしいのだけど、最近、別れ話を切り出されたそうだ。何でも彼女のほうが物忘れの激しい山田くんにほとほと愛想が尽きたらしい。

二人の記念日とか彼女の誕生日とか忘れるのは当たり前、それどころかデートの約束も忘れたりして大喧嘩。結局、埋め合わせにディズニーランドとかいうところに行く約束したのに、それすらも忘れてえらいことになったらしい。そりゃ、彼女からしたら私のことなんてどうでもいいんでしょ!みたいな気持ちになって当たり前だ。

「どうしたら忘れないようになりますかね……」

そうしょげかえる山田くんを見てですね、なんとかしてあげたい、みたいな気持ちが湧き上がってきたんですよ。ふふ、なんだかんだ言っても僕も先輩、ってことっすかね。

「別に忘れっぽくてもいいんじゃないかな」

実は忘れるという感情はそんなに悪気はない。なにせ忘れてるんだから。失恋した女の子がクッションを抱きながら部屋で泣いていて、よし、あんな男のことなんて忘れよう、とか決意して髪とか切ったりするんですけど、結局は忘れることができなくてまたクッションを涙で濡らす、そんな事もからも分かるように、人間は意図的に忘れることなんてできやしないんですよ。

忘れたフリはできるでしょうが、忘れることは出来ない。つまり、絶対に悪意はないんです。もちろん、忘れるほどの無関心ってのは悪ですが、それだってたいしたことないですよ。現にこうして彼女のことで悩んで泣いている、本質的には無関心ではないんです。だから、忘れないようにするなんてこと不毛で、忘れちゃうんだから仕方がない、それだったら忘れっぽい自分を受け入れてもらうべきじゃないか、そう思うんです。

そんな感じのことを山田くんに説明すると、非常に感銘を受けてくれたみたいでですね、目からウロコどころかサバがまるごと落ちてきたみたいな感じで感動してくれたんですよ。

「俺、謝るっす、彼女に謝るっす、そして話し合って納得してもらうっす!」

みたいになってるわけっすわ。もしかして僕ってすごくいい先輩なんじゃないの?自分で気付いてなかっただけで先輩の才能あるんじゃないの?って自分でも気持ちが高揚してきましてね、そしたら山田くんが言うわけですよ。

「彼女に謝るんで、一緒にきてくれないっすか」

僕そんなに動揺するほうじゃないですし、動揺したとしてもそれを表面に出さないタイプなんですけど、さすがにこれは声が出ましたね。全く何も考えず、脊髄だけで反射して声が出ましたね。

「はあ?」

って。今時の若い人ってのは何を考えているのか全然分からない、何食って育ったらこんな思考になるのか全然分からないんですけど、もう完全に良い先輩モードになっている僕に断るという選択肢というか、そもそもそんな考えも微塵もなく

「わかった、一緒に行ってやる」

と満面の笑顔で言ってました。結局、何故か山田くんと一緒にいた二人の後輩と僕という大部隊で彼女に謝りに行くことに。それだけでも十分に意味不明なんですけど、何故か山田くんの家に彼女を呼び寄せて謝ることに。自分の家ならもう勝手に一人で謝れよって思うんですが、そういうわけにはいかないようです。

早速、数日後に山田くんの家に集結したんですけど、まあ、山田くんの家が広いこと広いこと。独り暮らしのくせに4部屋ぐらいある部屋に住んでいて、なんか寝室とか王室の気品漂う感じになっとるんですよ。

「へえ、いい部屋住んでるじゃないのさ」

僕も、後輩が自分より6ランクくらい上の部屋に住んでるもんですから動揺が隠せず、おまけに変に先輩ぶろうとして訳のわからないキャラ設定になっちゃってて、なんだよ「住んでるじゃないのさ」って、どんなキャラ設定だよと思いつつ、彼女が来るのを待ちます。

ピンポーン!

インターホンが鳴り、彼女が到来したっぽいんですけど、何故か山田くんが焦りだしましてね。

「やば、もう来た。早く隠れてください!」

とか言うんですよ。全然意味が分からないんですけど、なぜか他の二人の後輩がすごい手馴れた感じでクローゼットの中に隠れるもんですから、僕も一緒に隠れることに。

「なんで隠れるの?」

って声を押し殺して質問したんですけど

「いつものことです」

と後輩は言うばかり。さっぱり状況が飲み込めないんですけど、その場の雰囲気で息を潜めていたら何だか悪いことをしてるみたいですごいドキドキしてきて鼻息も荒くなっちゃって、

「なんかこういうのも楽しいね」

ってワクワクな感じで後輩に言ったらすげえ無視されました。で、リビングの方で気配がするんで聞き耳をたてていたんですけど

「なによ…」

「だからさぁ…」

みたいな山田くんと女性が言い争いをしている音声が聞こえてくるんですよ。ははーん、わかりましたぞ、そういうことですか、わかりましたぞ。これはアレですな、山田くんんと彼女が1対1で話し合い、いよいよもうダメだってところでサプライズ的に僕らが登場。彼女は驚き、おまけに僕という彼氏の先輩がいるわけだからいくら怒っている彼女でも彼氏の顔をたてなければならないって感じになるに決まってます。なるほどなるほど、そういうことですか。

ということで、いつ出るタイミングが来るかと今か今かと待っていたんですけど、全然そのタイミングがこない。一緒に隠れている後輩二人が微動だにしない。温泉宿のロビーに置かれている置物みたいに不動。どうなってんだと思っていると、少しだけ漏れ聞こえてくる山田くんと彼女の声が遠くなる。どうやらリビングを離脱してその奥の寝室に入ったもよう。それでも微かに言い争う声が聞こえていたんですけど、それが突如、とんでもない音声に変わったんですよ。

「あん…もう…ああ…」

とか、これね、巣鴨を訪れたご老人100人に聞いても100人がセックス中の音声って答えるしかない完全無欠の喘ぎ声が聞こえてきやがるんですよ。

「どうなってんだ、あいつは、頭おかしいのか!客人を待たせてセックスする奴なんて聞いたことないぞ!」

って後輩に言うんですけど、後輩は真っ暗なクローゼット内でもわかるくらいにニヒルに笑うのみ。かたや僕は臨場感あふれるサウンドにギンギンに勃起っすよ。

「っていうか、あいつもしかして俺らをクローゼット内に隠れさせてるの忘れておっぱじめたんじゃないか!忘れっぽいにも限度があるだろ!」

って言うと、後輩が言うわけですよ。

「わざとですよ。わざと忘れてるんです。こうやってわざと忘れて、セックスの声を人に聞いてもらって興奮してるんですよ、アイツは」

と衝撃のセリフ。すげえな、悪意ある忘れじゃねえか。ないって言った悪意ある忘れが思いっきりあったじゃないか。

結構何人かの同僚たちが、この山田の露出騒ぎの犠牲になっているらしく、男性社員たちの間では山田には近づくなってのが定説になっていたみたい。まあ、僕は嫌われているんでそういう情報は回ってこなかったんですけど。

つまり、今日はこのエピソードで何が言いたかったかというと、冒頭でうちの職場は女性ばかりではないし、僕だって女性とばかり絡んでいるわけではない、男性だっているし男性とも絡んでると主張するつもりでしたが、微妙に修正させていただきます。

女性にだけで嫌われているわけではなく、男性にも嫌われている、ということです。

ちなみに、山田君にもしつこく、今度は声だけじゃなくて見せてよ、射精の時に女性が半透明になってぶしゃーってのが見えるわけじゃないって確認したい、って言い寄り続けていたら、「見られるのは何か違う」という理由で断わられ、無視されるようになりました。女性と男性だけでなく露出癖がある人にも嫌われている。


5/7 カプセル内の青春

咽ぶような熱気の中、少年は一つの決意をしていた。アスファルトから立ち上る熱気が向こう通りの景色を歪める。安っぽおいオレンジのビニールに覆われた一角はまるで太陽の光がオレンジだったかと錯覚させるほどに光を透過させ、その役割をほとんど果たしてはいなかった。

オレンジ色の光の中で少年はもう一度決意した。まるで自分の意思を確認するかのように頷く。思い出の中の夏はいつも暑い。全ての夏が最高気温の猛暑であったように記憶がか書き換えられる。けれども、確かにあの時だけは、あのオレンジ色の光の中で決意した夏だけは、思い出の中のどんな夏よりも暑かった。

小さな田舎町の中心に位置するスーパー、オレンジ色の灼熱の空間はその店先にあった。日を避けるためか風を防ぐためか分からないが、スーパー出口を覆うようにチープな鉄骨が組まれ、そこに色褪せて所々どす黒くなったオレンジ色のシートが被せられていた。

ただのスーパーの出口でしかないこのオレンジ色の空間。何もなく、カゴ置き場とカート置き場くらいしか出番がなさそうなその空間、まさかそこで一生を左右する決意をすることになるとは少年は考えもしなかっただろう。

少年は母親と買い物に行くのが大好きだった。貧乏だったのでそんなにお菓子とか好きなものとか買ってもらえなかったけれども、母親と一緒にカートでグルグルとスーパーをまわることは極上の楽しみだった。今のようにコンビニも大型のショッピングセンターも存在しない時代、まちがいなくこの小さなスーパーが一番の娯楽場だった。

毎日のように母親の買い物について行っていると、巡る順番や買う物などが定番化してきて、野菜コーナーの後は肉コーナー、そのあとタマゴの値段を見に行ってと一連の巡回コースからレジに行き袋詰めして駐車場に移動する。ほとんど変化のないコースだったけれどもそれでも少年にとっては楽しくて仕方がなかった。

ある日、そんな定番の買い物コースに変化が訪れる。野菜コーナーも生肉コーナーもレジも何も全て変わらずいつも通りなのだけど、唯一違っている所があった。出口の自動ドアを出たところ、汚いオレンジ色のシートが被せられたカート置き場でしかない空間に、8台の珍妙なマシンが置かれていた。

その小さな機械は、上の段に4列、下の段に4列と整然と並べられており、その一台は約30センチほどの立方体で、透明になっていた上部のボックスからは中に無数のカプセルがギッシリと詰まっている光景が見えていた。そう、後に子供達の世界で猛威を振るうガチャポンである。

このガチャポン、お金を入れてハンドルをガチャガチャとやるとポンっとカプセルが出てくることからガチャポンと呼ばれているが、正確にはカプセルトイというらしい。全国的にはガチャガチャと呼んだりガチャポンと呼んだり様々なようだが、僕らの時代はガチャガチャと呼ぶことが多かったように思う。

今でこそ、とてもガチャガチャに入っているとは思えない精巧なフィギュアとか、あるアニメに特化したグッズなどが入っていたりするらしく、それ専門のコレクターもいるらしいが、この時代のガチャガチャはそりゃもう怪しかった。とにかく怪しいものが詰まっていた。

後に猛威を振るうことになるビックリマンの偽物、ロッチもこのガチャガチャで売られるようになったし、どういった用途なのか分からないお置物や、土産物屋の売れ残り、みたいなとんでもないものが入っていたりしたものだった。しかも、あまり詳しくないので今はどうか知らないが、現代のガチャガチャはさすがに一端の良心があって、例えばプリキュアのガチャガチャとか、当たりのカプセル以外のハズレのカプセルであってもさすがにプリキュア関連のものが入っていたりするのだろう。

けれども当時のガチャガチャは本当に悪質で、全ての売れ残りを押し込んだカオスで、例えるならば様々な生命の可能性が混ざり合った原始の生命のスープみたいな状態で、とにかくカオスだった。匂いがするネリケシを狙って大々的に「かわいいネリケシ!」と書かれたガチャガチャを回した女の子が意味不明な般若のキーホルダーが出たりして、意味がわからない状態になっていた。

しかしこれらの怪しいガチャガチャたちは田舎の子供たちの心を鷲掴みにしていた。いつも何人かの子供たちが群がり、カプセルを開けては中身を取り出し空のカプセルを捨てる。スーパー側がカプセル専用のゴミ箱を設置するのに時間はいらなかった。

少年も例に漏れず心を奪われた。僕だって皆に混じってガチャガチャをやりたい。けれども、それは許されないことだった。貧しく、一円でも安い野菜を買い求める母親の姿をずっと見てきた少年にとって、ガチャガチャをやりたいなんて言葉は最も口にしてはいけない言葉、禁断の言葉、なんとなくそう感じ取っていた。

けれども、ある日のこと、上機嫌だった母親はいつもの定番コースでレジへと向かう道中、少年に向かってこう口にした。

「100円分だけおやつ買っていいわよ」

少年に迷いはなかった。普段ならんふってわいた興奮に、一気に百円の菓子いっちまうか、それとも10円のを10個買って刻んでいくかなどと迷うところだが、あれこれ考える時間もなく即答。

「それならガチャガチャやりたい」

お菓子を我慢して100円を貰う。普段はレジの横で母親を待っているのだけど、そんなものは素通りし、一気にあのオレンジ色のガチャガチャコーナー目指して走り出した。手の平に模様の跡がつくほどに強く100円玉を握りしめて。

色々なガチャガチャがあった。スライムが出てくるガチャガチャや、チープなマジックのグッズが入っているガチャガチャ、女の子向けのものもあった。けれども、ガチャガチャ全面に書かれているこれらの商品説明は全く当てにならない。中にはとんでもないカオスが詰まっているのだ。少年はなんだか早く済ませないといけないような気がして、焦りながら適当に一番右上のガチャガチャに100円玉を投入し、思いっきりハンドルを回した。

ガチャ、ガチャ、と機械的な音が2回聞こえ、確かに手応えがある。100円玉がセットされた部分が機械内部にスライドし、その機械音と共に吸い込まれた。同時に、ハンドルのちょっと下に備えられた穴から半分透明、半分赤色のカプセルが出てくる。オレンジ色のシートの影響で、一瞬、そのカプセルがオレンジ色に見えた。

少年は荒い息づかいでそのカプセルを開ける。カプセルは少し力を加えただけで簡単に二つに分かれた。中には曲面状に曲がったペラペラの怪しげな紙一枚と、濃厚な紫色をした小さな箱がついたキーホルダー。何んなのかサッパリわからなかった。とりあえず、中に入っていた紙を見てみる。どうやら説明書のようだった。

「セクシーキーホルダー」

怪しげな、どういうセンスしたらこんなのを選択できるんだって感じのおどろおどろしいフォントで書かれたその文字を読んでもさっぱり意味がわからなかった。確かにキーホルダーだ、それはわかる。なにせ小さな箱の上部から鎖が伸びて鍵を付けるとこがついているからな。しかし、「セクシー」の意味がわからない。

少年は悩んだ。お菓子と引き換えに手に入れたものがこれ。果たして自分の選択は正しかったのだろうか。こんな意味不明なものが欲しかったのか。お菓子を買っておいたほうが良かったんじゃないだろうか。おそらく少年が成長していくに従ってそんな選択は何度でもある。もちろん内容もより深刻になっていくだろう。いちいち後悔していても始まらない。とにかく今はこの箱の謎を解き明かすべきだ。

「ボタンを押すとセクシーなことが起こるよ!?」

説明書にはそれだけが書かれていた。ボタン!?もう一度マジマジと謎の箱を見てみる。なるほど、箱の中心に力士の乳首みたいな大きさの突起がついている。これがボタンだろう。これを押せばセクシーなことが始まる?一体何が?とにかく少年はボタンを押してみた。

「プシューンプシューン!」

ボタンの上にあった穴がスピーカーの役割を果たしているのか、そこから機械的で甲高い音が聞こえた。音が出るとは思っていなかったので一瞬、ビクっと体を強ばらせてしまう。そして間髪を入れずに謎の箱は音を出す。

「あはーん、うふーん、いいわー、グッド、グッド、カマンベイベ」

意味が、わから、ない。どうやらこれが「セクシーなこと」らしい。一瞬ポカーンとなってしまうが、すぐにそれが女性のエロスな喘ぎ声であることに気がつく。よくよく説明書の裏側を見ると、金髪の姉ちゃんが女豹のような感じこちらを見つめ、なぜか唇の端からさくらんぼが垂れているという衝撃的に意味不明な絵がプリントされていた。

「買ったの?」

ふいに買い物袋を持った母さんに後ろから話しかけられる。僕は咄嗟に今出た謎のセクシーキーホルダーを隠す。なんだか悪いことをしているような気持ちになったからだ。

「たいしたもの出なかったよ」 「そう」

そう会話しながら駐車場に向かう少年のポケットの中では、セクシーキーホルダーの入ったカプセルが強く強く握り締められていた。

深夜、少年は家族が寝静まったのを確認して物音がしないように1ミリづつゆっくりと玄関ドアを開け、真っ暗な闇へと躍り出た。もう一度あのセクシーボイスを聴くためだ。周りに誰もいないのを確認してボタンを押す。

「あはーん、うふーん、いいわー、グッド、グッド、カマンベイベ」

クソッ、なにがカマンベイベだ。こんなもの、こんなもの、という思いとは裏腹に少年はギンギンに勃起していた。まるで我が家に金髪のセクシー美女がやって来た、そんな錯覚を起こすほどにこのキーホルダーは良く出来てやがる。説明書にプリントされた金髪の姉ちゃん、むちゃくちゃおっぱいがでかい。

3回ほどボタンを押してセクシーボイスを聞いた後、もう一度玄関の明かりを使って説明書の金髪を見る。すると、先ほどは気づかなかった文字があることに気付いた。

「全6種」

腰が抜けるかと思った。このセクシーボイスが……6種!?衝撃だった。あのガチャガチャの中にはまだ残り5人の美女が詰まってやがる。なんとかして手に入れなければならないんじゃないだろうか。それが僕に課せられた使命なんじゃないだろうか。少年は苦悩した。それよりなにより、もっとエロいボイスを聞きたかった。抑えられない欲望は葛藤と変わり、深い闇のように少年の心を侵食していった。

次の日、少年はあのオレンジ色のあの場所にやって来ていた。今日は歩いてきたから一人だ。母親はいない。手には、もしものために貯金しておくだよと、爺さんが少ない年金からくれた2千円が握り締められていた。

少年は今がそのもしもの時だと思っていた。けれども、本当に2千円を賭けるだけの価値があるのだろうか。そんな不安が大蛇のように少年に絡みついていた。当然のことながら2千円で20回は回せる。けれども、その20回でセクシーキーホルダーが出る保証はない。それよりなにより、このエロキーホルダー欲しさに全財産を注ぎ込む自分、そんな自分の将来に対する不安があった。

大人とは着実で冷静だ。少なくとも少年の目からはそう見えていた。大人はこんなものに狂ったように興じたりはしない。もしここで自分が全財産をガチャガチャにつぎ込んだとしたら、欲望に勝てない人間、エロに勝てない人間、何も積み上げられない人間、そんな風になってしまうんじゃないだろうか。今思うとオナニーすると馬鹿になると本気で心配するレベルのことなのだけど、本当に真剣に苦悩した。

セミの声と、特売を告げるカセットテープの音がうるさい。オレンジ色の光は容赦なく少年に降り注ぐ。立っているだけでジワッと背中に汗が伝うのがわかる。それは暑さ故のことなのか、それとも別の汗なのか、もう少年にもわからない。

少年は決意する。様々な思いが葛藤する中、心を決める。僕はそうやって生きていく。アホのようにアホなことに全てを注ぎ、エロいことに夢中になる。そんな大人になってもいい。それでいい。だから、いま、僕は、ここでセクシーキーホルダーを手に入れる。

少年はガチャガチャの透明部分を横から覗き込んだ。少し透明な箱からは中のカプセルが見ることができる。ある。上の方のカプセルの一つの中に見慣れた金髪美女の写真が見えた。少なくとも一つは必ず入っている。その事実が少年を奮い立たせた。

けれども、すぐに2千円をぶっこむような愚かな真似はしない。今現在、このガチャガチャの中に何個のカプセルが入っているのか測らねばならない。今でこそ、ガチャガチャ内の体積と残りカプセルの高さ、カプセルの体積から、どちらかの最密充填構造だと仮定して充填率74%から計算して何個入っているのか計算できるけど、少年にはそんな力はない。けれども工夫はできる。

空のカプセル専用ゴミ箱から空のカプセルを取り出し、アンケート回収箱がちょうどガチャガチャと同じくらいの大きさだったのでそこに詰めてみる。横から見た高さと同じになるまでカプセルを入れてみると、ちょうど20個くらい入った。

いける。

20個なら持っている2千円で全部買える。さすがにそこまでしたらロクな大人にならないような気がするが、もう決意してしまった少年にそんなものは関係ない。ロクでもない大人になってやる。レジに走り両替してもらった100円玉20枚。鬼神の如き勢いで回しまくる。

本当にこの当時のガチャガチャは悪質で、セクシーガチャガチャ、と全面のパネルで謳っているくせに、中には何故か「熱海」と書かれた巻物や変な忍者の首が飛び出す人形、キラキラした瞳のシールなど、lこれ工場で作ってる人とか疑問に思わないのかなってレベルのものがガンガン出てきた。最初に出たのがすごいレアな当たりだったみたいで、千九百円使っても全く出ない、何故か「熱海」だけは3つでた。

けれども、もうあと一つでこのガチャガチャの中のカプセルは全て買い占めたことになる。それは間違いなくセクシーキーホルダーであるはず。よこから覗き込むと、何故か底の方に4つのカプセルが残っていた。何かを間違えたのか、それとも底部分の送り出しスペースを考慮に入れていなかったのか予定より3つ多い。もはやどれが出るかわからない。確率は最低だと1/4。ええい、ままよ、祈りを込めてハンドルを回した。

ガチャリコ。

カプセルが勢い良く躍り出る。チラリと金髪美人の顔が見えた。きやがった。でやがった。ついに出やがった。少年は歓喜に酔いしれた。狙い通りに目当てのモノを手に入れられる喜びを噛み締めた。成功とはこういうものなのだ。早速、セクシーボイスを聞いてやろうとカプセルを手に取り、震える手で開ける。今度はどんなセクシーボイスが。さらに挑発的なセクシーボイスなのか。情熱的なセクシーボイスなのか。震える手でボタンを押す。

「あはーん、うふーん、いいわー、グッド、グッド、カマンベイベ」

おんなじだった。

本当にこの当時のガチャガチャは悪質だった。全六種と謳いながら、6種も入ってない。そんなのは当たり前だった。熱気が渦巻くオレンジの光の中、少年はガックリとうなだれることしかできなかった。ちなみに、このキーホルダーをカバンにつけていて、授業中にカマンベイヘが炸裂し、一時期ベイベっていうニックネームで呼ばれることになるのはまた別のお話。

ガチャガチャといえばそんな切ない思いでしかない。そして現代、なにやらソーシャルゲームと呼ばれるネットゲームでガチャガチャが空前のブームらしい。携帯代金で払える方式とかのせいで親が知らない間に子供が何十万と使ったりなどとちょっと問題になってるようだ。

僕もちょっとやってみたのだけど、たしかによくできている。それはゲームとしてよくできているわけではなく、お金を払わせる構造としてよくできているのだ。家庭用ゲームなどはユーザーのストレスをなくす方向で技術や演出が発展してきた。けれども、今のそれらのソーシャルゲームは、システムとしてユーザーがストレスを感じるように作り、金を払うことでそのストレスが解消されるようにできている。

時間が経過しないと回復しないライフみたいなものがあり、金を払うとそのライフが回復する。ライフがないと何も出来ない。けれども、ライフを使いきったところでちょうど特典が二倍になる時間が10分限定で始まるように作られていて、その2倍タイムをフルに使うには自然回復を待ってはいられない。お金を払わなければいけないのだ。

そして、カードやアイテムを集めるにはガチャガチャをしなければならないのだけど、無料のガチャガチャでは全然出なくて、レアなものしか出ない高い金額設定のガチャガチャなんかが鎮座しており、それを使うと楽に進められるよ、楽にレアなの集まるよ、と死ぬほど煽ってくる。コンプリートしそうになると目当てのカードが絶対的に出にくくなるとか滅茶苦茶だ。

けれども、あのとき、ロクでもない大人になると灼熱のオレンジ色の中で決意した少年は、こんな現代のガチャガチャにははまらない。なぜなら、少年はもっと悪質でもっと魅惑的なガチャガチャを知っているからだ。

どんなレアなカードもアイテムも、それはたぶんただのデーターで、絶対にあのキーホルダーには敵わない。「カマンベイベ」と絶叫するあのキーホルダーには敵わないのだ。


5/6 ある日・・・

朝起きて適当にご飯食べて仕事に行って、なにやらヒソヒソと陰口を叩かれて適当に切り上げてラーメン食って帰ってオナニーして寝る。見紛う事なき僕の日常で我ながら吐き気がするほどクソな毎日の繰り返しだと思うのだけど、明日からこの日常が送れないとなった場合、それはちょっと嫌というか困る。クソな日常であってもなくなると困るのだ。

みながみんなそれぞれに大切な「日常」ってやつがあって、無意識のうちにそれを守ろうとしているのだけれど、その大切な日常がいとも簡単に崩れ去りうる脆くて危ういものだということにはあまり気が付いていない。

例えば、毎日仕事から帰ってプロ野球見ながらビールを一杯、なんてのが大切な日常であるお父さんも帰りの電車で手を掴まれて「この人痴漢です」と爬虫類みたいな女に叫ばれるだけで崩壊する。もしかしたらもうそんな日常は送れないかもしれないのだ。

こんなこと言ってしまっては言葉が悪いかもしれないが、天災や人災などの不可抗力的事象だって日常を破壊する大きな要因だし、そこまで大規模でなくてもちょっとした悪意、ちょっとしたすれ違い、思い違い、そんな些末なことでこの日常はいとも簡単に崩壊するのだ。

そして、それらの崩壊は最も日常が日常らしい時、本人は気付いてないかもしれないが、最も幸せな時に訪れるものだ。今日はそんな話をしたい。

あれは僕がまだオナニーを覚えたてのルーキーだった中学生時代のことだった。全国的にそうだと思うけど中学ってのは良く分からない風習というか風土が蔓延しているものだ。今思い返してみるとなんであんなことしてたんだろうと思うことが多々あるのだけれど、当時の自分たちは至って真剣だったりするのだから始末が悪い。

そんな中学のおかしな風土の一つに、我が校では体育祭のハチマキ伝説というものがあった。これは、年に一度開催される体育祭の時にクラスでお揃いのハチマキを自作して装備し、体育祭終了後には女子が密かに恋心を寄せる男子のハチマキを貰い好いただの何だのやりはじめる行事だった。

今考えるとアホじゃねえかって思うし、そんなハチマキくださいって言われるよりもフェラチオの一つでもしてくれた方がいくらか恋も成就しやすい、中学生なんて性欲の塊っすからね、全然いけるって思うのですけれども、当時の僕らは真剣で、体育祭の終わった後などハチマキ持った男子がなかなか帰らずウロウロしているものだった。

そしてある年のこと、その年も体育祭の開催が近づいてきて男女共に色めきだってきました。ちょうどバレンタイン前のヌルッとしたざわめきとでもいいましょうか、そんな男女間の機微みたいな甘酸っぱい何かがあったのです。

ここまで、この男女の一大イベントをまるで他人事のように書いてきましたが、そりゃそうで、もちろん僕にとっては他人事で、ハチマキをくださいって女子に言われたことなんてなくて毎年キッチリとハチマキを家に持ち帰っていた僕には非常に関係ない話で、ハチマキだって母ちゃんが洗濯物を干すのに使っているくらいでした。

本当に完全に他人事で、全くと言っていいほど体育祭にもハチマキにも、もちろんそのあとの恋愛イベントにも興味がなかった僕だったのですが、ある年だけ、どうしてもハチマキに関わらなくてはならない、そんな事態が巻き起こったのです。

なんてことはない、ハチマキ係に任命されただけで、体育祭に向けてクラス全員分のハチマキを準備する責任者みたいなのになってしまったのです。まあ、責任者といっても実際に縫ったり切ったりして裁縫するのはクラスの女子全員の仕事でしたので、まあ、僕の仕事はハチマキに使う布を買いに行くくらい。その布だってあらかじめ色やなんかはクラスの話し合いで決定していますから、完全におつかいをするだけ、みたいな状況でした。

そんな面倒くさく、しかもやりがいもクソもない仕事を割り振られ、おまけにハチマキに対する思い入れもほぼゼロ、そんな僕がテンションあがるわけもない、と思ったのですが、意外や意外、僕のテンションはだだ上がりで、とにかくこのハチマキ係をやり遂げる、そんな熱意に燃えていたのです。

実は、このハチマキ係、男だけだと訳の分からん蛾みたいな色合いのものを作るし、女子だけに任せても異様にメルヘンチックなお花の国の王女様みたいなのが出来上がるため、男女ペアでやってバランスを取るのが慣習みたいになっていました。そして、僕ともう一人任命された女子が僕が密かに恋心を寄せる女子だったわけで、否応にもテンションが上がったわけなのです。

ハチマキ係を決めるクラスでの話し合いと、色とかを決めるクラスでの話し合いが終わった後、僕らは二人教室に残りました。この時点ですごい良い匂いとかしていて僕はもうギンギンに勃起していたと思います。若いですね、中学生ですもの。とにかく、この好きな子と僕はハチマキ用の布を買いにいかなければならないのです。

「電車に乗っていかなきゃいけないね。今度の日曜日行こうか?」

少し照れくさそうに笑いながらそういう彼女の笑顔を見て、僕は確信しましたね。母ちゃんすまん、今年はハチマキ持って帰れそうにない。洗濯物は別の紐を使って吊り下げてくれ、そう確信するに至ったのです。今年の体育祭は何かが起こる。きっとこの恋が実る。

僕の住んでいた町は、たぶん現代の都会っ子とかがホームステイに来たら三日目に自殺しちゃうんじゃないかってレベルの微妙な田舎でしたので布を買うには汽車に乗って隣の町まで行く必要があったのです。

僕ら中学生にとってその隣町に行くってのはある種のステータスで、ちょっとおませなかっぷるや、かっこつけたい男子グループなどが休みの日に隣町に遊びに行く、それが約束された上位ヒエラルキーのムーブメントだったのです。

僕もついにその休日に隣町まで遊びに行くステージに到達したか、それも好きな子と一緒にだ。これはもうデートだ。デートに違いない。果たして布を買うだけで済みますかな!みたいなことを妄想し、前日などは眠れなくて眠れなくて仕方がなかった。

そしていよいよ当日、起きてみてビックリしました。遅刻確定とまではいいませんが本気で急がなければ遅刻してしまうかなり切羽詰った時間帯に目覚めてしまったのです。いくら興奮して寝付けなかったとはいえ、こんな晴れの日に寝坊とはありえません。

「なんで起こしてくれなかったんだよ!クソババア!」

1ミリも悪くない母さんに悪態をつくところなんて本当に中学生らしくて微笑ましいのですが、とにかく急がねばなりません。彼女との待ち合わせは駅、急いで準備して全速力で向かえばギリギリ間に合う。今のように携帯電話などない時代ですから遅刻はご法度、おまけに田舎で汽車を一本逃すと次いつ乗れるか分かったものじゃありませんから、とにかく遅刻だけはできないのです。

当初の予定ではちょっと髪型とか決めて行ったりするはずだったのですが、そんなものは全て省略、急いで家を出ようと身支度を整えていると、神の悪戯とも思える不幸が巻き起こったのです。

「ウンコしたい……」

いつも大切な場面でウンコがしたくなり幾多の人生におけるチャンスの芽を踏み潰すことになる僕でしたが、さすがにこの時ばかりはありえないと思いました。大好きな子と待ち合わせ、時間ギリギリ、その場面での便意、無視して待ち合わせに向かおうものなら途中で出る、けれどもゆっくりウンコなどしていたら本格的に待ち合わせに間に合わない。

迷いに迷った僕は決断しました。一瞬でウンコを全て出し光の速さで待ち合わせに向かう。もうそう決断したら行動は早く、ドアを蹴破る勢いでトイレにインし、便器に座るのとズボンとパンツをズリ下げるのがほぼ同時、しかも座った瞬間にビビビビビブですよ。よし、瞬殺でウンコを出すこと成功した。まだ間に合う。急いで尻を拭こうとした瞬間ですよ。

「紙がない」

いつもは誇らしげにトイレットペーパーが咲き誇ってるであろう場所にトイレットペーパーのカケラすら見当たりませんでした。ただ茶色いトイレットペーパーの芯だけが哀愁を漂わせて佇んでいました。やばい、このままでは間に合わない。ただでさえ1分1秒を争っている場面なのに、ここでドアを半分だけ開けて手だけ出して「母ちゃん紙ー」なんて要求している時間はない。耳が遠くてトロい母さんのことだ、紙を用意するのに天文学的時間がかかるに違いない。

僕は今でこそ人間の進化のためにウンコの後も尻を拭かない、そう宣言して痔になった男ですが、当時は悩みましたよ。このまま尻を拭かずにウンコを終える?そのままデートに?さんざん悩みましたが、それでも遅刻するよりはマシと判断し、そのまま拭かずにパンツとズボンを吐き、待ち合わせ場所へと直行したのでした。

鬼神の如き形相で自転車を漕ぎ、競輪選手みたいになりながら地元の駅に到着。秒単位のギリギリさでなんとか彼女と会うことができ、予定していた電車にも乗ることができたのです。危なかった、紙を探して尻を拭いていたら間違いなく間に合わなかった。僕の判断は正しかった。

「大丈夫?すごい汗かいてるよ?」

もう秋口になろうかという涼やかな季節であるのに、車内ではハァハァ言って汗をブシュブシュ噴出させている僕を気遣う彼女。その姿はまさにエンジェル。こんな可愛く優しい女の子とデートに隣町まで行く僕、母さん、今年はハチマキ持って帰れそうにないわ、あとトイレに紙補充しといてや。

車内は非常に空いていたのですが、なんだかボックス席に座るのが気恥ずかしかった僕らはそのままドア付近で立ちながら談笑、この辺も非常にスムーズでしてね、この僕がこんなにも女子と軽やかに会話ができるとは思いもしませんでした。

1時間が経過するとついに汽車は目的の駅に到達。やはり地元と比べてかなり都会で圧倒されるものがありました。完全に打ち解けていた僕と彼女は目的の布ショップを目指してアーケード街を歩いていたのですが、そこでとんでもない事件が巻き起こったのです。

尻の穴が痒い。

もう、普通に痒いとかのレベルではなく、下手したら狂うんじゃないか、なんか小さい小人みたいなのが槍もってケツの穴を暴れまわってるんじゃないかって痒さだった。とにかく尋常じゃないレベルで尻の穴が痒かった。

やはりというかなんというか、出掛けにウンコして拭かなかったじゃないですか。その時に周辺に残っていたウンコが硬化して乾燥し、とんでもない痒みを演出し始めたのです。この痒みが分からない人は、ウンコした後に尻を拭くのをやめてみたらいい。

ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。ケツが痒い。

アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。 アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。アナルが痒い。

さっきまで好きな子と楽しいデートをしていて

「ほんとだよ、マリオだって4面まではいけるんだから」

「あ、4面からワープできるよ」

みたいな会話をしていたのに、今や考えるのはアナルのことばかり。

「でね、4面のトゲトゲのやついるでしょ?」

(アナルアナルアナルアナル)

「どうしたの?」

「いや」(アナルアナルアナルアナル)

完全に心ここにあらずですよ。全てをアナルに支配された中学生の姿がそこにあったのです。とにかく尻を掻き毟りたい、許されるのならばズボンを脱いで今ココで掻き毟りたい。釘抜きみたいな道具でガリガリとやったりたい。尻こ玉が抜ける勢いで掻きたい。ウザい、横で楽しそうに話しているこの小娘がウザい。いいよな、お前はアナルが痒くなくて。何が4面のトゲトゲのやつだ、そのトゲでアナルかきむしりたいわ。

「それで、この間先生が言うんだけどー」

本当にこの小娘がうざったい。ちょっと黙っててくれないだろうか。っていうか尻の穴をかきむしってくれないだろうか、そんな感じ、たぶん並の精神力の人間だったら精神崩壊していると思う、それくらい痒かった。

布ショップに到着後も考えるのはアナルのことばかり、ここに展示している全ての布でアナルを拭きたい、摩擦で煙が出るくらいダイナミックに拭きたい。拭きたい拭きたいアナル痒いアナル痒い。

「オレンジ色なんだけど、サテンと普通のどっちにしよっか?」

なんて二種類の布を手のとって彼女が言うんですけど、普通のヤツの方が良く拭き取れそうだとしか思えず、心ここにあらずといった状態でした。そのうち彼女の顔すらウンコがこびりついたアナルみたいに見えてきましたんで、もう色々と限界と悟り、布ショップを出て隣のボンタンとか売ってる不良ファッションショップのトイレに駆け込み、トイレットペーパーを使って何度も何度も、痒みが収まるまでアナルを拭き続けたのでした。そういった動きをするカラクリ人形のように。

これってすごい不思議なんですけど、アナル周辺で一度乾燥したウンコって本当に頑固で、拭いても拭いてもうっすらと紙に茶色い軌跡が残るんですね。とにかく、もうあんな思いをするのだけは嫌だ、せっかくのデートを楽しみたい、そんな一心で何度も何度も尻を拭きました。

どれくらい拭いていたか分かりません。とにかく満足し、店を出ると、布ショップの店先で彼女が布を持って所在無く佇んでいました。どうやら僕の姿が見えないのでもう自分の判断で布を購入してしまった様子。本当はこの後、適当に理由をつけて彼女と本格的デートになだれ込もうと企んでいたのですが、本日のアナルコンディションでそれは危険、またいつ痒みが再発するか分かりませんから、早急に帰宅する必要があります。

というか、駅に向かう道中、何度も我々の前に立ちはだかるノストラダムスのように早速アナルが痒くなり、絶望したのですが、もうなりふり構ってられないのでズボンの上からパンツの上から、彼女に気づかれないのようにアナルをかきむしっていたのですが、もうね、指がすごくウンコ臭くなるのね。

しかも帰りの汽車の中で、彼女が、「買った布、大きさ大丈夫かな?ちょっと広げてみよ。pato君、はじっこ持ってて」とか、スロット屋にいるニット帽のガキ軍団くらいウザいこと言い出しましてね、汽車の中で布を広げやがるんですよ。僕も布を持つのを手伝ったんですけど、明らかに指からウンコの匂いするでしょ。

「いや、この布では拭いてないよ」

とか訳の分からないことを弁明するのが精一杯で、明らかに思いましたね、この恋終わったな、と。

とにかく、日常とは脆いものです。好きな子とデートなんていう一大スペクタクル、最も守りたいであろう一大イベントであっても、ウンコをして尻を拭かなかった、それだけでいとも簡単に崩壊するのです。大切さに気付いていない日常なんてどれだけ壊れやすいか。どんなクソのような日常だって、きっとあなたにとっては大切な日常なのです。それを噛みしめ、守るべく行動するべきなのです。

ちなみに、ハチマキは完成し、もちろん体育祭後に誰にも貰われなかった僕のハチマキですが、あの悲劇を繰り返さぬよう、トイレにでもぶら下げて尻を拭くのに使おうとも思ったのですが、ツルツルしたサテンの素材だったので、ちょっと拭きにくそうでしたら。だから拭きやすい普通の布がよかったのに。

(2004年5月20日の日記をリライト)


5/5 理想の自分に出会う100の方法

「本来ならばそちらが謝るべきです。どちらかというと被害者は僕の方なんですよ。こちらが悲鳴を上げたいくらいです。さあ、早急に出て行ってください」

このように毅然と言えたらどんなにか素晴らしいことだろうか。人には誰しも理想の自分というのがあって、その幻想の中の自分でありたいと願っているはずだ。どんな難しいことでも難なくやり遂げてしまう自分、多くの人に好かれる自分、いつも聡明で冷静な自分、さまざまな理想の自分があるはずだ。

けれども、多くの人はその理想の通りには振る舞えない。現実と幻想とのギャップに直面し、時に苦しみ、時に悩み、そして受け入れる。世の中はこんなものであると。それは諦めに近い感情なのかもしれない。

かくいう僕も、特にこの憧れは強い。例えば理想の僕は、もっとこう、女子供に好かれるようなスタイリッシュな文章をワールドワイドウェブ上に掲載し、知的でクールな感じをサイト上から醸し出し、おまけに職場においても皆から信頼され、週末などは飲み会やリクリエーション、栗拾いツアーなどに誘われて大忙し、職場のカワイイ女の子から上司にセクハラされてるって相談されて、それで怒りに燃える正義感の塊でありたい。

書いてみて本気でビックリしたのだけど、何一つ達成されていなくてすごい。現実の僕は、ウンコが漏れたとかそういうことばかりワールドワイドウェブ上に載せているし、知的さもクールさも感じられない。こう、なんというかサイトからヌメっとした嫌な感じしか感じられない。それも中途半端な不快感レベル。おまけに職場では嫌われていて全く信頼されていなくてどんなイベントにも誘われず、職場のカワイイ女の子が上司にセクハラされているという話を盗み聞きして興奮して勃起してるくらいが関の山だ。

思うに、理想の自分、なんてのは持たないほうがいいのかもしれない。なぜならば、人は足ることを知らない生き物だ。どんな状況にあっても、ここが自分のMAXである、とはそうそう思わない。常にまだ上がある、と思うことができる生き物だ。それはよく言えば向上心だけれども、悪く言えば永遠に満たされることのない欲望。この世の多くの不幸はこの足ることを知らないという人間の特性から生まれる。

つまり、理想の自分とはこの間のエロ動画のお話と同じで、永遠に到達することのない自分なのだ。この永遠に到達できないという事実を前向きに受け取れる人ならいいのだけど、多くの人がそうであるとは限らない。上手い人がやった後のマリオカートのゴースト取るか、馬の目の前にぶら下げられた人参ととるかだ。非常に残念で寂しいことなのだけど、理想は理想なのだ。

だから僕はよくサラリーマンの人が電車の中で読んでいるような、「人に好かれる50の方法」とか「理想の自分に出会う100の方法」みたいな自己啓発本の類がものすごく嫌いだ。あれは理想の自分になるための本ではなく、自分の欠点を知るためのものでしかないからだ。足ることを知らない人間の塊だ。

理想は時に不幸を生む。そういった意味で冒頭の文章を振り返ってみてもらいたい。

「本来ならばそちらが謝るべきです。どちらかというと被害者は僕の方なんですよ。こちらが悲鳴を上げたいくらいです。さあ、早急に出て行ってください」

かなり毅然としたセリフである。僕はある場面において、このセリフを淀みなく言ってのけられる自分に憧れていた。あるシチュエーションになった時、毅然とこのセリフを言ってやりたい、それは過去に何度かその場面に遭遇したにも関わらず、全く言えなかった自分に対する戒めの意味もあったかもしれない。けれども、そう言える自分に憧れていたのだ。

それは今日、子供の日の出来事だった。都市から少し離れた山間のワインディングロードをドライブして光と影のストライプを楽しんでいた。その時、悲劇は起こった。

ウンコがしたい。

長いことうんこ漏らしを生業にしていると、そのウンコしたい想いがどれだけの危険度なのか大体わかってくるようになる。かなり深刻で臨界に近いのか、それともまだ序章で何度か収まったり再発したりを繰り返すのか、比較的硬いウンコで、かなりの時間肛門に留めておけるのか、それとも下痢で全てを素通りしてしまうのか、全ての要素を瞬時に判断し、危険度を算出することができる。

この場合、下痢であり危険度はまだ序章レベル、腹痛の深さから言っても放出までにはかなり時間的猶予がある。危険度はだいたい30%といったところだろうか。これまでの修羅場の数々を考えると児戯に等しいウンコだった。

おまけにシチュエーション的にかなり恵まれている。ドライブ中で山の中、これはバイオリンの才能がある少年が幼少期よりバイオリンに触れることができる裕福な家庭に生まれる、くらい環境に恵まれている。僕らはいくらバイオリンの才能があったとしても触ったこともないから気がつかない。それくらいセーフティーな環境だ。

まず、山の中という点がいい。一見すると店舗とかが少なくトイレに行けるチャンスという面で考えるとかなり危険だが、野糞を決意してしまうとこのフィールド全てがトイレと化す。かなり安全だ。おまけに目撃者も全くいない。ドライブ中なので好きな場所に入っていって野糞かますことができる。逆にこれが満員の山手線の中とかだとかなり危険度が高い。

腹痛の危険度自体もそう高くなく、おまけにシチュエーション的にも楽勝、ならばもう少しこの腹痛を楽しもうか、それくらいの余裕が僕にはあった。おまけに走っていると、こんな山間部には珍しくセブンイレブンの看板が見えてきた。山間の集落の期待と希望を一心に背負ったみたいなセブンイレブンだった。

「ふっ、楽勝だな」

ここでコンビニ出会うとは、あまりにイージーな試合展開すぎて笑みがこぼれてしまう。まあ、このまま極限まで便意を我慢するのもいい、つまりこのコンビニをスルーし極限に追い込んで楽しむのもいいのだけど、時には大人の余裕を見せつけて華麗に処理するのも一興だ。僕は迷わずウィンカーをだし、愛車のポルシェはセブンイレブンの駐車場へと吸い込まれていった。

セブンイレブン店内は、田舎によくありがちな、畑で採れたものまで勝手に陳列しているような半分道の駅みたいなコンビニだったのだけど、トイレはなかなか綺麗で立派なものがついていた。こういったコンビニにありがちな、大きな個室に大便器が一つポツンと置いてあるみたいな、綾波レイの部屋みたいなトイレだった。

ここで誰かがトイレに入っていて満員御礼ソールドアウト、だとかなり危機レベルが上がるし、現にここでのソールドアウトは腹痛時にはかなり安心して気が緩んでいるのでかなり攻撃力が高く、過去に何度か辛酸を舐めることになったりしたのだけど、今回はそんなこともなく、普通にトイレも空いており、かなり安易にトイレへと到達することができた。

便器に座り一息つく。ブリブリと下半身からは気持ち良いくらいの下痢がエイベックスに例えるとAAAくらいの感じの下痢がかなりダンサブルに、それでいてメロディアスに排出されていた。過去に何度もウンコをもらしたからだろうか、かなり冷静に対処できるようになったものだ。理想の自分に少し近づけたような気がしたが、本当に理想の自分は出先でウンコをしたくならない安定した腸の自分だったことに気がつく。まだまだ僕は理想には程足りない。

あの美しい白鳥は、水面では優雅に泳いでいるが水面下では必死にもがいている。そんな感じで、頭では冷静にクールに、それでいてちょっと男前の感じでありながら水面下ではブババババババボルボルボッ!みたいな感じで下痢が出ていて、最後のボッ!って何が出たんだよって思うのだけど、そんな感じでウンコを楽しんでいると、トイレの外からガチャガチャと騒がしい音が聞こえてきていた。

「ホント、今日は暑いわー!」

「あ、私トイレー!」

20代後半くらいの女性の話し声だろうか、二重になっているトイレドアの向こうから声が聞こえる。どうやらトイレがしたくて入ってくるようだが、残念ながらこのコンビニ唯一の男女兼用トイレは僕が使っている。待たねばならない。しかも、僕が思いっきり下痢を出した後の便器であなたは用を足さなければならないのだ。かわいそうに。くさいぞー。

そんなことを考えながら、ハッと、トイレとしては広すぎる個室を見渡し、便器から少し離れた距離にあるドアに目をやった。前回3月24日に書いた日記では、「施錠」ボタンを押さなかった僕がギャルに開けられてしまい、すごい辱めを受けたエピソードを書いた。まさか今回も鍵を閉め忘れて開けられてしまうのではないだろうか、そんな不安がよぎり鍵に目をやった。

杞憂であった。フック式の鍵はしっかりと突起物に引っかかっている。鉤爪状のフックが壁の突起に引っかかってカギがかかるような構造になっていた。時空の捻じれでも起きない限りこのドアが開けられることはないだろう。しかし、不思議なのはこうしてトイレのドアが開けられてしまいウンコを見られた場合、なぜか僕は

「わー、ごめんなさい!」

などと焦りなのかなんなのかしらないけど謝ってしまう。けれども、冷静に考えるとこれはおかしい。謝って欲しいのは僕の方である。こっちはウンコを排出している場面、という普通では人に見せることはない場面を見られているわけで、そりゃあ、僕がウンコしながら街を練り歩いていたら変なもの見せてごめん、と謝ることもやぶさかではないけれども、入ってきたのはテメーだ。こっちが謝って欲しいくらいだ。

つまり、今回はしっかりカギがかかっているので開けられることはありえないけれども、もしまた、これまでの数多の悲劇のように、ウンコ中にトイレを開けられるようなことがあったら毅然と言ってやりたい、謝って欲しいのはこちらだと。だから気が動転して「わーごめんなさい」となぜか謝っていまう自分ではなく、クールにそしてスマートに

「本来ならばそちらが謝るべきです。どちらかというと被害者は僕の方なんですよ。こちらが悲鳴を上げたいくらいです。さあ、早急に出て行ってください」

と言える自分に憧れるのだ。次回、もし開けられる場面があったら是非言いたい。理想の自分に到達したい。

「あれ、あかない」

トイレの外では女性がドアを開けようとガチャガチャやっている。普通はノックするものだが困った子猫ちゃんだ、いよいよ「入ってますよー」って声をかけようと思ったが、この鍵がしっかりかかっているという安心感に安堵しつつ、しっかりかかっている鍵のフックを眺める。しっかりかかっている。

ガチャガチャガチャ

女性はドアを開けようと何度も扉を揺らす。その瞬間だった。扉が揺れる度にその反動でフックが上下に揺れ、今にも外れそうな感じで危なっかしかったのだけど、さすがに外れることはないだろう、それじゃあカギの意味がなさすぎる、とか思いながら眺めていると、本当に反動でフックがガッチャン、と上に跳ね上げられた。その刹那、時間にして0.3秒、ドアが開く。おだんご頭のカワイイ感じの女性。目と目が合う、僕の下半身はボバッブボバッブボスルトルンと下痢が出ている。

「きゃーーー!」

女性が悲鳴を上げる。マジか、本気で開けられた。鍵の意味がなさすぎる。どんな罠だ。未だ今がチャンスだ。憧れの自分に到達するチャンスだ。今こそ冷静にクールに

「本来ならばそちらが謝るべきです。どちらかというと被害者は僕の方なんですよ。こちらが悲鳴を上げたいくらいです。さあ、早急に出て行ってください」

と言い放つのだ。そう決意した僕は、なぜだか知らないけど立ち上がってしまい、本気で気が動転して

「あうあうあー」

としか言えなかった。

女性視点で見ると、ドアが揺さぶられた反動で鍵が空いたとは思わず、多分最初から開いていたと思うはず。よくわからないデブが鍵も閉めずにウンコしていて、入ったら下半身露出であうあうあー、完全に露出狂だ。3年は喰らうはず。

開けられてしまったらこう毅然と言いたい、そんな理想があるからそこに到達できず、あうあうあーみたいなさらに挙動不審なことになって怪しさがマックスビートになってしまうのです。さすがに警察呼ばれたかと思ってすごいビクビクしながらコンビニから出ましたからね。

理想の自分、それは向上心のためにも持つべきかもしれません。けれども決して到達し得ない過度の理想はあまり自分のためにはならないのです。ほら、知的で聡明な日記を書きたい理想の自分があったのに、結局下痢の話しか書いてない、そんな僕みたいに。


5/4 社長令嬢誘拐事件

このインターネットという世界が広く一般化してきて、今やそのへんの死にかけのお婆ちゃんですら孫の写真をネットで受信したり、温泉旅行の予約をネットでしたりと、コンピューターお婆ちゃんが当たり前の世界になってきました。

使用率が総人口の何割かというあるラインを超えると爆発的に普及するという話があります。おそらく、インターネットもある時を境に爆発的に普及したのはこのラインを超えたからではないかと思います。しかしこういった普及と同時に多くの犯罪行為が生まれるといった負の面もあるのです。

インターネットの普及と共にインターネットを使った犯罪行為も爆発的に増加しました。架空請求詐欺などはその最たる例なわけで、ここNumeriでも何度となく取り上げ、僕も果敢にその種のサイトにアタックしていましたから、未だにそういった詐欺サイトに誘引するメールが山のように来るのです。

けれども、ここで少し疑問があるのです。例えば、僕が書いた「出会い系サイトと対決する」ですとか「悪徳SPAMメールと対決する」などのいわゆる対決シリーズですが、これらが書かれたのはもう何年前も、けれども未だに多くの方に読んで頂いている現状を考えると、ある一つの疑問が湧き上がるのです。

なぜ、なくならないのだろうか?

僕のメールボックスには未だに最盛期の勢いで誘引メールが来ます。携帯にだって狂ったように来ますし、未だに請求メールが来ることも。まだまだ元気にそういった詐欺サイトが活動していることが伺えます。けれどもね、さすがにもう騙される人はいないんじゃないか、そう思うのです。

もはや、こういうサイトは詐欺であるってのは一般常識に近いものがありますし、インターネットが普及しだした初期ならまだしも、もう何年も経過しているのです。多くの人がそれなりの修羅場をくくぐってきているはずなんです。

こういった詐欺行為ってのは商行為と同じでして、儲からない場合は早急な変化が必要とされるのです。何年も営業している儲からない定食屋じゃないんですから、ダメならスパッと変化しなくてはならない。

例えば一時期は爆発的に儲かっていたみたいで、テレビでもバンバンCMし、ちょっとした地方都市の繁華街の雑居ビル全ての階をサラ金の自動契約機が占拠していた時期があったと思うのですが、今や、過払い金などの問題でサラ金も非常に苦しく、契約機は大きく数を減らし、CMの数も大幅に減りました。このように、儲からない時はスパッと変化する、そういった柔軟性が必要なのです。

しかしながら、どう考えても今や引っかかる人がいるとは思えず、全然儲からないと思うのですが、それでもそういった詐欺サイトに誘引するメールは減りません。これを書いている今でも最盛期と変わらない勢いでドカドカとやってくるのです。ちょうど、今来たメールをピックアップしてみましょう。

件名:3億5千万円いますぐ振り込めます

主人の遺産が3億5千万円あります。これを今すぐ振込みます。ですからわたしを満足させていただけないでしょうか?こんな女だとは思わないでください。自分自身、自分の中に秘められていた大胆さにドキドキしています。主人に抑圧されていた性欲が爆発したみたい。とにかくすぐに振込みます、メールだと国税局に目をつけられますのでhttp://XXX.XXにアクセスし、メールボックスを作って口座番号を教えてください。登録は無料ですから安心して

これに引っかかる人がいるとは思えない。うひょー3億5千万円の大チャンス!と本気で喜び勇んで登録する人間がいるのならば是非ともお目にかかって一晩飲み明かしたい。ありえない。

いやね、こんな荒唐無稽なものではなくてもっとリアルな感じの巧妙なメールで、さらには受け取る人がすごいお人好しだとか、彼女と別れたばかりで心が沈んでいたとか、満月の夜だった、とか色々なことが重なって騙される人っているとは思うんですよ。別にそれ自体はいいんですけど、問題はその騙される人も無限ではない、という点です。

日本なんて1億人ちょっとの人口で、その中でもインターネット人口が9千万人。そのなかでどれだけの人が騙されるのかは知りませんが決して多い数だとは思えない。ということは、この種の詐欺が騒がれるようになった期間から考えると、それらの人々はもう十分騙され尽くしたと思うんですよね。

そうなると、もう全然儲からないはずで、もっと引っかかるように詐欺サイト側も企業努力していて、普通のマダムが誘ってくるとかそういったスタンダードな誘い文句から逸脱、オリジナリティを出して

「ハイレグ研究家です。ワタシのハイレグ見てくれないかしら」

「ワニに食べられたい。こんな私ですがワニのように犯してもらえますか?」

「どうみてもマーガリンとしか思えないものが乳首から出てきます。舐めて味を確かめてみてください」

とか、もう企業努力しすぎててワケの分からない状態、最後の奴なんて自分で舐めて確かめろよって思うのですが、とにかく、こうやって努力する姿からも、努力すれば騙される奴がいるってことですから、やはりまだ騙される人がいるんでしょうね。でも、こんなメールなら従来のスタイルの方がまだ騙される可能性があると思うのですが、つくづくおかしいものです。

そんな良く分からない状況に陥った詐欺サイト誘引メールですが、先日、こんなものがやってきました。

件名:執事です

これも企業努力でしょうか。最近では金持ちマダムが暇と性欲と金を持て余しているという演出のために執事が出てくることが多いです。執事が出てくることで相手が金持ちということにリアリティを演出しているつもりかもしれませんが、これがまあ、とにかく多い。

どうせ、執事が奥様に仰せつかって旦那様に内緒でセックスをしてくださる相手を探しています。謝礼は十分にいたします。旦那様にバレないよう指定サイトに登録して頂きたく思います。安心してください無料のサイトです。みたいな感じで誘引してくるのは分かりきってて、過去に何度もこういったメールがきましたので、はいはい、って感じで開いてみると、そこには衝撃の展開が待ち構えていたのです。

件名:執事です

突然のメール申し訳ありません。本日はご協力して欲しくメール致しました。実は麗華お嬢様が昨夜家を飛び出したっきり帰ってこなくなりました。麗華お嬢様はカバンに4千万円をつめて出ています。心配です。旦那様は我が勅使河原家の恥になると警察に届け出ず、麗華お嬢様を保護した方にそのお金を差し上げるつもりのようです。ご協力お願いできませんでしょうか。

まさかの麗華お嬢様行方不明。いや、警察に連絡しろよと思うのですが、僕はこのメールに何かただならぬ違和感を感じてしまい、どうしたものかと何度も熟読していたのですが、そこに追い打ちをかけるように再度メールがきました。

件名:執事です

実は旦那様には口止めされていますが、私には麗華お嬢様の行き先に心当たりがあります。そこでインターネット接続を解析し、近い場所に住んでいると思われる貴方に失礼とは思いましたがメールさせていただきました。麗華お嬢様はすぐ近くにいます。4千万円を手に入れてください。居場所のヒントはメールでは危険ですので、http://xxx.xxxこちらのサイトに書いておきました。無料ですので安心して登録してください。

ははーん、こりゃあ、ひょとするとひょっとするぞ。僕はそう思いましたね。多分なんですけど、これは単に出会いサイトに誘引するメールではありませんよ。事態はかなり切迫している。急いで登録せねば、そう思ってメールソフトを閉じようとすると、またもや執事からメールが。

件名:執事です

大変です。今見知らぬ男から電話があり、麗華お嬢様が誘拐されたようです。身代金4億円を請求されました。旦那様は支払うつもりのようです。いま、銀行を駆け回って4億円現金で用意しました。誘拐犯は身代金受け渡しにアナタを指名してきました。どうか、麗華お嬢様を助けると思って引き受けてもらえませんか?

え、僕!?いきなり営利誘拐の身代金引渡しの運び役に指名されて大混乱。そんな大役、責任が大きすぎてやれそうにありませんし、なにより怖いじゃないですか。誘拐犯によって殺害されるかもしれません。そんな危険なことをその会ったこともない麗華お嬢様のためにやるなんて……。と思うのですが、でも、今僕が逃げ出したら誰が麗華お嬢様を救うというのですか。誰が麗華お嬢様を助けるというのですか。よし、やる、いくら危険でもやってやるぞ、と決意していると

件名:執事です

確かに、見知らぬ貴方にこんなことをお願いするのは非常識だと思います。けれども、アナタにしかできないことなのです。旦那様はもし麗華様を救って頂けたらゆくゆくは麗華様と結婚して時期勅使河原家の当主になってもらうつもりと仰っています。どうか、引き受けてもらえませんでしょうか?身代金受け渡しの方法はhttp://xxx.xxxこちらのサイトで

そんな、僕が…勅使河原家…次期当主!?ってか、なんで見ず知らずの誘拐犯が僕を指名したんだろう。それよりなにより、せっかく引き受けるつもりになっていたのに今引き受けたら麗華お嬢様との結婚や、時期当主という餌に釣られたみたいで何か嫌じゃないですか。どうしたものかと困っていると

件名:執事です

ちなみに麗華お嬢様は24歳Fカップです。

なにいってんだこの執事。でもまあ、Fカップかあ。そうかあ。でもなあ、誘拐犯にお金持っていくってことは対峙するってことだし、そこで撃たれたり刺されたりしたら嫌だなあ、怖いなあって思ってると、さらに執事からメールが着弾。

件名:執事です

でも身代金の4億だけ受け取って誘拐犯のところにいかず、姿をくらませるのもいいですよね。4億丸儲け。その方法も教えますのでhttp://xxx.xxxこちらのサイトで

うわー、この執事むちゃくちゃ悪いやつだな。僕がそんなことしたら麗華お嬢様が殺されてしまうじゃないか。こりゃあどうしたものかなーって思っているとまたメールが

件名:麗華です

いきなりこんなメールを送ってごめんなさい。実は今、私は正体不明の男達に拉致されて監禁されています。けれどもヒョロヒョロの男たちばかりなので、たぶん助けが来たらすぐ逃げてしまうでしょう。武器も持っていないみたいです。もしよかったら助けてもらえませんか。お礼はお父様がきっとしてくれるはずです。私が監禁されている場所はhttp://xxx.xxxこちらのサイトに書いておきました。最初だけ登録が必要ですが無料だから安心して

おいおい、麗華お嬢様大丈夫かよ。ってか、犯人はヒョロヒョロ、武器もなし、こりゃあ結構簡単に助け出せるかもしれない。

件名:執事です

誘拐犯側に動きがあったようです。事態は切迫しています。早く決断を!http://xxx.xxx

残念ながら僕はこのメールで全ての真相に気がついてしまったのです。誘拐という血塗られた宴の主催、ナイトファントムの正体がね。よーし、あとはこの麻酔銃でおっちゃんを眠らせて……。ってとにかくメールを書きました

件名:patoです

執事さん、もうそんな心配する素振りをしなくていいんですよ。僕は最初からあなたが誘拐犯の一味であることは気付いていました。そして麗華お嬢様、あなたもグルであるということにね。つまり、真実はこうです。麗華お嬢様と執事の安岡さん、あなたは共謀して勅使河原家の財産4億円を手に入れようと画策した。しかし、勅使河原さんはそう簡単にはお金を出さない。そこでこの狂言誘拐を思いついたわけです。最初は行方をくらませたことにして、後に脅迫電話をかける、しかしこれらを受けたのは全て執事の安岡さんだ。そして、監禁中でありながら麗華お嬢様は私のもとにメールを送ってきた。これではお嬢様が監禁状態になく、誘拐犯とグルといってるようなものです。おそらく動機は金使いの荒いお嬢様の金銭欲と、執事の安岡さんの麗華さんに対する想い、そう、実は安岡さんと麗華さんは生き別れた兄妹だったのです。そう、あの豪華客船沈没事件の生き残り。だから協力せざるをえなかった。そうでしょう

ってメール送ったら、執事の安岡は堪忍し、涙を流しながら自白しだしたって展開を予想していたのですが、どうやら存在しないアドレスだったみたいでメールが返ってきちゃいました。仕方ないので、何度も誘われていたサイト経由で事件の真相を教えてやろうとアクセスし、登録すると

登録されました。利用料金は88000円です。と地獄みたいなフォントで表示されていました。なるほど、みんなこうやって騙されるのか。


5/3 カリギュラの箱

patoは焦っていた。早く家に帰らねばならない。早く家に帰ってエロ動画を鑑賞しなくてはならない。僕にはそうする義務があるのだ。多くの場合、エロ動画に限らず、エロ系のものは隠れてコソコソ鑑賞するものだと思われがちだ。エロ本もエロビデオも、ホモがいっぱい出てくる同人誌も、隠れてコソコソ見るものだと相場が決まっている。人にはそれぞれ趣味嗜好があって、それぞれの好みにあったエロを選択し、興奮する材料に用いているのだ。patoは沢山のエロ動画を見ていた時、ふと一つの考えに到達した。それはカワイイ女優、好みのシチュエーション、好みの反応、高画質、高音質これらエロ動画を構成する全ての要素は要素でしかないという画期的考え方だ。なんのことだか理解できる人はいないと思うので、少し掘り下げて説明してみよう。

お気に入りのエロ動画を観たとして、生涯その動画で抜けるだろうか。答えは否。4回も見たら飽きてしまう。これは仕方がないことだ。僕らの脳は意図的に飽きるように作られている。しばらく時間間隔をおいて見ればまた興奮するようになるがそれも時間の問題で、必ず飽きがくる。それを何度も繰り返しているうちに次第にその動画は色褪せていく。といっても、昔のようにアナログではないデジタルな媒体だ。実際に色褪せはしないが自分の脳の中では確実に色褪せていく。今、テレビでジュリアナ東京などの映像を見ると、あまりのダサさにビックリするが、それが当時は最先端の流行だった。つまり、今どんなにナウいものだって時間が経てば必ず色褪せる。どんなエロ動画にもこれと同じことが起こる。

エロ動画を探す、見つける、飽きる、また探す、僕らはこの永遠のラビリンスから抜け出すことができない。それはすごい悲しいことだし屈辱的なことだ。言うなれば、僕らはエロビデオで抜いているのではなく、抜かされているのではないだろうか、それに気がついた時、patoは一つの考えに到達した。実はエロ動画ってなんでもいいんじゃないだろうか、と。良いエロ動画、悪いエロ動画、抜けるエロ動画、抜けないエロ動画、僕らはすぐにそんな風にカテゴライズしてしまうが、そもそも、それは大きな間違いなのだ。エロ動画は完全に受け取る側の問題、僕らユーザーがどんな心持ちで見るのかによって決まるのである。

良いエロ動画を追い求めることに終りはない。けれども、パラダイムシフトにより受け取る側の問題、つまり、以下に興奮するシチュエーションで見るか、いかに興奮する心の持ちかたで見るか、そう考えること世にってエロ動画との不毛な追いかけごっこに終止符が打たれることになる。これは非常に画期的だし、時間の節約になるだけでなくネットワークリソースの節約にも繋がる、たいへん有意義な考え方なのである。patoは提唱する、動画本位のエロ動画の時代は終わった。これからは僕らユーザーが主役なのだと。

併せてpatoはこのようなことも主張している。興奮するエロ動画ではなく、興奮するシチュエーションでのエロ動画の閲覧という話になると、短絡的な人はすぐに「見てはいけない場面でのエロ動画の閲覧」という考えに至る。けれども、どうかそのような安易で安直なことはしないでいただきたい、そう警鐘を鳴らすのである。昨今は、いかにタブーを犯すかという尺度でしか人々は競えなくなってしまった。けれども、エロ動画の真髄はそのようなタブー犯しではない。職場、学校、家族のリビング、そんな見てはいけないシチュエーションの中でエロ動画を見ることにより興奮を得る。それは正解ではないのだ。

エロ動画とは安泰であり安定である。心安らかで安全な状況があって初めてエロ動画を楽しみ熱中することができるのだ。見てはいけない場面で見ることで興奮する行動は確かに欲求の理にかなっているが、それは安定という要素からは相反するものである。興奮を求めるあまり、私生活での地位を失っては何にもならないのだ。patoも若さゆえ、その種の興奮を求めた時期もあったが、今はそれが間違いであったと言える。そのような興奮は間違っている。では、どのようにして興奮を得るのか。今日はそのへんの部分を実例を交えて紹介していきたい。

まず家に帰ってこっそり観る、そのへんの部分は間違えていない。けれども、場違いな場所で鑑賞する興奮も捨てがたいものだ。要はこっそり鑑賞して安定を得つつ、それでいて場違いな場所で見る興奮を得ればいいわけだ。場違いな場所で見る興奮というのは、実は観てはいけない場所で観るという興奮であり、観たいのに観てはいけない、でも観る、というカタルシス的な興奮である。では、これを職場や家族のリビングで観るのではなく、擬似的に作り出してやれば良いのである。

皆さんはエロ動画を見るとき、好みの動画を探してみる、もしくはご自慢のライブラリから出してきて見るという手法を採用しているかと思う。これは、じつは観る直前に動画の選択がなされているということである。まずはこの部分から考え直して欲しい。直前に選択していたのでは欲求が高まるだけの十分な時間がないのである。短い滑走路では小さなセスナしか飛び立てない。僕らはもっと大型の爆撃機を十分に長い滑走路から飛び立たせるべきなのだ。

つまり、少なくとも8時間前、できれば出勤前などに動画の選択を済ませておくべきである。できれば、おおよその内容がわかってる程度の動画を選択しておくべきである。すると、今日朝選んだ動画はどうなだろうか、どんなエロスなことが行われているだろうか、考えと想像を育むだけの十分な時間が存在する。実際にpatoも朝出勤前に動画サイトでマッサージ物を検索し、内容を見ずにダウンロード、それをUSBメモリに封印して職場に持ってきた。別に職場で見るためではない、そのメモリを眺めながら思いを滾らせるためだけに、現物として存在するUSBメモリの中にエロ動画を入れ、それを所持したのだ。

ここで、わざわざマッサージ物を選択し、検索したことについて釈明したい。上の方で動画の内容なんて関係ない、シチュエーションで抜くんだと言いつつ、テメーはマッサージ物を選んでいるじゃねえかと、内容で選り好みをしてるじゃねえかと。確かに、僕の理想ではエロ動画の内容は関係ないはずである。けれども僕だってまだまだひよっこ、この方法を実践するにはまだ力量が大きく足りない。まずは好きなジャンルのエロ動画でこの方法を試していき、次第に慣らしていく、最終的にはブスが喋ってるだけの動画で抜けるようになる予定である。

そういった意味ではマッサージ物のエロ動画は大変興奮する。これにはエロ動画でありながら起承転結があるのである。まず、普通に女の人が入ってきてマッサージを受ける起、エロそうなマッサージのおっさんの手つきがエロスになっていき、何かおかしいと女が気づき始める承、けれども快楽には抗えない、そして声が出るのも止められない転、オイルとか使い出すマッサージ師、いつのまにか下半身は裸になっている結、そしてついには我慢できなくなった女性は、マッサージ師のイチモツを、あれ、起承転結より項目が多い。とにかく興奮する。

これを観ようと検索をかけるのだけど、日本語の通じるエロ動画サイトのマッサージ物のエロ動画は見尽くしてしまったのでマニアックな海外サイトで検索するのだけど、そのサイトは日本語での検索に対応していない。つまり「massage」で検索しなければならないのだけど、これだと、わけわからん白人や黒人の女がシーハシーハいいながらマッサージされている画像が大量に出てきてしまうので、きちんと「massage Japanese」とか「massage jap」とかで検索しなくてはならない。そこで上の方に出てきた検索結果の動画を、内容もサムネイルも見ずにダウンロードしてUSBメモリに封印する。

仕事をしながら、USBメモリを眺める。この中にまだ見ぬマッサージ動画が詰まっている。そうやって思いを馳せることで興奮度が増していく。見たいのに見れないというストレスをかけることで、それが打ち破られた時の快感を演出するのだ。まだ12時、お昼だ、気が遠くなるほどの長い時間をやり過ごさないとこの動画を見ることができない。極上(と思われる)動画を見ることができない。募る思いは興奮へと変換されていくのだ。3時を超える頃、いよいよ終業時間が見越せるようになり、先が見えてくる。永遠の彼方と思われたゴールが現実的距離に感じられることにより、興奮もうなぎのぼり。鼻息なども荒くなってくる時間帯だ。ふいにこのUSBを会社のパソコンにぶっ刺して鑑賞したい気分に駆られるが、まだまだ早い、それにこんな場所で鑑賞してはいけない。家に帰ってゆっくり鑑賞すればいい、それまでジッと我慢の子だ。

いよいよ終業時間。長かった戦いも終わりと思いがちだが、実はここからが本番だ。このまま飛ぶように家に帰ってしまっては興奮の爆発が足りない。いつでも家に帰れる状態にありながら、あえて帰らずに想いを爆発させる。そんな熟成期間が必要なのだ。ここは、あかんり話が長くてうざったい感じの同僚や先輩のところに雑談しに行こう。特に先輩がいいだろう。帰りたくなってもなかなか切り上げて帰るわけにはいかない。話が長くてうざったい感じの先輩のところに行きましょう。その時、様々な想いが詰まったUSBメモリを握りしめていくといい。

で、この先輩のところに行くと、いつものことだし、僕もそんなこと言える立場ではないのだけど、本当に仕事してんのかって感じで、なんか将棋盤に向かってウンウンと唸ってた。たぶん、一日中、詰将棋をしていたんだと思う。とんでもないクズだ。で、この人の話が長くて面倒くさくてうっかり雑談になってしまうと本当にウンザリすることこの上ないのだけど、今日はあえてこの先輩のところに飛び込んでみる。全てはこのUSBメモリの中に存在する動画への想いを爆発させるため。

いつもながら、訳のわからない部分から雑談が展開していき、先輩の話は尖閣諸島問題だとか、日米安保とかそういう話になってくる。別に僕もそういうった話題は嫌いではないのだけど、この先輩はとにかく日本を批判するスタンスが強く、とてもじゃないが雑談でするレベルのものじゃないシリアスな会話をガンガンしてくる。どうも、雑談というよりはいかに相手を言い負かすかみたいなものに日々の生活の中にも重きをおいているようで、とにかく疲れる。下手に刺激すると何がスイッチになるか分からないしで、とにかく大変なので普段は近寄らないのだけど、今日は話は別だ。

だから日本はダメなんだ、そもそも諸外国では……。などと先輩の日本批判も1時間が経過し、ウンザリという思いが強まったその時だった。同時に同時に早く帰って動画を見たいという想いも最高潮に達した。今だ、今家に帰って動画を見れば、途方もない興奮度で見ることができるに違いない。とっとと切り上げて家に帰る。

「だから日本という国は労働者に対する思いやりが」

なんていう先輩の持論がピークに達したので

「そもそも労働してないじゃないっすか、先輩、詰将棋してるだけじゃないっすか」

と口を挟み、先輩が怒り狂って「出て行け!」となったので出ていき、帰り支度を整えて電車に飛び乗り、早く家に早く家にとブツブツ呟きながら動画に思いを馳せる。本当に辛い時間だった。死ぬほど辛い時間だった。この動画に対する興奮度を高めるためとはいえ、日本がどうだこうだと日本に対する批判を聴く時間はヘビーで、死ぬほど疲れる時間だった。しかし、それからももう解放された。あとは家に帰って、早朝、出勤前に検索してダウンロードしておいた「massage Japanese」で検索したマッサージエロ動画を見るだけだ。死ぬほど大好きなマッサージ動画だ、たぶん腰とか浮いちゃうくらいにぶっこ抜けるに違いない。うおー、早く帰って見たい、とにかく見たいのだ。

家に帰るやいなやパソコンの前に転がるようにして座り、USBメモリをぶっ刺して動画を再生する。いよいよ始まる。今日一日我慢していた動画を見ることができる。ガリガリとハードディスクが唸りを上げて再生の準備を整える。その間に右手はマウスの状態で器用に左手だけでズボンとパンツを脱ぎ、全てを臨戦態勢、迎撃体制にする。さあ、くる、退屈な仕事の時間も、死ぬほど苦痛な先輩の日本批判の時間も耐えた、今日一日の全てを捧げたマッサージ動画がついにくる。二回は抜く!ついに再生が始まり、フルスクリーンで画面に表示された!

画面には、なぜか帽子を斜めにかぶったわんぱくそうな黒人男性が、ラップみたいな感じで英語を喋り始めた。何が起こり始めたのか全然わからなかったのだけど、落ち着いて聞いてみると、英語はよくわからないのだけど何やら日本を批判している様子。良く分からない。最初は、そういう導入部分で次第にエロい展開になってくのかと思ったのだけど、終始、黒人男性が、時折中指とか立てながら日本批判をしているだけ。ついには日本の旗とか破り始めた。

何が起こったのか全然わからないけど、とりあえず、早朝に検索した動画サイトに行ってみて、自分の履歴を見てみると、朝に検索した文字が出てきた。確かに日本物のマッサージ動画を求めて「message japanese」で検索したはずなのに、よく見ると

「message japanese」(メッセージ、ジャパニーズ)

だああ、メッセージじゃねえ!これはあれか、この黒人青年の日本に対するメッセージか。僕は今日一日、こんなクソ動画をメモリに忍ばせて祈っていたのか。

黒人が三回目の中指立て見せた瞬間、さすがに動画は見る側の問題で、どんな動画でもこっちの受け止め方で抜けるはずだって持論だったけど、さすがにこれでは抜けないと思いつつ、そっと動画を閉じた。というか、アメリカとそういうポルノ大国のエロ動画サイトは日本語検索に対応して欲しい。

「ホント、アメリカという国は日本の動画愛好家に対する思いやりが」

先輩のように呟きながら、アメリカ批判動画をあげてやろうかと思った。


5/2 ガールズトーク

今日はちょっと言わせて欲しいんですけど、あの、巷で女どもがこぞってのたまってるガールズトークってあるじゃないですか。なんか女同士で恋の話とかしちゃったりしてね、やーん、ちょうイケメン、やーん、ちょうカワイイー、とか言っちゃったりするガールズトーク、あれ、頭おかしいんですか。

あのですね、僕だってそんなに攻撃的に物申したいわけではなく、本当はここにもっと穏やかな、それこそ隣の爺さんが死んだっぽい、ひっそりと息を引き取ったっぽい、告別式は明日の3時から、とかそういう話を書きたいですよ。そういうので盛り上がりたいですよ。けれどもね、さすがの僕もこれにはちょっと攻撃的にならざるを得ない、そんな状況が出来上がりつつあるんです。

調べてみますと、ガールズトークってのは、そこれこそガールズとトークを組み合わせた言葉で、セックスと依存症を組み合わせたセックス依存症って言葉とそんなに変わりないんですけど、意味としてはそのまま女どもが話をする様子を表すみたいなんですけど、これがもうとにかく女の酷さ、醜さを象徴していてすごい。

あのですね、よく女どもがやりがちなんですけど、ある行為に自分らでネーミングをしてその行為を正当化するじゃないですか。ネーミングすることでさも、それが世間一般に認められてる、みたいな風潮を無理矢理に既成事実化してしまうんですよね。

最近の代表例では「婚活」ですよ。これって、けっこう30歳っていう城壁が見えてきた女性なんかが狂ったようにお見合いパーティーだとかに参加する様を表現しているわけなんですけど、やっぱそのまま、「結婚を焦って活動している状態」と表現するのはよろしくないわけ。で、「婚活」なんていうちょっと良いイメージの言葉を選択しちゃう。

「アラフォー」とかもかっこいい感じで使ってますけど、オッサン、オバサンですからね。とにかくもう、言葉さえ変えればなんとかなるって思ってる事例が多すぎてもう我慢できない。しかも、そういうのって結構女性が主犯だったりするんですよね。

でまあ、こういう女性を非難する感じのこと書くと極めて高確率で「私女ですけどそんなことありません」とか「patoさんは女性を分かってない」とか「だからモテないんですよ」とか「気持ち悪いんで近づかないでもらえますか」とか、そういったメールが雨あられですよ。ホント、黙らっしゃいと言いたいし、クリトリスでも剥いてろ、と言いたい。

わざわざ私女ですけどって名乗るくらいなら、間違いを指摘するより、クリトリス剥いたんで吸ってくださいとか画像の一つでも添付してこいって話ですよ。僕だって自分が間違ってるのは重々承知しておりますので、そういったメールは一切不要です。

でまあ、ガールズトークの話に戻るんですけど、なんかさガールズトークとかいって少し高貴な一段上の会合みたいな雰囲気を醸し出しているじゃないですか。秘密の女同士の会話よ!みたいな、カワイイでしょ!みたいな、そんなしゃらくさい雰囲気をモンモンに醸し出してるでしょ、もう、あれないですわ。

いやいや、話してる内容って、「彼氏が私のこと愛してないかもしれない」「体が目当てだとしたら悲しいな、私ってそんな存在なのかな?」とか、ユーミンのラジオみたいな内容ならまだいいですよ。それ、一万歩譲ってガールズトークと認めよう。

けれども実際には女同士で寄り集まって、「ウンコが出ない、マジ便秘」だとか「下剤飲んですげえウンコ出した」だとか「ウンコがサクラダファミリア」とか、そんなんですよ。あのですね、これのどこがガールズトークですか。

じゃあ僕らが「あそこのピンサロは指名料ケチってフリーで入ると人の妬みや恨みなどのそういった醜い負の感情が渦巻き、やがてそれら淀みが具現化して人の形になったみたいなブスがでてくる」とかそんな会話をしてゲハゲハ笑っているのをボーイズトークっていうんですか。言わないでしょう。こういうのは単に下賎な会話って言うんですよ。

で、この問題の「ガールズトーク」なんですけど、先日、こんなことがあったんです。

僕は職場で思いっきり嫌われていて、まあ、一つ嫌われエピソードを披露しますけど、ウチの職場のメンツで色々と飲み会やったり遊びに行ったり、時にはイベントを企画したりと、そういった仕事以外でエンジョイするサークルみたいなものがあるんですね。

でまあ、僕も何を血迷ったかそのサークルに入っておりまして、たぶん、サークル→セックスみたいな短絡的な考えだったんでしょうけど、とにかくサークルに入っていたんです。すごいアクティブなサークルで、一緒に牧場とか行ったりね、バーベキューとかしたりとかしてましたよ。僕抜きで。

なぜだかお誘いのメールみたいなのが全然回ってこなくて、毎月3千円くらいの会費だけを吸い上げられる圧倒的搾取システムが出来上がっていたんですけど、別に今更そんなことは気にしない。嫌われてるんじゃ、とかオドオドして悩むステージにはいない。とうにそんなステージは突き抜けている。

で、全然イベントごとには誘われないんですけど、お誘い以外の皆に回覧する連絡事項みたいなメールだけは見ることができるんですね。これってかなり残酷で、連絡事項メールはくるのにお誘いメールはこない、意図的に排除してるってことですからね。

でまあ、その連絡事項が主に、田中さんがサークルに加盟しました、みなさん社内で見かけたら声をかけてあげましょう、みたいなメールがほとんどなんですけど、ある日、一人の女の子が爆弾を投じたんです。

わたし、もうサークルやめます。

なにか悲しいことでもあったんでしょうね。おそらく男絡みのエトセトラじゃないでしょうか。こういった仲良し系サークルってのは参加者同士の距離が近い分、どうしてもそういった色恋沙汰がつきまとってくるものです。それらが上手く流れるのなら結構なことなんでしょうが、逆に上手くいかないとそりゃあ大変ですよ。距離が近いだけに憎しみに変わるのも早い。

でまあ、彼女の脱退宣言を受けてにわかにサークル内が騒がしくなったんですよ。なにやらゴソゴソと話し合ってるサークルメンバーとか見るようになりましたし、回ってくる連絡メールもシリアスなものになっていったんです。

どうやら、サークルとしては皆で仲良くやってるのだからなるべく脱退者は出したくない。皆で仲良くやりましょうというスタンスらしく、全員協力してその女の子に、考え直すように説得をし始めたんです。説得ですよ、説得、セックスじゃないですよ。

もちろん、実際に対面しての話し合いによる慰留説得もあったでしょうし、メール上でも激しく彼女を引き止める多くの意見が交わされたのです。一気に彼女はサークル内のスターダムにのし上がり、話題の中心。それに気を良くしたのか知りませんが彼女はついに

「私がこんなに必要とされてるなんて…脱退するのやめます」

みたいなことを宣言して、この騒動は収束したのです。なんか豪腕小沢みてーな女だと思いつつも、僕は思いましたね、これだ、と。脱退宣言することによりサークル中の注目を集めた彼女、その作戦を利用すれば、会費だけを搾取されて誘われないという今の僕の状況を打破できるのではないか。そんな考えが浮かんだのです。

「サークルを脱退しようと思います」

僕はすぐにサークル全体にメールを送りました。多くは書かず、何か深刻な理由があって脱退する感じを醸し出してみました。これで皆から狂ったように引き留めメールが来る。なにせ皆で仲良くしたいんだからな、脱退者は出せない。そうすると、色々と誘わなかった自分たちが悪いのではないか、会費だけを吸い取っていた自分たちが悪、そう反省するはずです。下手したら2、3人の女はセックスしていいから脱退しないで、くらいは言い出すかもしれません。いやいや、さすがにセックスはないだろ、セックスは、説得だろ。いや、もしかしたらもしかしますぞ、セックスとはいかないまでもフェラくらいなら。いやいやいややそれは刺激が強すぎますぞ。

とか考えていたらメールがきましたよ。おやおや、お早い返信で、さっそく引き留め工作ですかな。焦っちゃって!おやおや、サークルのリーダーからのメールじゃないですか、リーダー直々に引き留めとは、なかなか焦らせてしまったみたいですな、メンゴメンゴ、ちょっとやりうぎちゃったかなとか思いつつ、届いたメールを見てみると、

「脱退の意思は固いと推察しました。脱退届けを受理します」

とか書いてありました。まあ、その程度には嫌われています。しかも受理されて脱退したのに会費は取られ続けてるからな。

でまあ、話をガールズトークに戻すんですけど、そんな嫌われている僕がホイホイっと職場の休憩室みたいな場所に入ってですね、一発コーラでも買ってやろうかと思って軽やかに引き戸をガラッとやったんですけどね、なにやら話し声が聞こえるんです。

「もう会えないんだ」

「ちょう悲しい」

この休憩所はタバコを吸う人が喫煙所としても使う関係で最近二重扉構造に作り替えられたんですけど、その一個目の扉を開けたら何やら女性たちの会話が漏れ聞こえてきたんです。二個目の扉はシースルーではないですから姿こそは見えませんが、声だけで判断できます。どうせ女どもがピーチクパーチク、惚れただの腫れただの、性器周辺に水疱ができただのそんな話をしているに決まってます。

このままベロンと性器の一つや二つブラブラさせて入っていって休憩室をパニックルームにすることができたらすごくダイナミックな人生を送れると思うんですけど、まあ、さすがにやれないので息を潜めて盗み聞きしていたんですけど

「そしたらすごい深刻な顔で話に来て」

「ずっと夜通し、沈黙しながら過ごしたの」

「悲しかった」

みたいな会話が漏れ聞こえてきたんです。前の会話の内容と併せて考えると、どうせ男と別れた話で、夜通し泣いたみたいな会話をしているに決まってます。それもそんなエピソードをオチなしで語っているに決まってます。

ホント、いつも思うんですけど、なんで女の話ってオチがないんですかね。なんか職場の女がブラジャーを買いに行った時の話を横で聞いていたことがあるんですけど、かなりエキサイティングに下着屋までの道程のことを語っていたので、かなりすげえオチが、ブラと間違えて店員のおっぱいを毟り取って帰ってきたレベルのオチが待っているとドキドキしながら聞いていたんですけど、なんてことはない、「それでね、上下で1万2千円だったの」みたいな値段報告でエピソード終了ですよ。何食って育ったらこんなエピソードを得意げに語れるように育つんですか。その秘訣を教えて欲しい。

とにかく、女の話にオチなんて存在しないですから、クリトリスでも剥いてろよと思いつつ、これ以上盗み聞きしていても何も面白くないと判断、ガラッとドアを開けて休憩室に入ったんです。

そしたらまあ、4人ほどのブスが円座のように座っていましてね、思ったとおり、僕が入った瞬間にピタッと会話が止まったんですよ。ホント、なんなんですかね、自分たちの会話に付加価値があるとでも思ってるんですかね。それで、ポッと出の関係ないやつに会話を聞かれるわけにはいかん、くらい思ってるんですかね。あいにく、そんな価値はないですよ。

僕もわざとらしく鼻歌とか歌いながら自販機でコーラ買うんですけど、その間中、四人の女どもずっと押し黙ってるんですよね。さすがにそれって不自然じゃないですか、とても不自然じゃないですか。全員がアクメ自転車が行く、みたいな状態になってるって変でしょ。このクリトリスどもね、こうやってわざと不自然さを出してるんですよ。

例えば、本当に聞かれたくない話をしていて、そこに僕が突然入ってきたなら、極めてナチュラルに別の話題にシフトしていくのが最も自然で、入ってきた人間にも何も勘ぐられないでしょう。けれどもね、このクリトリスどもは勘ぐって欲しいんですよ。

つまり、僕が入ってくることで不自然に会話を止めて沈黙する。あなたには聞かれたくない価値ある会話をさっきまでしてました、そう僕に対して、そして仲間のクリトリスに対してアッピールしてるんですよ。このクソども、さも付加価値の高い会話をしていたかのように演出してやがるんですよ。

僕だってこんなこと書きたかないですよ、本当は隣の爺さんが死んだっぽい、ひっそりと息を引き取ったっぽい、告別式は明日の3時から、急性心不全!とかそういう話で盛り上がりたいですよ、けれどもね、これだけは書かなきゃいけない。絶対に書かなきゃいけない。

この4つのクリがそんなに僕に勘ぐって欲しいなら、こちらだって勘ぐってあげるのが礼儀じゃないですか。まるでクンニするかのようにネットリと絡んでいくしかないじゃないですか。

「なになに?なにか面白い話してたの?」

って速水もこみちみたいな爽やか笑顔でクリに話しかけたんですよ。多分小学生の時の僕が夏休みに渓流で溺れそうになってる女の子を助けたらこんな爽やかな笑顔で「気をつけな、このへんは流れが速い」って言うだろうなって感じの爽やか笑顔で言ったんです。

そしたら、その、性器の上のほうの突起物のやつら、ガン無視ですよ、本気で無視。視線すらあわせやがらねえ。さすがに僕も爽やか笑顔の持って行き場がなくて「なになに?」ってすごいしつこく聞くしかない状態に陥ったんですけど、そしたら、性器の上のほうの突起物の一人が言うわけですよ。

「ガールズトークですから」

もうこれには僕も怒りの頂点ですよ。もう自販機のコーラを売り切れるまで連続購入してもおかしくないレベルの怒りですよ。あれでしょ、ガールズトークって言えば免罪符になると思ってやがる。

どうせ話してる内容なんて、彼氏と別れた、悲しい夜を過ごした、みたいなことでしょ。そんなクソみたいなエピソードを面白おかしく語るでもなく、オチを付けるでもなく、淡々と語るんでしょ。喋る方も聞く方も拷問ですよ、拷問。僕だったら例えばサークルの連中に構って欲しくて脱退表明したらあっさり受理された話とか面白おかしく話をする自信がありますよ。

さすがに、これ以上ネットリ絡んでいると、色々なハラスメントと言われかねないので、また鼻歌を伴って休憩室から出たんですけど、ドアを閉めた瞬間、まるで止めていた呼吸を再開するかのようにクリトリスどもが話し始める声が聞こえたんです。

「なにあいつ?」

「まじキモい」

「あれだれ?」

「わたし息止めてた」

別にこのへんはどうでもいい。本当に息止めてたんかい、みたいなことはどうでもいい。問題はさっきの、ガールズトークと称してさも付加価値があるような会話に仕立てあげた話の続きだ。どうせ予想通り彼氏と別れて辛いとかそんな話に決まってる。もしそんなつまらない話だったら、今ここに書いたこの日記をそのまま職場の機関紙に寄稿してやる!と怒りにブルブル震えながら聞き耳を立てていると、

「でもさ、やっぱ別れって辛らいよね。元気だしなよ」

と子分格のクリトリスがエピソードを披露していた親分格のクリトリスを励まし始めました。やはり、別れか、どうせ彼氏だろう、予想通りだな、よーし、機関紙に思いっきり書いてやるわ、と意気込んでいると

「ホント、こんな急にお別れになるなんて。仲良かったんだよ。それが急に死んじゃうなんて、隣のお爺ちゃん」

と泣き出すボス格。なんか仲良かった隣の家のお爺ちゃんが死んじゃって通夜とかなんか大変だったみたいです。まさかそうくるとは、やるじゃねえか。ガールズトーク、なかなかやるじゃねえか。

とりあえず、このエピソードをパクって皆の関心を惹きつけるトークを展開し、もう一度サークルに入れてもらおう。


5/1 思い出の優しさ

賢明なNumeri読者の皆さんならご存知だと思いますけど、僕の趣味は風俗サイトをくまなく閲覧することです。皆さんは例えば就職の面接などのシーンで「趣味は?」などと質問された場合、まあ無難に「読書です」とか「音楽鑑賞です」と答えるでしょうが、そんな無難なことを答えているからいつまでもニートなのだと自覚するべきです。

僕は残念ながらそういったシーンで趣味を質問されたことが数えるほどしかないのですが、必ずそういった場面では嘘偽りのない趣味である「ヒゲ抜き」と「風俗サイト閲覧」を正直に答えています。面接のシーンで自分を偽ることに何の意味もありません。それはお互いに時間の無駄です。そしてなより、自分に対して失礼なのです。そういう人間であることは自分がよく知っていて、もう取り返しがつかないことなのですから正直に答えるべきなのです。

ここでまあ、趣味は風俗サイト巡りです!なんて書くと、僕に対して白馬の王子様的な幻想を描いている女性の方々、patoの総受けよ、ムッハー!とか仲間内で盛り上がって興奮なされている女性の方々とかが「ショック、私の王子様が風俗に通っていたなんて!」と衝撃を受け、リストカットした画像とかを添付して送ってこられたりするのですが、まあ落ち着いて聞いてください。ショックな気持ちはわかりますが落ち着いて聞いてください。王子様はどこにも逃げない。

あのですね、僕は金がないから食卓塩を舐めて暮らすような人間ですよ。二つの銀行口座に800円と500円しか入ってなくて、ATMで下ろせないから自分の口座から自分の口座に振込みをして1000円にして下ろすような男ですよ。そんな男がどうやって風俗に通えるというのですか。こっちがそのカラクリを教えて欲しいくらいです。

ここで「風俗通い」と「風俗サイト通い」には無限の隔たりがあることを説明させていただきます。こいうことかくと、「また始まった。そんな話はどうでもいいわ」って思われる読者のみなさんが多数おられることと思いますが、僕はその言葉に対して強烈に異を唱えたい。この世の中にどうでもいいことなんて絶対にない。いや、絶対ではないけど、とにかくこの世にどうでもいいことなんて女子大生がやっているブログを除いては存在しない。だから僕は「どうでもいい」なんて言葉は絶対に使いたくないんです。

本筋に戻しますと、風俗通いってのは読んで字の如く、風俗店に通って通って通い倒すことですが、まあ、だいたい1軒風俗店に行くとして一万五千円くらいかかる設定としましょうか。週2で行くとしたらだいたい月に12万円、年間にすると実に144万円、食卓塩が1万本以上買えてしまう天文学的金額になってしまいます。

その反面、なんと「風俗サイト通い」だとネット環境さえ整えば無料です。おまけにかなりの高確率でオッパイとか見ることができます。何もおっぱいごときで、中学生じゃあるまいし、とか思ってる男性は心の底から反省してください。そういったエロに対して初心を忘れることは愚かなことです。どんなにエロいことだって初心には敵わない。あの初めてエロ本を読んだ時の興奮には絶対に勝てないのです。だからいつだってエロに対してだけは初心を忘れてはいけないのです。

ですから、こうやってインターネットが発達した昨今、ポンっとエロ動画が見れる環境にあったとしても。あの日、拾ったエロ本でおっぱいを見た興奮を忘れてはいけない。ですからね、僕はエロ動画とか見てて「なんだよ、これクソだな」とか驕り昂っている自分に気付いたとき、あえて風俗サイトを見るようにしているんです。

そこにはおっぱいくらいしか見ることはできないんですけど、そのおっぱいだけで大興奮し、空気入れすぎたタイヤみたいになっていたあの日の自分自身を思い出し、今の恵まれた状況にある自分を再認識、驕ってはいけないと戒めるのです。

それにですね、こういう風俗サイトってそれはそれでかなり興奮するんですよ。18歳以上の方は適当に自分のお住まいの地域と「デリヘル」って単語で検索してもらえるとアホみたいにサイトが出てくると思うので、その中の一つにアクセスしてみてください。

で、その中でも「出勤表」とか「schedule」とか書かれている項目があると思います、アクセスしてください。これは、出勤している女の子が一覧になって出てくるんですが、まあ、この時点でセクシーな格好をしている画像とか出てくることもありますが、適当に好みな感じの女の子を見繕ってアクセスしてみてください。

たいていは数枚の写真が置いてあって、顔や乳首が出てることは多くはありませんが、下着姿やセクシーポーズなど、なかなか際どいセクシー画像を簡単に見ることができるんです。まあ、こんな画像なんてのは今やネット上に、それこそ女子大生がやってる「今日、渋谷でケーキ食べたワラ」みたいな何がワラなのか全然わからないどうでもいいブログみたいにありふれていて、わざわざ風俗サイト見る必要なんてないんですけど、この行為の真骨頂はそんな部分にありません。

例えば、まあ浅はかなアナタたちのことですから、エロ動画見るっていったら大抵は売れてるAV女優ものなんか見るでしょ。誰でもいいんですけど仮に成瀬心美さんとしましょうか。まあ、見ますよね。最初の部分ん飛ばして一気に絡みに飛んだりしますよね。でもね、どんなに見ようとも、あなたのパソコンのCPUが煙を吐くほど繰り返し成瀬さんの動画を見ようとも、一生、成瀬さんには手が届かないんですよ。それを分かって見てますか?

僕もサイン会で本物の成瀬さんに会いしましたけど、まあ、それはそれは別世界の生き物でしたわ。もう完全に造りが違う。この世の中に何が起ころうとも成瀬さんは僕らのものにはならない、そう実感しましたね。エロ画像にしてもグラビアにしてもそうなんですが、どうこをどうしても手に入れることはない。そんなものを眺めて僕らはオナニーしているんですよ。

言うなれば、決して手に入れることのないトランペットをウィンドウガラス越しに眺めている黒人の少年みたいなものです。どんなに頑張ってもガラスの向こうにはいけない。けれども眺めることをやめることもできない。黄金色に光り輝くトランペット。それでいいんですか。

ええ、僕だってわかってます。そりゃあわかってます。決して手に入れられない遠い存在でオナニーをする。それが興奮するんじゃねえか、それぐらい僕だってわかっています。けれどもね、それじゃあいつまでも決して叶わぬ夢を追い求め続けているドリーマーと変わらない。悲しき行為なんですよ。

その点、風俗サイトは違いますよ。そりゃあAV女優やグラビアよりは質は落ちますよ。それどころかオロローンみたいな女性も決して少なくない。けれどもね、そこには「手に入る」という計り知れない高付加価値が存在するんです。やってみたら分かると思いますが、これはなかなかスパイシーなもんですよ。

まず、60分1万五千円くらい出せば確実に60分はこの画像の女性とエロスなことができる。そう念じながらオナニーしてご覧なさい。もともとオナニーなんてのは手に入らない対象を思い描いてすることが多いのですが、その気になれば手にれることができる対象でオナニーをする。これはすごいことですよ。いうなればリアル。生の息遣いすら聞こえかねない圧倒的なリアリティがそこにあるのです。

そういった意味で、いつものようにエロ動画やなんやかんやでオナニーをするのは良いですが、それはトランペットであると認識し、もっと身近なアルトリコーダー的風俗サイトの画像でオナニーしてはいかがでしょうか、そんなお話なのですが、実はこれには大きな落とし穴があるんです。

それが、じつは手に入らないかもしれない

ということ。いや、何言ってるのか全然分からなくて狂ったかと思われるかもしれないですが、とにかく、手に入る対象であるはずの風俗サイトのエロスな女の子ですが、実は手に入らない可能性もあるのです。

かねてから風俗をこよなく愛するツウの方ですとか、僕の言いつけを守っていくつかの風俗サイトを巡ってみた方ならピンと来るとおもうのですが、例えば、鶯谷のデッドボールという店の「G・馬場」さん、この方を頼んだらおそらくG・馬場さん、画像の本人がやってくるんです。間違いなくやってくるんです。

けれども、色々とサイトを見てみると、明らかにモデル級だとか、どう考えても美人すぎる女の子ばかりを集結させている店に出会うはずです。おお、すげえカワイイ女ばかりじゃん、どの娘にしようかな、男なら絶対にそうなるはずです。今ここを読んでる女性の彼氏、「ウチの彼氏はそんなことないもん」といくらあなたが信じようが、彼氏は絶対にそう思います。

でもね、冷静に考えてください。例えば、自分が高校生だったりした時、クラスにどれだけカワイイ娘がいたか思い出してみてください。クラスという単位で長いこと暮らしていると、その子の内面のかわいさで良く見えたりとか、見慣れてきてかわいく見えるとか様々な要素が絡んでくるのですが、そういった要素を一切排除して、単純に見た目だけでカワイイ、美人、と思う人数を数えてみてください。

おそらく、アイドル養成学校とかに行ってない限り、クラスに一人、もしくは二人いれば良いほうじゃないかと思います。そんなことはない、うちには沢山可愛い娘がいた、そう思う方はもう一度卒業アルバムなどを見てみてください。実はそうでもないことに愕然とするはずです。

テレビとか映画ばかり見ていると麻痺してくるんですけど、カワイイ娘ってのは希少で、そんなにホイホイ存在するもんじゃないんです。そういった事実を踏まえてもう一度そのズラリと並んだカワイイ娘のラインナップを見てください。場末の風俗店にここまでカワイイ、美人ばかりが揃うのか、冷静に考えたら分かりますよね。

だいたい、こういった信じられないラインナップの店の場合は大きく2つに分けることができまして、1つは、そもそもそんな娘自体が存在しない、という場合です。つまり、どこかバレない程度のマニアックな知名度のモデルの写真ですとか、どこかで拾った異常に可愛い素人女性の画像なんかをあたかも在籍している女の子のように見せかけて掲載している場合がほとんどです。

これは本当に許せないことで、僕なんかは別に眺めて興奮するくらいのことしかしないので偽物でも別に損害はなく、追い求めていたリアリティがなくなるくらいの損害で済むのですが、お金を払ってこの風俗店から女の子を呼んだ人は大変ですよ。なにせそんな画像のようなカワイイ女の子は存在しないのですから。やってくるのは画像とは似ても似つかない女の子。

しかも、普通レベルの女の子が来るならばまだ許せるんですけど、どうやらそうやって偽画像で釣らないと客がつかない女の子ですから、そのレベルは推して知るべし。モデル級の知的美女っぽい画像に惹かれて呼んでみたら、ミシュランのタイヤマンみてえなのが来やがるんですよ。現代社会にこんな悪夢があるのかって感じですよ。

そしてもう一つが、強烈な画像修正という手法です。これは、前者の明らかに別人のモデルを使う手法より悪徳度は低いと言え、そもそもこういった風俗業界においては画像修正ってのは日常茶飯事で、例えば肌のシミを消したり、風俗業界に多い刺青を消したり、そう考えると目元にモザイク入れたりするのも画像修正になりますから、ある程度は仕方がないと思うんです。

けれどもですね、中にはCGの域に達しているというか、画像修正しすぎてみんな同じ顔になっているというか、明らかに気味が悪いというか、というか、これだったら別の画像を持ってきたほうがいくらか良心的、というレベルの画像処理が施されていることが多いんです。

「韓国 デリヘル」で検索をしてみてください。なぜか韓国系デリヘルは異常なレベルで画像修正を行う傾向にあり、明らかに同じ顔が並びます。いっときますけど、こんなの来ないですから。ホント、画像処理技術の高さに感嘆するだけです。

もちろん、これは高い金を出して呼ぶ人も許せないでしょうし、リアリティを追求してオナニー的側面風俗サイトを利用している僕らだって許すことはできません。僕が神々だったら何度となくイカヅチを落とすくらいには怒りを感じています。

けれどもね、なんだろうか、こうやってバリバリに画像修正して同じ顔になっている韓国デリヘルの女の子たちを見ているとね、こうなんていうか、確かに許せない気持ちがあるんだけど、それと同時にこう、懐かしいというか胸が締め付けられるというか、切ない気持ちが湧き上がってくるんですね。

それが一つのサイトだけならいいんですけど、本当に韓国デリヘルは画像修正てんこ盛りでどこも同じフェイスで出ていますから、どこに行っても胸が張り裂ける。ああ、もう、なんなのよ、この気持ち、まさか…あいつのこと…なんて少女漫画の主人公みたいな気持ちになるんですよ。

で、なんで韓国デリヘルのサイト見ててこんなセンチメンタルな気持ちになるのか考えてみたんですけど、これね、実は初恋に似てるんですよ。いやいやいや、別に初恋の女の子がこの韓国デリヘルみたいなCG顔してるってわけじゃなくてですね、その美化のされ方というか、頭の中でのあり方が非常に似ているんですよ。

人間の記憶なんて結構曖昧なものでして、おまけに思い出はいつだって優しいっていうじゃないですか。どう考えても初恋の女の子って僕の頭の中で美化されてて、この韓国デリヘルの女の子みたいになってんですよ。そりゃ切ない気持ちにもなります。

これはね、大変な発見ですよ。韓国デリヘルは初恋の女の子なんです。どちらも非現実的でリアリティがなく、手に入らない存在、という部分も大変似通っています。これがどれだけ大切なことかというと、どんな画像であっても韓国デリヘル並みに画像修正をぶちかませば、初恋の女の子になる。あの日、あの甘酸っぱい想いを手に入れることができるのです。手に入るから風俗サイトを眺めていて、そこで手に入らない初恋の女の子に出会う。つくづく人間とは業の深い生き物です。

ということで、今回、僕は僕の中にある優しい思い出である初恋の女の子を手に入れるため、慣れない画像修正技術を駆使してみました。基本的に、韓国デリヘルサイトを眺めて行った僕が感じるに、

1.肌をきれいにする
普通に肌の汚れや小さなシワなどを修正することはありますが、韓国デリヘルは異常なレベル。ツルツルにしすぎて化粧板みたいになっていますが、そこまでやって初めて初恋の女性になるのです。

2.色を白くする
別に色が白いことが美人の条件だとは思いませんが、韓国デリヘルはとにかく白い。本気で白い。

3.目をくっきりさせる
これが一番、全ての画像が同じ顔になっている原因だと思うのですが、とにかく目を大きく、くっきりにしています。人の顔の中で目の印象はかなり強いですから、ここの作業が同じ工程なので同じになるのです。

4.顔を小顔に、顎をシュッとさせる
小顔にして顎のラインをシュッとさせる、これでかなり美人顔になります。

5.くびれをつくる
そして、ボンキュボンのボディラインづくり。ここまでやってはじめて完成です。

とまあ、ここまでやれば完璧までとは言わなくてもかなり韓国デリヘルに近づくはずです。それによって、思い出の中のあの娘を手に入れることができるのです。早速、適当な画像を使って初恋の女の子を作ってみましょおう。

さあ、早速はじめてみましょう!

1.肌をきれいにする
まず、肌が汚いですね。肌をきれいにする修正をかけましょう。これは手作業でコツコツとやっていきましょう。

2.色を白くする
すごい面倒な作業なんで途中でやめましたけど、まあまあ綺麗になりました。けれども韓国デリヘルの能面みたいな顔には程遠い。ここはこの肌を白くする工程で思いっきり白くしましょう。

なんか死人みたいな顔の色になりましたが、まあ、いいです。次の工程に移ります。

3.目をくっきりさせる
ここがかなりキモになると思いますので、思いっきり目を大きくします。とくにこの画像のお方は目が細めですので、かなり大きくします。

あ、いいですね。かなり目が大きくなりました。

4.顔を小顔に、顎をシュッとさせる
ここも大切なポイントです。画像のお方はかなり顎の部分に大きいですので、思いっきり削り、顔を小顔にしていきます。

あ、いいですね。かなり小顔に、おまけにアゴのラインも鋭利な刃物のようにシャープです。いよいよ最終工程、仕上げです!

5.くびれをつくる
ボンキュボンのナイスバディは永遠の憧れ、思いっきりくびれをつくっていってみましょう。

さあ、これで完成です。これで韓国デリヘル的画像の完成、きっと心の中の初恋のあの子が、ってどうでもいいわ。僕の初恋の娘はこんなんじゃない。

でもまあ、結構上手にできたので、今度から面接のシーンなどで「趣味は?」と質問されたら「画像修正です」と答えよう。そして初恋の優し思い出の話を続けるんだ。


3/31 3月のライオン

さて、というわけで3月は毎日更新を行ってきたわけなのですが、事情を知らない方は、いきなり何をトチ狂ったことかと思われたかもしれません。なにせ2010年とか1年間の間に2本しか日記を書かなかったのに、この3月だけで31本ですよ、31本。

なぜこのような事態に陥ったかは理由がありまして、話は昨年の暮れ、12月24日クリスマスイブに遡ります。世間がクリスマスイブで浮かれている中、お台場のど真ん中でNumeriトークライブ「ヌメリナイト3-戦場のヌメリークリスマス-」が開催されたのですが、その打ち上げの席で事件は起こりました。

打ち上げと言っても、スタッフだけでああだこうだ、セックスとか乱交とかしたりするわけではなく、参加者さんも交えて、トークライブの延長ステージみたいな感覚でやったわけなのですが、その席で、突然僕が翌日に控えた、競馬界の一年の総決算、有馬記念(GI)の予想を始めちゃったんですね。

で、僕の予想は昨年の覇者、ヴィクトワールピサ、この馬はドバイWCっていうすごいレースも勝ってますし絶対の確信があったんですね。で、あまりの確信に

「有馬記念でヴィクトワールピサが勝たなかったら3月、毎日更新します」

って宣言しちゃったんですよ。でまあ、レースの結果なんですけど、まあ、ここにレースの動画とか貼ってお見せするまでもなく、こうして毎日更新していたんですから、おのずと結果は分かるでしょう。

とにかく、久々に毎日更新という苦行に手を出し、しかも年度末で色々と大変な時期で死にそうになりましたが、途中、かなり怪しい日記が結構あることも否めませんし、日数が後れた日もありましたが、なんとか毎日更新できて肩の荷が下りた気持ちがする次第です。っていうか、勢いで変な宣言するもんじゃないよ。

ということで、今日、日本時間で3月31日深夜2時、日付的には4月1日ですね、とにかく深夜にUAE(アラブ首長国連邦)ドバイにて競馬界の世界最高峰が戦うドバイワールドカップ(AW、2000m)が開催されます。

日本からは、スマートファルコン、トランセンド、エイシンフラッシュの三頭が参戦。絶対にこの3頭のどれかが昨年のヴィクトワールピサに引き続きこの世界最高峰を制してくれると確信しています。確信。ということで

「3月31日深夜のドバイワールドカップで日本の3頭のどれかが勝たなかったら、5月毎日更新します」

と、宣言して3月の連続毎日更新を終わります。がんばれ日本。

<追記>
ドバイワールドカップ日本勢完敗


3/30 モンスターハンター3G

熟女出会い喫茶である。

前回の日記で、出会い喫茶なるものを利用し、モンスターハンター状態になったことを赤裸々に綴った。あのような世界が存在し、多くの男性が討伐クエストに挑戦していることを考えるといささかカルチャーショックであったが、やはり何事も経験である。大きく視野が広がったように感じる。

自分の見聞が広がるってのは結構良いもので、どんどん充実してくるというか、頭の中でパーツが組み合わさっていく感覚というか、江戸時代の人だって諸国漫遊の旅に出かけて見聞を広めたわけだし、物を知りたいって感情は人類共通のものなんだなあと実感する。

というわけで、世の皆さんにも興味を持ったら何でも挑戦し、是非とも見聞と見識を広めて頂きたいと思い、是非是非なんにでもチャレンジ、レッツチャレンジ、これは僕の中学の時の担任も言っていたけどとにかくチャレンジ、全くその通りだとは思うのですが世の中には決して手を出してはいけない暗黒の領域というものが存在するのです。

好奇心猫をも殺すなんて言葉が御座いまして、猫には9個の命がありなかなか死なないと考えられていたのですが、そんな9個の命の猫すら死んでしまう、好奇心はそれだけ危険極まりないものなんです。何にでも興味を持って首を突っ込むのは良くないよという戒めですね。

けれどもね、全然本筋とは関係ないですけど、ホントこういうのってイライラすると思いませんか。大人たちは僕らに何にでもチャレンジしろと教えてきました。その反面、何にでも首を突っ込むと痛い目を見るぞと戒めます。大人たちは僕らに大きな夢を見ろと教えてきました。けれども、壮大な夢物語を語っていると、いつまでも夢みたいなこと言ってるな現実を見ろ、現実を、といいます。いったいどっちなんだと、僕はその辺のところを主張したいですね。

とにかく、前回の出会い喫茶体験は、非常に僕の好奇心を満足させて、あそこで店内一番の待機ブスにひと狩りいけたことは、僕の後の人生に必ずやプラスになると思いますし、あの出会い喫茶という空間を体感できたこと、これ自体も必ず役立つ場面があるはずなんです。

けれどもね、本当に、体験しないほうが良かった、興味を持たないほうが良かった。そう感じずにはいられないヤツってのが世の中にはあるんですよ。それが今日お話しする「熟女出会い喫茶」なんですけど、まあ、これがとにかくひどい。本当にひどい。とにかく地獄のような体験レポートになっておりますので、じっくりとお読みください。

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「熟女出会い喫茶」

世の中には「いちご」と「大福」を組み合わせた「いちご大福」なるものが存在する。全く相容れなさそうな二つのものを組み合わせることにより予想外のハーモニーを生み出すことを狙った物だ。「いちご大福」は初めこそは、いやーなしだろーと誰もが驚いたものだが、今やすっかり市民権を獲得したようにすら思える。

「女子高生探偵」「女子高生刑事」「女子高生ローション風呂」最後のはちょっとわけわからないですが、世の中にはありえない組み合わせが多数存在するのです。けれどもね、これだけは理解できない。本当に理解できない。

「熟女」「出会い」「喫茶」

出会いと喫茶の組み合わせはいいですよ。それは前回やりましたから、非常にファニーでエキサイティングなことになるのは分かりきっています。けれどもね、そこに「熟女」をかけあわせる意味が本当に分からない。マジで分からない。

賢明な読者の皆さんならご存知だと思いますが、僕は生粋のロリータコンプレックス、いわゆるロリコンで、駅前ロータリーとかロータリークラブを全部駅前ロリータとかロリータクラブの読み間違えて勝手に泉ピン子勃ち、みたいな状態になるほどで、しかも、本当に幼い女性ではなく、実年齢は20代前半なのに見た目は10代にしか見えない、みたいな女の子が大の好物なわけなんですよ。

そんなロリコンな僕にとってですね、「熟女」ってベニヤ板くらいどうでもいい存在なんですよ。いや、別にベニヤ板はそんなに悪気はないでしょうけど、とにかく本気でどうでもいい、むしろ憎しみの対象、くらいに思っているわけなんですよ。

そんな憎き「熟女」と「出会い喫茶」を組み合わせて誰が得をしますか。誰が喜ぶって言うんですか。誰も喜ばない。いや、熟女好きは喜びますね、ごめんなさい。謹んでお詫び申し上げます。本当に熟女好きな方の心を踏みにじる行為を犯してしまい大変反省しております。申し訳ありません。

とにかく熟女好きのバカはほっといて、そんな誰も得しない途方もない場所に行くことなんてありえないと思うのだけど、ありえないと思うものほど経験しておくべきじゃないですか。自分がありえない感じるものほど、これから先ずっと経験することがないであろうものですよ。今ここで避けて通るべきではない、経験するべきなのだ。少なくともあのときの僕はそう思っていました。そう、あの時は。

思い立って、熟女出会い喫茶がある某駅に降り立ちます。ターミナル駅であるこの駅は乗降客も多く、駅前もかなり繁盛している。その賑やかな通りの裏の裏、もうこんなとことろ地元の人しか立ち寄らないんじゃないだろうかという場所に件の「熟女出会い喫茶」が存在していた。

怪しげでド派手な立て看板に、熟女!出会い!ロマンス!みたいな昭和っぽいフォント文字が踊る。その上には数個の豆電球がつけられており、チカチカと誘蛾灯のように瞬いていた。世の中にこんな怪しいいでたちの店舗ってあるだろうか。そう思わざるを得ない入り口に少しばかり物怖じしながら階段を上る。

階段に敷き詰められた赤い絨毯がなんとなく熟女っぽさを演出しているように感じる。よくよく見ると結構黒ずんだ汚れが目立つ。なんとなく熟女っぽい。

汚いガラス戸を抜けると、そこにはいかにも怪しげな、どう考えても悪いことしてるとしか思えない店員さんがお出迎え。しかも笑顔のカケラもなく、なぜかムスッとしている。まるでこちらの存在が見えてないみたいで、「いらっしゃいませ」とかも言ってくれない。一瞬、シックセンスかと思ったのだけど、そんなことはなく

「すいません、はじめてんですけど」

と僕から話しかけると、すごい面倒くさそうに説明を始めてくれた。入会金は、前回行った通常の出会い喫茶よりやや安い。しかし利用料金というか1時間の滞在料金というか、これが驚くほど高い。なんでこんなに高いのか不思議で仕方なかったのだけど、これは後に理由が分かることになる。とにかく、こちらの熟女出会い喫茶もまあまあの金が必要だということだ。

また、とんでもなくチープな会員証を作らされ、偽名で大丈夫、とか言われたので、偽名でいいなら作る必要ねえじゃんと思いつつ、「山田ハヤブサ」という訳の分からない名前で登録しておいた。お金を払っていよいよ利用開始と思いきや、これまたチープなアンケート用紙みたいなものを渡された。

どうやら男性側もプロフィールを書く必要があるらしく、ついでに女子の好みまで書かされた。正直に女性の好みのところにロリコンですって書こうかと思ったんだけど、熟女喫茶にきてロリコン好きってマクドナルドに行ってモスチキンくださいって言うようなもんですから思い留まり、適当に「艶やかな女性が好きです」とか訳の分からんこと書いてた。

さて、いよいよ利用開始となるのだけど、驚いたことにいきなり個室に通された。二人がけのソファーの置かれた個室にいきなりイン。前回みたいにマジックルームゾーンみたいな場所で動物園みたいなフィーリングで熟女鑑賞するかと思っていたのにこれには拍子抜け。いきなり個室、これが利用料金が高い理由だった。

これが熟女喫茶ならではのシステムなのか、この店のシステムなのかはよくわからないけれども、どうもどっかに待機している女性が先ほどの僕のプロフィールカードを閲覧し、興味を持ったら個室まで訪ねてくるらしい。完全に前回とは逆。選ぶ立場から選ばれる立場になったわけだ。

そうかあ、熟女くらいのババアになるとグイグイと男のほうに押しよっていけるからこんなシステムのほうがいいのかもな、って思っているとコンコン、と部屋のドアがノックされた。正直、こういう女性に選ばれる状況、で選ばれたことがないので、まさか本当に訪ねて来られるとは思わなかった。

「どうぞ」

ちょっと声震えてたからね。緊張してちょっと声震えてたんですけど、ここに来るのって熟女でしょ、どうせ母ちゃんみたいなのが入ってきて、ブルンブルン、ギャー、オエーみたいなのを今これを読んでいる皆さんも想像してるんでしょ。僕だってそう思ってましたよ、そしたらアンタ。

「こんにちは」

入ってきたのは確かに熟女ですよ。僕より年上でしょうかね。絶対的に熟女なんですけど、結構、品が良いというか、良い感じで年を重ねていらっしゃるというか、なんかけっこう「いいじゃないか」って感じの熟女なんです。

「隣よろしいかしら」

とか、オイ、小僧ども!すげえぞ、こんな品の良い美人な女性がだな、隣に座ってくるわけだよ。小せえソファーしかねえからすごい密着度、部屋もソファー2つしかないもんだからいい匂いがプンプンするわけだよ。正直ちょっとビンラディンっすわ。

「今日はどんな目的ですか?」

上品に聞かれちゃってね、僕も訳が分からず

「ちょっとした社会勉強で」

とか訳の分からないこと言っちゃって、そっからですよ。もう会話がない。全然会話がない。熟女はニコニコ笑ってるだけで、僕も釣られてニコニコ、ただそれだけ、35歳野武士と品の良い熟女がニコニコ笑いあうシュールで意味が分からない光景がずっとですよ。

どうにもこうにも、後から分かったんですが、こういう場所って別にお話しするとか建前上はそうなんでしょうけど、そういう場所ではなくて、単純に言えば金の交渉、それだけですよ。つまり、いくら払うからエロいことをしよう。そんな商取引みたいな空間で、誰も世間話なんかしにきてない。男は欲望を満たしに来てるし女は金を稼ぎにきている、そんなアメリカのビジネス界みたいな世界が展開されているんです。

そんなドライな世界で、「社会勉強で」ってぶっさいくな35歳が言ってたら熟女も困りますよ。はやく金額の提示しろや、くらいは思ってるかもしれません。でもまあ、僕そんなこと全然分かりませんから、ただただニコニコしてると

「あの、交代しましょうか?」

美熟女が自ら交代を申し出ます。たぶん、埒が明かないと思ったんでしょうね。交代というかチェンジを告げると、熟女は部屋を出て行き、また別の熟女が訪ねてくる、そんなシステムになっているみたいです。

「すいません、じゃあそれで」

そう告げると美熟女はニッコリと笑って部屋を後にした。最後まで上品で艶やかな人だった。

コンコン

ソファーで一息ついていると、またすぐドアをノックされた。おいおい、入れ食いじゃねえか。もしかして、僕って熟女界ではムチャクチャモテるんじゃねえか。

「どうぞ」

入ってきたのは、これまた悪くはない熟女。先ほどの方より少し若いでしょうか。見た目はかわいらしい感じであまり年齢を感じさせない。ただ、彼女はすごい単刀直入で、ソファーにも座らずに

「目的は?」

みたいないきなり商談開始ですよ。はえーよ、心の準備ができていない。

「いや、あの、その」

僕がマゴマゴしていると、

「あ、そ、チェンジね」

と、勝手に決め付けて出て行きました。一陣の風みたいな人だった。

しかし、どうにもこうにもレベルが高い。ロリコンの僕から見てもそんなに熟女って感じじゃない極めて許容範囲、むしろかなりいい感じの女性が立て続けに来室。これは結構穴場かもしれませんぜ、とか思っていると

コンコン

またドアをノックですよ。またどうせ美熟女っすよ。もうわかった。熟女出会い喫茶には美熟女しかいない。かなりの収穫時期だってことは分かった。ホント、僕が熟女好きだったら死ぬほどの天国だぜ、と思いながら、もう手馴れたもので

「どうぞ」

と入室を促し、はいはい、どうせまた美熟女なんでしょって感じで見ていると、ヌッって感じでとんでもねえババアが入ってきました。ジャン!って頭の中で効果音が鳴って、ペイント弾探しちゃったもん。

見た感じはデブとかそういうのじゃなくて、なんていうか、樽。樽っぽいとか、樽みたいとかじゃなくて樽。で金髪で、なんか化粧塗りすぎてどっかの部族が成人を祝う度胸試しで滝壺に飲まれるときみたいな顔になってやがる。服装も、なんか鯖みたいな模様の服で、もう実態がよく分かんないですけど、明らかに僕の親世代みたいな年齢のババアですよ。

「カエラで〜す!」

とか、樽がクネクネ動きながら言うわけですよ。人差し指立てて言うわけですよ。僕ね、別に木村カエラさんのことそんな好きでもないですけど、なんかこいつがカエラって名乗るのはすごい腹立たしい。許せない何かを感じる。

「おじゃましますわねん」

とかキングボンビー見たいなこと言いつつ、誰も許可してないのにボワンと僕の隣に座ってきましてね、その反動で僕ちょっと浮いたからね。

「あの、チェ」

僕もよっぽどのことなので、というかこれ、あきらかにG級クエストなんで、チェンジしようと思うのですが、ババア、神様は何も禁止なんかしていないと言わんばかりの勢いでマシンガントークしてんの。

おまけに、何目的とか皆が形式的に尋ねて来たのに対してそういうのをすべて超越していきなり

「今日は1もらえるかしら?(1万円くれということらしい)」

とか言い出すんです。あのね、僕ね、中学の時だったかな、すっごい反抗期で、何かにつけて干渉してくる母親にすごい腹を立てていた時期がありましてね、悪ぶっていたんでしょうね、ついつい荒ぶった口調で母親に「クソババア!」って言っちゃったんですけど、今思うとね、母さんすごい悲しかったんだろうなって思うんです。それだけ「クソババア」って強烈な言葉ですから。だからむやみやたらに使わないでおこう、そう誓ったんです。そう、あの日からね。

でもね、そんな禁を破ってでもクソババア!クソババア!クソババア!と3回くらいは言わずにはいられないんですけど、ババアはもう猪突猛進。カチャカチャと僕のズボンのベルトを外そうとしているんです。

いやいやいやいやいやいやいや、おかしいでしょ。ここはいくら個室だっていってもそういう場所ではないじゃないですか。このクソババアとどうこうってことは絶対にないですけど、何かエロスなことをするにしてもここでは交渉に留めて、あとは外に連れ出してホテルなりなんなり、それが一般的なはずなんです。なのにいきなりこの場で求めてくるババアに心底焦りつつ

「すいません、勘弁してください」

とババアの手の合間を縫ってベルトを締めようとするのだけど、ババアも必死にベルトを外そうとする。なんだこれ。

「一万円は高い?じゃあ7千円?5千円?」

ものすごい勢いで値段が下がっていくのを感じつつ、その値段を言うダミ声が競り市みたいで面白くてクスッって笑ってしまうたんですけど、そしたらババアそれが受け入れのサインだと勘違いしたのかさらに発奮。絶対に女の力じゃないみたいな万力みたいな力で僕の手をこじあけてくるんですよ。もう逃げるにはこれしかない、本気で半泣きになっていた僕は

「すいません、僕ホモなんです。だから期待にこたえられません」

と、言ってみると、ババアの手がピタリと止まりました。効いてる効いてる。こりゃ一気に畳み掛けるしかない、決心した僕はもっとホモっぽく振舞おうと

「ホント、ジャニーズの、キスマイアスとか好きなんです!かわいくって」

グループ名間違ってますからね。キスマイアスじゃあ、俺の尻の穴にキスをしろですからね、まあいいや、ホモっぽい。僕の決死の懇願およびカミングアウトにやっと諦めてくれたのか、ババアは

「ホモがなんでこんなとこにきてんだよ!」

と至極全うなことを、吐き捨てるように、というか本当に唾を吐きながら言って部屋を出て行ってくれました。

またクエストに失敗したわけなんですが、やはり、こんな目にあうくらいなら何事も経験と首を突っ込むべきではないのです。夢を持ちすぎてもいけないし、現実を見過ぎてもいけない。好奇心を持ちすぎてもいけないし、何にも無関心すぎてもいけない。何事もほどほどが一番なのでしょうか。そう、ロリコン過ぎてもいけないし、熟女好きすぎてもいけない。ほどほどに、やはり見た目はロリだけど実年齢が結構そこそこ、それこそが最強なのです。


3/29 モンスターハンターP2G

人はこんなにも出会いを求めているのかと驚くことがある。一時期は出会い系サイト隆盛であり、最近では携帯ゲームサイトやSNSなど、多くのネットサービスが出会いの場として活用されているらしい。よくよく考えるとどんな形態のサービスであり、最終的には出会いに行き着いているような気がする。

実は、日本人のネット利用ってのはかなり特殊で、そういったコミュニケーションやゲーム、エンターテイメントに利用される割合が異常に高いらしい。いわゆる余暇での利用が突出しているようだ。僕は別に諸外国のことはよく知らないけど、それでもやはり異常なレベルでそういったエンタメ的要素の利用が多いらしい。

それらの多くが出会いに行き着いていると仮定すると、インターネット利用の大半が出会いに行き着くということになり、一体日本人はどんな民族なんだ、そんなに出会いたいのか、と感じてしまっても不思議ではない。

昔はテレクラから始まり、出会い系サイト、SNSと様々に変遷してきたのだけれども、そこにおそらく亜流なんだろうけど新しい出会いの場として「出会い喫茶」なるものが注目を集めているらしい。確かに、繁華街などでそういった類の怪しげな看板を目にする機会が多くなったが、一体全体出会い喫茶とはなんなのだろうか。まさか喫茶店で出会っているわけでもあるまいに。

調べてみると、どうやら出会い喫茶ってのはまず、中がネットカフェや漫画喫茶みたいになっているものだと考えて良いようだ。パソコンがあったり、漫画や雑誌が置いてあったり、ドリンクバーがあったり、これらを全て無料で楽しめるようになっている。

しかしながら、無料なのは女性だけで、男性は違う。そもそも、男性はこのくつろぎスペースには入れない。仕切りで区切られているかマジックミラーで区切られた隣の空間にお金を払って入り、そこで女性を吟味し、場合によってはお金を払って女の子とトークする権利を購入する。

すると今度はトーク部屋と呼ばれる小部屋に行くことになり、そこでお目当ての女性とトーク、一緒にご飯いくだとか、交渉して成立すれば連れ出し、となる。その際に連れ出し料を店に払うこともあるし、もちろん、女の子にも交渉で決まった額のお金を払う必要がある。なんともまあ、男には金がかかって仕方がないシステムだ。

こうした形態の出会い喫茶は大都市を中心に展開されているが、もちろん、純粋に出会ってお茶をなんて展開もあるのかもしれないが、売春、買春の温床となっていたり、犯罪に巻き込まれたりするケースもあるため問題視されている。

ということで、今回は出会い喫茶を体感すべく、某所にて営業中の出会い喫茶に行ってみました。その体験レポートをあますことなくどうぞ!

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繁華街の片隅に煌びやかな看板が踊る。「出会い喫茶」「素人女性多数!」の文字が踊る。何の素人なのかがさっぱり理解できないが、とにかく何かワクワク感を引き起こしてくれる宣伝文句だ。

細い階段を抜けると扉があり、小さなカウンターみたいな場所に爽やかそうな青年が立っていた。こういったアンダーグラウンドなサービスなので、すげえ強面のオッサンが店番をしているかとも思ったがどうやらそうではないらしい。少し安心する。

「すいません、初めてなんですけど。もうほんと出会いとか全然なくて!」

不自然でないように出会いを求めて来た感をプンプンに匂わせてみたのだけど、どうやら不要だったみたいで

「はい、大丈夫ですよ、落ち着いてください」

と優しくたしなめられた。いいのか、こんな爽やかイケメンがこんなに優しくていいのか。とにかく落ち着いた僕は優しくお店のシステムを説明される。

なんでも、初回には入会金というものが必要らしい。これがまた、決して安くはない金額で、家族4人でちょっとしたファミレスで食事できちゃだろう金額だった。それとは別に、時間制で利用料金が必要らしい。まあ、これは普通のネットカフェなんかと同じくらいの値段設定だった。

「なるほど、それだけ払えばいいんですね」

もう、ちょっと半身乗り出してお金を払おうとすると

「ただし、女の子とトークをされる場合にはトーク室使用料がかかります。女の子と外出される場合はさらに追加で使用料がかかります」

トーク料とか連れ出し料とは言わずにあくまでもトーク室使用料と言い張る店員に何か法律的な制約があるのではと考えてしまった。とにかく、異様に金がかかるので本当は入りたくないのだけどここで引き下がっては一生出会い喫茶を知ることはないでしょう。もう奮発して入会金と使用料を支払いましたよ。

何やら色々と用紙に記入させられ、ちょっとした手続きが終わると、とても数千円払って入会した会の会員証とは思えないチープなペラッペラの会員証をもらいましてね、これなら簡単に偽造できるなあとか思いつつ、店のシステムを再度説明されます。

基本的に店内は男性のエリアと女性のエリアに分かれていて、男性のエリアもフリードリンクということでドリンクバーが備え付けられているとのこと。気に入った女の子がいてトークをしたくなったら店員にお申し付けください、とのこと。すげえ爽やかに、まるでテニスサークルみたいに説明された。

そして、いよいよ男性エリアに突入。と、その前に爽やか店員がピタリと立ち止まってですね。

「申し訳ございません。今の時間帯は女の子が少ないんです。もう少し遅い時間なら女の子も増えますんで」

みたいなことを申し訳なさそうに言うんですよ。別にいいですけど、普通はそういうのってお金を払う前に言うもんじゃないっすかね。

爽やか店員に案内されるがままに男性エリアに入ると、そこには異様な光景が。まず暗い。麻薬の密売でもしてるのかってレベルで暗い。けれども明るい。何が明るいかって言うとガラスの向こうがけっこう明るい。どうやらガラスの向こうの明るいスペースが女性エリアになってるっぽいのだけど、その光がこちらに差し込んできていて暗いといえども中の様子は伺える。

まず、男性エリア内を見回すと、そんなには広くない暗いスペース、壁のほとんどがグルリとガラスになっていて女性エリアが見えるようになっている。一部分は壁になっていて、そこにドリンクバーがあって、機械がウィーンとかいってるのがやけにシュールだった。闇の中には先客だろうか、男性が3人いることが人影から伺える。

暗いために姿こそは見えないが、その身に纏うオーラが禍々しすぎて、一目で歴戦の猛者であることが理解できる。もう立ち居振る舞いからして只者じゃないというか、狂っているというか、とにかくすごい。そんな猛者がウロチョロと狭い空間をうろついている光景はモンスターハンターの集会所みたいだった。

さて、ガラスの向こうに目をやると、明るい向こうのスペースはよくありがちなネットカフェというかサロンというか、非常に健全な雰囲気のする空間になっている。雑誌類に、ネイルっぽいものまで充実。男性エリアなんてドリンクバーがコーラとお茶とリアルゴールドしかないのに、向こうは良く分からん紅茶みたいなものまで用意してあるような感じだった。ものすごい快適な空間なんだろうとうなるほどだ。

その中に、これが多いのか少ないのか良く分からないけれども、3人の女性がポツリポツリと離れて座っていて、佐々木希さんが表紙の雑誌などを読んでいる。このガラスはやはりマジックミラーになっているようで、向こうからは全く見えないらしい。それならば視線を気にせず大胆に女のこのことを見られると、マジマジと観察してみたのだけど、雑誌を読んでいるため全然顔が見えない。

しかし、そうやって女の子の顔が見えなくても大丈夫。男性エリアの入り口の部分にはコルクボードみたいなものが置いてあって、なんとそこには女の子のプロフィールカードが掲示してある。それを見ることで女の子のことは丸分かりなのだ。

新しい女の子のが来店すると、店員の手によってこのボードにその子のカードが貼られる。それをワラワラと男どもが見にくるんだけど、その光景が実にモンスターハンターで、クエストを見に来るハンターたちみたいでちょっと笑ってしまった。

さて、大体のシステムは理解できたので、もう一度落ち着いて女性エリアおよびプロフィールボードを観察してみると、一人増えて四人となった女性がまあ、いずれもブス。とにかくブス。まあブス。おごそかにブス。

あのね、僕は決してそういう判定は厳しくないと思いますよ。むしろ結構甘いほうで、かなり許容できるとは思うのですが、それでもこの四人、漫画になったら単行本30巻くらいまでは続くレベルのブス。こいつら四人が同じ学年にいたら絶対に四天王って言われるレベルのブス。とにかくブス。バカにしてんのか。

こういう状態が常なのかどうなのか僕には分からないけれども、こうなってくると膠着状態に陥るらしく、さすがにトークをするのも金が必要ですから、ブスに金は払いたくない、動くに動けない状態になってくるんですよ。

集会所の外にはモンスターがウヨウヨいてまさにモンスターハンターなんですけど、そんな中にあってやっぱり猛者中の猛者っているもので、ブスばっかりでトークも連れ出しもできない、その状況に何を思ったのかシルクハットみたいな帽子をかぶった鼻息の荒いハンターがしゃがんみはじめたんです。何をしてるのかなーって思ったらどうやら外の世界のモンスターのパンツを覗いている様子。

こいつ天才だぜ。マジックミラーになってるからいくら覗いても向こうからは見えない。さらにはいくらブスでもミニスカートと中身だけ見てたら興奮する。こいつはすげえ、絶対にハンターランクが高いに違いない。僕も隣に陣取って覗き見ようと思ったのですが、完全にタイミングを逸してしまい、ただ呆然と立ち尽くすだけでした。

そうこうしていると、徐々に男性の入店が増えてきます。やはりピーク時間ってのがあるんでしょうね。それに合わせるように女の子も結構な頻度で来店してくるんです。それもけっこう普通レベルの子がモリモリとやってきては、常連ぽいこなれたハンターにトークに誘われ、店の外へと出て行きます。

しばらく見ていると、明らかに他の女とはレベルの違う巻き髪の美しい女性がご来店。店員の手によってクエストボードにプロフィールが貼られると、その間、1秒ですよ、4人のハンターが鬼神の如き素早さで店員に殺到、もう剥ぎ取りの取り合いですよ。弱肉強食のハンター同士の戦いがそこにあるのです。

さて、ピーク時間も終わったのか男性客も落ち着き、女性客も落ち着いてきました。そこで僕はふと気がついたのですが、ここにいる女性はまあ、大体は何かしらトークに呼ばれるんですよ。どうやら、食事だけとかカラオケだけとか、それこそ肉体関係とかまで、女性によって設定される限度が違いますから、トークに誘い出すことでその限度を見極める必要があるわけですよ。

ですから、完全にここに暇つぶしに来てる女性なんかは外に出ないんで連れ出されない女性ってのは結構いるんですけど、それでもトークに呼ばれないってことはない。けれどもね、どうも僕が見てる限り、最初にいたブス四人、全くトークに呼ばれてない。あと、全然関係ないけど、パンツ覗いてたあの天才、まだパンツ覗いてた。

とにかく、こちらハンター側は早い者勝ち弱肉強食なんですけど、向こうのモンスター側もそれはそれで戦いの世界で、トークにすら呼ばれず、ずっと雑誌を読んでるだけの存在ってすげえ物悲しいんですよ。まるで職場の飲み会における僕みたいな存在で、すげえ泣けてくるんですよ。

僕ね、このブス四天王の中から指名してトークするわ。

向こうの光の中にいたのはモンスター、けれどもそれは紛れもなく僕と同じ姿だった。とにかく、その悲しきモンスターの中から、特に一番きっついブスを選択し、店員を呼び寄せて指名する。

「あのモンスターの討伐クエストでお願いします」

とは言わなかったけど、そんなニュアンスのことを言ったら、明らかに男性ゾーンの空気が変わった。マジか、あいついくんか、そんな難易度の高いクエスト大丈夫か、お前新米ハンターだろ、と他のハンターたちの心の声が聞こえてくるようだった。というか、店員も信じられないみたいで、「本当にそのクエストでよろしいのですか?」とは言わなかったけど、3回くらい女の子の名前を確認していた。

そんなこんなで、お金を払いトーク部屋に移動。他のハンターたちに心の声で 「

ひと狩りいってくるわ」

と挨拶をし男性エリアを後にする。トーク部屋に入ると、まだモンスターは到着してないらしく、中は無人だった。小さな丸テーブルに丸い椅子、どちらも非常に足が長いのが印象的だった。部屋の中は2畳ほどでパステルカラーに彩られている。怪しさのかけらも感じられない爽やかな内装だ。

「おまたせしました、しおりさんです」

そういって、ブスが入ってくる。ジャン!という音楽が僕の頭の中に響き渡る。ペイント弾、ペイント弾って探したのだけど持ってなかった。

まあ、入ってきたしおりさんを見ると、僕もまあ人のことをどうこう言える容姿じゃないので完全に開き直って言わせてもらいますけど、まあ、ブス、とにかくブス。どういう造型師が作ったのかを問い詰めたいレベルのブス。ブスという表現の上を行く言葉が必要なレベルの言語を超えたブス。

で、そのブスが言いよるわけですよ。

「何目的!?」

ちょっと胸元隠しながら言うわけですよ。乳首を透けて見られてるみたいなとんでもない警戒心っすよ。ほんと、この時ほどの僕が温厚で良かったって思った瞬間はないですね。普通の人なら椅子持って暴れてる。

「いや、普通にトークがしたくて」

僕が飄々と答えると、よほど自分がトークに呼ばれたというよりは召還されたことが不思議なのか、すごい警戒して椅子に座ろうともしない。一定の距離を保ちながら、ハアハアと荒い息遣い。いいから座れ。

で、よくよく見てみると、先ほどのマジックミラーでは分からなかったのだけど、こいつがけっこうなデブ。僕もまあ、人のこととやかく言えるような体重じゃないですから、完全に開き直って言わせてもらいますけど、脇のたぶついた肉がすごい。部位破壊狙いたいくらいすごい。

「あの…座ったほうが…」

僕も部位破壊なんか狙ってる場合じゃないんでそれとなく座るように促すんですが、もう何を警戒してるのか分からないんですけど、絶対に近寄ろうとしない。どんだけトークに呼ばれたことないんだ。

「今日はどんな目的で……」

もう埒が明かないんで一応、マニュアルにのっとって彼女が何目的なのかを聞き出します。すると彼女はビクッとなった後に

「私目的とかないんで!ここにブラックジャック読みに来てるだけなんで」

と、熱烈拒否。たぶん、自分が出会い目的で呼ばれるはずがない、こいつはきっと連れ出して私を殺す気なんだわとか思ったに違いありません。そんなところで規定のトークタイム終了。トークタイムって言うけど、あまりまともにトークしてない。

クエストが失敗に終わり、また男性ゾーンに戻ると、あいつ、あのブスとの交渉に失敗しやがったみたいな目で見られちゃいましてね。ベテランハンターどもから一目置かれる存在に成り上がったのです。

出会い喫茶で、途方もないブスをハンティングしに行って熱烈拒否される。なんか出会いに行って出会いもなく、心の傷を増やすだけ。もしかしたら皆はこんな心の傷を埋めるために、貪欲に出会いを、ネットを使って次々と出会いを求めるのかもしれません。

「ありがとうございました」

失意のまま店を出る僕に、物凄い爽やかな笑顔で挨拶をするイケメン店員さん。あんたに出会えたのが一番の収穫だったよ。新米ハンターは集会所を後にした。


3/28 四畳半の戦場

こうして長いことワールドワイドウェブ上で日記を書いていますと、やはり自分的にも好きな日記、嫌いな日記というのが出てきます。そりゃそうです、もう10年半もやってるんですから。時間による堆積ってのは結構重要なもので、どんなクズでゲスなことでも10年もやればそれなりに立派に見えてくるものです。

例えば、毎日ヒゲを剃らずに毛抜きで抜いて正露丸のビンか何かに集めている人がいたとしましょう。その行為自体は別になんてことはない、むしろお見合いの席で「ヒゲを抜いて集めてます」なんて言おうものなら、一発で向こうからお断りの電話が入るレベルです。

ただ、その行為も10年も続ければ立派なもので、一つの偉業に昇格します。貯めたヒゲの量も相当なものになっているでしょうし、なんか見てるだけで痒くなってくるような独特の禍々しきオーラを放っていることでしょう。自分で垂れ込めばローカル局の情報番組くらいなら取材に来るかもしれません。

このように、その行為自体は大したことがない、いやむしろクズの部類に入る行為であっても、それを10年続ければそれなりのものに変わるものなのです。何かと移り変わりが激しくスピードとイノベーションが求められる現代社会、その中においても変わらないことっていうのはある程度大切なのかもしれません。

で、好きな日記っていう話に戻るんですけど、そうやって10年もやってるとやはり自分的にも好きな日記って出てきますし、閲覧した方でもこの日記はいいね、とか思ってくれる人もいると思うんですよ。過去の日記を取り上げて、これ面白い、ってtwitterとかで紹介してくれたりね。

ただ、時間の壁ってのは確実にあって、何年も前に書いた日記って今の僕から見ても僕が書いた日記じゃないし、完全に他人が書いた日記なんですよね。へーこんな日記もあるんだ、ってすごい他人の目線で見ていたりする。そうすると、好きにな日記って意味合いも違ってきて、当初は書いた自分として好きな日記だったのだけど、完全に閲覧者の目線で好きな日記を選ぶようになっている。

もう一つの意味での時間の壁っていうものも存在して、これは長期連載の漫画なんかによく起こる現象なんだけど、長い長い連載期間の間に社会情勢がめっきり変わってしまうという点。それが最も分かりやすいバロメーターが携帯電話だ。

例えば、10年前ならまだしも20年前には携帯電話なんてのは今ほど普及していなかった。あったとしても通信兵みたいなとんでもないものだった。それが今や、誰もが持ってる必須アイテムにまで昇華し、社会生活を一変させる存在にまでなった。

長期連載の漫画はそのへんの部分に頭を悩ませていて、連載当初は携帯電話なんてありえなかったのに、なぜか漫画内ではそんなに時間が経過している設定ではないのに突如として携帯電話が登場したり、逆に一貫して携帯電話を登場させず、すごく時代から置いていかれた状態になっている作品も存在する。

長く続けることはそれなりに意味があることなのだけど、この時間の壁だけは非常に深い問題になる。特に漫画や書籍なんかは、発行年数とかコミックスの巻数などから書かれた年代がある程度は推測できるのだけど、インターネットの文章は往々にして書かれた年代が分かりにくい。結果、この時間の壁がモロに露出して、こいつ何言ってんだ、みたいな状態になることが多い。

例えば、最も分かりやすい例を挙げてみると、僕が書いた日記なんだろうけど、閲覧者として非常に好きな日記があって、それが「四畳半の戦場」という日記なのだけど、過去に書いた日記だけあってそんなに長くないのでここに全文を転載してみる。

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四畳半の戦場

へへ、やっぱり血には抗えないもんだな。またこの戦場に舞い戻ってきちまったよ。

今を遡ることおよそ2ヶ月前の4月、テレビとビデオという戦友を同時に失った俺はエロビデオから引退した。血で血を洗うエロビ闘争から一歩身を引き、悠々自適の隠居生活、そうなるはずだった。

けれどもな、一度染まっちまった血ってのはなかなか元にゃ戻らねぇ。俺の中を脈々と流れるエロビソルジャーの血が、ピンク色の血が、平穏な日常を許しちゃくれないのさ。

泣き叫ぶ妻子を置いて俺はまた戦場に舞い戻った。レンタルビデオショップのエロビデオコーナーという名の戦場。広さたった四畳半ほどの小さな戦場。甘えも妥協も命取りでしかないこの世界に舞い戻ってきたんだ。

俺の装備は心もとない。相変わらずテレビも、ましてやビデオもありゃしねぇ。けれどもな、戦場でそんな泣き言を言うヤツなんていやしねぇ。ココじゃあ装備よりも魂だ。それに、今は便利な世の中になったな、俺にはDVDってやつがある。これだけありゃあいくらでも立派に戦ってみせらあ。

くくく、やはりココは戦場だぜ。どいつもこいつも焼け付くようなギラギラした目をしてやがる。ハズレのビデオを選ばないように、間違って最新作を借りてしまわないように、予算内に収まるように、どいつもこいつもナイフみたいな目をしてやがる。

四畳半ほどの広さの戦場に、俺を含めて3人もの男がいやがる。他のナヨナヨした男とは違う、牙を持った男達、それも信じられないくらい研ぎ澄まされてやがる。

俺には分かってるぜ。お前らも信念があってこの戦場にいるんだよな。男には自分の世界がある。例えるなら空を翔ける一筋の流れ星(ルパンザサード)。

おっと!いきなり死のカーテン(注1)か。相変わらず手加減もクソもありゃしねえ。ブランク明けのこの俺に情け容赦なく死のカーテン。へへ、鬼どもが棲む世界はこうでなくちゃな。

(注1 死のカーテン−エロビデオを選んでいる人の前に立ちふさがり、選ぶのを妨害する行為。エロビソルジャーとしてはローキック並みに基本)

俺の前に立ちふさがる今時風の若者。名前はリトルジョン。なかなか良い動きしてるじゃねえか。だがな、移動の際に左肩が開く癖はいただけない。それじゃあ死のカーテンの意味がないぜ。おっと、ついつい先輩風吹かしちまった。ここじゃあ全員敵だったな。敵対心も忘れて忠告とは、俺も年取ったもんだぜ。いやいや、ブランクのせいかな。

おっと、こちらのオタク風のお兄さん(サンダース)はゾーンディフェンス(注2)か。この動きを見ると、俺は戦場に帰ってきたんだなあって思うよ。

(注2 ゾーンディフェンス−目ぼしい作品をキープしまくり他の人が借りられなくする手法。ガッチリキープした作品群から吟味し、最終的に借りる作品を決める。堅実派ソルジャーが好んで使う戦略)

この世界は何も変わっちゃいねえ。いつまで経っても戦場は戦場だ。今日が復帰戦だって甘ったれた気分も吹き飛んじまった。さあて、俺も極上のエロDVDでも借り漁るか。見てろ、リトルジョン、サンダース、これがプロのエロビソルジャーのエロビチョイスだ!

ブランクもものともせず借りまくる。いや、駆りまくる。そう、コレだよコレ。俺が求めていたものはコレだ。平穏な日常なんてクソ喰らえ、男と男のプライドを賭した戦い、生きてるってこういうことなんだ。

血を沸騰させながらエロDVDをキープしていく。その様を見て格の違いってヤツを悟ったのか、リトルジョンはスゴスゴと退散した。妥協して選んだのだろう、数本のエロビデオを大事そうに抱え退避した。戦場に背を向けた男、リトルジョン。なあに、まだ若いんだ、いくらでもやり直せるさ。

さて、そろそろ俺の方もサンダースに引導を渡して仕上げにかからなきゃな。おや?さっき戦場に背を向け、数本のエロビデオを持ってカウンターに行ったはずのリトルジョンが戻ってきやがった。一度戦場に背を向けた男が戻ってくる、これは只事じゃないぜ。

ふと棚の隙間からカウンターを覗いてみる。一体リトルジョンの身に何が起こったのか。ヤツを戦場に舞い戻らせたものは何なのか。塹壕から覗き込むように確認した。

バ、バカな!カウンターの店員がカワイイ婦女子に代わってやがる!

おかしい。さっきまでは屈強な憲兵みたいな店員だったはず。確かにそうだ、店に入った時に確認したはず。確かに憲兵だった。それが、今やカワイイ婦女子に。これだから戦場ってヤツは恐ろしい、何が起こるか分かったもんじゃねえ。

男店員だと思ってエロビを持っていったらカワイイ女に代わっていた。それでリトルジョンは血相変えて戻ってきたってわけか。 確かに恐ろしい。ビデオ屋の女性店員は地雷原みたいなもんだ。うっかり足を踏み入れたらとんでもないことになる。できれば避けて通りたいものだ。

でもな、戦場において「地雷原だから通れない」は通用しねえ。そこが地雷原だろうがなんだろうが先に進むのみ。俺たちエロビソルジャーは不器用だからな、それしかできねえんだ。

「このままじゃ、いつまで経っても行けない。よし、勇気を出して行ってみよう!」(リトルジョンの心の声)

「まちな」(俺の心の声)

「え・・・!」(リトルジョンの心の声)

「あたら若い命を散らすでない。お前はまだ若いんだ。俺が行く」(俺の心の声)

「そ、そんな、だって俺・・・アンタが選ぶのを邪魔したり・・・」(リトルジョンの心の声)

「なあに気にするな。昨日の敵は今日の友。一緒に戦ったらもう戦友さ」(俺の心の声)

「俺・・・俺・・・」(リトルジョンの心の声)

「女店員は俺がひきつける。その隙にオマエらは周り込んで男店員の方を突破するんだ、いけ!リトルジョン!サンダース!」(俺の心の声)

「隊長・・・!」(リトルジョンとサンダースの心の声)

うおおおおおおおおおお。塹壕を飛び出し、迫り来る砲弾をかいくぐって敵将の元に辿り着いた俺。早速、吟味したエロDVDを差し出す。「レイプ!レイプ!レイプ!」タイトルだけで10年くらい懲役になりそうなDVDを麗しき女店員に差し出す。

「会員証をお願いします」

「なにをやってるんだ。リトルジョン、サンダース。早く、俺がひきつけてる間に周りこめ!」(俺の心の声)

会員証を受け取り、バーコードを読み取る女店員。その隙にリトルジョンとサンダースが塹壕を飛び出し、男店員の方に回りこむ。これでいい、これでいんんだ。そんな心配そうに見るな。老兵は死なず、ただ消え去るのみ。年老いたロートルが若い世代にしてやれることなど、これくらいのものだ。

「あれ・・・あれ・・・?」

戦場ってヤツは魔物が棲んでいる。何が起こるかわかりゃしねえ。女店員は必死でエロDVD「レイプ!レイプ!レイプ!」のバーコードを読み取ろうとするのだけど、全然読み取れない。

「田中さん、バーコードが・・・」

女店員は横の男店員に懇願するように話しかける。

「んあ?なんのソフトが読み取れねえの?ソフトによってたまにあるんだよなー」

「レイプ!レイプ!レイプ!です」

ごふっ!

やられちまった。やられちまったぜ。これじゃあ晒し者じゃねえか。婦女子の口から借りたエロDVDのタイトルを言われる。間違いなく致命傷じゃねえか。

「リトルジョン、サンダース、良く聞け。俺はもうダメだ。敵の次の砲撃が来る時、俺はもうこの世にいないだろう」(俺の心の声)

「隊長ーーー!」(リトルジョンとサンダースの心の声)

リトルジョンとサンダースは、俺の横の列に並びながら悲しげな目で、悔しげな眼差しで見ている。

「なあ、今度生まれ変わったら戦争のない世界で過ごせるのかな。俺達ソルジャーが気兼ねなくエロビデオを借りられ、誰と争うこともなく好きなエロビデオを借りられる、そんな世界が来るのかな・・・・ガクッ」(俺の心の声)

「隊長ーーー!」(リトルジョンとサンダースの心の声)

リトルジョンとサンダースをかばうため、若き次世代に自分の意思を受け継がせるため、戦死したはずだった。しかし次の瞬間、奇跡が起こった。

「あー、いいよ。こっちでやるから。貸して」

男店員は俺の「レイプ!レイプ!レイプ!」を女店員から受け取ると、自分のレジで処理し始めた。すんでの所で命拾いだ。そして、

「お待ちのお客様、こちらにどうぞー」

手が空いた女店員のその言葉は、他でもないリトルジョンとサンダースに向けられていた。

リトルジョン、サンダース、戦死。

エロビデオコーナーという名の四畳半の戦場。ココでは何が起こるのか分からない。少しでも気を抜けば即座に命を落とすことになるだろう。

あばよ、リトルジョン、サンダース。お前らの墓参り、ちゃんと行ってやるからな。いや、俺らに墓参りなんて似合わないな。お前らが命を落としたこの場所に、お前らの大好きなエロビデオ持って来てやるからな(1週間後に返却しに)。

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すさまじい日記だ。これ本当に僕が書いたのだろうか。自分で自分の日記を褒めるのは、職場の会議で自分の意見を押し通そうとする人が演じる茶番劇より滑稽なのだけど、もう僕は作成者より閲覧者の目線になってしまってるのであえて褒めようと思う。

まず、スリリング、読んでいてハラハラドキドキしてしまう。それでいて、あの特殊なビデオ屋のエロビデオコーナーという空間を見事に表現しきっている。緊張感の中にあってほんのりとした優しさを垣間見せる場面もあり、緊張と緩和のバランスが非常に良い。さらには、女性読者のことなど1ミリも念頭に置いていない姿勢が素晴らしく潔い。ついでに「四畳半の戦場」というタイトルも秀逸で、語感が良いだけでなく、実際にはエロビデオコーナーが4畳半の広さなんてことは絶対にないのだけど、それだけ狭く感じるほど濃密な空間であることを連想させる。さらには四畳半とは等身大の自分と同じ意味を持つ。僕だけの戦争、2004年時点でこのタイトルをつけることができるセンスには驚くばかりだ。

と、自画自賛してみたのですけど、結構気持ち良いもんだ。とにかくまあ、僕はこの日記が作成者としては別にそうでもないのだけど、閲覧者としての視点で見ると格段に好きだ。なんか趣があって、すごい深い心情風景が広がってくる。古き良き時代を思い起こさせるのだ。

けれども、これももう、完全に時代にマッチしていない。これを書いた当時は、まだyourfilehost維新が起こっておらず、インターネット上でエロい動画を見ることなんてありえなかった。エロサイトに挙げられた数秒のエロ動画を見るために、訳のわからない「FREE XXXX!」とかギラギラ光るバナーをクリックし、隠しリンクをクリックし、お礼は三行、そんな時代だった。

つまり、まともにエロい動画を見ようと思ったらビデオ屋に赴き、徹底的に吟味に吟味を重ねてエロビデオをチョイス、7泊8日レンタルにするために最新作は避けて旧作を狙う。何度となくパッケージに騙され、単品女優物から複数出演の企画物に移行していく、そんな時代背景だった。世の多くの男性がそういった修羅の刻を経験しているからこそ、この日記は共感を呼ぶし、心の中のいちばんウブな何かを刺激するに至っているのだ。

それが今やどうだ。ピッポッドン!たぶん、3回くらいクリックしたらいくらでもエロ動画に到達してしまう。抜くのに十分な画質長さ、それらが簡単に、それでいて無制限に手に入ってしまう。

さらには、DVDの台頭、販売用のセルDVDが安価になったこと、amazonなどのネット通販の隆盛、それらが追い打ちをかけて誰も金を出してレンタルしなくなったし、恥ずかしい思いをして借りなくても通販で手に入るようになってしまった。ちなみに、エロビデオ最盛期のVHSビデオなど標準で2、3万円くらいだったが、いまやエロDVDは2千円前後、完全に手が出る値段だ。

皆さんも思い出したかのようにお近くのエロビデオコーナーに行ってみるといい。もう既に存在しないか、あったとしても申し訳程度、本当に4畳半くらいの広さかもしれない。そして、ゴーストタウンのごとく人がおらず、陳列もまばら、分類もやる気がないものになっているはずだ。

あの時代を知っている人ならいいだろう。この「四畳半の戦場」を読んで、そうそう、あんときむっちゃ吟味したのにパッケージに騙されたなあなんて思ってくれるのだけど、今のエロ動画サイトしか知らないゆとり世代、円周率を3で習ったゆとり世代が読んだらどう思うだろうか。何言ってんだ、このオッサン、くらいのことは思うかもしれない。

そうなるとね、やはりゆとり世代にも優しいNumeriを自負してるわけですから、今の時代に即した「四畳半の戦場」を書かないといけないわけですよ。今のインターネットダウンロード時代に即した「四畳半の戦場」ということで、いってみましょう。

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四畳半の戦場

また俺は帰ってきちまった。この戦場に帰ってきちまったんだ。最初は耳を疑ったね、俺はもう退役の金時計ももらった。静かに余生を過ごす戦場とは無縁の老兵だ。何を間違ったのかその老兵にお呼びがかかった。なんてこたあない、戦局が厳しい、こんな老兵にまで声をかけなきゃいけないほど我が軍は追い詰められてるってことだ。

なんにしてもお呼びがかかるってのは嬉しいもんだ。いっちょ若造どもを揉んでやるか。俺は戦場へ行く準備を始めた。あそこは情も何も通用しねえ修羅の世界、エロビデオコーナーという地獄、鬼の棲む世界だ。それなりの準備をしなきゃ一瞬で命を奪われちまう。

戦闘服に身を包み、銃の手入れも怠らない。軍靴の靴紐を締めていざ戦場へ赴こうとした。しかし、若造は言う。

「今は戦場に出向く時代じゃないっすよ」

何を言ってるか意味がわからねえが、どうやら今は戦場で直接ドンパチなんて滅多にやらねえそうだ。なんでも家から手軽に戦場にアクセス、お気楽に戦闘を楽しめる、それが普通らしい。戦場でエロビデオを手に入れるなんて死語のようだ。

「じゃ、じゃあ、死のカーテン(注1)とかは使わねえのか?」

(注1 死のカーテン−エロビデオを選んでいる人の前に立ちふさがり、選ぶのを妨害する行為。エロビソルジャーとしてはローキック並みに基本)

俺の問いかけにゆとり世代だろう若い兵士は笑った。今は死のカーテンなんて誰も使わない、それどころかエロビソルジャーって言葉すら使わないらしい。エロビってなんすか?ゆとり兵士は馬鹿にしたように笑った。どうやら今はDVDもしくはファイルになってるらしい。

早速、ゆとり兵士の手引きでインターネットにアクセスし、今一番ホット言われるエロ動画サイト、xvideo.comにアクセスしてみる。なるほど、良い時代になったもんだ、こんなに手軽にエロ動画が手に入るとなると、感慨とかそういったものは皆無なんじゃねえか。そんな気持ちになってくる。

「とりあえず、俺はマッサージ物がみたいんだが?」

マッサージと偽ってエロスなことをして、リンパの流れがどうこう言ってエロスな部位を触る。そうこうしているうちに患者は良い気持ちになってきて、そんな動画がご所望だ。

「ここの検索窓に検索ワード入れて検索っス!」

ゆとり兵士はまるでゲームの攻略法を語るように軽やかに言った。戦場はこんなもんじゃねえ、もっと、気を抜いたら何もかも根こそぎ奪われるくらいの場所だ。この戦場には緊迫感が足りねえ。あの、エロビデオコーナーに蔓延していた、刺すか刺されるか、そんなリアリズムが微塵も感じられねえんだ。

「マッサージ リンパ」

検索窓に入れて検索する。結果がでやしねえ。

「ダメっすよ、xvideoは英語でしか検索できないっス!常識っすよ〜↑」

嘆かわしいことに、鬼畜米英の言語を用いて検索しなければならないらしい。

「じゃあ、「中出し」とかどうやって検索するんだ?」

「中出しはCreampieっスよー↑」

釈然としないままCreampieで検索する。おおお、出るわ出るわ、数々のエロ動画、ってこれ全部外人じゃねえか!外人なんかで抜けるか!あいつらのセックスはスポーツ見てえじゃねえか!あいつらなんで絡みが終わったら変なBGM流すんだよ!とにかく外人で抜けるか!

「仕方ないっすよー、どうしても日本人みたいならJapaneseとかいれないとー↑」

「もういい!」

これは何か違うと思った。手軽なのはいいことなのだけど、何か釈然としない。そう、他者の存在だ。ここは戦場であって戦場ではない。なぜなら他者、敵が存在しないからだ。敵がいなくてなにが戦場か。

「もっと他に愛好家とか揃ってる場所はないのか?」

「あるっスよ〜↑」

紹介されたのは、皆がオススメのエロ動画を紹介しあう掲示板だった。アクセスしてみるといるわいるわ、歴戦の猛者どもが掲示板にひしめき合い、我も我も動画を紹介し合う。

「この空気だよ、俺が求めていたものは」

試しに紹介されていたURLにアクセスしてみる。外人の女がオッフオッフ!言ってた。

「また外人じゃねえか!」

「仕方ないっすよー人の好みはそれぞれっす。外人が好きな人もいますから〜↑」

「もうxvideoはいい!」

「じゃあ、ここっスね↑」

教えられたのは、どこかファイルを上げることができるアップローダーに有志がアップロードし、それを紹介し合う場所だった。俺にはこちらのほうがあの日のビデオコーナーの空気に似ていて性に合った。

「ここにアクセスすればいいのか?」

「そうっスねー↑」

最高に抜ける!大人気!なまめかしい腰使い!というファイルが紹介されていた。早速ダウンロードできるURLにアクセスしてみる。

「ダウンロードできねえけど?」

「人気があるから順番待ちっす、みんなダウンロードしようとしてるんすね。めげずに何度でもトライっすよ!」

これだよ、これ、俺が求めていたのはこれ。あのエロビデオコーナーでの死のカーテンや、人気作の取り合い、返却されました棚で待ち構える行為、そういった他人を出し抜くことに命をかけるあの雰囲気がこのアップローダーにはある。とにかく何度もアクセスしまくった。

「本当にこれダウンロードできるようになるのか?」

「なるっす!信じて頑張るっす!」

腱鞘炎になるかという勢いでクリックしまくった。そして戦うこと1時間、ついに

「ダウンロードが可能な状態になりました」

イエス!

俺は若造とハイタッチで喜び合った。ムリムリとダウンロードが進行する。アップロードした者の説明によると、なんでもエロい人妻が物凄い艶かしい腰使いで大ハッスルしているらしい。ジリジリと進むステータスバーに心躍らせながらダウンロード完了を待つ。

「ダウンロード完了しました!」

イエス!

再度ハイタッチをし、ファイルを解凍、ついに開く。そこには151ファイルにおよぶ瀬戸内寂聴さんの画像ファイルがギッシリつまっていた。

「どういうこと?」

「徳を積んだっスね!」

どうやら、そういった類の騙しがあるらしい。恐ろしい世界だ。

「今度はこの、弁当配達の女の子がってやついってみようか」

「それも人気ッスね↑」

こうして俺と若造は興味のあるエロファイルに片っ端からアクセスし、騙され続けた。どうやらその中にはウィルス?と呼ばれる生物兵器が混じっていたらしく、俺のパソコンの中身が皆に共有されることとなった。

「孫の写真まで流出してるっスね↑」

戦場をネット空間と移して繰り広げられるエロ電脳ウォーズ。あの日あの時のエロビデオコーナーより殺伐とした戦いが繰り広げられていた。恐ろしい世界だぜ。

おわり ---------------------------------------------------

あれだな、こんな日記ばかり十年書いてても何にもならないわ。


3/27 巨乳アンモナイト

巨乳がお空から降ってきたよ

巨乳がひらひら降ってきたよ

お空の星が巨乳に弾けてヒラヒラ

巨乳は右に左に、星を弾きながら僕の街に降ってくる

「あ、あれはなに、お父さん!」

「あれはね、巨乳だよ。理想を追い求めた人類の成れの果て、欲望の結晶、悲しき遺産だよ」

「ふーん、巨乳って悲しいんだね」

「ああ、いつだって巨乳は悲しい、そして柔らかい」

「ふーん、あっ!みて!巨乳が一番大きい星に!」

プシュー!星の角に当たった巨乳は破れ、中の空気を出しながら敗れた風船のように萎んでいった。

「いこう!あそこに真実がある」

父さんは僕の手を握って走った。日が暮れても、日が明けても、信じる友のために走った。三日三晩走っただろうか、父は言った。

「巨乳の中には何が詰まってるかな?」

「わかんない」

森のクマも優しい瞳で見守っていた。

「今からそれを確かめにいこう!」

草をかきわけ、森林を伐採し、住民の反対をものともせずに森を切り開いた。そして、ついにあの萎んだ巨乳を見つけた。

「父さん!巨乳だよ!」

「ああ、でももうこれは巨乳じゃない」

「萎んでるもんね」

森のキツネは笑っていた。

「さあ、めくってみよう」

「うん!」

萎んだ巨乳をめくると、そこには大きな大きなアンモナイトがいた。

「太古の記憶、遠き日の過ぎ去りし希望、儚い夢、栄枯盛衰」

父さんは意味深なことを呟く。

「巨乳の中にはアンモナイトがいる」

「それだけわかっていればいい」

父は涙を流しながら言った。森のフクロウが静かに泣いていた。

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僕はね、本当は絵本作家になりたいんですよ。もうオッパイだとかクンニだとか、そういった言葉をNumeriですか?そういういかがわしい場所に書くのはどうかと思って、本当は銀河晴彦とかそんなペンネームで絵本を描きたいんですね。

けれども、みなさんご存知のとおり、僕って結構ロマンティックで、絵も上手なんですけど、その、なんていうか、あまり絵本に向いた絵をかけないじゃないですか。

というわけで、僕の自信作、というか、銀河晴彦の自信作、巨乳アンモナイトの原文を載せておきましたので、我こそは!という方は絵を描いてください!一緒に児童文学界を震撼させましょう!


3/26 秘密基地

大切なものを手に入れるといつかなくなるんじゃないかって心配してしまう。誰しもが欲しいものや手に入れたい物ってやつがあるもので、例えばそれが限定のフィギュアだったり、AKBの生写真だったり、ケルベロスのウサのカードだったり、とにかく手に入れたいものがあるはずだ。

かくいう僕も、つい先日どうしても欲していて止まなかった書籍を大きい本屋で見つけてしまい、8400円という本とは思えない、本と見せかけて中にブルーレイディスクが5枚くらい入ってるんじゃないかっていう本を購入したのだけど、それはもう嬉しかったものだ。

この、欲しい物を購入した後の帰り道のワクワク感っていうか万能感というか、今なら空も飛べるかもしれないという感覚というか、マリオがスター取ったような状態ってのはとにかくすごくて、言うなれば、厳選に厳選を重ねたエロビデオをレンタルした帰り道というか、おっぱいを揉んでる感覚というか、違うな、なんだろう、そう、子供の頃のあの日、秘密基地を作ったあのワクワク感に通じるものがある。

幼かったあの日、僕らは木箱を積み上げて秘密基地を作った。使われていない廃倉庫、拾ってきたボロボロのソファーに、木箱を机に見立てた、あの小汚くて暗い僕らの秘密基地。あの中で味わった何でも出来るかもしれないというワクワク感、欲しい物を手に入れた感覚はそれに似ている。

けれども、ほしい物というか宝物なんていうのは、手に入れた瞬間から失う瞬間までのカウントダウンが始まっていると言っても過言ではない。破損、紛失、盗難、飽きる、金に困って売りさばく、様々な理由があるかもしれないが手に入れた瞬間から失うことを意識しなくてはならない。

そういった意味では、件の8400円の書籍など、買った15分後には電車の中に置き忘れて紛失した。1文字も読むことはなかった。なんであんな場所に置き忘れるのか、今でも理解しがたい不可思議な人智を超えた現象が巻き起こっていた。

大人たちの手によって失われてしまったあの日の秘密基地と同じで、大切なものは、それが心をときめかせるものであればあるほど、失うことが怖くなる。そういうものなのだ。

さて、そんな8400円の書籍をロストした僕にとって、今最も大切な宝物が二つあります。一つが、超絶カワイイAV女優、成瀬心美さんにサインして頂いた3DS。

これ見てもらったら分かるとおり、ちゃんと「PATOさんへ」って書いてあるんっすよ。「ほしー!」とかこの3DSをカチャカチャやっててですね、すげえカワイイ顔でサイン書こうとした瞬間ですよ。

「あのpatoさんへって入れてください。patoはアルファベットのp、a、t、oです」

って勇気を出して言ったんです。成瀬さんは「はあ?なにpatoって?」ってすごい不可思議な顔してましたが、そういう名前でインターネットで日記書いてますと言うことができず、「本名です」って誰も得しない嘘をついて書いてもらったサインです。

もう本気でこれが宝物でしてね、常にリュックに忍ばせて、会う人会う人にさりげなくこの3DSを見せつけてですね、会う人会う人に「いやー成瀬心美にサインもらっちゃってね」とか自慢してるわけですよ。

職場の同僚に見せた時なんてみんな羨ましがっちゃってですね、ついでに「なに、PATOって?」とか言われて、困った僕は「ああ、僕のクリスチャンネーム」って誰も得しない嘘をついたんですけど、もうこれがなくなったら生きる意味を失う、ってくらいに大切に思っているんですよ。

そして、もう一つの宝物が、これは物ではないんですけど、健康ランドにいる時間、ですかね。前にも書いたんですけど、僕すごいサウナにはまってましてね、とにかくサウナおよび健康ランドにいる時間ってのが何物にも代え難いくらいに大切で尊い時間なんです。

でまあ、とにかく暇さえあれば健康ランドにサウナにと大車輪の如き勢いで通ってるんですけど、最近、妙に髪質と肌質が変化したなって感じたんです。僕はまあ、かなり繊細でナイーブなサラサラヘアーですし、お肌もすごく敏感なナイーブ肌ですよ。当然ね、健康ランドやサウナに備え付けのシャンプーやボディーソープが合わないんですよ。憎いね、繊細な自分が憎い、クレンザーで洗っても平気な一般の皆さんが羨ましいですよ。

まあ、そうなると仕方ないんで自分の髪と肌に合うシャンプーとボディーソープをリュックに入れておくじゃないですか。そりゃそうっすよ、いつでもサウナ行きたいですから。まあ、シャンプーとかのボトルって親の敵かってくらいにデカいですから、リュックがパンパンになるんですけど、それでもまあ、背に腹はなんとやらですよ。

とにかく、成瀬さんのサイン入り3DS、健康ランドに行く時間、この二つが今僕が最も失うわけにはいかない二大宝物なんですが、やはり、これらもいつ失われるのかビクビクもんですよ。

3DSなんて嫉妬に狂った成瀬さんファンの手によって盗まれるかもしれないですし、日本が爆撃とか受けて戦時体制に突入し、悠長に健康ランドに行く時間すら失われるかもしれません。それどころか無一文になって健康ランドに行く金すらなくなるかもしれません。大切なものはいつか必ず失われるんです。

でもね、失われるからこそ、今を大切に思うことができるのかもしれません。そういったものが存在するとは思いませんが、大切なものが永遠の存在であるならば、実はそれはさほど大切に思わないのかもしれません。失う可能性があるからこそ、今そこにある存在が大切で尊く思えるのかもしれません。

そんな風に感慨に耽りながら、また成瀬さんの3DSを愛でようと、リュックを開けるとなにやら異変が。なんかドロドロしている。ついでにすごいフローラルな爽やかな香りと、薬品っぽい刺激臭が。どうもパンパンになるくらいにシャンプーとリンスとボディーソープのボトルを入れていたせいか、思いっきり中身が出てるんですわ。ついでに、風呂掃除用に買ったお風呂の洗剤も漏れて出てきてた。もうリュックの中ベチョベチョ。

ま、まさか。

焦って3DSを取り出すと、シャンプーやらなにやらが付着して精子ぶっかけられたみたいな状態になって出てきました。

「成瀬さんが精子ぶっかけられた!」

AV女優なんで結構当たり前ですけど、そう叫びながら涙ながらに見ると、洗剤やシャンプーで洗われたのか、キレイさっぱり、サインが消えてました。すげえ綺麗になってた。あと、3DSは起動しなくなってた。

あの日の秘密基地のように、大切なものはいつか失われます。こんなに辛く悲しい思いをするのならばいっそ手に入らないほうが良いとすら思うのですが、それでもやはり、僕らは宝物を手に入れてしまうのです。残った宝物、健康ランドに行く時間と、ケルベロスのウサのカード、これだけはなるべく失わないようにしようと思う。


3/25 許せない明日へ

あなたは「絶対に許せない」と人から言われたことはありますか。

何かを許可するという意味ではなく、過ちや自分にとって喜ばしくない行為を許容するという意味での「許す」という行為は根本的に違う。クンニを許可するという意味での「許す」と5年間付き合った彼氏の出来心での浮気をわだかまりを残しつつそれでも好きだからと「許す」では根本的に違う。

ここが日本語のおかしなところであり、妙でもあるのだが、5年間付き合って浮気されて心の中で葛藤する25歳OLの複雑に入り組んだ心の中のトラフィックと、クンニ許す!OK!ジュルジュルブルルビチャ!が同じなのだから、さぞや25歳OLは浮かばれない。

では、この二つの意味を持つ「許す」なのだが、その違いは一体何だろうか。クンニ的な許すと25歳OLの許す、そこにある違いは「心の中の葛藤」なのである。どちらも行為を許容するという意味での「許す」なのだが、クンニはフィーリングで舐めて、と許すのに対して、25歳OLはそこに至るまでの様々な葛藤を想像できる。そこが根本的に違うのだ。

実は、人は許せる生き物なのだ。それはもちろんクンニ的な意味ではなく、心の中の葛藤的な意味での許すなのだが、とにかく人は許すことができる生き物で、あらゆる怨みや憎しみも根本的には許すという行為に帰結する。

それは何も、人は皆善人で何でもかんでも許すことができる、みたいな性善説的なことを言うつもりはないし、人を許すことで道は開かれる、みたいな出来の悪い新興宗教みたいなことを言うつもりもありません。ただ、本当に許すことができるんだから仕方がないのです。

人は忘れることができる生き物です。あんなに辛かったことや泣いた夜、悔しくって眠れなかった、痛かった、死にたかった、その時は一生忘れることがないだろうと思っていた感情も、月日の経過によって確実に色褪せていき、薄れていくのです。永遠と思われがちな写真が、薬品の劣化によって次第に色褪せていくのと同じよう、その思いも永遠ではないのです。

人間は忘れるからこそ生きていけるのだとよく言われます。忘れるという行為は、小学校の時に授業参観で音楽の時間に父母が見守る中、よりにもよって縦笛を持ってくるのを忘れてしまい、ずっと口笛を吹いて誤魔化そうとした僕のように悪い行為だと思われがちですが、実は悪い側面だけではないのです。

辛い思いや悲しい思いを忘れることができなかったら、人間の一生はどんなに辛く悲しいものでしょうか。29年前に入学式でおしっこ漏らした堀部くんなんて忘れることができなきゃ今頃生きていないですよ。

それと同じで、憎しみや恨み辛み、これらだった感情が外に向いてる分色褪せにくいですが絶対に薄れていくのです。そんなことはない、人間の感情をわかってない、と仰る方もいるかもしれませんが、脳の仕組み上、そうなってるのですから仕方がないのです。

つまり、人間は忘れることができて、その行為によって生きていけてる以上、「許す」ことができる生き物なのです。僕だって29年前、小学校の入学式で僕の目の前でおしっこ漏らした、本人の名誉のために伏字にしますけど、H君のこと、先日やっと許すこととができましたからね。基本的に許すことができるんですよ。

そうやって「許す」ことができる人間です。それらを飛び越えて「絶対に許さない」という感情、これは途方もない憎しみであることが容易に想像できます。なにせ忘れるという脳の構造を全て超越して許さないのですから、とんでもない感情の爆発が期待できます。この言葉を言われた経験のある人は余程のことだと理解しておいたほうがいいでしょう。

先日のことでした。

僕は仕事柄、周り中オッサンだらけの水泳大会みたいな、競馬場みたいな色合いの場所に出向いて作業することが多いのですが、稀に女子大みたいな女のフェロモンムンムンみたいな場所ですとか、腰がウナギみたいに動きそうな熟女の集まりの場所ですかと、そういったこの世の桃源郷みたいな場所に出向くこともあるんですね。

ただ、本当に稀で、よく知らないですけどケルベロスのウサのカードぐらいレアだと思うんですけど、小学校高学年ぐらいの子供たちの集団の中に放り込まれることがあるんですよ。で、なぜか分からないですけど、その時だけ上司が僕に付き添ってくるんですね。女子大でも半裸みたいな熟女の集会でもついてこないのに、何を警戒されてるのか全然理解できません。

でまあね、行くとやっぱガキどもですわ、ワーワー言いながら慕ってくるんですね、そうやって群がってくる並み居るガキどもを次から次にちぎっては投げちぎっては投げできたらどんなに気持ちいいかと思うのですが、そんなことしたら多分クビでは済まないと思われますのでやらないですけど、子供たちがはしゃぎすぎて収拾がつかなくなってくると、かならず上司が仕切り出すんですね。

「みんな、元気かなー!?」

とか、そりゃアンタ、こんだけ騒いでるんだから元気だろと、僕のイライラが始まるんです。どうにこうにもなぜなのか分からない。僕は結構温厚な性格でイライラとかしないんですけど、この小学生に相対する上司を見ると、いつもイライラして仕方がないんです。

「今日はお兄さんたちが皆さんに仕事のことをお話しますね」

上司が勝手に自分のことをまだまだいける、十分若い、ってスナックで言われたのか何なのか知りませんが勘違いしちゃって「お兄さん」と自称するのは構わないのですが、「お兄さんたち」と僕を含めるのはやめていただきたい。まだ若いつもりでいる痛いおっさんの仲間入りさせないで頂きたい。

そんなこんなで、小学生に優しく話をする上司を見てみんなが微笑ましい感じになるかもしれないのだけど、なぜか僕だけは常にイライラ 、イライラ、自分の中で湧き上がる何かが臨界に達しかけていたんです。

「みんなはいくつになったのかなー?」

両手を高々と挙げて子供たちに質問する上司。その両手の意味を問いたい。なんだそれ。もう許せない、なぜだか分からないけど本当に許せない。上司のことが許せなくてたまらない、そんな思いがついに爆発しました。

「11さーい!」

「10さーい!」

子供たちが口々に自分の年齢を発表していきます。なぜか両手を挙げて。そりゃそうで、ここにいるのは小学校高学年の子供たちばかりで、聞くまでもなく年齢なんて分かりきってて10歳から12歳くらいまでの子しかいないんですよ。質問自体がバカげている、とイライラ。

「そうなんだー、じゃあみんなティーンエイジャーだね、みんなみたいに10代の子のことをteenagerっていうんだよ、若くていいねー」

この瞬間、僕の中の何かがぶちぎれた。

「間違ったこと教えないでください。この年代の子供たちは何でも吸収してしまうんです。間違ったことを教えたらこの子たちがどこかで恥をかくんですよ」

なぜか突然上司にくってかかる僕。

「は?」

上司の目がギラリと光る。

「teenagerとは英語でteenがつく数字の年齢に使うものです。10、11、12はteenじゃないです。13歳から19歳までの年齢ですよ。この空間には誰一人ティーンエイジャーはいない。絶対にいない」

「さあ、みんなそれじゃあティーンエイジャーって言えるかなー?せーの」

「ティーンエイジャー!」

もう無視ですよ、完全に無視。なんか無視ってレベルじゃなくて、空間が歪められてパラレルワールドに飛んでしまい、僕の存在しない世界に来ちゃったのかしら、って錯覚するほどの無視。

それから2時間、僕はいなかったものとして仕事が進んでいったわけなんですが、帰りの電車の中でも上司と二人っきりで終始無言。うおーこえーとか思いつつどうしたものかと考えつつ、3駅くらい通過した時でしょうか。上司がポツリと言ったんです。

「絶対に許さないから」

できることならティーンエイジャーとか叫びたかったんですけど、電車の中なんでそういうわけにもいかず、許さないってことはこりゃあとんでもないことになるで!と訳のわからない確信と共に、恐怖にうち震えたのです。入学式の時の堀部君のように。今は会社員やってるみたいです。

人は許すことができる生き物です。どんなに怒り、許すことができないと思われた出来事でも月日が経てば色褪せ、きっと許せるようになる、そんなものなのです。そうであって欲しい。とにかく、上司には怒りを忘れて許して欲しい、あのバラモスみたいな奥さんをクンニでもなんでもするから、許して欲しい。


3/24 嘘をもうひとつだけ

もうひとつ、この存在は実に興味深い。何かが存在するところに、エクストラな感じでもう一つの物が存在する。もっと砕けた言い方をすれば「おまけ」であろうか。なんだか得した気分になるものだ。

まんじゅう食ってたら店の人がもう一つくれた。ピンサロで2回転を楽しんでいたらもう1回転追加された。おっぱいが3つあった。やはりなんだか得した気分がする。こういった「+1」という意味合いのこのお得感は、なんだかとっても日本人の心情にマッチしてるんじゃないかと思う。

しかしながら、こういった「+1」ではない、別の意味での「もうひとつ」も存在する。それが、AとB、カウンターで存在する二つの極の極性を打ち消すという意味で、中間的な「もうひとつ」が存在する事例だ。これは「もうひとつ」であっても厳密には「+1」ではない。いうなれば「±0」ではないだろうか。

その最たる例がユニセックスだろう。ホント今これを読んでるあなたたちは30代にもなって「セックス」っていう語感だけで発奮し、「セックスハフー」とかなってるかもしれないけど、どうか落ち着いてほしい。それじゃあいつまでたってもお母さんの心配の種が消えない。とにかく落ち着いて欲しい。

「ユニセックス」とは、そういういきり立った棒が濡れそぼった穴に出たり入ったりする儀式を指すわけではない。反省して欲しい。「ユニセックス」とは主にファッションの世界で使われる言葉で、男女どちらでも着られる衣服、髪型、ファッションを指すらしい。

つまり、衣服にしてもなんにしても、男用と女用に分かれているのが普通なのだけど、それだと色々と不都合があったり、不便であったりすることがあるわけだ。そこで両極端な男と女を中和する意味で「ユニセックス」が存在し、オールマイティーな役割を果たす、そういった意味での「もうひとつ」はとても重要な役割を果たす。

この世の中でもっとも極端でギャップが存在するものが性別で、男女の別というのはあらゆるものの基礎になっている。男用の店、女用の店、男用のもの、女用のもの、全ては性差に行き着くようにできている。そういった意味では、そんな極端な性別の世界を薄める意味でもユニセックスの存在が必要で、おねえキャラなどのどちらの性にも属さないような存在が重宝されるかもしれない。

街中を見回してみると、男と女の明確な区別、そして「もうひとつ」といった意味での「ユニセックス」これが明確にわかるものがある。それがトイレだ。駅のトイレや公衆便所、どこかかの店のトイレなどを眺めてみると分かると思うが、多くの場合でトイレは男女に区別されている。けれども、狭い雑居ビルのトイレなどは、そこまでトイレにスペースを取れない場合もあり、男女兼用のユニセックスなトイレが存在する。

これがまた興奮するもので、居酒屋なんかでトイレがユニセックスだったら大興奮、常にトイレに目を光らしておいて、別テーブルのカワイイ娘がトイレに行こうものなら不自然でないタイミングを見計らって後に続いてトイレニイン。あんなカワイイ娘がここでウンコしてたのかー、見たいな感じで森林浴みたいな感じで深呼吸を、ってそういう話がしたかったんじゃありませんでした。

この「ユニセックス」なトイレってのは明らかに男女別だとスペースをとるっていう問題を解決するために中性的なトイレにされたわけで、「±0」なわけで、それ自体は別に仕方がないのでいいのだけど、問題はトイレが「+1」の「もうひとつ」トイレだったら、今日はそんなお話です。

僕は電車に乗るのが大の苦手で、僕の習性として「今ウンコしたくなったらすげえ困るよな」って考えた瞬間に臨界に近い便意が襲ってきて身悶えながら電車に乗る羽目になるんですね。当然、電車に乗るたびにそんなこと考えるものですから、常に便意と戦いながら電車に乗ることになるんです。

さらに悪いことに、電車って不慮の事故で止まったりするじゃないですか。なんとか駅に辿り着いてもトイレはホームとは別の階にあったり、辿り着いても大便ブースが満員御礼ソールドアウト、そんな悲劇が巻き起こるじゃないですか。

でね、その日も当然の如くウンコ行きたくなりまして、なぜかその時だけ妙に駅間が長いんですよ。ぜんぜん駅に到達しない。変な汗をダラダラ流しながら身悶えていると、なぜか駅の直前で止まっちゃったりしてね「停止信号です」とか、もうその場でペロンと尻を出してやっちゃうことも辞さない構えなんですけど、何度かスピードの向こう側みたいな世界とこっちの世界を行き来しているうちに駅に滑り込みましてね、助かった、と安堵したのも束の間ですよ。

辿り着いたのが一度も利用したことのないマニアックな駅でしてね、どこにトイレがあるのか分からない。落ち着いて案内図を見ている暇もない、もうちょっと出てて表面張力みたいな力でかろうじて均衡を保ってますからね。とにかく、セオリーでは改札方面にトイレがあるはず、そう確信してあまり揺らさないように改札に走りました。

そしたらあんた、向かったのがマニアックな改札のほうでして、完全に亜流の流れ、閑散としていてトイレもない。今から引き返して間に合うか、否、たぶん違う改札に向かう階段の途中でボロボロいっちゃう。ここは改札を抜けて賭けに出るしかない。

たぶん、抜ける瞬間にピンポーンとかなって下腹部をゲートで通せんぼされたらその衝撃と驚きでブリブリブリブリブイリといいっちゃう。やめてくれと、祈りつつ改札を通過。こい、パチンコ屋でもなんでもいい。トイレがありそうな施設こい、と天に祈ったら、恐ろしいほどに何もない光景が広がっていました。そりゃマニアックな改札だもん。何もないに決まってる。

ただ、唯一の救いは、出口の目の前が公園だったこと。ある程度の大きさの公園には必ずトイレがありますからなんとかなるはず、小走りに公園内を走ってトイレを探します。

そしたらアンタ、ありましたよ。ちょっと小洒落た綺麗なトイレがありましたよ。一気にいったるって感じでガーンって駆け込んだんですけど、そこで大変な悲劇が巻き起こるわけなんです。

「故障、使用中止」

白い紙に赤のマジックで手書きされた衝撃の文字、死刑宣告が大便ブースに貼ってあるんです。なんの、一個が故障中でももう一個がある、って意気込みで隣の大便ブースを見ると、絶賛使用中。誰かがゴソゴソとウンコをしていました。

恐ろしい、ここまできて全ての大便ブースが塞がっている。これが意味するところはトイレで漏らすという衝撃の展開。そんなことが許されてたまるだろうか。トイレの入り口で世の理不尽を嘆きながら、すでにちょっと出てるっぽいウンコをなんとか吸い込もうと身悶えていると、光り輝く救いの糸が見えたのです。

「どなたでもご利用いただけるトイレです」

こういったトイレは、車椅子の方などが利用できるよう、男子用と女子用とは別に非常に広いスペースを持ったもう一つのトイレが用意されているのです。そのトイレが目の前にあるんです。昔は結構、こういうトイレはデーンと車椅子マークとか書かれていてそれ以外は使っちゃいけない雰囲気がしていたのですが、最近はやけに「どなたでもご利用できます」的なことを優しく教えてくれます。

ちなみに余談ですが、我が職場を新築する時にトイレを作ることになって、そういった車椅子の人も利用できるトイレを作ることになったのですが、名称をどうするかが会議で議論になりまして、なぜか「多目的トイレ」という訳の分からない名前になってました。トイレを多目的に使われてフェラチオとかに使われたらどうするんだ。

とにかく、こういったトイレ、「どなたでもご利用できます」と書かれているわけです。利用しない手はありません。早速、バーンと緑色でかなり大きな「開」ボタンを押してトイレのドアを開けます。やはりトイレの中はかなり広く、僕のアパートくらいありそうな広さの中にポツンと便器がおいてありました。

早速、中に入って赤の「閉」ボタンを押します。こういうトイレってすごい便利なんですが、自動で鍵がかかるんですよね。普通のトイレはドア閉めて内側から鍵をかけないといけないんですけど、この種のトイレはほぼ鍵がない。ボタンで開閉するシステムを利用して、中から「閉」でドアを閉めた場合は中から「開」を押さないと開かないシステムになってるんですね。

もう1秒でも惜しく、鍵をかける時間すら漏らす漏らさないのデッドラインに関わってくる僕には渡りに船ですよ。鍵をかける時間を短縮できて一気に便器にフライ。もうお母さんがバーモンドカレーを作るときにカレーのルーを入れる感じでボトボトとウンコしまくったんです。すげえ出る出る。全然終わらない。

「あ、マジで、このトイレだれでも使えるってあるじゃん!」

その時、トイレの外から明らかにセックスは挨拶代わり、みたいな感じの頭の悪そうな女性の声が聞こえてきました。

「まじ、こっちのほうがよくね?」

数人でこのトイレを使うか否かみたいなことをワイワイいってるんです。これもユニセックスで誰でも使えるトイレの特徴です。でも、残念ながら僕がもう先に使用しています。しかもすげえウンコ出てます。当分終わらないし、終わった後も多分目潰しぐらいのレベルで臭いです。フフフ、とても入れたもんじゃねえぞ、とドアのほうに視線を移すと、とんでもない物が視界に飛び込んできたのです。それはドアの裏側、急いでウンコをする人間には完全に死角の位置に張り紙がしてありました。

「カギを閉めるボタンを押さないとカギは閉まりません」

えー!ってウンコと一緒に目玉も飛び出る感覚、死という意識の濁流に流されながらボタン付近を見ると、「開」「閉」のボタンの横にけっこう小さめの「施錠」というボタンが。いやいやいやいやいや、おかしいでしょ、これおかしいでしょ、絶対おかしいでしょ。普通、こういうボタンのやつは自動でカギが閉まるもんです。

「これボタン押してあけるんだろ?」

「マジウケる!」

みたいな声が聞こえてきます。僕は絶対に「施錠」ボタン押してない。絶対に押したら開く。やめて!と大声で言おうとした瞬間。

ガー!

ドアの前に、ウンコみたいなギャル3人。便器の上にはウンコしてるオッサン一人。「僕等がいた」のCMで見詰め合う二人みたいになってた。その間もボトッ、ボトッってウンコでてたけど。

しかもひでえことにさ、あれって「閉」ボタンおさねえとドアが閉まらないのな。ギャルどもが

「ギャー!オッサンウンコ!」

みたいな、おそらく彼女たちがこの先80歳まで生きたとしても口にすることはないだろうなって言うセリフを叫んで逃げていっちゃってね、ドア開けたまんま。ウンコ止まらないし、もうブリブリとドア開放してこの後5分はウンコしてたよ。途中3人サラリーマン通って、二人目には二度見されたし。

こういった「誰でも利用できる」ユニセックスなトイレは大変便利でありがたいものです。こういった、もうひとつのトイレ「±0」のトイレは大変便利で、もちろん、車椅子のかたや必要とされる方々にも大変重要なトイレです。

しかしながら、ボタンを押せばカギが閉まるという従来のスタイルに加えてもうひとつ「カギボタンを押す」という行程を加えた「+1」のトイレは、僕のように合計6人にウンコを見られるという、大変な悲劇を巻き起こすのです。できればやめて欲しい。

ちなみに、さらに+1、トイレ出ると、すげえ離れた場所から先ほどのギャルたちが監視していて、「キモイ」みたいなこと言いながら逃げていきました。ウンコ見られるだけでなくこんな「おまけ」まで。うれしくない「おまけ」っていうのは悲しいものだ。


3/23 過去ログサルベージ

本気で、嘘とかブラフじゃなくて作者急病のため今日は過去ログサルベージしますわ。ほんとはAKBライブで精根尽き果てたからなんだけど。ということで、過去に別サイトで書いた短文ネタをサルベージしてお茶を濁しておきます。どうぞ

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とある清掃員さんとお話した際のこと、
その人はトイレなどを専門に清掃している人で、
いわゆる「トイレクリーナー」なのだ。

どんな職業にも悩みがあるもので、
トイレクリーナーさんの目下の悩みは、男性便所の尿らしい。

なんでも、最近の若者たちは、便器から離れて排尿をするらしいのだ。
小便器からかなりの距離をあけて排尿をする。

自分の飛距離やコントロールに自信があるのか、
自分のイチモツに自信があるのか。

昔の人なんかは小便器に下半身が入り込むぐらいの勢いで排泄したものだ。
隣の人に見られたくないから。

小便器から距離を開けて排尿をする人が多くなると、
便器周りに飛び散る尿もすさまじい量になってくるらしい。
自分では、ど真ん中ストライクと思っていても、
尿というのは意外と飛び散るものなのだ。

掃除する側としては、飛び散った尿は非常に厄介らしく
こすってもこすってもなかなか落ちないそうだ。
清掃員さん、困ってた。

そういえば、よく行く立体駐車場のトイレに、

「尿が飛びますので、便器に近づいてください」

と注意書きされているのを見たことがある。
手書きの紙に赤と黒のマジックで書かれた紙が、便器の上に貼ってあった。
多分、駐車場の管理人さんが掃除しているのだろう。
飛び散った尿に頭を悩ませているのが伺える。

それでも、距離をおいて排尿をする人は絶えないらしく、
しばらくすると

「1歩前に出てやれ!」

と喧嘩のような口調に変わっていた。
よほど怒っているのだろう。

それでも聞き分けのない駐車場ユーザーたち、
ロングディスタンスで小便をするのをやめない。

すると、張り紙による注意書きは

「前進しろ!」

に変わっていた。もはや意味が分からない。

それを読んだ僕は、なんだか妙に励まされたような気がした。
頑張って前進していこう。


3/22 シト新生

リアルでないからこそ、その言葉を使うのだろう。

先日、職場の女の子に「死ね」と吐き捨てるように言われた。別にそれを言われるに至った過程や、どうせまた僕が著しくセクハラチックな発言をしたとか、嫁入り前の娘がそんな言葉遣いなんて親の顔が見てみたいとか、そういったことは今はまったく問題ではなく、むしろ大切なのはその「死ね」という言葉を吐き出したという事実、その一点に集約される。

実は、この「死ね」という言葉、その心理を考えると非常に面白い。僕はこの日記上においても過去に何度となく、「死ね」という言葉について検証を行なってきた。そして、いわゆる一つの結論に達したのだ。

言葉とは力である。思っているだけでは何の効力もない言葉も、声に出して発することで初めてその効力が生まれる。「死ね」という言葉だって考えているだけでは何でもないが、言葉にして相手に伝えることで初めて相手にも不快な思いをお届けできるのだ。それは少なからず何らかの効果を相手に与えるものだ。

では、本当に死んで欲しい、できればこの言葉で相手が嫌な気分になり、自らゴールドクロスの修復作業をして欲しいと思って口にしている人がいるだろうか。答えは否である。ほとんどの人が、たぶん「死ね」って相手に言った瞬間に、愛に殉じた男シンになった場合、そんなつもりじゃなかった、まさか死ぬとは、と猛烈に後悔するすると思う。

つまり、日本においてはこの「死ね」が本来の意味では使われておらず、相手を軽く侮辱する時に使われることが多い。特にネットの世界では顕著で、「おはよう」「死ね」くらいの感覚で使われることがしばしばだ。僕自身も、本当に死んで欲しいなんて思ってないのに、死ねという言葉を日記に書いてしまう。職場の女子社員死ね、そんな風にね。

この「死ね」という言葉はよくよく考えると実はおかしい。本当に本来の意味で、相手が憎くて憎くて命がなくなって欲しいと望むならば、「殺す」という言葉が選択されるはずだ。僕は諸外国のことはよく知らないけど、アメリカとかではおそらく相手が憎い時は「キルユー」とか言うはずだ。ダイレクトアタックで「殺す」という感情を言葉で爆発させる。それには言葉に付随した行動を想起させる意味合いがあるのだ。

しかしながら、日本人は「死ね」である。もう、憎くても殺しもしない。自分では手を下さない。手を汚すつもりはないけど、できれば死んで欲しい。そんな覚悟のなさと卑怯さがこの二文字の言葉からプンプンに香り立ってくる。濡れそぼった人妻が溢れ出す色気を隠せないようにこの言葉は溢れ出る消極性と卑怯さを隠せていない。

つまり、殺人を犯す覚悟もないのに「死ね」と言っている。しかも、そこに本来の意味での「死」を意識した覚悟はない。ただただ軽口のように死ね、セクハラ死ね、もう職場に来るな死ね、栗拾いツアーにも来るな死ね、足が臭いから総務に来たときにスリッパに履き替えるな死ね、とそうなってしまうのである。クソッ。僕が何したっていうんだ。

ではなぜ、こうやって「死ね」という言葉を軽く扱えてしまい、何の覚悟もなしに言えてしまうのかを考えると、やはり今日の日本においてあまりに「死」がリアルでないことに起因する。僕らの周りにはあまりに死が少ない。

各種メディアは積極的に死を報道しない。テレビが死体を映すこともなければ、写真週刊誌が死体写真を掲載することもほとんどない。街中で死者が出る事故があったとしても迅速に片付けられてしまう。どんな状況にあろうとも、その辺に死体が転がっているなんて状況は生まれ得ない。さらには、昔はまるで与えられた使命のように家の爺さん婆さんがポンポン死んでくれていたのだが、核家族化が進みきった現代ではそれもあまり見られない。

もし、死というものが隣にあって、自分が、家族が、大切な人がいつ死ぬか分からないといった状況だったらどうだろうか。ここが戦場だったらどうだろうか。さすがに軽はずみに「死ね」なんて言えない。この戦争終わったら結婚するんだって言ってペンダント見つめてるライアンにそんなこと言えない。

じゃあ、そうやって軽はずみに口にすることが悪いのか、というと別にそうではない。ガンガン言えばいい。平和なんだから仕方がない。思いっきり平和を謳歌し、俺たち全然死をリアルに感じてませーん!と軽はずみに「死ね」と言えばいい。日本は平和なんだ。それを謳歌しないでどうする。

けれどもね、何度も言うように、言葉とは力なんですよ。文字とは力なんですよ。皆さんが思ってる以上に、皆さんが実感しようがしまいが、「死」という言葉と文字にはネガティブな力があるんです。いくら平和を謳歌しようと自由だけど、そんなネガティブなものを相手に投げつけるのはいささか頂けない。

でもね、「死ね」って言葉の使い勝手の良さは痛いほど分かるんです。これってさっきも出てきましたけど極めて日本人的でいいんですよね。「殺す」だとすごい殺意でシャレにならないけど、「死ね」だと殺意がなくて非常にシャレが効く。消極的でありながら卑怯でシャレが効く、そんな立ち位置になれるってのは結構大切なことなんです。

だからね、こういった使い勝手のよい「死ね」を使いつつ、「死」というネガティブワードを使わない。これはもう別の表現を考えるべきなんです。例えば

・息を引き取ってください
・肉体を持たない高度な精神構造体になってみませんか?
・この世も良いですが、そろそろあの世も検討するべきでは?
・これが仏様の喉仏です。こちらを壷の中心にお座りになるように……。
・君のいなくなった世界を見てみたい
・来年の今日この日、君の墓の前で思い出を語りたいねぇ
・来年の甲子園は君の白黒写真を持ってベンチ入りするつもりだ

どうですか、ええ、そうですね、全然伝わりませんね。なんかすげえ主人公グループと対立してて、ラスボスとの対戦前、そのマンガのクライマックスみたいな場面ではちょっといいやつになって主人公を助けるキザなキャラみたいな台詞回し。これでは嫌味なだけで「死ね」という言葉が持つ本来の使命を果たせるとは思えません。

やはり「死」ってネガティブな言葉ですけど、それは裏をかえせばすごいインパクトがあることばってことですから、その言葉なしに同じような効用を得ようとするのは無理な話です。ではどうしたら良いでしょう。そうですね、少しでも綺麗な言葉で「死」という言葉のネガティブさを打ち消せばいいのです。

・梅の花が満開ですね、死ね
・桜前線はやってくるのに、あの人はいってしまう死ね
・花の色はうつりにけりないたつらに わか身よにふるなかめせしまに死ね
・久方の光のとけき春の日に しつ心なくはなの散らん死ね
・愛のままにわがままに僕は君だけを死ね
・三代目J Soul Broth死ね
・「バカヤロー!しにてーのか!」大きなブレーキ音と共にトラックが止まり、運転手の怒号が響いた。横断歩道の上には体の小さな女の子が倒れていた。

「すいません」

必死で謝る彼女になおも運転手は怒鳴りつける。その光景を信号待ちをしながら見ていた高志はなんだか無性に腹が立った。別にあの子がカワイイとか線の細い感じがタイプだとか関係ない、自分の中の正義と照らし合わせて間違っていると感じるからいくのだ。下心はない。そう言い聞かせると一呼吸し、まだ赤信号の横断歩道の上を走り、倒れている女の子に寄り添った。

「大丈夫ですか?」

近くで見るとますますタイプだ。自分でも頬が赤らんでいることが分かった。

「自動車は歩行者の安全に配慮する義務があるんですよ!確かに信号無視した彼女も悪い。でもそんな言い方はないでしょ!」

高志は2歩だけトラックに近寄り、エンジン音にかき消されないように大声で言った。バツの悪そうな顔をした運転手はハンドルを切り、高志と女の子を迂回して走り去っていった。

「大丈夫ですか?さあ、立って」

彼女の手をとるとまだ赤の横断歩道を手を繋いで走り去る。そのまま向かいの公園まで行き、二人でベンチに座った。

「あっ、すいません、つい」

また高志の顔が赤らみ、サッと握っていた手を離して腰の後ろに組みなおす。

「ありがとうございます。私、芳江といいます。本当に危ないところをありがとうございました」

深々とお辞儀をする彼女。シャンプーの匂いだろうか、ムワンと良いにおいが一陣の風のように高志の脇を通り過ぎた。

「僕は高志といいます」

「高志さんですね、ありがとう」

「それにしても危ないよ。赤信号で飛び出すなんて。下手したらはねられてたよ」

そう言いながらも彼女が赤信号で飛び出したからこそこうして知り合いになることができた。そう考えると強い口調で注意できない自分がいて、また顔が赤くなっていくのを感じた。

「そうですか、またやってましたか……」

そう言って彼女は俯いた。彼女の急なトーンダウンに狼狽し、なんだかその落ち込みぷりに、自分がすごく悪いことを言ってしまった気がして高志は急に取り繕った。

「ほら、俺の顔見て、真っ赤でしょ?別に照れてるとかじゃなくて走ったからだよ、ハハハハハハ」

そう笑うと、彼女は少し不思議そうな顔をして笑ったあと、思い出したかのように一緒に笑い始めた。

これがきっかけで高志と芳江は付き合い始める。高志にとって芳江といる時間はなによりも楽しく尊いものだった。この子の全てを包みこみ、いつまでも一緒にいたい。高志はそう思っていた。

「すげえ綺麗な芝生、天気も良くて青い空!」

芳江と牧場に行った時、高志は大はしゃぎだった。

「うわー、なんでこんなグロい色してるんだろう」

水族館で深海魚を見て高志が大声を上げる。

「エメラルドグリーンの海!」

沖縄にだっていった。

本当に楽しく、このまま芳江とずっと共に生きる、彼女を失うなんて考えられない、高志はそう確信していたし、溢れるばかりの幸せを感じていた。けれども、ただひとつ、時折見せる芳江の浮かない表情、それだけがレンズについた汚れのように高志の心の中に存在していた。言い知れぬ不安、焦り、焦燥、高志は勝負に出る。

「え、なにこれ?」

付き合いだして1年経っていたある日、繁華街の外れにある喫茶店に芳江を呼び出した。芳江の前にはレモンスカッシュと大きな赤い箱が白いリボン付で置かれている。

「プレゼント」

また顔を真っ赤にしてそっぽを向きながらぶっきらぼうに答える。

「え、ほんとに?うれしいな!あけてもいい?」

芳江は無邪気な笑顔で笑い、はにかみながら高志の顔を覗き込んだ。

「もちろん。ってか開けずに持って帰られたら困る(笑)」

「なんだろー」

ごそごそとリボンを開封する芳江にお構いなしといった感じで、顔を真っ赤にしながら話し出す高志。

「俺が子供の時、テレビで芸能人の結婚式を観たんだ。女優さんと俳優さんだったかな。そりゃ花嫁さんが綺麗でね、いつか自分もこんな嫁さんもらいたいなって思ったんだ」

芳江はほどいたリボンを丁寧にまとめてテーブルの脇に置くと、ゆっくりと箱を開けた。構わず高志が話し続ける。

「世間一般的にはウエディングドレスって白いじゃん、でも、その時の女優さんのドレスは違ったんだ」

芳江が箱を開ける。そこには真っ赤な真紅のウエディングドレスが入っていた。

「その女優さんが着ていたのが真っ赤なウエディングドレス、だから俺もそんな赤が似合う嫁さんが欲しいと思ってたんだ」

箱を開けたままの体勢で呆然とする芳江。高志は続けた。

「結婚してくれ、芳江」

「え……」

沈黙が流れる。どれくらい時間が経っただろうか。芳江の表情を覗き込む高志。全く感情の読み取れない、何を考えているのかすら分からない芳江の表情に、必死で答えを読み取ろうとする。当然、芳江の両の瞳に涙が溜まり、表面張力が耐え切れずに頬を伝って流れ落ちた。

「芳江…!?」

ハッと我に返ったように芳江が向き直った。そして、高志の顔をジッと見つめると、落ち着いて箱の蓋を閉め、その上に先ほど畳んだリボンを置くと、すっと立ち上がった。

「ごめんなさい、私はこのドレスを貰う資格がありません」

そう言うと、芳江は何かの栓が壊れたかのようにさらに大量の涙を溢し、店の出口へと歩いていった。

「え…?」

何が起こってのかわからない高志。呆然と芳江の後姿を見送ることしかできなかった。しかし、ハッと我に返ると急いで走り出し芳江を追いかけた。

「芳江…!」

芳江はすぐに捕まった。まだ、200メートル先の交差点の横断歩道の前で立ちすくんでいた。高志の足ならすぐに追いつく。

「芳江、急にどうしたんだ!?」

肩に手をかけこちらを向かせる。芳江はさっきより大量の涙を目に溜めていた。

「初めて会ったのも横断歩道だったね。どうして私が信号無視したか分かる?どうして今もここから進めないのか分かる?」

芳江は声を絞り出すようにとつとつと語った。高志はなぞなぞのような問いかけにしばし考える。けれども芳江が何を言いたいのか分からなかった。

「わからな…」

言い切る前に芳江が続ける。

「高志といった牧場の緑も、空の青さも深海魚の色も沖縄の海のエメラルドグリーンの緑も…あなたの夢だって言う赤いドレスも…」

「芳江、まさか…」

「私は色が認識できないの。生まれつきだった。青って言われてもその色が分からない。赤って言われてもその色が分からない」

「……」

あまりの出来事に高志は押し黙ってしまう。

「それでもいいって思ってた。色のない世界でいいって思ってた。だって私は華やかでカラフルな世界を知らないから。知らないものに憧れることなんてできない。でもね、でもね…高志と出会って一緒にいて、私だってカラフルな世界を見たいって思ってしまったの…」

「芳江…」

「一緒に空の青さを喜びたいよ、深海魚の色を笑いたいよ、綺麗な海を見て感動したい。そして、そして…高志が選んでくれた赤いドレスを喜びたいよ…」

高志はなんて言葉をかけていいのか分からなかった。どうすることもできなかった。

「ごめんね、高志といると、わたし、この色のない世界が辛い…」

離れていく二人、その中心には歩行者信号の青が点滅していた。

数週間が経過した。あれから高志のもとに芳江から何も連絡はない。高志の手元にはあの日、あのままの赤いドレスが置かれている。部屋でボーっとして空を眺める。

「空の青か……」

ふいに携帯電話がなメールの着信を知らせた。芳江からだ。

「今日、石川の実家に帰ります。もう大阪には戻りません」

とだけ書かれていた。

「芳江…!」

高志はドレスの箱を持って飛び出す。今から駅に向かったとしても間に合わないだろう。けれども、走らなければいけないような気がした。地下鉄に乗って乗り換えてそこから環状線。絶対に間に合わない。駅へと向かう道中、横断歩道の信号が点滅をする。

「間に合わないか!」

赤になった瞬間、横断歩道に足を踏み入れて走りぬけようとする。その瞬間、トラックが急ブレーキをかけて高志の真横に止まった。

「ばかやろーしにてーのか!」

運転手の怒号が響き渡る。

「あれ、お前は?」

「え!?」

「あんときの威勢のいい兄ちゃん」

「お願いがあります!」

運転手の返事も聞かず、高志はトラックの助手席に乗り込んだ。

――大阪駅。

サンダバードの出発を告げるアナウンスがホームに流れる。芳江は名残惜しそうにホームの先に見える町並みを見た後、何かを決意したようにキュッと唇を噛み締めると、サンダーバードのドアをくぐった。

「芳江!」

階段を勢い良く高志が駆け上ってきた。

「高志!」

高志は乱れる呼吸を必死で整えながら、必死で言葉をつむぎだす。

「俺には正直、色のない世界で生きてきた芳江の辛さはわからない。けれども、見える俺がこういっては何なんだけど、本当に、芳江を失ってから毎日、世界に色がないんだ。全てのものが色が抜け落ちてしまったみたいに味気なく見えてしまう。俺なんかが言っていいのか分からないけど、芳江はこんな世界を生きてたんだって思うと、ずっと俺の海や空の色の話に心を痛めてたと思うと、俺、俺」

「高志……」

「俺、芳江が少しでもカラフルになれるようにいくらでも説明する。何時間でも何日でも、ずっとずっと色を説明するよ、どんな色か、どんな感じか、例えたらどんあものか、いくらでも説明する。言葉で説明する。言葉には力があるから。きっと伝わる。一緒に色を……」

芳江は高志の服の裾を掴み、ボロボロと涙を流している。

「ほら、このサンダーバードのここのラインの色は青色で、青色って言ってもそんなに青じゃなくて、ちょっと薄い青かな、でも水色まではいかない。イメージはさわやか、涼しい感じかな。うん、青は涼しい感じがする色で…」

けたたましく発車音が鳴り響き、サンダーバードは走り出していった。ホームに高志と芳江、赤いドレスを残して。

――大阪城公園

「綺麗だね、桜」

満開の桜の中を優雅に歩く高志と芳江。大騒ぎしている花見客の敷物の間を縫って歩く。

「桜は基本的にピンク色なんだけど、桜色って色もあるくらいで、ピンクはけっこう女の子が好む色かな。それの極めて薄い感じ。いずれにせよ春のイメージにぴったりの色で、桜のそれは和風、日本的な色の象徴にもなってて……」

延々と説明する高志の顔を芳江は笑顔で見ている。

「すごい綺麗だよ、桜の色」

「なっ」

たこ焼きの屋台の前に立つ二人、屋台の台の上に敷かれた赤い布を指差し、芳江が口を開く。

「これ、赤でしょ」

「え…!?」

驚く高志。

「私、赤だけはなんとなく分かるよ。りんごの色、トマトの色、私が結婚式で着たドレスの色、情熱的で燃え上がるイメージのある暖かい色、そうとってもとっても暖かい、高志みたいな色。そして、高志が照れてるときになる顔の色、これだけわかったら十分だよ。カラフルだね」

「芳江…!」

手を繋ぎ歩く二人を、舞い散る桜色の花びらが左右に揺らめきながら見守っていた。死ね。

あ、いいね、これいいね、死ねネガティブさを薄める表現として実にいい。さっそくこれはしめたアイデアだと、いつも死ねって言ってくる職場の女の子に提案したところ、話の十分の一も聞かずに

「意味分からん、死ね」

って言われました。さすがに僕もちょっとイラッときて

「あのね、そんな思ってもないのに軽い気持ちで「死ね」って言っちゃだめ、それに本当にそれで僕が死んだら後悔するんだから」

って言ったら、修羅の形相で

「軽くありません。本気で死ねって思ってますし、それで死んでも全く後悔しません。死ね」

っていわれました。まあ、本気ならいいわ。


3/21 たんけんぼくのまち-山谷ドヤ街後編-

前回までのあらすじ
山谷のドヤ街に降り立ったpatoは、訳の分からないバンに乗せられたり銀河系軍団と戦ったりしつつ、駐車料金よりも安い4畳の宿に宿泊するのだった。よくわからないと思うので詳細は昨日の日記で

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そりゃあ1200円で人並みの部屋に泊まれるとは思ってませんよ。きょうびちゃんとしたホテルに宿泊しようと思ったら田舎でも五千円から六千円くらいはしますから。こんな東京の真っ只中だったら一万円弱くらいはするんじゃないですか。それを1200円っすわ。色々と耐え忍ばないといけないに決まってる。

僕の宿泊したドヤについてもう一度おさらいすると、まず、フロントのジジイが不気味。いや、フロントなんて言葉を使うべきではないんですけど、どう見ても一般家庭みたいな玄関をくぐると銭湯の番台みたいになってるところに不気味なジジイがいましてね、で、こいつがビタイチ喋らない。こちとらドヤ初心者ですから「あのすいません」とか下手に出て教えを乞おうとしてるのに、完全無視。

仕方なくお金出したら、無言でルームキーを差し出してくるんですけど、これがまた今時こんな鍵ってあるんだろうかっていう。金持ちが集まる洋館の密室トリックに使われそうな鍵ですよ。それ受け取って鍵に貼ってある手書きの番号の部屋に行くんですけど、どうにもこうにも建物の造りがおかしい。明らかにはるか太古の時に別の目的で造られた建物を無理やりドヤに流用したとしか思えない造り。

部屋までの通路の脇に共同のトイレがあるんですけど、これがモロ一般家庭用で、おまけに使わなくても死ぬほど汚いってことが想像できる感じで、前を通るだけでモワンとアンモニア的なスメルが漂ってくるわけなんですよ。怖くて共同風呂なんて入れなかったんですけど、たぶん未知の深海生物とかいるんじゃないのかな、風呂に。

部屋に入るとこれまたすごくて、大方は予想してましたけどまず壁紙がすごい。たぶん昭和から替えてないどころか拭いてない。最初はそういう柄なのかなって思ってたんですけどどうやら汚れだった様子。その汚れをじっと見てると、苦しんで死んでいった人たちの怨念のようでなんとも不気味でした。

いざ部屋でまったりくつろぎ、夜も深まってきたので眠ろうとするんですけど、まあ、これが眠れない眠れない。なぜ眠れないかっていいますと、防音力の脆弱さですよ。もともと違う造りだったのをベニヤで仕切って壁紙張って誤魔化してるみたいなお茶目なところがありますから、音が漏れやすいとか少し壁が薄いかなとかそんなレベルじゃない。防音意識皆無。隣の人の息遣いすら聞こえる。

別に僕は神経質なたちじゃないので、少しくらい音が聞こえてきても平気なのですが、なんとまあ、隣の部屋の人、朝までずっとお経みたいな念仏みたいなの唱えてましてね、最初はドヤ側の粋なBGMかと思ったら、たまに間違えて最初からやり直しみたいになってるところとかありましたから臨場感あふれる生ライブだったんだと思います。

本当に洗ってないんだろうなって感じの布団に包まりつつ、延々とお経を聞きながら、壁の怨念みたいなシミを眺め、ドヤでの夜は更けていったのでした。ちなみに、暖房器具とかそもそも設置すら考えてないみたいな潔さがあった。

これはまあ、ドヤの中でもかなりリーズナブルな宿らしく、ドヤ街全体をくまなく回って調べてみたところ、標準的なドヤで相場が一泊2200円程度、かなりきれいなドヤと呼ぶよりはホテルみたいな造りのドヤも最近できたらしいのですが、こちらは設備もすばらしく、一泊3500円程度。下は1000円台前半から3500円くらいまで、ご予算に応じてかなり幅広く宿を選定できるシステムになっております。

朝5時。あまりの寒さにチェックアウトを決意する。ちなみにまだお経は聞こえていた。ここドヤ街の朝は早い。なにせ基本は日雇い労働者の街なのだから、その日の仕事にありつくためにオッサンたちは早朝から行動を開始する。まだ暗い朝5時のドヤ街に繰り出してみたのだけど、まあ、この時間から活気がすごい。

あの立ち飲み屋なんかキッチリ営業開始してて、朝から銀河系軍団が酒かっ食らっているし、雑貨屋とかも普通にオープンしてる。通りも沢山のオッサンが歩いていて活き活きとしている。間違いなく早朝こそがこの街のゴールデンタイムだ。

まだ薄暗い街を、このドヤ街のランドマークともいえる城北労働福祉センターに向かって歩く。日雇い労働者の労働と福祉に関して様々な補助を行う場所だ。なんでも時にはここで炊き出しが行われたりするらしい。

城北労働福祉センターに近づくにつれて、路上に座って飲んだくれているオッサンが増えてくる。また、座らないまでも3人ぐらいで固まって立ち話をしているオッサンもかなりの数に。センターに到着すると、結構な人数のオッサンが何も目的がない感じでたむろっていた。おそらくギャルがセンター街にたむろするの同じく、無意識にここに集まってくるのだろう。

センターには所在無くたむろするオッサンもいるが、千円程度の宿代も払えず、センターの軒先で寝泊りするオッサンたちの姿もチラホラみられる。春の足音が聞こえてきたとはいえ、早朝はかなり寒いこの時期、上半身素っ裸で体を拭き、体操をしているオッサンの姿、その横でアジアっぽい柄の意味不明な布に包まれてミイラみたいになって眠っているオッサン、その隣にはどこかから集めてきたっぽい空き缶の山が積みあがっているというシュールな光景が展開されていた。

日が昇りきり、ある程度良い時間、一般的に朝と呼ばれる時間になると、急速に街の活気がなくなる。おそらく、活気のある人は手配師の車に乗って日雇いの仕事に行ってしまうのだろう。残るのは仕事にあぶれた人、そもそも働く気がない人、飲んだくれた人である。そりゃあ活気がなくなる。

前回も述べたようにここドヤ街は完全にドヤだけで形成されているわけではなく、一般的な住宅やマンションも混在する。その一般的な住宅の人たちが通勤通学で颯爽と通りを歩く中、通りの端では飲んだくれがベロベロになっているというかなりシュールな光景を至る場所でみることができる。

センターから少し移動すると、薄暗いアーケードを構えるいろは会商店街にでる。こちらは明日のジョーを強烈にフューチャーしているらいく、あちこちにポスターが張ってある。中の商店は意外と普通で、古き良き商店街といった趣だが、中には350円弁当を筆頭に、200円弁当など、違う国に来てしまったのではないだろうかというデフレ弁当屋があったりする。

鳥取県境港市の商店街は多くの店が潰れ、シャッター商店街として虫の息だったが、ある奇策によって息を吹き返した。商店街に等間隔で妖怪のオブジェを置くことにより、「水木しげるロード」として多くの観光客を引き寄せ、瞬く間に息を吹き返したのである。

ここ、いろは会商店街も不景気の波かシャッターを閉じた店を多く見ることができる。しかしながら、通りには飲んだくれたオッサンが等間隔でベロベロになっており、オブジェと化している。この商店街の復興も近い。

商店街を歩いていると、時折、パカン、パカンという小気味の良い音を聞くことがある。なんだろうと辺りを見回しても何の音か分からない。注意してみていると、オブジェのオッサンたちがワンカップの蓋を開ける音だった。ちょっと感覚が麻痺していたけど、よくよく考えたら昼間から商店街の通りの脇に座りワンカップを飲んでいるってのは結構とんでもないことだ。

いろは会商店会を左に折れてまたドヤ街に入ると、またオッサンたちが人垣を作っている現場に出くわした。何事かと近づいてみると、どうやら喧嘩らしい。酔っ払いオッサン二人が大声を張り上げて喧嘩している。

「ワーガーケンタケルソ!」

もう酔っ払いすぎて異国の言葉みたいになってるんですけど、大声を張り上げるオッサンA。自分の言葉に自分で興奮し、セルフヒートアップしてるみたいな感じだった。対するオッサンBは大声は張り上げないものの、挑発的な仕草で応戦。周りのオッサンたちも口々に囃し立てて二人を煽る。なんかストUのブランカの面みたいになってた。

結局、殴り合いの喧嘩は始まらず、ベロベロのオッサンAのほうが酔拳みたいな動きになって、そのまま倒れてしまったので喧嘩はそのまま終了。オッサンBが何もしてないくせにやってやった、みたいなドヤ顔になった瞬間、これこそがドヤ街の真髄だと思った。

今回、山谷のドヤ街を巡り普段では体験できない様々なことに遭遇した。小奇麗なドヤが建設されたり、日雇い労働者ではなくバックパッカーの宿泊が増えてきたり、おまけに女性も来るようになったりと、山谷のドヤ街も変わりつつあるらしい。変わりつつある山谷ドヤ街。しかし、街は変われど、路上にたむろする愛すべきオッサンたちはいつまでも変わらないで欲しい。そう願ってやまなかった。

ということで「たんけんぼくのまち-山谷ドヤ街編-」はおしまい。次回はニューヨークハーレム編でお会いしましょう。


3/20 たんけんぼくのまち-山谷ドヤ街前編-

ドヤ街、ちょっと育ちの良いお嬢様、バイブとか見たことなくてウィンウィン左右に動くバイブを持ちながら「何かしら、これって調理器具かしら?」とパールみたいなもんが埋め込まれているバイブ片手に首をかしげているようなお嬢様なら聞き覚えがない言葉だと思いますが、どうか落ち着いて聞いてください。

ドヤ街のドヤとは、宿を逆さにした言葉であり、簡易宿泊所のことを指します。戦後の高度成長期に日雇いの仕事を斡旋する「寄せ場」が作られ、日雇い労働者が多く集まる場所が作られました。そうなるとその日雇い労働者が寝泊りする場所が必要となるわけで、低料金で手軽に利用できる簡易宿泊所が多数立ち並ぶようになっていったのです。

海外などでよく見るスラム街とは異なり、完全にその地域がドヤで占めらているわけではなく、いわゆる普通の住宅や商店、事務所なども混在するのが特徴である。(参考:wikipedia)

このドヤ街は、大阪のあいりん地区と東京の山谷が二台ドヤ街として有名である。特にあいりん地区の方は2008年に大規模な暴動を起こしており、やはりいくら普通の施設も混在している、と言ってもやはり他所の地区とは違う何かがあると感じるのだ。

以前、僕はこのNumeriの日記において、西の横綱であるあいりん地区を闊歩してみたのだが、ちょっと歩いただけで道路のど真ん中に大量の家具が置かれている意味不明な場面に遭遇したり、4つタイヤを盗まれた車が放置してあったり、何でもない普通の通りからパンツ一丁のオッサンがベロベロに酔った状態で出てきたり、それに面食らっているとそのオッサンが綺麗に研がれた出刃包丁を持っているのに気がついて脱兎の如く逃げたりと、途方もないカルチャーショックを受けたものだった。

ドヤ街は昔ほどじゃない、今はマイルドになったもんさ、他の場所と変わらんよ。とか現地のオッサンは言っていたけど、絶対にそんなことはない。渋谷のセンター街をパンツ姿のオッサンが包丁もって歩いているわけがない。絶対に違う。

さて、大阪のドヤ街のことを思い出すと、ついでにホモが集まるポルノ映画館に入って死ぬ目にあったこともフラッシュバックしてくるのだけど、そんなことは遠い過去に置き去って、今現在の話をします。実は僕、この文章をいま、東の横綱であるドヤ街、山谷の簡易宿泊所で書いています。そう、西の横綱を攻めたなら東の横綱も攻めなければいけない。ということで、「たんけんぼくのまち-山谷ドヤ街編-」はりきっていきましょう!

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JR常磐線、東京メトロ日比谷線、つくばエクスプレス、これらの路線が乗り入れる南千住駅に山谷のドヤ街は存在する。ドヤ街へは東京メトロが最もアクセスが良く便利であるが、今回はJRを使っていってみた。

日暮里駅からE233系に揺られること数分、たったの二駅で南千住駅に到着する。駅のホームに降り立つと、高架駅のため眺めが良く、正面に東京スカイツリーがそびえたっている光景が目に飛び込んでくる。その脇には何棟かの綺麗なタワーマンションが立っており、おしゃれなショッピングセンターらしき建物まで確認できる。

駅舎自体も綺麗で面食らう。駅を出ても目に入る光景は意外そのもので、3路線が入り乱れる線路が綺麗に、そして立体的に整理されている。あいりん地区に見られたような、いかにも、といった雰囲気は感じられない。駅前を少しブラブラと歩いてみたが、見るからに勝てそうにないパチンコ屋があったり、小さな定食屋があったり、中学生が良くわからない水色のジャージを着ていたり、至って普通の駅前風景が広がっていた。

東京メトロ日比谷線の方に行くと、出口の前の大きな歩道橋が目に飛び込んでくる。この歩道橋の向こうが山谷になるわけだが、これがまた大きい。自転車でも登れるよう螺旋状のルートと普通の階段ルートが併設されており、さらには登ってからもかなり距離が長い。駅のこちら側には普通の路線以外にもJR貨物の隅田川駅、東京メトロの車両基地があるため、かなり線路が密集しており、それらをこの歩道橋で一跨ぎするため、このような構造になっているのだと思う。ちなみに歩道橋の看板には「あそぼう!」と赤のスプレーでラクガキがなされている。ちょっと良くわからない。

歩道橋を渡るとそこはもうドヤ街のテリトリーだ。時間帯にも夜が、相手のテリトリーに入ったことはすぐに実感できる。すれ違う人のオッサン率が8割以上に跳ね上がるのだ。それもブラウンか紺系でコーディネートしたオッサンが多い。とにかく、競馬場でもないのに競馬場に来てしまったような雰囲気になる。

歩道橋からまっすぐ行くと、かの有名な「泪橋」がある。正確には川も橋もなく、交差点の名前で「泪橋」と表記されている。あしたのジョーに登場する有名すぎる地名だ。この泪橋交差点の一角には「セブンイレブン 世界本店」という途方もないスケールのコンビニがある。中の客は一見しただけでオッサン率が高いのがわかる。利用客の大半はドヤ街関係者じゃないだろうか。現に、オッサンは買わないのか、ちょうどキャンペーン中のモンスターハンターの一番くじが全く売れてなかった。

セブンイレブンを右手に見てさらに奥に進むと、コインパーキングの看板が目に入る。24時間連続駐車で1400円と、なかなかの料金設定。このあたりからは右に行っても左に行ってもドヤが立ち並ぶ完全無欠のドヤ街だ。とりあえず左側に行くと、11人ほどのオッサンどもが路上でたむろしている場面に出くわした。

どのオッサンも見るからにドヤ街で、ドヤ街のファッション雑誌があったら絶対にスナップ撮られるといった風貌。僕はこの完全無欠のドヤ11人のオッサンをドヤ界の銀河系軍団と命名して崇拝することに。そんな11人も集まってなにやっているのかというと、ほぼ路上で営業しているとしか言えないような立ち飲み屋で競艇を見ながら大ハッスルだった。ちなみにこの立ち飲み屋、競艇が終わる午後四時には閉店し、銀河系軍団も解散していた。閉店早すぎるだろ。

さらに奥へ奥へと進むと、様々なドヤが立ち並んでいる。一見すると普通の民家っぽい門構えをしているのに、ガラス戸には「冷暖房完備、カラーテレビあります」と書かれている。自動販売機は基本100円で、中には80円の自動販売機も、どうもこの街は看板は基本的に手書きらしく、これらの表示がすべて紙に手書きをして貼り出されていた。

しばらく進むと、ドヤに紛れて小さなパチンコ屋がポツンと佇んでいる。「新台入れ替え!」という勇ましい看板に惹かれて入ってみると見たことないマニアックな台が多数並んでおり、客も3人くらいしかいなかった。全部で50台くらいの小さな店だが、すごい貴重なマニア台とか普通に置いてあってビックリした。

さて、さらに周囲を徘徊していると、確かにドヤが多く、さらには福祉系の建物、おまけに荷物を入れるのか普通の街角にいきなりコインロッカーがあったりと、普通の町並みではないのだけど、確かに民家やオシャレなマンションなどが混在している。大阪のあいりん地区のような、近づいてはいけないようなオーラも感じない。パンツ姿のオッサンもいない。

今度は道路を挟んだ向かいのエリアを散策しようと移動を開始する。反対側にも山谷の象徴とも言える城北労働・福祉センターや、いろは会商店街など見所が多い。もちろん、かなり濃厚なドヤも多数存在する。反対サイドに行くべく、吉野通りを横断しようと信号待ちをしていると、目の前にバンが止まった。何事かと見ていると、その助手席からカリフラワーみたいな頭をしたオバサンが降りてきてキッと僕を睨みつけると

「イモダさんでしょ?」

と話しかけてくるではないか。なんか怖い。目がいっちゃってる。

「イモダさんでしょ?」

よく分からないけど、どうもイモダって人と勘違いされているらしく、まったく要領を得ない。

「いいえ、違います」

と言うと、なぜかババア大激怒。

「あんたはいつもそうやってとぼけるから面倒くさい!わたしゃしってる。あんたはイモダ!」

全く話が見えないのだけど、ここまでい言われるともしかしたら自分はイモダなる人物だったんじゃないかと思えてくる。

「はい、イモダかもしれません」

と答えると、ババアは再度激怒し、

「最初からそういいなさい!めんどうくさいわ!ほれ、乗った乗った!」

と、スライドドアを開けて僕を車に押し込めようとする。怖い。何されるんだ。とりあえずバンの中に入ると、虚ろな目をしたオッサンが3人、後部座席に押し込められており、2人は寝てた。一人は外を見ていて僕の存在にすら気づいていない様子。どこに連れて行かれて何をされるのか分からないけど、とりあえず挨拶をと思った僕は

「すいません、イモダと申します」

と挨拶すると、バン!とすごい音でババアが助手席に乗り込み、車が走り出しました。怖い、どこ行くんだ、とか思ってるとババアが

「止めて!」

と車を止めさせ、後部座席、つまり僕の顔をマジマジと見て

「あんた、イモダじゃないわ!降りな!こんなデブじゃねえわ」

と、大変な失礼なことを言われてしまい、僅か数秒で降ろされてしまいました。なんだったんだ、イモダ。

降ろされたのが「ポプラ」というコンビニの前で、ポプラは赤が目印の、広島を中心にチェーン展開をするコンビニで、関東ではかなりレアな存在なのだけど、ここ山谷には至近距離に2軒のポプラがあります。ポプラは弁当を買うとホカホカのご飯を詰めてくれるスタイルなので、その辺が山谷では人気なのかもしれません。弁当おいしいので、お近くにポプラがあるかたは是非!ちなみにここのポプラは夜23時に閉店します。

とりあえず、予定が狂ったというか、もう暗くなってきたので散策は明日に持ち越すことにして、今日泊まるドヤを選定することに。適当に歩き回り、吟味に吟味を重ねた結果、1泊1200円、女性お断りというかなり硬派なドヤに宿泊することに。3泊したら4泊目が無料という訳の分からないシステムでしたが、とりあえず1泊することに。

ちなみに、人間が一晩泊まって1200円、冒頭に登場したコインパーキングに思いを馳せてみると、一晩車を止めて1400円です。もはや車の方が上等なところに泊まってる。

そんなこんなで部屋に通されると、4畳の部屋で異様に狭く、風呂とトイレは共同、布団を敷いたら他に何のスペースもないという状態に。ちなみに隣との仕切りがベニヤっぽかった。すげえな、こんなギリギリな場所に寝るんだ。と思ってドアを見ると手書きの紙に

「定員2名」

って衝撃のキャパシティが記述してありました。この場所でどうやって2人寝るんだよと戦慄し、ドヤ街の夜は更けていくのでした。

つづく

3/12 wanna Be A Dreammaker!

世の中は罠に満ち溢れている。平穏な生活も平和な明日も安定の毎日も、そん なものは盲目的に信じている幻想に過ぎない。僕らの生活は常に罠と隣り合わ せだ。罠にはめるかはめられるか表裏一体のメビウスが存在するだけだ。

普段あまり車を運転しない僕は、先日、久しぶりに車を運転した。深夜という こともあって街は眠りこけており、昼間の喧騒が嘘のような通りをひた走って いた。ずらりとならぶ街灯と遠くに見える点滅信号、マンションの一室から漏 れる夜更かしの明かりだけが道路を照らし、その中を僕の車のヘッドライトが 走っていた。

ふと、道路標識を見ると自分が通るべき道が間違っていたことに気がつく。こ のままこの道路を走り続けると訳の分からない地点まで連れて行かれてします 。僕が通るべき道路は並行して走る一本隣の道路だ。まいったまいった、いく らあまり車に乗らないからって道を間違えるとはね、と薄ら笑いで独り言を言 う僕は明らかに気持ち悪かった。

ふと前を見ると、深夜営業の牛丼屋の向こうに小さな路地を発見した。方角的 に考えてあの路地に入っていけば正規のルートに復帰できるに違いない。そう か確信した僕は迷わず左折、その小さな路地へと吸い込まれていった。

首尾は上々で、ズンズンと目的の方角に向かって進んでいく。通りはさっきの 通りよりも小さく細く、住宅しか存在しないのかかなり閑散としていた。昼間 はそれなりに人々の息遣いが感じられるのだろうけど、今はもう眠ってしまっ たかのようにひっそりと静まりかえっていた。

そんな眠る街を10分ほど走っただろうか、明らかに大通りと交わる交差点に差 し掛かった。ビンゴ。あの大通りは目指していた正規のルートだ。交差点の手 前に掲げられた案内標識にもそのように書かれていた。やはり僕の選択は間違 えていなかった。このままリカバリーすることができる。僕はニヤリと笑った 。その姿がサイドガラスに映っており、自分で見てもけっこう気持ち悪かった 。

さあ、あとはあの交差点を右折すれば正規のルートに乗ることができる。道を 間違えたもの、少しのロスで済んだ。これならば約束の時間に間に合うだろう 。さすが僕、とでも言うべきだろうか。道を間違えたとしてもとっさの機転で リカバリー、厳しい現代を生き抜くにはこれくらいの機転が必要なのだ。さあ 、右折してリカバリーするぞ。そう決意した瞬間だった。

「右折禁止」

右折禁止の標識が目の前に立ちはだかっていた。なるほど、この道路から大通 りに出るには右折は禁止なのか。どんな理由で右折が禁止なのかは知らないけ ど、道路交通法でそう決まっているのならば仕方がない。ここは大人しく左折 なり何なりをして大回りをして正規ルートに復帰するしかない。すこし周りく どいが仕方がない、違反をするわけにはいかないのだ。

右折を諦め、いよいよ左折をしようと交差点に差し掛かろうとした時、衝撃的 な看板が目に飛び込んできた。それは、交差点の角に位置する酒屋の軒先に置 かれた看板で、もう酒屋は閉店してしまっているのだけどその看板を照らすか のようにライトがあてられていた。そこにはオドロオドロしいフォントでこう 書かれていた。

「右折危険!」

ご丁寧に赤い文字で書かれていた。ふむ、右折は危険なのか、そう思った瞬間 に僕の頭の中である疑問が沸き起こった。

「右折は禁止のはずなのに危険とはこれいかに」

この交差点においては右折はご法度であるはずだ。つまり、危険もクソもない 。右折は禁止なのだから「右折禁止」と書くはずで、「右折危険」と注意喚起 する必要は全くない。少しおかしいなと思いつつも、その看板の横に置かれた もう一つの看板に視線を移した。

「注意して右折せよ!」

右折をするなら注意しろ、の看板。おかしい、ここは右折は禁止ではないのか 。禁止であるなら注意するもクソもないはずだ。だって右折できないんだから 。それなのに、この過剰なまでの右折に注意しろの看板。何が起こっているの かちょっと理解できなかった。

もしかしたら、ここは右折禁止なのだけど、それは建前で地域住民は慣習とし て日常的に右折を行っているのかもしれない。それであんな看板に繋がってい るのかもしれないのだけど、それでもやはりおかしい。例えば、覚せい剤禁止 の我が国において、中毒に注意して、適度に覚せい剤を打つように、なんてい う注意書きは存在しない。禁止な物は禁止なのだ。

「もしかして、右折禁止自体が見間違いだったのでは?」

あまりに堂々と注意喚起の看板が複数置かれているものだから、もしかしたら右折禁止自体が何かの間違いで、僕の見間違いとか勘違いとかそんなレベルのお話で、実際にはこの道路は右折禁止ではないのんじゃ。そんな考えが頭の中に沸きあがってきた。

そう考えると色々とおかしい。この交差点で右折すること自体が別にそんなに不都合があるとは思えない。確かに見通しが悪くて危険ではあるのだろうけど、標識で禁止するほどじゃあない。これくらい危険な交差点くらいごまんとある。そもそもここが右折禁止であるはずがないのだ。そう、右折禁止であってはあならない。あの標識はたぶん僕の見間違いなのだ。

僕は思いっきり右折した。

ウウウウーウウウー!

その瞬間だった。待ってましたとばかり交差点の脇から赤いライトが飛び出し、まるで祭囃子のようにけたたましく赤色灯を点滅させ、この世の終わりのようなサイレンを轟かせて僕の車の後ろにピタリとつけていた。

「はい、運転手さん、左につけて停車してください」

パトカーに備え付けられたスピーカからの音声が闇夜の住宅街に響き渡る。

「はい、免許証だしてくださいねー」

大人しく路肩に停車すると、その後ろにピッタリ停めたパトカーから一人の警官が降りてきて、満面の笑みで運転席を覗き込み、話しかけてくる。

「はい、じゃあこちらに来てパトカーに乗ってください」

言われるがままにパトカーの後部座席に押し込められる。

「あそこ、右折禁止なんですよー」

違反切符に記入しながら、してやったりと言った具合で話しかけてくる警察官A

「はあ」

つかまっちまったー!というショックで呆然としている僕に警察官Aはさらに続けます。

「ご存知なかったですか?標識もあったんですけど」

この瞬間、僕はハッと目が覚めました。そうだ、標識はあった。けれども標識以外のものもあった。そこんところをハッキリさせずに違反切符を切られるわけにはいかない。

「あのですん、標識は確かに認識していました。けれどもそれと同時に、角の酒屋さんの店主か誰かが良かれと思って置いたんでしょうね、「注意して右折しろ」っていう看板が置いてあったんです。これはパニックですよ。パニック。右折禁止の標識に、注意して右折しろの看板。そんあもんがあった日には、これは右折禁止は見間違いじゃないのかって気分になってきますよ。それにあまり右折禁止になってる理由も分からないですし、これは完全に罠ですよ、罠」

と熱く主張しなたのですが、助手席に座る警察官Bが

「はあ?」

みたいなことをキレ気味に言ってきて、それを警察官Aが

「まあまあ」

と宥めつつ、違反切符を渡してきて

「あの看板で誤解される方は多いんですけど、なんて書いてあろうとあそこは右折禁止です。間違って右折する方が多いから我々もあそこで見張ってるんですよ」

と満面の笑みで言ってくるではないですか。冗談じゃない、そんなの罠じゃないか。誤解する人がい多いと思ってるなら看板の撤去を要請するなり、看板の内容を「右折するな」に変えてもらうように要請すればいい。なのに、勘違いする人が多いのをいいことに隠れて張っていて、よっしゃ間違えた!って飛び出して検挙とはいただけない。完全に罠じゃないか。

で、本当にイライラするんですけど、別に警察官にそんなこといっても取り合わないってのは分かってますし、こんなことで怒っても仕方がないんで、何か楽しいことでも考えて気分を発散させようと、違反切符に拇印を押しつつ、楽しいことを考えていたら、頭の中にふっと「右折だけに屈折した警官だ」っていう訳の分からない言葉が浮かんできて、あまりの面白さに一人でニヤニヤしてたら、どうもそれが癇に障ったらしく警察官Bが

「なにがおかしい!」

とか怒り出しましてね。なんで怒られなきゃいけないんだと思いつつ、反則金を納める伝票みたいなのを渡されつつ、ものすごいクドクドと説教されました。「看板にせいにするお前はクズ」みたいなニュアンスのことを遠まわしに説教された。それで僕もこの国家権力のお方は怒っておられる、これ以上笑ってはいけないと心の中で焦るんですけど、笑ってはいけないと思えば思うほど

「パトカーに捕まった、patoだけに」

て、今世紀で一番面白い言葉を思いついてしまい、もう笑いが堪えられない状態に。もう勘弁してくださいって状態だったんですけど、怒りの導火線に火がついた感じですごい説教されました。まさか35歳にもなってあんなにも人に怒られるとは思わなかった。

とにかく、この世は罠だらけです。右折の看板も、笑ってはいけない場面で面白ことを思いつくのもすべては罠なのです。チャンスさえあればとって食ってやろうと口をあけて待ち構えているのです。

後日、右折禁止違反の反則金7000円を払いに郵便局に行ったのですが、窓口の女性が大変かわいらしく、こりゃあ絶世の美女やで、と払いが終わったあともベンチに座って彼女のことを見ていたのですが、彼女が休憩に行くかなんかでマスクをとると、えれーブスでした。ウィルスも裸足で逃げ出すからマスクがいらないレベルのブス。

やはり世の中は罠だらけだ。美人かと思ってマスクを取るのを待っていたらブスだった。ホント、罠だわな。また面白い言葉を思いついて笑う僕が、出口のガラスドアに映っていましたが、気持ち悪い顔をしていました。あまりにもその笑顔が不細工で、ワナワナと震えながら見ていた。


3/11








Numeri pato


3/10 ヌメリナイト3-戦場のヌメリークリスマス-

2011年12月24日、クリスマスイブ。

東京お台場にある「TOKYO CULTURE CULTURE」にてNumeriのオフライントークイベント「ヌメリナイト3-戦場のヌメリークリスマス-」が開催された。今日はこのヌメリナイトの内容とか感想をダイジェストで。

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夏に開催された「ヌメリナイト2-今度は戦争だ!-」に引き続き、約4ヶ月ぶりに開催されたヌメリナイト、なぜか恋人たちが熱狂するクリスマスイブのゴールデンタイムに開催されることとなった。よく考えたら開催日程が色々とおかしい。

どうせみんな「恋人いない」「モテない」「童貞」とか言いつつ、恋人とかいてクリスマスは恋人と過ごすとか、そうでないにしても家族で過ごすとか、仲間でパーティーとか、すごくリアルが充実している感じで、うっかり飲酒運転なうとかツイートしてしまって炎上するくらいリアルが充実していて、クリスマスイブにこんな怪しげなイベントに参加するわけがない、チケット売れるのかしら、とか心配だった。

ところがどっこい、蓋を開けてみるとチケットは早々にSOLD OUT。みんなもっとやるべきことがあるだろうに、なぜにこんなイベントのチケットを買ってしまったのだろうか。不思議でならなかった。

さて、いよいよ12月24日当日になり、僕は準備のために早々に会場である「TOKYO CULTURE CULTURE」のあるお台場へ。いやーすごいね、本気ですごい。マジで手加減なしでえげつない。何がえげつないって、カップルの密度ですよ。

電車に乗ってる時から周りにカップルが多くて、やだなー、こわいなーって戦々恐々としていたんですけど、テレポート駅に降り立った瞬間、周りが全部カップルですよ。駅弁でハメ撮りしながら改札とか通り抜けてましたからね。もう右を見ても左を見てもカップル、カップル、その中に35歳の野武士が一人。死ぬかと思った。

イベントを主催するにあたって、色々と準備がありますから僕はかなりの量の小道具を袋に入れて担いでカップルお台場を歩いていたんですけど、クソでかい袋を二つ担いでいる姿は空き缶とか集めている浮浪者みたいで、おまけに小汚い格好なもんですから、本格的なホームレス。そんな格好でカップルでごったがえす通路を歩いているんですからたいしたものですよ。

カップルも何か汚いものでも見るような蔑んだ目つきで僕を避けるんですけど、そうなるとサーっとモーゼのように道が開けていくんです。僕が通るための道が綺麗にできていくんです。避けるのは別にいいんですけど、なんか彼氏とかちょっと彼女のことかばってるからね。俺の後ろに隠れてろ、あの汚いオッサンが襲ってきても俺が守るから、素敵、みたいな感じになっとるんですよ。どういうことですか。

そんな悲しく切ない戦いを経て何とか命からがら会場に到着、改めてその会場の立地のえげつなさに愕然とします。あのですね、お台場には綺麗にライトアップされた観覧車があるんですけど、どうもカップルでそれに乗るのがステータス、みたいな感じになってるんですね、絶対に中でエロスなことになっとると思うんですけど、ただでさえカップルの多い観覧車なのにクリスマスイブの夜ですよ。ノエルの夜ですよ。もう観覧車3時間待ちの大行列。大行列全部カップル。そのカップルの長蛇の列からヌメリナイトの会場丸見え。何が巻き起こってるのか本気で分からない。

毎回トークライブの直前は異常なレベルで緊張し、楽屋でゲロを吐く僕ですが、今回もきっちり楽屋でゲロ。死ぬそうになっているといよいよ開場時刻となり、ドバーっとクリスマスイブなのに他にすることのないお客さんたちが会場になだれこんできたのです。

今回のヌメリナイト物販品はNumeri書籍第三弾「ぬめり3-失われた日記たち-」ボツ日記をリライトした全て描き下ろしの書籍で、これがまあ、売れる売れる、入場者数より多い冊数が売れるとは思わなかった。

そして、いよいよ、MCの松嶋氏とFunkyNaoNaoを交えて3人でトーク開始。前回もそうでしたが、3人でトークといよりは僕がずっと一人で喋ってるのですが、まあ、今回は会場の瘴気がすごかったですね。なにせ、クリスマスイブに他にすることない連中で満員御礼ですから、禍々しいオーラが会場中に渦巻いておった。

トークの内容をダイジェストで

1.patoの自己紹介
毎度のことながら、自己紹介が長い。自己紹介しながら訳の分からないエピソードを延々と話し出すのでとにかく長い長い。こんだけ長いこと自己紹介する人間ってそうそういないんじゃないかってレベルで長い。ついでにこれまでのNumeriで企画してきたクリスマスラジオの話とか、テレクラの話とか、まあ長い。

2.大塚愛のイデア
毎回、大塚愛のイデアについて説明するのだけどイマイチお客さんたちにピンときてないみたいなので今回はかなり長めに時間を割いて大塚愛のイデアを解説。イデア論を取り巻く歴史的背景から、イデア論の本質、そして大塚愛のイデアとかなりわかり易い形で延々とトーク。うん、最後の方、お客さんみんな飽きてトイレに行きだしてた。

3.2011年重大事件簿
2011年にpatoの身に起こった事件をカウントダウン形式で。ベスト10のうち実に4つが成瀬心美さんのサイン会で起こった事件がランクインしており、どれだけ僕の中で重要な位置づけのサイン会だったのかを裏付ける結果となった。電車の中でうんこ漏らした話がすごい臨場感で話せてよかった。

4.2011年衝撃を受けたエロ動画
僕がエロ動画を鑑賞していて衝撃を受けた動画をカウントダウン形式で。特に、大家にゴミの出し方を怒られてイライラした女がコタツの足をちんぽの形をしたやつにつけかえてオナニーする動画、について解説しているときはすごい満足感だったし、アイスの試食だっていって女の子に目隠しをしてちんぽを舐めさせる動画、について解説してる時は、僕はこのために生まれてきたんだって思うほどだった。

ちなみに、これら10本の濃厚なエロ動画を画像を交えて解説してて、会場であるTOKYO CULTURE CULTUREは大画面モニターが沢山あるんですけど、デカデカと、コタツの足をチンポの形をしたやつに付け替える女の画像とか映し出されるわけですね。いっておきますけど、クリスマスイブですから。おまけに、会場前面がガラス張りで中の様子がよく見える会場ですから、外の観覧車のカップル行列から丸見え。っていうか、最後の方は会場のお客さんにというより、外のカップル行列に向かって黒人のエロ動画とか解説していた。

ここで本編に入る前に休憩時間となったわけなのですが、なぜかTOKYO CULTURE CULTUREの店長さんがすごい勢いでカーテンを閉めるんですね。外から中の様子が見えないように、みっちりと隙間なくカーテン閉めちゃって、なんで閉めるんですかって店長さんにきいたら「うちにも近所付き合いがあるから」ってすごい寂しそうな顔で言われました。なるほど、ロマンチックな観覧車からクレーム来たら大変ですからね。

休憩時間も終わり、いよいよ本題。ここまでで多くの方が気づいたと思いますが、クリスマスイブにトークライブを開催しているのにクリスマスイブらしい会話は一切ナッシング。全くクリスマス感ゼロでお送りするつもりだした。そんなこんなで次の話題は。

5.写仏
写経と同じで仏様を写すことで功徳を積む写仏ってのがあるんですけど、実際にやってきたお話。最終的には深夜3時にBOOWYと向き合うpatoと訳の分からないことに。

6.patoさんクッキング
ケーキ編。うる覚えでケーキを作ろうというお話。ケーキを作っていて炊飯器が爆発した生々しいお話。

7.休憩
前回の休憩もそうでしたが、休憩時間には画面にNumeriカルトクイズが出題されてりました、成績上位者には豪華景品が!

8.カレンチャン
カレンチャンの応援に香港に行ったお話。香港に行った日は日本ではラピュタを放送していて、香港に行ってることを誰にも内緒にしていたpatoは、下手に誰かに感付かれないようお、twitterでそろそろバロスの時間だろうという時間にバロスをツイート。香港の時差を考えてなくてむちゃくちゃ変な時間に「バロス」ってツイートしてしまったお話。

そんなこんなで、あとはカルトクイズ上位の方に香港土産やぬめり本やらをプレゼントあと適当に盛って嘘ついておきますけどロレックスとかプリウスとかヨーロッパ旅行とかもプレゼントした。

そんなこんなでヌメリナイトも終了し、そのまま会場で、クリスマスイブなのにさらに暇で家に帰ってもシャワー浴びながら泣くだけみたいな人たちを残して大打ち上げ大会。全くクリスマスを感じさせることなくクリスマスイブのトークライブは終わったのでした。

来場者は男性ばかりで柔道部のOB会みたいになるのかなって予想していたんですけど、女性が多く、しかも単独女性もちらほら。カルトクイズの上位入賞者全部女性でしたからね。

おっぱいの大きい女の人がいて、冗談で「おっぱい触らせてください」って言ったらすごくアッサリ「いいですよ、はい」とかやられて、僕の方が「いえ、やっぱいいです」とドギマギするシーンがあったりと大変楽しい時を過ごしました。

ヌメリナイトは、訳のわからん35歳のデブなおっさんが喋ってるだけのトークライブです。次回は2012年夏に「ヌメリナイト4-Go back to the starting point-」が開催予定です。是非、会場でお会いしましょう。


3/9 過去の多い女

「メールアドレス教えてください」

その距離感に驚くことがある。人にはそれぞれ距離感というものがあって、自分で決めたその距離感に従って他者と付き合っている。まるで自分を中心としてその距離の分だけ他社を寄せ付けない領域が存在するかのようにイメージされ、新世紀エヴァンゲリオンではその領域がATフィールドとして表現された。

この領域の広さは人それぞれだし、シーンや相手によって使い分けることもしばしば。例えば、僕は一般的にネットで知り合った人なんかはこの領域は狭く、普通に会話するし連絡先も教える、頼まれればおっぱいだって揉む。けれども、職場の人間や仕事関係の人間にはかなりロングレンジに領域を設定し、何人たりとも近付くことを許さない。

この距離感がだいたい同じくらいに設定されているのならば、お互いに侵犯し合わないので非常に心地良く過ごすことができるのだけど、かなり短く設定している人がいると途端にややこしくなる。人を排除する距離を短く設定しているということは、かなり近くに侵入することを許しているということで、それと同時に他人にもかなり近づくことができるということだ。

同然、自分が排除すべき距離と設定している領域を超えて入ってこられるとこちらは驚き、拒絶するが、向こうはなんとも思っていない、なんていうチグハグな状態に陥ってしまうのだ。

例えば僕は、どんなに仕事上必要だとかもっともらしいセリフで説得されたとしても、絶対に職場の人間にメールアドレスを教えなかった。これは上述の拒絶距離の問題で、メールアドレスを教えてるという行為は僕にとって侵犯してはならない距離にあたる、という理由が確かにあった。

それと同時に当時の僕のメールアドレスが「chinpo-aridukamitaini-butsubutsu」みたいな感じの訳の分からないメールアドレスで、なんやねんチンポ蟻塚みたいにブツブツってと思いつつ、こんなアドレス職場の人間に教えられるわけがない、教えようものなら、あの人のチンコ蟻塚みたいにブツブツなんだって、いやー性病やん、みたいに後ろ指さされるに決まってる。

だから極めて一般的なメールアドレスに変更した今でも絶対にメールアドレスは教えないし、聞かれもしない、おそらく一般的な人から見るとありえないレベルのロングディスタンスで排除距離を設定している人、みたいに映っていると思う。僕が職場の飲み会に誘われないのも、栗拾いツアーに誘われないのも、全部この排除領域のせい、そうに決まっている。そう思いたい。

もう僕の職場では、僕は絶対に携帯メールアドレスを教えてくれない人、みたいに暗黙の了解が出来上がってて、厳かに僕抜きで楽しげなイベントが山盛りで開催されていて、もう聞かれもしないので気楽といえば気楽なのだけど、たまに取引先の人だとか、プロジェクトで一緒になった別会社の人とか、そういった事情を知らずにガンガン距離を縮めてくるので、異様に焦る。

とある仕事に関して、別会社の人と打ち合わせみたいなことをしなければならないことがあって、なぜか打ち合わせ場所にオシャレなパスタ屋さんみたいなのを指定され、こんなオシャレな場所でどんな打ち合わせをするんだってドキマギしながら赴いたことがあった。

行ってみると、丸太に座るようなログハウス風のオシャレな内装。店内は暇を持て余した主婦みたいなのがお喋りに夢中。女の子ばかりの店内の入口に佇む、目やにとかすげえついてる僕は明らかに場違い。このシーンを録画してYouTubeにアップするとアメ公どもが発狂して喜ぶんじゃないかってくらいにシュールな絵図になっていた。

待っているとやってきた、相手の会社の中でも結構やり手の、偉いっぽい人が人がやってくるって聞いていたので、ポマードの匂いをプンプンさせたアブラギッシュなオッサンがやってくるのだろうと勝手に思っていたのだけど、やってきたのは僕より少し若いであろう女性の方だった。胸元がサニーレタスみたいになってるゴージャスなシャツに、少し明るい色のスーツが良く似合う人だった。

なるほど、相手が女性だったか。それならばこの待ち合わせ場所も納得がいく、とか思いながらボンゴレだかアンドレだか良く分からないものを食しつつ、仕事の打ち合わせは終わった。この程度の打ち合わせなら電話で良かったなって思いつつ、帰ろうと準備をしていると、ふいに相手の女性からこう言われた。

「メールアドレスを教えてください」

最初は、何か文書でも送りたいのかと思って、職場のパソコンのメールアドレスを知りたいのかと思い、

「あ、さっき渡した名刺に書いてありますよ」

と言うと、相手の女性はしばし固まったあと、

「いえ、携帯のメールアドレスを…」

と切り出した。そもそもこういった仕事上の関係にある人に携帯メールアドレスを教えるという発想が全くなかった僕は、なんだこいつ、僕とセックスがしたいのか、とか思ったのだけど、なんてことはない、ただ急ぎの相談など、仕事上の連絡をスムーズに取るためにPCアドレスより携帯アドレスを教えて欲しい、そんな要求だった。

「あ、いや、その」

まさか、それは僕の設定した領域を踏み荒らす行為だから教えられない、とも言えず、もうなんていうか教えなくちゃいけない雰囲気みたいなものが店内の木の温もりと共に漂ってきて、よかった「チンポコが蟻塚みたいにブツブツ」とか酷いアドレスから変更しておいて本当に良かったと、メールアドレスを教えたのです。

それからしばらく、彼女からは仕事上の確認事項などのメールがポツポツ届くようになり、僕もその都度「了解しました」とか返信をしていて、確かに仕事上で携帯メールが使えると便利だね、なにせレスポンスが早い、と納得していたのだけど、ある時から、何やら相手の女性の様子が変なんです。

「○○は8時でよろしいでしょうか?また、XXの件は締切をいつに設定しましょうか?」

とかいつものように確認メールが来るんですけど、その語尾に

「○○は8時でよろしいでしょうか?また、XXの件は締切をいつに設定しましょうか?まだ火曜日で先は長いですがお互いに頑張りましょう」

みたいな、仕事とは関係ない励ましみたいな言葉がついていたのです。このメールに驚いた僕は、急いで今まで彼女から来たメールを読み返したのですが、やはり仕事に関係ない文言は一切なく、この火曜日はの下りだけがかなりの異彩を放っていることが分かりました。

連想します。「まだ火曜日」ということは、その先には彼女の中で目標とする何かがあるはずです。普通に考えるならば、曜日にかかっているわけですから一般的には土曜日、日曜日などの週末を待ち侘びている表現と取るべきでしょう。「先は長い」という言葉から、彼女がかなり週末の到来を待ちわびていると取るべきです。水木金の3日間を「かなり長い」と表現するくらいですから、相当なもんだと思うべきです。

では、彼女は何をそんなに週末を待ち侘びているのでしょうか。普通に考えれば、休みは誰でも嬉しいものと短絡的に思うのでしょうが、それはいささか思慮が浅い。そんな当たり前のこと、わざわざメールにして相手に伝える必要がない。「乳首を触ると気持ちいい」こんな当たり前のことをいきなり人に伝えようとしないのと同じです。

ここは彼女にとって週末に特別な何かがあると読むべきです。じゃあ彼氏とデートでもするんだろう、とか、遊園地とかいくんじゃない、彼氏と、とか考える人は本当に人生をやり直して欲しい。そんなもん僕に伝えてどうするっていうんですか。ただの嫌味じゃないですか。乳首弄りまくって真っ黒になってる女の人に、「週末は乳首触るつもり、わたしピンクだし」とか言うようなもんですよ、どんだけ嫌味なんですか。

あのですね、今さらこんなこというのも本当にバカらしくて言いたくないんですけど、皆さんはあまり理解していないようなのであえて言わせてもらいます。乳首はピンクよりやや茶色の方が興奮する!じゃなくて、情報ってのはですね必ず何らかの意図を持って他者に伝えられるものなんです。言い換えれば意図のない情報は情報ではない。

じゃあ、この彼女の週末を待ち侘びているカミングアウト、これを僕に伝えて何を意図しているのか、そう考えるとこの異彩を放つメッセージの本質が見えてきます。

「○○は8時でよろしいでしょうか?また、XXの件は締切をいつに設定しましょうか?まだ火曜日で先は長いですがお互いに頑張りましょう」

もう一度問題のメッセージを見てみますと、「お互いに」という単語がかなり存在感を放っています。私も頑張ります、アナタも頑張りましょうという意味合いの「お互いに」なのでしょうが、意味がわかりません。

なにせ、僕と相手の女性は仕事上の付き合いで、パスタ屋で打ち合わせをし、業務連絡を何度かメールでしただけの関係です。私頑張る、だからあなたも、なんてお互いに思い合うほどの信頼関係なんてありえません。けれども、彼女は「お互いに」という単語をあえて使っているのです。

この「お互いに」は前段の週末を待ちわびる相手の女性にもかかってきます。つまり、彼女の中で週末に僕と彼女が「お互いに」何かをするのです。じゃあ僕とデートをするのか?残念ながらそんな約束はしていません。する予定もありません。一体彼女は週末に何を見据えていたのか。

これはもう、オナニーしかありません。

あなた、私でオナニーしてるでしょ、まっててね、私も週末にあなたでオナニーするから、こう言っていると解釈していいでしょう。あなた私でオナニーしてるでしょって失礼な指摘ですが、していたのは事実なので何も 言えません。問題は、彼女自身はオナニーを週末に限定しているという事実です。

たぶん、彼女のオナニーは、さらっとコチョコチョ、というわけではないんでしょう、もう濃厚で濃厚でじっくり深く長時間、ブシャアアアアアとかなって、疲労困憊水分不足とかになって次の日の仕事に響くものだから、週末限定と彼女の中で律しているのでしょう。けれどもやっぱり女盛り、ウィークデーもムラムラきちゃって、ついつい早く週末来ないかしら、アフン!みたいな感じでセックスアピールしちゃったんでしょう。そうに決まってます。

こりゃあ、徐々に距離を詰めて行っておセックスを、とか思うのが普通なんですけど、残念ながらそうはいかないんですよね。なにせ彼女は仕事上での関係ですから、僕の中で設定した排除距離を破ってまで彼女に近づくことはできないんです。ただでさえ、携帯メールアドレスを教えて一歩踏み込まれた形になっているというのに、これ以上の侵入はノーサンキュー、向こうは一緒にオナニーしようよ、と思ってるかもしれませんが、ここは毅然と断らなければなりません。

「○○は8時でよろしいでしょうか?また、XXの件は締切をいつに設定しましょうか?まだ火曜日で先は長いですがお互いに頑張りましょう」

ですから、このメッセージに関しては、普通に「週末暇なんですか?」とか「週末何かあるんですか?」とか返すと、そこから話が発展していって週末遊ぼうとかオナニーしようとか、一気に距離が縮まることになりますので、この場合はあまり良策とは言えません。また、全く週末に触れずに仕事の話のみを返信することも過剰に意識していると言わざるを得ません。ですから、

「まだ火曜日とおっしゃいますが、日本では主に日曜日に設定されている選挙もアメリカじゃあ火曜日に設定されているんです。沢山の選挙が重なる日をスーパーチューズデーと呼んで、みんなで盛り上がってるわけですね」

これが正解です。意味不明に返信する。火曜日に触れつつ意味不明。何がスーパーチューズデーだ。こうやって突き放すことによってこれ以上はノーサンキューと暗に伝えるのです。しかしながら、彼女には伝わってなかったようで、

「なにそれー、おもしろい(笑)」

なんか急に砕けた口調になっちゃって、(笑)まで使う始末。なんか、すげえ距離縮められちゃったんですけど。それからはもう、無難な返事しかできない僕に対してガンガン距離を詰めてきて、渾身のストレートを放ってくる彼女。

「今日は長い会議がありました、ちょっと寝ちゃった(笑)」

「すごく嫌いな人が職場にいるんです(笑)」

「寒すぎて寝坊、怒られちゃいました(笑)」

と、もうインファイトですよ。実際に距離に表すと、もう近すぎて僕の乳首舐めてるくらいじゃないっすかね、よく分からんけど。とにかく、急接近されすぎてドギマギするしどうしたものかって困っていると、あることに気がついたんです。

彼女、( )が多い。

仕事の話をしてる時は全然そんなことなかったんですけど、砕けてくるとほぼ全部のメールに(笑)を筆頭に様々なカッコ文字が登場してくるんです。

「私は寒いから冬は嫌いですね(スキーは好きだけど)それに、夏の方がオシャレな服が多いし(汗かくのは嫌だけど)でもやっぱり極端なのは嫌かな(何事もほどほどに)、季節の変わり目が一番かも(風邪ひきやすいけど)なんだかよくわからないですね(なんでこんなこと書いてるんだろう(笑))」

こんな感じでカッコが多すぎて、もうカッコの中をマークパンサーが囁いてるglobeの曲のようにしか読めないんですけど、最後なんてカッコの中に(笑)っていう高等テクニックが使われてますからね。どんだけカッコが好きなんですか。

おそらくですね、彼女の中でこのカッコこそが決められた距離なのでしょう。やはり彼女の中にも僕のそれとは大きく違いますが、決められた距離ってやつがあって、その外側ではいくらでも対応するけど、簡単に中に入ってきて欲しくはないっていう領域があるはずなんです。で、僕の場合は連絡先を教えないという境界線があって、彼女の場合( )のある文章を使うってのが境界線なわけなんです。なんか意図せず、すごい領域まで踏み込んでしまったなーとか思っていたら、彼女からとんでもないメールがきたんです。

「そうですね、ちょっと太ってるくらいかな(笑)」

彼女がこう送ってくるつもりらしかったんですけど、打ち間違えたのか何なのか

「そうですね、ちょっと太ってるくらいかな(笑い飯)」

たぶんこれは携帯予測変換でミスしたとか、というか、(笑)くらい一発変換で出るだろうにいちいち打っていたのかよ、だから打ち間違えるんだよ、とか思うところは多々あるんですけど、これね、わざとだと思うんですよ。彼女なりに境界線を測っているんだと思うんです。

以前、懸命な読者様ならご存知だと思いますが、もう8年くらい前でしょうか、僕はNumeri日記上で(笑)(爆)などの文章に感情を併せ持たさせるカッコ文字に警鐘を鳴らしました。たしかに、文章だけでは感情を伝えるのが難しく、(笑)などとつけるのは誤解を生じない良い方法だ。けれども、それって記号じゃないですか。画一的に判で押したように(笑)で良いのか。良くない。このNumeri日記でそう主張してきたのです。

じゃあどうしたらいいか。解決策も同時に示しました。動物の名前を使えばいい。

「かなしいよ(犬)」

「うれしいね(猫)」

「お腹減ったよ(ゴリラ)」

こうすることでその動物から連想する感情を文章に持たせられるし、多種多様で非常に表現に幅を持たせることができる。スタンプのように(笑)と押し続けるよりグッと文章が楽しく、コミカルになるじゃないか。そんな主張をしてきたのです。

そして、今僕の目の前にある(笑い飯)という表現。これは打ち間違いなんかじゃない。彼女も同じ考えで、(笑)だけじゃ物足りないと考えてお笑い芸人をカッコ文字に使ってきたのだ。

僕と彼女の距離がグッと縮まった。

もう領域だとか言ってられない。なにせ同じことを考えていたのだ。アプローチは違えど、同じことを考えていたのだ。僕は(犬)とかすげえ流行すると思ってたのにその後鳴かず飛ばずで、全く使うことなかったのだけど、こうして距離が縮まった彼女になら使いまくれる。さあ、カッコ文字で距離を縮めて週末はお互いにオナニーを見せ合おう!僕は急いで文章を打ちまくった。

「まあ、でもやっぱ僕はデブなんですよね(犬)」

「そもそも自分ではあまりデブだと思ってないんですけど(キリン)」

「周りの人がみんなデブだって言うんです(鮭)」

「そりゃ椅子とか壊れますよ(アルパカ)」

「ただね、いくら僕がデブでも普通のデブではないと思う(オオサンショウウオ)」

「強いて言うならばニュータイプのデブ(ニセクロホシテントウゴミムシダマシ)」

「普通のデブとは違う新しいデブ(ハヤミモコミチ)」

「スーパーデブ(アネハモトイッキュウケンチクシ)」

「なんかそう呼ぶとすげえ太ってるみたいだな(サンダイメジェイソウルブラザーズ)」

「めんごめんご!(マジックミラーゴウガイクスペシャルシブヤギャクナンパヘン)」

とかメールを送りまくっていたら、返事がこなくなりました。

数日後、意味不明なメールをたくさん送ってきて気持ち悪い、とは直接的には言われませんでしたがそういった趣旨のことを向こうの会社の偉い人から僕の会社の偉い人にそれとなく伝えられ、なんかやんわりと担当を外されました。向こうは怖くて泣いてるらしい。そんな覚悟なら最初から僕の領域に入ってくるな。

なんか相手に変態的なメールを送って担当変えられたらしい。いやーきもーい。遠巻きに噂される昼下がりのオフィス、やはりこの距離感が心地良いのだ(チンポアリヅカミタイニブツブツ)


3/8 グッピー2012

水槽の中は一つの宇宙だった。

水に満たされた水槽に砂利を敷き詰め水草を置き、ポンプをつけて水を循環させる。その中に熱帯魚でも入れるだろうか。金魚でもいい。別のマニアックな深海魚みたいなものでもいい。そこに生物を入れると新たな宇宙がそこに誕生する。

中に入っている金魚からしたら水槽の中の世界が全てだ。外の世界など考え及ばないだろう。そういった意味では水槽の中は一つの宇宙だし、もしかしたら僕らが住んでいるこの宇宙だって、僕らでは考えつかないような存在が水槽の中で僕らでは考えつかないような何かを飼っていて、その水槽の中に敷き詰められた砂利石みたいなものの表面の窪みが僕らの住む宇宙で、そのなかで生きているミジンコ以下みたいな存在が僕らなのかもしれない。

僕は今、6畳のアパートの片隅で二つの水槽に金魚飼っている。一つはピンポンパールと呼ばれる丸っこい品種で、愛らしい表情と、丸い体をクルクルさせて必死に泳ぐ姿がカワイイ金魚だ。もうひとつの水槽には、縁日で貰った金魚をぶち込んでいたら、途方もないレベルで成長してしまい、今や金魚というよりはフナと言ったほうが良いんじゃないかってレベルの金魚が入っている。

それぞれの水槽がそれぞれの金魚にとって宇宙で、彼らは僕が餌を投げ入れるのを待ち続けている。それはまるで、金持ちと貧乏人の支配構造、現代の社会に燦然と存在する社会システムにあまりに似ていて、水槽の宇宙といえどもあまりこちらの宇宙に変わりないなあ、などと思ってしまう。

僕が子供だった頃、心の中に強烈な熱帯魚への憧れを飼っていた。とにかく熱帯魚が飼いたかったし、大人になったらクソでかい水槽を設置して、そこに色とりどりの熱帯魚を入れて壮大な宇宙を作ろう、貧しかった少年はそれを心の支えに生きていた。

貧しかった我が家は、家も煤けていて汚かったし、タンスや机も安物の年代物、畳も色褪せていて家中全部がくすんだ茶色で統一されていた。良くよく考えたら、寝たきりだった爺さんすら何だか茶色だった。本当に我が家は茶色だった。

当時、僕が友達として付き合っていた御曹司がいて、そいつは本当に意地悪でケチでイヤな奴なのだけど、ファミコン目当てで我慢して付き合っていた。財産目当てでクソブスと結婚するようなメンタルに似通った部分があり、当時の僕はそれが当たり前だと思っていた。

とにかく、ファミコンをやらせてもらいたくてへりくだり、御曹司の機嫌を損ねないように必死で接待ファミコンである。対戦ゲームで御曹司に勝つなんて持っての他で、わざと負けていることがバレないように、ある程度の接戦を演じた後に惜しくも負ける、常にそんなシナリオでファミコンをしていた。

御曹司の家は、うちの家が8軒くらい入るんじゃないかっていうレベルの豪邸で、クソでかいくせに平屋建て、今思うと古の名家みたいな造りになっていたんだろうけど、とにかく廊下とか長くて厳か、使ってないであろう部屋も沢山あって、なんで金持ちの家とウチの家ってこんなにも違うんだろうって子供心に不思議だった。

御曹司はガキのくせに生意気にも一人部屋をもらっており、他の家族の部屋からは離れた場所にあった。その部屋の時点でウチの居間くらいの広さがあり、ウチのテレビより大きなテレビが置かれていて、心ゆくまで接待ファミコンができるようになっていた。

やはり平屋造りの豪邸である、中は廊下が長く迷路のようで部屋も沢山あるのでトイレに行こうと一人で歩いていると迷ってしまい、なかなかたどり着けないなんてこともあった。ある時、接待ファミコンも一段落ついてトイレに行こうと一人で屋敷内をあるいていると、やっぱりというかなんというか、迷ってしまった。

夫婦の寝室とか、訳のわからない甲冑鎧が置かれた部屋など、なんちゅう広さだよと毒づきながらトイレを探してさ迷っていると、ついにいつものトイレにたどり着いた。ただし、いつもとは違うルートでトイレにアプローとするルートであり、トイレに行くのに複数ルートがあるってどういうこっちゃ、と思いながら歩を進めると、キラキラと眩しい何かが視線の隅を横切った。

それは大きな水槽だった。異常に大きな水槽が洗面台みたいになっている場所の上に置かれていた。いつもは別のルートからトイレに行くので気がつかなかったが、まさかこんなものがあろうとは夢にも思わなかった。

水槽は大きかった。子供の頃に見た記憶なので、実際の大きさより多少大きく感じたかもしれないが、それでも学校の飼育係や何かで連想する水槽とは桁違いに大きかった。あまりの大きさに水槽を乗せている台が壊れるんじゃないかと心配したほどだった。

水槽には眩いライトが付けられており、その光がユラユラと水に反射して眩しく、おまけにそこに敷き詰められたビー玉もカラフルな光を演出していた。さらには水槽の中で飼われていた大量のグッピー、色とりどりのグッピーが楽しそうに右へ左へと泳いでいた。

僕は一瞬で心を奪われた。全体的に茶色っぽい色合いの貧乏所帯に住んでいた僕にとって、このカラフルさは犯罪的に魅力的で、世の中にこんな綺麗な物があっていいのだろうか。それが同級生の家にあっていいのだろうか。そして、ウチと御曹司の家、こんなに格差があっていいものなのだろうか。と呆然と眺めることしかできなかった。

それから僕は、寝ても覚めても熱帯魚のことしか考えれなくなった。あのカラフルな水槽を我が家にも置きたい。それは幼い僕でも2秒で無理とわかる願いだった。あの大きな水槽はいくらするのか想像もつかない。グッピーだって高価に決まってる。それをあんなに大量に飼うとなると天文学的金額になるに違いない。

おまけに置く場所がない。御曹司の家みたいにトイレの横に置くにしても、うちは汲み取り式の汚い便所なので、便所に近づくだけでウンコ臭い。そんな場所に熱帯魚を置いたってダメに決まってる。もう一度貧しい我が家を眺めつつ、いっそのこと寝たきりの爺さんをグッピーみたいにカラフルに塗ってやろうかなって思ったのだけど、そんなことしたら親父によってそこで人生が終わるレベルで怒られるのでやめておいた。

けれども、どうしても熱帯魚は欲しい。あのカラフルさ、かわいさ、そしてこの現世とは隔絶された水槽の中の世界、全てが幼き僕にとって憧れで、諦めるには惜しい存在だった。そうなった僕は、ある解決策に乗り出す。

僕のものだと思い込む。

もう涙なしでは語れないのだけど、貧しかった当時の僕は、この思想で幾多の困難を解決してきた。欲しいという気持ちは独占欲だ。物質的に手に入れていないとしても精神的に満たされれば満足ということが多々ある。欲しいと思うから苦しいのであって、もう持っていると考えると少し気持ちが楽になることがあるのだ。

僕は、御曹司の家のあの熱帯魚の水槽を自分のものだと思い込むことにした。御曹司の家に接待ファミコンをしに行く度に、「トイレに行く」と言い残し、トイレ横の熱帯魚を眺める。

「うんうん、今日も俺の熱帯魚は元気だな」

「おや、この少し小さい子はちょっと元気がないな?」

「ちょっと水槽が汚れてきたな。今度洗ってやらないと」

他人の家のトイレの横で腕組みして水槽を眺めるクソガキ。明らかに異常というか、一度行くと1時間くらい眺めているので、さすがにウンコにしては長すぎるだろう、と御曹司が様子を見に来たことがあった。

「なんだよ、グッピーに興味があるの?」

僕は頷いた。僕が物欲しそうな目をしていることを御曹司は見逃さなかった。こいつはいつもそうで、人が欲しがるものを所有することに最高の愉悦を見出しているやつである。ニヤリと笑うと、水槽脇に置かれていた黄色いプラスチック製の筒を手にとった。

「これが熱帯魚の餌なんだ」

そう言うと御曹司はふりかけでもかけるように水面にその餌をふりかけた。小さな薄いプレート状の餌が水面に浮き、次第に沈んでいく。僕がショックだったのは、こうやって水槽に入れられた餌すらも、色とりどりのカラフルさだったことだ。餌すらもカラフル、いつも魚の煮付けで茶色っぽかった我が家の食費との落差にショックを受けた。

大量のグッピーは、餌に群がり激しく動く。群れをなして動くその姿はまるで竜宮城みたいで、それを支配する御曹司は支配者のようだった。もう僕の口は半分くらい空いていて、グッピーに餌をあげたくて仕方なかった。このカラフルな水槽の宇宙を支配してくてしょうがなかった。

「なに?餌をあげたいの?」

御曹司は意地悪に笑った。僕はゆっくりと首を縦に振る。こういう時はいつもろくなことにならない。

「だめー、熱帯魚はナイーブなんだ、餌やり過ぎると死ぬんだから」

餌の入った黄色い筒の蓋を閉めながら御曹司は言った。明らかにさっきあげた餌はあげすぎだと思ったけど、言わないでおいた。

「勝手に餌やるなよ!絶対にだ!」

さらに釘を刺してきた。いつものことだ、僕は諦めながら、またしばらく食後の熱帯魚たちを眺めていた。

諦めきれない。家に帰り、魚の煮付けを食いながら僕の思いは爆発寸前だった。どうしてもあの熱帯魚たちに餌をあげたい。支配者になりたい。何かを与えられるより与える人間になりたい。熱帯魚たちだって僕から餌をもらいたいはずだ、激しく検討違いな思いが爆発し、僕はついに行動に乗り出したのだ。

ある日のこと、いつものように接待ファミコンをし、トイレに行くわ、と言い残してトイレに行く、やはりいつものように熱帯魚の水槽はカラフルで、カラフルなグッピーたちが優雅に泳いでいた。

エサをあげたい・・・!

目の前にするとやはり思いが爆発してしまう。あげたい、けどダメだ、御曹司に逆らってはいけない、貧しき者は富裕層に逆らっては生きていけないのだ。たかが熱帯魚といえどもそこは世界の縮図なのだ。クッ・・!鎮まれ、俺の右腕・・・っ!自分で自分の右腕を抑えながら葛藤する。実際にはそんな葛藤のカケラもなく

「ま、ちょっとくらいならバレないだろう」

そんな軽い気持ちで水槽横に置かれていた黄色い筒を手に取り、蓋を開け、御曹司がやっていたようにサッと水槽の中にまぶした。

黄色っぽい粉体が水面に落下し、水面を走るように広がっていきました。今、この水槽においては僕が支配者であり、与えるものだ。このカラフルな世界の支配者は私なのだよ。うんうん、たんと食べなさい、カワイイ私のグッピーたち、と世界で一番優しい瞳でグッピーたちを見守っていると、何やら様子が変なんです。

モァアー

明らかに何かがおかしいんです。絶対に何かがおかしい。御曹司が餌をあげていた時を思い出すと、カラフルなプレート状の餌が、そのままの状態で沈降していって、それをグッピーが食べていたんですけど、今おかれているこの状況は明らかにおかしい。

まずあげた餌が黄色いってだけでもおかしいのに、おまけに粉体、さらにはその状態を維持してなくて、ものすごい勢いで水に溶けていっている。もう信じられないスピードで水が黄色く濁っていくの。まさにモァアーという形容詞がふさわしいほど信じられないスピードで濁っていくの。あんなに透き通っていた水が、みるみるまっ黄色に。 最初こそは入れた場所だけが濁っていたのですけど、あっというまに水槽全体に濁りが広がり、もう中身が見えないレベルで濁り始めたのです。

もう腰が抜けそうというか、半分腰が抜けた状態で、尻餅ついてアワアワと濁りに濁った水槽を眺めていて、何が起こったのかわからないけど許して欲しい、勝手に餌あげたのは謝る、だから許して、神様!とか思ったのですけど神様が許してくれるはずもなく、

ぷかぁ

と、擬態語ではなく擬音語なんじゃないか、本当にそんな音がしたんじゃないかってレベルで次々とグッピーたちが浮かんできて天に召されていくのです。まるで先を競うかのように次々と浮かんでは召されるグッピーたち、死んだ魚の目とはこういうのをいうんだなって目をしてた。そりゃそうだ、死んだ魚だもん。

もうどうしていいのか分からなくなりましてね、アワアワとしながら、こりゃあ僕があげたの餌じゃやない何らかの毒薬なのか知らないけどあまりに破壊力が高すぎる。一体これはなんなんだ、とまだ右手に握られていた黄色い筒を見てみると、

「コンソメ」

とか書いてありました。なんで便所の横の洗面台にコンソメが置いてあるんだよ。明らかにおかしいじゃねえか。なんで熱帯魚の水槽の横にコンソメが置いてあるんだよ。ホント、金持ちが考えることはよく分からん。

大量のコンソメが溶け込んだ水槽の水からは香ばしい匂いが立ち込め、浮かん死んだ魚の目をしたグッピーはまさに具、おいしいコンソメスープが出来上がったというわけなんです。水草みたいなのも野菜みたいでおいしそうだった。

真っ黄色というより、もう濃すぎて茶色っぽくなった水槽、じゃないやコンソメスープを眺めながら、呆然とすることしかできませんでした。

僕らが住むこの宇宙は水槽の中かもしれない。支配する何者かによってコンソメが投げ入れられたとしても僕らは甘んじて受けなければならない。それが支配され、与えられる者の定めなのだから。

(2003年5月4日の日記をリライト)


3/7 成瀬心美式早漏チ○ポ強化合宿

成瀬心美さんというAV女優がいる。昨今ではAV女優のレベル向上が目覚しく、昔は、AVとはアイドルに届かないまでも少々カワイイ娘が出るものみたいな暗黙の認識があったものだけど、いまじゃあその構造は逆転したとまで言われているのだから、世の中わからないものだ。

例えば、今現在国民的アイドルとして一世を風靡しているアイドル、AKB48はそのコンセプトは「会いにいけるアイドル」今や人気ができすぎていてそうそう会いにいけないのだけど、そうなるともう一つのコンセプトである「クラスで10番目にカワイイ女の子」が重要な意味を持ち始めてくる。

僕が学んだ学校はブスが多かったので、10番目にカワイイ女の子となると、けっこう散々な状態で、早い話がブスで、確かそのブスはおまじないが好きだった。好きな人の名前を書いた消しゴムを誰にも触られずに使い切れたら恋が実る、みたいなことをブスがやってた気がする。消しゴムカスみたいな顔しやがってるクセにだ。

で、そのブスがそんな頭おかしい呪術をやってるとは知らなかった僕は、普通に消しゴム忘れたんでヒョイって借りたんですけど、そのブスが泣き出しましてね、おまじないが台無しになったと大泣きですよ。もう振られちゃう、高橋君に振られちゃうと大泣きですよ。お前が振られるのはおまじないが失敗したからではなく、ブスだからだよと優しく言おうと思ったのですが、クラスのブスが結託しましてね、なんかよくわからんけど消しゴムを触ったという罪状で罰せられたんです。

許せますか。おまじないだったら何を主張してもいいんですか。それだったら僕、好きな人と結ばれるために町行く女性のクリトリスをスポイトで吸うおまじないしますよ。あのブスの暴挙が許されるなら、僕だってスポイトで吸ってもいいはずです。ほんと、あの担任のクソババアときたら。僕、原稿用紙4枚も消しゴム触ったことに対する反省文を書かされたんですよ。4枚も。途中から書くことなくなって、水族館行った話を面白おかしく書いてたわ。あのクソババア!

少々感情的に脱線してしまいましたが、とにかく、なんでしたっけ、あ、そうそう、クラスで10番目にカワイイ女の子ですね、確かにAKB48のメンバーを見てみますと、さすがに10番目は卑下しすぎで、そんな酷くないって思うし、カワイイ女の子が多いんですけど、かといって1番ではない、2番手3番手につけてるっぽい女の子が圧倒的に多いんです。

それとは逆に、最近デビューするAV女優の方々を見てみますと、これがまあ、それはそれはカワイイ。それこそクラスで1番だろ、みたいな女の子がガンガンデビューしてガンガンやられちゃったりしてるんですよ。ホント、良い時代になったものですよ。こういったAV女優とアイドルの逆転現象は興味深いものがありますし、長い間、ずっと、それこそアリスJAPANのオープニングで柱がガンガン倒れていた時代から業界を眺め、時にはエロビデオレビューまで生業にしていた時代のある僕からしたら何やら感慨深い気持ちすら湧き上がってくるものです。

そんなAV女優のレベル向上現象の代表例が成瀬心美さんではないでしょうか。

画像を見ていただいてもわかるとおり、異常にカワイイ。画像はAKB風の衣装を着て公園で撮影していたそうですが、近所の子供に本当にAKBと間違われたそうです。というか、明らかにAKBを超えている。

異常なレベルでカワイイ彼女ですが、プロのエロビデオ鑑賞家の僕から言わせてもらいますと、あまりのかわいさに、その作品は抜けないのですが、これは何も彼女が悪いわけではありません。彼女のかわいさが悪いのです。ハッキリ言ってエロビデオなんてちょっとブスのほうが現実味があって死ぬほど抜けますから、彼女のかわいさは非現実、抜けないのです。ミロのヴィーナスが絡んでいても抜けないのと同じです。芸術品が絡んでいても抜けない。もはや成瀬さんは芸術品なんですよ。

さて、そんな成瀬心美さんなのですが、今日は僕のような下賎な男がこの成瀬さんを生で見ることができ、おまけに握手とかまでしちゃった話をしましょう。あれ、数ヶ月前、新宿での出来事でした。

いつも通っている新宿の画材屋に行った帰りでした。ごめんなさい、画材屋さんはウソです。何らかの理由で新宿に行った帰りでした。電車に乗って帰ろうと南口に向かって歩いていると、路地脇の店舗からAKB48の歌が流れていました。おっと思い眺めてみると、店先にディスプレイを置き、エンドレスでAKBのPVを流しているようでした。どうやら主にエロDVDを販売している店舗らしいのですが、一般的なDVDも販売しているらしく、売れ筋のAKBをヘビーローテンション、そりゃそうだ、いくら主力商品でもエロDVDを店頭で流すわけには行かない。

しばし魅入っていると、その横に店員さんの手書きのPOPが貼られていることに気がつきました。

「イベント情報」

なるほど、こういったエロDVDショップはAV女優さんが店舗にやってきてファンと握手したりサインしたり交流を深めるイベントがあるらしいのですが、さすが日本最大の歓楽街新宿ですよ。ほぼ毎週かって頻度でAV女優がやってきてイベントを開催している様子。どれどれ、今週は誰が来るのですかな、と一覧表になっていたイベント表を見てみると、そこには驚愕の真実が。

「成瀬心美」

ハッキリ言って腰が抜けるかと思った。あまりの興奮にtwitterに「成瀬心美!」って書こうとして動揺し、「ななななななるせここみ」とか訳の分からんことを書いてしまうくらい動揺していた。うおー、今週は成瀬さんが来るのか、いつだよ、明日か、明後日か、と興奮気味に日付を見ると、なんと今日。それも6時半から、急いで時計を見ると6時28分でした。これはもう神が導いてくれたとしか思えない。

とにかく、説明書きを見てみると、どうやら成瀬さんのDVDを買った枚数に応じて色々とサービスがあるっぽかった。1枚買えばサインとか握手とか写真撮影とかあるのだけど、複数枚買えばツーショットで撮影とか、コスプレで撮影とか、様々な特典がつくらしい。僕のような野武士とあのような美しい成瀬さんとのツーショットなんて恐ろしくて先祖とかが怒り出すに違いないので、一枚だけ購入し、サインと握手をしてもらう、そう決意した僕は6時30分を指した時計の下にある店舗入り口へと向かった。

店内に入ってみると、あまり人がいない。言っちゃあれだが、成瀬さんといえばもうかなり人気のあるAV女優だ。その成瀬さんのイベントが始まろうとしているのに、あまりに人がない。こりゃ何かの間違いで今日がイベントではないとかそういうオチだろうか、とか心配になるのだけど、隣におわすオタクっぽい二人の話を立ち聞きしてみると

「マジ、おれドキドキしてきたー」

「成瀬心美最高だよー」

と、すごい幸せそうな顔で会話していたので今日に間違いない。ついでに確認すると、どうも今は先着15名だか限定で、成瀬さんが接客してくれるサービスを展開しているらしい。あの、成瀬さんが接客してくれるのである、熱心なオタの方はこの接客がして欲しくて朝の4時から並んだ、みたいなことをオタクな方々が会話していた。

とにかく、もう始まってしまっているのならば早くDVDを購入してイベントに参加する権利を手に入れなければならない。なんとなく2階に上がり、成瀬さんのDVDを探すが、どうやらフロアを間違えたみたいでジャンル的に熟女コーナーだったらしく、「熟女が奥さんでこんにちは洗濯屋です!」みたいな良く分からないタイトルのエロDVDしか置いてなかった。

「すいません、成瀬さんのイベントに参加するにはどうしたらいいですかね?」

どうやって参加して良いのか分からないのに、店内放送では「そろそろ参加締め切りますよ!」とかムチャクチャ煽ってくるんで僕もパニックになっちゃってですね、もうどうしようもなくなって店員さんに訊ねたんです。

「あ、1階で成瀬さんのDVD購入していただけたら参加できますんで」

と親切に教えてもらい、なるほど、1階か、というか何で何の根拠もないのに僕はいきなり2階に突撃したんだ。最初から1階に行けばよかった、とか思いつつ、狭い通路に蠢くオタクの皆さんを押しのけ、1階へと到達しました。

1階はなかなか雑然としていて、人気女優のDVDとか数多く並べられていて、落ち着いて探せば普通に成瀬さんのDVDとか見つけられそうだったんですけど、なにせ締め切り間際で焦っちゃってますから、僕はとにかく急いでいたんですよ。それで、すぐにレジに飛んで行って店員さんに質問したんです。

「すいません、成瀬心美さんのDVDってどこに売ってますか?」

レジにいたのは、こういった店には珍しく女性の方でした。それも真っ赤な服を着たかなりカワイイ女性、というか常軌を逸したレベルでカワイイ。とある、エロ動画を紹介しあう場所で「秀逸」って書こうとして「逸脱」って間違えた人が持て囃されちゃっていつの間にか「逸脱」が「秀逸」の上みたいなランクになっちゃってるとこがるんですけど、明らかにこのレジの女の子、逸脱だった。

いやー、ほんとカワイイなーとか思いながらもう一度マジマジとレジの女の子の顔を見ると、そりゃカワイイはずだ、成瀬心美さんだった。先着15名様にレジで接客サービスを終え、濃厚な15名の相手をした後の成瀬さんがレジに残ってて僕の質問に答えてくれていた。世界広しと言えども、成瀬心美さんに成瀬心美さんのDVDの場所を質問したのは僕ぐらいだと自負している。

成瀬さんはそのまま、店員と交代し、エレベーターに乗ってイベント会場である最上階へと黒服と共に移動していって、DVD自体は店員さんから購入したのだけど、その店員さんすら

「すげえかわいかった」

「いい匂いがした」

と、仲間同士で興奮冷めやらない様子。いいから仕事しろ。

「なんだ貴様ーー!」

いきなり怒鳴られた。すごい大きい声で。怖い。

さて、僕もDVD購入してイベント参加券ゲットしたし、並びますかねと移動しようとしていると、先ほどの僕と成瀬さんのやり取りを見ていた、釣りいくの?みたいなジャケットを着たオタクの方が激怒している様子。本当に怒鳴られた。

相手も興奮していて何言ってるのか良く分からないんですけど、おそらく、自分は成瀬さんにレジ接客して欲しくて開店前から並んでいたのに、なんであの野武士は並んでもないのに成瀬さんに接客してもらってるんだ、みたいな怒りだと思う。この歳になって他人からこんなに怒鳴られるとは思わなかった。ホント、恐ろしい世界やで。

「ごめんなさい、知らなかったんです」

なんで僕この人に謝ってるんだろうと思いつつ、事を穏便に済ませていざイベントの列へ、どうもこのビルの最上階がイベント会場になっているらしく、そこから列が伸びて階段を下りて2階にまで達している。かなりの長蛇の列になっていることがわかる。

仕方なくボケーッと階段の中腹あたりで並んでいると、色々と常連っぽい人が忙しそうにしているのが分かった。

「あ、おつかれっす」

「今日は早いねー」

「今日はウルスラさん(っぽい名前)もきてるよ」

「マジッすか!」

とか参加者の多くが顔見知りっぽく、すごい仲間意識で一致団結していた。なんだよ、ウルスラさんって。最も驚いたのが、こういったAV女優のイベントなので小汚いおっさんとか多いんだろうなって思っていたのだけど、列に並んでいる人の2割くらいは女性だった。熱心な女性ファンを抱える成瀬さん、とんでもなく恐ろしいでと思いつつ僕は列に並んだ。

このビルは5階くらいまでのビル全部がエロDVDを売るフロアになっているんだけど、当然ながら、今並んでいる階段フロアにもエロDVDの宣伝ポスターが沢山貼ってある。

「お、この子はなかなか有望な新人だね」

「これは僕も見たんですけど、2回目の絡みがすごくて」

並んでいる人々もエロDVDに造詣の深い人たちらしく、貼られているポスターに対して色々と談義が弾んでいる様子。僕も何か加わってエロDVD談義に華を咲かせたい!と自分の横に貼られていたポスター見たら、未亡人が夫の遺影、じゃないや位牌を入れてプレイするという、何を語っていいのかわからないポスターが貼られていた。

待つこと2時間。列が少しづつ進んでついに4階まで到達していた。あと少しで最上階、成瀬さんに会える。ふと、前に並んでいる純朴そうな青年が、メールを打っていたので後ろから盗み見てみたら、お母さんにメールを打ってるらしく

「うん、いまね、東京駅近くの画材屋さんだよ。目当ての品を買えたらバスに乗るから。群馬についたらまたメールする」

さすがにお母さんにAV女優のイベントに並んでいるとは言えなかったのか、しかも画材屋さんとか嘘つくなんて!と少し心が痛んだ。しばらくすると彼にお母さんからメールが帰ってきたらしく、また覗いてみると

「気をつけて帰ってくるのよ」

と優しいお言葉。母の優しさになぜか僕が涙した。

焦り、焦燥、常連、怒り、位牌そして母の優しさ、様々なものが交錯する中、さらに1時間、トータルで3時間ほど待ってついに最上階に到達した。最上階は小さなスペースになっていて、そこで撮影が行われ、その前に置かれた小さな机でサインを書く、終わったらその横のエレベーターで1階まで降りるみたいなシステムになっていた。まだ最上階は人だかりで、僕の順番までには遠いのだけど、遠めに見ても既に成瀬さんがカワイイ。

今はちょうど、成瀬さんと女性のファンがツーショットで写真を撮っているところだった。ここで、なぜ3時間も待たされたのか僕は理解した。普通、握手会、サイン会なんてものは、サバの缶詰を作るかのごとく流れ作業だ。AKBサイン会なんて、剥がし隊と呼ばれる屈強な男どもが控えていて、握手して少しお話したら引き剥がしにかかるらしい。一人頭30秒くらいしか与えられてないんじゃないだろうか。

しかし、この握手会は違う。成瀬さんにサインしてもらい、握手して、撮影とかもしながら、成瀬さんは死ぬほど会話をしてくる。とにかく一人にかける時間が長く、15分くらい平気でしゃべっている。急かす人も引き剥がす人もいなく、自然流れでお別れという形だ。並んでいる人々も、早くしろよなんてイライラせず、その会話を楽しんで聞いている。みんな本当に成瀬さんのことが好きなんだな。そう思った。

その時も、成瀬さんは一緒にツーショットを撮影した女性のカメラの液晶を覗き込んで

「あ、よかったね、綺麗な顔でとれてるよー!」

と気さくに話しかけていた。天真爛漫な感じで話しかけていた。それを聞いた女性ファンがなぜか激昂し、大声で

「アンタのほうが綺麗な顔だわーーー!」

とか突然、成瀬さんに怒鳴りだしてブス発狂。僕は帰りたくなるくらい怖かったのだけど、周りのみんなはニコニコと見守っていた。成瀬さんもニコニコとしていた。怖すぎる、なんだこの空間。

そこからさらに30分くらい待って、ついに僕の順番が来た。緊張のあまり気が動転してしまっていた僕は、なぜか持っていた3DSを差し出してサインしてもらった。

「3DSほしー!」

「書くの緊張する、失敗したらどうしよー」

「わたし、一生忘れない。3DSにサインさせてくれたアナタを一生忘れない!」

本当、間近でみる成瀬さんは死ぬほどかわいくて、握手した手は柔らかく、小さく、もしかしたら成瀬さんは処女なんじゃないかって思った。

エレベーターで1階まで降り、成瀬さんの余韻に浸っていると、ディープなオタクのみなさんは2週目に突入すべくまた長蛇の列へ。なんでも買った枚数だけ何週も何週も、終電までエンドレスで続くらしいです。3時間以上かかった1週目だけでゲッソリの僕とは年季が違う。

僕はもうゲッソリなんで帰ろうかと、店を出て歩こうとすると、オタクみたいな人たちの集団が店の前に陣取っていたんですけど、「そろそろ二週目いく?」みたいな会話してて、そのうちの一人が、あの、僕を怒鳴った釣り師の人で、どこで聞いたのか

「自分だけ3DSにサインしてもらって目立ってんじゃねー!」

とか、なんでこの人はこんなに僕のことを目の敵にしてるんだろうと思いつつ、またペコペコと謝ったのでした。

それにしても、成瀬心美さんは本気でかわいかった。消しゴムに名前書いて誰にも触られないで使い切ろうと思う。


3/6 オーパーツを見ているか

技術の進歩に人類が追いついていない。

平日の昼下がりに電車なんかに乗ると、ほのぼのとした日常風景が広がっている。若妻が小さな子供を連れていて、子供は電車に夢中、靴のまま座席に飛び乗って慌ててお母さんが靴を脱がせる。向かいに座る老夫婦は仲睦まじく座っている。これからどこかの大きな公園に梅でも見に行くのだろうか。座席が空いているのにも関わらず座らない制服姿の女子高生は、スマホを操作しながら何やらゲームに夢中。今は学校の時間のはずだけど、試験期間なのかな?それともサボっちゃったかな。

なんてことはない、取るに足らない風景のはずなのだけど、こんな日常風景の中にも恐怖は潜んでいる。ハッキリ言って僕はこれを恐怖だと思うのだけれども、世の中の人は恐怖とすら思っていない。まるで普通で当たり前のこと、むしろ便利でいいじゃん、と流行しているくらいで、その事実もまた恐怖に感じるのだ。

何が恐怖かというと、上の例で出てくる、女子校生のスマホだ。よもや知らない人もいないと思うが一応説明しておくと、スマホとはスマートフォンの略で、パソコンの機能をベースとして作られた多機能携帯電話・PHSのことを指す。一般的な電話より賢いからスマートなんて言葉がついている。

このスマホは昨年あたりくらいから爆発的に普及しだし、今や携帯電話のスタンダードとなりつつある。ある試算では2015年にはスマホの契約台数が普通の携帯電話の台数を超え、過半数を占めるとまで言われている。多くの人が普通の携帯電話とスマホを2台持ちしている現状を考えると、もはやその頃には大半の人がスマホになっているのではないかと考えられる。

僕も例に漏れずiPhoneを、スマホと呼ばれる携帯電話を使っているのだけど、まあ便利だし、色々と使い勝手が良い。これが爆発的に普及するのもわかる。けれども冷静に立ち止まって考えてみると、これって実は結構恐ろしいものなんじゃないかという不安が心の中に湧き上がってくる。

そりゃあ、僕のようなデブが曲がりなりにもスマートなんて名前が付く電話を扱うなんていかがなものかって思う部分もあるのだけど、本質はそんなところではなくて、実際にスマートフォンを触ってみる、もしくは触ってる人の動きを見てみるといい。明らかにこれは人類の限界を超えた物だってわかるから。

オーパーツ(Out-of-Place Artifacts)場違いな工芸品、その時代や場所にあるはずのない物を指す。技術レベルや文明レベルを考えてもその時代にその場所に存在するのはおかしい物が遺跡などから出土することを指すことが多い。有名なところでは水晶ドクロやアンティキティラ島の機械、黄金ロケットなど。これらは賛否色々な見解があるが、本物だとするのならば明らかにその当時の技術レベルを超えた場違いな物である。

もし、今、核戦争か何かで現在の文明が滅亡し、遠い未来にまた高度文明を築いた人類が、僕らの生活跡を遺跡として発掘したとする。美少女フィギュアや、美少女抱き枕、ダッチワイフ、オナホールTENGAなどが出土さた日には古の人類は何やってたんだと頭を悩ませるのだと思うけど、もしスマホが出土した場合、間違いなくオーパーツとして扱われるのではないか、僕はそう思っている。

実際にスマホを触ってみるといい。まず画面が綺麗、重量もそんなに重くなく、大きさも手のひらサイズ、こんなものの中にパソコンと同等程度の機能が詰まっているというのだから驚きだ。けれども、それだけではオーパーツにはなりえない。すごい技術力だとは思うけど、別に人類を超えているわけではない。

僕が最も恐れ、確実に人類を超えていると考えるのは、そのスマホの画面、タッチパネルにある。携帯電話がスマホへと変化する時、あの携帯電話についていた1から9までの数字ボタンは姿を消した。それに伴い、画面を指でなぞるタッチパネル方式が採用され、いまやスマホといえばタッチパネル、は常識になりつつある。

今までボタンでやっていたこと、例えば数字や文字の入力、ページを進んだり戻ったり、ゲームの操作も全て画面をタッチして行う。ボタンをポチポチしていた時に比べて直感的に操作しやすくなったし、一度体感したら二度とボタン操作には戻れないだろう、それだけ便利だ。

けれども、少し考えてみて欲しい。この便利な画面タッチ。よくよく考えるとおかしくないか。うん、おかしい。絶対におかしい。実際に触ってみるといい、スマホをお持ちの皆さんは、そのスマホでNumeriでも開いてみるといい。

表示されるのは当たり前だけど、その画面を指でグッとやって上に払ってみるといい。シュルシュルーってものすごく滑らかに画面が下に流れていくはずだ。そして、適当なところでまた指をピタっとやる。ものすごくビビッドに画面が止まるはずだ。こんな動き、スマホなら当然なのだけど、よくよく考えると動きが良すぎて気持ち悪い。こんな直感的にヌルヌルと動かせるタッチパネル、絶対におかしい。

僕の手元には、数年前に購入したデジカメがある。これは当時、シャッター以外のボタンを全て排除し、画面をタッチすることで画像を見たり消したり編集したりできるという画期的なものだった。タッチパネルデジカメ!とか大々的に宣伝していた気がする。

しかし、実際に使ってみると、これが実に使い心地が悪い。画像を見ていて次の画像を見ようと矢印ボタンを押すと、ただでさえ小さい画面の端っこに小さい矢印があるもんだからなかなか押せない。押せたとしても、全然反応してくれない。強く押して初めて反応してくれるのだけど、そこから砂時計が表示されて、しばらく待ってやっと次の画像が表示される。

毎回こんな調子じゃあ、タッチパネルマジ面倒くせえ、ボタンの方がいいわ、といなり、そのデジカメはほとんど使わなくなってしまった。これは別にそんなに大昔のお話ではなく、ほんの数年前のお話。その当時でもタッチパネルはこれくらいの技術が限界だった。

街に多く存在するATMの画面なんかもタッチパネルを採用しているが、あれだってそんなに感度は良くない。ババアなんて何度も操作をミスして、後ろに並ぶオーディエンスの視線を独り占めして何度も操作をしているくらいだ。うちの親父にiPadで将棋ゲームさせたら、コマを動かす時に画面が割れるかってくらいに強く押していた。多くの人のタッチパネルに対する認識は、反応が悪くて強く押さなくてはならない、のままなのだ。

これら反応の悪いタッチパネルとスマホのそれでは、技術方式が根本的に違うことくらいは僕でもわかっているのだけど、それにしてもあまりに飛躍的に進歩しすぎだ。普通、技術ってものは日進月歩で、少しづつ改善されて向上していき、完成されていく。けれどもスマホのタッチパネルはミッシングリンク。その間に悪戦苦闘、日進月歩した痕跡があまりにもなさすぎる。

いや、僕が知らなくて本当はスマホのタッチパネル技術も日進月歩だったのかもしれないけど、それでもヌルヌル動く画面を見ると、絶対に人類を超えている、そう思わずにはいられないのだ。宇宙人と何らかの密約があり、タッチパネルの技術を貰ったんだと僕は解釈している。

そう考えると、便利な技術に人類が全く追いついてないことがわかる。例えば、タッチパネル以外でもスマホってすごい機能が沢山あって便利に使えるのだけど、その機能をフルに理解して使っている人はほとんどいない。別にやってることはネット見たりゲームしたり、いままでの携帯でも普通に出来ることだったりする。

僕が初めてスマホにした時、ツイッターのアカウントと連動するとかいう便利機能があって、こりゃ便利、とその設定を有効にしたら、一瞬にして僕のツイッターのフォロワー7000人がどこどことアイコン付で電話帳に登録されていき、買ったばかりなのに電話帳7000人、アイコンまでついてるからクソ重くて、電話帳開くたびに7分くらいフリーズして、悲鳴をあげていた。

これは便利すぎる落とし穴で、例えば勝手にありとあらゆるアカウントが連動されて電話帳の友だちに通知される機能とかあって、秘密のツイッターアカウントで「おしっこ飲みたい」とかツイートしまくっていた青年が、友人全員に特殊性癖を理解されてしまったなどの笑えない話もある。他にも、便利になりすぎるあまりにネットにおける様々な場面で法整備が追いついていないだとか、とにかく、昨今の技術は人類を超えてしまったように感じる。僕はそれが恐ろしくてたまらないのだ。

プレイステーション3というゲーム本体がある。これはゲームだけに留まらず、DVDを再生したり、ブルーレイを再生したり、テレビ番組を録画できたりと、ゲーム機本体の枠を超えて家電としての役割を担い始めた機械である。僕は、プレイステーション4では冷蔵庫機能がつくんじゃないかと予想しているくらいだ。

これも実に便利な機械で、インターネットに接続することで友人や知らない人とゲーム対戦したり、協力プレイしたり、ちょっと前じゃあ考えられないものすごい機能がてんこもりで搭載されている。その中で、特にDVD再生機能が恐ろしい。

他のDVDプレイヤーがどんなものか分からないのだけど、プレイステーション3のDVD再生機能は本当に恐ろしい。どこで再生を止めたのかずっと覚えているのだ。例えばDVDである映画を見てる時に、急用があって途中で再生を止めたとする。その後、色々あって続きを見るのを忘れ、あ、そういえば途中だった!と思い出してまたDVDを挿入して鑑賞しようとしたとする。すると、プレイステーション3は前回、このDVDはどこまで再生されたかをちゃんと覚えていて、しっかりその続きから再生してくれるのだ。

これは、結構時間感覚が空いても有効だし、中断から再開の間にディスクを取り出すことはおろか、別のDVDを再生したり、ゲームをしたりしても有効で、プレイステーション3はずっとどこで再生を止めたのか覚えている。これがもう明らかに人類を超えている。

例えば、僕らは映画を途中で見るのを止めたとしても2、3日なら結構内容も覚えているし、続きを見なくちゃなって気持ちもある。けれども、そんなに長いこと、それこそ陰湿な恋人みたいに長いこと覚えていられても困る。そんなに長いこと間隔が空いた場合は最初から見るほうがいいに決まってる。

おまけに、途中で別のDVDを見たり、ゲームをしたりしても、それでもずっと覚えてる、なんてのは、別のコンテンツに気持ちがいっているわけだから、もう途中から見る気はないという宣言に近いのに、それでも覚えてるんだから、これはもう便利機能というよりも、機械側の怨念に近い。途中でやめやがって、という怨念に近い。

さらにこれが映画だと良いのだけど、エロDVDだった場合はかなり深刻だ。僕がどこで果てたのかをプレイステーション3がずべて覚えているのだ。僕がこの世界の権力者で支配者だったら、絶対に全てプレイステーションに記録されているオナニー終了ポイントをネットを通じて吸い上げてデーターベース化する。それくらいにこの機能は恐ろしい。

だいぶ前の話だけど、僕の家に女の子が遊びに来たことがあった。その日は朝からお祭り騒ぎで、死ぬほどの大掃除をし、なんかファニーなケーキとか準備したような気がする。もしかしたら今日、僕はおセックスしちゃたりするのかな?はしゃいじゃって良いのかな?とかワクワクしたのを今でも覚えている。

僕にはある作戦があった。机の上に色々と書類があったのだけど、そこにさりげなくエロDVDのパッケージを置いておいたのである。普通、こういった女性が部屋に来訪する場合、エロ本だとかエロDVDとかエロマターをとにかく隠す傾向にある。けれどもそれは大きな間違い。きちんと選別し、良いエロマターを見つかりやすい位置に置いておく、それが円滑な流れを生み出すのだ。

「あ、なにこれー!」

「あ、やばい、やめて!」

「あれれー?もしかしてエッチなやつですかー?」

普通、女の子と会話していて自然にエロスな方向に持っていくのはかなり難しい。それこそ人類の技術を超えている。けれども、一枚だけエロDVDを置いておいたらどうだろうか。それこそ極めてナチュラルにエロスな方向に会話が展開するのだ。

「ねね、ちょっと見てみようよ!」

「ダメだって!」

「ワタシ興味あるー!」

「いや、ダメだって!」

「ええー、いいじゃん!」

女の子ってのは結構こういったエロDVDに興味があるもんで、見よう見ようと言い出すに決まってる。もうオマタもグショグショだぜ!そこでダメだダメだと言いつつ、仕方ないといった感じで再生をはじめるのだ。

選ぶ作品はナチュラルなものがいいだろう。できればデビュー作あたりで、あの白い本棚が置いてあるソファーの部屋でインタビューを受けてるような作品が好ましい。「――――初体験は?」とか右側にテロップだけ出て女優が「高校の先輩と……」とか答えているのがいい。やはり最初に過激な奴はいくら女がエロだっていってもひいちゃうからね。

ちょとどその時も、僕が選んだDVDは、ちょっと後半は過激なシーンがあるんだけど、前半はナチュラルでインタビューから入るみたいな、前半と後半のギャップが凄まじい作品だったのだけど、まあ、前半だけ見せればかなりナチュラルだし、こいつもオマタグショグショだろとか思ってデスクの上に忍ばせておいたんですね。

作戦通り、その僕チョイスのDVDを部屋にやって来た女の子が発見し、見せてよ、ダメだよと茶番ともいえる押し問答の末、ついにちょっとだけだよって約束で再生することになったんです。もうこれでグチョグチョっすよ。あとはおセックスするだけっすよ、いやー作戦通りいったなーと少し感慨にふけりつつ、DVDをプレイステーション3に差し込んだ瞬間ですよ。

前に再生した時からすごい時間間隔空いているし、その間に色々なDVDを再生した。さすがにもう覚えてないだろ、いくらプレイステーション3でも覚えてないだろ、って楽観していた僕が甘かった。本当に甘かった。プレイステーション3のやつは覚えてやがった。前回、僕がどこで力尽き、満足し果てたかを覚えていやがった。

「いやー、ブリブリブリブリ」

とか、女優がウンコしてる瞬間から再生が始まりましたからね。この作品、最初はまろやかソフト展開なのに、後半は脱糞あり、SMありのハードコアで、そのギャップを楽しむ作品なんですけど、まさかプレイステーション3が覚えてて、まさかの脱糞から始まるとは。コイツ、確実に人類を超えていやがる。

もうね、女の子も呆然ですよ。まさか私もウンコさせられるんじゃみたいな不安げな表情になってましたし、少しお尻を隠してましたからね。ああ、こりゃあおセックスは無理だな、いやー!いやー!とか泣き叫びながらまだモリモリ出してる画面内の女優を尻目に悟りましたよ。

技術の進歩はもう人類を超えています。発達しすぎた便利機能は、便利すぎてもう人間には完全に使いこなすことはできない。完全にオーバーテクノロジーになっているのです。僕ら人類は、スマホの画面をヌルヌルと動かすことより、この男優のように、ウンコを指先につけて「すごい匂いだねー」「いやっ!」とかやってるくらいがちょうどいいのです。


3/5 制服向上委員会

不思議でならないのが、いまどき引っかかる奴がいるのかってこと。

この世には数多の詐欺が存在し、日々新しい手口が生まれては消えていく。昔は情報なんて無きに等しく、大衆の情報インプットはテレビと新聞の大マスコミ様だけ、人々はその情報だけを糧に日々の生活を送っていた。

例えばある巧妙な詐欺があったとしても、人々はそれが詐欺であるという情報をなかなか手に入れることができない。被害が拡大し大マスコミ様が報じるようになって初めて「こんな手口もあるんだ」と詐欺の手口を知り、警戒するようになる。そうなるとその詐欺は終わりで、また別の手口か派生の手口を考えなくてはならない。

そうやって詐欺の新陳代謝によって繰り返し生まれては消えていくものなのだけど、昨今では情報化社会の発達により、この詐欺の新陳代謝が異常に早い。これまでの前時代の新地代謝を老人のそれとするならば、さながら今は乳幼児のそれと言っても良いレベルだ。

そうなると詐欺の寿命は短くなるはずだ。オレオレ詐欺や架空請求詐欺など、ある意味一世を風靡した詐欺はその情報がネットや何やらを介してすぐに広まり、一瞬にして終わった詐欺として新たな詐欺を生み出す土壌くらいの役割しかなくなる、そうなるはずだと思っていた。

しかしながら、未だにニュースを見ていると「オレオレ詐欺で使われた口座に預金を引き出しに来た男の顔写真公開」だとか「老人がオレオレ詐欺に振り込むのを郵便局員が間一髪!」とか報じられるし、僕のメールアドレスには架空請求の土台になるであろうインチキエロサイトへ誘導するSPAMメールが後を絶えることなくやってくる。

こんなにこれらが詐欺だってことは情報として出回っていて、その手口すらも完全に解明されているのに、いまだになくなっていないってことは、いまだに騙される人がいるということで、どうしてこういうことになってしまうんだろう、と疑問に思ってしまう。

ネット社会の発達は詐欺の情報を迅速に共有できるようになり、詐欺の寿命を早めたように思われたが、なんてことはない、そのネット社会の発達が詐欺を補強していて、これらの前時代的な詐欺であっても、今も根強く生き続けることが可能だったという話だ。

つまり、前時代においては詐欺とは非効率だった。カモを見定め、じっくりとそのカモが罠にかかるのを待ち、かかったカモからは徹底的にしゃぶりつくす。それが基本スタイルだったが、今は違う。例えば、架空請求詐欺なんかは、ネットを使って不特定数にドバーっと罠をばらまき、その中の1%でもひっかかってくれれば御の字、といった形だ。

よく知らないけれどオレオレ詐欺も、おそらく引っかかりやすい高齢者みたいなカモリストみたいな名簿が出回っていて、それをネットを介して購入できたりするのかもしれない。なんてことはない情報化社会の発達は、確かに詐欺を淘汰するの一役買ったけど、逆に詐欺を助ける側面もあった。そう言わざるを得ない。

結局、いくら詐欺情報の共有が行われたところで、ネットを見ない老人や、ネットを見ていても積極的に情報を手に入れようとしないしない人々には無縁な話で、楽に大量に罠を仕掛けることができて1%でも騙されてくれればそれで満足、という詐欺業者側の恩恵の方がでかいんじゃないだろうか。それはさすがによろしくない、僕らだってこのネット網を通じて詐欺業者と対峙できて退治できるはず。そんな試みを行なってみました。

さて、そうなってくると、今まで一度も対決したことがないオレオレ詐欺と戦ってみたくなるのだけど、残念ながらそう都合良くオレオレ詐欺の電話がかかってくるわけがない。何もわからない老人のふりしてひっかかり、向こうの情報をあれやこれや聞き出してネット網を使って逆襲してみたかったのだけど、かかってこないものは仕方ながない。ということで、架空請求詐欺に焦点を絞ることにした。

僕のメールソフト受信箱を見ると、それこそ死ぬほど、メールボックスがパンクするほどにそういった詐欺の類の入口となるメールが届いている。これまでの対決において何度か引っかかったりしてみたものだから、おそらく僕のメールアドレスがカモリストに入っているのだと思う。あとはもう、様々な業者が一括送信でドコドコ送ってきているのだと思う。これもあ情報化社会の発達が詐欺の片棒を担いでいる一例だと言える。

その中で、特に目を惹いたのが、「24歳社長夫人、真紀子」から来ているメールだ。こういった架空請求詐欺は、僕らオッサンの興味をそそるエロスな内容でメールを送ってきていることが多い。まずはエロで惹きつけておいて、サイトにアクセスさせる。それでもって登録でもさせるのだろう。登録したら登録料を払え、バーン!で数万から20万くらいの金を請求する。ちなみに、年齢や収入、貯蓄額にもよるが20万くらいまでなら人は警察等に相談せず、泣き寝入りをすることが多いらしい。そのへんを考えた絶妙な金額設定だ。

で、そうなると、いかに興味で心を鷲掴みにするのかって部分になるのだけど、「私セックスに狂ってます」だとか「お金なんかいらない、抱いて」「ウンコ食べさせて!」みたいな多くの人の心を鷲掴みにする文句を並び立てたメールがドコドコと来るようになる。最後のは本当に多くの人を対象にしたものなのか分からないマニアックさなのだけど、もう業者も訳のわからない地点に飛び立ってしまっているのかもしれない。ウンコやオシッコで心を鷲掴みにされる人が多数いたら恐ろしすぎる。

基本的にこれらのメールは、「セックス」「お金がかからない」「体だけの関係」みたいな、男にとって都合の良い三本柱で構成されている。裏を返せば、逆に男の興味を惹くことなんてこの3つがあればいいんだってことになる。なんて単純なシステムなんだろうか。

しかし、それだけじゃ足りないって言うんで、「お金がかからない」部分をさらに発展というかエスカレートさせて、「お金をあげます」というとんでもないものになってしまっている例が多々ある。それが「24歳社長夫人、真紀子」だ。

「若くして会社社長の夫と結婚しました。私は24歳ですが、夫はもう70歳。夜の営みはありません。お金目当てで結婚したのでお金だけはあります。疼くワタシの体を慰めてください。お金は払います(URL)」

このような文面で詐欺サイトのURLと共に綺麗な女性の顔写真まで添付されてメールが送られていくる。どれだけ真紀子が体が疼いているのかしらないけど、お金を払いたい、というのは相当なもんだ。すげえなあと思いながら眺めていると、さらに真紀子から追撃がやってくる。

「以前もこのサイト(URL)で会った御方に小切手を渡したら大変喜ばれました。ワタシ自身も満たされて満足し、彼も喜んでいただきました。win-winの関係とはこのことだと思いました。是非、アナタにもお願いしたい…。ワタシを慰めて…。」

win-winの関係とかしゃらくさいことを言い出した真紀子。どこの世界にセックスに後に小切手を出してくる奴のがいるのか知りませんが、とにかく事態は切迫している様子、早く真紀子を慰めてあげなくてならない、とメールに書かれたURLにアクセスします。

すると、表示されるのは良く分からない「マダムが集まる出会い系サイト」とやけに金色のフォントとワインレッドの背景が多用されたいかがわしいページ。登録もしてみたのですが、「登録を完了しました。入会金をお支払いください」と表示されるだけで、全然真紀子さんと連絡取れないし、出会い系サイト内を見渡しても真紀子さんどころか登録者がいない。

まさか、拉致……?

真紀子さんは鳥籠の鳥だった。お金だけはあるけれども、その70歳の会社社長の夫によってお屋敷に幽閉される毎日。自由なんてなかった。抑圧された真紀子は、インターネットの世界に救いを求める。偶然アクセスした金持ちマダムが集まる出会い系サイト、そこには真紀子と同じような夫によって抑圧される金持ちの妻たちがいた。様々な男が金目当てで魑魅魍魎の如く群がる中、真紀子はpatoという青年が目にとまる。この人なら、優しそうだし安心できそう。真紀子は勇気を振り絞ってpatoにメールを送った。

しかし、そえが金持ちの夫にばれてしまう。金持ちたちは金持ちのネットワークを使って自分たちの妻が出会い系サイトに熱中しているのを知り、その財力と権力でサイトを潰す。だから登録者が皆無なのかもしれない。そして、またお屋敷に閉じ込められる真紀子さん。「お前は一生、わしのものじゃ、この屋敷からでることは許さん、グワッハッハッハッハ」醜く笑う社長の高笑いだけが白亜の豪邸に響き渡った。

なんてことだろうか、僕は真紀子さんを救わなければならない。それが僕に与えられた使命なのだ。しかし、サイトにアクセスしても真紀子さんはいない、どうしたらいいのだろうか。途方に暮れているとまた真紀子さんからメールが着弾した。

「もしワタシの性欲発散の相手をしていただけるのであれば、現金で3億5千万円お支払いする用意ができております。お金のことはよく分かりませんが、お安すぎるでしょうか?そうでしたら遠慮なく言ってください。銀行で下ろしてきますので。受け渡し場所は危険なので(URL)で連絡し合いましょう」

なんことだろう。これは自動で送られてくるスパムだから、もう僕がサイトに登録していて、既に実体のない詐欺サイトだと分かっていると、そんなの瑣末なことを超越をして大変な事態だ。真紀子さんはまだ諦めていない。

どういった手段を使ったのか知らないが、お屋敷に閉じ込められ、おそらく携帯電話なども夫に取り上げられてしまった状態でなお、僕と連絡を取ろうと奮闘してくれているのだ。おまけに3億5千万円も現金で持ってくるらしい。たぶんダンボール二つ分くらいになると思うのだけど、それを持ってくるらしい。

僕はお金が欲しいわけじゃない。ただ真紀子さんを救いたいだけなのだ。あの忌々しき豪邸から真紀子さんを救い出し、夫の魔の手から開放してあげたい。お金なんているもんか。さっそく、もう一度指定されるURLにアクセスし、もう一度登録してみた。 けれども、やはりお金を払えと言われるだけで、サイト内で真紀子さんを探すことはできなかった。やはり、夫の魔の手がここまで伸びているとしか考えられない。

「君を救いたい、連絡をくれ!」

苦し紛れで、送られてきたメールに返信をしてみる。けれども、宛先が存在しないらしく送信と同時に送り返されてきた。これはSPAMメールだからもともと存在しないアドレスから送られてきていて返信なんかできるはずないとかそんなチンケなことではありえない。おそらく、金持ちの夫が裏で手を回しているのだろう。そうこうしていると、また真紀子からメールが届いた。

「今家を出ました。愛車のロールスロイスで移動しています。もちろんお金も持ってきています。待ち合わせ場所を早く決めましょう。(URL)のサイトに登録して!」

だんだん真紀子の言葉が直接的になってくる。事態は逼迫している。もう何度も登録しているのに登録してくれと言い張る真紀子。金持ち夫の手がもうすぐそこにまで迫ってきている。一体どうしたらいいのだろうか。悶々と考えていると、一つの考えが浮かんだ。

「ロールスロイス」は何かの暗号ではないだろうか?よくよく考えてみると、ここで車種を言う必要がない。悪魔の夫の監視をかいくぐって送る情報に余計なものはいらない。これは絶対に暗号だ。よくよく考えてみると、「ロールスロイス」は非常に語呂が悪い。「ロ」と「ス」がかぶっていて非常にリズムが悪い。ロアルドロス亜種みたいな語呂の悪さがそこにある。

その重なっている「ロ」と「ス」を除くと、「ールイ」並び替えると「ルーイ」となる。これは、タイ北部にあるラオスとの国境にある「ルーイ県」のことだと思う。つまり夫の魔の手を逃れてタイ北部で落ち合いましょう、という彼女からの暗号だったのだ!

しかし、さすがに彼女のためとはいえ、つい先日パスポートは期限切れ間近でタイに入国するにはパスポートの期限が最低でも6ヶ月必要だし、なによりもはいそうですかとすぐにタイまで行けるはずがない。このへん、真紀子の金持ち感覚が抜けてない気がするのだけれども、それでもなんとか日本国内で会えないものかと彼女に連絡しなくてはならない。

「タイなんていかなくても日本国内で大丈夫だよ!」

このメッセージを伝えたいのだが、やはり彼女に連絡を取ることができない。僕らは現代のロミオとジュリエット。また真紀子から一方通行のメッセージが送られてきた。

「いま、あなたのことを待っていますが、たくさんナンパされて困っています。早く来てください。お金も重くて腕が疲れてきました(URL)」

なんと、彼女はもうタイのイール県まで行ってしまったようだ。さすが金持ち、プライベートジェットででも行ったのかもしれない。綺麗に着飾った真紀子が珍しいのだろう、ヨレヨレの白いタンクトップみたいなのを着た貧しきタイ人がワラワラと真紀子にたかっている絵図が浮かんだ。真紀子ー!

もうこうしてはいられない。早急に真紀子と連絡を取らなければ、真紀子がタイで危険な目に遭ってしまう。遺体で発見とかありえない話じゃない。かといってメールに返信してもダメ、サイトに登録してもダメ、どうしていいのか分からずに困っていると、その詐欺サイトのサポートみたいなメールアドレスが目にとまった。

たまにではあるが、詐欺じゃありません、ちゃんと問い合わせ窓口を用意していますというポーズなのか、このようにメールアドレスを公開しているサイトが存在する。とりあえず、サポートを装ってそのメールアドレスにメールをしてみた。

「真紀子が危険。あなたのサイトの会員である真紀子さんが危険です。早急に手を打ってください。敵は大財閥で。彼女を守るために共に戦いましょう。僕らは一人じゃない」

僕がこのサイトの管理人だったら奮起せずにはいられない。そんなメッセージを送信しました。しかし、待てど暮らせど返信はやってこない。こうしている間にも真紀子はタイ人に!

「時間がありません。僕は何も真紀子のお金が欲しいわけじゃありません。彼女を守りたいのです。彼女は今、危険な状況にあります。なんとかして救わなくてはならないのです」

「僕らは一人の女性を救える」

「あなたさえ協力して真紀子さんの連絡先を教えてくれるならば、僕はタイまで行く覚悟ができています」

「アメリカ相手にでっかい爆弾落としてやろうぜ!」

最後のが意味わかりませんが、そんな感じでメールを送りまくっていたら、ついに一通の返信が。

「お問い合わせありがとうございます。頂いたご意見を参考に改善していきたいと思います。ありがとうございました」

ありがとう2回も言わんでもいい、とか、どう考えてもコピペ返信とか、詐欺サイトが何言ってんだとか考えることは沢山あるんですけど、もうこいつはダメだ、真紀子のことをこれっぽっちも考えていない。このクソ詐欺サイトがと激しい怒りを覚えましてね、向こうがネットを駆使して詐欺を働いて真紀子をないがしろにするのならば、こちらだって考えがあります。

人を人とは思わない、真紀子がタイで野たれ死んでもいいなんて考えているお前ら詐欺サイトが、ネットを駆使して手軽にカモを引っ掛けようとしているならば、こちらだってネットを駆使してお前らに痛い目あわせてやる。そう考え、行動を開始しました。

まず、この詐欺サイトのお問い合わせメールアドレスにメールをしたら1通だけコピペといえども返信が帰ってきた部分に注目せねばなりません。これはちょっと調べればどういう経路で送られてきたメールなのかすぐにわかります。どうやらとあるプロバイダを利用して送られてきている様子、メアドはサイトのドメインを使ったものになっていますが、やり取りは普通にプロバイダを介してやっているっぽい。

つぎに、サイトのURLを検索サイトで検索にかけてみます。なにやら英語のページが沢山でてきて訳が分かりませんが、その中で、サイト管理人が宣伝のためにどこかの掲示板に書き込んだっぽい書き込みを発見しました。ドメイン登録の時期から見ると、作ってすぐに掲示板に宣伝をしたようで、おそらくあまり集客効果が良くなかったんでしょう、その後、SPAMメールに移行したようです。

で、その書き込みをジッと見ているとあることに気がつきます。どうやら言葉を間違って覚えて使ってるっぽいのです。具体例を挙げると、例えば「延々と」という言葉を間違って「永遠と」と間違って覚えてて「永遠と続く赤い絨毯」みたいに使う人がいるんですが、この書き込みにもそのレベルよりももっとマニアックなレベルでの間違いが使われているのです。

どんな間違いったかは分かりませんが、かなり特殊な間違いでしたので、その間違いキーワードで検索をかけてみると、いくつかの書き込みとページがでてきました。年代が古いものから新しいものまで。なかなか同じ間違いをする人はそう多くないと考えると、この中に、件のサイトの管理人がいるのではないかと考えられます。

一つ一つ、それらを見てみて、もうサイトが存在しないサイトとかもありましたので、キャッシュとかウェブアーカイブを駆使して見ます。すると、文章のくせみたいなものとか、扱ってる内容がかなり酷似している古いページを発見しました。

そこには沢山の文章があったので、色々と検証してみると、どうやらあの詐欺サイトの管理人か、もしくはかなり中枢にいる人間がはるか昔に作ったサイトっぽい。当然、詐欺に使うとか考えてすらいなかったようなので、普通にメールアドレスとか記載してある。

oki@〜.ne.jp

このようなアドレスで、プロバイダ名が最初の返信メールから調査したプロバイダとほぼ一致した(プロバイダの統合により社名が変わってドメインが変わってるだけ)。これは完全に一致だ、あの詐欺サイトはokiなる人物、つまり沖くんがやってる可能性が格段に高い。ネットを使ってここまで調査できる事実に少しばかり恐怖を覚えた。

早速、詐欺サイトの返信メールに返信する。

「おい、沖!真紀子を返せ!」

そうメールすると、焦ったのかなんなのか向こうからすぐに返信が帰ってくる。

「沖?なんのことですか?」

普通ならば真紀子ってなんのことですか?という返信が正解だ。明らかに過剰反応だ。

「過去のサイトから君のメールアドレスがoki@だってわかってる。沖君なんだろ?」

とメールを送ると、沖くんから返信が

「そのokiは沖ではありません。当社が所属する団体のイニシャルをとっています」

と、ビンゴ。僕がワケの分からない場所からとってきたokiを自分のサイトと関連したものと認めてくれました。

「なんのイニシャルですか?」

ビンゴと思いつつ送ってみると、沖くんから返信が来ます。OKIを何であると説明するのか。沖電気のことだとするのか、岡島秀樹のレッドソックスでの愛称だとかいろいろ説明できますし、男前かっこいいイケメン(Otokomae Kakkoii ikemen)とか無理にでも頭文字を作ることができます。いったいどんな回答が!とドキドキしながらメールを開くと

「おしっこ向上委員会(Osikko Koujo Iinkai)です」

おしっこ向上委員会。世の中のスカトロはウンコを好む傾向にあり、おしっこの地位は著しく低い。ウンコを漏らすとインパクト大だが、おしっこ漏らしではパンチが弱い。そんな世相にパンチを食らわし、おしっこの地位向上を目指すおしっこ向上員会。ってやかましいわ。

もう沖くんが苦し紛れで訳わからないことになっていますが、別に彼が沖くんだろうがなんだろうが別にどうでもよくて、問題は真紀子です。

「沖くん、真紀子のことなんだけど、彼女は今タイで一人3億5千万円もって放浪しています。なんとかしたいんです」

とメール送ってみると、返信がこなくなり、しばらくしたらサイト自体が潰れてなくなってました。

情報化社会は便利な反面、多くの落とし穴があるものです。詐欺の情報を共有して注意喚起をしやすい反面、そのネットの便利さを利用して詐欺を働く輩も存在するのです。これからは亡き沖くんの意志を引き継ぎ、おしっこの地位を向上させるべく、ネットを使って効率よく活動しよう、そう決意したのでした。なるべくウンコよりおしっこを漏らす、そう心に決めたのでした。


3/4 バッドモチベーション

モチベーション、ってのは考えてみるとなかなか不思議なものだ。「motivation:動機付け、やる気を起こさせる内的な心の動き」とある。仕事やなんやかんやに対して、よーしやるぞとか意気込む様子をモチベーションが上がってきたなどと表現するのだが、実にこれが不思議でならない。

さすがの僕も、さあやるぞ!と意気込んでモチベーションを上げて仕事をすることもあるし、全然モチベーションが上がってこず、昼間っから快楽天を、それも読者のお便りコーナーみたいな場所を熟読してしまって全然仕事をしないことも多々ある。じゃあ、そのモチベーションってのは何に起因するのか考えると、それがなんとも不思議なのだ。

上司が自分の仕事を評価してくれた、妻と子のために仕事をせねばならないと思った、給料が上がったのでやる気が出てきた、何かをやり遂げた達成感が欲しく仕事をやり遂げた、世の中のモチベーションマスターたちはこんな理由でモチベーションを上げて仕事を頑張ってる。けれども僕はこれらのどれもが全く理解できない。

上に挙げた理由はいわゆる外的要因ではないだろうか。誰かの評価、それが欲しくて仕事を頑張る。けれども僕はそれをあまり理解できない人間なので、一貫して仕事を頑張らない。本当に言い切ってしまうけど、いかに怠けられるか、そればかりにモチベーションを上げている始末だ。

けれども、そんな僕でも内面的な問題、つまり自分の中での心の問題で、例えば今日は家に帰ったらすごいエロ動画を5本はダウンロードしてやるぜ!覚悟してろ!と誰に向けた宣言なのか分からないことを決意し、だったら仕事は早く終わらせないとな!とモチベーションがあがることがある。

このように、珍しくモチベーションが上がることはあるのだけど、それも一瞬のこと、とある要因によってそれは破れた風船の如くすぐに萎んでしまう。どうにもここ最近のことなのだけど、僕は小さな間違いが多い。この間も、未亡人が喪服姿でエロいことをするエロDVDがあって、それのクライマックスが「亡き夫の位牌を入れる」ってやつなんだけど、そのDVDのありえなさを人に伝える時に、言い間違えてしまって「亡き夫の遺影を入れる」と言ってしまった。遺影が挿入されたらえらいことだ。額縁ごといっとるってことだからな。

とにかく、こんな情けない間違いじゃなくても仕事上のことでも些細な間違いが多く、その度にテンションがだだ下がりしてしまう。それでも一応朝からテンションを上げて仕事に赴いてはいるのだけど、よーしやるぞってテンション上げてると、朝っぱらから大切な書類をシュレッダーにかけてしまうという凡ミス、もうそこでその日一日は終わりです。

明らかに自業自得で、自分のミスでテンション下がって仕事しないって社会人としてというか、人間としてどうなのかって思うし、クズにも程があるだろって思うんですけど、仕方ないんですよね、そういう性分なんですから。

そんな内面的なところから来る要因で毎日そのチンカスみたいなチンケなモチベーションを上げたり下げたりしている僕ですが、さすがに僕も人の子ですよ、ちょっとは外面的要因、つまり人の評価によってモチベーションを上げたりすることがあるんです。

いくら外面的要因っていっても上司に褒められてモチベーションが上がるってことはなくて、まあ、褒められもしませんけど、こう、なんていうんですかね、下っ端というか後輩というか、まだそれにすら達してない赤子というか、とにかくフレッシュな後輩たちに接したとき、モチベーションが上がってちょっと仕事頑張っちゃおうかなって思うことがあるんですよ。

あれは一昨年のことでした。うちの職場は新たに入ってくる新人に内定が出たあとに結構早い段階でその入社予定の子達に見学みたいなことをさせるんですね。それで、フレッシュマンが職場を色々と見学したり、先輩とお話して不安な点を解消したり、そういった手厚い体制が取られているんですよ。

で、僕はその新人に相対する先輩社員ってやつをずっとやりたくてですね、ほら、女の子のリクルートスーツって世界で三番目くらいに興奮するじゃないですか。それもパンツスーツでプリップリのケツとかだったら惑星が粉々になるレベルで興奮するじゃないですか。

それを間近で味わいたく、かぶりつきの特等席で味わいたく、いい匂いとかもお願いしたい感じで、先輩役をやらせてくれって人事の偉い人に直訴とかしてたんですが、常に答えはNo。とりつくしまもなくNo。バッドコミュニケーション。多分フレッシュな子達と接触させたくないんでしょうね、穢れるとかそういう古来の思想なのかもしれません。

それでもめげずにモチベーション上げてその新人教育係をやらせてくださいって直訴し続けてたら、根負けしたのか、諦めたのか、ついにやらせてもらえることになったんです。まあ、僕の勝利ですよ。

もう緊張でドキドキしながらですね、パッツンパッツンのパンツスーツとか興奮しながら、新人だから強く拒否とかできなさそうだからちょっとくらい触ってもいいのでは?とか妄想しながら、いよいよ未来の新人たちと接見する時がやってきましてね、少し緊張しつつ、それでも先輩の威厳を保ちながら悠然と部屋に入ったんです。

そしたらアンタ、男しかいないんです。本気で男しかいない。男っぽいだけで女の子も混じってるのかなって思ってマジマジと見てみたら、みんなどう見ても男だろうっていう立派なたくましい顔してました。なんでも今年から男女別になったらしく、女性はちゃんと更年期の女性の先輩が担当することになったみたいなんです。もう、テンションだだ下がりですよ。

ただね、ここでテンションが下がったからといって、明らかにテンション下がった感じで対応したらこの子達が可哀想じゃないですか。自分の裁量で自分の責任で自分の仕事のテンションを下げるのは自由ですが、そこに他社が関わるならいくらテンションが下がっていても最低限のことはするのが義務だと思います。

この子達は希望に燃えてるし、この子達から見たら僕は先輩であり、全てであるんです。そんな先輩がテンション下がってて投げやりってのはあまりにもかわいそうですから、やはりテンションが下がっててもそれなりにやる必要があるんです。

でまあ、頑張りましたよ。色々と彼らの話を聞いて、疑問点や不安な点を解決すべく誠心誠意対応しました。時には小粋なジョークも挟みつつ、彼女いるのかい?みたいな下世話な話も織り交ぜてリラックスさせ、彼自身がどう感じたかは分かりませんが、非常に有意義な研修の時間になったんじゃないかっていうレベルで手応えがあったんです。

するとね、最初は緊張してたのか何なのか知りませんが、僕と彼らの間に見えない隔壁みたいなものが確実に感じられたのですが、それもいつの間にか感じられなくなり非常に風通しが良い感じになってくるんですね。すると、新人たちも「先輩、先輩」ってすげえなついてきて、そうなると僕も悪い気がしてこないんですよ。

そりゃあ、こいつら全員、出かける直前までオナニーしてただろって感じの風貌で、こんなのに比べたら女子大生の集団の方が何ステージも上で、そっちのほうが良いに決まってるんですけど、この、なんていうか、このオナニーたちに慕われるのもそんなに悪くないんじゃないかって気持ちになってくるんです。

別に僕は男が好きとかホモセクシャルとかそういった嗜好は一切ないのですが、やはり慕われると嬉しいもので、次第にこのオナニズム文化発祥の地、みたいな新人ボーイのことが可愛く愛おしい存在に思えてくるんですね。「先輩、先輩」そう慕ってくる彼らを何とか守ってあげたい、そう思えてくるんです。

そうするとね、実に不思議な感情なのですが、なんていうかこんな感情が僕の中に存在することすら考えていなくて、少々戸惑ってしまうのですが、なんていうか、彼らのために仕事を頑張らなきゃいけないな、そんな感じでモチベーションが上がってくるんです。

明らかに外的要因なんですけど、例えば、彼ら慕ってくれる新人たちが本当に入社してきて、色々と仕事を覚えるうちに色々とバレてくるじゃないですか。僕が仕事中に快楽天を熟読してるとか、栗拾いツアーに誘われない、とかそういった実態が如実に露わになってくるじゃないですか。

そうなってくると、彼らも何でこんなカスを慕っていたのだろうって感じになってくるじゃないですか。運良く気付かないにしても、どうせ周りの同僚が「お前ら慕ってるみたいだけど、あいつカスだよ」みたいなことを何も知らない無垢な新人たち入れ知恵するに決まってます。

すおなってくると、さすがの僕も怒り心頭、余計なことを言った同僚どもをデカい棍棒持って美しすぎるカードゲーム、ケルベロスみたいなノリでぶん殴ることも辞さない感じで怒るんですけど、新人たちに「あの人仕事できないカス」って刷り込まれることは変わらないんですよね。

そうなってくるとね、彼らも心に傷を負うと思うんです。毎日オナニーしてるからって傷つかないわけじゃあありませんから、慕っていた先輩が仕事しないゴミだったって傷ついちゃうと思うんです。関係ない輩が傷つこうが何しようが知りませんけど、一度は僕のことを慕ってくれた彼らが傷つくのは少々耐え難いものがあります。

そうなってくると、少しでも彼らのキラキラな思いに応えるべく、僕も仕事ができるとまではいかないまでも、人に後ろ指さされることがないくらいは頑張らないといけないな、よし、明日から頑張ろう、って感じにモチベーションをあげたんです。

それからはまあ、ちょっと仕事を頑張って過ごしてきましてね、それこそ人様にとやかく言われることがないレベルくらいまでは頑張れたんじゃないかって自負していて、あとは彼らが入社してくるのを待つのみ、みたいな状態になったんです。

そんなある日、何やら物々しい雰囲気と共に数人のテレビクルーみたいなしゃらくさい奴らが僕の職場にやってきたんです。テレビクルーみたいなっていうか本当にテレビクルーというか映像関係の仕事に携わる人だったみたいで、カメラとか出してきて何やら撮影が始まる様子。

僕の同僚が何やら破廉恥な事件でも巻き起こして、僕から「いつかやると思いました、ええ」みたいなコメントを取りに来たのかと思いましてね、それだったら顔にモザイクかけて音声も変えてもらわないと、とか思ってたんですけど、どうやらそうではない様子。

新人が入社した時、実際に配属される前にどっかの山奥みたいな場所で研修があって、そこで集団生活とかオリエンテーションとか訳分からないことやらされちゃって、大部屋で寝るなんて毎日オナニーする人はどうするんだって行事があるんですけど、どうもそこで先輩からのメッセージって感じでビデオレターを流すみたいなんですね。どうやらそれの撮影に来たみたいなんです。

なにもビデオレターじゃなくても僕が研修の場所まで行って喋るから、とか思うんですけど、どうやらビデオとして形に残すことが大切な様子。で、内定時に世話した先輩が収録するのが慣例になっているらしく、受ける受けない以前の問題で僕が撮影することになったみたいなんです。それにしても、事前に言っといて欲しい。

よくわからないのですけど、本棚をバックにして喋ってくださいとか言われて、その本棚の中に本を沢山入れましょう、知的に見えますんで、とか僕ら素人には分からない部分に色々とこだわりがあるみたいで、結構面倒くさい準備を経て、ついに本番、となりました。

準備の間、ずっと何を喋ろうかって考えていたんですけど、僕が研修を受けた時のことを思い出してみると、下手に気取ったことや上手いこと言おうとしてだだ滑りしている先輩の映像ってのは、夜の飲み会の酒の肴くらいにしかならなかった記憶しかありませんでした。さすがにそれは嫌なので、なんとか新人たちにもバカにされず、それでいて心に残るような言葉を残したい。短い時間でずっとそんなことを考えていました。

で、下手に飾るより本音を言ったほうが心に響くんじゃないかって考えましてね、ここまでずっと述べてきたモチベーションの話、外的要因と内的要因のモチベーションって感じで論を展開してみたんです。

「モチベーションを維持する、それが仕事をする上で大切なんです」

みたいなことを、すごいドヤ顔で言ってて、それを収録されました。後々考えてみると、そんなこと言われなくても分かってるわって感じの話のオンパレードなんですが、それでも、あまり変なことは言わなかったので彼ら新人が慕っている先輩という理想像を壊すことはなかったと思います。

そんなこんなで、またしばらく月日が経過し、ついに4月になって研修を終えた新人たちが職場にやって来たんですね。カワイイ後輩たちがやってくるってんで僕も朝からモチベーションとテンションが高くてですね、ついに、その新人たちが僕のところに挨拶に来たんです。

「待ってたぜ!研修どうだった?」

みたいな感じで、まるで親戚のオッサンが甥とかに話しかけるみたいにざっくばらんな感じで気さくに話しかけたんですけど

「ええ、まあ……」

みたいな感じで歯切れが悪い。なんか、僕と目を合わせないようにしているっぽい。さすがの僕も動揺しちゃいましてね、前はあんなに打ち解けた僕らなのに、もう今は別れた後の恋人がウチに置いてった椎名林檎のアルバムどうする?いいよ、あげるよ。そっか。とか会話してるみたいな状態になってるんです。

「どうした、仕事が始まることへの不安か?」

みたいに僕も理解ある気さくなお兄さんスタンスでいくんですけど、やはり彼らは歯切れが悪い。というか、ヤクルトの監督みたいな顔した新人は、込み上げる笑いを押し殺しているようにすら見える。一体彼らに何が起こったのか。

「まあ、じゃあ飲みに行こうか!」

これが僕の最終兵器だったんですけど、以前に会った時、彼らがあまりに「奢ってくださいよー」とか言うもんですから、「じゃあ研修終わったら飲みに行こうや」「やったー!」みたいな会話があったものですから、歯切れの悪い彼らも飲みに連れていけばあの日、あの時の彼らに戻ってくるれるはず、そのためには多少の出費も致し方ない、奢ってやりますか!と決意しての言葉でした。しかしながら、

「いや、今日はちょっと○○さんと約束がありまして……」

なんと、別の先輩、つまり僕の同僚なんですが、そいつと飲みに行くというじゃないですか。もうこれには動揺とかそんあレベルじゃなくてですね、落胆ですよ。落胆。

結局、あのかわいかった新人たちはもうどこにもいない。挨拶もそこそこに帰って行っちゃったわけなんですが、なんでこんなにも彼たちが豹変してしまったのか。もしかして、誰かが彼らに入れ知恵したのかもしれません。あいつ、仕事しないカスだよ、あんなやつについていったらお前らもカスになるぜ!とか誰かが吹き込んだのかもしれません。状況的に彼らと飲みにく○○が怪しい。

もしそうなら、さすがに温厚な僕も怒って、長い爪のバルログみたいな武器を装備して美しすぎるカードゲームケルベロス、pato参戦!ってやりますよ。事と次第によっては本当に許さない。

でもね、歯切れの悪い彼らが、帰り際、ヤクルトの監督みたいな顔した新人が笑いをこらえつつポロッと「ビデオレター」みたいなことを口走ったのを僕は見逃しませんでした。もしかしたらビデオレターに彼らの心変わりの原因があるのかもしれない。

もう、そういった人事担当の部署に駆け込んでですね、渋る担当者を説得して、何で自分のビデオレター見せてくれないんだよ!と問い詰めてDVDを借り受けて見ましたよ。

僕は自分のことが本当に好きじゃないので、自分の姿を見るってのはかなり苦痛なのですが、映像を見ていると別にそんなにおかしいことは言っていない。強いて挙げるなら、突然撮影を言い渡されたのでヨレヨレの服を着ているくらいのもんです。でもね、ずっと見てて驚愕の事実を発見したんです。

ビデオレターの僕は、モチベーションの大切さ、モチベーションを上げることの意義、モチベーションを維持する方法、モチベーションを失ったらどうしたらいいか、みたいなことを仕事の、人生の先輩として懇切丁寧に解説してるんですけど、その、あの、なんだ。

ビデオレターの中の僕、モチベーションのことをずっとマスターベーションって言い間違えてた。

すごいドヤ顔で腕を組みながら「マスターベーションを維持する、それが仕事をする上で大切なんです」みあちなことを言ってやがる。なにが「自分なりのマスターベーション維持方法を見出して」だ。維持すんな。「人に褒められたい、そんなきもちでマスターベーションを」とか、誰も褒めてくれるわけない。

というか、さすがに僕も緊張し過ぎでテンパって間違えたんですけど、撮影してる奴とか編集してる奴、気づいてなんとかしろよ。

結局、フルでこの映像がそれこそプリケツのリクルートスーツの女子新人とかの前でも流されたんでしょうね、数えたら21回もマスターベーションって言ってた。そりゃ、その日の夜の酒の肴になるし、他の先輩に話を聞いて、あいつ頭おかしい、栗拾いツアーにこない、みたいな話になったに違いない。そりゃ新人も近づかんわ。

些細なミスでせっかくモチベーションを上げていたのに、これにはさすがの僕もモチベーション急落。仕事を怠けてさっさと家に帰って濃厚なエロ動画を6本ダウンロードし、マスターベーションをするしかない。やる気を出して仕事に頑張る世の中のモチベーションマスターにはなれなかったのだけど、マスターベーションマスターになってやる。モチベーションを上げて。


3/3 香港ラプソティ-完結編-

前回までのあらすじ
香港!カレンチャン!AKB!ウンコ流ない!よく分からないと思うので前回の前々回の日記をお読みください。

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寒さに震えながら目が覚める。本当に寒い。普通、金払ってホテルに泊まっているのだから外界よりも格段に暖かく快適に過ごせる部屋でないとおかしい。けれども、窓を開けてみると、部屋の中は外と全く同じ気温だった。おまけにまたもや電源がぶっ飛んでいて電気の類は一切使えない。酷いホテルすぎて笑えてくる。

気を取り直して、今日はついにカレンチャンがここ香港で海外デビューをする日だ。気合を入れて応援しなくてはならない。寒さに震えながら万全の体制を整えてホテルを後にする。

さて、カレンチャンが出場するキャセイパシフィック香港スプリント(G1)だが、ここ香港には競馬場は二つあるのだけど、お目当てのレースが開催されるのは比較的郊外にあるシャティン競馬場。事前に行き方は調べておいたのだけど、地下鉄でなかなか乗り換えが多い様子。

香港の地下鉄はさほど複雑ではないのだけど、並行して走る路線が多く、比較的乗り換えが多い印象。ただし、乗換駅みたいなものが設定されているっぽく、その駅では目の前のホームで乗り換えられるように作ってあるっぽく、さほど苦痛には感じない。

ホテルのあったスラム街から3回くらい乗り換えをしているうちにいつの間にか地下を走っていた鉄道が地上を走るようにあっており、ついにシャティン競馬場へと到着した。

外国人が競馬場に入る場合は別の入口からパスポートを見せて入る必要がある。入場料も、香港の人は100円ぐらいで入場できるのだけど、外国人は10倍くらい取られたような気がする。

入場するとペインティングされた馬の置物がお出迎え。ちょっと香港の人のセンスが理解できない。

シャティン競馬場。芝はかなり綺麗。向こうには窓の間隔がぎゅうぎゅうすぎて怖い高層ビルも見える。

外国人は一般の人とは区分けされた場所で見ることができ、少しゆったりと余裕を持って観戦することができるようになっている。

いよいよレースが始まる。スタンドには大勢の観客が。みんなが同じ帽子をかぶっているのは、入口のことろでスポンサーのキャセイパシフィック航空が帽子を無料配布していたから。もらったものはかぶらずにはいられない、お国柄でしょうか。

みんな同じ帽子。

同じ帽子

金持ちはいい帽子。

そんなこんなでいよいよカレンチャンが登場する香港スプリントがやってきます。

香港の競馬新聞。漢字ばかりで意味がわからないけど、カレンチャンは「真幾怜」と書くっぽい。騎手は池添さん。

ここにもカレンチャン。

日本でレースがある場合、カレンチャンは結構人気があるんで、レース前のパドックなんか近づくことすらできないんですけど、ここ香港ではそこまで有名ではありませんから、普通にパドック最前線でカレンチャンを見ることが可能。

そしていよいよ馬券を買うわけなのですが、もちろん、持っていた全財産をカレンチャンにぶっこみまます。

ちなみにこれは日本の馬券ですが、香港の馬券はペラペラの紙というかレシートみたいな馬券です。

14番カレンチャンにぶっこんだ馬券の束です。

さあ、ついのここ香港まで応援に来たぞ。そして全財産をぶっこんだぞ。本気の全財産だ。こちらではカレンチャンの評価が低いのか、当たった時の倍率はかなり良い。当たったらたぶん日本の税関で申告が必要なくらいの現金になるはず。よし、全ての舞台は整った、いくぜカレンチャン!

ついに僕の、そしてカレンチャンの運命を賭けたレースが始まります。

1着 LUCKY NINE(IRE)
2着 ENTRAPMENT(AUS)
3着 JOY AND FUN(NZ)
4着 LITTLE BRIDGE (NZ)
5着 CURREN CHAN (JPN)

全財産、失った。

どうすんだよ、こんな異国で全財産失ってどうすんだよ。そのへんの競馬場とかパチンコで負けて歩いて帰るのとは訳が違うんだぞ。あと、全然関係ないけど、またロケットマンが馬群に沈んでた。

けれどもね、カレンチャンは頑張ったと思うよ。初海外で、こんな遠い国に来て、しかもあれだけカレンチャン包囲網が完成していてあんなに囲まれた中、5着は大健闘だと思いますよ。

とにかく、20円程度だから貧乏人でも乗れる、と言い切った地下鉄に乗る金もなくなりましたので、5時くらいかけて歩いてホテルまで帰ったのでした。ホテルに到着する頃にはすっかり夜になり、月食も終わったので月は欠けていませんでしたが、僕の心の中の何かは欠けたような気がしました。ついでに、ホテルの部屋は、電源も暖房も、最終的にはシーツすら欠けてました。

おわり

カレンチャン次走
3/3 中山競馬場 オーシャンステークス(GIII)
3/25 中京競馬場 高松宮記念(GI)


3/2 香港ラプソティ-中編-

前回までのあらすじ
人に裏切られることより、人を裏切ることの方が辛く苦しいと悟りを開いたpato。しかしながら運命は無垢な彼を翻弄する。心の底から信じ合い共に歩いてきたカレンチャンの想いを無下にし裏切ったpatoは深く傷つく。そんなpatoが導いた結論は、香港に行きカレンチャンを応援することだった。心を通わせ合い、信じあったpatoとカレンチャン、馬と人を超えた愛の物語、沸騰都市、香港で全財産を賭した戦いの火蓋が切って落とされる。まあ、よくわからないと思うので前回の日記を読んでください。

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そんなわけで、なんか訳も分からないうちに香港まで来てしまったのですが、空港から香港の中心部へと向かう車内で街並みを見てみても、なんかすごい迫力があるんですよね。

建っているビルの威圧感というかなんというか、もちろん香港はアジアでも有数の都市ですから、高層ビルとかすごい建ってるんですけど、その高層ビルの迫力がなんか東京とかそのへんの日本のそれとは違うんです。

例えば、遠くの方にタワーマンションみたいな高層の建物が居並んで建っていたりするんですけど、日本、特に東京ってタワーマンションって高級な物件じゃないですか。そうなると、ゆとりある感じで建設されているんで、遠くから見ても窓とかの間隔がゆとりあるんですね。

けれども、香港は後にも出てきますけど、東京なんか目じゃないくらい住宅費が高騰してますから、タワーマンションといってもそんなにゆとりを持って作られていない。もちろん、本当の金持ち用にゆとりある建物のあるんでしょうけど、多くが、ぎっしりと、それでいて高く、そいでもって何棟も建ってるんです。ものすごい狭い間隔で部屋が並んでいるであろうと予想できる窓たちがビッシリですよ。なんかSF映画に出てくる荒廃した都市、みたいな迫力がありました。

さて、そんな香港ですが、もう一度ここでおさらい。正式名称は中華人民共和国香港特別行政区、1842年に南京条約などによりイギリスの植民地となりましたが、1997年にイギリスから主権移譲され、特別行政区となりました。人口は約700万人で、札幌市ほどの面積の中にそれだけの方が居住しています。札幌より平地が少ない地形のため、実際の人口密度はかなり高い。地区によっては50,000人/km²を超えると言われ、実に東京23区の3倍に相当する。

香港の中心部にはブランドショップが立ち並び、特にお母さんとショッピング旅行に来てるとか、OL同士で来ているとか、ババア共の集団が狂ったように買い物しているとか、とにかく至る場所で日本人を見ることができます。モンゴルに行った時は日本人などカケラも見れなかったことを考えるとかなり心強いものです。

さて、香港の街並みは面白いもので、ガイドブックなどを見てみますと、こう、色々と専門的な商店の集団に区分けされているみたいなんです。東京でも秋葉原は電気街、オタク街、みたいな感じで専門的な店たちが並んでいるんですけど、それと同じで香港も結構色々な専門ストリートがあるみたいなんです。

これは金魚街と呼ばれるところですね。思いっきりに剥き出しでビニールに入れられた金魚というか魚を軒先に並べた店が20件ばかり連なりますが、全般的にはペットショップ密集区域みたいな様相です。ペット屋に挟まれるように平気で定食屋みたいな店があったりするのはお国柄でしょうか。

ここは鳥ばかりを売ってる地区です。本当に鳥に関連した商品ばかりを売っています。

他にも様々な専門的な区域が存在し、もちろん電気街とかも存在しますし、服飾の街とか花の街とか様々なものがあります。中には名前だけで実態は普通の住宅街、みたいな場所もあるのですが、ブラブラ歩くだけでもかなり楽しいものです。

そんなこんなで香港の街をぶらつき、いよいよ本日宿泊するべきホテルに行くことになるんですけど、ホテルの場所とかよく分かってないまま行くことになっちゃいましてね、結構迷いつつ、何かの○○街っていうところにあるはずだっていう情報を頼りに向かったんです。

もしかしたら電気街だろうか、いやいや、安いホテルにしたから怪しげな場所にあるに違いない。酒街とかそういう場所かもしれない。香港にあるかどうか知らないけど風俗街とかだったらいいな!などと、ホテルの立つ専門街に思いを馳せながら到着すると、

油街

よくわからない。しかも油を売ってる様子が微塵もないし、なんか雰囲気がスラムみたいな怪しげな感じ。「oil street」って横文字で書いてあるのがかなりイライラする。しかも、煌びやかな香港にあって凄い町外れで裏通り、早くも嫌な予感がしますが、野宿するわけにはいかないのでホテルにインします。

ホテルのロビーに入ると、中国人だか韓国人だか知りませんが、ものすごい大勢の団体客がワーワーギャーギャーやっていてなかなかチェックインできなかったのですが、なんとか無事チェックイン。落ち着いて部屋に入ります。

さすが住宅事情が劣悪な香港であり、さらには格安のホテルということもあってか部屋はめちゃくちゃ狭い。それでも急いで日本からやってきた僕にとっては落ち着ける場所です。ベッドに腰掛け一息つきます。

カレンチャンを応援するため、カレンチャンの世界舞台デビューを応援するため、取るも取りあえず遠く香港までやってきてしまった。出発前はパスポートが見当たらなかったり、パスポートの期限がギリギリだったりで本当に気が動転して焦ってしまった。どれくらい気が動転していたかというと、荷造りの段階であまりに焦るあまり

バッグばかりを4つも持ってきてしまう始末。バッグインバッグ。着替えも持って来ずにバッグばかり持ってきてどうするつもりなのか。

香港て何か漠然と暖かいイメージがあったのですけど、この季節の香港はしっかり寒い。ちょっと我慢できるレベルの寒さじゃないので、部屋についているエアコンのツマミをひねり、暖房に設定する。このツマミというかスイッチが、ひねった瞬間に全然手応えがなくて嫌な予感がしたんですけど、予想通りというか何というか、冷たい空気が凄い勢いで排出されてくる体たらく。

ちょっと待てば暖かい空気が出てくるのでは?と淡い期待を寄せたりもしたけれど、2時間ぐらい待っても冷風しか出てこない。フロントに文句の一つでも言ってやろうと思ったんですけど、言葉が通じないんでやめておきました。

周りの部屋全部が韓国人の団体客で、部屋を行き来して夜中まで大宴会。キムチ食ってるのかキムチの匂いが充満。風呂に入ると火災報知器がけたたましく鳴る。そして死ぬほど寒い。とまあ、ボロホテルぶりをいかんなく発揮していたんですけど、一番我慢ならなかったのが、電源が落ちる、というところ。

どうも深夜寝てる時に、部屋の電源が全て落ちてしまったみたいで、こちらとしてもカメラとか充電していたんですが、朝起きたら全然充電できていなかった。テレビもつかないわ、冷蔵庫に入れておいたコーラはぬるくなってるわで散々な状態。

今日は香港をくまなく観光して、明日はついにカレンチャンの応援に行くわけで、まあ、帰ってくる頃には部屋の電源も復旧しているだろう、と香港の街へと飛び出しました。

香港の地下鉄は異様に安い。だいたい日本の1/10くらいの感覚だと思ってくれていい。日本だと200円くらい取られそうなくらいの距離乗ったとしても20円くらいの出費でいけてしまう。よほどの貧乏人でない限り地下鉄に乗れないということはない。

僕は以前、パチンコで負けすぎて帰りの電車にも乗れず、3時間くらいの距離を歩いて帰るというセルフ帰宅難民をやってしまったのだけど、この安さだとそんな心配もなさそうだ。

さて、観光に繰り出したのはいいものの、僕はモンゴルで決死のサバイバルとかそういった海外旅行しかしたことがなく、こういった思いっきり観光地って場所で旅行を満喫したことがない。どうしていいのか分からずに所在無くウロウロしていても時間の無駄なので、なんか麺でも食ってやろうとその辺のラーメン屋みたいな小汚い店舗へ。

具もなんにもない麺なのだけど、これがやたらめったら美味い。美味いのはいいんだけど、僕が食ってる横にレジがあって、そこに太ってる時のオセロ中島みたいなババアが鎮座しておられて、センスで扇ぎながらずっと僕を睨みつけてるんで、気が気じゃない感じで落ち着いて食べられなかった。

これはあくまでも僕の個人的な意見なのだけど、香港という街は買い物大好きな女性とか向けの観光地な気がする。ガイドブックを見ても、そういったブランドショップやら何やらの紹介が多い。歴史的な建造物とかそういったものが少なく、ショッピングに死ぬほど興味がない僕は本当にどうしていいのか分からない。

ブラブラしているとこんなポスターが。どうも日本を題材にしたドラマっぽいのだけど、すごい色々と日本を誤解されているようなきがする。「焼かれた記憶を消したい」とか凄い深刻なことが日本語で書いてありますしね。

ここは、香港の秋葉原みたいな場所らしい。よく分からないけど、別に電気街というわけではなく、サブカルチャーの発信地とかそんな位置付けみたいだ。とにかく行く場所がないのでここに来てみたのだけど、まあ、それっぽい現地の若者は多い。怪しげな店も多く、なんとなく雰囲気が秋葉原の裏通りあたりに似てると言えなくもない。

そんなこんなで、この香港の秋葉原を散策していると、やはり秋葉原、きっちりありました。

中では香港オリジナルのAKBグッズを多数売ってるのですが、値段的には日本と変わらないレベル。おそらく、地下鉄の運賃とかから予想する香港の物価を考えると、現地の人からしたら結構高値になるんじゃないかと思われます。

店内は香港の熱心なAKBファンなんかがチラホラといて心地良い雰囲気。僕もいくつか香港限定のAKBグッズを購入し、レジの女の子が少し日本語を話せる感じだったのでしばしAKB談義。なんでも香港ではまゆゆが人気あるみたいです。

さて、そんなこんなで暇を潰すこともでき、日もどっぷりと落ちたわけなのですが、なんでも香港ってのは夜景が綺麗らしいのでそれを見に行きます。

このように美しい夜景が広がっているわけなんですが、なんでもビルの所有者たちと香港観光局が協力しているらしく、毎日夜8時になると夜景イベントが開催されるらしいんです。

時間になると音楽が流れ初めて、それに合わせてビルのライトアップが変化します。安室奈美恵みたいなビームがガンガンビルから放出され、なかなか圧巻な感じ。この素敵な夜景を見ようと、日本から来たカップルが山盛りで人だかりを作ってました。たぶん帰ってセックスするんでしょうね。「ホンッ!コンッ!」とか喘ぐんでしょうね。

そんなこんなでフェリーに乗ったり、訳分からない通路を歩いたりしていると、何やら福山雅治みたいなカメラを抱えた人や、すごい天体望遠鏡を抱えた人が多数、夜の空を観察しています。なんでも今日は月食の日らしく、どうも皆がそれに夢中の様子。

僕も月食を見ようとしばらく月を眺めていたのですが、あまりの寒さに諦めてスラム街のホテルへと帰りました。まあ、ホテルに帰っても暖房効かないんで寒いことには変わりないんですけど。

しかも、部屋に帰るとまんま朝の状態で、全く電源が直ってなくて部屋の電気すらつかない状態、さすがにこれは酷いっていうんで1階まで降りていってフロントまで行き、なんか豪鬼みたいな名前の女優さんに似ているショートカットの従業員さんに英語で文句を言うのですが、あまりに僕の英語が酷くて全然通じない。最終的には「電気がないから石器時代」みたいな絵を書いてなんとか理解してもらえて、部屋の電気直してもらいました。

さて、いよいよ明日は競馬場に行ってカレンチャンだ。と意気込みつつ、ウンコをするとここで大問題が発生。部屋のトイレは寒すぎて嫌なので、下の階の食堂みたいな場所でウンコして、昼間に食った麺とかが思いっきりウンコになって出てきたわけなんですが、このウンコが流れない。

別にウンコがでかすぎて流ないとかそんなわけでもないんですけど、画像を見てもらえると分かるとおり、ウンコを流すためのレバーみたいなのがどこにも見当たらないんです。今落ちついて見ると、中央に銀色のボタンみたいなのがついてて、ここ押せば流れるんだなってわかるんですけど、この時は全然わからなかった。

ふいー、ウンコしたぜって出したばかりのウンコをほれぼれと見つめて、さあ、流すかって感じでレバーを探すのだけど見当たらない。タンク周りとかツルっとしててレバーらしきものが存在しない。

なるほどね、これはあれですな、最近流行りの横の方にボタンがあって、そこで流すタイプのやつですなって横の壁を見るんですけど、ツルっとした壁があるだけで何も存在しない。もうパニックになっちゃいましてね、そういう文化なのかもしれないと大便ブースの外に出たりして流すレバーを探したんですけど、それでもやっぱり見当たらない。

便器の中に誇らしげに鎮座する大便様を眺めてどうしたものかと途方に暮れちゃいましてね、このまま放置して逃げてやろうかと考えたんですけど、ここは日本ではなく香港です、当然ながら文化が違うわけで、もしかしたらウンコをしたまま放置ってのが香港では死刑レベルの重罪かもしれないじゃないですか。

あのですね、ウンコ流さず死刑とか末代までの恥ですよ。むしろ僕が末代ですよ。とにかく、死刑になったらかなわんってことで、とりあえずトイレットペーパーをファサッとウンコの上にかぶせて隠して、フロントまで走ります。また豪鬼みたいな従業員だったんですけど、なんとか焦りながらウンコが流れないことを英語で説明します。

なんか「流れる」っていう単語が分からなかったので、「ウンコ、サラサラ」みたいな感じのことを言っていた気がします。それって下痢ですからね。でまあ、死刑になってたまるか、と、なんとか身振り手振り、決死の英語で伝えると、豪鬼のやつ。

「OK」

みたいな感じで理解してくれた様子。おお、伝わった。よかったウンコが流れる。きっとこの豪鬼がウンコをなんとかしてくれる、とそれにしても言葉なんて飾りだな。本気でコミュニケーション取ればどんなに異国であろうと英語が出来なかろうと、伝わるものだ。コミュニケーションって大切だよ。ホント、伝わってよかった、と安心していると何やら紙を手渡されました。

なに、この紙にウンコの流し方とか書いてるの?と思って開いてみると、そこにはホテルの無線LANにスマホとかを接続するときのIDとpassが書いてありました。全然伝わってない。なんでウンコ流ないって話が無線LANに繋ぎたいって話になるんだ。

もうええわってことでウンコを放置して、せっかくなのでスマホを無線LANに繋いでネットを楽しみ、部屋に帰って寒い寒いと震えながら眠りにつきました。ちなみに、朝起きたらまた部屋の電源が全部落ちていた。

つぎはいよいよカレンチャンだ!

つづく


3/1 香港ラプソティ-前編-

僕はね、辛かったんですよ。辛かったんです。

人はね、裏切られるよりも裏切ることのほうがずっと辛くて苦しい、恥ずかしながら最近になってやっとそのことに気がついたのです。今日はそんなおはなし。

何でも今年は皆既日食が来るらしく、ちょっとした天体観測ブームを当て込んでるのか、ちょっとしたホームセンターとか行くと狂ったように天体望遠鏡とか売ってるんですよね。今年は皆既日食!天体望遠鏡!とか、いっときますけど、そんな天体望遠鏡で太陽覗き込んだら目が潰れますから。見えないものを見ようとして本当に見えなくなりますから。

よくよく考えてみると、僕が小学生くらいの時だったでしょうか。皆既日食ではありませんでしたが同じように日食で騒いでいた時期がありましてね、それこそ遠い遠い昭和の時代のお話なんですけど、テレビなんかでも盛んに取り上げて結構盛り上がっていたんです。

そうなると子供たちの間でも日食を見ようぜ!みたいな機運が盛り上がってきまして、みんなで連れ立って自転車に乗ってどこかの高台に移動していっちゃんたんですね。その時、僕はウチが貧乏なんで自転車を買ってもらえず、一緒に日食を見に行くことができなかったんです。

でまあ、嘆いても仕方がないので良く行ってた駄菓子屋さんにビックリマンチョコでも入荷してねえかなって感じでフラリと立ち寄ったんです。もし入荷してたら全財産使って買い占めてやるくらいの意気込みで200円くらいを握りしめて行ったと思います。

すると、駄菓子屋のおっさんも日食に夢中で、ガラスにススを付けて太陽を観察しやすくした手製の日食観察グラスを自作して、店そっちのけで日食を見てたんです。いい歳したおっさんがぎゃあぎゃあ言いながら軒先で太陽を観察してるのも結構シュールな光景でした。

このおっさんが少し変わってる人でして、普通、駄菓子屋って死にそうな婆さんとかがやってるもんなんでしょうけど、なぜか30代中盤くらいのけっこう若い人がやってたんです。おまけに、駄菓子屋なんて今にも潰れそうな汚い場所とかで営業してるのが普通なんでしょうけど、何もなかった場所に小奇麗な建物を建てて営業を始めたんです。

おっさんはあまり商売っ気がなく、むしろ僕ら子供と会話するのが好きらしく、何でもない会話を沢山しました。学校のこと、親のこと、友達のこと、中にはチンコに毛が生えてきたことを相談したやつまでいました。そしていつも優しく、的確なアドバイスを僕らにくれたのです。彼は僕らにとって近く優しく、そしてとてつもなく大きな存在だったのです。

その日もおっさんはいつもの調子で手製の日食グラスで夢中になって太陽を観察しながら、「今日はどうしたー?みんなと日食見に行かないのか?」とかなんとか優しく話しかけてきます。いつもはこの駄菓子屋に多くの子供が集まっているのですが、今日ばかりは日食の観察に夢中で誰も店に寄り付いていませんでした。

「お、太陽が欠けてきたぞ!」

店の外に出て太陽を見つめるおっさん。肉眼で見ると普段と変わらない太陽でしたが、どうやら日食グラスで見ると違うようです。よほどエキサイティングなのかおっさんは半分くらい口を開けて日食グラスを覗き込んでいます。

「みてみるか?」

夢中で日食を独占し続けるのも大人としていかがなものか、とでも思ったのか思い出したように僕の方に向き直り、笑顔で日食グラスを差し出すおっさん。僕自身、日食に対して特段の興味はなかったのですが、まあ、あおこまでされたら少年のような無邪気さで覗き込むしかありません。

「あ、ほんとだ、太陽が欠けてる」

見ると、ほんのちょこっとですが太陽の端っこが申し訳程度に欠けていました。あるべきものが完全な形でそこにはない。なんだかこの世の常みたいなものに裏切られたような奇妙な感覚を覚えました。

けれども、それ以上見ていても別に太陽が爆発するわけでもありません。早々に飽きてしまった僕はおっさんに日食グラスを返し、興奮冷めやらぬといった状態で再度日食グラスを覗き込むおっさんを尻目にフラフラと駄菓子屋店内へと入ったのです。

すると、衝撃的な光景が飛び込んできたのです。誰もいない店内のレジの上には、ケースに入ったビックリマンチョコが神々しい光を放って鎮座しておられたのです。ハッキリ言って心臓の高鳴りを抑えることができませんでした。

この店は、いつもビックリマンチョコが入荷すると店の奥に大切にしまわれ、一人三個までとか入荷数に応じて決められた制限数の範囲内でおっさんにお願いし、購入させてもらえるというスタイルを採用していました。そんな面倒なスタイルであっても入荷、即完売するほど当時のビックリマンチョコは大人気でした。

その宝石のごときビックリマンチョコが箱に入った状態で目の前に存在するのです。買えてしまう、今日のように客がいない日はいつものように購入制限がないかもしれない。現に、この箱もしっかり60個入った状態で存在している。下手したら今日は青天井で買えてしまうかもしれない。

おまけに、この箱に入った完品の状態で買えるというのが凄まじい。僕らの間では、箱の左側列の後ろから4番目の品にヘッドシールが入っている確率が高い、というのが定説だった。いつもはおっさんが店の奥から持ってくるものしか買えず、ランダム購入状態だったが、これなら伝説の位置も購入できてしまう。ヘッドシールが手に入ってしまう。

「おじさん、ビックリマン買うよ!」

そう言おうと、店の外で今も日食に夢中なおっさんに声をかけようとしたその瞬間でした。途方もない考えが僕の頭の中に浮かんだのです。

これ、盗めるんじゃ?

確かに今日はいつもでは考えられないボーナスステージ。一人三個までしか買えないビックリマンを青天井で買える可能性があります。しかし、青天井といっても今の僕は200円くらいしか所持していません。30円のビックリマンを6個しか買えない計算になります。

いくら位置を選んで購入できるとはいえ、6個ではヘッドシールを引き当てられない可能性の方が高い。そう考えるといささかリスキーな賭けになると言わざるを得ません。

それだったら、いまここで箱ごと盗んだほうが早いんじゃないか。いつもビックリマンを箱買いする金持ちお大臣のクソガキの話によると、ビックリマンは必ず箱に1枚はヘッドが入ってるらしく、当たりの箱だと4枚は入っているらしいです。ここで、箱盗みをかませば間違いなくヘッドを手に入れられる計算になります。あまりの思いつきに自分自身がビックリでした。

けれどもね、盗んでどうするんですか。ここでゴソッと箱を抱えて店の外に出る。するとどうなりますか、いくら日食に夢中とはいえ店のおっさんが外に構えています。その横を箱を抱えて通過するなんてことは現実的ではありません。

では、あらゆるポケットに押し込んで盗むか。それなら10個くらいは盗めるだろう。おっさんの横を難なく通過することもできるだろう。けれども、残った箱はどうなるだろうか。完品状態から10個も品が抜けたら日食レベルの物足りなさじゃあない。さすがにおっさんと言えども気づくだろうし、すぐに僕が犯人だという結論に至るだろう。

現実的には盗めるのは1個くらいじゃないか?

1個くらいなら盗んでもばれないだろうし、その後に正規のルートで6個購入すれば7個手に入れることができる。これならなんとかばれずにいられる最低ラインじゃないだろうか。いく、1個盗むしかない。それも伝説の位置のやつを盗んでやる。チラリと店の外のおっさんを確認しました。まだ日食に夢中のようで完全に隙だらけ。後ろから刺すことすら可能なほどに隙だらけ。いける!盗むしかない!

そう決意し、ビックリマンの箱に手を伸ばした瞬間、日食が最高潮に達したのかフッと店の外が暗くなりました。まるでそれが闇の面へと堕ちた僕の心を象徴しているかのようで、小さな心をギュッと締め付けました。そして興奮したおっさんの間抜けな「うおっ!」という声が店の外から聞こえてきます。

これを盗んだら、僕はおっさんを裏切ることになるだろう。僕ら子供を信頼し、盗みとか悪いことをする子供はいない、と心から信じてくれていることが普段の言動からも伝わってくるおっさん、そのおっさんを裏切ることになるのです。

ビックリマンに手を伸ばしつつ、おっさんの笑顔や、内緒でラムネをおまけしてくれたこと、遠足のおやつを一緒に選んでくれたこと、様々な思い出が頭の中を駆け巡ります。僕はそのおっさんを裏切ろうとしているのです。たかが30円のチョコとシールのために。

裏切るなんてことはこの世ではありふれていることだ。人と人との関係なんて裏切るか裏切られるかしかありえない。信じていれば必ず裏切られるし、こんな幼い僕だって親や友達に沢山裏切られてきた。大人であるおっさんならもっと多くの裏切りを経験しているはず。僕の裏切りなんて取るに足らないものだ。そうに違いない。

でもね、ダメだったんですよ。僕には盗むことができなかった。自分を信じてくれている人を裏切ることなんてできなかった。僕を信じてなくて、盗むものだと思い込んでる弟とかの金を盗むことには何ら抵抗がなかったけど、自分を信じてくれている人を裏切ることだけはできなかった。

思うにね、裏切られることってすごく辛く悲しいことなんですよ。でも、裏切られた時はその裏切った人間を恨むことができる。怒ることができる。誰かに愚痴ることだってできる。けれどもね、自分が裏切った時ってもうどうしようもないんですよ。感情の持って行き場がない。

裏切られることは悲しいことだけど、それ以上に裏切ることのほうが悲しい。そう考えると僕はビックリマンに手が出せなかった。ここで裏切ったら日食のように何か大切なものが欠けてしまうかのように感じた。

「今の日食すごかったぞ!」

どれだけ葛藤していたのかは分からない。いつの間にか日食の最盛期は終わり、外はいつものような明るさを取り戻していて、おっさんも間抜けなトーンで大声を出していた。

「マジで!?僕にも見せてよ!」

半分手にしていたビックリマンを箱に戻し、外に出ておっさんと二人でまだ残る日食の熱気みたいなものを楽しんでいた。その日、おっさんは特別だよ、みんなには内緒なって200円でビックリマンを8個売ってくれて、その中にヘッドシールも入っていた。

あれから20年以上の時が経った。僕はあの時の裏切られることより裏切ることのほうが悲しい、という教訓を胸に生きてきたつもりだった。そう、つもりだった。あんな事件が巻き起こるまでは。

カレンチャン、という馬がいる。JRA中央競馬会に颯爽と現れた短距離牝馬(メス)だ。画像を見て頂けたらすぐにもで分かるだろうが、かなりカワイイ馬だ。僕は勝手にカレンチャンのことを競馬界の佐々木希と命名している。なんだよ、競馬の話かよ、わかんねーよ、と思う人もいるかもしれないが、我慢して聞いて欲しい。これは競馬の話ではない。愛の物語だ。

カレンチャンとの出会いは、東京競馬場だった。次のレースはどの馬を買うかなーと競馬新聞を眺めていると、他の強うそうな名前の馬に混じって「カレンチャン」などという異様にカワイイ名前の馬名が目に飛び込んできた。戦績を見てみると悪くはない。そのレースでも一番人気のようだった。

僕は迷わず、カレンチャンに持っていた全財産を賭けた。こんな大胆に賭けたのは初めてのことで、レース中は足が震えた。カレンチャンは見事に人気と、僕の全財産の思いに応えてくれて1着となり、賭けた金は4倍くらいになって帰ってきた。その瞬間、僕はカレンチャンの虜となった。

ここに輝かしいカレンチャンの戦績を記す。

2011/02/19 京都 山城S(1600万下) 1着
2011/04/09 阪神 サンスポ杯阪神牝馬S(G2) 1着
2011/07/03 函館 函館スプリントS(G3) 1着
2011/08/28 札幌 キーンランドC(G3) 1着

勝ち星を重ねるカレンチャンは本当にかわいく強く、僕もカレンチャンが出走するたびに全財産を賭け、その度に増えて帰ってきていた。そしてついに運命の日はやってきた。

2011年10月2日 中山競馬場 スプリンターズステークス(G1)

競馬が分からない人にはピンとこないかもしれないが、ついにカレンチャンが最高グレードの大レースに出走することになった。もう出走できるだけでも凄いというG1レースに出走することとなったのだ。

もちろん、この大舞台でもカレンチャンに全財産、それどころか応援してきた娘の晴れ舞台だ、サラ金から借りてきてでも大量の金をぶち込むべき、それが僕とカレンチャンの間に生まれた絆だ、などと思ったのだけど、事態はそう簡単なものではなかった。

シンガポールの怪物、ロケットマン、来日。

このスプリンターズステークスはさすが最高グレードのレースだけあって、国際レースという位置付けがなされている。つまり、日本国内だけではなく、世界から有力な馬を招待して出走させている。別にたいした馬はこないだろうとタカをくくっていたのだけど、蓋を開けてみるととんでもない怪物が来てしまった。

ロケットマン。シンガポールの短距離馬。シンガポール国内の短距離G1を総なめにし、国際レースでも活躍を続ける。21戦17勝負けた4回も全部2着という3着以下になったことがないという化け物っぷり(当時)。ふかわりょうではない。

こいつは化け物だって思いましたね。先ほどカレンチャンが競馬界の佐々木希だっていいましたけど、いうなればこいつロケットマンは競馬界のレディーガガです。もし、レディーガガと佐々木希が殴り合いをしたらどうなるか。たぶん、レディーガガが勝つと思います。

僕はあっさりとロケットマンに乗り換えた。あれだけ信頼し合い、培ってきた僕とカレンチャンの絆をあっさりと破り捨て、僕はロケットマンにぶち込んだ。さすがにロケットマンに全財産はやりすぎなので、香港から来たラッキーナインというこれまた強い馬に残った金もぶちこんだ。

そこからの僕はひどいもんで、

「ロケットマン強すぎる」

「カレンチャンはまだこの大舞台で勝てる器じゃない」

「カレンチャンには申し訳ないが、ここはロケットマンだよ」

「そもそもカレンチャンはそんなに強くない。相手に恵まれただけ」

などと、カレンチャンを貶め出す始末。もう目も当てられない。心無しか、パドックで見たカレンチャンは悲しそうな目をしていた。

そして、ついにG1、スプリンターズステークスが始まる。僕はこのレースを始発で競馬場まで行き、第四コーナーの最前列という特等席で観戦していた。ビービーガルダンという馬がレース前にゲートを飛び出し、騎手を振り落として3週くらい走って競争除外になるというパフォーマンスで会場の熱気は最高潮に達し、いよいよレースが始まった。

1着 カレンチャン
2着 パドトロワ
3着 エーシンヴァーゴウ
4着 ロケットマン
5着 ラッキーナイン

ロケットマンは馬群に沈んだ。ラッキーナインも馬群に沈んだ。それと同時に 僕の全財産も消え去った。それ自体は構わないのだけど、問題は勝ったのがカレンチャンだった、ということ。

これには凹みましたね。本当に、ちょっと30分くらいその場から動けなくなるくらいに落ち込みました。別にいつものようにカレンチャンに全財産賭けてたらすごいことになってたとかそんなのを悔やんでいるわけではありません。問題は、なんでこんなにも頑張ったカレンチャンを信じてあげられなかったのか、それに尽きるのです。

僕はカレンチャンのことを裏切った。僕がカレンチャンを信じ、持っている全財産を全てを君に賭けると誓い、カレンチャンもそれを信じて頑張っているはずだった。しかし、僕はそんな彼女を裏切ってロケットマンとかいう、良く分からないふかわりょうみたいな、文字通りどこの馬の骨だよみたいな馬に思いっきりぶっこんでしまったのだ。

カレンチャンはどんな気持ちだったろう。悲しかったんじゃないだろうか。それでもカレンチャンは頑張り、ついにG1レースを制覇したのだ。けれども、僕はそんな彼女を信じることができず、裏切ったのだ。あれほど裏切られることより裏切ることのほうが辛くて苦しいってわかっていたはずなのに、僕はカレンチャンを裏切ったのだ。

裏切りという十字架は、辛く重く僕にのしかかるだろう。もしかしたら一生許されないかもしれない。けれども、僕はこの十字架を背負い、それでもカレンチャンを応援していきたい。もうあんな思いは御免だ。僕はずっとずっと裏切ることなくカレンチャンを応援し続ける。それが世界の果てであろうと応援に行こう。いくら金がなかろうと全財産を賭けて見せよう。もう僕は彼女を裏切らない。ハズレ馬券舞い散る中山競馬場で、僕はそう決意した。

それから数ヶ月、衝撃的なニュースが舞い込んできた。

カレンチャン、香港スプリント招待を受諾

カレンチャンが香港で開催される国際スプリントG1レースに招待されたのだ。カレンチャンはスプリンターズステークスであのロケットマンに買った馬ということで世界での評価も高まり、スプリンターズステークスに招待されたロケットマンやラッキーナインのように、世界の強豪として招待されたのだ。

ずっと追いかけてきていたカレンチャンが世界の舞台へ。ということで。

いてもたってもいられなかった僕は、なぜか香港にまで来てしまっていたのだった。もう裏切らない。ここ香港でもカレンチャンに全財産賭けてやる、そんな決意を胸に。

つづく


1/12 ヒューレイフソン培地

「それはまるで夏の日のシャワーのようだね」

あまり親しくない人ととの会話、特に職場の女子社員と会話していると、どう言ったらいいのか分からない、どう対処していいのか分からない、道路で明らかに人糞としか思えないものを踏みつけてしまった時のような、なんとも困惑した表情をされることが多い。平たく言うならば困り顔というやつだ。

これは何も、僕からモルボルみたいな凶悪なブレスが出ているわけでも、喋りながらスプリンクラーの如く唾液が飛散しているわけでもない。いや、全くないとは言い切れないし、たぶん臭いんだとは思うのだけど、主たる要因はそこではない。問題は会話の中に「比喩」や「例え話」を多用する部分にある。

実は日記の冒頭からココに至るまで、既に4回も使用しているのだけど、僕は日常の会話においても比喩や例え話が多い。別にそれ自体は問題がないのだろうけど、僕の場合はその比喩が逆に分かりにくいらしく、しばし混乱を招くことがある。

一般的に、こういった比喩や例え話というのは、分かりにくく伝達が困難と思われる事象を分かりやすくし、円滑にコミュニケーションを図るために用いられる。複雑怪奇な現象を単純な話に置き換えることが多いだろうか。

例えば、仕事上の恐ろしい強敵がいて、この人を説得しないと自分の部署どころか会社全体が死に瀕するという危機的状況があり、誰がその強敵に立ち向かうか相談した結果、その強敵に徹底的にやり込められて精神病みたいになった人が多数いる前例を踏まえて、精神的に病まないだろう、病んで死んでも会社的にあまり痛手ではない、むしろ病んで欲しい、といった様々な理由で、なぜか僕が生贄として差し出されることになり、ちょっとビビりながらその強敵に対峙すると、貴様では役不足とばかりその強敵の手下みたいな人が数人出てきて、なんだ、この手下なら弱そうだし楽勝じゃねえか、俺が全部蹴散らし、その勢いで本丸もぶっ倒してやるわ、とか思ってちょっと余裕かましてたら、その手下の時点で手に負えないレベルの強さで、ボロボロにされて死亡遊戯、泣きながら遁走したという大変いたたまれない事件があったのだけど、この悲しき事件を説明しようとするとすごく複雑だし長いし分かりづらい。こんなもんキャバ嬢だったら話の途中で髪を指でクルクル巻き出すレベルのエピソードですよ。

けれどもね、それもこれも例え話を使うと一発ですよ。この複雑怪奇、それでいて泣けるストーリーをどう一発で伝えるか。もう簡単ですからね。「サイバイマンとヤムチャ」これで一撃ですよ。ほとんどの人に一瞬で伝わるし、それと同時にあのヤムチャのボロ雑巾のような悲しい姿が連想され、どれだけ僕が切なく悲しかったのか、胸が痛い惨劇だったのか、その心情すらも同時に伝えてくれるのです。

こうやって比喩や例え話、メタファーなんかはとても便利で、表現の幅を広げることに一役買っており、コミュニケーションを円滑にするツールなわけなのだけど、しかし、そこには一つの重要な必須項目が存在することを忘れてはいけないのです。

件のサイバイマンとヤムチャもそうですが、これ、ほとんどの人にちゃんと伝わるとは思うのですが、例えば生まれた時から旧家の遺産相続争い巻き込まれて親族の手によって地下の座敷牢みたいな所に幽閉されていてドラゴンボールを知らずに育った人、ですとか、そうでなくてもドラゴンボールなんて知らない、なんて人には絶対に伝わらないんですよね。言うなれば、伝える方と伝えられる方、相互の共通認識、これが例え話には必要不可欠なのです。これがなければその例えは途端にコミュニケーションツールとしての役割を失い、B'zが出てきてもおかしくないレベルでバッドコミュニケーションになるのです。

冒頭の文章について考えてみましょう。「それはまるで夏のシャワーのようだね」これは職場の女子社員との会話中に僕が発した「例え」なわけなのですが、これが全然彼女には伝わらなかった。一見すると、汗だくに暑い夏に浴びるシャワーのように爽快でスッキリサッパリ、そんな表現のように思えますが、それならいくら彼女がバカでヤリマンといえども伝わっているはず。この表現にはもっと別の側面があるのです。それでは実際にその時の会話を見てみましょう。

「ワタシのカレシがあ、パチンコに夢中でえ」

「へえ、そんなに夢中なの?」

「もう毎日っていうか、朝から並んでる」

「彼氏がギャンブル狂いだからウンザリなの?」

「いや、別にそれはいい。ただ、オシャレだったのにどんどんパチンコ屋おじさんたちみたいな風貌になってきた」

「なるほどね、周りに同化してきたんだ」

「もうオッサンにしか見えない」

「それはまるで夏の日のシャワーのようだね」

これでポカーンですよ。この頭がサナトリウムみたいな彼女もポカーンですよ。なんでこの小粋な比喩がわからないんですか。絶対におかしいですよ。とか思ったのだけど、ここに書き出して共通認識という観点で考えてみると、これはポカーンとならざるを得ないですね。

この表現は、いつの間にか周りの環境に同化してしまう様を表したわけなのです。懸命な閲覧者様ならご存知だとは思うのですが、僕はよくガス代とか電気代を滞納して止められちゃうんですよね。そうなると、シャワーがすごい困難で、水道は出るんですけどガスがないから冷水が出る。いくら夏とはいえ本気の冷水ってかなり冷たいですし、心臓麻痺的な危険が伴うんですよね。

けれども、ガス止められた状態でシャワー使ったことがある人ならご存知たとは思うんですけど、夏って暑いじゃないですか、やはりかなり暑いですから、水道管の中で待機している水たちはけっこう温まってるんですよね。それこそ熱湯って訳にはいきませんが、ぬるま湯程度には温まってる。まあ、3秒も出せばそのぬるま湯もストックがなくなってしまい、まるで世間のような冷たさの水が勢い良く出てくるんですけど。つまり、冷水が嫌な僕はその神が与えた熱量を利用して、わずか3秒に賭けてシャワーを済ませるのです。

そういった事情を踏まえて、水道管の中の水が周りの暑さに同化して熱量を持ち出すことを、パチンコ屋でオッサンに同化していく彼氏の例えとして用い、さらにはそのシャワー3秒に賭ける刹那な生き様をギャンブラーの生き様に投影させた高度な表現だったのですが、彼女には全く伝わらなかったのです。

でもね、これって彼女が悪いんじゃないんですよ。確かに彼女はヤリマンですし、頭の中サナトリウムですし、巨乳のくせに露出の低い服を着てますし、こう、折角巨乳なんですからもう放り出すレベルでボルルンって感じの服を着てですね、どうです?触ってみませんか?とか自らオススメするくらいの気概が欲しい。おっぱい触りたい。

とにかく、彼女は悪くなくて、この表現、ガスとか止められて冷水の風呂に入らざるを得なくなった人にしか分からない表現なんですよね。僕のように、電気と水は生きてるので給湯ポットで沸かしたお湯で風呂入った経験がある人とかでないとちょっとこの夏の日のシャワーはピンとこない。

問題はどれだけ共通認識があるかで、その如何によって伝わりやすさが異なってくるのだけれども、それじゃあ誰にでも分かりやすい事柄を比喩として用いて多くの共通認識を目指すってのが普通だと思うのだけど、往々にしてそういった事象はインパクトが小さく、伝わったとしても衝撃が少なく印象に残らない。マニアックで、とても共通認識は得られないだろうという自称の方が、伝わりにくいかもしれないけど伝わった時のインパクトは絶大だ。

そういった意味ではとても伝わらないようはレベルの比喩を用いるのは一か八かの大勝負、良質のコミュニケーションを得るために常に勝負しているとも言える。

けれども、やっというか何というか、この年になって嬉しいやら恥ずかしいやらなのだけど、そういったリスキーな勝負としての比喩ではなく、情報を伝えるためだけの比喩でもない、そんな比喩が存在することにやっと気がついてしまった。それが表現としての比喩だ。

村上春樹の文章に、以下のような表現がある。「街路灯は同じ間隔をたもちながら、世界につけられた目盛りのようにどこまでもつづいている。」(海辺のカフカより)

僕はこの表現を見た時、なんとも言えない衝撃を受けた。単に街路樹がずーっと等間隔で立っていただけだ。それをそう伝えればいい。どう考えても「世界につけられた目盛りのように」といった比喩は不要なのだけど、なんだろう、これはこれで美しい。手放しで美しい。

この世の中に等間隔で街路樹が立っていると言われてピンとこない人はほとんどいない。世界につけられた目盛のようにと言われて、ああ、等間隔ね、と初めてピンとくる人もいない。そういった意味では、この比喩は情報伝達としての役割を全く果たしてはいない。

じゃあ何でこの表現は存在しているのかというと、単純に文章を飾る装飾としての役割で、情報を伝えるわけではなく、文章を美しいものに昇華させている、それだけなのだ。あってもなくても構わない、けれどもあると美しい、そんな表現が存在することにこの年まで全く気がつかなかった。ということで、今回はそういった表現を意識して、比喩表現さを痛感した事件の顛末をしたためてみたいと思います。どうぞ。

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痔だ。

どうにもこうにも尻の穴が痒くて仕方がない。まるで尻の穴の周辺で地域の祭りが催されているんじゃないかと思うほどに尻の穴が痒い。いや、痒いのは今に始まったことじゃない。もう何年も前からずっとずっと、僕は尻の穴が痒かった。

人間は欠陥の多い生き物だ。多くの生き物は合理的に進化し、その弱点を世代を重ねることで克服していく。それは言い換えれば、非合理的な個体の淘汰だ。進化とは淘汰の輪廻にほかならない。けれども人間は知能を発達させ、便利な道具や理論を数多く発見してきた。それは非合理な部分もカバーし得る万能さで、非合理なものは淘汰されなくなった。

人類は、弱点を進化ではなく合理化で克服する道を選んだのだ。その代償としてウンコの後に尻を拭く、という行為を支払っている。言うまでもなく多くの人類はウンコをした後にトイレットペーパーで尻を拭く。そうしないと気持ち悪いし、そのうち痒くなってきて大変なことになる。これは明らかに人類が進化仕損なった弱点であると思う。

例えば、古代から人類がウンコした後に尻を吹かずに生きていたとしたらどうだろう。おそらく、尻が不潔になりやすい構造をした個体は感染症などで死に絶え、代を重ねるにつれてウンコをしても尻が汚れない尻の穴構造をした人類だけが生き残る。今頃はきっと、ウンコをするときにパカッと尻の穴が開いてぽとっと落として、また尻の穴が畳まれて格納されるような構造に進化していたに違いない。もしくは、尻の穴を汚さないようなウンコを出す生物に進化していたに違いないのだ。

けれども、どこの時代かは定かではないけど、誰かが尻の穴が痒い状態を避けるために拭く、という行為を発見してしまった。そこからが人類の悲劇の始まりである。人類は尻の穴を変化させることを諦め、その辺の葉っぱで拭いていたものが、紙に、さらに柔らかい紙に、果てはウォシュレットへと、尻を綺麗にする道具ばかりが進化してきた。

けれども、それは生物としての進化の放棄にほかならない。尻を拭かずに生きていれば今頃すごく便利な構造のアナルを手に入れていたはずなのに、それでも今日もウンコの後に尻を拭く、それは生命としての負け組の姿だ。

今からでも遅くないんじゃないだろうか。僕はウンコの後に尻を拭くことをやめた。確かにウンコをしたあとに猛烈に痒くなってアナルだけを取り外して爪を立ててゴリゴリと掻き毟りたい気分になるけど、それでもグッと我慢した。人類の進化のため、子孫の進化のため、敢えて僕は礎となろうじゃないか。

そんなこんなで、ウンコの後に尻も拭かず、ウォシュレットも使わず、ただただボンとウンコしてそのまま立ち去るという西部劇時代の凄腕ガンマンみたいな格好良さを発揮していたのだけど、そうなるとね、アナルに異変が巻き起こってくるんですよ。

ある時でした。今日もウンコしちゃうぜ、でも尻は拭かないよ、と意気込んでウンコをし、便器に残された産物を見た時、時間が止まりました。

ウンコが赤い・・・。

あのですね、茶色であるはずのものが赤い、これって凄い衝撃ですよ。職場のブスどもが「カンダタ」ってヤツのことを臭いとかキモイとか言って盛り上がってて、「カンダタ」って酷いニックネームだな、すごい悪口言われてて可哀想、とか哀れんでいたら、自分がその「カンダタ」だったって知った時くらいショックですよ。

とにかく、茶色であるべきものが赤ってのは大変なことで、上京したての女子大生が、垢抜けようと美容院に行って髪を茶色に染めようとしたら、赤に初められてパンクロック風になったくらいショックというか、別にこれはそんなにショックじゃないや、染め直せばいいし、よくわかんない、とにかくウンコが赤かった。

あまりにも恐怖を感じましてね、普段の僕は、ビックスクーターにまたがって夜な夜な暴走族の頭蓋骨を叩き割って廻ってる豪放な男なのですが、そんなワイルドマンもウンコが赤いのだけは大恐怖。泣きながらインターネットで調べましたよ。

インターネットの世界ってのは便利なもので、調べたらすぐに「肛門.jp」だとか「バーチャル肛門検診」だとかボコボコでてきましたね、そこでウンコが赤いことについて調べたんですけど、まずはその赤さがどの程度のものか、それによって症状が変わるようなことが書いてあったんです。

具体的に言うと、でっかいオニヤンマみたいなサングラスをかけた浜崎あゆみみたいな女が着がちなコートの赤みたいな色の出血、分かりにくいんでフォント色変えますけど、このフォントくらいの赤は新鮮な血ですから、肛門もしくは肛門付近の出血である可能性が高い。逆にちょっと色濃い目の22歳くらいの新卒の女の子の乳首の色みたいな色、分かりにくいんでこの辺のフォントくらいの赤黒さというか茶色さになると腸の中とかそんなレベルの体内的な要因になるらしい。

自分のウンコに混ざってた赤はどんな色だったかなって思い返してみると、どうも記憶の中にある血便はこのフォントくらいの感じなんですけど、さすがにそれはありえないのでもう一度頑張って血便を出してみたところ、やはりこのフォントくらいの赤さでした。

つまりは、肛門表皮もしくは肛門付近に何らかの異変が巻き起こってるんだろうってことで、ちょっと勇気を出して指で肛門をなぞってみた、まるでピアノを調律するかのようにそっとなぞってみたんですけど、なんかね、グロいんですよ。

いやね、普通、肛門っていうかアナルってヌラッとしてるじゃないですか。肛門のシワとかあるでしょうけど、全体的にバリアフリーなはずでヌラッとした平面であるはずなんです。少なくともこれまでの僕のアナルはそうだった。そうであるはずだった。けれどもね、なんか異常にゴツゴツとした突起の感触があるんです。それも一つじゃない。複数。

僕も薄々痔じゃないかなって思ってたんですけど、イメージ的にイボ痔って一個のイボがモロンっている感じじゃないですか。なのにこの手触りは何か違う。メガフレアのボコボコみたいな感じで無数のイボがアナルに存在してやがるんです。

これはどんな状態なのか視覚で確認しておく必要がある!って思ったんですけど、なんてことはない僕デブなんで自分で自分のアナルって見れないんですよ。仕方ないので、ノートパソコンに標準装備されているWebカメラみたいなのを駆使して確認したんですね。

35歳、今年で36歳になりますけど、ノートパソコンの画面の上に向かって腰を突き出してアナルをカメラに映そうとしてる姿は悲しいものがありましてね、原始の生物の求愛行動のような姿勢でノートパソコンにアナルを見せつけたのです。

そしたらアンタ、アナル周辺に無数の突起物が等間隔に、まるで世界につけられた目盛りのようにどこまでもつづいている。なんか比喩を間違えた気がするけど気にしない。

とにかく、せいぜい痔だろう、くらいに思っていたのだけど、こりゃ予想以上の何かが僕のアナルで巻き起こってると恐ろしくなり、急いで肛門科とか病院を調べたんですけど、いきなり肛門科ってのは野球初めてすぐにメジャーに挑戦するようなもんですから、肛門のスペシャリストとか揃ってそうで怖いじゃないですか。なので近くの病院の外科に駆け込んでみたんですけど、これが失敗の始まりだった。

まず、近くの病院の駐車場で自問自答ですよ。僕はこのアナルの異変を痔だと信じて疑わないんですけど、痔の症状的にこんなメガフレアみたいな状態はありえないんと思うんですよ。

それに、痔って椅子に座るのも苦痛なくらい激痛が走るイメージがあるじゃないですか。けれども血は出るのに全然痛くなくて痒いくらい。本当にこれは痔なんだろうか。そんな疑問が湧き上がってきたのです。

もしかすると、これは進化の過程じゃないだろうか。ずっと尻を拭かなかった僕のアナルが、拭かなくても良さそうな構造に進化した可能性がある。僕だけ他の人とは一段違う新しいステージの人類にアセッションされた可能性がある。などと考えていても猛烈にアナルが痒いのはどうしようもないので、大人しく病院に行きました。

病院の受付に行くと、けっこう流行ってる病院なんでしょうね、若い女性から死にかけの老人まで多種多様、カワイイ看護師さんが忙しそうにしてたりと、ザ・病院みたいな風景が広がっていたんです。

受付に行き、保険証を提出します。20代前半でしょうかカワイイ女性が保険証を眺めながらニッコリと微笑んでくれます。

「今日はどうされました?」

この瞬間、戦慄が走ったね。いやいや、別にアナルが痒いってカミングアウトするのが恥ずかしいとかそんなことは言わないですよ。こんなもん、今までの様々な失態に比べたら恥ずかしくも何ともない。むしろ誇らしいレベル。

何に戦慄が走ったのかというと、カワイイ女の子に合法的にアナルとか言えちゃうことに戦慄が走ったのです。あんたね、街で見かけるカワイイ女の子にアナルとか言ってごらんなさい、間違いなく通報されて御用になるから。けれどもね、ここでは普通に許される。こんな素敵なユートピアがありますか。

「いや、アナルが痒くてですね、ブフフ」

なぜかちょっと笑いながら言っちゃったんですけど、実に堂々としていたと思います。けれども受付の女性も動じる様子もなく、淡々と対応。この冷徹な対応がまた興奮する。

「他に症状はございますか?」

「あ、便に血が混じってます」

「痛みはないですか?」

「ありません、痒いだけです」

そんなやりとりを淡々と続けていたんですけど、そこで衝撃の質問が投げつけられたのです。

「どんな痒みですか?」

痒みにそんなに種類があるとは思えない。けれどもそう聞かれるということは、僕が知らないだけで色々な種類の痒みがあるのだろうか。ここでふとある考えが頭の中に浮かんだのです。

こういった質問がなされる以上やはりどんな痒さなのかってのは病気を見極める上で重要なのだと思うのです。それだけ、適切にこのアナルの痒みを伝えなければなりません。実際にこのカワイイ娘にウンコでも塗りたくってやって、痒くなってくるのを待って「そんな痒みです」と伝えられたらいいんですけど、さすがにそれってできないじゃないですか。

そうなると、痒さを伝えるために比喩を使うしかないんです。そして、前述したように比喩には共通認識を利用して情報伝達を行うための比喩と、文章を美しくするための比喩の二種類があるのです。そして、普通に考えれば情報伝達としての比喩を用いることがこの場合は絶対的に正しい。「アナルばかり集中的に蚊に刺されたみたいに痒い」こう伝えれば絶対に情報は伝わります。

けれどもね、少し考えてみてください。おそらく彼女は疲れてるんです。毎日毎日、患者さんのそういった情報伝達の比喩、機械的な比喩を聞かされているに違いありません。さすがにウンザリ、仕事を終えて家に帰れば彼氏が求めてきて、これまた機械的に「芳江のココ、洪水みたいになってる」と機械的手マンに機械的比喩、もうウンザリ!つまらない男!そう思ってるに違いありません。

ここは美しい比喩じゃないか?ここで美しい比喩を使うことによって「この人は違う」と彼女に思わせることができる。すると僕に対して興味が出てきて、そのアナルのブツブツ見てみたいなーって気持ちが芽生えてきて、まあ、おセックス的なことも可能かもしれないじゃないですか。ここはもう、綺麗で美しい表現を使うしかない。

「木の葉の緑ってよく見ると一枚一枚違う色なんですよね。それらの木の葉が風に吹かれてザワザワしてるのを見ると、まるで僕の緑を見てくれ私の緑を見てくれってそれぞれが自己主張しているように見えてカワイイんです。ええ、そんな感じでアナルが痒いでんす」

ほれ見たことか!なんという美しい表現!これにはさすがの彼女もウットリ、僕のアナルを見たくなってるに違いありません。そんなに言うなら別に抱いてやってもいいけど、どうだ、感動して言葉も出ないか。もう大洪水か。

「はい、それじゃあお呼びしますんで座ってお待ちください」

完、全、無、視。こりゃまいったなーって思いつつも自分の比喩は間違ってなかった。確実に美しかったはず、と言い聞かせながら待っていると名前を呼ばれたので診察室に入りました。

そこにおわしたのは見るからに偏屈そうなお爺ちゃん医師。なんか死にそうなくらいにヨボヨボで、診察中にご臨終しちゃうんじゃねえかってレベル。こんなヨボヨボの人に僕のアナルを預けるなんて不安なんですけど、凄い若い女医さんとか出てきてもそれはそれで恥ずかしいので良しとして丸椅子に腰掛けます。

「お尻の穴が痒いと」

爺ちゃんはこちらを見ずにさっき受付で書いていた問診表みたいなの見ながら喋ってるんですけど、なんか明らかにその口調が怒ってるんです。何故か怒りの口調で次々といつから痒いかとか痛くはないのか出血はどうかとか質問してくるんです。僕も怒られるんじゃないかってビクビクしながら答えていると、またもや禁断の質問が。

「どんな痒さだ?」

やはり痒さの種類ってのは重要みたいで、どういった感じで痒いのかを伝えなければなりません。とにかく、ここでも美しい比喩を使わなければならない、そう思ったんですけど、お爺ちゃんなんか怒ってますし、ちょっとボケてるっぽい感じなんで変な解釈で勘違いされて肛門の切除とかになったら泣くしかないので、ここはきちんと、情報伝達、共通認識による比喩を用いることにします。このご老人と僕の共通認識、と考えた結果、全然思いつかなかったので

「インキンみたいに痒いです、インキンが一番盛り上がってる時みたいな痒さです」

僕の中で男はみんなインキン、みたいな考え方があったので、これなら分かってもらえる、共通認識いけるって思って切り出したのですが、すげえご立腹されましてね。

「お前はバカか!」

ってすげえ怒鳴られちゃったんですよ。まさかアナルの治療に来て怒鳴られるとは思わなかった。しかも、それから爺さんの怒りのツボに入ってしまったらしく、インキンの痒さなんか分かるかっていう怒りのお言葉に始まり、クドクドクドクド長いこと説教。

アナル診てやるからズボン脱いでそこのベッドで横になれって言われたんで、アナル見やすいだろうと思って下半身裸になって女尻シリーズのポーズですよ。そしたら

「お前はバカか!横向きだ!」

と、どうやら横向きの体育座りの状態で良かったらしく、女尻シリーズの姿勢のまますげえ怒られました。

診察自体は普通で、やはり進化とかそんなんじゃなくて痔であるという結論で、アナルを不潔にしていたことが原因だったらしく、「何か心当たりあるか」ってキレながら聞かれたんで

「はあ、ウンコの後にお尻を拭かないからっすかね」

とかヘラヘラしながら答えたら、看守に逆らって懲罰房に入れられた囚人みたいな勢いで死ぬほど怒鳴られました。

「ウンコの後尻拭かないバカはじめてみたわ!」

とか烈火のごとく怒鳴られて、僕も、アナル丸出しの状態で

「いや、人類の進化が」

「ウチの猫でも尻拭くぞ!お前は猫以下か!」

「新人類はお尻を拭かなくて良いように進化を・・・。」

「お前はバカだ!」

結局、アナルを清潔にするように、ちゃんとウンコしたらお尻を拭くよう、と三歳児に諭すように教えられ、僕もちょっとあまりの怒られっぷりに半泣きになってました。そして医師は怒りながらも優しく僕を諭します。

「ラーメンを食べたらお金を払う、それと同じで大便をしたらちゃんと拭く、そうしないと治らないよ」

なに言ってんだこのジジイ、とか思いはしませんでした。すごく伝わったのです。一瞬で理解した。ラーメンを食べたらお金を払う、そんな当たり前のことを比喩として用い、尻を拭くことの大切さを教えてくれたのです。それでいて、ウンコをラーメンに例えるなんて美しすぎる。共通認識ができ、かつ美しい比喩、それこそが大切なのかもしれません。比喩を制することこそがコミュニケーションを制することなのです。

結局、痔を治すために人類の進化は諦めてウンコの後にお尻を拭くことにしようと思ったのですが、こう、なんていうかアナル周辺には突起物がまるで世界につけられた目盛りのように存在するじゃないですか。ボコボコしてて拭けないというか、拭いても拭き残しがあるんですよ。

これでは完璧に拭くことができず、さらに痔が悪化してしまう。困り果てた僕は職場のトイレがウォシュレットだったことを思い出し、思いっきりウォシュレットで洗い流そうとしたのですが、誰かが最強の水圧に設定していたらしく、殺人級の水流が痔を直撃し、今まで痛くなかった痔にとんでもない激痛が走り、トイレの個室内で本気の断末魔の悲鳴をあげて飛び跳ねてました。

何か破れた的な感覚と共に、大出血したらしく、内股をつたって真っ赤な鮮血が流れてくるんです。体温の恩恵で温かくなった鮮血の水滴が。それはまるで夏の日のシャワーのように。


11/26 ヌメリナイト3〜戦場のヌメリークリスマス〜

ヌメリナイト3〜戦場のヌメリークリスマス〜
日時:2011年12月24日(土)
open 17:00 start 18:00 / ¥2,500-
場所:TOKYO CULTURE CULTURE
イベントサイト

ということで、なぜかヌメリナイトがクリスマスイブのお台場に光臨ということで、そんなことより日記書けよって感じなのですが、サラッと堂々と開催されます。いつもはクリスマスイブはクリスマスラジオで、泥酔して醜態を晒すのが定番ですが、今年はヌメリナイトでpatoの醜態を目撃しましょう!もちろん、いつものクリスマスラジオでは禁制の女性、アベックもウェルカム!気になるイベント内容はこちら。

内容
・ヌメリークリスマス
・これまでのクリスマス
・Numeri流クリスマスの過ごし方
・Numeri流クリスマスの過ごし方2
・Numeri流クリスマスの過ごし方3
・豪華景品が当たる!Numeriカルトクイズ
・patoのリバウンド祭
・大塚愛のイデア
・童貞枠
・松嶋枠
(予定ですので変更になる可能性があります)

そして、今回は物販もさらに充実。当日まで一切極秘の禁断の物品が販売されます。乞うご期待!クリスマスイブはリバウンドpatoとお台場で握手!

 


10/6 ナインストーリーズ

夕刻の帰り道、遮断機を抜けると秋の香りがした。過ぎ去って行った夏は足早で、まるで心変わりしてしまった恋人のように、無慈悲に何も残さず消えていった。毎年のことながら夏の終わりを実感すると妙に心が急いてしまう。それは今年も例外ではなかった。

具体的に何に焦るわけでもなく、ただ漠然と心がザワザワする。上手くいかない仕事に、上手くいかない私生活、口うるさい大家の苦情にはいい加減限界がきている、焦る要素は沢山あるけれど、それら全てとは無関係にそんな小さな事とは関係ないレベルで夏の終わりは漠然と焦燥する。青き時代の終わりは果てしなく心にくるのだ。

どこか静かでどこか物寂しい、そんな住宅街を抜けてアパートに到着すると、ポストに1枚のハガキが挟まっていた。薄っぺらい電気料金の伝票と一緒に投げ込まれたであろう1枚のハガキはなんだか過ぎ去った夏を思い出させてくれるようだった。

それは絵葉書で、表面には達筆な筆文字で僕の住所が、裏面では綺麗な砂浜の写真が、電気もつけていないボロアパートの玄関先でも十分に分かるほど色鮮やかに存在感を放っていた。

原色のトロピカルな海、感触まで伝わってきそうな白い砂浜、海と同じ青なのにまるで違う透明感を持つ空、空気にまで色がついていそうなその写真は、まるで過ぎ去った夏の置き土産のようだった。夏への扉のようだった。

もう一度表面に返し、差出人を見ると親父の名前がこれまた達筆な文字で書かれていた。僕の住所と名前、差出人には親父の名前、書かれているのはそれだけで他に何のメッセージもなかった。

いつものことながら親父の行動は理解不能だ。何のメッセージもなく、こんなどこかの外国の絵葉書を1枚送ってきて何をしたいというのだろうか。いつもならすぐにでも電話をかけて何事かと問いただすところだが、ポッカリと心に穴が開いてしまっている今の僕にできそうにもない。投げるようにテーブルの上に置いた。

ゴミをまとめ、朝に出せるように玄関先に置いておく。こうしておかないと大家がうるさい。夜遅くなると大家がうるさいので洗濯機を回す。バタバタと日常の雑務を終えてパソコンの前に座り一息つくと、またあの絵葉書が妙に気になった。

机の上に手を伸ばし絵葉書を手に取る。この綺麗な砂浜は一体どこの写真なのだろう。よくよく見ると、写真だけだと思われた裏面の右下にはコピーライトの文字だろう、なにやら英語で書かれていた。その文字を頼りに検索にかけてみると、どうやらこの写真はバリ島の砂浜を映したものであることが分かった。

なぜ親父がバリ島の絵葉書を。全く分からなかった。うちの親父は頭おかしいキチガイで、なんかヒョコヒョコと落ち着きのないひょこひょこおじさんなのだけど、たまに意味深なことをし始めるから始末に悪い。もしかしたらこの絵葉書にも何か意味があるのかもしれない。ジャカジャカとうるさいテレビを消し、少しだけ親父と絵葉書、夏の日について考えてみた。

こういった絵葉書を親父から貰うのは初めてだけど、親父が絵葉書を買い、書いているのを見たことがある。そう、あれも確か夏の日だった。そしてその時も何もメッセージを書いていなかったように思う。確かにあの日、親父は絵葉書を書いていたのだ。

夏休みだった。小学校の夏休みは心踊るのとは裏腹に、暇との戦いだ。お金もない友達もいない宿題やる気もなければどこか旅行に行く予定もない、裕福な家庭でなかった僕は、とにかく暑さと暇さと戦っていた。その時にハマっていた遊びがウィリアムテルごっこで、ゴミ捨て場から拾ってきたダーツの矢を、弟に向かって投げるだけという、なんとも微笑ましい兄弟愛がそこにはあった。

泣き叫ぶ弟に、怒り狂う母親、その光景を見て親父は怒り狂った。うるさくて眠れん、静かにしろ!とまだ夜の7時だというのに布団に入り怒鳴っていた。当時、朝4時くらいにムクリと起きて仕事に行く親父のことを不思議に思っていた。朝4時に起きるために夜の7時には寝ていたのだけど、そんなに早く起きてどこに行くのだろうと不思議に思ったものだった。

親父に尋ねると、なにやら物凄く遠くまで仕事に行ってるから早起きなんだと言われた。暇で暇で仕方ないこの夏に心底ウンザリし、イライラを感じていた僕は、連れて行ってくれとせがんだ。仕事の邪魔をしないから連れて行ってくれとせがんだ。親父はしぶしぶ承諾すると布団の中に潜り、眠りについた。

次の日。朝4時に叩き起こされる。文字通り叩いて起こされた。夏で日の出が早いとはいえ朝4時は夜と言っていいほどに暗い。まさか本気にして早朝に叩き起こされるとは思わなかった。頭がグワンングワンするのを感じながら車の助手席に乗せられ、親父の軽トラックは、これから降り注ぐ夏の日差しに備えてるかのような冷たい街を滑りぬけていった。

3時間くらい経っただろうか。気が付くと、想像を絶する山の中にいた。僕自身田舎生まれの田舎育ちなんだけど、その田舎の中でもちょっとした街だった場所に住んでいた僕にとって、本当に想像を絶する山の中だった。人なんか住んでなくて神々くらいしか住んでないんじゃないかと思えるほどに緑豊かな大自然だった。

けれども、やはりこんな山奥にも人は住んでるみたいで、古ぼけた小学校がそこにあった。たぶん分校とかそんなものなんだろうけど、僕が通っていた小学校と同じくらいの規模の校舎だった。建設業を営んでいた親父は、どうやらこの小学校の工事を頼まれたらしい。夏休みで子供たちがいない間に工事しちゃおうっていうやつらしい。

緑に囲まれた小学校は魅力的で、他に工事に来ているオッサンたちも優しく、働く大人たちの傍らで校庭の遊具で遊んだり、裏の森で虫をとったりすっかりこの分校にはまった僕は、毎日親父についていくようになった。

朝4時に家を出発し、7時に分校到着。4時には親父の仕事が終わり、7時に家に帰りついて眠りにつく、その繰り返しだった。夏休み前はあれだけ嫌で行きたくなく面倒だった小学校に足しげく通う、それも規格外の早起きで。なんだか奇妙な感覚だった。

一度だけ貸切状態のプールに入る機会があった。基本的に小学校全体を改修しているので夏だというのにプールに水は張られていなかったのだけど、何かのテストという名目で水が入れられるらしい。そこで泳いで遊んでも良いと親父から言われた。

僕は大喜びで、物凄く綺麗で冷たい水が張られたプールに飛び込んだ。学校のプールだと、良く分からない様々な浮遊物や、たぶん中でしちゃったやつのオシッコとか混ざってるのだろうけど、何も混ざってない澄んだ水。しかも帽子をかぶれだとか、飛び込むなだとか、口うるさい筋肉ムキムキの体育教師もいない。水着なんて持ってきてなかったから、スッポンポンで泳ぎまくった。

水に漂うまだ剥けてない当時9歳の僕のチンチンはバナナのようで、さながらバナナフィッシュだ。時には優雅に漂い、時にはプールサイドでゆっくりと水面を眺める。小舟のほとりで佇むように、誰もいないプールに反射する太陽の光を楽しんでいた。

そうしていると、数人の地元の子供たちがやってきて、俺たちもプールに入れろと要求してきた。たぶん、夏の間、工事でプールが使えないのが不満だったんだろう、しかし遊ぶ場所もこの小学校周辺しかない。暑いなかやってくるとなぜかプールに水が張られ、訳の分からないガキがフルチンで泳いでいる。さぞかし驚いたことと思う。

そんな地元の子供たちの要求を、親父を含む工事関係者は快く承諾し、全員フルチンで泳ぐことになった。最初は僕も、向こうも人見知りしていたが、9歳の子供たちにとって仲良くなるのに理由はいらない。大人たちは理由がいるかもしれないが、そんなの関係なかった。

それからは、小学校に行くのがもっと楽しみになった。今まで一人で遊んでいただけでも十分に楽しかったのに、それを地元の子供たちと一緒にやるようになると途方もない楽しさだった。一緒に虫を捕り、川でも遊んだ。

そのうち地元の女の子グループと男子グループの対立みたいなのに巻き込まれたり、女の子グループのリーダー格の子に僕が恋をしたりもした。その子はリーダーを張るくらいだったから男勝りな性格だったけど、 愛らしき口もと、目は緑じゃなかったけど大きな綺麗な瞳をしていた。

夏休みも終わりに近づくと、何やら工事が間に合わないらしく、親父はその山奥の町に泊まり込みで工事をするようになった。小学校近くの民宿なのか民家なのか良く分からない場所に寝泊まり。もちろん、僕も無理を言って一緒に泊まらせてもらい、残り少ない夏を山奥で過ごす。

この当時、うちの母親は色々な疲れや、体の病気なんかに悩んでいて少し精神的に塞ぎ込みがちになっていて、僕と親父が山奥の町に長期間滞在することを快く思っていなかった。毎日、民宿に電話がかかってきて、早く帰って来いと半狂乱な感じで言われていて、僕も親父もちょっとまいっていた。親父は仕事だから仕方ないと言い、僕はそんな母親がいる家に帰るのがちょっと嫌だった。

滞在している間、地元の夏祭りに誘われて、そのリーダー格の女の子一緒に遊んでたりしていたら、同じように祭りに誘われ、地元青年団と酒を浴びるように飲み、何がどうなったらそうなるのか分からないけど何故か体に火をつけて火達磨になった親父が狂ったように走り回る姿を目撃し、

「あのおじさん、狂ってるね」

という彼女に対し、うちの親父だよとは言えず、黙っていたら、親父を知る男の子がやって来て、笑い男のようにゲラゲラ笑いながら

「お前の親父すげえな!走って風圧で火を消せるとか言って消せなかったぞ!川に飛び込んでた!」

とか暴露されて顔から火が出る思いをしたりと、色々なことがあったのだけど、どうにかこうにか夏の終わりと共に夏休みも終わり、もちろん改修工事も終わって、ついにこの山奥を離れ帰ることになった。

最後の日、何かお土産を買おうと町の銀座通りに位置する雑貨屋に親父と立ち寄った。ここはこの町で最も栄えてると言われる場所で、小さなスーパーとガソリンスタンドと農協と郵便局があって、その脇にひっそりとこれまた小さな雑貨屋があった。

中に入ってみると、テディベアを作ろうとして失敗したみたいな毛糸作りの熊の民芸品やら、誰が買うのか分からない木彫りの般若など、そうそうたるラインナップで、9歳だった僕は当然金がないので買えないのだけど、金があったとしても何も買わない、そんなレベルの品揃えだった。

そんな中で、親父は何やら色々と物色した後、一枚の絵葉書を買っていた。その絵葉書はこの山奥の町の名所らしい大自然を映した写真のシリーズで綺麗な紅葉や冬の豪雪、春の花々などどれも綺麗なものだった。親父ぐらい狂ってるのならば、その横に置いてあった豚が空を飛んでいる意味不明な絵葉書を選びそうだったが、意外にもこの町の名所らしい大きな滝の絵葉書を購入していた。

店の外に出ると、親父は早速その絵葉書の包みを破り、持っていた仕事用のペンで表面にサラサラと何かを書き始めた。住所を書いていたのだけど隠しながら書く親父の仕草を見てると覗いちゃいけないような気がして、どこに出すものか分からなかった。

サラサラと書き終えた親父はスルスルと隣の郵便局に行き、郵便局前に置かれた錆だらけのポストにその絵葉書をストンと投函した。結局、どこに出したのかも謎なまま、あの夏は終わった。楽しかった夏は終わり、あの山奥も、あの仲間たちも、好きな子も、火達磨の親父も二度と見れないと思うと、いや、火達磨の親父はその後も何回か見ることになるのだけど、とにかく、何かを喪失した気持ちが物凄かった。もしかしたら、夏が終わるたびに何か焦る気持ちが沸くのは、この夏の体験が原因なのかもしれない。夏が終わるとやる気がなくなるんだ。

最近、平成の大合併でその町は小さな町から少し大きな町に変わったらしい。合併で市にならず町のままというのがなんとも田舎らしいが、あの分校のような小学校は統合されてなくなったようだ。それでも建物自体は地域コミュニティのために使われているらしい。

そして、親父が出したあの絵葉書の行方だけど、なんだか聞くのも悪い気がして聞けず、どうなったものかと悶々としていたのだけど、そんなことも忘れかけた数年後、思いもがけない形で知ることになる。

あの絵葉書は母親が持っていた。

どうやら親父は、どこかに行くたびに母親に絵葉書を出していたようだ。何のメッセージも書かれていない、綺麗な風景だけの絵葉書。精神的に不安定だった母親は、その絵葉書を受け取る度に安心し、落ち着いたそうだ。エズミに捧ぐ――なんてかっこいいつもりだったのかもしれない。雄大な自然を見て落ち着くように、そう言いたかったのかもしれない。母は、その絵葉書たちを束にして大切に大切に保管していた。

そして、さらに数十年。目の前には親父からの絵葉書が、もちろん何のメッセージも書かずに置かれている。あの日、母に届けられた絵葉書のように。

親父はきっとバリにでも行ったのだろう。そしてメッセージのない絵葉書で何かを僕に伝えたかったのだろう。いつだって親父はお見通しだ。あの日、母に、滝でも見て落ち着けと伝えたように、バリの砂浜を見て落ち着けと言いたかったのだろうか。

もしかしたら、終わりゆく夏にやる気をなくし、気が滅入ってしまっている僕に、バリのように常夏の場所だってある。夏は終わらない。夏が終わったのならまた夏に向かって行くだけだ、なんて言いたかったのかもしれない。

とにかく、あの日の母のようになんだかやる気が出てきたのは事実で、あのキチガイもなかなかやるじゃねえか、バリに行ったついでとはいえ、絵葉書を送ってくれて無言のメッセージで元気づけてくれるなんて、とお礼の電話をかけると

「バリの絵葉書来たぞ」

「あ、あれバリなんか?」

と何やら様子がおかしい。

「四国かと思ったわ」

とにかく様子がおかしい。

「四国の桂浜かと思ったわ」

やっぱりおかしい。四国の桂浜はこんなにトロピカルじゃない。

どうも話を聞いてみると、親父が旅行に行ったのは事実らしいが、バリとかではなく大阪に行ったらしい。そこで美人なお姉ちゃんに騙されて500枚ほどの絵葉書を買わされたらしい。土地を買わされるところを粘り強い交渉で絵葉書に収めた、実質俺の勝ちだ、みたいな訳の分からないことを供述しており、恐ろしくていくらで買わされたのかは聞けなかった。

「出す場所がなくてな!これから毎日出すからヨロシク!」

何がヨロシクなのか全然分からないが、全く関連性もクソもない絵葉書が、毎日のように届く。猿が極寒に耐えてる風景や、モンゴルの夕暮れ、エスキモーの生活、マンハッタンの夜景、本気で何のメッセージ性もなく嫌がらせのように毎日届く。本当にやめてほしい。

過ぎ去る夏を想い、次に巡る夏に思いを馳せる。なんだかやる気を出して頑張ろうと思った。毎日来る絵葉書はうざくて発狂しそうだけど、バリの砂浜の絵葉書だけは、大切にしまっておこうと思う。あの時の母のように。


9/4 クリームソーダーは替玉で

ラーメン屋のお姉さんが好きだ。

恋はクリームソーダーのようだと誰かが言った。ソーダのように甘く刺激的で、鮮やかな彩り、小さな泡が現れて消え現れて消え、生まれて消える恋心のよう。上に乗ったアイスクリームに心踊る。恋はクリームソーダ―だ。けれども僕はそうは思わない。

小さな恋の始まりは、まるで化学結合のようだ。男女の繋がりは色々な形態がある。強固な結合もあれば、脆弱な結合もある。まるで偶然の産物のような結合もあれば、そうなるのが必然のように結合するものもある。化学結合はそのまま、男女の繋がりなのだ。

多くの人が勘違いしがちだが、化学反応は決して反応する方向だけに進むのではない。AとBが反応してCができる反応は、Cができる方向だけの反応が進んでいるわけではなく、多くの場合で同時にCがAとBに分かれる反応も起こっている場合がある。C方向に進む反応が多い時、結果的にCができているようにみえるのだ。

男女の関係もまさにそれで、決して男女が結ばれる方向に進むわけではない。いや、むしろ、結ばれる方向の方が少ないだろう。けれども人は恋をするし、つかの間のぬか喜びに浸り、恋に破れ、恋に涙する。それは化合物という化学反応の産物を求めることに他ならない。

この世にある多くの物質は2種類の性質に分けることができる。反応しやすい物質と反応しにくい物質だ。その辺に置いておくだけでガンガン反応し、時には発熱し、発火までする情熱的な物質もあれば、何も反応しない、未来永劫反応しない、生理の上がったお母さんみたいな物質もある。それらもやっぱり恋愛に置き換えることができる。

おそらく、僕は前者だろう。テルミット反応のように燃え上がる僕は、本当に恋に落ちやすい。ほっとけばあちこちで恋をしてやがる。あちこちでガンガン反応、けれどもその反応に失敗し、訳の分からない黒ずんだ何かが生成している、例えるならばそんなイメージだ。

ラーメン屋で恋をした。

ラーメン屋はラーメンを食べる場所だ。決して恋をする場所ではない。ラーメンを注文し、食べてたまにいけるぞ!って時は替玉を注文する。そしてお金を払って帰る場所。それ以上でもそれ以下でもない。けれども、僕の中に存在する恋愛反応ポテンシャルはそれを許さなかった。

相手は厨房の中のお姉さんだ。20代中盤くらいだろうか、化粧っ気のない顔に黒くて長い髪。少し小柄な彼女は厨房の中を元気に走り回り、数多くのオーダーをこなしていた。特に替玉を頼まれた時の「替玉イッチョ!」という掛け声はセクシーで、魅惑的で、琥珀色で、まるで金玉を転がされているような錯覚に陥るほどだった。

僕はこのラーメン屋に通った。ダイエット中のご褒美食として、何でも食べて良いと自分で割り振った食事全てを、このラーメン屋の塩ラーメンに注ぎ込んだ。常連になるほど同じ店に通うのが苦手な僕だが、それでも僕は通い続けた。

ある時、異変に気が付いた。あれは夕立の気配がし、少年時代に感じたプールのような刺激的な塩素みたいな匂いが通りから漂ってくるそんな天気の時だった。自転車を停め、店に入ると、彼女がいなかった。

既に彼女のシフトを完全に掌握していた僕は、彼女がいないことに狼狽した。今時珍しいくらい真面目な彼女はシフトを乱すことなどなかった。その彼女がいないのだ。彼女は辞めてしまったと短絡的な想像を働かせるのは自然な流れだった。

心の中の動揺を抑えつつ、いつもの席に座り、ラーメン屋をやってなかったら絶対に性犯罪に走ってただろうと思われる店主に塩ラーメンをオーダーする。この時、いつもの彼女今日いないけどどうしたの?と軽く聞ける人間ならば苦労しない。これができるのならば、もっと輝かしい人生が待っていたはずだ。

ただただ沈痛に、ラーメンが出来上がるのを待ちながら、なぜ彼女が辞めるに至ったのか思いを馳せた。きっとお金が必要だったのだろう。僕らはどんなに純粋に生きていたってお金の呪縛からは逃れられない。おそらく飲んだくれのお父さんの借金の肩代わりに彼女は…。もっと効率よく稼げる風俗産業に…。目頭が熱くなった。

僕は彼女に何をしてあげられるだろう。お金ならあるだけあげたっていい。なんなら通帳ごとあげたっていい。どうかこのラーメン屋に戻ってきてほしい。切に願った。隣でデブが汗をだらだら垂らしながら替玉を頼んでいた。

その瞬間だった。カウンター席から垣間見える無骨な裏口ドアが開き、颯爽と彼女が出勤してきたのだ。「おくれてごめんなさい」行ってたんですよ。彼女は息を弾ませながら性犯罪者の店主にそう告げる。流れ落ちる汗すらかわいくて、彼女辞めたわけでも風俗に行ったわけでも、暴力を振るう酒乱の父なんていなかったことに安堵した。

厨房の奥に消え、すぐに店のTシャツに着替えて厨房に現れる彼女。やはり華がある。このクソみたいに脂ぎった店が嘘のように華やいだ。僕はこのままこうして彼女を眺めながら塩ラーメンを食べてるだけでいいのかのしれない。そんな考えがよぎった時、事件は起こった。

「どうしたの?遅刻なんて珍しいじゃん!」

呆然と彼女を眺めていたので、誰が発した言葉なのか分からなかったけど、ものすごいイケメンな声で馴れ馴れしい言葉が聞こえてきた。

「ちょっとポンプ買いにいってたんですよ。急に壊れちゃって」

彼女は驚愕するほどカワイイ笑顔で声の主に答えた。恐る恐る彼女の視線の先を見てみると、そこには替玉のデブが、驚愕するほどネットリとした、煮たての替玉みたいな笑顔で微笑んでいた。

「あー、焦るよね、ちゃんと予備を用意しておかないと」

「そうなんですよー、もう焦っちゃって」

物凄く親しげに会話する彼女と替玉デブ。なぜこんなにも親しげなのだろうか。それよりこの会話の内容はなんなんだろうか。彼女が焦って買いに行ったというポンプとは何なんだろうか。色々なことがグルグルと頭の中を駆け巡り、塩ラーメンの味なんて分かったもんじゃなかった。

とにかく心を落ち着け、伸びかかったラーメンをゆっくりと口に運びながら考えを巡らせる。どうも会話の内容を聞いていると、彼女と替玉デブ、熱帯魚か何かを飼育するという共通の趣味を持ってるみたいだった。それならばポンプってのも何となく理解できる。

替玉デブはなんかすげえ男前の顔をしながら魚の話を延々としていた。それは男の僕から見ても、デブな彼を差し引いても、彼が少しハゲていることを差し引いても、なんだかとてもかっこ良かった。何かに夢中で少年のような瞳をしている男ってのは、全てを超越してカッコイイものなのだ。

「今度うちに観においでよ」

「えー、ホントにいいんですか?」

デブはやる気だ。熱帯魚にかこつけて彼女を家におびき寄せ、ネオンテトラみたいな生殖器を見せつける気だ。今はまだ彼女も適当にあしらって社交辞令的に返しているだけだろうが、替玉デブの魅力に負けて、ネオンテトラを入れられるのは時間の問題だ。

僕も何か魚を飼おう。

塩ラーメンの汁を飲みながら決意した。達観した。まずは替玉デブと同じ土俵に立ち、それから魚の話をしつつ彼女と親交を深めていく。そいでもって家に呼び寄せて僕のグッピーみたいな生殖器を見せつける。この作戦で行こうと思った。

いろいろと調べて見た結果、どうやらミドリフグってのが飼いやすく、かわいくて女の子に人気らしく、入門編としてこいつから始めてみることにした。

一万円を握りしめて熱帯屋にいき、入門セットみたいな水槽セットを購入。あまりの重たさに腕がちぎれそうな思いをしながら帰宅、ミドリフグはまだ買わなかった。

色々と調べているうちに分かったことなのだけど、いきなり買ってきた水槽に水をぶちこんで魚を入れても、ほとんどの魚は死んでしまうらしい。水槽の立ち上げという儀式を経てからでないと、飼ってはいけないそうだ。

なんでも、僕らを含めて生きてる個体ってのは、排泄なりなんなり、体に不要なものを体外に排出する。それにはアンモニアが含まれていて、ウンコが臭かったり、おしっこが臭かったりするわけなんだけど、水槽の中の生物はそれが深刻に効いてくるらしいのだ。

そりゃそうで、周りが水の中でウンコやおしっこをするんだから、僕らで言うと、ウンコをした瞬間、部屋中がウンコで満たされるような状態。ちょっと想像するとメルヘンチック愉快なのだけど、やっぱりウンコ臭いのとか何やらで大変なことになりそうだ。

魚の場合は、その排泄物に含まれるアンモニアが大変有害で、あまりに濃度が高くなりすぎると死に至る。通常はそのアンモニアを亜硝酸、硝酸塩と微毒なものに分解してくれるバクテリアが存在し、事なきを得ているが、最初に準備した水槽にはそのバクテリアが存在しない。

結局、そこに魚を入れてもアンモニアが分解されず、すぐに魚が死んでしまうというわけ。つまり、そのバクテリアを十分に繁殖させることが「水槽の立ち上げ」であり、これをしてからでないと魚を入れちゃいけないそうだ。

ということで、買ってきた水槽や周辺機器を設置し、水を入れて魚が全く入ってない状態で動かしてみたのだけど、やはりというかなんというか、空っぽの水槽はどうにもこうにも物寂しい。バクテリアが繁殖するまで何日もこのままとか、眺めてるだけで涙が出てきそうだ。

それよりも、こうやってボケーッと待っている間に、替玉がデブがお姉さんにネオンテトラを挿入してしまうかもしれないじゃないですか。それだけは許せないし、我慢できないし、お姉さんのアンモニアは僕のものだ、と訳の分からない決意を燃やすまでに至ってしまったのです。

で、スピーディーに水槽を立ち上げる方法を調べた結果、至極単純な方法を見つけたのです。普通に待っててもなかなかバクテリアは繁殖してくれないのですが、バクテリアはアンモニアを分解するということは、アンモニアが主食ということ。

つまり意図的に水槽の中にアンモニアを発生させてやれば自ずとバクテリアが繁殖すると言うわけなのです。これだな、そう思いましたね。「普通は立ち上げに何日もかかるんだけど、俺はこんな方法でバクテリアを繁殖させたぜ!」「素敵」ブシャー!アヒャー!これしかないと思いましたね。

意図的にアンモニアを発生させる方法、それはヒメダカなどの丈夫な魚を買ってきて、ある程度生活させてアンモニアを排泄させる方法。これはちょっと時間がかかりそうですし、なにより、そのあとのヒメダカの処理に困りそうです。

次に、刺身の切り身とか、なんでもいいのでナマの物を水槽の中に入れておく方法。次第にその刺身が腐っていってアンモニアが発生するというやり口です。これは楽そうだなって思ったのですが、ただでさえ何も入ってない水槽が寂しくて泣きそうなのに、そのに刺身だけがポツンと沈んでる絵図を想像すると泣きそうになります。

ということで、これらの方法はちょっと採用できそうにないので、そこで考えます。結局、水槽の中にアンモニアを入れればいい。今ここでこれを読んでいて、patoのやつ水槽の中に自分のウンコ入れて溢れて大変なことになるんだぜ!とか思った人は反省してください。

いやいや、どこの世界に買ってきた水槽、ポンプとか動いてる水槽にウンコするバカがいますか。そんなの要介護レベルです。いるなら連れてきて欲しい。そんなキチガイじみた行動をとるはずがない。ありえない。「出会って2.5秒で合体 やまぐちりこ」が全然出会って2.5秒で合体じゃなかったくらいありえない。測ってみたら72秒だったくらいありえない。

とにかく、そんなクレイジーゴナクレイジーな行動はとらず、っていうか、人間のウンコにはそんなにアンモニア含まれてませんから、極めて理知的そして合理的な手法を考えたのです。簡単な話です。アンモニアを買ってくればいいのです。薬品としてアンモニアを買ってくればいい。

アンモニア水なんてのは古くから虫刺されなどの薬として用いられておりまして、普通に薬局などで買えますし、下手するとamazonで買えちゃったりします。

「いやね、僕らマニアは水槽の立ち上げで困るでしょ」

「うん、困っちゃう」

「でも、僕は薬品を使って一発さ!」

「素敵!」

「ネオンテトラ!」

こうなるのは分かりきってます。ならないのなら水槽にウンコしてもいい、それくらいの確信があった。いける、今回はいける、水槽を立ち上げ、魚を買って彼女を誘う。彼女うっとり。ネオンテトラ。ぶしゃー、あひぃー。薬局に向かう道中、顔がにやけて仕方なかった。

まあ、アンモニア水をそんなに買っても仕方ないので、一番小さい100mlのものを購入。ちょっと蓋を開けて臭ってみると、糞尿みたいな物凄い臭いがしました。こりゃバクテリアが繁殖しそうだぜ。

こんなもん振り回して帰ってたら、蓋がポンッととんでアンモニアが女性にかかり、最高裁まで争う羽目になりかねませんから、しっかりとカバンに入れて持ち帰ります。すると、道中に件のラーメン屋が。

まだウチの水槽は立ち上げも終わってなくて未完成、とても彼女を誘える状態にはないのですが、まあちょっと小腹も空いてますし、彼女の顔も見ておきたいじゃないですか。迷うことなく店内に入りましたよ。

店の中は、昼の時間をちょっと過ぎていたので数人の客が間隔をあけてカウンターに座るのみ。もちろん、彼女も元気いっぱいに接客していました。これは僕の勘違いかもしれないですけど、なんかちょっと、僕を見た瞬間、彼女が嬉しそうに笑ったような気がした。

他の客と距離をとりつつ席に座る。空いてるし、ピークタイムじゃないから大丈夫だろうと、カバンを隣の空き座席に置いた。

「塩ラーメン」

いつものように注文する。彼女はいつものように笑顔で答えた。今はまだこの距離感でいい、この素っ気ない感じでいい。水槽さえ立ち上がり、魚を入れたら彼女を誘えばいいのだ。

ガタっ!

丸椅子の上に置かれたカバンがずれ落ちた。まいったまいったと思いながら身を屈めカバンを拾う。何か嫌な予感がした。凄く嫌な予感がした。得体のしれない胸騒ぎがした。

恐怖で見たくもないのだけど、色々な責任があるので見なければいけない、そう思った僕はソーッとカバンを開いた。

アンモニア水、こぼれてた。

さっき開けた時にちゃんと閉まってなかったのか、落とした拍子にこぼれたのか分からないけど、とにかく、カバンの中がアンモニア臭かった。

急いでチャックを閉じる。ブルブル震えながら、カバンの外周をクンクン臭ってみる。大丈夫、外には漏れてきていない。おそらく、もともと低濃度のアンモニア水だったことと、もれたのが少量だったのだろう。カバンの外までは漏れてきていなかった。

しかしながら、濃度が高ければ中毒を引き起こす危険もあるし、なにより臭い。飲食店でこの匂いが充満するのは色々と問題がある。カバンの外に溢れてくる前に何とかしなければならない。

この世に神なんていない。よしんばいたとしても、それは僕とは無関係の神だ。職場の飲み会くらい僕とは無関係のところで展開される神に違いない。とにかくなんとかしなければ。導き出した結論は、帰る、だった。

まだ注文したラーメンもきてないのに、

「すいません、お勘定で」

とか言ってた。腫れ物でも扱うかのようにソーッとカバンを持ち、レジまで行く。

「え?」

彼女は驚いた顔をしていた。そりゃそうだ。やって来て塩ラーメンを注文した客が、すぐに帰るというのだ。自分達の接客に何か失礼があり、怒って帰ろうとしてるんじゃないか、そんな不安な表情が読み取れた。

「いえ、あの、その、違うんです、あの、その」

もう何をしてるのだか分からない。

「あの、粗相とかそういう、まあ、粗相かな、ちがう!とにかく料金は払いますんで」

焦れば焦るほど何を言ってるのか分からない。

急がねばならない。このメロスは、アンモニア臭がカバンから漏れ出すまでに店を出なければならないのだ。

「何か失礼ありましたでしょうか…」

しょんぼりする彼女に心が痛んだ。

「いえ、その!アンモ!いや、その、バクテリアが!」

狼狽する僕。どれくらい狼狽してたかというと、この店、レジのところに銀河鉄道の夜をイメージしたイラストが飾ってるんですけど、それを見て、銀河鉄道の冒頭でジョバンニとカムパネルラがアナルファックしてた!序盤だけに!とかとんでもないこと考え出すくらい狼狽していた。

彼女が悪いんじゃない。全て僕が悪い。そいでもって、もしアンモニア臭が漏れだしたとしても、それは全部僕が悪い。とにかく、匂いが漏れる前に店を出る。でも彼女は悪くない。色々な考えが駆け巡り、しかも、万が一アンモニア臭が漏れ出した時に辻褄が合うようにとんでもないことを半笑いで口走ってました。

「すいません、ウンコ漏れちゃって!帰りますわ!フヒヒヒ!」

この瞬間、思いましたね。ああ、この恋終わったな、と。僕も長いことウンコ漏らしてますけど、漏らしてないのに漏らしたと言わなければならない涙のカミングアウト。正義のヒーローが子供を人質にとられてしまい、なす術がない状態に似ています。

結局、ラーメン代を置いて、逃げるように逃走。しばらく走ったあとにカバンを臭いましたが、まだ漏れてきてなかったので、ラーメン屋は守られた。彼女の笑顔も守られたのだ、と安堵したのでした。

チャックを開けるとアンモニア臭いカバンを片手に二度とあの店にはいけねえな、と涙するのでした。

僕の恋は反応することはなかったけど、僕のしょっぱい涙と、カバンの中のアンモニア、きっと反応してソルベー法によって炭酸ソーダができているに違いない。恋はソーダとはよく言ったものだ。


8/24 pato式ダイエット

深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているものだ。

かの有名なニーチェ「善悪の彼岸」の一節だ。正式にはこの言葉の前に、「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。」の言葉が紡がれる。ここで「怪物」と記されているものはおそらく「狂気」なのだろう。つまりはそういうものなのだ。

怪物と闘う過程において、怪物の持つ魔性に魅入られ、自分自身も怪物になってしまわぬよう注意しなさい、という戒めに対して「深淵」という言葉を使ったのは大変興味深い。深淵とは、水の深い場所や淀んだ場所を示す言葉だが、絶望の淵などの言葉のように精神状態のどん詰まりを表すことも多い。

他にも人間の進化の終着点といった考え方や、落伍者の行き着く先という表現にも使われる「深淵」。決して良い意味ではない。その深淵を興味本位で覗く時、等しく深淵自身もこちらを覗いている。簡単に取り込まれてしまうぞ、という戒めなのだ。そういった意味では、僕はこの「深淵」を狂気そのものだと捉えることにした。

狂気、それは時に畏怖の対象であり、魅惑的で興味の対象でもある。狂気の沙汰こそ面白いとはよく言ったもので、平凡なんてつまらない、狂気こそが面白く、観察するに値するものなのだ。また、それは同時に取り込まれやすさを表しているのだ。

覗きこんだ先が平凡であったのなら、それは日常だ。狂気であるからこそ覗き込む価値があるし、心奪われ、取り込まれ、覗いていたつもりが自らが狂気と化し、また誰かに覗かれている。そんな状態に陥るのだ。今日は、そんな狂気という深淵を覗きこんだ男のお話だ。

8月20日、お台場、東京カルチャーカルチャーにおいてNumeri10周年記念トークライブ「ヌメリナイト2〜今度は戦争だ!〜」が開催された。おかげさまで会場は超満員札止めのソールドアウト、訳のわからない35歳オッサンのトークを3時間みっしり聴くという修行僧のような苦行に100名以上の人間が悶絶した。

そのトークライブの詳細はまた別に語られるだろうから今は置いといて、時間はさらにヌメリナイトの2か月前に遡る。島田紳助が暴力団と親密な交際があるなんて夢にも思っていなかった6月、patoはヌメリナイト2開催を決意していた。8月にお台場でヌメリナイト2をやろう、そう決意したのだ。

開催まで2か月。patoは苦慮した。数年ぶりに人前に出るという不安、ちゃんとトークできるのかしらという不安、Numeri自身もそんなに更新してないのにトークライブ開催という暴挙、そんな数々の不安なんてどうでもよくて、何より自分がデブであることが本当に不安だった。それだけが心配で心配で仕方なかった。

考えてみてください。トークライブに行って出てきたpatoがクソデブだったらどうしますか。どうでもいいですか。そうですか。あのね、あなたがどうでも良くても僕はそういうわけにはイカンのですよ。あなたの意見なんて最初から聞いていない。patoはデブであってはならない。それが僕の譲れないポリシーなんです。

おまけに、ほら、今って電脳社会じゃないですか。電車に乗るとみんな死んだ魚のような眼をしてスマートフォンとかポチポチやってるでしょ。スマートってだけで結構嫌味なのに、ポチポチやってるでしょ。あの調子でヌメリナイト会場から「デブなう!」とかツイートされたらどうしますか。

あのですね、僕はキモかったとかブサイクだったとか言われるのは全然平気なんですけど、デブだっただけは我慢ならない。「patoデブだった」なんて言われたら普通に死ねる。発狂する。そこだけは譲れない。むちゃくちゃヤリマンな女が最後の一線とばかりにアナルだけは頑なに守るかのように、絶対に「デブ」とツイートさせてはならない、そう思ったんです。

そこで決意しましたよ。これはもうダイエットするしかない。思いっきりダイエットをしてガリガリに痩せ、同時にNumeri日記では思いっきりデブを前面に出した日記を書きまくってpatoは関取みたいなデブ、と印象付ける。で、ヌメリナイトでは「あれ、patoてそんなにデブじゃないじゃん?」とか、果てはちょっとドキドキしながら勇気を出して彼氏を連れてヌメリナイトにやってきた女の子も、「patoさんそんなにデブじゃない・・・むしろモデル体型、抱いて!」ってなっちゃって、でも彼氏と来てるからそんな素振りを出すわけにもいかず我慢我慢、おまけにpatoがちょっと向井理みたいなもんですからムッとしちゃってる彼氏を尻目にどんどん思いは募るばかり、っていうか、なんでワタシ、こんなつまらない男と付き合ってるんだろう、patoさんの方がいい!その思いが爆発した彼女は、ヌメリナイトが終わった後も会場の外で待ってたりなんかしてですね、「あれ、どうしたの?」「ずっと…patoさんのこと待ってたの…」「困った子だ」「抱いて!」「彼氏と一緒に来てたじゃないか、あの優しそうな彼氏はどうしたんだい?」「あんなつまらない男、別れたわ」「ますます困った子だ」「だって…」「僕らはまるでオカリナだ、お互いに寄り添うことで美しい音色を奏でるのさ」「好き…」ブシャー!アヒャー!ってなるに決まってます。

とにかく、これはもうダイエットするしかない!ツイートさせてはならない!そう決意したときの体重が106キロ、体脂肪率が余裕の30%オーバー、色々な意味でギリギリchopな感じなのですが、ここからヌメリナイトまでの間、どこまでダイエットすることができるのか挑戦が始まりました。

まず、ダイエットするにあたり、様々なダイエット情報のサイトやら、ダイエットを目指す人々が集う掲示板などに目を通し、地域のダイエット教室にも顔をだしました。そうやってダイエットに触れるうちにですね、ある一つの事実に気が付いてしまったのです。

ダイエットは狂気である。

ダイエットとは狂気であり、深淵であるのです。よくよく考えるとこれは当たり前のことで、人間の体ってのは普通に生きていれば現状維持か太るか、自然発生的にはこのどちらかにしか進行しないのです。そりゃそうで、人間だって生きていかないといけないのですから、脂肪を蓄える方向にしか進まないのは自明の理。

つまり、痩せるっていうのは自然の法則に逆らう行為になるわけですから、そこに狂気が介在しない限り実現しえないのです。何かを極度に我慢したり、極度に運動したり、寄生虫を体内に宿したり、脂肪吸引をしたり、狂気ともいえる行動を経てのみ達成されるものなのです。

そんな感じの狂気のダイエットを深淵を覗きこむ感覚で色々と調べてみたのですが、まあ、すごい狂ってらっしゃること。もう意識して辛辣な言葉を並べさせてもらいます、同じデブサイドの人間としてかなりきつい言葉を述べさせてもらいますが、とにかくダイエットってのは狂ってる。

ダイエット情報なんかを扱ったサイトや書籍なんかは、けっこう真面目に情報をかいてて、中には科学的裏付けや根拠が弱いものもあって怪しかったりするのですが、そんなものとは別次元に掲示板がひどい。ダイエットに燃える同志が集ったりするダイエット掲示板みたいなのがとにかくすごい。

ダイエットを志す同志が集っている掲示板なわけですから、さそかし熱心にダイエット理論とかの議論がなされたり、成功例について皆で熱く議論したり、悪徳ダイエット食品会社を糾弾したり、時には精神論で励ましあったりしてるのかと思って覗いてみるとですね。

「ダイエットします。ダイエット仲間募集!」

ダイエットをすると決意していきなりダイエット仲間を募集する精神構造。これがもう、本当に狂気の沙汰としか思えない。おまけにこの募集の詳細を見てみると

「色々なダイエットを試したけど失敗ばかり。けど、仲間がいれば大丈夫!そこで募集します。一緒にダイエット頑張りましょう」

何食って太ったらこんな精神構造になるのか全然分からないんですけど、たぶん、こうやってダイエットしよう!まずは仲間!とか甘えちゃうところが失敗続きの大きな要因なんじゃないかと思います。てか仲間がいれば大丈夫と思う根拠が知りたい。

でまあ、他にも色々な書き込みとか見るんですけど、どうも僕を含めてデブの人って、食べるのを我慢して痩せるってのが本当に我慢ならないみたいなんですよね。で、まずは食生活は変えずに運動で痩せようとする。とにかく走って痩せようとする。これがもう全ての失敗の始まりですよ。

ちょっと今日は面白い日記とか抜きにして本気でダイエットを語らせてもらいますけど、食生活を変えずにデブがランニングしたって、2日目に膝を壊すだけですからね。そりゃデブですもん、膝が耐えられるわけがない。運よく膝を壊さないとしても、運動で消費されるカロリーなんて微々たるもんですから、走った後にブヒッ!走った!暑い暑い!と冷蔵庫から出してゴキュゴキュ飲むポカリで走る前よりカロリー増えると思います。

とにかく、いかにして苦労せずに痩せるかみたいな狂気が蔓延しておりまして、そんなのチンポ出して歩いていたら勝手に女がはまってきた!くらいのありえない出来事ですから、いつまでもこの深淵を覗いていたら、自分もダイエットといいつつ仲間を募って同じ食生活をして走って膝をぶっ壊す状態になりかねませんから、覗くのを止め、深淵に取り込まれぬよう、自分なりの方法でダイエットを模索し始めたのです。

まず、忘れてはならないのは、食わないダイエットは絶対にしてはならないということ。空腹状態の継続は確かに体重を減少しますが、一生涯絶食するわけにはいきません。おまけに、空腹状態が長いと体がエネルギーを吸収しやすい体制に変化していきますから、絶食を止めたとたんに思いっきり太ります。これがいわゆるリバウンドです。これだけは避けねばなりません。

食事の量を減らすというのもあまり現実的ではありませんから、満腹に食べつつ太らない方法を模索。つまり、脂肪の原料となる炭水化物を一切取らず、野菜や果物などの食物だけを満腹になるまでモシャモシャ食えばいいんです。体調に注意しつつ、しっかり食生活を改善していくことが大切です。

その生活を一週間も続けると、目に見えて体重が減ってきます。結果が伴ってくるとやる気が出るもの。おまけに太りそうな食物をあまり食べる気がしなくなってきて、食べることにすら罪悪感が出てきます。で、ある程度体重が減ってきたら、そこで尋常じゃないレベルで運動をしてください。走るならば最低でも徳光さんくらいは走ってください。自転車ならば隣の県くらいまで行ってください。それを毎日でなくとも3日に一度くらいしてください。もう痩せて膝への負担はありませんから徹底的に運動します。

するとどうでしょう。個人差はあると思いますが、なんとpatoの場合、2か月で20キロ減。体重86キロの状態、ズボンのベルトにしてベルト穴5個分の減量。スリムな状態でヌメリナイトに臨むことができたのです。

まあ、まだちょっとデブなんですけど、それでもまあ、クソデブって状態は避けることができて、これ、ヌメリナイトいけるで!女の子とかイケちゃうで!って機運が高まってきたんで、ヌメリナイト後に女の子3人組みで来てたカワイイ子に

「へー、今日は女の子3人で来たんだー」

「そうなんですー、patoさんの大ファンなんですー!」

「彼氏とかいないの?」

「いないですー!」

「じゃあ、俺と付き合おうよ」

とか言ったら、3人揃って「それはちょっと…」って少し知ってる程度の親戚が死んだ時みたいな微妙な顔してました。クソッ!なんで3人もいて全く同じ反応なんだ。痩せた意味がない。僕はあの3人の表情を一生忘れない。

とにかく、ヌメリナイトも終わり、痩せた意味も終わり、3人組にも微妙な顔をされ、別にこれ以上痩せる必要もなくなったのですが、性格の悪い僕はある場所に赴くことにしたのです。それが、僕が最も太っていて、ラードとかそういう雰囲気の時に通っていたコンビニです。

このコンビニってのが、とんでもないコンビニでして、とにかく本当に客商売かって疑うほどに店員の態度が悪い。とにかく悪い。どれくらい悪いかっていうと、明らかに大学生のグループみたいな連中がバイトしてるんですけど、こいつらが店に行くたびにクスクス笑ってるんですよ。

しかも、それが僕だけ笑われてるなら、別にいつものこと、たまに朝の出勤時なんて寝ぼけてシャツを裏表に着てたりしますから笑うなっていう方が無理ってもんです。

でもね、普通のOLさんとか、サラリーマンのオッサンとか、ほぼ全ての客が店に入るとクスクス笑われてるんですよ。そりゃ気分悪いですよ。入店するとレジの方でクスクス笑ってるんですから。

おまけに僕ってデブだったじゃないですか。さらにはデブなのにちょっと気にしちゃってゼロカロリーのコーラばかり買ってたでしょ。絶対にゼロカロリーデブっていう矛盾みたいな意味合いのニックネームで呼ばれててクスクス笑われてたに違いないんですよ。

でまあ、確かに気分いいもんじゃないんですけど、別にクスクス笑われたり陰口叩かれたりで怒り狂うって大人げないじゃないですか。気分的には日本刀でも振り回したいものですが、さすがにいっぱしの社会人としてそそこまでできないじゃないですか。

で、なんとか我慢しようって思っていたんですけど、どうしても我慢できない部分があって、なんか店員は普通にリアルが充実してそうな雰囲気イケメンが多いんですけど、その中に、一人どう見ても僕よりデブな店員がいたんです。マリナーズの試合をスタンドで見ながらホットドッグ食ってそうなデブがいたんです。

で、こいつがデブのくせに一番僕のことを「ゼロカロリーデブ」って蔑んだ目で見てきてたんです。いやね、スリムな人にデブって罵られるなら分かりますけど、デブにデブってバカにされたら本当、どうしていいのかわからないっすよ。

でまあ、許せないんですけど誠意ある大人の対応として、もうその店に行かないっていう至極まともな行動を実行したんですけど、それでもマリナーズデブだけは許せない。

そこで閃いたんです。こりゃ、凱旋来店するしかねえなと。思えば、ダイエット初期にあまりにニヤニヤされるもんだから行かなくなったコンビニです。つまり痩せる過程の僕を見ていない。

で、いきなりスリムになった僕がバーンとレディガガみたいに華麗に来店。マジかー!ゼロカロリーデブが痩せやがった!と特にマリナーズデブを驚かせるのです。これしかない。

ということで、ことさらボディラインを強調した感じのピチピチのTシャツを着て件のコンビニへ。まだちょっと腹回りがたるんでますが、マックスデブだった時に比べると全然マシ。

店の外のガラスから覗き込んで、相変わらずあのしゃらくせえ大学生グループがバイトしていることを確認。マリナーズデブもいて、なんかレジの奥で口抑えながらクスクス笑ってました。

そこにバーンと僕が来店。頭の中はレディガガの音楽が鳴り響いていた。

一瞬で僕に気づくマリナーズデブと横の店員。ハッとした顔で何やらゴソゴソと話してました。たぶん、

「やべえ、ゼロカロリーデブが痩せてやがる」

「向井理みたいだ」

「もうバカにできねえよ」

「もう俺たちバイト辞めるしかねえな」

みたいなことを会話しているに違いありません。

勝利を確信した僕はモデルが台の上を歩くように店内を闊歩。プラダを着た悪魔みたいにドリンクコーナーへいき、ゼロカロリーコーラをヒラリと手にします。

これまでなら、

「デブがゼロカロリーwwwww」

とかバカにするんでしょうが、あいにくスリムがゼロカロリーコーラ手にしても別に何もおかしくないですからね。

で、意味不明にさらに店内を闊歩し、雑誌コーナーに行って意味不明に「MORE」とか立ち読みしてました。なんで「MORE」なのか意味が分からん。

そうこうしていると、マリナーズデブが「あれはゼロカロリーデブじゃない、何かの見間違いだ」とか思ったのかしれませんが、お菓子の棚を陳列するふりして僕に近づいてきました。

そこで僕は逆にマリナーズデブに言ってやったんですよ!

「すいません、ちょっと通してもらえますか?」

君がデブだからこの通路を通れない。いかに痩せた僕といえどもね!という表情で言ってやりましたよ。敵軍の大将の首をとったみたいなカタルシスがあったね。

あ、自分がデブの時にこういうデブネタを書くと面白おかしいんですけど、20キロも痩せちゃうとホント、嫌味な感じですね!すいません!ゲハハ!

とにかく勝利を確信し、レジを済ませてレジへと向かいます。なんかマリナーズデブは、よほど悔しかったのかレジの奥で

「一緒にダイエットしましょうよ!」

と同僚に言ってました。だからその姿勢がダメなんだって。

いやー、最高に気分が良いぜ、どれどれ、まだ悔しがってるかな、と思って店の外からガラス越しに店内を覗くと、視界の目の前には何やらブヨブヨした感じの肉塊が見えました。

あれ、なんだろうって思って少し後ろに下がって見てみると、それはマリナーズデブがよほど悔しくて僕の動向が気になったのか、ガラスにへばりついて店の外を見ている光景でした。なんかガラス越しにキスしてるみたいになって、お互いに恥ずかしかった。

ダイエットとは狂気です。自分をコントロールし体重を落としていく様は怪物との戦いに似ているのかもしれません。気をつけなくてはならないのは、その深淵に触れるうちに深淵に飲み込まれないようにすることなのです。

ダイエット自体を目的にするのは、おそらく深淵に飲み込まれてしまっているのです。明確な目的意識、ヌメリナイトまでに痩せる、マリナーズデブを見返す。そんな目的を持つことこそが、深淵に飲み込まれない方法なのかもしれません。

それにしても、最後のデブの行動には驚いた。

デブをのぞくとき、デブもまたこちらをのぞいているものだ。


7/31 ヌメリナイト2〜今度は戦争だ!〜

日時:2011年8月20日(土)
Open 17:00 Start 18:00 End 21:00 (予定)
前売券\2,500・当日券\3,000
(飲食代別途必要・ビール\600、ソフトドリンク\390など)
場所:東京カルチャーカルチャー(http://tcc.nifty.com/)
出演:pato、松嶋
イベントサイト

前売りチケットは7/30(土)10時よりイープラスにて発売中!
イープラス購入サイトSOLD OUT!
おかげさまで完売いたしました!ありがとうございます。当日券はでません。申し訳ありません!

以上のような感じで開催します。前回のヌメリナイト〜深夜のサバト〜は10時間におよぶクラブイベントで飲めや踊れやの大騒ぎだったのですが、なんと今回はトークライブ。淡々とpatoがNumeriの10年間について3時間くらいプレゼンするという、インドの修行僧でももうちょっと楽しんで修行してるぞと言いたくなるようなイベントです。ゲストにはNumeriの閲覧者数が2人/dayだった時からの閲覧者である松嶋君を迎え、淡々とプレゼンします。

居酒屋形式のイベントスペースですので、飯を食うなり、酒を飲むなりしてくつろぎながら、patoがプレゼンするNumeriの10年間をお楽しみください。

気になるプレゼン内容はこちら(予定)

○Numeriについて
   ・Numeri諸データ
   ・Numeriに登場する舞台紹介
○Numeri年表
   ・全国キャラバン
   ・モンゴル放浪記
   ・空白の2010年
   ・pato振られ年表
   ・ぬめぱと変態レィディオ
○Numeri事件簿
   ・あのパクリ事件について
   ・あの事件について
   ・pato振られて泣きながらラジオ事件について
○対決シリーズ
  ○あたたか家族
   ・親父
   ・弟が山本寛斎のTシャツ着てる事件
   ・荒廃した実家
○松嶋枠
 

と、たぶん盛り沢山の内容でお送りいたします!たぶん!その後は歓談などできたらと思いますので、気楽な感じで、どれデブpatoでも見てくるかって感じで来てください。

そして、イベントごとに製作されるNumeri-Tシャツですが、今回は3パターン製作され、会場で販売されます。

まずは、イベント告知画像をベースとした「芳江Ver.」です。

コンセプトは芳江の涙です。

そして、2パターン目は「高志Ver.」

コンセプトは高志の想いです。なんと「出会い系サイト」の文章が丸々プリントされた大胆なデザインになっております。

そして、3パターン目は、今回ヌメリナイトが開催されるということで無理を承知で龍亜種(ドラゴンアッシュ)先生にもデザインをお願いいたしました。龍亜種先生は快く引き受けてくださり、デザインをドロップしてくださいました。「龍亜種Ver.」です。

以下は龍亜種先生のお言葉です。「イメージは"SEVENTH HEAVEN"天国とは死後の世界ではない。天使の住処であり拠所であるべき場所だ。喜びは第七天を突きぬけ、そこにいる天使たちも祝福してくれることだろう。Numeri10周年おめでとう」

この3パターンが会場で販売されます。ということでお台場で会いましょう!8月20日はデブpatoとお台場で握手!

 


7/14 夏への扉

色の性格というのはなかなか面白い。

人間の目で認識できる光の波長は可視光と呼ばれ、380nmから750nm程度の範囲内の電磁波が色として届くことになる。この外に存在する波長の電磁波は紫外線やら赤外線などと呼ばれ、人間が目にすることができない。可視光内でも波長によって様々な色が存在し、太陽光や照明の光などは色々な波長が混ぜ合わさり白に見えるというわけだ。

色彩と人類の関わりは歴史が古く、太古の遺物に赤土や黄土を使って彩ったり、数々の壁画を見るに様々な色彩で飾った痕跡が見られたり、最近の研究では仏像や歴史的建造物など、今では考えられないくらいに艶やかに彩られていたとされている。今見ているものは年月の経過により文字通り色褪せてしまったものなのだ。はるか昔より、色は我々人類の生活を彩る上で必要不可欠なものだったのだ。

そうやって共に過ごしてきた色、である、時には古今和歌集などを読み解くと分かるように、花の色などにうつろいを感じ、物思いに耽る対象として共にあった。長い年月を経てその色自体が人格を持つかのように性格づけられてきたのは当然の摂理であり、現代の萌え擬人化文化のはしりではないかと個人的に思う。

分かりやすいところで言えば、赤とは情熱的という解釈が多いし、その他にも危険という性格も含む。注意を促す看板などには赤が使われることが多い。青は冷静さだとか知性だとかそういった理知的印象が多いが、反面、憂鬱だとか元気がない表現に使われることが多い。ちなみにこのNumeriで多用されているオレンジ色は、陽気、快活という印象を持たれるように意図的にオレンジを多用している。

このように、多くの意味合いや性格を持つ「色」であるが、それを戦略的に組み込み利用するのはもはや当たり前で特に目新しい事でもない。けれども、その色の性格とはあくまで文化や日常に根差した物であり、同じように暮らしてきた閉鎖的環境でのみ通用する代物だという点に留意しなくてはならない。

つまりどういうことかというと、赤が情熱的で青が憂鬱、オレンジが快活というイメージは、この日本においてのみであり、国や地域が変われば文化が異なり、その意味合いも大きく変わってくる可能性があるという点だ。それは多種多様でカラフルな他国の国旗を見れば何となく想像できる。

その最も顕著な例が、「エロスな色」だろう。日本において、ピンク映画やピンク産業、ピンクサロン、ピンクの電話などなど、エロスでいかがわしいものの表現としてピンクが多用されてきた。ピンク=エロといっても過言でないレベルで、昔のTiffanyのエロビデオなど、テープ自体がピンク色で恥ずかしかったものだ。

しかし、これがアメリカになると別にピンクはエロスを連想させる色ではなくなる。アメリカではブルーフィルムなどのエロ映画からも分かるように、青こそが「卑猥」を連想させるエロカラーとして君臨しているのだ。

中国においては黄色こそがエロい色であり、スペインでは緑がエロい色と各国それぞれのエロい色が存在する。ちなみに我が家でも、昔、何をトチ狂ったのか母親が木目調のハイレグビキニみたいな水着を購入してきて家の中を闊歩しており、我が家では木目はエロく、触れてはいけない模様として長年親しまれてきた。全然関係ない話だった。

とにかく、なぜいきなりこのような色の話をしたかというと、この僕が齢34歳にしてピンクサロンにはまった、いやはまろうと決意した話をしようと思ったからだ。けれども、いきなり冒頭からピンクサロンの話をすると、「patoさん素敵」と風呂上りにドライヤーで髪を乾かしながらNumeriを読んでいる女子中高生や、patoはこの汚れた世界に産み落とされた第七天からのエンジェルだと信じて疑わないOLなどがショックで心臓が止まりかねないので、致し方なく色の話からナチュラルにピンサロの話へと移行する手法を執らせて頂いた。このワンクッションは僕なりの配慮である。では、心して読んで欲しい。

きっかけは、大便だった。

ある日、職場で大便をしようと思い立った僕は、運良く空いていた大便ブースへと吸い込まれ、そこで熱烈にウンコをした。その日は、最初に健康的で柔らかめのウンコから、徐々に硬くて黒いウンコへと変化していくサザエの中身型のウンコであり、ウンコは目で見てわかるほど茶色から黒へと変化していた。ちなみに、茶色のイメージは緊張の緩和であり、黒は厳格である。

一線を終え、ふと床を見ると、そこに名刺が落ちていた。大便ブースに落ちていた名刺など汚くてあまり手に取りたくないのだが、なぜ便所に名刺?とその不可思議な存在に魅入られてしまい、尻も拭かずにその紙片を手に取った。

一応大便ブースとはいえ職場なのだから出入りの業者だとかの名刺だろうと予想していたが、手に取ると思いっきりピンク色の名刺だった。今まで仕事上の付き合いで色々な名刺を貰ったが、さすがにピンク色の名刺なんてのは記憶にない。よく見てみると表面には会社名や役職や氏名などではなく、ボインボインみたいなノリの良い店名がポップな字体で書かれ、ヤシの実みたいな絵まで描かれていた。その下には「この名刺をご持参の方は次回2000円割引!!」と今にも弾けそうなフォントで情熱的に描かれていた。

「なんじゃこりゃ?」

全く意味が分からなかった。便器に座りながら、先ほど出した物が匂いを放つのを感じつつ、再度マジマジと名刺を見た。すると、裏にも何か書いてあるのに気が付いた。

「マリン」

見るとピンク色のペンで、こんなに頭の悪そうな文字ってあるんだろうかって感じの筆跡で、何のためらいもなく「マリン」と書かれていた。その横には「出勤日 月火水木金土日」と印刷されており、月から金までピンク色で丸がされていた。それは手で書いたわりには真円に近く、美しい丸だった。

さらに名刺の裏に文字が続く。もちろんピンク色のペンで、

「今日もとっても楽しかったヨ〜、いっぱいエチなことしたね!ミドリガメさんにもいっぱい気持ちよくしてもらってマリンお仕事にならなかったヨ〜また来てね!」

みたいなことが小さい字でビッシリ書いてありました。ピンク色の字でビッシリ書かれると目が痛くて仕方ない。頑張って解読すると、まあ「エチ」ってのは「エッチ」って書こうとしたってのは分かるんだけど、ミドリガメってのが何だか分からない。

普通に文面から察するに、この名刺はそういったエロスなサービスをする店の名刺で、サービスが終わった後に「また来てね」と女の子から渡される名刺だと思われる。そして渡したのはマリンちゃん、受け取ったのがミドリガメ。つまり客が、この名刺を落とした人物がミドリガメということ。どういう精神構造をしていたらミドリガメと名乗れるのか理解できない。

早速デスクに戻り、名刺に書かれていたURLにアクセスすると、やはり予想通り、この名刺はピンクサロン、いわゆるピンサロで貰える名刺らしい。ピンサロとは、安価な性風俗の代名詞的存在であり、数千円というお金で女の子があんなことやこんなことをしてくれるお店。建前上は飲食店である、というところがポイントだ。駅前などに怪しげな看板があり「只今の時間8000円」とか値段だけ書いてあったら、まあピンサロだと思って間違いない。

僕は名刺を持ちながらワナワナと震えていた。職場でウンコをしていたら、おそらくミドリガメが落としたと思われるこの名刺を拾った。これはピンサロに行けという神からの啓示ではないだろうか。

ピンク色の字でビッシリと書かれた文字は、あきらかにマリンちゃんがミドリガメに対して送った思いだ。その温かい思いがヒシヒシと伝わってくる。ピンクという色には温かみという性格もあるが、それだけじゃない「想い」がこの名刺から伝わってくるのだ。

僕らは街に出たって一人だ。僕は家でも一人だ。人は沢山いるのに、本質的に人は一人で、誰かに思われることなんて滅多にない。けれどもこの名刺はどうだ。確かにマリンにとってミドリガメは金づるで、また来させて金を落とさせようという考えが伝わってくるのだけど、それでもそこには思いが存在する。マリンがミドリガメを想う想いが存在する。

それって結構素敵なことで、僕も誰かに想ってほしい、こんなビッシリとピンク色で書かれた名刺が欲しい。エロいこともして欲しい。もう行くしかない、ここでピンサロに行くしかない。やるしかない。ここでピンサロはちょっと……って尻込みしていて何になるのだろうか。ピンサロなんて飲食店だ、こんなの行けばだれだってエロいことやれるに決まってる。やるしかないのだ。じゃあいつやるのか?












今でしょう!

ということで、この名刺に記載されていたピンサロに行ってきました。

あらかじめ地図で場所を調べていたのでピンサロへは易々と辿り着くことができた。一階にしょぼくれた不動産屋が入る雑居ビルの前に「7000円ポッキリ」と書かれた怪しげな看板が置かれていた。どうやらこのビルの3階に件のピンサロがあるようだ。

今にも朽ち果てそうなエレベーターに乗り3階へと向かう。エレベーターの上昇に伴って消毒液なのか何なのか独特の臭いが漂ってきた。何やら怪しさを感じずにはいられない匂いだ。

エレベーターが到着すると、ガーッと開いたドアの目の前に重厚なチョコレート板みたいなドアが鎮座していた。店名の書かれた小さなプレートがぶら下げられており、中からは薄らと賑やかな音楽が聞こえる。なんだかこの雰囲気だけで心臓が爆発しそうなほどにドキドキしてくる。

よし、僕は今日から狂ったようにピンサロにはまろう。毎日来よう。そして思いのこもった名刺を何枚も貰うんだ。僕はこれから繰り返し繰り返しこの扉をくぐるだろう。その度に熱い思いに触れるのだ。意を決してピンサロのドアを開けました。

「マーリアー!」

なぜか耳がぶっ壊れるくらいの音量で浜崎あゆみさんの歌が流れてました。マリアとか言ってる場合じゃないで?しかも、入ってマゴマゴしてるとどこかで見張られていたのか

「新規一名様ご来店、サンキューサンキューサンキュー!」

とか場内放送ですよ。僕の34年の人生でこれだけサンキューを立て続けに言われたのはドリカム以来です。

「いらっしゃいませ?当店ははじめてで?」

見るとパチンコの景品交換所みたいな小さな小窓から、黒い服をきた男が話しかけてきます。ちなみにここで黒服を着るというのは、黒色の持つ威圧という意味を考えてのことだと思います。

黒服の男性店員が何か言ってるようなのだけど、浜崎あゆみさんがうるさくてあまり聞き取れない。

「当店は初めてで…「マーリアー!」

ってな感じなんで全然ダメ。業を煮やした黒服店員が小窓の部屋から出てきて対応してくれます。全然関係ないけど黒服店員、歯が何本かなくてご飯食べにくそうだった。

「ご指名ありますか?」

どうやら指名制度らしく、どの女の子が良いのか指名するようです。見ると、入ってきたところの壁に女の子の写真がいっぱい並んでます。なかなかカワイイ子が多いので、ちょっと気になる子を指差し

「この子ってどんな感じですか?」

と尋ねると歯の抜けた黒服は

「いい子ですよ、人気もありますし、リピーターも多いです。たぶん写真よりカワイイと思います。巨人で言うと小笠原です」

と親切な回答。最後の巨人で言うとってところが意味が分からないですけど、そんな調子で今度はおっぱいの大きい子について尋ねてみます。

「なんといってもこの巨乳、サービスも抜群で、優しい性格の良い子ですよ。巨人で言うと元木です」

なんで巨人に例えるのか全然分からないのだけど、そこで思い出したのです。あの大便ブースで拾った名刺に書かれたマリンちゃんの存在、ミドリガメが懇意にしていたマリンちゃんの存在を。

「すいません、マリンちゃんっています?」

「あ、はい!マリンちゃんは写真NGなんでここには写真ないんですけど、本当にいい子ですよ。過激で、何より性格が良い!巨人で言うと清原です」

なんか全然意味わからないんですけど、まあ他に縁がある女の子もいないんでマリンちゃんを指名することに。

「では、こちらでお待ちください」

と歯抜け黒服がシャーッとカーテンをめくると、そこには待合室が。見ると繁盛してるのか既に6人ほどの男性が待っていました。

実は僕、ここに来る前にこのピンサロ店のことについてインターネットで情報収集しておりまして、この店について語らう場みたいな掲示板に行きついたんですね。そこではこの店のユーザーたちが色々な意見を書き込んでいて大変参考になったのですが、なんか「ひばりちゃん」って子が大人気らしく、確かにさっき写真を見たらすごいカワイイ子だったんですが、掲示板ユーザーたちがむちゃくちゃ暴力的な言葉で罵り合ってんですよ。

「ひばりは俺のもんだ、殺すぞ!」

「お前みたいなワキガに指名されるひばりが可哀想だわ」

「死ね」

「お前こそ死ね、ワキガ大明神」

ワキガ大明神ってすげえな、と思いつつ、それを見て暴力的な客がいっぱいいるのかなーなんてビクビクしていたんですけど、待合室に入ると、大人しそうなデブどもがヒーヒー言いながら汗を吹いて待ってるだけでした。まあ、僕もデブなんですけど。こんな大人しくて人の良さそうな人たちうが掲示板で殺すぞとか言い合ってんのかなーとか考えていると、何故か僕だけ1時間くらい待たされました。確かにちょっとお待ち頂くことになるとか歯抜けが言ってましたけど、いくらなんでも待たせすぎです。

ついに案内されるのですが、そこで爪のチェックです。爪が伸びていないか念入りにチェックされ、消毒液みたいなものまでかけられます。で、店内に入るのですが、ここで建前上は飲食店というのが本当に効いてきます。何がすごいって丸見えなんです。

どういうことかと申しますと、こういった性風俗の店ってのは裸になったりが前提なんですけど、そうなると個室とかが前提になるもんじゃないですか、けれどもね、ピンサロはあくまでも建前上は飲食店ですから、個室に仕切るようなものは一切ないんです。せめてマンガ喫茶くらいの仕切りがあるといいんでしょうが、それもなく、少し背もたれの背が高い椅子が同じ方向に向けて並べられているだけなんです。

そうなるとどういうことが巻き起こるかっていいますと、自分の席に案内される途中に、さっき待合室で待ってたデブどもが女の子にチュッパチャップスされてる絵とか丸見えなんですよ。もう、これが本当にすごい。

大音量の音楽は、エロスな音とかエロスな声とかをシャットアウトするために流されているんですけど、さすがに丸見えなのは防ぎようがありません。ってか、待合室で待たされすぎて曲が一周してまた浜崎あゆみさんが爆音で歌っていた。

歯抜けによって席に通され、そこにマリンちゃんがやってくる。

「いらっしゃいませー!」

手にはキンキンに冷えたウーロン茶。建前上は飲食店というアレなのか、絶対についてくる代物みたいだ。で、このマリンちゃん、早い話がすげえブスだった。ミドリガメが何を考えて指名したのか分からないが、歯抜けが巨人で言うと清原っていうように、髪の長い清原がそこに立っていた。

っていうか、立っているシルエットが明らかにデスピサロで、ピンサロでデスピサロですか、こりゃあデスピンサロですなー、って意味わからんわ。

「はじめましてー、マリン、今日はお仕事…「マーリア!」

って、浜崎あゆみはやかましいわで最悪の状態に。もうこのデスピサロが何言ってるのか全然分からないんですけど、すごい馴れ馴れしく隣に座ってきて、ウフーンみたいな感じになっとるんですよ、これが。で、耳元で

「私まだ新人なの、どうしていいか分かんないから…好きにして…いいよ…」

とか途方もないこと言い出すんです。聞きましたか、奥さん。好きにして、ですよ。あのですね、ここを読んでいる女性がいて、意中の男性がいるなら今すぐ「好きにして」って言いなさい。それだけこの言葉ってのは破壊力がありますよ。早い話、好きにしていいならウンコを食べることも辞さないっていう不動明王のごとき決意の現れですからね。これで興奮せずして何に興奮するかって感じですよ。

でまあ、いよいよピサロのサービスが始まるんですけど、こう「つうこんのいちげき」みたいなことはなく、そつなくサービスは過ぎて行くんですけど、そこでまたもやピサロのあの言葉がリフレインするんです。

「…好きにして…いいよ…」

こりゃ好きにしてやろうと思いますわな、やらなきゃ損と思いますわな。マリアも後押ししてくれます。こりゃやったろ、思ってピサロの下半身に手を伸ばしたんです。いっちょ生殖器でも触ってやろうと思ってですね、こうスーッと手を伸ばしたんです。

そしたらアンタ、ピサロのヤツがまるでロデオのように腰を上下に動かし始めましてね、「ウン!ハッ!」みたいな声を上げて激しく上下にうごいとるんです。何事なのか全然分からない。

で、あまりにも激しく動くもんですから、こう、局部を触ろうとしていた僕の指がこう、ツルンと、入っちゃったんですよ。どこにって?アナルですよ、アナル。僕も長いこと生きてますけど、初対面の人のアナルに指を入れたのは初めての経験です。

イメージ的には本当に何の抵抗もなく入った感じで、ニュルン!って感じなんですけど、それと同時にデスピサロが「ウッ!」みたいな呻き声を上げたんです。

いきなりアナルに指が入ったのはビックリだけど、まあ、好きにしてって言ってたし、まあ、これはこれでいいかって思ってたんですけど、ピサロの様子がおかしい。暗闇越しでハッキリとは分からないけど、その清原みたいな顔を急に事務的な表情に変えてこちらを睨みつけてきた。

で、フンッ!といった趣でアナルに突き刺さった僕の指を腰の振りだけで抜き取ると、そそくさと席を離れてどっかにいってしまった。なんだろうなって考えつつ、僕も色々な場所丸出しで待ってたんですけど、そこに歯抜け登場ですよ。

もうあまり思い出したくないんで割愛しますけど、どうもマリンちゃんアナルを触られるのはNGらしく、ましてや指を入れられるなんて途方もない事だったらしく、彼氏にもさせたことないのに!みたいな感じで泣き出しちゃったみたいなんですわ。

で、なんか店の外で歯抜けに物凄い怖い感じで説教されて、

「次回からのご来店はお断りさせていただきます」

と、アナルに指入れただけで出入り禁止になってしまいました。名刺ももらえず、温かさに触れることもできず、感じたのはアナルの温もりだけ。この夏、何度もくぐると心に決めたこのピンサロの扉、僕にとっての夏への扉、できることならタイムマシンに乗って店に入る前の僕に忠告したい。帰り際、もう一周した曲の「マーリア!」がドア越しに聞こえていた。

一発でピンサロに出入り禁止になった事実を引きずり、青い顔をして職場にいきました。もちろん、この青いはアメリカ的にエロスな意味合いではなく、憂鬱という意味合いで。

すると同様に、僕の横に憂鬱な顔をしている同僚の亀田君がいました。何事かと話を聞くと、営業中に仕事をサボってピンサロに行ってたのが偉い人にばれて、なんか軍法会議みたいなのにかけられるみたいです。

それを聴いた瞬間、お前がミドリガメだったか、と驚きと憤りを感じると共に、亀田だからカメは分かるが、なんでミドリガメなのか、ああ、そうかピンサロで名乗る名前だからエロスな意味のミドリをつけたのか。なんてスペイン的なヤツだ、などと思ったのでした。もう二度とピンサロには行かない。


6/28 スペースデブリ

オッス!デブです!

いやあ清々しいね、本気で清々しい。なんかもう気分爽快とかそういったレベルのお話ではなく、「これ中国の山奥で取れた神秘の漢方薬なんだぜ」とか嘘8000ぶっこいて自分のウンコのカスをお嬢様女子大生に匂わせた時くらいのカタルシスがあるんですよ。

何がって、そりゃあ前回の日記でついに自分のことをデブだと認めたわけなんですけど、さすがに体重が30キロも増加し、会う人会う人に太りすぎだろと言われ、僕の職場のパソコン、顔認証でログインするようになってるんですけどあまりに太りすぎちゃって人相が変わっちゃってログインできなくなったりしたんですけど、それでもやっぱ心のどこかに認めたくない想いがあったんですね。

体重が30キロ増えたって言ってもあくまでも数字上のことで実際にはそう見た目は変わってないだろう。会った人が「太った」って言ってもそいつが目の錯覚に騙されているかやっすいシャブでもやってるか、顔認証だってウィンドウズのバグだって思うことにして頑なにデブであることを認めなかったんです。それこそ、デブじゃないもん、ポッチャリだもんってブヒブヒいうデブ女の気持ちがすごく分かるんですよ。

けれどね、そうやって嫌な現実から目を逸らしていたって何も変わらないんですよ。そこには何か自分がデブじゃないという勘違いをしたデブがいるだけで、認めなかったからと言って痩せるわけでもカワイイ女が言い寄ってくるわけでもないんです。

そして認めた。デブがデブを認めた。もう世界が違ったね。パッと世界が開けた。「俺、デブなんだ」なにか偉大なる存在に赦された気すらした。天空から光が差し込み、ラッパを持った天使たちが楽しそうに踊りながらデブを祝福してくれてるかのように感じた。僕はデブなんだ、やっとこのガイアに受けいられた気すらした。

デブを認めると色々と周りの環境も変わるもので、職場での振る舞いも、例えば僕は職場の女子社員に異常に嫌われてて、そのうち退職請求の署名活動とかされても何らおかしくないのだけど、デブって認める前は「今日は暑いね」とか話しかけても完全無視。それが認めた後ちょっと自虐を込めて「俺デブだからこの暑さ耐えられないよ」って話しかけたらどうでしょう。完全無視ですからね。デブを絡めないで無視されると嫌われてるからなんだろうなって落ち込むんですけど、デブを絡めて無視されるとちょっと自虐が行き過ぎちゃった、って状況判断ができますからね。認めるって素晴らしい!

とにかく、デブであることを認めると全てがうまくいくこと山の如し、デブなんでホントに山みたいなんですけどブヒヒ、そうやって認めるとですね、次の行動にも出やすくなるんですよ。

「健康!ダイエット教室!」

僕デブなんでボケーッと市民掲示板みたいなのを眺めていたんですけど、どうやらどっかのスポーツクラブの主催かなんかで市民を対象にダイエット教室なるものが開催されるみたいじゃないっすか。無料と謳ってますけど、どうせデブであることの危機感を散々煽ってスポーツクラブに入会させようって魂胆なんでしょう。デブは金になる、くらい思ってるんじゃないですか。デブはどうせ早死にするから金持ってても無駄だろ、みたいな想いがビンビンに伝わってくるんですよ。

こりゃあここに行くしかないな。気づくとデブはそう決意していました。市民掲示板の前でダラッダラに汗をかきながら、そう決意していました。そして妄想が広がります。

たぶん、僕はデブといっても入口程度のデブなはずですので、おそらくデブが大量に集まるダイエット教室の中ではスリムな部類に入るはずです。やはり魑魅魍魎の如くデブがひしめき合ってる中に僕が行くわけですから、他のデブは驚愕すると思うんです。

「ゲゲゲー!あんなスリムな奴でもダイエット教室に来るのか!」

「あんなスリムな奴に来られちゃ太刀打ちできねえよ」

「っていうか、あんなにスリムなのに来るなんて嫌味以外の何物でもない」

「ピザ食べたい」

こんな感じになって脂汗やら何やらラードっぽい感じになるに決まってる。デブどもが震え上がるに違いない。そこにデブの中ではスリムの部類に入る僕が颯爽と言うわけですよ。

「僕らは確かにデブだ。でも心にまで贅肉をつけてはいけない。一緒に頑張って痩せよう」

「ブヒヒ」(感動して言葉も出ないデブたち)

これですよ、これ。僕のようなややスリムがダイエット教室に行ってデブどもを牛耳る。僕にはもうこれしか残されていないのです。

早速、掲示板に書かれた内容を確認し、参加申し込みをします。なんでも男女別で日程が分かれているらしく、もちろん僕が指定された日時は男子の日。平日の夕方からのようでしたので、仕事が終わった後にデブ男どもに囲まれるのか、と正直身震いがしました。

いよいよ当日、仕事を終えるとブヒブヒと開催場所である市民なんとかセンターみたいな場所に行きます。僕デブなんでこの時点で汗ダラッダラになってるんですけど、とにかくデブとは言ってもスリムな部類のデブです、堂々たる態度で会場へと入っていきました。

するとまあ、いるわいるわ、若者からオッサンまでどうやったらこんなにデブが集まるんだよって感じでゴロゴロと歴戦の猛者みたいなデブが集ってるんですわ。映画なんかで子供が5人くらい集まると、大抵一人はデブなんですけど、ここは5人全員がデブ、意味わからんけどとにかくデブ。

ザッとロビーに入ってきた僕の姿にデブどもの視線が突き刺さります。視線も太かった。

「おい、なんだあいつ」

「確かにちょっとデブだけど、あれはスリムな方だろ」

「嫌味な奴、デルモ体型じゃん」

「ピザ食べたい」

こんな心の声が聞こえてくるようです。すまんね。でまあ、思いっきりかっこつけて、ロビーの隅っこで腕組みして開始時間を待ち、デキルやつみたいな自分を演出しておきました。デブですけど。

で、観察してると、どうも結構常連っぽいやつらが多い感じで、

「おや、お疲れ様です」

「相変わらずですなー」

「今日は暑い暑い」

みたいな会話が展開されているんですよ。ダイエット教室の常連という時点で、全く痩せられてなくて何かが大きく間違っている、そもそもこの教室って全く効果がないんじゃないかって気がするのですが、後にこの理由はわかります。

とにかく、受け付けを済ませ、いよいよ少し広めのスタジオみたいな場所に移動して開始となります。ワンフロアに大体10人ほどのデブでしょうか。床が抜けるんじゃないかとちょっと怖くなり、気持ち柱にしがみついていました。

すると、そこにレオタード姿の本気でモデル体型のお姉さん登場。すっげえ化粧濃かったけど美人でした。どうも、ちかくのスポーツジムみたいな場所のインストラクターっぽく、明らかに美人でデブを釣りに来てました。言っておきますが、こっちはデブが11人、1トン超えてますから。

で、この美人の登場にデブどもブヒブヒと大熱狂、僕もブヒブヒと大熱狂。こんな美人のレオタード姿が見れるなら何度でも来てもいい!とか思ってると、美人が自己紹介を始めます。

「今日は初めての人も何人かいるようなので自己紹介します!私はインストラクターです!結構厳しいので覚悟してください!趣味は音楽鑑賞とジョギング、あとガーデニングや漢方薬とかに興味あります」

とか、僕らのことをデブだと思って舐め腐ってどうでもいい自己紹介してやがりますが、けっこう口調的にサディズムの塊というかサダムフセインというか、なんかこう、デブを苛めるのに生きがいを感じてます!デブの生き血をすすって、デブの生き脂肪をすすって美貌を保ってます!みたいな雰囲気がムンムンに感じ取れました。

で、そのSっぽいインストラクターがおもむろに言うわけですよ。

「今から体脂肪率を測定します」

なるほど、痩せる前にまずは己を知れということか。なかなか理にかなってるじゃねえかって思うんですけど、係の者が持ってきた体重計がこれまた小さい。もっとこう、可憐なお嬢様が乗るんじゃねえのって感じの体重計。僕たちデブが乗ったらぶっ壊れそう。デブだと思ってバカにしやがって。

で、次々と測っていくんですけど、なんか、体脂肪率の高い順番に並べられていくんですよ。なるほどなるほど、普通、体脂肪率なんて恥ずかしくてあまり人には知られたくないものなんですけど、こうやって皆の前で大々的に公表され、おまけに体脂肪率順に並べられるという羞恥プレイ。この恥ずかしい気持ちこそが「痩せよう!」という気持ちに繋がるわけですな。多少問題ある感じがしますが、なかなか効果的な手法のような気がします。

でまあ、次々と並べられていくんですけど、やはりそこはデブの集い、体脂肪率20%後半がゴロゴロでてくるわけですよ。

「26.3%!」

「28.7%!」

「27.7%!」

男って筋肉多いはずですから、この辺の体脂肪率は確実にデブの部類です。そしてついに、僕が目をつけていた、最もデブっぽいオッサンの順番がやってきました。

「30.3%!」

ウオオーンというどよめきが聞こえました。いやデブしかいなかったのでブオオーンって感じだった。ついに驚きの30%越え、デブの大台に乗せる剛の者がでてきました。

やっぱどいつもこいつもデブだな、ここはいっちょデブの中でもスリムな部類の僕がかなり低い体脂肪率を叩き出してやってデブどもを震え上がらしてやる。まあ、震えると言ってもそれは脂肪だがな。プルプルとしてろ、ラードどもめ!自信満々に体重計に乗りました。

「33.5%!」

僕が、一番、デブ、でした。

いやいや、これ絶対におかしいですって。なんで体重計に足の裏しかつけてないのに全身の脂肪の量が測れるんですか。そんなわけないじゃないですか。絶対にランダムで数値出してますって。絶対おかしいですよ。こっちがデブだと思って20も30もかわんねーだろ、どっちもデブだって適当に体脂肪率出してますって。

っていうか、こやって皆の前で体脂肪率読み上げるっておかしくないですか。個人情報じゃないんですか。人権侵害じゃないんすか。デブには人権ないですか。僕一番デブですか。そうですか。ピザ食べたい。

心のどこかでこのデブどもめ、と見下してた連中の中で自分が一番デブだった事実に驚愕し、このクソデブどもが、何見てやがる!って憤りたい気持ちになりましたが、僕が一番デブなわけで。選ばれしデブなわけで。

その後、汗だくになってダイエット体操したりとか、痩せるための食事とか、どうしてもお腹がすいた時の対処法、などと色々教えてもらったのですが、あまりのショックにまったく覚えていませんでした。

ただ、教室が終わった後に、デブたちのボスみたいな人に誘われて皆でラーメンを食いに行ったのですが、みんな、すげえ勢いで替玉してて笑った。ラーメンの注文と同時に替え玉二つを注文する集団を初めて見た。こいつら痩せる気ないだろ。

なんでも彼らは別に痩せる気はサラサラなく、あのSっぽい美人インストラクター目当てで教室に通っている様子。なるほど、だから常連なわけか。

「痩せちまったら会えなくなるからな…」

そう言いながら替玉をすするボス格のデブを見て、いや金払ってスポーツジム行けば会えるだろ、このクソデブ、と思ったけど、それでも僕の方がデブという事実。

よし、僕もあのインストラクターに会うためにあの教室に通おう。漢方薬が趣味という彼女に珍しい漢方薬なんですよーって茶色いものを見せるために頑張ろう。デブでなおかつクズ、粗大ごみになってやるんだ。

「すいません、替玉!」

期待の新人ナンバーワンデブも替玉を注文した。


6/21 ファフロツキーズ

いい加減、そろそろ認めなくてはならない。僕らは常に「無視」と「認識」の狭間で揺れ動いていて、まるでシュレディンガーの猫が生きてる状態と死んでる状態が重なり合っている状態で存在するかのように、僕らの中で「無視」と「認識」は重なり合って存在する。

人は都合の良い事を「認識」し、都合の悪いことを「無視」する。けれども、これら二つは実は重なり合っており、都合の悪いことを無視してもそれは何も根本的な解決になっていないことが多々あるのだ。

例えば、空から馬が降ってきたとしよう。それも大量の馬がまるで雨のように降り注いできた。空から水が降ってくる現象ならば雨として認識でき合理的な説明もできよう。しかしながら馬が降ってくるとなると、ちょっとよそっとじゃ合理的な説明はできそうにない。馬がペガサスになり損ねて降ってきた、などと苦しい説明をするのが精一杯だ。

では、完全にこの事象を無視し、そもそも空から馬など降ってこなかった。とした場合、その現象を説明しなくて良いのだから大変都合がよい。けれども、そうやって無視したところでガンガン馬が降ってきているという事実は曲げようがないし、その最中も降りしきる馬の蹄が直撃して隣の婆さんが死んでいるかもしれない。無視をしたって何も根本的には解決しないのだ。

「認識」と「無視」が同時に存在する事象は、人間関係に置き換えると大変理解しやすい。「認識」とはコミュニケーションだ。一つの人間の行動に対してアクションとリアクションを起こすことが人と人の関わりであり、例えば、こちらが話しかければ答えを返してくれる。こちらが手を握れば握り返してくれる。人と人とのコミュニケーションとは、「認識」と相手の反応があってこそのものなのだ。

アクションとリアクションのやり取り、それがコミュニケーションの根幹であり、その最たる例が、恋人同士のやり取りではないだろうか。

「やだ、高志、目が腫れてるよよよよ〜、どうしたの?」

「昨日、泣いちゃってさ」

「えー、どうして?」

「芳江のことを思ってさ」

「え?わたし!?」

「そう、芳江をどうやって幸せにしようか考えてたら自分の無力さに泣けてきちゃってさ…」

「バカ…もう、バカ!」(芳江も涙ぐむ)

「俺、頭も良くないし稼ぎも良くない、イケメンでもないし、でも芳江を思う気持ちだけは誰にも負けない!」

「高志…」

「フォーユー」

とまあ、何がフォーユーだ、勝手にやっててくれよって感じなんですけど、このようなちょっとした恋人同士のやり取りにおいても、数多くのアクションとリアクションが存在するのです。質問に対して答えで返す、泣いてくれた彼を想って泣く、想いに応えるようにまた想う。そして二人は愛し合う、とまあ、何らかの不幸な事故で脳漿垂れ流して死んで欲しいくらいなんですけど、とにかく、人と人ってのはアクションとリアクションの応酬なんです。

日本人は、古来よりこのアクションとリアクション、言い換えればコミュニケーションを重んじる民族でした。これは僕が日本人だから特別そう思うのかもしれませんが、日本人はずっとコミュニケーションを超えたコミュニケーションに重きを置いてきたように感じます。

日本独特の「阿吽の呼吸」というのがまさにそうで、言わなくても分かってくれる、というコミュニケーションを超えたコミュニケーションを美徳とし、空気を読むという独特の作法、言葉と言葉の隙間の「間」の方が言葉よりも多くの意味を含んでいたりしたものです。これが鬼畜米英とかだったら「ファッキン!」とか叫びながら散弾銃でもぶっ放すのがコミュニケーションなのでしょうが、日本人は「沈黙」こそが何よりのコミュニケーションである場合があるのです。

例えば、こうやって書いてる文章でも、沈黙、つまり文章と文章の狭間の行間にこそ物事の真理が隠れている場合が多々あります。例えば僕が「女の子にモテない」「すごく寂しい思いをした」とか系の、34歳男性の心の叫びを日記にしたためた場合、それは文脈的に寂しい僕を見て欲しいという意味で書いてる訳ではないということです。

ホント、行間を読めないクズども多すぎてウンザリするのですが、本当はそういうの言わなくても機敏に感じ取って欲しいのですが、今日は特別に説明してあげます。いいですか、Numeriにそういった系の日記が登場した場合は、「patoさん、わたしと付き合ってください!好きです!」という女子からのメールを待っている、と行間で伝えているのです。その場合、いきなり素性も知らない人と付き合ったりはできませんから、軽い自己紹介、これはまあ、年齢と髪型とか誰に似てるかとか、携帯メールアドレスとか、そういうのも合わせて送って来いってことを行間で伝えているのです。あと、男がなりすましている危険があるので、使ってる化粧品の名称とか教えろって行間で伝えているのです。けれども、残念ながら行間を読める人が全然存在しない。これには大変失望しております。全然コミュニケーション取れてない。

言葉も行動も沈黙も、全てがコミュニケーション手段なわけですが、そこにもう一つ、さらに難しい手段が加わります。それが「無視」です。無視とは、もちろん、ある相手に対してその存在をあたかも無いものとして扱う行動で、「イジメ」などに多用される非常に陰湿でドロドロした行動です。

先日、電車に乗る機会がございまして、座る場所がなかったんで吊革に捕まって立っていたんですね。とある駅で電車が停まり、アナウンスが流れます。

「特急列車通過待ちのため3分間停車します」

そこでね、横でギャギャー騒いでいたガキが、なぜか急に僕に縋って来てですね、言ったわけですよ。

「特急ってなにかな?あずさかな?」

あずさって名前の特急が来るのかなってことなんでしょうけど、なぜかムチャクチャ僕の目を見ながら話しかけてくるんです。そりゃね、知らない子供ですよ。別に無視しても良かったんですけど、ここで僕に無視されたことで彼の心に大きな傷が残り、一生モノのトラウマにでもなったらどうしますか。そんな極悪な無視など僕にはできません。満面の笑みで答えてあげましたよ。

「あずさかなー?かいじかもしれないぞ?」

特急あずさじゃなくて特急かいじかもしれないぜ?っていう、彼の話に反応しつつ、全てを肯定するわけではなく彼自身の成長を促す、そんな素敵な返答だったように思います。その瞬間ですよ。

何とクソガキ、僕のこの返答をガン無視。ガン無視して一人でキャッキャ遊んでました。な、なにごとだーって思ってそのガキを連れてたお母さんの顔を見たいんですけど、お母さんも視線をそらしてガン無視。なんか僕が変質者みたいな空気が車内に流れてるんですよ。

そこに、反対のホームを特急列車が通過。僕の指摘通り特急かいじでした。

「やっぱり特急かいじだったねー」

もう引き下がることもできず、そう言うしかなかった僕は、傍目に見ても声かけ事案に該当する変質者でした。このガキがやったように、無視とは非常に陰湿で相手の人格すら崩壊させかねないものなのですが、ではなぜ、この「無視」がコミュニケーションに該当するのか。

ここに、ある中年会社員Pさんがいたとします。Pさんは仕事熱心とは言わないまでも、比較的真面目に会社に行き、同僚が困っていれば助けてあげ、同僚がものすごいキムチの臭いを放っていて、オフィス全体が言いたいけど言えない状況で悶絶している中で、その同僚に「キムチ臭いよ」と言えるだけの勇気と行動力、まっすぐな正義感を兼ね備えていました。

Pさんのオフィスは隔離されており、誰もいない中でポツンとして仕事をしていることが多いのですが、なんか訳変わらない秘書的な女に無視されながら一生懸命仕事をしている訳なんですよ。ホント、Pさんってホント健気ですよ。

でもどうしても、Pさん、人の温もりが恋しくなるみたいで、何かにつけて、やれ自分の部屋のプリンターが壊れたから印刷させて、やれ隣の部屋にまで臭ってくるくらいキムチ臭いぞ、やれ不要になったストッキングをくれ、と隣のオフィスまで突撃をかけるみたいなんですわ。隣のオフィス、比較的若い娘っこが多くて仲間に入りたくて仕方ないみたいなんですわ。

でもまあ、Pさん、当然のことながらゴリッゴリに無視されていまして、いくら女の子とかに話しかけても女の子が三十三間堂の仏像みたいな悟りを開いた状態になってましてね、かわいそうなくらいに無視されているみたいなんですわ。

でもまあ、その程度の無視だけなら別に良くて、Pさんもその場では笑って「まいったなー」とか言いつつ家に帰って泣く、そいでもって夜な夜な職場女子トイレの三角コーナーを漁って舐め取る類の妖怪になりたい、みたいに決意することができるんですけど、さすがに心にきた事件があったみたいなんです。

その日もいつものようにPさんが、決して僕ではないですけどPさんが、メスの臭いでも嗅いできますかなーって軽やかさで隣のオフィスに入っていったそうなんです。そしたら、さっきまでワイワイ騒いでいた桃色オフィスが急にシーンとなっちゃいましてね。古来より日本ではこうやって騒がしい場所が急に静かになる現象を「霊が横切った」なんて表現しましてね、こりゃとんでもない霊が横切ったもんだ、夜ごとタンポンを舐め取ってるクラスの霊が横切ったんじゃねえかってくらいの静まりをみせたんです。まあ、完全なる「無視」ってやつですよ。

で、そんなのはいつものことなんですけど、Pさんも平然と言った趣で、今テロリストが入ってきてこいつら全員裸踊りさせられる、とか妄想しつつ書類をコピーしていたんですね。そしたらまあ、さすがにそんな長いこと沈黙していられないみたいで、そのうち、

「何時に集合?」

「何着ていく?」

「佐々木さん(職場のイケメン)も呼ぼうよ!」

みたいな会話がチラホラ聞こえてくるんですよ。こりゃこいつら、仕事が終わったら皆で飲み会的なものに行く気だな、って直感が走りましたよ。でまあ、僕が誘われないのはいつものことなんで、特に気にする様子もなく

「あーあ、今日も暇だなー、スケジュールあいてるなー」

みたいなことをチラッチラッとアピールしてみたんですけど、当然ガン無視。これはもう、B'zが出てきてもおかしくないレベルでBAD COMMUNICATIONなわけなのですけど、まあ、そんな無視、別に今に始まったことじゃないんでいいじゃないですか。気にすることもなく元の隔離部屋に戻ったんです。

で、なんとか仕事が終わる時間になり、ちょっとフライング気味に帰宅した僕、今頃みんなは楽しそうに飲み会で親睦を深めてるのかな、とか考えると急に寂しくなってきちゃいましてね、なんだか涙がホロリ。で、このまま家に帰って一人でコンビニ弁当とかモソモソ食ってたら惨めすぎて死んでしまう。それだけは絶対に避けなければならない!と何故か発奮しちゃいましてね、一人で焼き肉食いに行くことにしたんですよ。

一人焼肉って実はムチャクチャ敷居が高くて、何故か知らないけど焼き肉とか鍋、バーベキューそういったものって皆でワイワイやるのが定番じゃないですか。特に焼き肉屋なんて家族連れかうるさい学生グループ、セックス前のカップルくらいしかいなくて、単身突撃してる人ってあまりいないんですよ。

けれども、どうしても肉を焼いて食いたかったですし、かといって一緒に行ってくれる人もいない。それならばもう、一人で焼き肉に行くしかないだろうってことで、特に家族連れで賑わってそうな焼肉屋にいったんです。

で、行くと店員の人が「おひとり様ですか?」って三回くらい聞き返してきてくれまして、なんかすごい気を使ってくれたのか奥の方の席に案内してくれました。どう見ても四人で楽しく肉を焼く席なんですけど、一人ポツンと座って牛タンを焼きます。

なんか救いだったのは左右には完全な壁と言わないまでもスダレみたいなものがかかってまして、人の気配とか声とかは分かるものの姿が見えない状態になってたので、周りの人に「あの人ひとり、クスクス」とかいわれることはあまりありませんでした。

けれども、まあ、通路の方を見ていると、席に案内されるカップルの姿とかチラチラ見えましてね、昔から焼肉に来るカップルはこの後セックスをするなんてのが定説でして、そうかあ、この女がこの後セックスするのかーって感じで異様に興奮してきて、色々とビンラディン。ビンラディン死んじゃったけど。

で、興奮しながらホルモンとか食ってたんですけど、なにやら様子がおかしい。ちょっと前から隣の先に結構な人数、大テーブルを使って10人前後の人間がやって来たっぽいんですけど、何やら様子がおかしい。スダレがあるんで姿形は見えないんですけど、話してる内容とか声とかを総合的に解析すると、どう好意的に解釈しても職場の連中が来てるっぽいんですよ。もちろん、隣のオフィスの無視していた連中ですよ。

いやいやいや、明らかにおかしいじゃないですか。なんで僕を無視したあなたらが横のテーブルにいるんですか。っていうか、マズイ、非常にマズイ。この状況はまるで僕が誘われなかった腹いせに、同じ店まで尾行してきたみたいな状態になっている。非常にマズい。とんでもなくマズい。下手したらストーカー騒ぎだ。

とにかく落ち着いて、スダレがあるから大丈夫とはいえ警戒するに越したことはないのでクソでかいメニューで顔を隠しつつホルモンを焼く。ホルモンの油が引火して大きな炎を上げるたびに「見つかるからそんな派手にしないで!」とヒヤリハット。ホント、一人で焼肉なんか来るんじゃなかった。

でまあ、ちょっと落ち着いてきて隣のテーブルの会話を聞き耳立ててみるんですけど、明らかに僕の悪口言いまくってるんですよ、これが。どうも皆で僕のことを「カムチャツカ」っていう意味の分からないニックネームで呼んでるらしく、どんどん短くなって「カムチャ」とかヤムチャみたいな発音で言われてました。夜、女子トイレ行ってタンポン集めてそうとか、ピータンっぽい匂いがするとかムチャクチャ言われてた。肉焼きながらすげえ楽しそうにカムチャの悪口言われてた。ホント、馬でも降ってきてこいつら死なねえかな。

いやね、思ったんですよ。悪口とか別に良いんですけど、そりゃ僕も女だったら僕の悪口滅茶苦茶言うでしょうから別に良いんですけど、彼女たちは僕を無視できていなかったんです。わざわざ仕事帰りに焼肉に来てまで、ずっとカムチャの悪口を言ってるんです。これはね、もう、逆に僕のことが好きで好きで仕方ないレベルですよ。なんだよこいつら、俺のこと好きなんだろ、カムチャはホルモンを平らげてコソコソと帰るのでした。

無視とは、相手を認識しているからこそできる行動であり、むしろ普通に会話したり触れ合ったり以上に相手をバリバリに意識していないとできないコミュニケーション手段なのです。「無視」と「認識」は相反しているようで、同時に重なり合って存在するのです。つまり、意図的に無視しても何の解決にもならず、むしろバリバリに認識している状態に他なりませんので、いい加減、僕も無視することが無意味なように思えてきました。

ということで、周りから「お前絶対アレだろ」「絶対やばいって、アレだよ」と指摘され続けてきて、その度にその指摘を無視し。気づかないフリをしてきましたが、いい加減認めます。

そう、わたくし、pato、一年で30キロ太って立派なデブになりました。

もう認めたくなくて、体重は30キロ増えたけど、たぶん僕は肉の密度が人より高いからそんなにデブじゃないはずだ、とか自分を誤魔化し、あろうことか、街を歩く少し太った人を見て、この人まではいってないから大丈夫、と自分を誤魔化してきました。けれどもそれでは何も解決にはなっていない。

ここに宣言します。Numeriのpatoはデブです!

無視と認識は、相反する事象が同時に重なり合った状態だ。けれども、今はこの重なり合った肉の方が問題だ。


4/20 優しさのレオロジー

人の優しさに触れるということはいくらかの戸惑いを覚えることなのです。この世の中は実は優しくない要素で構成されていて、例えば、僕が引っ越したばかりの一人暮らしの部屋で、異常に天井の低いロフトという名のエクストラルームにまだ慣れず、朝起きるたびに天井に激しく頭を打ちつけ、身悶えて脳挫傷になりそうな生命の危機を毎朝迎えていたとしても、誰も気に病んでくれないし、ふーん、あっそ、死ねば?くらいのものなのです。

それどころか、一人で寂しい、もう僕も齢34で周りの同い年の連中は家庭を持ち、子供を設け、今日は子供の入園式とかルンルン気分で有給を消化しているというのに、かくいう僕はエロビデオのレビューを書くから、貯まってんだ原稿が、と有給を取る始末。別にそれはそれでかまわないのだけど、たまに松屋でカルビ定食を食っててふいに外を見て、幸せそうな家族やらアベックなんかがいると、心に穴がポッカリ開いた気分になるのです。そんな寂しさを吐露したところで、別にカワイイ女性が全身にチョコを塗りたくって全裸で来てくれる訳ではありませんし、ふーん、あっそ、死ねば?くらいのことしか思わないと思うのです。

この世は優しさで構成されている、君は一人じゃない、なんて言うかもしれませんけど、この世は優しさで構成されていませんし、僕は一人です。それは別に僻んでるわけでもなく失望しているわけでもなく、歴然たる事実がそこにあるだけなのです。人はそんなに人のことに興味がないし、この世は優しさでなんか構成されていない。

多くの人が、人々の優しさに触れた時、戸惑い、そして感動するはずです。それこそがこの世界が優しさで構成されていないことの証左なのです。本当にそうであるならば、一つの優しさなど取るに足らないこと、まるで当たり前にそこに存在するはずなのです。たとえば、あなたはウンコをしたら感動しますか。便秘気味な女性なら感動するかもしれませんが、僕のように何度となくウンコをする人間にとってはウンコなど取るに足らない出来事、呼吸と同程度の存在でしかないのです。

つまり、優しさに戸惑い、感動を覚えるというのはこの世界において、いやアナタの周囲において優しさが珍しく希少な存在であるということなのです。優しさに感動するより先に、感動するほど優しさが少ない自分の状況を嘆くべきなのです。

そういった前置きを踏まえて、先日感動した話を書きますけど、ついこの間、1年の間に2回しか更新しなかった2010年の沈黙を破り、連続更新をぶちかましたじゃないですか。24時間の間に沢山更新して指が痙攣起こしたんですけど、別に全然更新しなかった2010年も怠けていたわけじゃなくて、こう、なんていうかビクビクしながら過ごしていたんですよ。

何にビクビクしていたかって、アナタたちにですよ、アナタたち。ホント、アナタたちは鬼が産み落としたんじゃないかってくらいに鬼の子ですから、こうなんていうか、電車で老婆とか見たら殺しちゃうんでしょ?それくらい鬼じゃないですか。で、1年に2回しか更新しないというある意味益荒男ぶりを発揮していた僕に、沢山の辛辣なメールを送ってきたじゃないですか。忘れたとは言わせません。

「早く更新しろ、死ね」

「とにかく死ね」

「毎朝死ね」

「ちょっと大きい市の市役所の手続きみたいに淡々と事務的に死ね」

とか狂ったように送ってきたじゃないですか。どういうもん食って育ったらあまり知らない人に「死ね」なんて送れる子に育つのか分かりませんけど、さすがの僕も「死ねとは手厳しいですな、ゲハハハハ」と最初の頃は程よく反応してましたけど、そのうちメールを見なくなっちゃったんですわ。そりゃそうですわな、ある小部屋に入るとエンドレスで狂ったように死ねって言われるアトラクションがあったとしたらどうしますか。最初は面白がって入るかもしれませんけど、そのうち入らなくなりますよ。

Numeri経由で来るメールってのが大体、メールフォームからくるもので、そのメールフォームから来るメールには「Numeriメール」っていうタイトルがつくんですけど、数あるSPAMメールに紛れてくる「Numeriメール」という題名のメールがくるじゃないですか。そうするとまた死ねって言われるんじゃないかと恐ろしくてですね、「ヒィ!」とか奇声を上げて震え、布団をかぶって夕方まで寝てる、なんて状態が続いたんですよ。

そんなこんなでメールチェックすら恐ろしくてできない日々が続き、それでも一日に来る量が半端じゃないですから、数日メールチェックしないとメールボックスがパンクしちゃうんでメールチェックするじゃないですか。でもね、どうしてもメールフォームから来る「Numeriメール」だけは開けなかった。

でね、ついに先週、連続更新にて復活したわけなんですけど、それでもやっぱり怖いわけですよ。皆さんは僕のことをビッグスクーターにまたがって夜な夜な暴走族の頭蓋骨を叩き割って回ってる豪胆な男だと思ってるかもしれませんけど、本当は繊細でナイーブなんです。こう、連続更新を終えてもビクビクしてたわけですよ。

「テメー、1年も待たせてなんだあの更新は、死ね」

「連続でやればいいってもんじゃねえだろ、死ね」

「更新してんじゃねえよ、死ね」

「pato、さよなライオン」

「【拡散希望】大至急拡散してください!pato死ね!」

みたいなメールが山ほど来てて、もう身も心もズタボロにされるって恐れていたんです。もう怖くてメールチェックすらできなかった。絶対に連続更新を受けて発奮した鬼の子どもが狂ったように死ねメールを送ってきてると信じて疑わなかった。

けれどもね、やっぱメールチェックしないってわけにもいきませんから、おっかなびっくりな感じでメール受信をし、「きゃ!」とか乙女みたいな声を出しながらおそるおそるメールボックスを覗いてみたんです。

そしたらね、きてないんです。

そりゃあ「ムネダル人妻の不倫願望通信」みたいな意味の分からないスパムメールはアホみたいに来ているんですけど、なんだムネダル人妻って、で、その中に「Numeriメール」がないんです。もちろん、「Numeriメール」がないんですから「死ね!」なんていう鬼の子のメッセージもないんです。

これはね、皆の優しさだと思いましたね。もちろん皆さんも許せない思いがあったと思います。patoのヤロウやっと日記を書きやがったか、とか、なんだその内容は、とか、つまらん、お前の日記はつまらん、とか不満な部分は多々あったと思います。けれども、長いこと日記をお休みしていたんです。どんな人でもpatoの状態が著しく不安定なんじゃ?と心配になるはずです。そこであまり辛辣な言葉を投げかけたら大変なことになってしまうんじゃ…なんか、そんな皆の優しさが見えたようでした。

本当に皆さんは成長したものです。一昔前なら、街でpatoを見かけたら矢を放ってよい、なんてことが真剣に話されていたくらいですから、それから考えると大変な進歩。大きな一歩。このNumeriメールが全く来ないっては本当に皆さんの気遣いや優しさなんだと思います。

Numeri開設10年になろうかというこの時期に、初めて閲覧者さんの優しさに触れてしまい、戸惑いと同時に感動を覚えたのです。世の中ってのはやっぱり優しさでは構成されていないんだけど、それでもたまに触れる優しさがあるから生きていけるんです。

その優しさってのは、実は受け取るほうだけじゃなく与えるほうにも重大な役割を示すことがあります。以前、僕が職場で隔離されてる話は書いたと思います。広いオフィスに一つ机を置いてポツンと座り、インターネットの線すらきてないのでどっかの無線LANの電波を勝手に拝借して職場ネットワークに繋いでるのですが、その職場に同じく皆に嫌われているような女性が配属されてきたんですね。

まあ、この女性がブスでしてね、僕も人の容姿をとやかく言える立場にはないんですけど、とにかくブス。一応、僕の秘書みたいな感じになるのですが、他の秘書がついている同僚にはマドンナ古文みたいな女性があてがわれているのに対し、なぜか僕だけブス。それも男同士の絡みとかそういうマンガが好きそうなブス。美男子同士のラブシーンに「ムッハー!」とか言ってそうなブス。とにかくブス。

でもね、別にブスだとかそういうのいいじゃないですか。いい加減そういうのやめませんか。ブスだブスだと祭囃子のように囃し立て、自身の運営するサイトに書き連ねる、そんなことして何になるっていうんですか。もうそうんな時代じゃないんですよ。優しいインターネットの時代ですよ。

とにかく、ちょっと容姿が劣るその女性が秘書についたのはいいんですけど、こいつが色々と酷い。秘書のくせに全然仕事しない。いや、仕事しないのは僕も言えた義理じゃないんでいいんですけど、なんていうか明らかに反抗的過ぎて恐ろしい。秘書ってもっと色々と献身的にサポートする立場じゃないんですかって質問したくなるくらいに酷い。

「ちょっとお願いしたいんですけど、この書類を郵便で送っておいてもらえませんか?」

みたいに、僕が物凄く下手に出て媚びへつらってお願いするんですけど、

「今忙しいんで」

と断られる始末。忙しいという彼女のパソコンの画面には多分、ネットで公開されているボーイズラブ小説。そのうち彼女が「臓物が痛い」という良く分からない理由で三日に一度は休むようになり、「明日は大切な会議があるので休まないでくださいね」と僕が彼女のスケジュール管理をする始末。どっちが秘書なんだかわからない。

おまけに、どういった類の嫌がらせなのかちょっと理解できないんですけど、ある日、仕事場に行くと入口のところにデーンと「ペットの消臭元」が置かれてましてね。それも二個。「あんた臭い!」っていうアピール程度の嫌がらせなら我慢もできますけど「それもペットの臭い!」って部分が本当に傷ついた。さすがの僕もあまりに腹が立って「やなやつ!やなやつ!やなやつ!」とか憤慨しながら職場の廊下を歩く状態でした。

そんな感じで秘書との確執がシャレにならないレベルに達したある日、事件が起こりました。ちょうどその日は午後から出張で飛行機に乗らねばならず、空港へと向かうシャトルバスの時刻が知りたくなったのです。それで調べてもらおうと思ったのですが、残念ながら秘書の方はネイルを塗るとかなんとかで遅刻の様子。僕も別の仕事がありましたので「お忙しいところを申し訳ありませんが、シャトル便について調べておいてください」とメモを残していったんです。

で、2時間くらいして戻ってみると僕の顔を見てメモのことを思い出したらしく、いきなり調べだしたんですね。で、何かブツブツ言いながらパソコンに向かって検索してるっぽいんですけど明らかに「シャトルベン、シャトルベン」って言っておられるわけなんですわ。どんな検便だ。

明らかにシャトル便のことシャトルベンって読んでる事実に戸惑いつつ、じゃあ郵便とかはユウベンとか読むのかしら、便箋とかはベンセンなのかしら、とんでもないお人だ、などと悶々としていたら、二人しかいないオフィスにとんでもない音が響き渡ったのです。

プー

文字で書くとこうなっちゃうんですけど、現実にはもっとこう、生々しいというか、生命の息遣い的な感じというか、あえていうなら「プ」と「ブ」の中間みたいな音声がオフィスに響き渡ったんですよ。早い話がオナラです。

この事実を踏まえ、恐ろしいほどの頭の回転で推理するんですけど、オフィスに響き渡るオナラ、この部屋には二人しかいなかったという事実、そして僕はオナラをしていないという事実、それらを総合すると犯人が一人しかいないんです。そうです、犯人は彼女、秘書の彼女なんです。

もうこの事実に完全に狼狽してしまいましてね。いくら彼女がブス、じゃないや、少しだけ整形を必要とするような容姿の人、だと言いましてもね、ホモが活躍するマンガが好きだとしましてもね、20代前半のお嬢さんなわけなんですよ。そんな彼女が殿方の前でオナラをする、それがどれほどのことかわかりますか。

どうしようどうしよう、ここは「おやおや〜、仕事はできないのにいっちょ前に放屁だけはする秘書さんがいるようですな〜」とか「秘書さんがオナラという飛び道具とは恐れ入った、こりゃあ秘書じゃなくて飛車ですな!」とか「ロケットのようなオナラ!まさにシャトルベン!」とか徹底的に彼女を辱めることができる、小生意気な彼女を辱めることができる、などと発奮してしまいましてね、なぜかデスクに座ってハー!ハー!と荒い息遣いをしておりました。色々とギリギリchopと言わざるを得ない。

で、どうやって彼女を辱めるべきか考えていたんですけど、そこでふっと思ったんです。こうやって彼女を辱めることは簡単だ。でも、そうすることで憎しみの連鎖が起こるんじゃないか。憎しみとは悲しみだ。憎しみの連鎖は悲しみの連鎖しか起こさない。ここはその連鎖を優しさで食い止めるべきなんじゃないだろうか。

この世はいつだって憎しみと悲しみがリフレインしています。そんな中にあって、それを食い止めるのが優しさなのかもしれません。それこそがたまに見ることができる優しさなのでしょう。へへ、ちょっと紳士的にふるまってやるか。シャトルベンの時刻表を調べた彼女が、プリントアウトした紙を持ってこちらにやってきます。オナラをしてしまったという負い目からか、少し顔が赤く、目も合わせてくれません。そんなに恥ずかしがることはないよ。僕が優しさで包んであげよう。

「いやー、ごめんね、すごいオナラでちゃったよ。ちょっと出ちゃったしね!」

と、入学式の時におしっこを漏らした堀田君みたいなバツの悪い笑顔で言ってみました。ちょっと舌を出しておちゃめな感じで言ったくらいです。明らかに彼女がオナラしたんですけど、その罪を背負い、さらにはちょっと身が出たとまでカミングアウトする僕の優しさ。

やはり、彼女は僕の優しさに触れ、驚き、戸惑い、感動していました。なんだかその顔を見ていたらこれからこのこと上手くやっていけそうな、そんな気がしてきました。

彼女が入口に向かい、そこに置かれた二つのペット消臭元を手に取ります。たぶん、僕の優しさが心に響いて、私ったらなんであんな優しい人にこんな嫌味なことしちゃったんだろう、もう、バカバカって思ったに違いありません。やはり世の中、たまの優しさですよ。たまにだからこうやって人の心を動かし、すべてが良い方向に向かうのです。

と、思ったら、彼女、手に取ったペット消臭元をバンバンと二つ僕のデスクの上に置くじゃないですか。まるで、本当に僕がオナラをぶちかまして臭いのはテメーだ、と言わんばかりに!テメーはペット級の臭さだと言わんばかりに!こんのブス!

ツカツカと、まるで同じ部屋の上司がオナラをぶちかますセクハラ男でかわいそうなワタシとでも言わんばかりの後ろ姿で自らのデスクへと戻るブス。せっかくの優しさを踏みにじられ、ついでに罪まで被せられ心底落胆したのでした。

こうやって、優しさとは往々にして踏みにじられることがありますが、やはり常日頃からの優しさではなく、たまの優しさこそが人々に戸惑いを与え、感動を与え、行動を変えるのではないでしょうか。常に優しさが満ち溢れていたら、それが当たり前で何の効果もないのです。

ブスには届きませんでしたが、僕には皆さんの優しさ、辛辣なpato死ねなどのメールがメールフォームから届かない優しさに目が覚めました。やっぱpato死ねなんてそんな軽々しく言ってはいけない言葉ですよ。ホント、素晴らしい閲覧者さんたちだ。アナタたちは僕の誇りだ。などとNumeriのトップページを眺めながらウットリしていたら、リニューアルの際にメールフォームを付け忘れていることに気が付きました。

だから辛辣なメールが来なかったのか。ホント、メールフォーム付け忘れるとかpato死ね!


4/9 #21/誰かのために?What can I do for someone??

ということで約24時間にわたってお送りしてきたリアルタイム連続更新。いかがだったでしょうか。日記自体書くのが半年振りで、ちょっといまいち調子を取り戻せない部分もありましたし、本当はAKBアルバム曲も全部タイトルにして更新しようと思ったのですが、思いのほか体力を消耗してシングル曲だけになってしまいました。アナルシティにいたっては続きすら書いてないですし。

何かと大変な昨今、特に東日本の人は、何か気分が落ち込んでいたり、すこし暗い感じになっていたりするかもしれません。そんな人が一連の更新を読んで、少しでも楽しい気分になっていただけたのなら嬉しいです。僕のような一人の人間ができることなどたかが知れてますし、本当にそれが誰かを楽しませているかはいささか疑問ですが、少しでも役に立っていたら幸いです。

今回、被災された方々や被災地の一日も早い復興を願ってやみません。そして、もし、戻ってきたとき、これを読んで少しでも楽しい気持ちになってくれたら、やってよかったなあって思います。いつも恥ずかしいので連続更新分は終わったらログ消すんですけど、今回はログを残しておきます。

今回の連続更新の間に回ったカウンターの数の分と広告収入分を日本赤十字社を通じて被災地に義援金として送金したいと思います。長時間にわたり、お付き合い頂きありがとうございました。次回からは通常の更新となります。

2011.04.09 Numeri pato


04/09 #20/Beginner

(ヤマ文明さんよりメール)連続更新となるともう恒例ですよね。いつもはフォントを弄らないpatoさんが思いっきりフォント弄って日記書いてください。お願いします。

ハッキリ言って、フォント弄りってムチャクチャ高等テクニックですからね。使い方を間違えると思いっきり寒い寒い、その寒さは平坦な文章の何倍にもなるっていうリスクがあるわけで、そのリスクを掻い潜って決まったときには何倍もの効果が得られる。ハイリスクハイリターン、それがフォント弄りてやつなんですよ。

つまり僕はそんな高等テクニック使いこなせないビギナーですから、手堅く平坦な文章を心がけています。しかしながら、こういう連続更新の際にはけっこう色々なことにチャレンジしやすいので、しっかりとフォントを弄って日記を書いてみたいと思います。

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この間、Numeriを読んでますっていう風俗嬢の方からメールをいただいたんです。風俗嬢ですよ。風俗嬢

なんでも、いつも待機の時間にNumeriを読んでいて、すっごいpatoのファンで、もうモンモンとしてるらしいです。皆さん、これは一大事ですよ

女性が悶々としている、皆さんは何で男がこの世に生れ落ちてきたかご存知ですか。女性を悶々とさせないためです。

でまあ、色々とその風俗嬢の方と会話するんですね、お店の名前とか場所、なんていう名前で働いているかみたいなことをそれとなく聞き出し、早速インタ〜ネット検索。

なるほどなかなかセックスの武勲が高そうな女性が出てきました。こうなかなかジョイフルなおセックスを信条にしてそうな良さげな女性です。でまあ、そこで色々と風俗裏話みたいなのを聞いたんですけど、なんでもマナさんの店は待合室に監視カメラがついていて、その映像をプレイルームのテレビをチャンネル2に合わせることで見られるらしいんですわ。

で、そこで映像を見て、指名してきた客が知り合いだったり、あまりにキモい客だったりした場合は、店員にNGをだして、急に体調不良になったとか生理がきたとかいってキャンセルするらしいんですわ。でもさー客がずっと携帯電話とかみて俯いてたら顔とか分からないじゃんって指摘したら、そういう時は店員がおトイレ大丈夫ですかとかどうでもいいことを話しかけて顔を上げさせるらしいです。

そんな楽しい会話をかわしつつ、そろそろお仕事なのでってことでマナさんとの会話は終わったんですけど、マナさんが最後にメールを送ってきたんですよ。

「patoさん、よかったら今度お店に来てくださいね」

あのですね、patoにこんなくと言ってはいけません。いけません。もう次の日には飛行機のチケットとってお店に予約の電話してしっかりマナさんを指名してました。

内緒で行って、いかがわしいことして、プレイが終わった後にだって明かして、ついでに アナルでも弄ってくれんかのー って頼もうと思ってたんです。

で、店に行って拘束痴漢コースってのをチョイスしてマナさんを指名。待合室で待ちながら携帯電話でマナさんとのメールのやり取りを眺めていたら店員に

「おトイレ大丈夫ですか?」

とか言われました。どれだけ子ども扱いですか。大丈夫です。で、しばらく待っていたら、また店員がやってきて、衝撃の事実を告げられたのです。

「マナさん、前のお客さんが激しすぎて急に体調不良になりまして」

なんだ、せっかく来たのに、でも体調不良なら仕方ない、とラーメン食って帰りました。

おわり

 


04/09 #19/チャンスの順番

この間、twitterでこんな呟きを書いたんです。

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pato_numeri

出会い系サイトから色々な「人妻です…」とかアホみたいにメール来るんだけど、「犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。」ってメールが来て面食らった。中身開いてみたら「ワン!ワンワンワンワンワンワン!」って書いてあった。出会い系サイト来るところまで来ちまったな
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これが何故か好評でして、今見てみたら814人にリツイートってやつされてました。みんななにやってるんですか。

でまあ、単純にこのメールを変なメールだねって一笑に付すだけならそれでいいんですが、よく考えたら変じゃないですか。普通、出会い系サイトってもっと肉欲的な内容で訴えかけてくるというか、下半身に訴えかけてくるというか、おセックスのチャンスを訴えかけてくるもんじゃないですか。死ぬほどスパムメールが来る僕のメールボックスから代表的なのを抜粋しますけど

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彩愛 さん

タイトル:彩愛(あやめ)って言います。初めまして。

私はエステのマニアでエステだけの数千万は使いました。良く言われるので先に言っておきますが整形は一箇所もした事がありません。女磨きで私はエステに通ってるんです。男の人からエッチな目で見られるのが私にとって生き甲斐なんですよね。でもエッチな目で見られても尻軽と言う風には思われたくはないのでエッチはしたりはしないんです。かと言ってエッチは全然したくないって言う事では無いんですよね。周りの人にはずっと高嶺の花のままでいたいのでこう言う場所で裏のエッチな私を曝け出したいと思って登録をしたのです。カラカッサさんの前なら私の裏を曝け出しても良いですか?
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どうですか、これ。まずエステに数千万使ったという事実で金ならあるというアピール。で、エッチはすきだけ誰とでもするわけじゃないけどでも誰とでもしたいというわけの分からないこと言ってますが、こうやって金、セックスとガンガンに欲望に訴えかけてくるのが普通なんですよ。

しかし、この会社はおかしい、なんで犬からのメッセージが来てるんだってことで、ちょっと10万通以上に及ぶ僕のスパムメールフォルダーに検索をかけて、同じ会社から来ているメールを探してみたんです。

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森下香美さん(25)よりメールが届いています。

初めまして♪
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最初に来ているのがこのメールでした。どうやら最初こそはまともに騙すチャンスを狙っているサイトだったみたいです。

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◇琴乃さん(31)よりメールが届いています。

携帯電話の画面を見ながらずっと返事を待ってますが。。 5分だけでも会って話してみませんか?
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こんな感じでかなりスタンダードな感じのメッセージが沢山来ていました。それでも全然人が釣れなかったのか、次第にエスカレートしていきます。

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◇みるくさん(20)よりメールが届いています。

みるくがキターーー(゜∀゜)ーーーー!!!!!'( ゜д゜)ノ ヨロ
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こんな顔文字がうざったい感じのメッセージが来て、そろそろ何か異常な感じになってきます。で、

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全 智賢 "チョン・ジヒョン"さん(31)よりメールが届いています。

アニョハシムニカ?私、日本人ではないです。でも、出会い欲しいです。
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と訳の分からない方向へ。そして

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渡辺真奈美さん(25)よりメールが届いています。

血ぃ吸うたろか?
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なんともいえない感じに変化し、

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専業主婦☆53歳さん(53)よりメールが届いています。

子宮連絡を下さい。
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もう何が何やら。ムカつくことに、この専業主婦がシリーズになってて

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支給連絡を下さい。
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早く!死球連絡を下さい!!
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と立て続けに来ていました。お前絶対にわざとやってるだろ。

で、いよいよ何かがおかしいとなったその時、ついに冒頭の犬からメッセージが来ていたのです。

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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。

ワン!ワンワンワンワンワンワン!
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腹が立つことにこれもシリーズで来ていて

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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。

ワン!ワンワンワン?
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。

ワン。ワンワン(笑) ワンワンワンワンワンワンワン?
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犬 ←本物です。さん(20)よりメールが届いています。

ワッフゥ〜ン。
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微妙に文面が変化しているのが本気でイライラする。とくに最後の喘ぎ声みたいなのが本当にイライラする。どうなってんだ、この会社は!って憤っていると、同じ会社からもっとすごいのが来ているのを発見してしまいました。

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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。

いい加減にしろ!この星を滅茶苦茶にしやがって!オメェたち、一体いくつの星を壊せば気がすむんだ!
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もう意味が分かりません。完全に頭がおかしくなっとる。というか、孫悟空さんが33歳だっての初めて知りましたし、男から来るとは思わなかった。もうどうなってんだこの会社って思いながらも、孫さんからは次々とメッセージが来ていて

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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。

やっぱどう考えてもこれしか…地球が助かる道は思い浮かばなかった。バイバイみんな!
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何故か決死の覚悟ですし、

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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。

クリリンのことか…クリリンのことか―――っ!!!!!
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何故か叫んでますし

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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。

これはクリリンのぶん!!
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何故か殴られました。

もう最近の出会い系サイトは本当に来るところまできちまったなーって思いつつ、最後に孫さんから来ていたメッセージを読むと


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孫悟空さん(33)よりメールが届いています。

素晴らしい!ホラ、見て御覧なさい!ザーボンさん、ドドリアさん、こんなに綺麗な花火ですよ…
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それは孫悟空さんのセリフではありません。


04/09 #18/ヘビーローテーション

龍亜種(ドラゴンアッシュ)先生、ついにBL界に電撃参入!

マンガ

マンガ

マンガ

 


04/09 #17/ポニーテールとシュシュ

ここ半年ぐらい職場でんぽ僕の扱いが酷いものになってて、色々な行事に参加させてもらえないとか、酷い陰口を叩かれるとか、これまでの酷い扱いにも幾分か慣れてきたんですけど、こうなんていうか、最低限みんな社会人としての自覚を持っていたというか、そりゃあプライベートの飲み会やイベントでは酷い扱い受けてますけど仕事上ではちゃんと扱ってもらえたんですよ。

やっぱみんな酷いけど社会人としての自覚はあるんだなって感じで、僕が渡した書類も汚物扱いせず、ちゃんと受け取ってもらえたんです。

けれども、この間、模様替えがありましてね、ちょうどその日、僕は肝臓が痛くて病院に行ってたんで休んでいたんですけど、次の日に行ってみるとしっかりと模様替えというか配置換えが終わってました。

で、どうなっていたかっていうと、僕ともう一人の女性だけ隣の部屋に移動させられてて、後はみんな元の部屋にいるみたいな鉄壁の布陣になっていて、僕がいる部屋がデスクしかなくてガラーンとしてて空調すら入らないっていう異常な状態なんですよ。

で、そこで仕事してると壁が薄いものですから隣の部屋から

「キャハハハ」

「ウフフ」

「今日、モツ鍋のおいしい店に…」

とか、すごくファニーでジョイフルな会話が漏れ聞こえてくるんです。いやいや、いい年ぶっこいて仲間外れにされた、とか仲間に入れてほしいとかは言わないですよ。ただね、明らかに隣から漏れ聞こえてくる会話からは、オフィスから嫌われ者を排除して楽しくやってます、みたいな彼らの精神構造がすごく嫌なんですよ。

でまあ、ガラーンとした部屋で仕事してるんですけど、もうひとり排除されちゃった女の人のデスクが僕の前にあって、その人が、けっこう良い年齢で僕と同年代くらいで何故か毎日ポニーテールしてるんですけど。なんかすげえいつも怒っていて、絡みづらいっていう理由で皆から嫌われているみたいなんですよね。そんな理由で嫌うなんて子供かって思いますし、はっきり言ってそれってイジメですから、とか思うんですけど、とにかく、なぜかこのポニーテールと二人っきりの部屋で仕事しなきゃいけない状況になっちゃったんです。

でまあ、いちおう、僕がそのポニーテールの上司みたいな立ち位置になるみたいで、色々と指示しなきゃいけないんですけど

「申し訳ないんだけど、○○を明日までにやっといてくれるかな」

とかすごい丁寧にお願いするんだけど、返事すらしない。返事しなくてもやることやってくれたら別にいいんですけど、次の日になってもカケラすらやってない状態。僕あまり怒るのとか苦言を呈したりするのが苦手なんですけど、

「だめだよ、そういうのは。ちゃんとやって欲しいなあ」

みたいなことをヤンワリというと、マジで、本気で聞こえるようにですね

「ち」

っていうんですよ。本気で。たった一文字でここまで人の心を折ることができるってなかなかいないですよ。

さすがの僕もこのままじゃイカンと思いましてね、なんとか打ち解け合わないと同じ部屋にいるのが苦痛で仕方ないので、なんとか普通に会話できないか、何かとっかかりはないものかと苦慮していたんです。こういう時って人間は自分の好きなもの話題ってのが心を開くキッカケになりやすいものです。何かポニーテールが好きなものはないだろうかと観察していると、たまに持ってくるポーチみたいなものにバッヂがついているのを発見したんですね。

あのバッヂなんだろうって色々と調べてみたら、どうやら「嵐」のコンサートで買えるバッヂみたいなんですね。さらに調べてみると、嵐のグッズって本当に入手が大変で、ファンクラブ会員でも入手困難なチケットを入手してコンサートに行き、さらに3時間ぐらい並ばないと入手できないみたいなんですね。それをもってるってことはポニーテールさんかなりの嵐好きであると思われるんです。

こりゃあ嵐の話題で打ち解けあうしかないなって思って仕事の合間に話を振ってみたんです。

「あのさあ、この間GANTZを観にいったんだけど、ニノの演技が上手だったよ〜」

みたいな感じで、まずニノを褒め称える感じで切り出してみたんです。そしたらアンタ。

「軽々しくニノって呼ばないでくうださい!」

みたいに大声で怒鳴られましてね、バシュバシュバシュって僕の顔面に唾がかかるくらいの勢いで怒鳴られちゃったんですよ。で、そのまま

「気分悪いんで今日は帰らせてもらいまっす!」

みたいなこと怒鳴って、ドカンって感じでドア閉めて出ていっちゃったんです。あまりの怒号に隣の部屋の皆が様子を見に来て、何故か僕がオッパイ揉もうとして拒否されたみたいな話で落ち着いてました。

もうなんだかどうでもいい感じになっちゃいましてね。嫌われる人には嫌われるなりの理由があるんだなあ、僕もそうなんだろうなあって思いながらポニーテールさんと打ち解けるのをあきらめたんです。そうすると、もう、彼女の行動の全てが腹が立っちゃいましてね、僕だってあまり真面目に仕事するほうじゃないんですけど、彼女が全然仕事してないことに気がつくんです。

僕がバンってドア開けて部屋に入ってくると、まるで何かを隠すかのようにサッとパソコン画面上の何かを隠すんですよね。それこそ毎回。トイレ行っても飯食って帰ってきてもジュース買ってきて帰ってきても、毎回、サッて何らかのウィンドウを隠すんですよ。僕別に仕事中にインターネット見たりしたって怒らないですよ。なのに毎回毎回サッて隠されると気になるじゃないですか。それに何かコソコソ隠されるとあまり気分が良いもんじゃない。

もうね腹が立って、すごいむかついて、一体何を見てるんだって気になっちゃっいましてね、すげえ音もなく忍の感覚でコッソリと部屋に入ってみたんです。で、こそーっと近づいて、真剣に何かを見ているポニーテールさんのポニーテール越しにパソコンの画面を覗き込んだんです。

うん、Numeri読んでた。

正確にはそのときNumeriにはログがない状態で再構築中だったんで転載しているサイトでしたけど、とにかくNumeri読んでた。

なんだよ、カワイイやつじゃねえかよ。

隣の部屋から聞こえてくる楽しげな談笑を尻目に、こっちはもっと面白いことになってきた、今度Numeriの話を振ってみることにしよう。


       

04/09 #16/桜の栞

「しおりー、どう?最近は?」

頭の悪そうな女の声が狭苦しい蕎麦屋の中に響いた。この寂れた駅前の蕎麦屋は僕のお気に入りで、汚い店内に汚い器、無愛想な親父に、それ以上に無愛想なガングロギャルのアルバイト、それら全ての事象を超越して出てくる蕎麦がマズいというとんでもない店だ。

蕎麦屋なのに蕎麦がまずいっていう事実は別にそれほど気にならなく、例えば女子高生なのにブス、AV女優なのにセックスに消極的、サイト管理人なのに1年に2回しか更新しない、こんなことこの腐敗した世界に溢れている。蕎麦屋の蕎麦がまずいくらいなんだ。

それどころか、こういった小春日和の日、吹き付ける風もどことなく南国の匂いを含んでいて心地よいこんな日には無性にまずい蕎麦が食べたくなる。あのまずい蕎麦を一気に流し込み吐きそうな気持ちになりたくなる。

そんな感じでまた今日もフラリと蕎麦屋に立ち寄り、いつもお決まりのカウンター席の端に座り、ギャル店員に蕎麦を注文した。ギャル店員は、なにか身内でも亡くしたのかと思うほどに無愛想で、冷や水の入ったコップを激しく叩きつけると返事もせずに店の奥へと消えた。

ふう、と一息つくと冒頭の頭の悪そうな声が聞こえてきた。こんなまずい蕎麦屋に客がいること自体珍しいのだが、それ以上に珍しかったのが、声の主が多人数の若者グループだったことだ。若者が多数集まって蕎麦屋というのがあまり理解できない。それこそもっと集まりやすいファーストフードとかに集まるべきなんじゃないかと思うが、何も蕎麦屋、それもこんなまずい店に来なくてもいいじゃないか、などとまるで自分の聖域を侵されたような気分に浸っていた。

若者たちは、大学生だろうか、10人ほどのグループで男子7人の3人の女子、その女子の内訳は、ブス、ややブス、なんかやけに仲間意識が高くて他の女子がちょっと男の子と良い感じになりかけてるのに「ちょっとー、よし子はそういうの苦手なんだからね、手出したら承知しないよ!」ってお前に何の権利があるんだよって感じの、気が強い風の姉御肌な自分を演出しているうざったいブス、の三人でした。

でまあ、ブスなのは別に良いんですけど、こうなんていうんですかね、非常に仲の良い男女混合グループを見てると、こいつらグループ内でおセックスしまくってるんだろうなーっていうAAAを見てる時みたいな侘しい気持ちが湧き上がってくるのですが、そんなんも別の良くて、問題は彼らかが会話している内容でした。

世の中には、ここでこんな会話をするなよっていう感じのTPOをわきまえない会話をする人って多くて、カレー屋でカレー食ってる横でオバさんが老人介護疲れの話をしていて老人オムツがウンコまみれ!みたいな話をドヤ顔でしていた時はどうしようかと思ったんですけど、こうなんていうんですかね、件の若者たち、そういったTPOを超越してて、そもそも蕎麦屋でする話じゃないとか以前に人間としてどうなのって感じの会話をしていたんです。

「どう、しおり、最近は?何も感じない?」

とか、ブスがブスに話しかけているんです。ややこしいので、ちょっとおセックスはご遠慮したいブス、と僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのブス、と呼ぶことにしますけど、どうやら酔っていたらやれるレベルのブスは「しおり」っていう名前らしいんですね。で、何を感じる感じないっていう話なのか、アナルでもオーガズムに達するかみたいな会話かとも思ったんですが、どうやら話を聞いているとそんなかわいいレベルのお話じゃない。

「でもまじすげえよな!」

みたいな、「しおり」の対面に座るヒップホップ風の男性が囃し立てます。

「最初まじびびったもんよー」

続けて、ヒップホップの隣に座るヒップホップ系の男性が続きます。ややこしいのでちょっとおセックスはご遠慮したいヒップホップ、と僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのヒップホップって呼びますけど、その二人がしきりに「しおり」を褒めちぎり他の男性もそれに続くみたいな状態になってました。

で、そんだけ騒がれる「しおり」の能力とは一体何なのか気になっちゃいましてね、クソまずい蕎麦をすすりながら何事かと聞き耳をたてていたんです。果たして「しおり」の能力やいかに。

「でもすげえよなー、人の死を感じられる能力ってー」

もうね、すすってた蕎麦を吹き出しましたからね。まさかこの現世に生きていて「人の死を感じられる能力」って言葉を聞けるとは思わなかった。で、明らかに色々とおかしいんですけど、どうやら「しおり」には人の死を感じることができる能力があって、周りの連中もそれを信じている様子。もう、彼らの席に移動して根掘り葉掘り話を聞きたいんですけど、そういうわけにもいきません。

「しばらくは大丈夫だと思う。悪い感じはしないから」

みたいなことを「しおり」がキルビルみたいな表情して言うわけですよ。悪い感じもクソもねーよとか思うんですけど、連中は盛り上がって、○○が死んだ時も…みたいな話をしてました。どうも知り合いの○○が死んだ時も「しおり」が悪い感じがするとか言ってあらかじめその死を予言していたみたいで、それをキッカケに皆が信じるようになった風な感じでした。

そんなもん、「しおり」が殺したんだろう、どうでもいいからオッパイ出せよ、とか思うんですけど、そんなこと言って「あなた悪い感じがする。もうすぐ死ぬわね」とか言われたら嫌なんで大人しく汁を飲んでいたんですけど、そうすると僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのヒップホップが言うんですよ。

「でもさ、俺らもそういう力欲しくね?マジ欲しくね?」

みたいな、よく分からんこと言ってるんですよ。でもまあ、そういう力に憧れるっていうのは分からなくもなく、人の死を感じることができる能力って漫画とかに結構ありそうで、「MAYA 真夜中の少女」って漫画なんかまさにそれで、人の死を予知することができるMAYAが、その死の運命と戦って人々を救っていくっていうストーリーで、最後のほうは超能力バトルみたいになって訳分からんことになってた漫画ですけど、そういうのってけっこうありふれていると思うんですよね。いやいや、死を感知する能力がありふれてたら困るんですけど、こう、漫画の中でよくあるみたいなニュアンスだと思ってください。

で、僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのヒップホップの気持ちも分かるんですよ。誰だって漫画みたいな能力を持った自分に憧れる面があるじゃないですか。普通ならありえないような能力。ちなみに、僕はデスノートって漫画が出た辺りからセックスノートっていう存在に憧れていて、そこに名前を書かれた人間は僕とセックスする、みたいな能力に憧れてるんですけど、みんなだってきっと似たような憧れってあると思うんですよ。

でも、その僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのヒップホップの憧れ発言を受けていい気になっちゃった「しおり」は言うわけですよ。

「でも、やだよう、こんな能力(ちからと読んでいた)、悲しいよ、人の死が見えちゃうなんて」

とか泣きそうになりながら言うてるわけですよ。いやいや、人の死は見えないでしょ、○○クンだって君がやっちゃったでしょ?とか思うんですけど、その涙に一同は消沈ムード、変なこと言いやがってみたいな険悪な思いが僕がベロンベロンに酔っていたらやれるレベルのヒップホップに向けられているのがヒシヒシと伝わってきました。

なんでみんな、こんな「しおり」みたいねめんどくせえ女と友達付き合いしてるんだろって素朴な疑問が湧き上がってきて、いよいよ、僕も混じって話し合いたいとか思ったんですけど、そんなこと言って「あなた悪い感じがする。5分後に死ぬわね」とか言われたら嫌なんで大人しくしてました。

「たしかに、死って悲しいよね…」

とか、普通の人なら小学校2年あたりで気付いてそうなことをウザそうなブスが言ってました。

「死じゃなくて生だったらいいのに」

しおりが堪らなさそうに言い放った。生と死は表裏一体の存在、その裏側を意味する死、不幸にもどこかに落とされる死を感じられる能力なんていらない。どこかに落とされる生を、命を感じることができる能力だったら良かったのに。そんな「しおり」の苦しみや悲しみが推察できる言葉だった。ホント、この女うざったい。絶対○○クンを殺したのはお前だ。

「死を予測できる能力じゃなくて、生を予測できる能力か。確かに前向きかもね」

「わたしがんばる。絶対に死だけじゃなくて生も予知できるようにしてみせる」

「俺たちも応援するよ」

「がんばって生を予知できるようになろ!」

みたいな、お涙頂戴物語になってました。なんかよく分からないですけど、絶対に「しおり」は○○クンを殺したと思います。

でまあ、色々と納得したみたいで若者たちは帰っていったので、僕も会計を済ませて帰路に着きます。駅前の少し賑やかな通りを歩きながら、死ではなく生を予感する能力か、とか考えていたら、不思議なことが起きました。

「見える!見えるぞ!」

なんと、僕にも予知が見えるのです。それもあの若者たちが欲した生を予知する能力が。こりゃあ「しおり」と超能力バトルだな!とか思えるほど、本当に道行く人の生が予感できるのです。

「あ、この人から命が生まれるな」

ホント、お腹の大きい妊婦さんを見ると、生を予感できるのです。って当たり前じゃねえか。

よくよく考えたら、生を予感する能力って超能力でもなんでもない。あの若者たちは真剣な顔して何を話してるんだ。って思うんですけど、まずい蕎麦と同じで、そういった馬鹿な会話も無性に聞きたくなるときがある。また来週、この時間に蕎麦屋に行こう。彼らに会えるかもしれない。と思いながら駅前通りを歩くのでした。でも、絶対にしおりは○○クンを殺ってる。


04/09 #15/Baby! Baby! Baby! Baby!

この間、嬉し恥ずかし引越しをしたってのは前にも述べました。乳幼児の頭部以外何が出てきても驚きもしないという汚い部屋、それも二つも引き払って不動産屋に激しく心をレイプされた、なんとも切ないお話でしたね。

では、今度は新しいお部屋、つまり引っ越した先のお話でもしましょうか。ちょっと前の時間に遡るのですが、最近は本当にネットが普及して本当に便利になったもので、もはやネットを介してやれないことってないんじゃないかって勢いですよね。当然ながら引越しもネットでできるようになってて、そりゃネットワーク回線を通して引越しするわけじゃないですけど、引越しの見積もりや申し込みがネットで簡単にできちゃうんですよね。

で、なんか30社くらいの引越し業者から一斉に見積もりを取ることができる、みたいなサイトに申し込んでみたんですけど、もう、とにかく凄い。申し込んだ瞬間から狂ったように各社からの見積もりメールが届く、別にそれ自体は見積もり申し込んでるんで別に良いんですけど、何社かはその見積もりが半端ない。

「もう他の会社にきまっちゃいましたか?」

「まだまだ諦めません。チャンスをください」

「他社に決めた場合でもその見積額を教えてください。それより安くします!」

とかしつこいくらいにガンガンメールですよ。別れた女にしつこく迫る男みたいな鬼気迫るもんがあるんですよ。かと思ったら家に家具とかの通販のカタログが狂ったように届くし、一気にカオスな状態になっちゃってるんです。

でまあ、僕って本当に物を持たない主義の人ですから、家にあるものってテレビ、冷蔵庫、洗濯機、テーブル、布団、自転車、プレステ3、パソコン、AKB1/48 アイドルと恋したら・・・オークション出品不可プレミアムボックス、くらいですから、まあ、引越しといっても単身パックっていうんですか、あれで済んじゃう可能性が高いんですよね。

そんな感じで、とある大手引越し社の見積もりを参考に問い合わせたところ、どうやら単身パックでは自転車が入らないみたいでした。この自転車を捨てて引っ越した先で新たに買うってのも考えてたのですが、色々と楽しかったことや辛かったことを一緒に経験してきた自転車を捨てるってのが納得いかず、なんとか引越し先に持っていかねばならない、と考えたのでした。

でまあ、熱烈に何度も「是非ともわが社に!」ってメールをくれる業者にメールを出して問い合わせをしてみました。聞いたこともないような名前の引越し社だったんですけど、それこそ藁にもすがる思いでメールしたのです。

「大手の○○さんに問い合わせたら単身パックで○○円の見積もりでした。けれども自転車が運べないとのことだったんですが、貴社では大丈夫ですか?」

みたいなメール出したんです。そしたらさすがに熱烈にメールくれた会社だけあって

「大丈夫っす!」

というお返事がすぐに来ました。いやいや、大丈夫っすじゃねえよ、もっと詳細に色々と説明しろよって思うんですけど、まあ、とにかく熱意はあるんだろうとこの会社に決定、さらに問い合わせメールをします。

単身パック的なお得なサービスはあるのか?値段はどれくらいか?梱包はどの程度すればいいのか?本当に自転車も運べるのか?どの程度の荷物を単身パックに入れれるのか?みたいなことを問い合わせたと思います。

それに関してもすぐに返事のメールが来て、

「大丈夫っす!単身パックあります!値段も大丈夫っす!大手の○○さんよりおやすくします!梱包も小物をダンボールに入れる程度で大丈夫っす!自転車も大丈夫っす!荷物いっぱい大丈夫っす!」

と凄い不安になってくる返事。なんで大丈夫っす!しか言わないのか。というか、そういう返信をするAIとかじゃないだろうか。とにかく大丈夫って言ってるんだろうから大丈夫なんだろう、なんとかなるかって思いながら、ついに引越しの日を迎えました。

朝の九時にやってくるとのことだったのですが、まあ、時間に遅れてきますわな。どれくらい遅れてきたかって言うときたのが夕方の4時ですからね。もう遅れすぎてて、最初から4時の約束だったんじゃって錯覚するほどです。

やってきたのは明らかにバイトっぽい二人組みだったんですけど、もってきた単身パック、この中に荷物入れろよっていう箱が明らかに小さい。どう考えても小さい。大丈夫っす!が聞いて呆れるほどに小さい。

で、バイト二人がゴリゴリと単身パックに荷物を詰めていくんですけど、冷蔵庫や洗濯機を入れた時点でかなり厳しくて、布団とか入れたらパンパンになってしまった。まだ用意した荷物の半分も入ってない事実に驚愕し、しかたないので追加料金でもう一個の単身パックを追加、ダブル単身パックというダブルなのかシングルなのかよく分からない状態で料金が二倍、結局、最初の大手より全然高かった。

で、なんとか無理やり荷物を詰めたんですけど、どうやっても自転車が入らないご様子。自転車ってけっこう縦にでかいものじゃないですか。だからどうやっても物理的に単身パックには入らなくてですね、もともと単身パックでは自転車の積み込みはお断りしていて、どうしても運ぶなら別料金で別送という形になるとのこと。もうここまでのメールと話が違うと潔さすら感じてしまう。なにが「大丈夫っす!」だ。それを言ったアイツの気持ちが分からんわ。

「自転車どうします?」

っていうバイトの顔が異様にムカついてですね、ただでさえ料金2倍で腹立ってるのにさらに自転車別送で別料金でふざけんなって思ってですね、もう腹が立って腹が立って、それじゃあ、自転車が縦長で占有面積が大きくなければいいんだろってことで、そのばで自転車バラしてやりました。

世の中にはバラすことを前提とした高級自転車ってあるみたいなんですけど、僕の自転車ってもちろんそんなことなくって、ただの自転車なんですけど、工具使って思いっきりばらしてやった。そした一番大きい部品ってタイヤで、全部の部品がダンボールに収まっちゃったんで、そのまま単身パックに突っ込んでやりました。

数日後、引越し先の新居に荷物が届いたんですけど、これがまた酷い。出発のときはアルバイト二人で積み込んでましたけど、到着の積み下ろしはニート上がりみたいな青年が一人。ハーハーと息を荒げながら一人で冷蔵庫とかエレベーターのないアパートの三階まで運んでました。さすがに可哀想なんで手伝ってあげたんですけど、引越し荷物の扱いが悪かったのか、明らかにどこかにぶつけた傷を伴って32インチ液晶テレビの画面が割れていました。まあこれはまた別の機会にでも。

とにかく新居に引っ越したので最初にすべきことは付近の探索です。近くにコンビニあるのかな?便利なディスカウントショップとかあるのかな?おいしいラーメン屋があるといいな、近所に下着を干す女子大生が住んでるといいな、みたいなことを考えて探索するじゃないですか。そうなると自転車が必要でしょう。

早速ダンボールから出して、アパートの前で自転車を組み立てます。もともとバラすことを想定してない自転車なんで、すごいネジとか回すのが困難で、どうなってたか良く覚えてないんで組みあがっても3本くらいネジが余ったんですけど、なんとか自転車も復活。周囲の探索に行きます。

新しい町での春の風は心地よく、自転車で疾走しながら、前の町では散々で、引越しすら微妙な詐欺にあった感じで、おまけに敷金で足りなかった修繕費が恐ろしいなどと良いことなんて全然なかったんだけど、この街ではいいことありそう。

なにかグラグラする自転車に不安を覚えつつ、この街の繁華街みたいな場所に到着。けっこう栄えていて、おいしそうなラーメン屋もありご機嫌な感じ、さっそうと繁華街を駆け抜けていきます。ちょっと信号待ちで休憩、ちょっと疲れちゃったなって感じで一息つきながら信号待ちしていると、向こう側で信号待ちしている女子高生軍団が、あきらかにこっちを見ながら話をしているじゃないですか。明らかに僕のことを話しちゃってるじゃないですか。

「ね、ね、あの人かっこよくない?」

「またまた、アキったら、トクイだねー。イケメンに目がないねー」

「まあ、確かに向井理っぽいね」

「だよねー超カッコイイ」

とか会話しているに違いありません。まいったなー、逆ナンされるんじゃねえかな。でも女子高生ってことは条例に引っかかるからな、ここは毅然と大人として断らないとな。とか考えていると、信号が青に変わりました。

よし、あの女子高生軍団に逆ナンされても不埒な関係にはならないぞ、ピュアに付き合うんだって決心しながら自分の中で一番男前であろう顔をしながら自転車を漕ぎました、その瞬間ですよ。

パカン

ほんと、誇張でもなんでもなくて、本当にそんな音がして自転車がバラバラに。本当に、デスマスクに逆らってゴールドクロスが脱げたときみたいな感じで、掛け値なしに自転車がバラバラになったんです。信じられない。

一瞬、僕も宙に浮いた感じになったんですけど、横断歩道の真ん中で自転車の部品ばらまいて豪快にこける僕。 完全に顔面から突っ込んで、大変なことになってた。優しいことに女子高生が駆け寄ってきてくれて、「大丈夫ですか?」とか言ってくれるんですけど、なんか凄い恥ずかしくて、「大丈夫っす!」とか言って泣きながら自転車の部品拾い集めてた。なるほど、あいつはこんな気持ちで大丈夫っすって言ってたのか。

とにかく顔から凄い血が出るわ、自転車はバラバラだわで、仕方ないので近くに自転車屋に事情を話して、全ての部品を捨てて帰ってきた。この街でもいいことなんて全然なさそうだ。全然大丈夫っすじゃない。

 

 


04/09 #14/RIVER

ちょっと前からすごく肝臓が痛くてですね、あまりにキリキリ痛むものですから病院に行ったんですよ。なんかとんでもない難病だったら嫌だなって思いつつ、まあ僕そんなにお酒飲まないんで大丈夫だろうと余裕ぶっこいて検査に向かったんですよ。

僕の住んでる地域って、でかい総合病院って少ないんですけどその代わり小さい病院がむちゃくちゃ多いんですね。それも明らかに第一線を退いたみたいな爺さん医師が切り盛りしてるみたいな、おいおい、診察が必要なのはどっちですかな?みたいな感じになる病院がむちゃくちゃ多いんですよ。

そりゃあご年配の医師のほうが意識さえしっかりしてれば経験豊富ですからその辺の青びょうたんみたいな医師よりは頼りになるんでしょうけど、それはしっかりしていたらの話で、大抵の場合はヨボヨボでボケていて、治療されてるんだかこっちが介護してるんだか訳わからない状況になるんですよね。

そういう時って看護師さんが肝っ玉母さんみたいにしっかりしてて治療を切り盛りしてたりするんで、もう肝っ玉母さんが治療しろよって思うんですが、やっぱりボケた老人に治療されちゃうんですよね。出される薬も本当に効果あるのか分かったもんじゃありません。世間一般で言うヤブ医者ってやつなんでしょうけど、そんな病院に行って来たときのお話です。

最近ではインターネットが発達し、あそこの病院いいですよ?とかあそこは待ち時間が長い!みたいな病院の意見を交換しているサイトがあるんですけど、そういうのばっかり参考にしていたら無料案内所でいつまでたっても行く店を決められない人みたいな状態になっちゃいますので全く参考にしません。適当に道路を走っていて目に付いた病院に入ります。さすがに肝臓が痛いのに肛門科とかに行っちゃったらアレなので、その際には診療科だけはチェックします。

なかなか小奇麗な構えの建物に入り、思いっきり婚期を逃したみたいなオバさんが仁王立ちする受付に行きます。保険証を出して何か紙に記入し、「今日はどうしましたー?」っていうオバちゃんの問いかけに「肝臓が痛くてー」とカミングアウト。すると紙コップを渡されました。

「これにおしっことってきてくださーい」

いきなりおしっことは豪気な話ですのーとか思いながらトイレに行くと、きちんと採尿に特化したトイレになっていて、構造的にすごいおしっこをコップに入れやすいんですよ。しかも、おしっことれたぞー!ってわざわざ持っていく必要もなくて、トイレの横にある小窓において置くだけで提出したことになるっていうひどく画期的なシステムになってるんです。

早速、コップに並々いっぱい、表面張力でのせめぎあいのレベルまでおしっこを入れて小窓に提出したんですけど、そこには先客のおしっこが置いてあったんですね。それがもうコップの底にちょこんとおしっこが入ってるレベルで、しかも何をどうやったら検尿に入るのか知りませんけど、コップの底にチン毛が沈降していました。

「け、そんな量じゃ検尿とはいえないぜ!」

と少ない先客の尿を見ながら何やら誇らしげな気持ちになってると、バタンって僕のコップが倒れてベローって尿がこぼれていきました。慌ててコップを立て直すんですけど、ほとんどが流出していて先客のより少ない量になってました。

まあ、こぼしたのは見なかったことにして、ちょっとでも尿があるしまあいいかと思い「危ない危ない」とか福田和子みたいなこと口ずさみながらトイレを後にしました。

待合所みたいな場所で椅子に座って女性セブンみたいな雑誌を見ながら待っていてると、お局さんに呼ばれました。やれやれ、やっと診察かと立ち上がろうとすると

「アンタ、おしっここぼしたでしょ!」

みたいな感じでムチャクチャ怒られちゃって、そんな前の客なんて尿にチン毛入ってたじゃんかとか思いつつ、妙にバツの悪い思いをしながら診察室へと向かったのでした。

診察室に入ると、やはりというかビンゴと言うか、どう考えてもお前の方が先に死ぬだろって感じの爺さんがちょこんと鎮座しておられました。本当に大丈夫かいなって思いながら座ると、爺さんは何やらパソコンを見ながら悶々としている様子。

電子カルテっていうんでしょうか。爺さんのクセにしっかりパソコンを使いこなしててやるじゃんとか思いながら画面を覗き込むと右下に「コンピューターのセキュリティが不完全です」みたいな警告が出てました。ちゃんとセキュリティしてください。

で、いよいよ診察と言うか問診と言うか、そういった類のものが始まるんですけど、これがまたビックリするぐらい老人が何を言ってるのか分からない。

「フガヘガモガ」

みたいな喋り方するもんだから

「はい?」

とか聞き返すんですけど、

「フガヘガモガ」

と言いなおされるんで全く意味が分からない。どうしたもんかと困ってると、見かねた看護師さんが通訳してくれました。

「今日はどうしましたー?」

それならそうと早く言えよと思いつつ、肝臓が痛いことをカミングアウト。するとね、老人が怒り出したんですよ。何言ってるんだか分からないんですけど、烈火のごとく怒り出したんです。

いやね、僕も34年も生きていまして、それなりに色々と怒られてきたもんですよ。そりゃ理不尽に怒られることもありましたし、納得できなくて悔し涙を流したこともありました。けれどもね、やはり怒られる時ってそれなりに理由があって、たとえそれが納得できないとしても、何か理由って分かるじゃないですか。けれどもね、肝臓が痛いってカミングアウトして怒られることだけは理解できない。本気で理解できない。

で、凄い新発見だったんですけど、この老人、ノーマル状態では何言ってるのか分からないんですけど、怒ってくると何言ってるんだか結構分かるようになってくるんですよ。

「何か心当たりはないか?」

みたいなこと怒りながら言ってるんです。肝臓が痛いのに心当たりってよく分からないんですけど、ストレスとかそういうのも心当たりになるのかしら、とか思って

「ストレスからってことですかね?」

とかって言うと、

「どんなストレスだ」

ってこれまた怒りながら言うんです。意味不明に怒ってるあんたがストレスだよ、って言いたかったんですけど言えず、おまけに最近FC2っていうエロ動画サイトが皆が利用するようになっちゃったもんだから異様に重いのがストレスだ、なんて本当のことも言えず、

「いや、ちょっと、色々と」

みたいな感じで適当にはぐらかしていると、なんかさらに怒り出してクドクドと説教ですよ。最近の若い者はみたいな定番の説教なんですけど、僕別に若くないんですけどとか遮ってさらに怒られても嫌なんで、黙って聞いてるんですけど、そうなると爺さんがヒートアップして止まらないご様子。

「なんでもかんでもすぐインターネットだ何だ」

とか、昨今のネット社会に対する対する批判も忘れない。っていうかそれを僕に怒られても困る。っていうかパソコンのセキュリティちゃんとしてください。もう何で怒られてるのか意味が分からない状態になっちゃって、それでも老人はヒートアップ、たぶん、最近の若者は知識がないパッパラパーだって言いたかったんでしょう、

「何か古い言葉を言ってみろ!」

みたいに要求されましてね。たぶん不惜身命とか四字熟語的な古い言葉を要求されてて、それが言えないで困る僕を見てさらに怒ろうと画策したんでしょうけど、ずっとネットのことで怒っていらしたんです、ネットの世界で使われていた古い言葉を要求されたのだと勘違いしちゃって

「お礼は三行以上」

とか訳わからないこと言ってました。さすがにこれは僕がキチガイ過ぎる。老人も、後ろのほうで作業しながら聞いていた看護師さんも、僕も、何か動きが止まってしまいましたからね。

結局、特に診察とか治療とかなく、怒られただけで診察は終了。今となっては尿を採取した意味もわかりません。けれども、ちゃんと診察料3000円くらい取られて、3種類くらい薬も出されるというマジックに困惑しつつ、痛む肝臓を抱えて家に帰りました。

ちなみに、帰り際に受付で金払ったときに、きちんと三行以上でお礼を言っておきました。

 


04/09 #13/言い訳Maybe

(#8)の続き

ついに開演となったAKB48研究生公演。なんかAKB劇場って狭いし、意味わからんとこに柱が二本あって邪魔だし、とてもじゃないが劇場の体を成していないチープさで面食らったんですけど、いざ始まってみるとその熱気がすごい。

何の熱気かと言うと、決してクレイジーに舞い踊るオタどもの熱気ではなく、ステージの上で舞い踊る研究生の熱気がすごい。まだ年齢だってすごい若いのに、自分の中で決して譲れない思うところってのがあって、それのために一生懸命努力しているのが伝わってくる熱気があった。正直に言うと、研究生公演を心のどこかで舐めていた部分があったのだけど、完全に気押されていた。

そんなすごい彼女たちの純粋でピュアで真っ直ぐな姿を、会場後ろで立ち見状態で見ていた。いや、立ち見状態ですらなく、もうギュウギュウ詰めで、前後左右にオタがひしめき合った満員電車状態でみていた。本気で一歩も身動きできないレベルでギュウギュウ詰めになって公演をみていた。

たぶん感覚的に2時間くらいの公演だったと思うけど、その半分の1時間が過ぎた時、異変が起こった。いや異変と呼ぶにはあまりに恒例で、僕にとってありきたりな事象が巻き起こった。

「ウンコしたい」

どうにもこうにも、このパンパンに詰まった状態では身動きできずトイレに行けそうがない。むしろ、トイレのために外に出たらそのまま再入場は不可です、くらいのことは言われかねない。やべえ、ここでウンコしたくなったら困るな、って考え始めたら本当にウンコしたくなってしまった。

ウンコしたい、ウンコしたい、本気でウンコしたい。

ステージ上では「100メートルコンビニ」っていう名曲が演じられているんですけど、それすらも「100mウンコ」にしか聞こえないくらいウンコがしたい。かといって、彼女たちが頑張ってる姿をもっと見たいし。物凄い葛藤がグルグルと僕の頭の中を回っていたんです。

で、出した結論がウンコはいつだってできる。けれども彼女たちのこの輝きは今しか見ることができない。明日にはもう彼女たちは違う輝きを放っているだろう。ということでとにかくウンコを我慢することに。っていうか身動きできないから我慢することしかできないんですけど。

演目も進み、いよいよ最後の曲となりました。なんだか寂しい気持ちと、やっとウンコができるという気持ちが入り混じってカオスな状態になっていたのですが、泣いても笑っても最後の一曲です。いけるこれならまだウンコ耐えられる。我慢できる。

そしてついに最後の曲が終わりました。もう早くトイレにいって腸を引っ張り出してブラシで洗浄したい気持ちになるんですが、そこでとんでもないことが起こるのです。

アンコール

前述の親衛隊の人々の手によってアンコールの要求がコールされるのです。しかも今日は小林さんの誕生日と言うことでマリナコールで大合唱ですよ。確かにアンコールは凄く嬉しいんですけど、ウンコが出る。

でまあ、皆がばーっと出てきてアンコールが始まるんですけど、もうウンコのせいで意識が遠のいていてですね、何歌ってるんだか全然分からない。とにかくウンコがしたい。ウンコ。

で、このままここで漏らしても確実に出入り禁止にはなるとは思いますけど、出るもんはしかたないじゃないですか。っていうか、思いっきり出してやってオタどもが必死にトレーディングしている生写真で尻拭いてやるわガハハハとかやれる豪胆さがあれば良かったんですけど、もう少し中腰になって青い顔してました。

そしていよいよアンコールも最後の曲、これさえ耐えれば大丈夫、と少しウンコにも余裕がでてきました。なんとか悶絶し、隣のオタに寄りかかったり、尻に適度な刺激を与えたりしつつ誤魔化していたんです。そしてついに最後の曲が終わった。

「みなさん、それでは本当に最後にAKB48の新曲、桜の木になろう、を聴いてください」

もう1曲あった!死ぬ!ってところでついに僕の心がポッキリ折れてしまい、もうウンコ我慢できなくなってしまいました。でも別に漏らしたりとか、そんな僕34歳ですよ。ウンコ漏らすとかんなわけないじゃないですか。隣のオタどもにばれないようにこっそりとパンツの中に左手を入れてですね指で栓してやったんですわ。っていうかイメージ的にはかなり出口まで来ているヤツを指で押し返す感じです。

これですっかり楽になり、指がウンコまみれになりますけど、なんとか本当の最後の曲を乗り越えることができました。本当の本当に公演も終わり、劇場内が明るくなります。やっとウンコができると安堵していると、そこで館内放送ですよ。

「本日は、これよりハイタッチ会を開催します。そのままお待ちください」

どうも、出口でさきほど公演していた研究生たちがずらっと並んで立っているらしく、そこで出てくる客全員とハイタッチしていくという途方もなくファンサービス旺盛な感じで、喜ばしいんですけど、僕、指ウンコまみれですからね。そんなウンコまみれの指で彼女たちとハイタッチするわけにいかない。オナニーした手でアイドルと握手するって不埒な輩は結構いますけど、指にウンコ塗りたくってハイタッチしたヤツはいません。というか、MAXとかにだったらできますけど、ピュアで頑張ってる彼女たちにそんなことできない。

で、一瞬ハイタッチを諦めるんですけど、よく考えたらウンコがついてるのは左手で右手にはついてない、右手でハイタッチできるじゃん!と意気揚々と会場を出てみるとズラーっと左側に研究生の皆さんが整列してるんです。終わった。左手でしかハイタッチでできない。

無理やり右手でってのも変ですし、さすがにウンコがついた手ではやれないので、僕だけハイタッチせずに素通りしました。いや、嫌味で素通りしてるんじゃないんです、ウンコがついてるんで!って説明できたら良かったんですけど、そういうわけにもいかず。なんでこの人、ハイタッチしてくれないんだろうっていう寂しそうな表情の研究生たちが、僕の心を締め付けるのでした。

いつかきっと、彼女たちとハイタッチしたい。また来るぜ、と心に誓って。


04/08 #12/涙サプライズ!

もう何年も前になるんですけど、僕は一応、何か面白いことを思いついたらメモを取るようにしてるんですよね。やっぱせっかく面白いことを思いついたのに忘れちゃうとか本気で不幸ですから、そういったことがないよう、細心の注意を払ってるわけなんですよ。

でもですね、まっこと意味が分からないんですけど、そういったメモを日記更新なんかに活用したことってほとんどなくって、むしろ更新するときにメモなんて見ないんですよ。じゃあなんでメモ取ってるんだよって言われると、まっこと言葉も出ないのですが、なんかせっかく思いついた面白いワードを逃したくない!という思いが強いんですよね。なんていうか、かわいい女性を見てて、決して自分のセックスフレンドとかになるわけじゃあないのに、その女性に彼氏ができると無性に残念な気分になる、みたいな気持ちに似ているのかもしれません。

でまあ、結局、意味が分からないメモだけがどんどんと積み重なっていき、ちょっと暇になったときにそのメモを読み返してみるとなんじゃこりゃ、みたいな感じになるってのは以前にも書いたように思います。

でまあ、その時に面食らったのが「オナニーを、しない、させない、もちこませない、非オナニー三原則」とか書かれたメモで、いったいこれを書いたときの僕はこれから何を書くつもりだったんだと問い詰めたい気分に駆られたものです。オナニーを持ち込むやつがいるわけがない。別のページには「オナニーはスリルショックサスペンス」とかあってもう意味不明。何がしたかったのかサッパリです。

そうやって全く日記などに活かされることもなくなく次元の狭間へと消えていく運命にあるメモたちなのですが、いい機会なので、ぶっちゃけこういう連続更新ってある程度クオリティが低くてもなんとかなっちゃったりするんで、いつもは誰の目に触れることなく消え行く運命にあるそのメモの中から、多分ものすごく意味不明なんでしょうけど、無理やり日記を書いてみようと思います。

でまあ、そのメモをパラパラとめくってどれにしようかなーなどと選んでみるのですけど、まあ、全てが意味不明で本当に頭が痛くなってきます。何より恐ろしいのはこれらのまさしくクソとも言えるメモ群を、面白いと思って書いた自分が確実に存在するという点です。こればっかりはどんなに現実逃避したとしても逃れようのない真実なのです。

そんなこんなで、「世の中の女性全ての乳首がコンセントだったら」とか「デリヘルにAKB69って店名をつける短絡さ」とか「乳首画鋲」とかそうそうたるメンツなんですけど、それらの中から熟考を重ねた結果、最も意味不明だったメモを選出しました。

「会いたくて会いたくてfull well」

もう何がなにやら。

たぶん西野カナさんの「会いたくて会いたくて震える」から取ったんでしょうけど、もう意味が分からない。単純に語呂だけで勝負してますからね。こんなメモ、普通だったら見なかったことにするんですけど、ここは無理やりにでも書いてみます。

まず、このメモの一番キモとなる部分がやはり「full well」になるのですが、本当にスカッとするくらいに意味不明です。爽やかに意味不明です。仕方ないので、「フルウェル」という言葉を調べてみると、

フルウェル
ネイルティップの形の一種。自爪に装着させる部分のティップ部分がフルなことをさす。⇔ハーフウェル

いやね、僕も長いこと生きてますけど、同じ日本語のなのにその意味を調べてさらに意味が分からなくなる言葉って初めてですよ。なんだよネイルティップってよ。でもまあ、文意から想像するに、バルログみたいな付け爪的な何かだろうと予測し、文章を書いてみます。
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「会いたくて会いたくてフルウェル」

美津子はギュッと唇を噛み締めた。小さな信用金庫の窓口で働く美津子は、いつも健太のことを考えている。仕事中であろうと接客中であろうと心ここにあらずといった感じだ。健太と遠距離恋愛になったのは1ヶ月前のことだ。急な転勤で飛行機じゃないといけない距離へと引っ越していった健太。出発の時「いっぱいメールするから」って言ってくれた。けれども、それ以来、美津子の携帯が鳴ることはなかった。

「まさか事故にでもあったんじゃ?」

「転勤先が想像を絶する田舎で携帯も繋がらないんじゃ?」

「携帯電話を盗難されたとか?」

「携帯電話を水没させてしまって誰の連絡先も分からずに困ってるとか」

様々な思いが駆け巡る。けれども意図的に避け続けているキーワードがあった。「別の女」という言葉。これだけは絶対に考えないようにしていた。健太に限ってそんなことはない。絶対にない。何か別の理由で連絡できないに違いないのだ。

仕事は散々だった。ミスの連続でお客様からクレームをつけられ、上司にも怒られた。意地悪な同僚たちも私のミスを噂して笑っている。本当に散々だ。深いため息をつき駅の改札をくぐる。今日はもう早く帰ってパックして寝よう。いや、寝てる時に健太から電話があったらどうするの。やっぱり起きて待ってなきゃ。

駅裏通りのガード下、街頭が切れているのか恐ろしくなるほどの闇が口を広げて待っていた。できることなら通りたくないのだが、ここを通らなければマンションに帰れない。健太がいた頃は一緒に帰っていたし、一緒に帰れなくても携帯で会話しながら帰っていた。けれども今は一人。健太、会いたいよ…。

「会いたいのかえ?」

しゃがれた老婆の声が聞こえた。ドキッとして振り返る。けれども周囲には闇が広がるだけだった。

「会いたいのかえ?」

また声が聞こえる。今度は下からだ。声のする方向に向き直ると、そこには老婆が座っていた。上から下まで不気味なほどに黒に統一された衣を身に纏い、まるで行き倒れたかのように縁石に腰掛けていた。

美津子は無視してそのまま通り過ぎようと思った。けれども、なんか無視しちゃいけないような、ここで老婆の話を聞いておかなければいけないような、そんな気がかりな何かがあった。美津子はしゃがみこんで老婆に話しかける。

「どうしてわかったの?」

健太への思いを見透かされたような気がした。

「顔を見てればわかるでよー」

老婆はニタアと笑う。何本か歯が抜け落ちていて不気味なはずなのに不思議とそうは思わなかった。むしろ、何か願いをかなえてくれそうな頼もしいものを感じてしまっていた。

「これをつけなせえ」

老婆は10本の白い何かを差し出した。よくよく見るとそれは付け爪みたいなものであったが、まるでバルログのそれのように長く、殺傷能力としては十二分なものだった。

「どうしてこれをつけなきゃいけないの?」

「これは願いをかなえてくれる爪さね」

老婆の言葉はにわかには信じがたかったけれども、なんだかそんな言葉にもすがりたい気持ちにあーもう面倒になった。爪でバルログみたいに老婆を殺して健太も殺した。そもそも健太って誰だよ。終わり。

 

 



04/08 #11/10年桜

まあ、今でこそこうやって子猫を失った母猫のように更新しているわけなんですが、なんと、驚くことに2010年って2回しか更新してないんですよね。日本の四季って美しくて海外の方も絶賛してくれているんですけど、その春夏秋冬、季節ごとに更新したとしても4回にはなるわけですよ。なのにそれより少ない2回とはどういった了見ですかって感じなのですが、ぶっちゃけるとサナトリウムに入っていたので満足に更新できませんでした。まあ、この話をすると辛気臭くなっちゃうから今日はやめとこうね。

そんでまあ、こんなクソみたいなサイトでも更新しないと色々と心優しいメッセージを頂戴するもので

「早く更新しろ、死ね」

「更新して死ね」

「死後の世界から更新しろ」

「で、生まれ変わってもう一度死んでから更新しろ」

なんてハートウォーミングなメッセージ、絆を感じて心に響くってもんです。こうやって直接メッセージを送ってくださるのは情熱的な方がほとんどなのですが、中にはちょっとメッセージを送るのは恥ずかしいんだけど、なんて方が自身のブログやtwitterなんかでメッセージをよせてくれたりするんですよね。

「Numeri大好きなサイトです。最近更新がないから心配」

「はやくNumeri更新しないかな〜」

なんてね。うんうん、ほんとありがとうございます。なんて心温まるメッセージでしょうか。ワタクシ、皆さんの暖かいメッセージ、サナトリウムから見ておりましたよ。

でも、ちょっとおっちょこちょいさんっていうのかな、中にはとんでもない間違いをしている人がいて、

「Nemeriのpetoさん、いつも見てます。本当に面白い!」

みたいな、本当にいつも見てんのかよって言いたくなる間違いを犯している人も。これならまだかわいいほうで。

「大好きなNumeriですが、もう何年も更新されていないのです…」

みたいな。いつの間にか何年も更新をサボってなどと罪を捏造されてしまったりしてました。ひどいのになると

「Numeriなんですが、もう半世紀も更新されてません…」

どんだけやねん。たぶん半年と間違えたんでしょうけど、どんだけご長寿サイトなんだよ、とサナトリウムから見ておりました。色々と更新をサボったりしましたが、ちゃんと帰ってまいりましたのでどうぞこれからもよろしくお願いいたします。

 



04/08 #10/大声ダイヤモンド

また正月に大雪の中実家に帰省した時の話なんですけど、やっと実家に帰りついたのはいいものの、やはり途方もない雪で身動きが取れない状態なんですよね。幹線道路こそは沢山の車が通過して轍ができてるんですけど、ちょっと奥の路地とかになると完全に雪で埋まっていて車なんか入れない。人間が通れるかどうかも怪しいレベル。

仕方ないので親父とテレビばっかり見ていたんですけど、急に親父が「寿司食いたい」とかムチャクチャなこと言い出しましてね、たぶん、別にそんなに食いたかないんでしょうけど、せっかく息子が帰ってきたんだから良いものを食わせてやりたいっていう親心なんでしょう。まあ、いつも行ったところで親父はベロンベロンに酔っ払うんで、会計払うのは僕なんですけど。

でまあ、その親心は嬉しいんですけど、今日は無理ってのを分かって欲しい。っていうか、前日に24時間以上も雪の中で立ち往生し、おそらく人生の中で最高に侘しい年越しを過ごした自分としては、やはりまた雪の中で車を運転したくないってのが本音です。

でもまあ、親父は言い出したら聞かない人なので、まあ弟と親父を連れて行きましたよ。いつもこのメンツで行くと、親父と弟はアル中かってくらいに酒を飲むので僕がハンドルキーパーになるんですけど、その日も僕の運転で行くことにしました。

あちこちで、雪にはまって動けなくなってる車を横目に、前日の過酷な立ち往生を経験した僕はなんとか雪道での運転をマスターしてスイスイと進みました。まあ、あまりこういうこと書くとすぐに豪雪地帯に住むカッペが「本当の雪国はこんなもんじゃない」とか心の底からうざったいこと言ってくるんですけど。だから何って感じですよ。寿司屋行くのにイチイチ豪雪地帯のことなんて考えてられないっすよ。

でまあ、親父行きつけの高級寿司店に行くと、普段は正月からやってる店なんですが大雪のため営業中止。仕方ないのでまた死の雪道ドライビング、もう積雪量が凄すぎてラッセル車みたいに雪を掻き分けて進むような状態になってしまい、車のバンパーカバーが取れました。

で、大衆的な回転寿司や行ったんですけど、そこも大雪のため仕入れができないから休業とのことでした。ニュースでやってましたけど、あまりに大雪過ぎて漁船に雪が積もりすぎ、その重みで次々と沈没したみたいです。

もうどこもやってないので、近くのショッピングセンターのフードコート内にあるラーメン屋で三人でラーメン食って帰りました。

で、食ってる間にも雪がガンガンに降り積もりましてね。まさにキグナス氷河が出てきてマーマとかダイヤモンドダストとか叫びそうなレベルで雪化粧ですよ。行きは何とかなったんですが、こりゃあ、あの細い路地を抜けて我が実家まで到達するのは不可能だと判断したんです。

仕方ないので、幹線道路沿いに住む親父の知り合いの家に行き、そこで事情を話して駐車させてもらい、歩いて実家まで帰ることにしたんです。親父、弟、僕の三人で歩き、こりゃすげえ雪だわ、とか話しながら歩いていたんですけど、そうするとね、幹線道路と言えども沢山の車が雪にはまって立ち往生してるんですよね。大晦日のように立ち往生の車が列を成してるわけじゃなくて、30メートルに1台くらいの感じでポツポツと立ち往生してるんですよ。

で、寒いし靴の中に雪とか入ってきて冷たいんで早く帰りたかったんですけど、親父がすぐ立ち往生してる人に話しかけるんですよ。

「動けないの?手伝おうか?」

みたいな感じで話しかけてて、すっごい優しい人なんですけど、自分じゃ何もしないですからね。車を押したりするのが僕と弟ですから。そんなこんなで、僕ら兄弟がこの道路の番人みたいな感じで次々と雪にはまった車を救出。大晦日、誰も助けてくれなくてなきながらラブホテルの駐車場で年を越した僕が人を救いまくっていました。

で、いよいよ我が家も近くなってきて、はまってる車も1台となりました。この車を救出したら帰れると思って近づくと、乗っていたのかなかなか色っぽい感じの熟女でした。その瞬間、親父がすごい張り切っちゃって、すっげえ勢いで車を押してました。

けれども、この最後の車、相手が悪かった。シブイ感じの古い車だったんですけど、古いだけあって車の重量が重い。さらにはFR駆動という悪条件。雪道にFRはかなりリスキーですからね、とてもじゃないがちょっと押したくらいではギッシリはまっていて抜けられそうにない。タイヤが空回りするばかり。熟女にいいとこみせようと張り切ってる親父の思いも空回り。にっちもさっちも行かない状況に。

すごい困り果ててる熟女に親父はついに決意しました。

「よし、パワーショベルだ!」

走って実家に帰り、倉庫に鎮座しておられる小型のパワーショベルをムリムリと動かしてくるんですよ。さすがパワーショベルってパワーって名前がつくだけあって凄い馬力で雪道なんてものともしない感じで爆走してくるんです。

で、車の後部のバンパーみたいな場所にチェーンをくくりつけてですね、そのチェーンをパワーショベルのアームにくくりつけます。そいでもって一気に引っ張り出そうとしたみたいです。

親父の指示で熟女を運転席に座らせます。

「いいか、この状態から脱出できたら一気に走り去れ。停まってお礼とかいらないから。っていうか停まったらまたはまるから、そのまま一気に走り抜けるんだ」

「はい!」

熟女は元気良く返事をし、運転席に乗り込みます。まずギアをバックに入れてグオングオンとエンジンを吹かす熟女。親父のパワーショベルも唸りをあげて車を後ろに引っ張ります。

ウオオオオオオン、ガコ!

ついに、車が抜け出しました。

「やった!抜けた!」

大声を上げる僕。その瞬間、言われたことを忠実に守った熟女がギアを入れ替え、物凄い勢いで前進しました。

ガコッ!

凄い勢いで外れる車の後ろバンパーみたいなやつ。凄いスピードで走り去り、すぐに小さくなる熟女の車の姿。残される僕たち親子。雪の上を転がるバンパーみたいなやつを尻目に去り行く車を眺めて親子三人、SPEEDのALIVEのPVみたいな状態になってました。

外れたバンパーが転がって雪の塊みたいなのにがっちりはまってて、なんだか寿司みたいでした。



04/08 #9/Baby! Baby! Baby!

何を隠そう、ものすごくうれしはずかしなんですけど、この間引っ越しましてね。引越しといいますと、当たらし環境に新しい部屋、全てが光り輝いて見えるなんてものでして、すごく前向きな未来ある物と考えがちですが、そうではありません。

僕も何度か引越しというものを経験していますが、引越しにおいて最大のネックとなるのが、古い部屋の明け渡しです。つまり今まで使っていた部屋をいかにして綺麗にして不動産屋なり大家なりに引き渡すのかが重要になってくるわけなんです。

普通に生活している人ならば何ら問題なく、引越し屋さんに荷物を運び出してもらって、ちょっと本格的に大掃除すればバッチグーですよ。でもね、あいにく僕の部屋ってのが養豚場にホームレスが住んでるみたいなもんなんですよ。とにかく汚い。

部屋の一角には捨てるに捨てれないゴミが山のように折り重なってアンタッチャブルゾーンを形成しており、なんかゴミが腐って床板とかまで腐ってましたからね。風呂場なんか水垢が溜まりすぎてピンク色のお風呂なのかしらってイメージですし、トイレなんか汚れすぎてて何色のウンコをしていたのかすら定かではない状態ですからね。この部屋から赤子の死体以外何が出てきても驚かない、そんな状態ですよ。ハッキリ言って色々と終わってる。

でまあ、その猫のトイレより酷い有様の部屋を出すね、引渡しの際に不動産屋とか大家に見せるわけですよ。ネチネチと、ここの壁が汚れてるとか、ここに傷がとか言われるわけ。もう心をレイプされてるようなものですよ。普通の部屋でも結構嫌な儀式なのに、何せ前述のように養豚場より酷い僕の部屋ですよ。逆に部屋を見た大家が卒倒するかもしれない。

そんなこんなで、2年半前に同じ市内に引っ越したときは、僕は臆病なので、そのような汚い部屋を大家に引き渡すのが嫌で、心をレイプされるのが嫌で、ずっと引き渡さずに家賃を払い続けていました。2年半も。つまり、今の住んでる部屋の家賃と、住んでもいない前の部屋の家賃をずっと払っていたんです。2年半だから30回の2重家賃。どれだけ引渡しが嫌だったか良くわかっていただけたかと思います。

でまあ、そういった二重生活を続けていたって何も得るものがなくてですね、2年半続けた結果、汚い部屋が二つ手に入ったってことで、もうにっちもさっちもいかない状態。首が回らないとはまさにこのことだ、と思いましてね。ここは奮起して二つの部屋を引き払って綺麗な部屋に引っ越してやろうと思い立ったわけなんです。

普通に考えると一つの部屋の引越しだけでも相当大変なのですが、それが二つですからね、会社だったらプロジェクトを立ち上げて全力であたるくらいの騒ぎです。もう仕方ないというか、とにかく2重家賃ってのは家計的にもキツイので、とにかく頑張りましたよ。なんかどうやったらこんな傷がつくんだってレベルで傷ついたフローリングとか、ゴキブリすら死んでて、風化して粉みたいになってる場所とか、何かの怨念?ってレベルで人型の汚れがついた壁紙とか、洗濯物干しまくってたらぶっ壊れてしまったカーテンレールとか、とにかくですね1ヶ月くらいかけて部屋を掃除しまくってやったんです。ゴミなんか2トンくらいは捨てたんじゃないかな。

でまあ、なんとか体裁も整いまして乳幼児の死体が出てきそうな部屋も、なんとか人並みの汚い部屋レベルになりましてね、いよいよ大家を迎え撃つ体制が出来上がったんです。そして、ついにその時はやってきました。

まずはじめに、二つ目の物件、つまりつい最近まで住んでいたアパートの引渡しですが、こちらは頑張って掃除した甲斐があって予想よりスムーズに引渡しが終わりました。ここは入居の時に大家に会わなかったので、引渡し時に初対面となったのですが、まあ、やってきた大家がモロヤクザ。部屋が汚すぎて殺される!と失禁しそうになりましたが、かなり気さくで豪快な方だったらしく

「兄ちゃん、男の独り暮らしにしては綺麗なほうやないか!」

などと、なんとも暖かいお言葉を頂戴したものでした。トイレにチン毛が落ちとるぞ!などという若干のセクハラはありましたが、なんとかソツなく引渡しが終了。もっと心をレイプされるかと思ったのですが拍子抜けするほど簡単に事が済んだことに安堵しつつ、この調子でいけばもう一個の物件、無意味に2年半も家賃を払い続けたあの悪魔の物件も軽くいけるんじゃない?っていう考えが頭の中を駆け巡ったのです。しかし、これが後にとんでもない惨劇を生み出すこととなるのです。

次の日、前日の勢いに乗って2年半も無駄に家賃を払い続けたアパート、乳幼児の頭部アパートに意気揚々とやってきたのですが、前日までの勢いとかそういったのを超越して冷静に見ると部屋が汚すぎる。1ヶ月かけてコツコツと掃除してきたのに汚すぎる。どうなってるんだ。

あのですね、2年半も前からこの部屋には住んでないんですよ。そうなるとね、当然ながら電気も水道もガスも止めてるわけじゃないですか。で、いまさら復旧させるのも面倒ですし、それらのライフラインなしで掃除するじゃないですか。昼間にやれば電気なんていりませんし、ガスなんて全く必要ありません。けれどもね、水道がないのは痛かった。本当に痛かった。掃除において「水」がどれだけ重要か痛いほどわかった。

あのですね「水」の存在を舐めたらアカンですよ。とにかくアカンですよ。水無しで掃除したって汚れを拭き取ってるって状態じゃなくて汚れを引き伸ばしてるに過ぎないんですよ。そうなってくるといくらやっても全然綺麗にならない。さすがにゴミとかは捨てましたけど、それでも大家が見たら腰抜かすレベルで汚い。最後のほうは諦めちゃいましてね、うん、綺麗、綺麗、って自分に言い聞かせることで掃除終了と相成ったのでした。

さて、いよいよ不動産屋がやってきます。幸運だったのは大家ではなく不動産屋が引き渡しにやってくるという点です。やはり大家ってのは持ち主ですから自分の物件なわけですよ。それをこんな状態にされたらレイプだってより執拗でより残忍なものになるに決まってます。下手したら殺されるかもしれない。

けれどもね、不動産屋なんてしょせんは他人事ですよ。自分のものじゃないですからレイプにして非常に事務的でさらっとしたもの。そんなおざなりレイプで僕の心を折れるわけがない。

そんなこんなで約束の時間になるとついに不動産屋がやってきました。ここでカワイイ女でも来ようものなら、「君の性器に敷金・礼金」とかできたんでしょうけど、すごい小太りな20代前半のニート上がりみたいな男がやってきました。

「お部屋の引渡しにやってきました!」

とかいう男がまず絶句。玄関が汚い。なんかピザのチラシが玄関床に張り付いていて取れない。男が取ろうとするが取れない。それはがっちり床に吸い付いている。

「あ、なんか粉が落ちてますね」

その粉はゴキブリの死骸が風化した粉だ。

「あー、壊れちゃってますねー」

トイレのドアが、僕が日本代表のサッカーの試合でゴールが決まったときに興奮して蹴破ってしまってものすごい大穴が開いている。

それからきちんと順番に各所の汚れなどを指摘されていき、順当に心をレイプされていったんですけど、なんとか「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り倒すことでそれらをクリア。もう網戸とか溶けてましたからね。網戸が破れるじゃなくて溶けるですから。想像できますか。

そんなこんなで一通り指摘も終わり、なんとかすごいレイプされたけど乗り切った、と安堵の気持ちでいると

「じゃあ、鍵の返却お願いします」

とかいわれて、鍵なんかもういつ無くしたかも分かりませんからね。

「鍵ありません」

とかいうと、不動産屋も「はあ?」みたいな顔してました。いくらなんでも鍵がないってのは想像の範疇を超えていたみたい。さすがに僕も彼の反応に物凄く焦ってしまって

「いや、鍵を暴漢に奪われまして…」

とか何の得にもならないブラフをかましてました。男はしばらく固まっていたんですけど、何か色々と納得したらしく

「あ、そうですか、暴漢ですか、そうですか、仕方ないですね」

みたいなことを言ってました。いよいよ引渡しも終わり、2年半も無駄に家賃を払い続けたこの部屋ともお別れ、となんだかちょっとおセンチな気分になっていると、男が急に何かを思いついたように流しの下を扉を開けたんですね。

基本的に全ての場所をチェックして引渡しとなるんですが、あまりの部屋の惨状に流しの下を見るのを忘れていたらしく、思い出したようにチェックしようとしたんです。それは僕も同じことで、完全に流しの下の開き戸の存在を忘れていました。あそこは手付かずの大自然。人間の手が入ってない最後の楽園よ、とか思いながら、本当に中に何が入ってるのか分からず、もしかしたら本当に乳幼児の頭部が入っているかもしれないとハラハラしつつ、開き戸を開ける男の姿を見守っていました。

「最後、ここチェックしときますねー」

男はしゃがみこみ、開き戸を一気に開けた。

ザパー!

なぜか大量の砂が。ひざを突いている男の太ももあたりまで砂で埋まった状態になっていた。

「砂…?」

ああ、思い出したわ。一時期、すごい川の砂にはまっていた時期があって、週末のたびに色々な川にいって、そこでビニール袋いっぱいに川砂を採取していたんだった。で、その10個くらいの袋を全部流しの下の開き戸に突っ込んどいたんだけど、それが長い年月を経て袋が朽ち果ててこんな状態になったんだと思う。

「わー、ごめんなさい。趣味で砂を集めてて!」

とか、あんまり言い訳になってないことを口走っていた僕。

「すぐに掃除します!」

とか言ったんですけど、

「もういいです」

みたいなこと言われた。この一言が一番心にキタね。結局なんか、敷金では足りないらしく、掃除代と修理代、失くした鍵代を後日請求しますみたいなこと言われました。すっげえ金額請求されるんだろうなあ。

とにかく、2年半は住んでなくて家賃だけ払っていたとはいえ、長い年月お世話になった部屋です。「ありがとな!」ってお礼を言ってかっこよく出て行こうとしたら川砂で滑って転びました。



04/08 #8/桜の花びらたち2008

(#1の続き)
そんなこんなで、トレーディングタイムも終わり、一旦、AKB劇場から退場させられるオタたち。なぜか寒風が吹き荒れる非常階段を使って8階から1階まで退場させられました。たぶんお前らオタどもは強風に吹かれて落ちて死ねっていう劇場スタッフの無言のメッセージなんでしょうね。

とにかく、また路上に放り出されたオタたちは、その路上でカードのトレーディングを始める始末。みんな辞書みたいになってるファイル形にヒラリヒラリと舞い踊っていました。なんだかその姿が凄く綺麗儚くて、桜の花びらみたいでした。きっと散り行くサダなのを分かってるんだと思う。

そんなこんなで時間を潰していると、夕方公演の時間になったらしく、またもや劇場に入れる時間になったようでオタどもの大移動がはじまりました。僕もその流れに乗って劇場へと向かうのですが、こうなんか、さっきみたいに劇場に人が沢山いるんですけど、さっきとは違った、なんかすごい違和感を感じる状態になってるんです。

この違和感の正体はすぐに分かったんですけど、実は最近のAKB劇場のチケットってのはかなり厳正な抽選をしているみたいで、ディープなオタクだろうがライトな素人だろうが同じ条件で抽選されるんですよね。それこそ、チケットの当選をオナニーの回数で決めるとかだったらオタクばっかりで少しイカくさいんでしょうけど、単純な抽選となれば話は別。約半数が普通の素人なんですよ。

中には、AKBが最近話題だから観光気分で劇場に来てみた。チケットなんて持ってない、っていうガチの一般層もいて、すごいディープな人々と一般層の温度差がものすごい状態になってました。

中でも凄かったのが、どうもこの日はAKB48研究生の小林茉里奈さんの誕生日だったらしく、小林茉里奈さんフリークの人々がお揃いで自作のピンク色のTシャツを着てですね、もうすごいヌシっぽいかんじで劇場ロビーで活動してました。で、すごい人たちいるね、って一般層が眺めてました。

で、いよいよチケット当選した人たちの整列が始まりまして、たぶん当選した時に整理番号が割り振られてるんでしょうけど、その番号順に整列させられてるんですよ。僕はチケット持ってないんでその光景を眺めてるんですけど、せまっくるしいロビーに200から300くらいの人々が整列させられてる光景は圧巻でした。

でも、もっと圧巻だったのは前述の小林茉里奈さん親衛隊みたいなピンク色のTシャツを着ていた軍団ですよ。何かゴソゴソしてるなーって思ってたんですけど、整列が一通り終わるとピンク軍団が全ての客に何かを配布してるんですよ。なんだろうって思って近くにいた客のやつを見てみたら、サイリウムって言うんですか、あの光る棒みたいなやつを全ての客に2本ずつ配ってるんです。無料で。

1本いくら位するのか知りませんけど、それを全ての客に配るとか豪気な話よのう、とか思いながら見ていたら、ついにキャンセル待ち受付が始まると言う吉報が僕の元に届きました。実は僕も事前にこの公演のチケットを申し込んでいて、見事抽選から漏れたんですけど、なんかキャンセル待ちには当選したらしく、87番というありがたい番号を頂戴したのでした。

で、受付前で待ってると呼ばれるわけですよ。

「キャンセル待ち1番から5番のお客様ー!」

とかで、呼ばれた人が手続きして、たぶん正規料金より1000円くらい安いんですけど立ち見で見ることができる、って感じになってました。ただまあ、僕の番号87番ですからね。どう考えても呼ばれるはずがないって状態なんですけど、

「20番の方ー」

「40番の方ー」

「60番の方ー」

とかけっこうトントン拍子で番号が進んでいくんですよ。62番くらいで呼ばれたおっさんなんてよほど嬉しかったのか呼ばれた瞬間に「よっしゃ!」とかガッツポーズしてた。どんだけ嬉しいんだよ。

いよいよ呼ばれる数字も70番台となり、なんか呼ぶ人もチラチラッと何かの資料を見ながらコールしていて、いよいよ打ち切りになりそうな気配。横にいたチン毛も生えてなさそうな3人組が、「どうする俺たちの1こまえで打ち切りになったら」「ラーメン食って帰る」とか会話していたので、誰が見ても打ち切りは近かったように思います。

しかし、80番台ともなるともう諦めてて来てない人とか結構いるみたいで、番号を呼ばれても誰も名乗り出ないっていうことが多くなってきます。これは87番いけるか?と僕の心もドキドキしてきます。

「86番の方ー?」

誰も名乗り出ない。きた、ついにきた!

「87番の方ー!」

物凄い勢いで一歩前に出た僕は2000円支払い、なにかリストバンドみたいなのを腕に巻かれるのでした。ちなみに3人組は駄目だったらしく、たぶんラーメン食って帰ったと思います。

で、意気揚々と劇場に向かうと、ちゃんとそこにはピンクTシャツ軍団が待ち構えていて、ちゃんと手渡しでサイリウムを2本頂戴いたしました。

会場に入ると、すぐにドアが閉められ、会場後方で立ち見客がギュウギュウに圧搾される中、overtureが流れ、いよいよAKB48研究生公演が開演するのでした。そう、僕にとって地獄とも言える時間が始まったのです。

つづく



04/08 #7/ロマンス、イラネ

皆さんは五重の塔プレイというのをご存知でしょうか。五重の塔とは仏塔の形式の一つで、折り重なった層のような形状をした塔で、大きいものから小さいものまで日本各地で見られる建造物です。中でも法隆寺の五重塔は有名ではないでしょうか。

これは何も意味不明に高く建立されたわけではなく、ちゃんとその当時の時代背景を考えられていると言われています。当時はやはり今のように移動手段もなく、なかなか参拝をするなどとはいかなかったようです。特に貧しい農民などは、仕事が手一杯で、参拝などもってのほかだったのかもしれません。

そこで、有難い塔を高く作ることで、今のように高層ビルなんて存在しない時代です。見通しの良い平野で遠くからも参拝できるよう、上へ上へと伸びていったということなのです。手の届かない有難い寺に手が届くよう、配慮された結果だと言えます。

最近ではあまり見ませんが、一昔前のマンガなのでは展開に困ると必ず五重の塔が出現し、主人公がその塔の中で各階に配置された強敵と戦い、最上階に潜むボスを倒す、ってのが何度となく見られたものです。たぶん、ジャッキーチェンの映画か何かからきてるんだと思います。

で、各階に配置されていた敵ってのもけっこう定番で、あくまでも僕のイメージなんですけど、最初に対峙する1階には素早い系のヤツが配置されたりします。こいつは敵の色に染まってるんですけど、戦ってるうちに主人公サイドに心情が変化していき、最後には主人公についたりします。

2階に配置されるのは技巧派が多いです。渋い系とでもいいましょうか。クラスで7番手くらいのあまり目立たないような子が、この辺を好んだりします。また、渋い系ではなくとんでもないゲスが配置されることもあります。

3階に配置されるのは、食いしん坊が多いです。面倒になったんで一気に行きますけど、4階は女性キャラであることが多く、5階がボス、もしくは老師みたいなポジションのやつが配置されたりします。

で、こういった5重の塔の戦いってのは、おそらく作者もネタに困って導入されるわけなんですが、やはり少年だった僕たちの心には深く焼きついていて、いつかはこんな五重塔で戦ってみたい、などと幼心に決心させたりするものです。

けれどもね、僕ももう34歳ですわ。今年で35歳。来年で36歳ですわ。もう同年代のやつらなんて結婚して子供も小学生になろうかってレベルで、家なんて建てちゃったりしてね。家族の顔をみると安らぐ、とか言ってるんですよ。その横で僕は五重の塔で戦いたい、ですか。あのですね、いつまでもそんなこと言ってられないですよ。

そうなると、やはりアダルトなりに五重の塔を考えないといけないんですけど、やはりそうなるとセックス的な感じになってくるじゃないですか。つまり、各階で戦うんじゃなくて各階でおセックスをする、その布陣を考えるのに心血を注ぐようになるんですよ。いわゆるロマンスってやつです。

いやいや、五重の塔プレイで、単純に五連発セックスって考えるのは底が浅い。そんなんじゃ先が思いやられます。五重の塔プレイは完全に満足するための最強の布陣。いうなればバイキングを満足するのに似ています。単純に大量に食べればいいというスタイルではなく、ちゃんとわびさびを重んじた布陣が必要になってくるのです。

例えば、好きなアイドルとか芸能人を1階から5階まで配置する。多くの人がやりがちですがこれはバカがやることです。好きな芸能人を5人配置、メロンしか食べない子供ですか。そんな愚かな人はNumeri読者にはいりません。

こういった五重の塔プレイを考える場合、一番に考えなければいけないのが心の問題です。例えば佐々木希とそういった事に及んでも、絶対に佐々木希はマグロです。積極的に腰を使ったりするわけがありません。それでは最初こそは興奮したとしても後で大いに後悔することになります。

じゃあ、人間が一番興奮するのってどんなシチュエーションだと思いますか。そうですね、知り合いがエロビデオに出ていた、これが一番興奮しますね。つまり多くの人が一番に望むのは佐々木希みたいなアナタと縁もゆかりもない人間より、とても身近にいる女性なんです。それも物理的には近くにいるのに、心情的には遠くにいるような人間が良いです。そして、これはあとで分かりますが、ブスがいいです。うちの職場で言うと太田さんです。

ということで、まず1階には職場や学校で毎日顔を合わせるブスを配置しましょう。

では2階はどうするかって話になってくるのですが、ここで佐々木希を配置するのはバカがやることです。あいつはマグロです。ここは格闘マンガの五重の塔にならってやはり技巧派を招きたいところです。

もちろん、おセックスにおいて技巧派とはAV女優になるわけで、ここはドカンと一番大好きなAV女優、つぼみやら長瀬愛を配置したいところです。しかし、ちょっと落ち着いてください。さっきの1階になぜあえてブスを配置したのか考えてください。人間ってね刺激に慣れちゃう生き物なんですよ。最初に美人を配置したらもうそのびじんの刺激に慣れちゃって次の階に美人が現れても全く興奮しなくなるんですよ。そう考えると、まだまだ序盤の2階であまり美人を配置するのは危険です。ここは職場や学校で一番ヤリマンと噂されているブスを配置しましょう。具体的にうちの職場で言うと山本さんです。

さて三階ですが、ここらあたりから芸能人をと考える人が多いです。そりゃあ1階2階と職場のブスを配置してきたので、やはりここは大好きな芸能人を配置したいでしょうよ。それが人情ってもんです。でもね、あなたがそう考えるって事は皆もそう考える。つまりその五重の塔を誰か他の人が見た時、ああ、1階2階とブスだったから3階から佐々木希なのねってニヤニヤしながら言われちゃいますよ。それって悔しいじゃないですか。それに佐々木希は絶対にマグロです。

ということで、そんなありきたりな展開は避け、ここは3階にも職場のブスを配置しておきましょう。喜ばしいことに我が職場はブスの人材が豊富です。弾には困りませんので、その中でも一番性格のきついブスを配置しておきましょう。田中さんです。

いよいよ4階になるのですが、4階は死の階です。佐々木希はマグロです。職場のブスを配置しておきましょう。森山さんです。

で、最後の五階になるのですが、ここまで職場のブスと4連戦してきたわけです。いい加減、色々な感覚が狂ってきているはずです。もうここまできたらいっちゃいましょう。職場のお局さんを配置しましょう。

こうして見返してみると、1階から5階までズラリと職場のブスが並ぶはずです。実際に図に書いてみるといいでしょう。やっぱりマグロとか入れとけばよかったかなあ、などと激しい後悔があなたを襲うはずですが、それすらも興奮のスパイスです。

ちなみに、僕はこうやってものすごい長時間かけて職場でこの五重の塔を考えていて、しかもそれを実際に紙に書き、五重の塔の絵まで描いて暇な時間を潰してたんですが、間違えてそれをリサイクルペーパー入れに入れてしまったみたいで、たまたまそれを発見した田中さん(3階)が発見してしまい、大騒ぎになりました。

というわけで、職場の偉い人やセクハラ問題関係の人に連続で怒られ、この女性の名前が書いてある塔はなんだねとかきかれまくって、まさかセックスする順番ですとも言えず、悶々とするのでした。ちなみに、連続して5人に怒られた。まさに五重の塔だぜ。ちなみに5階で死んだ。



04/08 #6/夕陽を見ているか?

数分ごとに蒸気が噴出し、呼吸をするのも苦しい湿気の中、高志は全裸で座っていた。3畳ほどの小さな石造りの小部屋に椅子が6つ置かれ、部屋の奥には数分ごとに蒸気を発生する不思議な壷が置かれていた。

高志はこの小さな小部屋が大好きだった。ここは、東久留米市にあるスーパー銭湯の一角だ。ここには電気風呂からサウナからジェットバス、露天風呂と様々な風呂があるが、高志が好む「釜風呂」は本当に見落としてしまいがちな場所にある。

洗い場から露天風呂へと続く通路には風の流入を防ぐための小さな小部屋がある。本来ならこの小部屋の存在によって2枚の扉が同時に開くのを防ぎ、寒い風が洗い場に流入するのを防ぐためだけのものであるはずなのだが、なぜかその小部屋の脇に本当に小さな扉がある。

まるで茶室に続く扉のように低い位置に配置された扉の上には目立たぬように「釜風呂」と書かれている。先に続く露天風呂にだけ目を奪われていたら見落としてしまうだろう。そんな扉だ。

さらに不気味なことに、一応その扉はガラス張りで内部が覗けるようになっているのだが、釜風呂とは名前だけで単純にスチームサウナとして運用されているこの部屋は相当な湿気で、内部を窺い知ることができない。ボンヤリと蒸気の中に座る人影が見えるだけだ。

このように、見落としがちであり、さらに屈んで入ることを強いられる不便な扉、そして内部の様子を分からない不気味さ、それらを全て乗り越えて到達するこの部屋、高志はそんなこの部屋がまるでこのスーパー銭湯の裏モードみたいに感じられて大好きだった。おまけに、この蒸気のカーテンがなんだかとっても居心地が良かった。

今日も高志は仕事帰りにこのスーパー銭湯に寄り、何より先にこの釜風呂へと入る。先客はおらず、他の客も入ってこない。しばらくの間、高志一人だけの時間が続いた。部屋の中に充満する蒸気に息苦しい思いをするが、温度が高くないせいかサウナよりは苦しくない。これなら何時間でもここで粘ることができそうだ。

何度か、扉のガラス越しにこちらを覗き見る影が見える。もちろん、充満する蒸気で明確に姿が見えるわけではないが、おぼろげながらこちらを覗き込む姿が見える。しかし、やはり相当にこの「釜風呂」が怪しいのだろう、しばらく覗き込むとそのまま消えてしまうのだ。おそらく露天風呂に行ったのだろう。

このスーパー銭湯は利用客も多く、どの風呂においても多くの人がひしめき合っているのだが、そういった事情からこの釜風呂だけはほとんど人が入ってこない。落ち着いてゆっくりとした時間を過ごすことができる。だからこの釜風呂が好きなのだ。

しかしながら、高志がこの釜風呂を好む理由はそれだけではない。むしろ落ち着くだとかゆったりとした時間を過ごせるだとかはおまけの要素にしか過ぎない。息苦しい中、何時間もここにいるのにはもっと他の理由があるのだ。

いくら入りづらい釜風呂といえども、全く人が入ってこないというわけではない。常連客や物怖じしない人、全ての風呂に入って元を取ろうとする人など、いくらかの人は、この入りにくい結界を超えて釜風呂へと入ってくる。そうなってからが高志の本番だ。

まず、入ってきた人間との我慢比べ。これに勝利しなければお楽しみは訪れない。いや、むしろ、この釜風呂はサウナほど暑くもなく、単純に息苦しいだけなのでそこまで我慢する必要はない。たいていの客はすぐに飽きて出て行ってしまう。そこの瞬間が本番だ。

まず、ここはスーパー銭湯だ。基本的に客は全裸である。別にホモでもなんでもないので男の裸を見たって何も嬉しくはないが、もっと高次元の場所に楽しみがあるのだ。前述したようにこの釜風呂の扉は茶室のように低い位置につけられている。当然ながら、全ての客は屈んで中腰の姿勢で入ってくるようになっている。

入ってくる時は別にどうってことないのだが、問題は出る時だ。もちろん、出る時だって客はしゃがみながら出て行くことになる。高志はその姿を後ろから眺めることになるのだが、全ての男たちがアナル丸出しなのである。高志はその見ず知らずの男たちのアナルに全宇宙を見出していた。

何度も念を押すが、高志は決してホモではない。アナルを見て欲情することもなければ興奮することもない。こういった公衆浴場などでは男なんてのは前を隠さずに誇らしげに歩いていることが多い。中にはタオルで隠す若者などもいるが、基本的にどの客もアナルまでは絶対に見せないし、まさか見られるとも思っていない。そんなアナルを覗けてしまえるエアポケットのような時間、それがこの釜風呂から出る瞬間に訪れる。高志はその瞬間がお気に入。りだった。

「バイトマジだりー、昨日まで23連勤だったわー」

「でも今日休みとれてよかったじゃん!」

「あしたからマジ40連勤だから!」

という心の底から会話を交わす気取った若者二人組み。蒸気でよく見えないけど髪型なんてホストみたいでカッコイイんだけど、そんな会話にも飽きて釜風呂から出るとき、二人揃ってアナル丸出し。

家では威厳のありそうな年配のお父さん。メガネをつけて入ってくるものだからあっという間に曇ってしまうのだけど、そんな偉そうなお父さんだってアナル丸出し。高志は、よく知りもしない人、その人のアナルといういわゆるコアの部分を眺めるという相反した行為に途方もない喜びを覚えていた。まるでその人の全てを手に入れたような、その人を自分の中に取り込んだような、そんな奇妙な感覚すら存在した。仕事帰りにこの釜風呂にやってきてアナルを見る。高志にとってアナルとは夕日を見るのと同義だった。

こうやって様々なアナルを見ていると、一口に、いや口ではないのだけど一アナルにアナルと言っても様々なアナルがあることに気付かされる。ものすごい真っ黒なアナルからピンクのアナル、バーガーと間違うほどに鬱蒼と毛が覆い茂ったアナル、イボ痔にキレ痔、様々なアナルがあった。はじめこそはアナルを見てやっているという感覚であった高志も、次第にアナルに魅せられていくようになった。アナルを見ているはずなのに、アナルに見られているような感覚。

「見透かされてるのはこっちかもな」

そう呟くと壷から激しく蒸気が吹き出した。この日はなんだか蒸気の調子が良かった。いつもの倍以上は蒸気が噴出していると思えるほどに蒸気が噴出し、いつもは見える人影もハッキリとは見えない。

「どうしたのかな今日は」

高志はそう呟いてハッとした。右前方におぼろげながら人影が見えるのだ。その人影は、姿こそはハッキリとは分からないが、確実にこちらを向いて座っている。いくら蒸気が濃いからといって気付かないはずはないのだが、どうやら先客がいたようだ。

誰もいないと思って独り言を言ったというのに、聞かれてしまった。すこし咳払いしてなんとかその場を取り繕った。なんだか無性に居心地が悪く、いち早くこの釜風呂から出ようと思ったのだけど、誰かが中に残っているのに自分が先に出るということはアナルを見られることになってします。さすがにそれは避けたいのでその先客が出て行くのを待とうと、居心地が悪いなりに我慢していた。しかし、先客は全く動く気配がない。普通なら数分で飽きて出て行きそうなものなのに全く動く気配がないのだ。

全く動く気配のない先客にイライラしていると、また別の客が入ってきた。相変わらず蒸気が濃く、その姿はハッキリ見えないのだけど、恰幅の良い中年のようだった。中年は深い深呼吸をすると野太い唸り声を上げながら椅子に座った。こういう客はすぐに飽きて出て行ってしまう。高志の予想通り、数分もすると、また野太い唸り声を上げて中年が立ち上がった。

チャンスだ。今日一発目のアナルを見ることができる。高志は中年を凝視した。濃霧でその姿は朧だが、今まさに中年が屈んでドアをくぐろうとしている。その瞬間、しゃがみこむ事でパックリと開いた尻肉の切れ目から、アナルが見えた。

これを見ないと一日の仕事が終わった気がしない。まるで夕日を見るように一日の終わりを感じる高志。しかし、何やら様子が違った。中年のアナルはアナルなのだが、何やらおかしい。そのアナルの様子がおかしいのだ。濃霧でハッキリとは分からないが、アナルのさらに中心に、蠢く何かが見える。

新手のギョウ虫か何かかとも思ったが、もっと神秘的な、あえて言うなら動いている一つ一つのドットがかなり濃密で微細な何か。それらが不思議な感じで動いていた。

「なんだあれは」

あまりの出来事に先客も気にせず、声に出してしまう。中年はその、メタボリックな腹が邪魔でドアをくぐるのに悪戦苦闘、ずっとアナル丸出しの状態なのでついつい椅子から立ち上がってマジマジと覗き込んだ。

近づいてみると分かる。何か無数の小さなものが球体の中を蠢いている。これはなんだ。こういう時になるとこの他者との繋がりを適度に断ち切ってくれる蒸気も邪魔でしかない。さすがにこれ以上近づいて見るのは不審だ。高志は目を細めて凝視した。

町だ!

驚くことに、中年のアナルの中には小さな町が納まっていた。まるでミニチュアをさらに小さくしてそれをスーパーボールの中に入れたような、そんなアナルがそこにあった。信じ難いことだが、歴然たる事実なので仕方ない。

「そんな、なんでオッサンのアナルに町が…」

ついつい言葉が出てしまう。それに反応して、あの忌々しい先客が口を開いた。

「あら、気付いたようね。アナルシティに」

その声は明らかに女のものだった。ここ男湯だぜ。そしてアナルシティという聞きなれない言葉。あふれ出る蒸気の中、高志は呆然と立ち尽くすだけだった。

連続小説「夕陽をみているか?」つづく

 



04/08 #5/僕の太陽

タカミナこと高橋みなみさんのことが好きすぎてたまらないっていうか、どれぐらい好きかって言うと、その日はAKB48の公演が秋葉原の劇場であったのだけど、上手に踊れなくてちょっとメンバーと衝突しちゃうのね、タカミナが、で、売り言葉に買い言葉で、なんか「リーダー面してんじゃねえよ!」とか言われちゃって、そりゃあ秋元康に言わせると「AKB48とは高橋みなみのことである」なんていわれてるけど、面と向かって言われると、まるで自分がリーダーという地位にしがみ付いて調子に乗ってるようで、それを指摘されたようで悔しく、なんだか自分がAKB48にいらない存在なんじゃないかって気がしてきて苦しく、そんなことはない、みんなそう思ってはないって言い聞かせるんだけどやはりどこか心の奥底に引っかかるような、そんな思いを抱えて家路へとつく途中、電車の中で不思議な男に出会ってしまい、一応サングラスはしているけど周りの女子高生なんか「ほら、あれタカミナじゃない?」なんて噂してるんだけど、その男はipod touchでずっと何かの動画を見ているような、なんだろうって思って覗き込んでみると、AKB48のライブ動画で、そんなここに本物のAKB48がいて、周りの乗客も騒いでいて、私だってこんなに近くにいるのに、どうしてこの男はそんな小さな画面、それも旧型のipod touchの画面の私達に夢中なんだろうって思って、なんだか無性に腹が立って、ついつい男のipod touchを取り上げてしまい、男は驚いた顔で私を見て、私は私で誰もいない場所で一言言ってやろうと思い男に次の駅で降りるように伝え、男は素直に駅で降りてベンチに座り、私も横に座って男に問いかけた「ちょっとAKB48好きなんでしょ?だったらなんで私に反応しないの?」男は不敵な笑みを浮かべて口を開く「AKB48は好きさ、ただだからと言ってなんで君に反応しなくちゃならないんだい?」なんだか無性に腹が立ち、まるで自分がAKBの一員ではないって言われてるような気がし、「あなた推しメンだれよ?」とつい口に出てしまって、きっとこの男は推しメンが違うんだ、だから仕方がない、と納得しようとする浅はかな自分にも腹が立ち、その後に続く男のセリフに驚愕させられた「俺の推しメンはタカミナだよ」もう考えるより先に言葉が出てしまい「だったらどうして?」ともう顔なんて真っ赤だったんだろうなって勢いで怒りを顕にする自分に男はさらに不敵に言った「本当に目の前にいるのがタカミナならば僕だって驚き取り乱す。けれども君は本当にタカミナかい?」意味が分からず呆然としていると男はさらに続けた「自信を失い、迷っている君はタカミナじゃない、僕の知ってるタカミナはもっと男前さ、逃げたりなんかしない」なんだか涙が溢れてきて止まらなかったし、ずっとずっと迷っていたことを見透かされたような気分、男はその言葉だけを残して総武線に乗り込んで消えていく、去り際に「あの、名前だけでも」と問いかけると、男は「patoさ」とだけ答えて手を振りながら総武線は暗闇に消えて行き、ただpatoさんに対する私の思いだけが人のいなくなったホームを漂って、私は明日からどうやって生きていこう、もしかしたらリーダーの私が恋愛禁止条例を破ることになってしまうのではないか、うううん、片思いならいいんだ、私はとびっきり素敵な片思いをしよう、patoさんに片想いをしよう、なんて決心して次の日、AKB劇場に行くとメンバーのみんながゾンビになっていて、あっちゃんなんかもう土色になっていてパニックになっちゃって「どうしたの何があったの」って大声を出したら楽屋に変な男の人がいてもう目が虚ろで何か危ない感じで、よくよく見たらいつも公演や握手会で見かける気持ち悪い男で、男は私の姿を見て嬉しそうに笑うとこういった「タカミナもゾンビになろうよ、AKB48はもう腐り果てたんだ、だからゾンビになった、ZNB48として出直そう」何を言ってるんだか分からないけどその手に持ってるのはゾンビパウダーで、あれを食らったら私もゾンビになっちゃうってすぐにわかったわけで、ゾンビパウダーから逃げるようにズルズルと後ずさりするんだけど、気持ち悪い男も同じスピードで近づいてきて「さあ、ゾンビになろう」とまた言って、もうホント怖くて怖くて、横見たらまゆゆがドロドロに溶けたゾンビになってるし、今すぐ逃げ出したい気持ちになって逃げちゃおうって思ったんだけど、そこで思い出したの、昨日のpatoさんの「タカミナは逃げたりなんかしない」そう、私は逃げない、何から、目の前の男から、いいえ、AKB48から逃げない、って気づいて男に言ってやった「AKB48は腐ってなんかいない、腐ってるのはアナタでしょう?」って高らかに宣言すると男は怯んだ様子で今度は逆に向こうが後ずさりを始めてゾンビ化して横たわっていたこじはるに躓いて転び、はわわと情けない声を上げていて、こんな男を怖れていたことがバカらしく思えてきて、「さあ、皆を元に戻しなさい」って強い口調で詰め寄っていて、そしたらどこからか拍手が聞こえてきて男が部屋に入ってきて、それが私の愛するpatoさんだってことが分かって急に胸の鼓動が高鳴ってこれが恋なんだってよく分かって、patoさんがいう「それでこそ僕が好きなタカミナだ」って言葉もあまり耳に届いてこないくらいドキドキでもう胸が張り裂けそうでどうしていいのか分からなくて、ただpatoさんの深い蒼色の瞳を見ていたら吸い込まれそうで、そしたら気持ち悪いファンが、急に強気になったみたいでpatoさんにゾンビパウダーで襲い掛かって、危ないって思ったけどpatoさんは得意のクンフーでゾンビパウダーをよけつつ気持ち悪いファンを倒して、「逃げずに戦えて偉かったな、みなみ」って頭を撫で撫でしてくれて「さあ、メンバーを戻せ」って言ってくれて、けれども気持ち悪い男はそのまま死んでしまったのでメンバーはゾンビから戻らず、仕方ないので解散と言うことにして恋愛禁止もなくなったので私はpatoさんと結ばれた、っていう妄想を毎日8回くらいするくらいタカミナが好きです。



04/08 #4-BINGO!

このあいだ、ビンゴ大会があったんですよ。ビンゴ大会。どうも1年位前から、なんとか費っていう名目で毎月3千円くらい、自動掃除機ルンバみたいな顔しやがった職場のブスに強制的に徴収されると思ったら、毎年3月に行われる大お疲れ様パーティーみたいな盛大な職場飲み会のビンゴ大会の景品にあてるらしいんですわ。

職場の行事って物凄く気が重くて、なぜか僕だけ誘われない栗拾いツアーを筆頭に、行ってみたら僕にだけ連絡無しで中止になっていた飲み会、皆でサーカスを見に行くって参加費だけ取られて集合場所教えてもらえなかった、など盛り沢山。ハッキリ言って心の弱い人だったら職場のロビーで首吊ってるレベルで嫌われてますからね。

そんなこんなで、あまり良い思い出のない職場行事ですが、さすが1年近くも毎月集金しただけあって、料理もビンゴの景品もかなり豪華。カリブ海の旅とかアタック25みたいな景品を筆頭に、50インチのテレビにホームシアターセット、ipadやらルンバやら、最低でもipodくらい当たりそうなレベルでとにかく豪華でした。

このパーティ、毎年立食形式なんですけど、僕は喋るほど仲が良い人いないんでいつも飲み物と寿司が乗った皿を手に持って3時間くらい突っ立ってるという、いまどき罰ゲームでもうちょっと実りあることさせるぞって言いたくなるような立ち居振る舞いをしており、正直行きたくないんですけど、ビンゴ景品に釣られて行くことにしました。とにかくデカいテレビとホームシアターセットが欲しい。

当日、ネットでビンゴ必勝法とか探したんですけど、とくにこれといった成果も得られず、なんだか逆に緊張してきてウンコしたくなってくる始末。ウンコに時間を取られてしまい、危うくパーティーに遅刻するところでした。

以前に、遅刻して行ったら職場の偉い人に怒られ、そのままパーティーへの参加が禁じられた同僚がいましたから、とにかく遅刻だけはご法度です。急いで会場へと向かいます。何やら市内でも一番豪勢なホテルであるらしく、時間ギリギリにロビーへと転がり込みます。

どうやら時間にはギリギリ間に合ったらしく、もうみんな会場に入ってしまったみたいでロビーに人影こそありませんが、受付にはブスが二人立っています。早速そこで受付を済ませ、何やらビンゴカードをもらいます。どうやらここでビンゴカードをもらい、最後までお楽しみに取っておくスタイルのようです。

で、もらったビンゴカードなんですけど、まず気になったのが、誰の手によるものか知りませんけど、カードが手作りだったこと。こう、ちゃんと穴を開けやすいようミシン目まで入った素晴らしいものなんですけど、結構お金集めてるんですから市販のビンゴカード買って来いよとか思いました。

会場に入ると、皆が手に手に手作りのビンゴカードを持って立食パーティーを楽しんでおります。ハッキリ言って、立食パーティーにビンゴカードって狂ったように邪魔なんですけど、このチンケな手作りカードがあの会場隅に置かれている豪華景品に変わると思うと無下に扱うこともできません。むしろ宝だ。

そんなこんなで、何か偉い人の挨拶3連発も終わり、乾杯も済ませていよいよ歓談タイムへ。これがまあ、死ぬほど話をする人がいなくて地獄のような時間なんですけど、なんとかボーっと突っ立って気配を殺すことに成功。なんとかやり過ごすことができました。

そして、いよいよお楽しみのビンゴタイムです。若手が何やらとゴソゴソし始め、会場隅に置かれていた景品達もステージに運ばれ、ブスたちの司会によってついに始まります。ハッキリ言ってこのためにここに来たようなもの、期待で胸が高鳴ります。

なにやらチープな箱が出てきてブスがマイク片手にゴソゴソと箱の中に手を突っ込みます。

「25番!」

チープな紙を高らかに挙げて宣言するブス。

「ビンゴないですか?リーチないですか?」

一個目だからあるわけないのにそんなこといって笑いを誘うブス。それに応えて「ビンゴ!」と高らかに宣言する重役。会場一同、愛想笑い。そんな茶番はいいからさっさと次のやつ引けブス。

「14番!」

「76番!」

「33番!」

「ビンゴないですかー、リーチないですか?」

何個目かの数字が読み上げられたとき、ついに「ビンゴ!」ときました。海外旅行は見事お局さんがゲットし、周りから祝福されます。誰と行くんだよっていう疑問をよそに、お局さんの瞳には薄っすらと涙が。

海外旅行こそは逃したものの、まだテレビもipadもある。みんな気を取り直してビンゴに臨みます。

「61番!」

「10番!」

「84番!」

テレビもホームシアターセットも取られました。

「24番!」

「3番!」

ipadも取られてしまいました。

「75番!」

「30番!」

次々と数字が読み上げられていきます。あれよあれよという間にビンゴが続出し、次々と景品がなくなっていきます。そして、ついに最後のipodすらも取られてしまい。ビンゴは終了となりました。

え、僕のビンゴの結果はどうなってるかだって?

結構、大半の人が景品を手にしている中、景品を手にできなかった僕。それどころか、一つもビンゴカードに穴が開くことはありませんでした。なんでそんな事態に陥っているのか。いくらなんでも1つも開かないとかありえない。

皆が熱狂するビンゴゲームを眺めてて気がついたんですけど、「25番!」とか数字で皆が熱狂してるじゃないですか。なのにですね、僕のビンゴカード、全マスに歴史上の人物が書かれてるんですけど。「織田信長」とか「坂本竜馬」とか「中臣鎌足」とか。最初こそはあまりに様子がおかしいの何事かと思ったんですけど、中盤くらいで歴史上の人物に変わるのかなー、あららー次は豊臣秀吉でしたねーってなるかと思ってたら、最後までずっと数字でしたからね。そりゃ一つもあくわけがない。「フランシスコザビエルこい!」とか必死に念じてた自分が滑稽だわ。

考えても見てください。皆が34番!一番違い!おしい!とか熱狂してる中、僕のカードにだけ「紫式部」とかですよ。ムチャクチャシュールですから。

さすがにこれは酷いってことでパーティーが終わった後に受付のブスに「僕のビンゴカードだけ全部歴史上の人物だったんですけど!」と抗議したら、ブスが、「あ、最初は歴史上の人物ビンゴにしようと思って作ったんですけど、大変だったから1枚作ってやめちゃったんですう〜」と言われました。やめちゃったんですう〜じゃねえよハゲ。金返せ。

もう、ホント、職場の行事って本当にロクなことがない。頭にきたのでブスどものデスクに5個並べて脱糞して、ビンゴとかしてやろうかと思ってます。



04/08 #3-会いたかった

死ぬほどの帰省ロードを潜り抜け、実家へと帰り着くと、親父が酒かっくらって寝てました。息子が死にかけていたというのに、とんでもない親父だ。別に会いたくはなかったけど、まあ、会わないなら会わないで色々と面倒くさい。

で、なんとか親父を起こし、帰省したことを告げると、親父はまた酒を飲みながら神妙な面持ちになって口を開きました。

「実はな、お前に言わなければならないことがある」

たまに帰省して、いつもはチャランポランな親父の真面目な口調。ただならぬ深刻な事態であることが予想されます。

「な、なんだよ」

すごく心配で、まさかとんでもない難病にかかってるとか、もう余命いくばくもない、とかそういったことを想像してしまい、本気で心配になるのですが、なぜかぶっきらぼうな態度をとってしまいます。重苦しい空気が部屋の中を支配する中、さらに親父が口を開きます。

「お前は10000分の1の奇跡を信じるか?」

もう決定的でした。たぶん親父は何らかの難病で、完治する可能性はなく、その確率は10000分の1。ほとんど死の宣告に近い告知をされたに違いありません。もう頭の中がグワングワンしてくるのですけど、とにかく親父を元気付けねばなりません。

「確率ゼロじゃないのならどんなことだって起こり得るさ」

よく覚えてませんけど、そんなことを言ったと思います。色々と辛いけど、本当に辛いのは親父のほうだ。僕がしっかりと受け止めてあげ、親父の余生を充実して過ごせるようにしてあげるべきだ。僕はそう決心していました。

「落ち着いてきいてくれ」

ユックリと、まるでそこに言葉を置いていくかのように落ち着いて淡々としゃべり始めた。

「ワシがB型なのは知ってるな?」

まさか、親父は血液の病気なのか?白血病とかそういった類のものなのだろうか。

「うん、知ってる」

僕は深くうなずいた。

「死んだお前の母親はO型だった。これがどういう意味かわかるか?」

親父は言い辛そうに言い切った。何やら様子がおかしいが、僕は素直に答えた。

「わからん」

すると親父は、まるで言い訳するように切々と喋りだした。

「ワシ、調べたんだわ。ワシは調べたんだ。B型とO型からはAB型は生まれない、ってことをな」

「え…」

固まる僕。親父は続けた。

「つまり、お前はワシと母さんから生まれないはずなんだ!」

衝撃だった。まるで後頭部を鈍器で殴られたような鈍い衝撃が走った。そんな、まさか、何かの間違いだ。親父が、親父が、そんなはずはない。幼少期からの様々な思い出が頭の中を駆け巡った。何かの間違いだ。何かの間違いであって欲しい。

沈黙から生まれる静寂が辺りを包む。その静寂を破るように親父は続けた。

「でもな、さらに調べると、何万分の一かの確率でBとOからABが生まれることがあるらしい。きっとお前はそれにちがいないんだ。だから気にする必要はないぞ、お前は奇跡を持って生まれてきたウチの子供だ」

衝撃の事実を突きつけられた僕は言った。

「いや、俺、B型だし」

ずっと僕の血液型を間違って覚えていて、何万分の奇跡とか訳の分からないことを言っている親父が衝撃だった。ウチの親父、狂ってる。



04/08 #2-スカート、ひらり

みなさん、2011年のお正月はどのように過ごしたでしょうか。家族で団欒コタツに入って寝正月という人もいたでしょう。襲来する口うるさいヤクザもどきの伯父に怯え、たった6畳の自分の城で毛布を被って震えていたニートの方もいたでしょう。世の中を動かすために働いていたなんて方もいたでしょう。皆、それぞれのお正月を過ごしたのではないでしょうか。

では、わたくしpatoはその時、どんな正月を過ごしていたのかお話しましょう。今これを読んでいる方の中には、紅白などテレビ三昧で年明けを過ごした、なんて方が少なくないでしょう。その時に思い出してください。年の瀬も迫った頃、紅白も終わり、行く年来る年でも観ようかななどと考えていると、合間の時間に軽やかにニュースでもやっていたかもしれません。そこでこんなニュースを観た記憶がありませんか。

鳥取県、記録的大雪!1000台超の車が国道に立ち往生!

大晦日から僕の生まれ育った故郷である鳥取に記録的な大雪が襲い、動けなくなった車が国道で立ち往生。12月31日から1月1日まで立ち往生する車の中にはガソリンがなくなる車もあり、自衛隊までもが出動する騒ぎに。正月から車の長蛇の列がテレビなどに映し出され、寒いのに大変ね、お正月からマヌケねー、なんて年越しソバでもすすりながら見ていたと思います。そうですね、マヌケですね。

ええ、その長蛇の車列の中に僕、いました。

いやいや、正確に言うと、その長蛇の中にはいなかったんですけど、とにかく、あの大雪の中身動きできなかった人々の中にいました。

その日は僕が生まれ育った鳥取県に帰省するため、車に乗って我が実家へと向かっておりました。なんだよ、patoってキチガイのくせに正月は実家に帰省するのかよ。ガッカリだぜ、お前は帰省じゃなくて奇声だろうが、オラ、奇声上げてみろ、などと思われる方もいるかもしれませんが、落ち着いて聞いてください。

僕だって別に帰省したかないのですが、ハッキリ言ってウチの親父って狂ってますからね。帰省せずに穏やかな正月を過ごしていると10時間かけて電車に乗ってきて、物凄い勢いでアパートのドアをガンガン叩かれることになるんですよ。そうなる前に早目に手を打って帰省しておかないと大変なことになるんです。

そんなこんなで、なんとか年越しを実家で迎えられるよう、前日の30日の夕方に我がアパートを出発しまして、ムリムリと車を運転して鳥取へと向かったのです。まあ、かなりの時間がかかってますから、当然途中で眠くなりますわな。どこかの山中の駐車場で車を停めて仮眠をし、目が覚めると31日の朝になってました。この時点で周囲には1ミリも雪が降ってなかった。

さあ、実家に向けて出発だ!って思うんですけど、もう、ここからが良くなかった。途中、魅惑的なパチンコ屋がありましてね、それこそ緑ドンでも打ってクソみたいに大爆発させ、親父にマッサージチェアの一つでも買ってやろう、なんて親孝行したい色気を出したのが間違いでした。ホント、ただ親孝行したかっただけなのに。

もう数時間かけてケツの毛まで抜かれる結果になっちゃいましてね。何がアマゾンゲームだって感じで時間と金を思いっきり搾取されてしまったんです。で、店を出ると雪景色ですよ。今まで緑ドンでVIVA南米!とか言ってたのが嘘みたいに辺り一面が真っ白な世界なんです。

ただまあ、別にこの山陰地方で雪が降るってのは珍しくもありませんし、雪景色といっても薄っすらと積もった感じで車の走行に全く支障はありません。雪も降りますし、早目に実家へと帰りますかな!といった感じで車を運転し始めました。

しかし、なにやら様子がおかしい。最初こそは、結構降るねとか思っていたんですけど、どんどんシャレにならないレベルに。どれくらいかって言うと、信号待ちの間にワイパーを止めていたら、フロントガラスが雪で覆われて前が見えないレベルといったら良いでしょうか。

あのですね、こういうこと書くとすぐに雪国在住のキチガイどもが「そんなのオラの村では普通だっぺよ」とか誇らしげにアピールしてくるんですけど、そんなのシティボーイの僕には全然関係ないことです。とにかくとんでもない雪だったんですよ。

で、しばらく国道をひた走っていると、何やらさらに様子がおかしくなってくるんです。どうにも車の流れが悪い。なんだか、渋滞しているみたいなんです。これは後で分かったことなんですが、どうもあまりの雪にスリップしちゃったタンクローリーが、そのまま横向きになって道路を塞いでしまい、さらにそのタンクローリーが雪にはまって動けなくなってしまったみたいで、完全に流れが止まってしまったんです。都会っこどもは雪にはまるっていう概念がイメージしにくいと思いますが、わしら雪国の人間からしたら大変恐ろしいものだっぺよー。

恐ろしいことに、単純にタンクローリーが道を塞いだだけではなく、とにかく1時間に40センチは積もろうかっていうペースの降雪ですから、渋滞して止まってる車列の周りにもドンドン雪が降り積もっていき、もう、全ての車が雪に埋まった状態になってしまうんですよ。そうして、国道に数千台の車が立ち往生、みたいな状態が出来上がってしまったのです。

聡明な僕は、もう国道の流れが止まった瞬間に、やばい、これはここに停車したままだと雪に埋まって身動きが取れなくなってしまう、と誰よりも早く判断。停まって雪が積もることがないよう、小刻みに前後に動くという、なんか映画バックトゥザフューチャー3のラストのビフの孫みたいな状態になってました。

で、なんとか周りの車が雪にはまってにっちもさっちもいかなくなっている状態の中でも、なんとか動ける状態を死守。でも、いくら動けるといっても前後に車がビッシリの状態ですから、なんとかこの国道から離脱しなければいけません。

幸か不幸か、僕が渋滞にはまった場所が周囲にあまり建物がないカントリーな場所でしたから、国道と並行して走るローカルな道路が少し先に見えました。どうやらあちらの道路は渋滞もしてなく、ユックリですが車が流れているようです。あっちの道路に行くしかない。

みると、少し先に交差点があります。あそこを左折してビクトリーロードに乗るしかありません。ということで、動けなくなっている車を尻目にムリムリと、少し歩道に乗り上げる感じ無理やり件の交差点に向かいます。立ち往生している車の人々は、「なんでアイツこの雪の中で動けるんだよ」という顔で見てくれるのでかなりの優越感です。

なんとか交差点に到達し左折に成功。かなり雪が積もっていて気を抜くとはまって身動きできなくなりそうですが、そこは勢いをつけて通過することでなんとかビクトリーロードを目指します。ここまではかなり勝算ありの行動だったのですが、結果的にここからが大誤算だった。

ビクトリーロードへと続くこの脇道も、同じことを考えた数台の車が連なっており、このままでは立ち往生してしまいそうな雰囲気。もう駄目か、このまま立ち往生か、と諦めかけたその瞬間、僕の眼に解決策が飛び込んできたのです。

「ラブホテル 海辺の恋」

これだ。とんでもない直感が走りましたね。普通、こういったカントリーな場所にあるラブホテルってやつは表側の入り口とは別に裏側にも入り口があるものです。たいていその裏口は人通りの少ない路地に繋がっているわけで、ラブホテルの中を通り抜けることによって脇道の裏道、さらに人通りが少ないマイナーロードでビクトリーロードに到達しようと目論んだわけなんです。

というわけでいざ鎌倉へと言わんばかりにハンドルを切り、「welcome!」とか安っぽく書かれたスダレを突破してラブホテルの敷地内に侵入します。すると中は田舎にありがちなモーテル風の造り、車が通れる通路があってその左側には部屋に車で直接横付けできるよう、駐車スペースが立ち並んでいました。突き当たりで通路が折れ曲がっているので窺い知ることはできませんが、目論見どおり通路の向こうは裏口に通じているようでイケル!と確信しましたね。

ラブホテルなんて縁がない場所ですが、こんなところで役に立つとは、人生何が役に立つのかわかったもんじゃないなとか考えながら裏口に向かって通路を爆走した瞬間。事件は起こりました。

ズモモモモモモモ

どう考えても柔らかい新雪を踏みしめた時みたいな物凄い音がしました。そしてそのまま全く動かなくなってしまいました。明らかに雪にはまった。それもタイヤがはまったとかそんなレベルのお話ではなく、車全体がはまった。

どうもこのラブホテルに突入した選択が間違っていたのですが、その中でもさらに選択を間違えたようで、このラブホテル内でも裏口に通じる道が名神高速京都手前みたいに右ルートと左ルートがあるみたいなんですが、選んだ右ルートが雪かきを全くされていない、おまけに誰も通らない、屋根からも雪が落ちてくると、ものすごい雪が積もりまくってる状態だったんですね。逆に左ルートのほうは、様々な客が通り、従業員も雪かきしたんでしょう、あまり雪がない状態だったんです。こっちを通っていれば難なく裏口にいけたのに。

そんなこんなで、大晦日に雪の中で立ち往生ってだけでも泣けるのに、なぜかラブホテルの敷地内で立ち往生、というとんでもない状態に。このままでは色々と大変ですので、なんとか車を降りて押したりしてみるのですが、もうタイヤがはまってるとかそんなレベルではないのでビクともしません。

仕方ないので、ラブホテルのフロントに行き、スコップとか借りて雪かきするんですけど、雪をかくより早いペースで降り積もっていくものですからもう大変。死ぬほど寒いし手足の感覚はなくなるしで、ちょっと諦めて車内に戻って暖房で暖をとっていました。

すると、不憫に思ったのかラブホテルの従業員総出で、普段はシーツとか直してて「若い人はお盛んでいいわねえ」とか言ってそうなおばちゃんがワラワラ出てきて車の周りを雪かきしてくれました。けれども、1時間くらい格闘し、もう辺りも暗くなってきてさらに雪の勢いは強まり、紅白とかも始まっちゃってるんですけど、全然動ける気配がなくて、諦めムード。従業員のオバちゃんたちは「JAF呼んだほうがいいわよ」と言い残してラブホテル内へと消えていきました。

一応、JAFに電話してみたのですけど、さすがにこの大雪であちこちから出動要請がかかっているらしく、12時間待ち、とかもはや待ち時間じゃない時間を告げられました。もう諦めて車の中で紅白見てた。

しかし、こんな年の瀬、しかも大雪の中でもセックスしたい人はしたいものなんでしょうね、生きてる方のルートを使って、けっこう客の出入りがあるんですわ。ブワーッと車が入ってきて、部屋に消える。しばらくすると出てくる、という様子をずっと車の中から観てました。

あるカップルが、生きてる方の部屋から出てきて生きてる方のルートを使って出て行こうとしたのですが、さらに激しくなった雪のせいで雪にはまっちゃったんですよね。いよいよ生きてる方のルートも死が近づいてきたか、とか思いつつ、救出に向かったわけなんです。

「押しましょうか?」

そう訊ねると、カップルの男のほうが

「よろしくお願いします」

とか答えます。ついでに助手席にのっていた女性のほうも、「私も押すの手伝う!」と降りてきました。男のほうは僕と同年代くらいのサラリーマン風、女性のほうは20代半ばくらいで大人しそうな女性でした。っていうか、こいつら部屋から出てきたってことはさっきまでおセックスしてたんだよなーとか考えたらパンパンに勃起しちゃいましてね、自分で押すって言っておきながら勃起がすごくて全然押せなかった。

さらに、一生懸命押してる女性のスカートが風でヒラヒラしてですね、もう押すどころの騒ぎじゃない。むしろオスだよ、とか思いながら、なんとかカップルの車は脱出に成功。

「ありがとうございます、このホテルの人ですか?」

「いえいえ、僕の車もはまっちゃったんでついでです」

「あ、手伝いますよ。押しましょうか?」

とか、サラリーマンも張り切っちゃってるんですけど、もう半分くらい雪に埋まりかかってる僕の車を見て、普通に諦めてました。しかも帰り際にカップルで

「ねえ、なんであの人、ホテルに一人なの?」

「し!そういうこと言っちゃ駄目!世の中にはプロのお世話になる人がうんぬんかんぬん」

みたいなとんでもない陰口を叩かれてました。

そんなこんなで、車の中で暖を取りつつ紅白を見て、そのまま年越し、僕も色々な年越しを経験しましたけど、まさかラブホテルの駐車場で腹をすかせながら年越しするとは思わなかった。

テレビでは、自衛隊が燃料の補給や食料の補給に出動した、とかやってましたけど、ぜったいにラブホテルの中まできてくれねーや、と諦めの境地に達してました。ダメもとで親父に電話し

「実家の近くまで帰ってきてるが、雪にはまって動かない。助けに来てくれ!」

と電話したら

「寒い」

と電話を叩っきられました。深々と降り積もる雪の中、漠然とCDTVを眺めつつ、なぜかラブホテルのオバちゃんが差し入れてくれたドンベエを食いながら、年を越したのでした。ちなみに、実家に帰りついたのはこの24時間後です。


04/08 #1-桜の花びらたち

僕はまあ、未だにミサンガとか10回10回クイズとかが大ブレイクしているクソ田舎に住んでるんですけど、この間、何を思ったのか一発奮起して東京に行ったんですよ。まあ、いわゆるオノボリさんってやつでして、イナカモンよろしくで魔都東京に行ってきたんです。

でまあ、何をしに行ったのかって言うと、言うまでもなくAKB48劇場に行って公演を見たいって気持ちがありましてね。何年か前にエレベーターを間違えて乗ってしまって劇場の裏手みたいな場所に無断侵入してしまって出入り禁止になったほろ苦い経験があるんですけど、まあ、そろそろ罪は赦されただろう、贖罪は済んだんだわ、という甘い考えのもと、とりあえず東京に行ってみたんです。

羽田空港に到着し、新しくできた国際線ターミナルを眺めながら「東京はおそろしかとこバイ」とか訳の分からないことを呟き、勝手に自分の中で東京スタイルだと思っている「電車の中でモンハンをする」という最先端のトレンドを体感しつつ、あれよあれよというまに秋葉原に到達しました。

僕が前に秋葉原に来たときってのは、まだ駅も小汚くて、駅前にはリストカット跡が無数についてるようなメイドが、まさに冥土と言わんばかりにチラシを配っていたんですが、なんかしばらく来ないうちに物凄く近代的になってました。こりゃもうオタクの町じゃねえよ、あの頃のナイフみたいな秋葉原はどこに行っちまったんだと呟きながらAKB劇場を目指します。

秋葉原駅から歩いて7分くらいでしょうか、ドンキホーテビルの8階にAKB劇場があります。久々にやってきたぜ、と意気揚々とビルに近づくと、何やら異変が。こう、なんていうんですかね、例えば軍人ってムチャクチャ訓練されてるじゃないですか。こう、ナイフとか出されてもシャシュ!って感じで簡単に捌いちゃうでしょ。そういった強さって明らかに軍人の魅力なんですけど、もっとこう、別の魅力があって、たまに訓練された軍人が初対面の相手に「こいつタダモンじゃねえ」みたいな気配を感じるシーンがあるじゃないですか。あれが死ぬほどカッコイイんですよ。

で、僕もそういった訓練された軍人みたいに、コイツ、タダモンじゃねえみたいな気配を感じ取るんですけど、とにかくその数が多い。タダモンじゃねえのがウジャウジャいやがる。なんかドンキホーテ前の歩道を埋め尽くすようにその道のプロみたいなオタクの方々がたむろっているんですよ。訓練された軍人も裸足で逃げ出すレベル。

なんでこんなオタクの方々がいるんだ、出待ちでもしてるんかいなと思いながら近づいてみると、みんな手に手に分厚い、それこそ鈍器のように人を殴り殺せるんじゃねえかっていう重量感のあるファイルを持ってるんですよ。で、そのファイルをウットリといった恍惚の表情で眺めながら仲間たちと口々に談笑ですよ。

「お、この写真いいね」

「いやいや、○○さん(なんかモイスチャーっぽい名前)の写真こそ」

会話を盗み聞きしているとですね、どうもAKB劇場で売りに出されているAKBメンバーの生写真トレーディングカードみたいなのを狂ったように見せ合ってるんですよ。いや、狂ったようにじゃなかった、ある意味狂ってた。だって、完全に歩道塞いで大人たちが生写真を見せ合ってるんですよ。もう意味が分からない。それならチンコでも見せ合ってたって方がまだ納得できる。

そんなこんなで、あまりに異様な光景にブルっちゃいましてね。早い話、その異様な光景にビビったし、その光景の横で普通に日常生活を営む東京の人にもビビったしで、早い話、東京に飲まれちゃったんだと思います。

で、あまりにも怖いもんですからちょっと離れた場所で、その剛の者たちの集団を眺めていたんですけど、ホントにみんな熱心に生写真をトレーディングしてるんですよ。あっちで交換、こっちで交換、望みの写真を手に入れて喜ぶ者、生写真を求めて右往左往する様はさくらの花びらのようで、桜の花びらたちが咲く頃、どこかで誰かがきっと祈ってるとか訳の分からないこと考えてました。

で、腹減ったんでどこかで飯でも食おうと思ったんですが、東京の店って怖いじゃないですか。東京は恐ろしい街で男でもレイプされることがあると聞きます。怖くて店とかはいれないので、結局コンビニでお茶とオニギリかって食いました。

腹が満たされると、まあちょっと勇気が出てくるというか、ここで怖気ついてちゃ7万円くらい払って飛行機に乗ってきた意味がありませんので、なんとかAKB劇場にいかねばという気持ちになってきたんです。で、ドンキホーテビルに近づき、オタクどもの結界をぶち破ってビル内に入り、ムリムリとエスカレーターを昇っていきます。

なんか、5階くらいにAKBショップみたいなのがあって、多くの人々がオイルショックのときのようにAKBグッズを買い漁っているのを眺めつつ8階に到着。8階にはビルの外以上にオタクな方々がひしめき合っており、もう熱気ムンムン、将棋倒しが起きそうな勢いで満員御礼の状態になってました。僕の住むミサンガ流行のクソ田舎にイオンができた時みたいな状態になってました。よくわからんけど。

で、そのひしめき合ってるオタクたちがなにやっているかというと、そうです、生写真の交換です。他にすることないのか。ただでさえクソ密集している場所なのに、アクロバティックにファイルを出してですね、

「○○さん(なんかキー坊みたいな名前)、まゆゆ余ってません?」

「ないよ」

「フヒヒヒ」

みたいな会話を展開してました。こんな満員電車みたいなところでやらずに外でやれよ、とか思っていたら劇場スタッフと思わしき人がやってきて「トレーディングは11時まで」とか書かれた紙を掲げて大声で叫んでるんです。

「トレーディングは11時までです。ファイルを閉じてください!」

とかなんか、トレーディングの時間は劇場側で決められているらしく、小学生レベルの注意を大声で言ってるんです。でまあ、小学生ならまだマシで注意を聞き入れてファイルをしまったりするんでしょうが、オタクどもはそうはいかない。あれだけ盛んにトレーディングをやめるように言われてるのに、聞こえてないと言わんばかりに熱心にトレーディングですよ。

そのうち、劇場スタッフの声も荒々しくなってきましてね。僕のようなトーシローはその益荒男ぶりに怖くなってブルってるんですけど、オタクどもは恐れない。むしろ劇場スタッフという体制に反抗する俺たち、レジスタンス、みたいな誇らしい顔してるんですよ。誇らしい顔しててもやってるのは生写真のトレーディングなんですけど。

結局、どんどん猛々しくなる劇場スタッフに、全く聞き入れないオタクという対立構造。それでいて満員電車並みにギュウギュウという訳の分からないシュールな状態に。

「しまってー!ファイルしまってー!」

「まゆゆ余ってますかな?」

最終的には、怒りがリミットブレイクした店員が人込みを掻き分けて接近してきて

「オラー!ファイルしまえ!」

ってまるで叱り付けるように怒鳴ってました。なぜか僕に。何もしてないのにいきなり怒鳴られた僕は、東京という町の暴力性に震えながら

「いえ、あの…」

とか、出入り禁止になった思い出がフラッシュバックし、マゴマゴしていると、何かしらない妙に正義感に燃えているオタクが僕の近くにいたみたいで、なおかつ、僕のことを劇場スタッフの指示に従わない悪質なオタクと勘違いしたみたいで、いきなり僕に掴みかかってきて

「オラ!ファイルしまえって言ってんだろ!」

と、目を合わせずに凄まれました。いや、ファイル自体持ってませんがな。

それにしても東京こえーと思いつつ、掴み掛かってきた正義感オタクの腕を見ると、ミサンガが巻かれていました。やっぱり東京は怖いところだ。

つづく


11/04/08 #0-overture

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46705344 19:00



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